【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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いよいよ、この時が来てしまった


#48 崩壊 2/3

 

 鬱蒼とした森の片隅に建つ、古びた教会。訪れる者も皆無となって久しいこの場所は、今や残忍なギャングラーによって占拠されていた。

 

「フフフ……」

「……ッ、」

 

 "何か"を待ち受け、意味深に嗤うゴーシュ・ル・メドゥ。その傍らにて、磔にされたままの死柄木弔は彼女──そして彼女の主を忌々しげに睨みつけることしかできない。このあとに何が起こるか察しがついていて、だからこそ彼は焦っていた。早く自力で脱出しなければ。しかしこの状況では、脱出できたとて──

 

 

──直後、ついに恐れていたことが起こった。

 

「動くなッ、国際警察だ!!」

「……!」

 

 唯一開放されたままの正面から、堂々と突入してきた国際警察の面々。その勇ましい口上に真っ先に反応したのは、安楽椅子に腰掛けた黄金の鬼人だった。

 

「よく来たな警察ども。おめでとう、お前らが先着だ」

「!、ドグラニオ・ヤーブン……!」

 

 ギャングラーの中では比較的小柄な身体。しかしそこから発せられる凄まじい威圧感は、鋭児郎たちに本能的な恐怖というものを味わわせた。今にも取って喰われそうな悪寒に、冷たい汗が頬を流れる。

 

「ッ、このヒーロー馬鹿ども!何のために俺が──ぐぁッ!?」

 

 警察の面々を突き放そうとする弔の言葉は、ゴーシュの打擲により中断された。そうして"餌"を黙らせた狂った獣は、目鼻のない顔をもうひとつの獲物に向けて嗤った。

 

「ウフフ……ちょっと早いけど、始めるとしましょうか」

「!」

 

 三人の周囲を、潜んでいたポーダマンの群れが取り囲む。それが"ショー"開始の合図だった。

 

「正義の警察は、果たしてみじめなエックスを救い出せるかしら?」

「決まってンだろ!!」ポーダマンを叩きのめしつつ、鋭児郎が叫ぶ。「絶ッ対、救ける……!──飯田、耳郎ッ!!」

「うむ!」

「ああ……!」

 

「「「──警察チェンジ!!」」」

 

『1号!』──鋭児郎が、

『2号!』──天哉が、

『3号!』──響香が、

 

『パトライズ!警察チェンジ!』

 

 VSチェンジャーとトリガーマシンの力を借りて、変身を遂げた。

 

「邪魔だぁぁぁ!!」

 

 激する彼らの拳が、銃弾が、行く手を阻むポーダマンをぶちのめし、吹き飛ばし、薙ぎ倒していく。その光景は余すところなく中継され、快盗の後塵を拝するとみられてきた警察の実力を全世界に知らしめていく。

 

「ほう……やるじゃあないか。ポーダマンではもう、敵にならないようだな」

「ええ。でも、"これ"ならどうかしら……ウフフ」

 

 早くもゴーシュが動き出す。戦陣の中に切り込んでいくや、ポーダマンもろともサブマシン腕の雨あられを浴びせかける。

 

「ッ!」

 

 仲間ふたりを庇い、"硬化"を発動させる1号。ゴーシュの攻撃が終わらないうちに、早くも彼は動いた。巌のごとき拳を振り上げ、がむしゃらに殴りかかっていく。そんな彼の猛撃を、守られた仲間たちも全力で支援する。VSチェンジャーやパトメガボーを振るい、あらん限りの力で。

 

──それでもなお及ばぬほど、今のゴーシュは強敵だった。ルパンコレクション"ケーキ入刀"の力を使い、右手を巨大なナイフに変形させる。成人ほどの長大さを誇るそれは、さもありながら重量はほとんどない。元の手と同じように扱うことができる──魔術の産物ゆえ。

 

「ぐあぁッ!?」

 

 硬化がついに破れ、強化服を斬られて吹き飛ばされる1号。追撃しようとしたゴーシュを、2号と3号が全身全霊で阻止した。

 

