【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#46 ヤミクモ 3/3

 

 デクに瓜二つの少年、赤谷海雲。そして彼が"かっちゃん"と呼ぶ、自分と鏡写しの少年。

 勝己には、いったい何が起きているのか理解できなかった。これは夢か、現か……それすらも。

 

「──"カツキ"、」

「!」

 

 自分の名を呼ばれたかと思って、反射的に顔を上げる。しかし海雲の瞳は、瞼を固く閉じたままの少年に向けられたままで。

 

「僕の幼なじみで、たったひとりの友だち」

 

 尤もそう思っていたのは、自分だけかもしれないけれど。──口の端でそうつぶやいて、海雲少年は嗤った。

 

 

 轟郷カツキは物心つく前からの幼なじみであると同時に、赤谷海雲にとって憧れの存在だった。彼は生まれながらにあらゆる才能をもち、容姿にもすぐれていた。

 ただひとつ欠点があるとすれば、その性格か。知能は極めて高いのに他人の機微には極めて疎く、自身の能力をものごとの水準として憚らない。「そんなん誰でもできるっしょ」「なんでそんなこともできねーの?」──幼い頃から、何度そう言われたかわからない。

 ただそれでも、明るい性格の彼は魅力的だった。周囲には常にたくさんの人がいて、海雲は幼なじみのよしみと思ってその端にい続けることにした。地味で口下手でオタク気質の自分は彼とは住む世界が違うと、齢四つにして言語化できずとも理解していながら。

 

 それなのに、カツキには個性が出なかった。海雲にさえ、地味だけれど一応は使いものになる個性が発現したというのに。

 

 果たしてカツキは変わらなかった。個性がないからと卑屈になることも自棄になることもなく、「ヒーローになる」と公言して憚らなかった。史上初の、無個性ヒーロー!彼ならほんとうにそれが為せるのではないかと海雲は信じ、そんな彼を隣で支えられる存在になりたいと自身も研鑽を重ねた。ヒーローを目指すには微妙な個性も、知識と肉体の深化により磨かれていった。海雲は、あかるい未来を信じて疑わなかった。

 それなのに、

 

──俺、やっぱヒーローにはなれねーみてえ。

 

 やめろ、

 

──なのにグダグダ生きてても、しょうがねーじゃん?

 

 いやだ、

 

──バイバイ、ヤミクモ!

 

 いかないで……かっちゃん。

 

 

 彼が僕の願いを聞いてくれたためしがないことなんて、わかりきっていたのに。

 

 

「……そしてかっちゃんは、()()()()()()()()()。まるで、家へ帰るのに校門から飛び出してくみたいに、当たり前の顔をして」

 

 そう──実際、カツキにとってはそれが"当たり前"だったのだろう。彼の思考は凡人である海雲には理解できない。彼もまた、その過程を他人に開陳することはなかった。

 

「それでも……頑丈なのが幸いしたんだろうね、かっちゃんはこうして生きてる。もう二度と目覚めない、笑いかけてもくれないとしても……命だけは」

「………」

 

 勝己は、何も言えなかった。姿ばかりではない──彼らの境遇までもが、自分たちと鏡写しのようだった。

 

「でもこんなんじゃ、死んでるのと同じだ」

 

 不意に、海雲の声のトーンが変わる。その表情が昏く沈んだものとなるのを、勝己は見た。

 

「……ルパンレッド、きみもその"デク"って人を失ったんだろう」

「!」

「"皮を被った"とか言ってたね。あれはどういう意味?」

 

 本来なら、即座にその口を塞ぎたくなるような問いかけだった。……しかし彼はデクに瓜二つで、それでいて自分と似た境遇にある少年だった。

 

「……デクは、ギャングラーにやられた」

「!」

「殺されたんじゃねえ。氷漬けにされて……そのままどこかに消えた、俺の目の前で。俺が……屋上から飛び降りろっつった、その直後だった。ギャングラーはそうやって攫った人間を殺して皮剥いで、擬態に使ってンだ」

「……そう」

 

