【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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ヒロアカ×ゼンカイジャー?

ある日突然個性が消えたヒロアカ世界の数年後、かつてヒーローに憧れていた少年と元ヒーローたちが異世界から来た悪の帝国の侵略に立ち向かうため、戦隊を結成する!

メンバー:デク、エンデヴァー、ホークス、マウントレディ、インゲニウム(兄)

……という一発ネタ。別にゼンカイジャーじゃなくても良くねと言われればそれまで





#47 生け贄 3/3

 "Coupe le gâteau(ケーキ入刀)"をその身に宿したことで、ゴーシュ・ル・メドゥはさらなる猛威を振るっていた。四人がかりで挑みかかるパトレンジャーとルパンエックスが、まるで児戯のように弄ばれている。

 

「フフフフっ、アハハハハ!!」

「ッ、ぐうぅ……!」

 

──駄目だ、このままでは歯が立たない。

 

「死柄木っ、サイレンストライカーを──」

「!」

 

 スーパーパトレン1号の火力で、一気に畳み掛けるしかない。相性の良し悪しなどもはや二の次だ。

 しかし、

 

「させるワケ、ないでしょうっ!」

 

 巨大ナイフの一撃が、ルパンエックスの鎧を抉った。

 

「ぐあ……ッ!?」

「死柄木!?」

 

 敵の強化を未然に防ぐや、ゴーシュの視線はパトレンジャー……否、その背後に向けられて。

 

「ふっ、ハア──!」

 

 サブマシン腕の一撃が──ビルを捉えた。弾丸によってその壁面に風穴が開き、窓ガラスが粉々に粉砕される。

 

「なっ……!?」

「貴様、何を──」

「わからない?あなたたちがあんまり不甲斐ないと、周りのモノぜ〜んぶ、壊しちゃうわよ?」

「……!」

 

 モノ──そしてその周囲にいる、大勢の人々も。

 

「──ざけんなあぁぁッ!!」

 

 憤激するパトレン1号が、それを止めにかかる。全身を限界まで硬化させ、サブマシン腕とナイフの猛攻を受け止める。

 

「ぐ、があぁぁ……ッ!」

「あらぁ……硬いのね。どこまで耐えられるかしら?」

 

 既に警察スーツは大きく破損し、原型をとどめていない。それでも彼が踏ん張っているのは、ひとえに個性の……"烈怒頼雄斗 安無嶺過武瑠(レッドライオット・アンブレイカブル)"の力に他ならない。

 しかし、いかにプロヒーローのそれといえども……ギャングラーの本気には、敵わない。まして、ステイタス・ゴールドが相手では。

 

「──ぐぁああああッ!?」

 

 ついに限界を迎え、鋭児郎は吹き飛ばされた。当然変身は解け、傷だらけの全身を晒して。

 

「アハハハっ!」

 

 高笑いを続けながら、ゴーシュはすぐに別方向のビルへと照準を移した。放たれる剣波──それを、

 

「させるか!!──ぐああッ!?」

 

 鋭児郎と同じく個性を発動させ、超速で割って入ったパトレン2号が浴びた。しかし彼の個性では、己の身体を肉壁とするしかなくて。

 結局、彼もまた変身が解けた状態で地面に転がった。脹脛からは大量の血が滲んでいる。──永遠に癒えぬ、愚行の代償。

 

「飯田……!──ッ、だったら!」

 

 ゴーシュの注意が鋭児郎や天哉に向いているうちにと、3号は先制攻撃を仕掛けた。ある程度まで距離を詰めたところで、両耳のイヤホンジャックを標的の身体に付着させる。

 

「?」

「ウチの心音、──喰らえええッ!!」

 

 イヤホンジャックを通じて、響香の心音が何十倍にも増幅されてゴーシュに流れ込む。それは耳を劈くような凄まじい轟音となっていた。常人はもちろんのこと、丈夫だが感覚も鋭いギャングラーに対して数少ない有効打たりえる個性。

 

(これで、せめて動きだけでも……!)

