【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#47 生け贄 2/3

 ギャングラー出現の報を受け、現地へ急行するパトレンジャーの面々。道中にて飯田天哉と合流し、四人揃って駆けつけた先で待ち受けていたのは。

 

「あら、早かったわね」

「!、ゴーシュ……!」

 

 ステイタス・ゴールドの、マッドサイエンティスト。一同の緊迫とは対照的に、彼女は愉しそうに四人を眺め回していた。

 

「おまえひとりか?……いったい、何を企んでる?」

「別に企みなんてないわ、刻みたいから刻みに来たのよ。でも良かった……エックス、あなたに会えて」

「……また俺かよ」

 

 いったい自分の何がこの女ギャングラーを惹きつけるのか、察しもつかない弔。心当たりがあるとすれば、見た相手のすべてを調べ尽くす"Guéris le monde"を自分に対し使われたことか。己も知らぬ己の秘密……今さら、知りたいとも思わないが。

 

「誰も刻ませたりしねえ……!──皆、行くぜ!!」

 

 鋭児郎の啖呵を契機に、彼らは一斉に変身銃を構えた。

 

「「「「──警察チェンジ!!」」」」

『パトライズ!警察チェンジ!』

『Xナイズ!警察、Xチェンジ!』

 

「国際警察の権限においてッ、実力を行使する──!!」

 

 そして、死闘が始まる。

 

 

 *

 

 

 

──彼らも、また。

 

「ザミーゴ……!」

 

 入り組んだ廃工場の一角で、ルパンレンジャーはザミーゴ・デルマを捕捉していた。尤もザミーゴは、こうなることを待ち望んでいたのだが。

 

「Hola!逢いたかったぜ、ルパンレッド?」

「〜〜ッ、私たちもいるんだからね!!」

「今日こそ、貴様を討つ……!」

 

 肩をすくめつつ……ザミーゴは、その姿を怪人のそれへと変えた。途端、辺りに凍てつく風が吹く。それを己が身体に受けるたび、芯が燃え滾るような熱を発するのを勝己は自覚していた。一秒でも早く、この化け物を──

 

「──殺すッ!!」

 

 一斉に射撃を開始する三人。降りそそぐ弾丸の雨を、ザミーゴはひらりと身を翻しながらかわしていく。やはり、素早い。

 ならばあらかじめ、動きを読んでしまえば良い話だ。

 

『ビクトリーストライカー!ミラクルマスカレイズ!!』

「スーパー快盗チェンジ!!」

 

 ルパンレッドの上半身が白銀の鎧に覆われる。たなびくマント。それは身体機能を底上げするのはもちろんのこと、その頭脳にルパンコレクション特有の特殊能力を与える。

 

──そう、予知能力だ。ザミーゴがどんな意表を突いた動作をしようとも、その軌道を先んじて読むことができる。

 

「死ィねぇッ!!」

 

 果たしてレッドはその予知に従い、なんの躊躇いもなくルパンマグナムの引き金を引いた。灼熱の塊が目にも止まらぬ速さで撃ち出され、

 

「!!」

 

 ザミーゴの身体に、風穴を開けた。

 

「………」

 

 やった──そう思う一方で、こんな容易くザミーゴが倒せるものかという疑念が降って湧く。既に知っているであろうこちらの手のうちに、この男がなんの対策も用意していないはずがないと。

 果たして悪い予感は的中した。そのうめき声が徐に嘲笑へと変わったかと思えば、風穴の周囲がどろりと融けるようにして傷を塞いでしまったのだ。

 

「何、今の!?」

「はははは、なんだろね」

「ッ、クソが!」

 

 やむなく銃撃を続ける快盗たちだったが、弾丸はことごとく標的の身体を貫きながら、手傷を与えられない。これまでのザミーゴなら、かわすか防ぐかはすれどこんなことはありえなかった。

 その瞬間、不意に思い至った。──まさか、

 

「見ろよ、これ」

 

 不意に背を向けるザミーゴ。それも一瞬のことで、即座にくるりとこちらに向き直った。──しかしその一瞬で、快盗たちは確かに見てしまった。その腰部に、今までにはなかった鈍色の金庫が埋め込まれているのを。