 海雲の反応は、それだけだった。そんな言葉を吐いた経緯も、対するデクがなんと言ったかも、彼にとっては知る必要のないことだった。

 

「きみも、その子を取り戻すために快盗になったんだね」

「……てめェは、なんなんだよ」

 

 自分たちはルパン家の支援のもと、ルパンコレクションの奪還のため快盗を名乗っている。しかしそれを知るはずのないこの少年が、なぜ。

 

「どんなに腕の良い医者に診せても、かっちゃんを目覚めさせることはできなかった。だから僕は、それ以外の手段を捜した。表がダメなら、裏から……人間が不可能なら、それこそ悪魔に魂を売ってでも……!」

「……まさか、」

 

 海雲の薄い唇がゆがみ、吊り上がった。

 

「この財宝、ルパンコレクションって言うんだってね」

「!」

 

 海雲が取り出した恐竜の化石に、勝己は目を見開いた。

 

「ギャングラーが使うと、個性にも似た力を発揮する……そうだろ?」

「てめェ……それを誰に訊いた?」

「誰だって構わないだろ」

「ギャングラーと取引でもしたンかって訊いてんだよ!」

 

 そう解釈するには些か質問が飛び跳ねすぎではなかろうか。自分の知る"カツキ"にもそういうところがあった。頭が良すぎるから、思考の過程が飛躍する。

 

「ああ、そうだよ」

 

 それでも海雲は、誤魔化すことなく頷いた。

 

「ギャングラーには、腕の良い医者がいるそうじゃないか。人間の身体くらい、どうとでもできるっていう」

 

 ゴーシュのことか、瞬時にそう思い至った。

 

「馬鹿かてめェは!そいつは人間も自分の仲間も実験台として切り刻みたがってるようなヤツだぞ、コレクションひとつで律儀に約束守るワケねえだろ!!」

「………」

 

「……だったら、他にどうしろって言うんだよ」

「……!」

 

 ぞっとするような、冷たい声だった。

 

「きみは僕らのことを何も知らない。きみに僕を止める権利はない。──僕はやるよ、誰になんと言われようと。もう僕には、それしかないから」

 

 勝己は一瞬、呼吸を忘れた。世界が静止したかのような、思考の空白があった。

 

──そして海雲は、病室から姿を消していた。

 

 

 *

 

 

 

 勝己から連絡を受け、炎司たちは出撃した。道中で弔と合流し、ひた走る。

 

「結局、スカーレットはデクくんやなかったんやね……!良かった……」

 

 どんなときでもポジティブなお茶子の言葉は、聞く者の心に安寧をもたらす。しかし快盗である以上、最悪の事態というものを想定して動かねばならない。

 

「奴が何者であれ、このままではコレクションがギャングラーに渡りかねん。貴様が言った通り、隕石を呼ばれれば地球滅亡もありうる」

「う……そ、そうやった」

「……それより爆豪くんだろ。せっかく捉えた怪盗もどき、みすみす逃がしちまうなんてさ」

 

 何をやっているのか……なんて、弔もほんとうはわかっていた。かの少年の境遇は、勝己の胸にもう何本目かもわからない楔を打った。そうしてその心は傷つき死んでいく。

 けれどそれが快盗として生きるということであり、地獄への道を進み続けるということなのだ。

 

 

 *

 

 

 

 病室を去った海雲は、"依頼主"のもとを訪れていた。

 

「ご要望の品、手に入れたよ──トカゲイル」

 

 来訪した少年を認めて立ち上がる、見るからに軽薄そうな男。ただしその表情は、まるでねだっていた玩具を買ってもらえた幼子のように嬉々としていて。

 

「おお〜ッ、待ってたトカよー!これでオレも一発逆転、ギャングラーのボスになれるトカ!」

「そんなことより、これでゴーシュとかいう奴に会わせてもらえるんだろうね?」

「もちろんトカ!おまえは恩人トカよ〜♪」

 

 海雲は唇をゆがめた。こういう愚鈍だが腹芸ができない性質のギャングラーがここまで生き残っていて、取引相手となったことは間違いなく僥倖だった。

 

「さあさあ、早速それをよこすトカ!」

「………」

 

