【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#48 崩壊 1/3

 世界を、仲間を守るため、自身を生け贄として差し出した死柄木弔。

 

 異世界に連れ去られた彼の前に現れたのは、"先生"の仇たる黄金の鬼人だった──

 

 

「──ご覧ください、ボス。私の新しい獲物です」

「ほう、エックスじゃねえか。ゴーシュからハナシ聞いて、一度会ってみたいと思ってたが……ハハハっ、なかなか良い面構えしてんじゃねえか」

 

 不気味に光る碧眼が間近に迫る。その冷たい威圧感に皮膚が粟立つのを自覚しながらも、弔は負けじと睨み返した。

 

「……ひとつ答えろ、ドグラニオ・ヤーブン」

「おう。あの世への手土産だ、なんでも答えてやる」

 

 鷹揚な態度は、それだけ見ればどこにでもいるきっぷの良い老人のようだった。

 

「おまえは人間界で先生……アルセーヌを殺し、ルパンコレクションを奪った。──何が目的なんだ?」

「目的?」鼻を鳴らして、「面白そうなものがあった、だから手に入れた。他に理由がいるか?」

「何……!」

 

 そんなことで、"先生"は──激昂しかかる弔だったが、ドグラニオが続いて語ったのは予想だにしない事実だった。

 

「──()()()が教えてくれたんだ。ルパンコレクションの力を使って、人間だてらに俺に歯向かってきた。……ま、結局は俺がいただいたがな」

「……あの女?」

「名前はなんて言ったかな。確か、あの金髪のガキに"お師匠"とか呼ばれてたのは覚えてるんだが……ははは、耄碌するとこれだからいけないな」

「……!」

 

 金髪の少年、お師匠──女。その瞬間、弔の脳裏をよぎるひとつの名前。

 

「……志村、菜奈」

「!、おお、そうだった。おまえ、よく知って──」

 

 ドグラニオが言い切らないうちに、弔は彼に飛びかからんとしていた。尤も次の瞬間には、ゴーシュの鎖が発する電流によってその場に倒されてしまったのだが。

 

「ッ、ぐ……」

「おいおい……いきなりどうした?」

 

 見下ろす視線と、薄れゆく意識に抗い──弔は、憎悪のこもった瞳をドグラニオに向けた。

 

「おまえが……!おまえさえ俺たちの世界に現れなければ!お父さんが苦しむことはなかった!!俺が……俺たち家族が、滅茶苦茶になることだってなかったんだ!!それを……!」

「……そうか。おまえ、つくづく俺たちに縁があるらしいな。──ゴーシュ、」

「?」

「解体しちまうのも良いが、どうせならもっと愉しもうじゃねえか。なぁ──エックス?」

 

 ドグラニオの瞳が、残忍な光を放った。

 

 

 *

 

 

 

 弔の危機を未だ知らぬ快盗たちは、ジュレにこもって今後の方策を練っていた。

 

「チッ……ザミーゴの野郎、クソ面倒臭ぇコレクション手に入れやがって」

 

 時間を置いて気を取り直した爆豪勝己が、忌々しげにつぶやく。あきらめるという選択肢が存在しえない以上、ザミーゴのことは難題でしかない。良くも悪くも。

 

「倒すにも金庫を開けるにも、あの能力は厄介だ。ただ、希望がないわけではない」

「……おー」

 

 ルパンイエローが不意打ちで金庫に触れようかというとき、ザミーゴは咄嗟に建物を撃って瓦礫を崩落させた。イエローの気を逸らし、その隙を突いて投げ飛ばす──そうした一連の行動から、ひとつの解が見えてくる。

 

「奴は金庫までは液状化できねえ。あるいは、一定以上の質量があるものは受け止めきれねえ……っつーとこか」

「どちらにせよ、そこに我々の勝機がある。──お茶子、」

「!」

 

 たった今我に返ったように振り向いたお茶子に、勝己は強烈なデコピンをお見舞いした。

 

「!?、い゛ッ、だあぁぁぁぁ……!!」

「てめェ、ハナシ聞いてなかったろ」

「き、聞いとったよ!聞いとったけど、その……」

 