 

「てめェ、その金庫……」

「良いだろ、貰ったんだ。ルパンコレクションも一緒にね」

「なんだと……!?」

 

 ザミーゴ曰く、それは身体を液状化できるコレクションだった。つまり今の彼は、あらゆる攻撃を無力化できる──

 

「そんな……ただでさえ強いのに……」

 

 絶望的な思いがよぎるのも、無理からぬこと。──しかしどんな暗澹たる感情も、事ここに至って彼らルパンレンジャーの行動を縛ることはない。

 

「それでも……ッ、コイツはこの場で殺す!!」

 

 そして、絶対に取り戻す!あらゆるネガティブを呑み込む激情に駆られ、彼らは死闘を続ける道を選んだ。

 

 

──その一方で、ザミーゴの一挙一動を観察している者があった。ギャングラーの老いた首領、ドグラニオ・ヤーブンである。

 

「あれは、ゴーシュにやったコレクションか。ザミーゴに分けてやったんだな」

 

 彼女には両手に収まらないほどのルパンコレクションを分け与えてやった。他の構成員らには多くともふたつ三つであったし、側近だったデストラに至っては恭しくも下賜を辞退したというのに。

 

 仮にも主人から賜ったものを、その主人を真っ向から否定した者に渡してしまう。いくらなんでも不遜に過ぎる行為だと感じるのは、心が狭いと嘲われるだろうか。

 

「……ま、好きにすりゃいいさ」

 

 今となってはもう、ギャングラーという組織は滅びゆく徒花でしかないのだから。

 

 

 *

 

 

 

 パトレンジャーとゴーシュ・ル・メドゥの死闘もまた、後者の掌の中で進んでいた。

 

「フフフフ……。確かに強くなったわ、あなたたち」

 

 ひらりひらりと舞うように戦場を移ろいながら、つぶやくゴーシュ。しかし彼女は既に、ただのステイタス・ゴールドではなかった。幾度となく強化改造を施したその肉体は、最強と謳われたデストラ亡き今ギャングラーの頂点に達するものとなっている。

 しかも、彼女は配下のポーダマンを巧みに扱っていた。他のギャングラーのように一斉にけしかけるのではなく、敵が突撃を仕掛けようという瞬間に少数を横からけしかけ、その攻勢を阻むのだ。当然、ポーダマンが彼らにダメージを与えることはない。しかし一瞬の停滞こそ、ゴーシュの狙いに他ならないのだ。

 

「フフフ……──ハァッ!」

 

 ポーダマンに気を取られたパトレン1号めがけ、サブマシン腕が火を噴く。咄嗟に個性を発動させる鋭児郎だったが、完全に皮膚が変化するより先に弾丸が到達した。

 

「ぐあッ!?」

 

 警察スーツを灼かれ、吹き飛ばされる1号。2号、3号もまた同じように攻撃を受け、コンクリートの上に倒れ伏している。

 

「ぐ、う……ッ」

「こいつ……!」

 

 彼らが再び起ち上がるより早く、迫らんとするゴーシュ。その魔手が今度こそとどめを刺そうと振り上げられたところで、黄金の戦騎が疾風のように割って入った。

 

「ふ──ッ!」

 

 降りそそぐ弾丸をアクロバティックにかわしながら、接近を試みるパトレンエックス。果たしてその目論みは成功し、至近距離にまで間合いを詰めることができた。

 

「はっ!」

 

 そこですかさずXロッドを振り下ろす。ゴーシュはすんでのところでその一撃をかわしたが、当然一発で決めようなどとは思っていない。弔はパトレンエックスのスピードを活かし、とにかく手数を打って攻めたてた。

 

「流石……やるわね、エックス?」

「そりゃ、Merci──!」

 

 駄目押しに放った一撃。しかしその穂先はゴーシュに取られ、そのまま右腕を固められる。骨が軋む音がして、弔は苦痛にうめいた。

 

「ぐ……っ!」

「その強さの秘密も、このカラダの中にあるんだと思うと……フフフフっ、早く刻ませてちょうだい!」

「ッ、キモいんだよ、おまえ……!」

 