 一瞬、脳裏に苛烈な瞳の少年が浮かぶ。そこに表情はなくて、彼が自分の知る幼なじみなのか、幼なじみと同じ姿をした快盗の少年なのかは判然としない。

 ほんのわずかな胸の痛みを覚えた海雲だったが、その思考は、"第三者"の声によって中断された。

 

「待てや……!」

「!」

 

 振り向けば、そこにはたった今思い浮かべていたのと、少なくとも同じ顔をした少年の姿。全速力で追ってきたのだろう、肩で息をしている。

 

「……撒いたつもりだったのに。よくここがわかったね」

「黙って逃がすわけ、ねえだろうが」

 

 彼が掲げたスマートフォンに表示されたマップ、そこに赤い点がぽつんと浮かんでいるのを認めて、合点が行った。遭遇からの数分間で、GPS発信機を仕込まれていたのだ。カツキと同じ姿かたちの少年に、少なからず警戒が解けてしまったか。

 

「僕も……まだまだ甘いや」

「いいからよこせや、そのコレクション。……世界が滅びたら、元も子もねえだろ」

「………」

 

 確かに、その通りだ。……けれどもう、暗中模索の日々を一刻も終わらせたかった。

 

「……有限なんだよ。かっちゃんの人生も、僕のも」

「……!」

「だから──()()()()()()()

 

 言うが早いか、海雲は"楽しくいこうぜ"をトカゲイルに投げ渡した。それを見た勝己は咄嗟にVSチェンジャーを構え、躊躇なく引き金を引く。

 

「トカッ!!?」

 

 彼がそれを手に収めるのと……光弾が、"化けの皮"を弾き飛ばすのが同時。真の姿を露にしたギャングラー、トカゲイル・ナクシャークは、呻き声をあげながらも手にしたコレクションを金庫にしまい込んだ。

 

「よくもやったトカねえ!泣かしてやるトカ〜!」

「ッ、やれるモンならやってみろや!──快盗チェンジ!」

 

 勝己の身体が光に包まれ、ルパンレッドへと変わる。その姿を目の当たりにして、意気軒昂だったトカゲイルの様子が変わった。

 

「か、快盗トカ〜〜ッ!?」

「予告する……──てめェのお宝、いただき殺ォす!!」

 

 射撃で辺り一面に火花を散らしながら、突撃するルパンレッド。右往左往しつつも大剣"バジリスクレスト"を構えて迎え撃つトカゲイルだが、鈍重な彼が快盗を捉えることができるはずもなく。

 

「遅ぇわ!」

「トカッ!?」

 

 大剣を振り上げたところで、既にレッドはスライディングで後方に回り込んでいた。そのまま足払いでバランスを崩し、あらん限りの銃弾を叩き込む。

 

「……ッ、」

 

 顕著な実力差。そんなものをまざまざと見せつけられ、海雲は危機感を覚えた。このままでは、トカゲイルはせっかく渡したルパンコレクションを奪われ、倒されてしまう。

 

「一気にケリつけてやる……!」

 

 ビクトリーストライカーを装填しようとするレッド。──その手めがけて、海雲はテーザーガンを発射した。

 

「ッ!?」

 

 快盗スーツ越しにも痺れが襲い、堪らずVSチェンジャーを取り落としてしまう。

 

「てめェ……!」

「……今そいつを倒されるわけには、いかないんだ……!」

 

 睨みあうふたり。しかしそうしている猶予は数秒もなかった。

 

「ナイスアシストトカ〜!」

「がぁッ!?」

 

 横薙ぎに閃いた大剣が、快盗スーツに火花を散らす。そのままレッドは後方に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

「ぐ、ぅ……ッ」

「………」

 

 うめくレッドを、海雲は冷めた瞳で見つめていた。──この世に、"カツキ"はふたりも要らない。彼がここで消えれば、僕のカツキは帰ってくる。その結果、世界がどうなろうとも。

 

(僕らのために死んでよ、ルパンレッド)

 

 少年が呪詛を吐くのと、トカゲイルが剣を振り上げるのが同時──

 