 赤くなった額を押さえつつ、再び窓の外を見遣るお茶子。外に人通りはない。いたって静かなものだ。それゆえにかえって、男たちは彼女が何を待っているのか想像しえたのだけれども。

 

「……いっそ今すぐにでも、ここを引き払うべきかもしれんな」

「!、え……」

 

 「そんな」と、口の中でつぶやくお茶子。もはや正体の露呈は時間の問題。ならば先んじてというのは、理には適っている。

 

「お茶子。警察と親しくすることと正体を隠すことを、これ以上両立するのは──」

「──わかってるよ!わかってるけど!……好きに、なっちゃったんやもん。ここでの暮らしが……」

 

「デクくんとショートくん取り戻して、私たちは三人でお店続けて。飯田さんたちも今まで通り常連で……そんなふうになればいいなって。そう思うの、おかしいかな?私、やっぱり快盗として間違って──」

「──うるせえよ」

 

 勝己の静かだがよく通る声が、お茶子の言葉を跳ねのけた。

 

「てめェがクソノーテンキでアッパラパーな丸顔だっつーことはよぉく知っとるわ。どんだけ一緒にいると思ってんだ」

「……爆豪くん、」

「そーいうクソほども快盗らしくねえヤツが、ここをそーいう場所に変えたんだろうが」

「……!」

 

 そっぽを向いたままの勝己の言葉は、何も知らない人間が聞けば冷たく響いたことだろう。でも彼の言う通り、十代半ばの青い日々を彼らは命を預けあって過ごした。だから今ならわかる。彼がほんとうは不器用で、どうしようもなく情を捨てられない少年なのだと。

 

 一寸先の未来も見えない中で、かすかな安寧を享受する快盗たち。しかしそれさえも、もはや刹那の泡沫でしかなかった。

 

『たーいへーんだぁ〜!!?』

「!」

 

 いきなり扉を開けて飛び込んできたのは、ヒトではなかった。

 

「グッディ……どうしたん?」

 

 漆黒の翼が慌てた様子で店内を飛び回る。いつもなら「うるせえ!!」と勝己が一喝するところだが、今日ばかりは明らかに尋常な様子でないことが伝わってくる。

 そして、

 

『トムラが!トムラがゴーシュに刻まれちゃう〜!!』

「……!?」

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、いったんタクティクス・ルームに戻った警察たちは重苦しい空気に包まれていた。

 

「死柄木……ッ」

 

 デスクに突っ伏すような姿勢で、己の拳を見下ろす切島鋭児郎。誰が見てもこれ以上はないくらいに憔悴している姿。

 

「……切島くん、きみたちは全力でやった。それでも届かなかった。自分を責めたところで、その現実は変わらない」

「……わかってます!わかってますけど──ッ、」

 

「ちくしょう」──悔恨や無力感をことごとく吐き出すようなつぶやきは、彼を窘める塚内管理官も理解するところだった。仲間の自己犠牲により、自分たちだけが助かった……実情はどうあれ、結果はそうとしか言いようがないのだ。

 

「死柄木捜査官は人々を守るため、信念をもって集めたコレクションを我々に託し、命をかけた。──必ず、救出する」

 

 言うまでもないことだが、塚内は警察戦隊の方針としてそう言明した。

 問題は、その方法である。弔がどこに連れ去られたか。手がかりはないけれど、きっとギャングラーの本拠たるかの常夜の世界だという確信があった。

 

『またギャングラーが現れるのを待って、異世界に乗り込みますか?現在、これまでのゴーシュの行動パターンを分析していますが……』

「……死柄木くんに手を出す前に、奴はこちらに現れるだろうか?」

「微妙なとこだね……」

「………」

 

「快盗はこのこと、知ってんのかな……」

 

 室内に一瞬、水を打ったような沈黙が広がる。快盗──つまり、爆豪勝己らジュレの面々。今となってはもはや、そのイコールは覆しがたいものとなりつつあった。

 

「……快盗の正体が何者であれ、早晩グッドストライカーから伝わるだろう。彼らも死柄木くんの救出を目的として動くなら、協力は可能だと思うが」

「飯田、あんた──」

 

「まだ、疑いたくないか」──響香がそう問いかけようとしたときだった。

 