 こんな奴に、手玉に取られてなどいられない。後ろに蹴りを放ってゴーシュを引き剥がすと、彼はすかさずXチェンジャーの銃身を回転させた。

 

「快盗、チェンジ!」

 

 警察から快盗へ。黄金のボディが白銀へと変わる。そうして再度の変身を完了したパトレン改めルパンエックスは、サブマシン腕の弾丸を鎧ひとつで弾き返しながら吶喊した。

 

「コレクションをいただいて、おまえを倒すッ!」

「あら、お忘れかしら。金色の金庫を開けるにはカギがふたつ必要なんでしょう?」

 

 つまり、ダイヤルファイターを持たぬルパンエックスに解錠は不可能──ゴーシュはそう高を括っていたのだが、

 

「そいつは……どうかなァ!」

 

 ゴーシュの眼前で大地を蹴って跳躍し──頭上から必殺の奥義、スペリオルエックスを放つ。意表を突いた一撃は見事ゴーシュに命中し、彼女に地を舐めさせることに成功した。

 

「ッ、」

「"コイツ"があるんだよ、俺には!」

 

 剣を投げ捨て、その右手にとられたのは──サイクロンダイヤルファイター。ルパンレンジャーが所持していたはずのそれがエックスの手にあることに驚愕したのは、ゴーシュもパトレンジャーの面々も同じで。

 

(そうか!あいつ確か、デストラとの戦いで……)

 

 サイクロンとマジック──ふたつのダイヤルファイターを咄嗟に掴みとり、ルパンコレクションを奪還していた。もしや、片方だけはそのまま所持していたのか。むろん快盗たちとは合意の上なのだろうが──武器として使用することのないエックスがそのまま持つことはないだろうという先入観が、彼らにはあった。

 

 そうしてエックスは晒された背中の金庫めがけ、バックルとサイクロンを同時に押しつける。

 

『1・8・7・6・2──3!』

 

──解錠、成功。仕舞い込まれたコレクションを掴みとり、咄嗟に飛び退く。

 

「"Gueris le monde"……返してもらうぜ」

 

 残るは幾度となく死したギャングラーを巨大化復活させてきた、"Gros calibre(大きくなれ)"。これを奪還し、ゴーシュを倒せば、いよいよギャングラーの壊滅も視野に入る──

 

 なまじ頭の回転が速いだけあって瞬時にそこまで考えた弔に対し、立ち上がったゴーシュは──

 

「フフフフ……、アハハハハっ!」

 

──笑っていた。

 

「……何がおかしい?」

「何って、感心してるのよ。せっかくのルパンコレクション、見事に盗られちゃった。素晴らしい手際だわ」

「………」

 

 何かが、おかしい。ゴーシュの態度に弔は違和感を覚えたけれど、もはや後の祭りだった。

 

「なら、新しい玩具を試してみましょう」

 

 軽々しい口調でそう言い放つと、ゴーシュは懐からナイフのようなオブジェクトを取り出した。その形状に、弔は見覚えがあって。

 

「!、おまえ、それ──」

「フフ……」

 

 "それ"が背中の金庫に仕舞い込まれた途端、ゴーシュの右腕が音をたててそのかたちを変えた。指と指とが融けてその境界線を失い、鋭く尖り伸びていく。──その形状はまさしく、巨大なナイフそのものだった。

 

「受けてみなさい、──はぁッ!」

 

 ナイフと化した腕が振り下ろされる。その余波で発せられた疾風は鎌鼬となり、獲物めがけて襲いかかった。

 

「──ぐあぁッ!?」

 

 身構えるエックス。しかしそれは焼け石に水でしかない。白銀の鎧が容易くも切り裂かれ、その身は後方へ弾き飛ばされる。──形成逆転、今度は彼が地に伏せることとなってしまった。

 

「ぐ、う……ッ」

「どう?私の三つめのお宝の力!」

「ッ、"Coupe le gâteau"まで持ってたのか……!」

「私のためにあるようなコレクションでしょう?ボスったら、もっと早く下さっても良かったのに」

 

 いずれにせよ、これを手にした──文字通りの意味で──ゴーシュの目的ははっきりしている。何もかもを、切って切って切り刻みまくること。

 