──刹那、銃弾がトカゲイルの顔面に直撃した。

 

「ト゛カ゛ァ゛ッ!!?」

 

 蛙の潰れたようなうめき声とともに自らも弾き飛ばされるトカゲイル。海雲がそれを認めたときにはもう、背後から白銀の人影が躍りかかっていた。

 

「ぐ……ッ!?」

「怪盗ごっこは終わりだぜ、スカーレット?」

 

 海雲の小柄な身体を地面に引き倒し、押さえつける──ルパンエックス。彼が現れたということは、当然"彼ら"も。

 

「ふっ」

「とりゃ!」

 

 ルパンブルー、イエロー。前者が仰向けに倒れたトカゲイルを容赦なく踏みつけ、後者が金庫にダイヤルファイターを当てんとする。

 

「ルパンコレクション、いただきますっ!」

「ああっ!?──こ、こうなったら、やけくそトカ〜ッ!」

 

 四肢はもがくばかりで使いものにならず、もはやコレクションを奪われるのは確実な状況。ならばとトカゲイルは、そのコレクションの力を発動させることを選んだ。

 

『0・9──3!』

 

 ダイヤルファイターがコードを読み込むのと、解錠された金庫が鈍い光を放つのが同時。イエローは即座にコレクションを取り上げたが、時既に遅く。

 

「特大の隕石を呼んでやったトカ!ざまあみろトカ〜!」

「ちょっ……何してくれとるん!?」

「馬鹿なのか?貴様も死ぬぞ」

「オレはとんずらするトカ!そらっ!」

 

 ブルーの力が緩んだ隙を逃さず、拘束から逃げ出すトカゲイル。そのまま走り出した彼は大剣をも投げ捨ててまで、身軽な状態となって逃げ出した。

 

「ど、どうしよ〜ッ!?」

「ッ、やむをえん。今は奴を──」

「──ブッ殺す……!」

「!」

 

 振り向いたふたりは、先ほど受けたダメージなどあってなきかのごとく猛然と前進してくるレッドの姿を見た。彼は地面からVSチェンジャーを拾い上げると、ルパンマグナムと合体させた。

 

『ルパンフィーバー!un, deux, trois……』

 

 充填されていくエネルギー。それを目の当たりにして激しい焦燥に駆られる海雲少年だったが、ルパンエックスに押さえつけられた彼は指一本たりとも動かせない。

 

「やめろ……!」

 

 その声は、レッドの耳に届くことすらなく。

 

『イタダキ、ド・ド・ド──ストライク!!』

 

 膨れあがった劫火の塊が、コンクリートを灼きながらトカゲイルに迫る。彼がその熱を感じて振り返ったときにはもう、それは獲物を喰らう大口を開けていた。

 

「と、トカ〜〜ッ!?」

 

 異世界に逃げ込もうとするが時既に遅し。トカゲイルは炎に呑み込まれ──爆散した。

 

「………」

 

 立ち上る炎を前に、ゆっくりと銃を下ろすレッド。勝利もルパンコレクションも手に入れた──しかしその動作に、喜びは浮かばない。彼にとってこれは小さな一歩に過ぎず、望む未来は果てしなく遠いのだ。

 そしてその一方で、海雲の望みは無情にも断たれた。

 

「お前ら……よくも……!」

 

 歯を食いしばり、拳を握りしめる。もはやそれ以外に術をもたない彼に、頭上から弔が無感情な声をかけた。

 

「来たぜ、おまえの待ち人」

「!」

 

 その言葉に合わせるように──にわかに空間が歪み、そこから青い身体の化け物が姿を現した。

 

「……ゴーシュ、」

「!、あれが……!」

 

 何より待ち望んでいた、救世主にも等しい存在。にもかかわらずその姿に対して感じたのは、本能的な畏怖と嫌悪だった。その不気味な姿は、彼女の性情そのままを表しているのではないかとさえ思われたのだ。

 そうこうしているうちに、彼女はトカゲイルの残骸にコレクションのパワーを注ぎ込んでいた。

 