 

 そんな響香の思惑をよそに、

 

「あらぁ……心地いい音楽じゃない?フフフフっ」

「な……!?」

 

 まったく効いていない!?──動揺する彼女もまた、次の瞬間には地を舐めていた。

 

「ぐ、ううう……ッ!」

「パトレンジャー、全滅ね」

「──まだ俺がいるだろうがぁ!!」

 

 喉を震わせながら、ルパンエックスが突撃する。そこには策も何もない、ただこの化け物を止めなければという一心で挑みかかったのだ。

 

 無為無策の攻撃が、通用するはずもない。

 

「アハハハハっ、あなたは"エックス"でしょう!?快盗にも警察にもなりきれない半端者の名無しちゃん!」

「黙れ……!」

「でも仕方がないわよねえ、生まれからしてそうなんだから!」

「何──がぁッ!?」

 

 "ケーキ入刀"がXロッドソードを一刀の下に切断し、同時に鎧までもを破壊する。もはやルパンエックスの強みは失われてしまったが、今さら警察チェンジをする余裕もなくて。

 

「ぐ、うう……──ああああああッ!!」

 

 意味のない絶叫とともに、エックスはボロボロの身体を引きずって最後の特攻に打って出た。その拳は──届くことすらなく。

 

 次の瞬間、ナイフがエックスの腹部を貫いていた。

 

「が……!?ああ……ッ」

「ハイ、おしまい」

 

 激痛に視界は明滅し、四肢のコントロールが失われる。そうして弔もまた……敗北した。

 

「ッ、………!」

「フフフフ……!」

 

 勝利を確信し、嗤うゴーシュ。いや……確信ではない。確定だ。傷ついた四人の誰ひとり、起ち上がることさえできないのだから。

 その中にあって弔は、絶望的な無力感に囚われていた。──コレクションを盗ることも、街の被害を止めることもできない自分。

 

(爆豪くん……皆、)

 

──サイクロン(それ)はてめェに預けとく。

 

──……いいの?

 

──我々がいないときにステイタス・ゴールドに遭遇したとき、金庫が開けられないでは困るだろう。

 

──だから、頼むね。死柄木さん!

 

 サイクロンダイヤルファイターを託されたときの、快盗たちとの会話。頼むと、そう言われたのに。

 

「ごめん……皆、俺には……何も……!」

 

 もはや、自分にできることは──

 

 

「これで、何もかも刻み放題ね……」

 

 周囲一面を見回しながら、言い放つゴーシュ。誇張でなく、彼女にはすべてがモルモットと映っているのだろう。次の瞬間には……その刃が何を捉えたとしても、不思議ではなくて。

 

「さあ、誰からいこうかしら?身体が岩みたいに硬くなるパトレン1号?それとも脚からエンジン噴かして走る2号?素敵な心音聴かせてくれた3号も捨てがたいわねぇ……フフフフ」

「──!」

 

 次の瞬間……ゴーシュとパトレンジャーとの間に、"彼"が割って入っていた。

 

「……!」

「死柄、木……!?」

 

 弔の背中は、パトレンジャーの面々に向けられていて。だから鋭児郎たちには見えなかったけれど──彼は、笑みすら浮かべてゴーシュと対峙していた。

 

「目移りしてんなよ……。おまえが切り刻みたいのは、俺だろ?」

「!、死柄木おまえ……!」

 

「自分が犠牲になる気か」──そう問われて、弔は視線を一瞬背後へと向けた。血管をそのまま透かしたような紅い瞳が、逢魔ヶ刻のように今まさに昏く落ちようとしている。鋭児郎は思わず、息を呑んだ。

 

「人間を守るために、自分が生け贄になろうって言うの?」

「ははっ……ヒーローみたいなこと言ってるよなァ、俺」

 

 他人のために己の命を差し出すなんて、ただの偽善だと思っていた。膝を抱えて泣いていた志村転弧という子供には、手を差し伸べるどころか気づいてもくれなかったくせに、と。

 でも、そうしてずっと忌み嫌っていたヒーローたちの想いが、今ならわかる。

 