「させるものかぁああッ!!」

「おまえの相手はウチらだ!!」

 

 「あらあら」と、ゴーシュは嗤う。彼女の余裕は決して崩れることがない。もはや"世界を癒そう"を失い、標的のすべてを"視る"ことはかなわないにもかかわらず。それでもなお、彼女には見えているのだ。この惰弱でしぶとく、愚かで勇敢な生き物たちがどう足掻くかが。

 

「遊びは終わりよ……ハアァッ!!」

 

 ゴーシュがおそらく初めて力のこもった叫びを発すると同時に、ナイフが鈍い光を放つ。危険を察知したパトレンジャーの面々は、咄嗟にオブジェクトを盾にしようとするが、

 

「が―───」

 

 それは、視界が明滅するほどの衝撃だった。パトレンジャーは紙のように吹き飛ばされ、床に叩きつけられていく。ボロボロになった警察スーツは耐久力の限界を迎え、あえなく変身者たちの素顔を晒してしまった。

 

「ぐ、うう……ッ」

「ッ、あ……!」

「く、そぉ……ッ!」

 

 鋭児郎たちは傷だらけになっていた。全身が苦痛を表し、言うことを聞いてくれない。目の前に憎むべき仇敵がいて、その背後には救うべき仲間がいるというのに──

 

「悪いわねぇ、私も早く切り刻みたくてウズウズしてるの。ウフフフッ」

 

 言うが早いか、ゴーシュはくるりと踵を返した。つかつかと囚われの弔に歩み寄ると──その鳩尾のあたりに、す、とナイフを押しつける。

 

「さあ、エックス。あなたの身体がどうなってるのか、刻んで、確かめてあげる」

「ッ、やめろ……!」声をあげる鋭児郎。「死柄木に……俺のダチに、これ以上汚ぇ手で触るんじゃねえ……!!」

「汚い手とは言ってくれるわね──フンっ!」

 

 振り向きもせぬまま、空いた左手が火を噴く。狙いの定まらない攻撃ゆえに直撃はしなかったけれど、着弾の余波で鋭児郎の頬がわずかに灼けた。

 

「ぐ……!」

「汚いっていうなら、エックスも同じだと思うけど?」

「何──」

 

 

「──だってこの子、人間じゃないもの」

「……!?」

「は……?」

 

 その言葉に驚愕したのはゴーシュ自身と、ドグラニオを除くすべての者たちだった。他でもない弔までもが、呆けたような表情を浮かべている。

 

「……何、言ってんだ。死柄木は、人間だ!!」

「私もそう思ってたわよ。この目で"視る"までは……ウフフフっ」

 

 "世界を癒そう"の力で弔の細胞ひとつひとつに至るまでを観察して、わかったのだ。──弔の身体には、自分たちギャングラーと近しい血が流れているのだと。

 

「でも随分と()()()()()みたいだから、私たちと百パーセント同じってワケでもないけれど」

「………」

 

 弔は、何も言わない。──言えないのだ。ゴーシュの暴露が事実である証拠はないけれど、でまかせだという保証もない。何より事実でなければ、ゴーシュがこうまで自分に固執する理由はない。

 

 不意に、黙していたドグラニオが口を開いた。

 

「──ちょうど俺が生まれた頃、つまりは千年も昔だが、俺らの世界は戦争をしていた。力を得た奴と、そうでなかった奴。夥しい血こそ流れたが、勝ったのは当然前者だった。駆逐された連中のうち数少ない生き残りは、散り散りになってどこぞへ消え去った。……ま、ここにこうしてその末裔がいるんだ、そいつらはこの世界に来てたんだろうな」

「……じゃあ、本当に死柄木は──」

 

 弔自身さえ知らなかった、最後にして最大の秘密。家族の血で汚れた手は、最初から人間のものではなくて。ならば自分は、いったい何者なのか。

 激しく揺らぐアイデンティティに、再び鈍色の刃が突きつけられる。

 