「私の可愛いお宝さん、トカゲイルを元気にしてあげて」

「──大復活トカ〜!!」

 

 そのまま踵を返すゴーシュ。はっとした海雲は、慌ててその背に声をかけた。

 

「ま、待って!あなたにお願いがあるんだっ、あなたに会うためにトカゲイルと取引もした!だから──」

「──エックス、」

「!」

 

 まるで海雲の声など聞こえていないかのようだった。自分に指名が飛んでくるとは思わず、身構える弔。

 

「もうすぐ"準備"が整うわ……待ってなさい。フフフフ……」

「……何?」

 

 いったい、どういう意味か──問う間もなく、今度こそゴーシュは姿を消した。

 

「なん、で……」

「………」

 

 理由はわからないが、弔に執心のゴーシュ──最低限の仕事を果たす以外、彼女には標的しか目に入っていない。ギャングラーのマッドサイエンティストは、ふつうの人間とはあまりに隔絶したところに在った。その存在さえ、完全に意識の外に追いやってしまうほどに。

 

「──死柄木、行くぞ」

「!、……ああ。来い、グッドストライカー」

『快盗とやるのは久しぶりだナ〜!』

 

 彼──グッドストライカー、そして快盗たちのダイヤルファイター。その機体がひとつに集い、

 

『完成!ルパンカイザー!』

 

 さらに、

 

「完成、──エックスエンペラースラッシュ」

 

 二機の鋼鉄巨人が、巨大トカゲイルを前後で挟むように布陣する。

 

「2vs1とは、卑怯トカ〜!」

「えっ、今さら!?」

「知るか、即死ね!!」

 

『グッドストライカー連射、倒れちまえショット〜!!』

 

 レッドの言葉に違わず、いきなり必殺技を放つルパンカイザー。トカゲイルの呼んだ隕石が地球に迫っているのだ、のんびりはしていられない。

 しかし、

 

「ふふん、──見せてやるトカ!」

 

 得意げに鼻を鳴らしたトカゲイルの姿が……次の瞬間、消えた。

 

「!?」

 

 標的を失った弾丸は、そのまま対面のエックスエンペラーに降り注ぐ。咄嗟の操縦で直撃を避けたエックスだったが、衝撃で機体が倒れ込んでしまう。

 

「トカカカカッ、ざまあみろトカ〜!オレ、ホントは走るの速いトカ〜!」

「うそうそっ、だってさっき戦ってるとき遅かったやん!?」

「武器のチョイスが悪かったトカ!」

「……胸を張って言うことではないぞ」

「うるさいトカ!喰らうトカー!!」

 

 卵のような形のオブジェクトをどこからか取り出すと、トカゲイルはルパンカイザーめがけてそれを投げつけてきた。たちまち小規模な爆発が起き、散る火花に巨人の姿が呑み込まれる。

 

「トカカカっ!リベンジマッチはオレの勝ちトカ〜!」

 

 トカ……もとい呵々大笑するトカゲイル。しかし彼は、ギャングラーの天敵ともいえる彼らを甘く見すぎていた。

 

「そいつはどうかな?」

「!?」

 

 声が響いたのは……頭上。ぎょっと顔を上げたトカゲイルが見たのは──蒼天のもとに浮かぶ、巨大な戦闘機だった。

 

『完成、ビクトリールパンカイザ〜!!』

「そ、そんなのありトカ〜!?」

「大アリや!」

 

 言うが早いか、ビクトリールパンカイザーは即座に攻撃を開始した。マジックダイヤルファイターの力で爆発するカードをばら撒き、トカゲイルをその場に縫いつける。彼が怯んだところで、しなるビームを放ってその身を完全に拘束してしまった。

 

「う、動けないトカ……!?」

「はっ……今度こそ終わりだ。──グッディ!」

『Oui、いくぜ〜!』

 

『グッドストライカー・蹴散らしちまえキ〜ック!!』

 

 一気に急降下しつつ、ビクトリールパンカイザーは戦闘機からロボット形態へと瞬時に変形した。そして機体を錐揉み回転させながら、文字通りのキックを放つ──!