 彼らはただ、大切なもの……守りたいと思うものの範疇が、常人より少しばかり広いだけなのだろう。だから目の前で傷つく命を放っておけない、黙って見ていられないんだ。それは正義と呼ぶにはすこし大仰な、もっと純粋でシンプルな想い。──今ここにいる自分と、何も変わらない。

 

(誰も完璧じゃない。……ほんとうは、わかってたんだ)

 

 だから──こんなことでしか、大事なもの(ひと)を守れない。

 

「構わないわよ。あなたを切り刻めるのなら、そんな雑魚」

「……話が早くて助かるよ」

「──駄目だ死柄木!!」

 

 背後でそう叫んだのは、いつの間にか立ち上がっていた鋭児郎だった。天哉、響香もまた、それに続いて身を起こそうとしている。

 

「おめェを見殺しにするなんて漢らしくねえこと、できるワケねえだろ!?」

「切島くんの言う通りだ……!俺たちはまだ戦える!」

「あんたがいなくなったら、ウチらが困るんだよ……!」

「………」

 

「──ありがとう、皆」

 

 静かな……それでいて心のこもった感謝の言葉に、三人は思わず息を呑んだ。

 

「……切島くん。きみが俺のことダチだって言ったとき、ホントは俺、涙が出るくらいにうれしかったんだ」

「……!」

「飯田くんに、耳郎さんも。あいつの言う通り半端者の俺を、仲間だと認めてくれた。……このクソったれな世界を、俺、きみらのおかげでちょっとは好きになれた」

 

「だからさ……守ろうぜ」

 

 そう告げて──弔は、己の手の中にあったモノすべてを鋭児郎たちに渡した。回収したルパンコレクション、Xチェンジャー、エックストレインズにサイクロンダイヤルファイター、トリガーマシンスプラッシュ……そして、サイレンストライカーも。弔の足掻いてきた証たるそれらは、独りで抱え込むにはずしりと重くて。

 

「じゃあ……Adieu」

「死柄木……!」

 

「行くな、死柄木……!」

 

 鋭児郎の縋るような声に……一瞬、躊躇が生まれる。──思い出したのだ、敬愛する"先生"の遺した、最後の言葉を。

 

──きみは、生きなさい。僕の、きみが手にかけた家族のぶんまで、精一杯生きなさい。ただひとつ、それだけ約束してくれるなら、きみを僕の後継者と認め、新たな名前を贈ろう。

 

(ごめん、先生。……やっぱり俺、先生みたいにはなれないや)

 

「お別れは済んだかしら?」

「!」

 

 ゴーシュの上半身を覆う骨の意匠が鎖のように伸びてきて、弔の身体をその手中に引きずり込んだ。

 

「代わりに、あなたたちには"これ"をあげる」

 

 言うが早いか、ゴーシュは空中めがけて何かを投げつけた。それは巨人の姿をした怪物となり、天地に響き渡るような雄叫びをあげる。

 

「あれは、ゴーラム……!?」

「デストラの形見よ。フフフ……それじゃあね」

「待、──」

 

 もはや止めるすべもなく、ゴーシュは弔を連れて姿を消した。

 

「ッ、……死柄木……ッ」

「……切島、今は──」

「わかってる……!」

 

──世界を、守る。弔との約束を、たがえるわけにはいかなかった。

 

『グッドストライカーぶらっと参上〜!……あれ、トムラは?』

「……話はあとだ。行くぜ、グッドストライカー」

『?、よくわかんないけど……わかったぜ!』

 

 今、弔が拉致されたことを知れば、グッドストライカーは少なからず動揺するだろう。残酷だと思いつつも、今は心おきなく戦ってもらうより他になく。

 

──警察、ガッタイム。

 

 トリガーマシンと合体を遂げ、グッドストライカーはパトカイザーとなってゴーラムと対峙する。

 

『喰らえィ!』

 

 先制攻撃とばかりに、トリガーキャノンを連射する。そうして相手が怯んだところで躊躇なく肉薄し、トリガーロッドをその腹部に突き立てた。

 

「!!」

 

 一、二歩と後退するゴーラムだったが、与えられたダメージはその程度だった。反撃に腕から直接飛び出す砲弾が襲いかかる。

 

「ッ、この──!」

 