「ンなモン……俺らがへし折ってやるッ!!」

 

 敗けてたまるか。世界を、人々を守るために。

 ただその意志のもとにパトレンジャーは立ち上がり、再び目の前の化け物に立ち向かっていく。

 

 

 *

 

 

 

 敗けて、たまるか。

 

「うおらぁアアア──ッ!!」

 

 ルパンレンジャーもまた、それぞれの願いのため仇敵と死闘を演じていた。

 

「ハハハハ、ハハハハハッ!!」

 

 心底愉しそうに笑い声をあげながら、氷の銃を乱射するザミーゴ。なんの狙いもつけない粗雑な射撃だが、掠るだけで標的は氷像と化し、ザミーゴしか知らぬ何処かへ飛ばされるのだ。

 

「ッ!」

 

 対する快盗たち。シザー&ブレードで武装したルパンブルーが盾で氷結を受け止め、その背後からイエローがマジックアロ──ー弔との合意で、マジックは彼女らに返還された──で反撃する。しかしザミーゴのほうは、回避行動をとるそぶりも見せない。

 その必要がないからだ。ゴーシュから譲り受けたルパンコレクション──"Évade-toi de I’autre côté(突き抜けろ)"の力により彼の肉体は液状化し、あらゆる攻撃が文字通り"突き抜けて"しまうのだから。

 

「ダメ……っ、全然効かない!」

「ッ、このままでは……!」

 

 あきらめることなどできない。しかし絶望という病は少しずつ牙を剥く。それが肉体へも伝播しかけたそのとき、

 

「──貸せ!!」

「!」

 

 ブルーからシザーの盾を奪い取り、スーパールパンレッドが前面に躍り出た。そしてその力で、ザミーゴの動きを再び予知する。

 

「な、何するつもりなん……予知したって──」

「……ここは奴に従おう」

 

 そう──爆豪勝己という少年の突破力は、ときに元トップヒーローであった自分すら上回るのだから。

 

 果たしてザミーゴは、彼の予知通りに動いた。とはいえ能力を使うまでもなく予測しうる、氷銃を乱射するだけの至極単純な戦法。対するスーパールパンレッドはジェットタービンを噴射し、盾で氷弾を防ぎながら縦横無尽に戦場を舞う。

 

「目眩ましのつもりか?」

「どうか、なァッ!」

 

 言うが早いか勢い込んで飛び上がり、ルパンマグナムを乱射する。ザミーゴの視線が上を向いたところで、ブルーがブレードブーメランを投げつけた。

 

「おいおい、だから無駄だってば」

「は、」

 

 わかっている──だから、狙いは別にあった。

 

「──とぉりゃあぁぁぁッ!!」

「!」

 

 はっと振り向いたザミーゴが見たのは、スライディングで地面を滑りながら迫るルパンイエローの姿。そう、ザミーゴの言葉は、ある意味で正鵠を射ていた。

 

「お宝は──」

「──我々が貰うッ!!」

 

 手が届くまで、あと数センチ──

 

「ハハッ……さっすがぁ」

 

 ザミーゴの銃が、ルパンレッド──の、背後の建物を撃った。

 

「!?」

 

 弾丸の直撃を受けた壁面が粉々に砕け散る。それは瓦礫となってレッドに直撃し……もろとも、崩落した。

 

「レッド──きゃあッ!?」

 

 その光景に気を取られたイエローが、次の瞬間殴り飛ばされる。果たして快盗たちの目論みは、失敗に終わってしまった──

 

「ひゅう♪ま、今日はここまでか。また次のチャレンジを待ってるぜ?」

 

「アディオス」──そう言い残し、ザミーゴは氷像と化して消えた。レッドが瓦礫を撥ね飛ばして飛び出したときにはもう、その姿は影も形もなくて。

 

「ッ、今度こそ……全部終わるって思ったのに……!」

「ようやく……取り戻せると……!」

 

 それが一方的に遊ばれ、一矢報いることさえかなわなかった。──敗けたのだ、自分たちは。

 

 

「──クッソぉおおおおおおおッ!!」

 

 

 慟哭の日々に、終わりは見えない。

 

 

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