『!、電波が何者かにジャックされています!』

 

 にわかに発せられたジム・カーターの切羽詰まった声に、室内の空気が緊迫したものとなる。

 そして、時を置かずモニターが異形の怪物を映し出した。

 

『──ハァイ、人間の皆さん』

「ゴーシュ……!?」

 

 それは今まさに行方を捜していた、ゴーシュ・ル・メドゥだった。容貌に似合わぬ愛らしい女性の声で、彼女は身の毛もよだつような言葉を紡ぎ続ける。

 

『退屈な毎日を過ごす皆さんにギャングラープレゼンツ、楽しい楽しい解体ショーのお知らせよ』

 

 まさか──警察も快盗も同じ思考に達した刹那、モニターにひとりの青年が映し出される。白髪を無造作に伸ばした彼は、ぐったりと項垂れた状態で磔にされていた。

 

『獲物はこの人間。あるときは国際警察のパトレンエックス、またあるときは快盗ルパンエックス。──この人間の身体の中がどうなってるか、見たいと思わない?ウフフフ……!』

 

『本日正午、この聖マルコ教会から解体の模様を生中継するわ。皆さん、どうぞお楽しみに……』

 

 心底愉しそうに捲し立て、ゴーシュの電波ジャックは断たれた。彼女はもはや、弔を切り刻むこと以外頭にないように見えて。

 

「……つまり、公開処刑の宣言というわけか」

「ッ、どんだけ悪趣味なんだ、あの女……!」

 

 スマートフォンをポケットにしまい込み、忌々しげに吐き捨てる勝己。ただ、悪いことばかりではない。ゴーシュの言葉に嘘がないなら、弔を救けに行くことはできる。

 

『みんな頼む!トムラを救けてくれ〜!!』

 

 グッドストライカーの懇願。「もちろんさ!」とふたつ返事で応じようとしたお茶子の声は、第五の人物によって遮断された。

 

「許可できません」

「!?、──黒霧さん……!」

 

 常に神出鬼没、かつ飄々としたこの執事の言葉は、いつになく重々しい響きをもっていて。

 

「どういうこと!?許可できんって──」

「死柄木弔を見捨てろということです。これはゴーシュの罠である可能性が高い」

「……死柄木にはサイクロンダイヤルファイターを預けている。他にも奴は、複数のコレクションを──」

「死柄木弔の所持していたコレクションは、国際警察の手に渡ったようです。……ですから、皆さんが危険を冒す必要はありません」

『黒霧ィイイイ!!』

 

 これに喰ってかかったのは他でもない、グッドストライカーだった。

 

『この冷血ニンゲン、最低野郎のコンコンチキ!!元々ヤなヤツだと思ってたけどっ、見損なったよバカヤロー!!!』

「ッ、──他でもない彼自身の願いのためだっ!!私が転弧様を、好きで切り捨てると思うのか!?」

 

 負けじと激した姿は、快盗たちにとっても初めて目の当たりにするものだった。黒い靄が激しく揺らめき、人の頭を象ったシルエットが覗く。既視感を覚えたのはお茶子だった。あれっと思って目を凝らすが、次の瞬間にはもう元通りになっていた。

 

「……失敬。とにかく今度のことは、死柄木弔も覚悟のうえです。皆さんもどうか、弁えていただくよう──」

「………」

 

 

 一方で──警察戦隊の面々は、なんの憚りもなく出撃しようとしていた。

 

「っし……!耳郎、飯田、準備いいか?」

「ああ」

「万端だとも!」

 

 VSチェンジャーをホルスターに仕舞い、三人揃って上司の前に並び立つ。あとは、彼の命令ひとつ。

 静かに頷いた塚内は、やおら立ち上がり──

 

「──パトレンジャー、出動!」

「「「了解!!」」」

 

 

 出動していく部下たちの背中。一年前、出逢った頃より心なしか逞しくなったそれらを、今まで何度見送っただろう。

 

(みんな……必ず無事で、帰ってきてくれ)

 

 そうして()()が、変わらぬ笑顔を見せてくれたら。今この瞬間、それだけが塚内直正の願いだった。

 

 

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