ある日突然個性が消えたヒロアカ世界の数年後、かつてヒーローに憧れていた少年と元ヒーローたちが異世界から来た悪の帝国の侵略に立ち向かうため、戦隊を結成する!
メンバー:デク、エンデヴァー、ホークス、マウントレディ、インゲニウム(兄)
……という一発ネタ。別にゼンカイジャーじゃなくても良くねと言われればそれまで
"
「フフフフっ、アハハハハ!!」
「ッ、ぐうぅ……!」
──駄目だ、このままでは歯が立たない。
「死柄木っ、サイレンストライカーを──」
「!」
スーパーパトレン1号の火力で、一気に畳み掛けるしかない。相性の良し悪しなどもはや二の次だ。
しかし、
「させるワケ、ないでしょうっ!」
巨大ナイフの一撃が、ルパンエックスの鎧を抉った。
「ぐあ……ッ!?」
「死柄木!?」
敵の強化を未然に防ぐや、ゴーシュの視線はパトレンジャー……否、その背後に向けられて。
「ふっ、ハア──!」
サブマシン腕の一撃が──ビルを捉えた。弾丸によってその壁面に風穴が開き、窓ガラスが粉々に粉砕される。
「なっ……!?」
「貴様、何を──」
「わからない?あなたたちがあんまり不甲斐ないと、周りのモノぜ〜んぶ、壊しちゃうわよ?」
「……!」
モノ──そしてその周囲にいる、大勢の人々も。
「──ざけんなあぁぁッ!!」
憤激するパトレン1号が、それを止めにかかる。全身を限界まで硬化させ、サブマシン腕とナイフの猛攻を受け止める。
「ぐ、があぁぁ……ッ!」
「あらぁ……硬いのね。どこまで耐えられるかしら?」
既に警察スーツは大きく破損し、原型をとどめていない。それでも彼が踏ん張っているのは、ひとえに個性の……"
しかし、いかにプロヒーローのそれといえども……ギャングラーの本気には、敵わない。まして、ステイタス・ゴールドが相手では。
「──ぐぁああああッ!?」
ついに限界を迎え、鋭児郎は吹き飛ばされた。当然変身は解け、傷だらけの全身を晒して。
「アハハハっ!」
高笑いを続けながら、ゴーシュはすぐに別方向のビルへと照準を移した。放たれる剣波──それを、
「させるか!!──ぐああッ!?」
鋭児郎と同じく個性を発動させ、超速で割って入ったパトレン2号が浴びた。しかし彼の個性では、己の身体を肉壁とするしかなくて。
結局、彼もまた変身が解けた状態で地面に転がった。脹脛からは大量の血が滲んでいる。──永遠に癒えぬ、愚行の代償。
「飯田……!──ッ、だったら!」
ゴーシュの注意が鋭児郎や天哉に向いているうちにと、3号は先制攻撃を仕掛けた。ある程度まで距離を詰めたところで、両耳のイヤホンジャックを標的の身体に付着させる。
「?」
「ウチの心音、──喰らえええッ!!」
イヤホンジャックを通じて、響香の心音が何十倍にも増幅されてゴーシュに流れ込む。それは耳を劈くような凄まじい轟音となっていた。常人はもちろんのこと、丈夫だが感覚も鋭いギャングラーに対して数少ない有効打たりえる個性。
(これで、せめて動きだけでも……!)
そんな響香の思惑をよそに、
「あらぁ……心地いい音楽じゃない?フフフフっ」
「な……!?」
まったく効いていない!?──動揺する彼女もまた、次の瞬間には地を舐めていた。
「ぐ、ううう……ッ!」
「パトレンジャー、全滅ね」
「──まだ俺がいるだろうがぁ!!」
喉を震わせながら、ルパンエックスが突撃する。そこには策も何もない、ただこの化け物を止めなければという一心で挑みかかったのだ。
無為無策の攻撃が、通用するはずもない。
「アハハハハっ、あなたは"エックス"でしょう!?快盗にも警察にもなりきれない半端者の名無しちゃん!」
「黙れ……!」
「でも仕方がないわよねえ、生まれからしてそうなんだから!」
「何──がぁッ!?」
"ケーキ入刀"がXロッドソードを一刀の下に切断し、同時に鎧までもを破壊する。もはやルパンエックスの強みは失われてしまったが、今さら警察チェンジをする余裕もなくて。
「ぐ、うう……──ああああああッ!!」
意味のない絶叫とともに、エックスはボロボロの身体を引きずって最後の特攻に打って出た。その拳は──届くことすらなく。
次の瞬間、ナイフがエックスの腹部を貫いていた。
「が……!?ああ……ッ」
「ハイ、おしまい」
激痛に視界は明滅し、四肢のコントロールが失われる。そうして弔もまた……敗北した。
「ッ、………!」
「フフフフ……!」
勝利を確信し、嗤うゴーシュ。いや……確信ではない。確定だ。傷ついた四人の誰ひとり、起ち上がることさえできないのだから。
その中にあって弔は、絶望的な無力感に囚われていた。──コレクションを盗ることも、街の被害を止めることもできない自分。
(爆豪くん……皆、)
──
──……いいの?