「──だから、切り刻むのよ」

「……ッ、」

 

 やおら振り上げられる、ゴーシュの魔手。「やめろ」という鋭児郎の叫びは、まるで深海のあぶくのように虚空に吸い込まれていく。

 

──刹那、

 

「ッ!?」

 

 まったく別方向から放たれた弾丸が、見事ゴーシュの手首を貫いた。

 

「クソみてえなショーはそこまでだ」

「──!」

 

 赤、青、黄。それぞれ異なる色の仮面で素顔を隠した者たち。──「快盗、」と呼ぶ声が、誰からともなく洩れた。

 

 そう、彼らは来た。黒霧の想いを理解しつつも、こんな言葉を返して。

 

──黒霧サンよォ、あんた、大事なこと忘れてるぜ。

──ゴーシュもコレクションを所持しているだろう。

──だったら取り返すのが、私たちの仕事!……でしょ?

 

──最初(ハナ)っから決まってんだ。俺たちは……行く!

 

 

「──話は聞かせてもらった。……我々には関係のない話だがな」

「エックスは返してもらうんだから!」

 

 勇ましく告げる快盗たち。しかしそこで、"あの男"がす、と立ち上がった。

 

「おぉ、待ってたぞ快盗ども」

「!、あれって……」

「ドグラニオ・ヤーブン……ギャングラーの首領までお出ましか」

 

 巨悪の権化たる老人が立ち塞がり、行く手を阻む。強靭な意志をもつ者たちでなければそれは、絶望的な光景と言うほかなかっただろう。

 当のドグラニオは、歓迎を身体で表すかのように大きく両手を広げてみせた。

 

「ハハハ、そう畏まるなよ。まずは腹割って話そうじゃねえか」

「ア゛ァ!?てめェと話すことなんざねーわ、金ピカ野郎!!」

 

 ルパンレッドの罵声に対するドグラニオの反応は、鷹揚そのものだった。──まるで、仔犬に吠えられた動物愛好家のように。

 

「そう言うな、せっかく三匹揃って会えたんだ。……あぁでも、腹ァ割るにはそのマスクが邪魔だな」

「……!」

 

「ちゃんと顔、見せてくれよ」

 

──それはまさしく、恐れていた事態だった。この場で起きたことはすべてリアルタイムで全世界に知らしめられている。ゆえに、

 

「……だから言ったんだ……っ」

 

 打ちひしがれる黒霧。一方で、

 

「へえ、ボスらしくない嫌がらせ。いや……昔に戻ったってとこかぁ」

 

 ヒトの姿で流離うザミーゴが、愉しそうにつぶやく。ギャングラーの中では若造の部類に入る彼が物心ついたときには、ドグラニオの全盛期はとうに過ぎていた。もしもこれより、その頃の姿が見られるというなら──冷えきった血が、騒ぎ出すのを彼は自覚した。

 

 そうしてヒト、ヒトならざるもの、正邪……様々な存在がモニター越しに見守る中、無情の時は過ぎていく。

 

「素顔のおまえたちがゴーシュと戦って勝てば、エックスを解放してやっても構わん」

「……ッ、」

 

 ぎりりと歯を噛み締める勝己は、ややあって「断るっつったら?」と訊いた。対するドグラニオの答は、

 

「おまえたちに解体ショーを見てもらうまでだ。俺と遊びながら、な」

「ッ、そんな──」

「──それでいい!!」弔が叫ぶ。「俺のことはいい……!約束しただろッ、最後にコレクションが集まれば構わない!!これは全世界に中継されてるんだっ、マスクを外したら取り返しがつかないんだぞ!?」

 

 声を絞り出し、訴える弔。人間でない自分のために、ここですべてが崩壊するなどあってはならない。壊すのは、"志村転弧"の家族だけで十分だ。

 しかし……快盗たちは、沈黙していた。明確な結論のない、葛藤がそれぞれの中に生まれていることは確かだった。そのさまを、国際警察の面々も固唾を呑んで見守っている。もしも素顔が露になったとして……それが自分たちの見知った"彼ら"のものでないという、一縷の望みを抱いて。