 

「トカァアアアアッ!!?」

 

 キックといえど、その威力は通常のルパンカイザーの必殺技を大いに凌ぐ。情け容赦なく吹っ飛ばされた先には──態勢を立て直した、エックスエンペラーの姿があって。

 

「……さっきのお返しだ、たっぷり味わえ」

 

──エックスエンペラー、スラッシュストライク。その一撃で、トカゲイルは完全にとどめを刺された。

 

「トカゲイル死すとも隕石死なず……!さらば地球よ、トカァアアア──!!」

 

 爆散。

 いつもなら、これで一件落着というところ。しかしトカゲイルの遺した通り、地球には隕石が迫りつつあった。

 

「ど、どうする?」

「……行くしかあるまい。地球が滅びては元も子もないんだ」

「………」

 

 そう、それが普通の考えだ。いや、それが救う手段だからと快盗に身を貶している時点で五十歩百歩かもしれないが、まだ理解はされうる。

 赤谷海雲は、地球を滅ぼしてでも賭けに出た。何かが違っていれば──きっと、自分も。

 

──次の瞬間には、再び飛行形態となったビクトリールパンカイザーが宇宙へ飛び立っていた。

 そこで初めて、地球へ迫る隕石を目の当たりにしたのだ。

 

「うわ、でかっ!?」

 

 それはビクトリールパンカイザーの体躯が豆粒に見えるほどのスケールをもって接近を続けていた。こんなものが衝突したら、良くても地球は壊滅に等しい被害を受けかねない。少なくとも、これまでの文明は維持できないだろう。

 

「こ、こんなの、私たちでどうにかできるん……?」

「できるかじゃねえ、やるしかねえんだよ」

 

 言うが早いか、ルパンマグナムを射出するレッド。カイザーのサイズに合わせて巨大化したその砲口を、隕石に向ける。

 

「──死ィねぇッ!!」

『グッドストライカー・ぶっぱなしちまえマグナム〜!!』

 

 放たれる光の束。それは隕石のド真ん中にぶち当たり、膨大な熱量でもって表面を削りはじめた。

 やがてそれは内部にまで侵食し、隕石をふたつに裂いていく。いける──そう思うのも無理はなかった。隕石といえど所詮は石ころであり、VSビークルの力に抗するものではないと。

 そのとき、だった。

 

『ああっ、もうムリだぁ〜!?』

「!」

 

 にわかに情けない声をあげるグッドストライカー。ほどなく光線は収束し、それきり砲口が唸りをあげることはない。──エネルギーが、切れてしまったのだ。

 

「おいコウモリ野郎、気張れや!まだ半分も削れてねえんだぞ!!」

『ムチャ言うなよぉ、でっかいワザ二発は体力もたないってぇ〜……』

 

 歯噛みする快盗たち。万事休すかと思われたそのとき、

 

『だったらイチかバチか、俺に任せろ!』

「!」

 

 にわかに響いた男の声。それとともにルパンレッドの懐から飛び出した物体が、ひとりでにVSチェンジャーと合体した。

 

「な……てめェ、」

「ジャックポットストライカー!?」

「目、覚めたん!?」

『そうだぜぇ♪』

 

 何がなんだかわからないうちに、意識を完全み取り戻したのだろうジャックポットストライカーが勝手にVSチェンジャーを操っていた。──生物非生物問わないあらゆるモノのコントロール。合体機能とは別の、彼本来の能力だった。

 

『チャオ!』

「おい──」

 

 制止も構わず飛び出していくジャックポットストライカー。たちまち巨大化した彼は、その真紅のボディを振動させ、無酸素の空間に炎を撒きながら隕石へ向かう。

 そして、

 

『ジャックポットストライカー、ブレイジング……チャーーージ!!!』

 

 その機体が隕石の破れ目に接触する。刹那、ひときわ大きな爆発が起き、ビクトリールパンカイザーはなすすべなく重力の糸に絡めとられた。

 

「うそ……!?」

「ッ、」

 

「ジャック──!!」

 

 返答は、なかった。

 

 

 *

 

 

 