──我々がいないときにステイタス・ゴールドに遭遇したとき、金庫が開けられないでは困るだろう。
──だから、頼むね。死柄木さん!
サイクロンダイヤルファイターを託されたときの、快盗たちとの会話。頼むと、そう言われたのに。
「ごめん……皆、俺には……何も……!」
もはや、自分にできることは──
「これで、何もかも刻み放題ね……」
周囲一面を見回しながら、言い放つゴーシュ。誇張でなく、彼女にはすべてがモルモットと映っているのだろう。次の瞬間には……その刃が何を捉えたとしても、不思議ではなくて。
「さあ、誰からいこうかしら?身体が岩みたいに硬くなるパトレン1号?それとも脚からエンジン噴かして走る2号?素敵な心音聴かせてくれた3号も捨てがたいわねぇ……フフフフ」
「──!」
次の瞬間……ゴーシュとパトレンジャーとの間に、"彼"が割って入っていた。
「……!」
「死柄、木……!?」
弔の背中は、パトレンジャーの面々に向けられていて。だから鋭児郎たちには見えなかったけれど──彼は、笑みすら浮かべてゴーシュと対峙していた。
「目移りしてんなよ……。おまえが切り刻みたいのは、俺だろ?」
「!、死柄木おまえ……!」
「自分が犠牲になる気か」──そう問われて、弔は視線を一瞬背後へと向けた。血管をそのまま透かしたような紅い瞳が、逢魔ヶ刻のように今まさに昏く落ちようとしている。鋭児郎は思わず、息を呑んだ。
「人間を守るために、自分が生け贄になろうって言うの?」
「ははっ……ヒーローみたいなこと言ってるよなァ、俺」
他人のために己の命を差し出すなんて、ただの偽善だと思っていた。膝を抱えて泣いていた志村転弧という子供には、手を差し伸べるどころか気づいてもくれなかったくせに、と。
でも、そうしてずっと忌み嫌っていたヒーローたちの想いが、今ならわかる。
彼らはただ、大切なもの……守りたいと思うものの範疇が、常人より少しばかり広いだけなのだろう。だから目の前で傷つく命を放っておけない、黙って見ていられないんだ。それは正義と呼ぶにはすこし大仰な、もっと純粋でシンプルな想い。──今ここにいる自分と、何も変わらない。
(誰も完璧じゃない。……ほんとうは、わかってたんだ)
だから──こんなことでしか、
「構わないわよ。あなたを切り刻めるのなら、そんな雑魚」
「……話が早くて助かるよ」
「──駄目だ死柄木!!」
背後でそう叫んだのは、いつの間にか立ち上がっていた鋭児郎だった。天哉、響香もまた、それに続いて身を起こそうとしている。
「おめェを見殺しにするなんて漢らしくねえこと、できるワケねえだろ!?」
「切島くんの言う通りだ……!俺たちはまだ戦える!」
「あんたがいなくなったら、ウチらが困るんだよ……!」
「………」
「──ありがとう、皆」
静かな……それでいて心のこもった感謝の言葉に、三人は思わず息を呑んだ。
「……切島くん。きみが俺のことダチだって言ったとき、ホントは俺、涙が出るくらいにうれしかったんだ」
「……!」
「飯田くんに、耳郎さんも。あいつの言う通り半端者の俺を、仲間だと認めてくれた。……このクソったれな世界を、俺、きみらのおかげでちょっとは好きになれた」
「だからさ……守ろうぜ」
そう告げて──弔は、己の手の中にあったモノすべてを鋭児郎たちに渡した。回収したルパンコレクション、Xチェンジャー、エックストレインズにサイクロンダイヤルファイター、トリガーマシンスプラッシュ……そして、サイレンストライカーも。弔の足掻いてきた証たるそれらは、独りで抱え込むにはずしりと重くて。
「じゃあ……Adieu」
「死柄木……!」
「行くな、死柄木……!」
鋭児郎の縋るような声に……一瞬、躊躇が生まれる。──思い出したのだ、敬愛する"先生"の遺した、最後の言葉を。
──きみは、生きなさい。僕の、きみが手にかけた家族のぶんまで、精一杯生きなさい。ただひとつ、それだけ約束してくれるなら、きみを僕の後継者と認め、新たな名前を贈ろう。
(ごめん、先生。……やっぱり俺、先生みたいにはなれないや)
「お別れは済んだかしら?」
「!」
ゴーシュの上半身を覆う骨の意匠が鎖のように伸びてきて、弔の身体をその手中に引きずり込んだ。
「代わりに、あなたたちには"これ"をあげる」
言うが早いか、ゴーシュは空中めがけて何かを投げつけた。それは巨人の姿をした怪物となり、天地に響き渡るような雄叫びをあげる。
「あれは、ゴーラム……!?」
「デストラの形見よ。フフフ……それじゃあね」
「待、──」
もはや止めるすべもなく、ゴーシュは弔を連れて姿を消した。
「ッ、……死柄木……ッ」