 

──真っ先に顔を上げたのは、お茶子だった。

 

「!、……良いのか?」

「……引き返せねえぞ」

 

 男たちが訊く。だって、彼女が取り戻したいのは元のありふれた幸福で。傷つけ踏みにじってきた幼馴染や息子さえ取り戻せれば自分たちはどうなってもいいというふたりとは、決定的なところで隔絶したものがある。──それでも、

 

「私だって、快盗だから」

 

 

 だから、覚悟はできている。

 

 顔を見合わせ、頷きあう快盗たち。やがてその手が、仮面にかかる。

 

「ンな見たきゃ、見せてやるよ」

「……!」

 

 VSチェンジャーを仕舞い、右手を仮面に、左手をハットにかける。彼らがそうしている間はまるで永遠かのように、警察の面々には思われた。

 そして、────

 

「あ、」

 

「ああ……っ」

 

「ああああ……!」

 

 

「──俺たちが、世間を騒がす快盗だ」

 

 信じたくなかった。自分たちの、思い過ごしであってほしかった。

 

 隠されていた顔は……まぎれもない、ジュレの三人のものだったのだ。

 

「麗日くん……そんな……っ」

 

 お茶子を信じようと、最後まで足掻いていた天哉。目を見開いた彼は、大きな身体を震わせて声にならない慟哭を洩らした。……いや、彼だけではない。鋭児郎だって、響香だって、悲痛な表情を浮かべて目の前の光景を凝視している。

 

「何、やってんだよ……っ」

 

 同じく見ていることしかできなかった弔もまた、打ちひしがれていた。呵責の言葉が向かう先は、何より囚われの身で何もできない自分自身だ。こんな穢れた命を救うために、彼らは後戻りできないところへ来てしまった。

 

──そう、全世界が今、快盗の正体を知ってしまったのだ。

 

「あれが……ルパンレンジャー?」

「ルパンブルーってあれ、もしかしてエンデヴァーじゃないか!?」

「あの人たち知ってる!ジュレって喫茶店の店員!」

 

 市井の人々。そして、近しい者たちも。

 

「お茶、子……?」

「あの子まさか、家のために……」

 

 お茶子の両親が、

 

「お父さん……どうして……?」

「なんだよ……何やってんだよ、親父……!」

 

 炎司の子供たちが、

 

「勝己くんが……そんな──」

「!、勝さんちゃんと見て!」

 

「勝己……あんた、やっぱり……」

 

 勝己の両親が──その姿を、目の当たりにしていた。

 

 

「──ンじゃドグラニオさんよォ、」

 

 その事実を悟っていながら、勝己は不敵な笑みを浮かべて"予告状"を投げつけた。

 

「くっちゃべる時間がもったいねえから……予告する。──てめェらのお宝、全部まとめていただき殺ォす!!」

 

 言うが早いか、彼らは再びVSチェンジャーを抜いた。その砲身にダイヤルファイターを装填し、

 

「「「──快盗チェンジ!!」」」

『レッド!──0・1・0!』

『ブルー!──2・6・2!』

『イエロー!──1・1・6!』

 

『マスカレイズ!──快盗チェンジ!』

 

 トリガーを引き……エンブレムを象った、光が彼らの身体を包み込む。そしてそれは、一瞬にして快盗スーツへと変化を遂げた。最後に残った素顔……その中心をなす瞳が仮面に覆われる寸前、決意の輝きを発するのを、無数の人々が見た。

 

「フッ……ゴーシュ、」

「ハァイ、ボス。……フフ、良いわ。坊やの素敵な身体も刻みたかったから……楽しみが増えた、わっ!」

 

 襲いかかるゴーシュ。その巨大な刃を迎え撃ちつつ、ルパンレッドは吐き捨てる。

 

「前から言ってっけどなァ……きめェんだよクソがァ!!」

 

 だから今日──必ずこの場で、決着をつける!

 

 

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