 無骨な機器に埋め尽くされた部屋も、その主の存在ひとつでまるで美しい箱庭のようだ。

 虚ろな意識の中で、赤谷海雲はぼんやりとそんなことを思った。病室の中心で、轟郷カツキは現の苦しみなど知らないかのように無邪気に眠り続けている。

 

「……かっちゃん。きみは、このままでいいの?」

 

 命尽きるまで何も見ず、聞かず。所詮幼なじみというだけだった男の絶望など、歯牙にもかけないままで。

 

──そうだ、この男はそういう人間だ。すべてを受け入れているようでいて、その実自らのうちに一瞬たりともとどめることはない。だから他人の想いに応えることもない。何もかも自分の中で完結してしまう。死を選んだそのとき、目の前にいた"ヤミクモ"という幼なじみのことだって、なんら自らの行動を縛るものではなかっただろう。ようやくそのことに思い至って、少年の瞳から涙があふれた。

 そうして、不意にある願望が胸のうちから湧いて出た。ベッドの前を素通りして部屋の奥へと向かうと、海雲は開け放ったままの窓から身を乗り出した。先ほどは怪盗としてのスキルを使ったから怪我もなくここから抜け出ることができた。でもなんの手も使わず投身すれば、命はないだろう。

 

 そうして彼が、いよいよ最後の一線を踏み越えようとしたときだった。

 

「……ゃ、み、……も……」

「……!」

 

 背後から響く、かすれた声。幻聴だと瞬時に思った。それでも、振り向かずにはいられなかった。

 果たして──カツキは、目を開けていた。その瞳は茫洋としながら、たしかにこちらを見つめている。

 

「かっ……ちゃん……」

「………」

 

 酸素マスク越しの口元が、ほのかに綻ぶ。

 

「さみィよ……かぜ、ひいちまう」

「……はは、はははは……っ」

 

──かっちゃん。やっぱりきみはどこまでも我儘で、愚かで、麗しい王様だ。

 わけもなく哄笑しながら、海雲少年は思った。

 

 

 à suivre……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(Épilogue)

 

 

 

 

 

 あわや地球の危機という状況下にあって、警察戦隊はその事実を察知することができないような緊急事態に見舞われていた。

 

「どうだ、そっちは!?」

「駄目だ……見つからねえ!──耳郎!」

「こっちもだよ……っ」

 

「今さら逃げ出して、何をしようと言うんだ……──八木俊典……!」

 

 

 国際警察前長官、八木俊典。ギャングラーに通じていたことが明るみに出、囚われた彼は……なんの前触れもなく、牢の中から脱獄した。

 

「──俊典……!」

 

 彼の友人であった塚内直正もまた、職掌を越えその捜索に参加していた。犯罪者に身を貶した、英雄になれなかった男。それでもせめて己の罪を償ってほしいと、そう思っていた矢先の出来事。自ずと拳に、力がこもる。

 そんな折、不意に携帯電話が鳴動した。

 

「ッ、もしもし──」

『──やあ、塚内くん』

「俊典……!?」

 

 電話口の捜し人の声は、信じられないほど凪いでいた。吹く風の音が、背後で聞こえる。

 

『今ごろ、私を捜して走り回っているのではないかと思ってね。その必要はないと、伝えたくて連絡したんだ』

「……なに、言ってる……!今すぐ出頭するんだ、俊典!!」

『……ひとつだけ、お願いがある』

「何を──」

 

 一瞬の静寂。そして、

 

 

『"ワン・フォー・オール"を、頼む』

「……!」

 

 そして、地面を蹴る音が響いた。いっそう強い風の音。そして……激しい水飛沫の音と連なって、通話が切れた。

 

「俊典……!?俊典──!!」

 

 

 その後、とある海辺の崖で八木俊典のものと思しき靴が発見された。即座に周辺の海域の捜索が行われるも、肉体の一片も見つかることはなく。

 

 

──堕ちた英雄はその痕跡すら遺さず、世界から消え去ったのだ。

 

 

 






「……やっぱり俺、先生みたいにはなれないや」

次回「生け贄」


「行くなッ、死柄木ーー!!」


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