「……切島、今は──」
「わかってる……!」
──世界を、守る。弔との約束を、たがえるわけにはいかなかった。
『グッドストライカーぶらっと参上〜!……あれ、トムラは?』
「……話はあとだ。行くぜ、グッドストライカー」
『?、よくわかんないけど……わかったぜ!』
今、弔が拉致されたことを知れば、グッドストライカーは少なからず動揺するだろう。残酷だと思いつつも、今は心おきなく戦ってもらうより他になく。
──警察、ガッタイム。
トリガーマシンと合体を遂げ、グッドストライカーはパトカイザーとなってゴーラムと対峙する。
『喰らえィ!』
先制攻撃とばかりに、トリガーキャノンを連射する。そうして相手が怯んだところで躊躇なく肉薄し、トリガーロッドをその腹部に突き立てた。
「!!」
一、二歩と後退するゴーラムだったが、与えられたダメージはその程度だった。反撃に腕から直接飛び出す砲弾が襲いかかる。
「ッ、この──!」
負けじとゼロ距離でトリガーキャノンを叩き込む。互いに火花を散らしながら距離をとる──と、ゴーラムが予想だにしない動きを見せた。
跳躍するや否や、その身を上下に高速回転させはじめたのだ。
「なっ──うわあぁぁッ!?」
岩石の塊と化した怪物の一撃を受け、コックピットは大きく揺さぶられた。致命傷とは言わずとも、強烈な一撃であることに違いはなくて。
「ッ、前のゴーラムより強ぇ……!」
「もしかして、こいつもゴーシュに改造されたか……!」
「だとしても──!」
こんな木偶人形に、かかずらってなどいられない。
「死柄木……また、借りるぜ」
サイレンストライカーを取り出す──と、グッドストライカーが素っ頓狂な声を発した。
『えぇっ、なんでオマエがそれ持ってんだぁ?トムラは──』
「……サイレンパトカイザーで行く!」
内心でグッドストライカーに謝罪しつつ、サイレンストライカーを装填する1号。2号、3号もまたクレーンとスプラッシュを出撃させる。
『位置について……用意!──出、動ーン!』
『勇・猛・果・敢!』
『伸・縮・自・在!』
『激・流・滅・火!』
グッドストライカーという土台からすべてが分離し、入れ替わりにサイレンストライカーを中心とした一団が合体する。下半身を除き、先ほどまでとは大きく様変わりした姿。──当然、その力も。
「「「完成!──サイレンパトカイザー!!」」」
意思のないゴーラムは動じることもなく、再びあの回転攻撃を仕掛けてくる。だが、サイレンパトカイザーを前にしてはそんなもの、恐るるに足りはしない。
「うぉらぁッ!!」
クレーンが伸長し、ゴーラムと激突する。一瞬の拮抗ののち、弾き飛ばされたのは怪物のほうだった。サイレンパトカイザーが圧倒的な力をもっていることなど、最初からわかりきったこと。
怪物はそのまま地面に墜落した。──好機は、逃さない。
「一気に決める!!」
それは誰が口にせずとも一致した意見だった。一斉に立ち上がり、VSチェンジャーを構える三人。サイレンパトカイザーの主砲にエネルギーが充填されていく。
「「「パトカイザー、サイレンストライクっ!!」」」
そして、放たれた。
膨大なエネルギーの奔流は一瞬にしてゴーラムを呑み込み、断末魔をあげる間もなくその身を削りとっていく。行き場をなくしたエネルギーがついには大爆発を起こし、ゴーラムは完全に消滅した。
「ッ、………」
勝利──しかし、誰ひとりとして任務完了とは口にしない。事情を知らないグッドストライカーにしてみれば、異様な空気に他ならなかった。
『……なあ、どうなってんだ?トムラは?サイレンストライカー預けて、どこ行っちまったんだ?』
「………」
「……ごめん、グッドストライカー……」
『え……?』
謝罪の言葉。当然それだけでは足りず、鋭児郎たちはすべてを説明するよりほかになかった。
*
同じ頃、ギャングラーたちの棲む異世界……その中心にある、ひときわ大きな屋敷。
ゴーシュの手により、弔はその主の前に跪かされていた。
「ご覧ください、ボス。私の新しい獲物です」
「ほう……エックスじゃねえか」
「……ッ、」
忘れえぬ黄金の鬼人を前に、弔はぎりりと歯を食いしばった。──ドグラニオ・ヤーブン。ギャングラーの首領で、あの日弔から大切な人を奪った、憎むべき仇敵。
然して彼は、ギャングラーの中でも唯一無二の姿をしていた。
「ステイタス・ゴールド──フィジカル・プロテクト……!」
金庫を覆う無数の鎖が、舌なめずりするように音をたてた。
à suivre……
「ちゃんと見せてくれよ、快盗」
「駄目だ!俺のことはいい!」
次回「崩壊」
「……俺たちが、世間を騒がす快盗だ」