 負けじとゼロ距離でトリガーキャノンを叩き込む。互いに火花を散らしながら距離をとる──と、ゴーラムが予想だにしない動きを見せた。

 跳躍するや否や、その身を上下に高速回転させはじめたのだ。

 

「なっ──うわあぁぁッ!?」

 

 岩石の塊と化した怪物の一撃を受け、コックピットは大きく揺さぶられた。致命傷とは言わずとも、強烈な一撃であることに違いはなくて。

 

「ッ、前のゴーラムより強ぇ……!」

「もしかして、こいつもゴーシュに改造されたか……!」

「だとしても──!」

 

 こんな木偶人形に、かかずらってなどいられない。

 

「死柄木……また、借りるぜ」

 

 サイレンストライカーを取り出す──と、グッドストライカーが素っ頓狂な声を発した。

 

『えぇっ、なんでオマエがそれ持ってんだぁ?トムラは──』

「……サイレンパトカイザーで行く!」

 

 内心でグッドストライカーに謝罪しつつ、サイレンストライカーを装填する1号。2号、3号もまたクレーンとスプラッシュを出撃させる。

 

『位置について……用意!──出、動ーン!』

『勇・猛・果・敢!』

『伸・縮・自・在!』

『激・流・滅・火!』

 

 グッドストライカーという土台からすべてが分離し、入れ替わりにサイレンストライカーを中心とした一団が合体する。下半身を除き、先ほどまでとは大きく様変わりした姿。──当然、その力も。

 

「「「完成!──サイレンパトカイザー!!」」」

 

 意思のないゴーラムは動じることもなく、再びあの回転攻撃を仕掛けてくる。だが、サイレンパトカイザーを前にしてはそんなもの、恐るるに足りはしない。

 

「うぉらぁッ!!」

 

 クレーンが伸長し、ゴーラムと激突する。一瞬の拮抗ののち、弾き飛ばされたのは怪物のほうだった。サイレンパトカイザーが圧倒的な力をもっていることなど、最初からわかりきったこと。

 怪物はそのまま地面に墜落した。──好機は、逃さない。

 

「一気に決める!!」

 

 それは誰が口にせずとも一致した意見だった。一斉に立ち上がり、VSチェンジャーを構える三人。サイレンパトカイザーの主砲にエネルギーが充填されていく。

 

「「「パトカイザー、サイレンストライクっ!!」」」

 

 そして、放たれた。

 膨大なエネルギーの奔流は一瞬にしてゴーラムを呑み込み、断末魔をあげる間もなくその身を削りとっていく。行き場をなくしたエネルギーがついには大爆発を起こし、ゴーラムは完全に消滅した。

 

「ッ、………」

 

 勝利──しかし、誰ひとりとして任務完了とは口にしない。事情を知らないグッドストライカーにしてみれば、異様な空気に他ならなかった。

 

『……なあ、どうなってんだ?トムラは?サイレンストライカー預けて、どこ行っちまったんだ?』

「………」

 

「……ごめん、グッドストライカー……」

『え……?』

 

 謝罪の言葉。当然それだけでは足りず、鋭児郎たちはすべてを説明するよりほかになかった。

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、ギャングラーたちの棲む異世界……その中心にある、ひときわ大きな屋敷。

 ゴーシュの手により、弔はその主の前に跪かされていた。

 

「ご覧ください、ボス。私の新しい獲物です」

「ほう……エックスじゃねえか」

「……ッ、」

 

 忘れえぬ黄金の鬼人を前に、弔はぎりりと歯を食いしばった。──ドグラニオ・ヤーブン。ギャングラーの首領で、あの日弔から大切な人を奪った、憎むべき仇敵。

 然して彼は、ギャングラーの中でも唯一無二の姿をしていた。

 

「ステイタス・ゴールド──フィジカル・プロテクト……!」

 

 金庫を覆う無数の鎖が、舌なめずりするように音をたてた。

 

 

 à suivre……

 

 





「ちゃんと見せてくれよ、快盗」
「駄目だ!俺のことはいい!」

 次回「崩壊」

「……俺たちが、世間を騒がす快盗だ」

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