【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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構成の都合上、今回ロボ戦のみ


#49 ロング・グッバイ 2/3

 

 少年たちの懊悩を嘲笑うかのように、事態は風雲急を告げようとしていた。

 

「さて……久しぶりだからな。肩慣らしといこうじゃないか」

 

 単身、人間界に姿を現したギャングラーの首領──ドグラニオ・ヤーブン。彼は亡きゴーシュ・ル・メドゥから取り上げたルパンコレクション"大きくなれ"の力を発動させ、たちまち天に聳えるまでに巨大化する。

 そうして世界に己の存在を主張するに飽き足らず、彼はその身から光り輝く刃を四方八方にぶち撒けた。きらきらと星のように瞬いたあと、それらはたちまち爆発を起こす。数秒前まで静かに流れていた日常は、たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった。

 

 

──その余波は、快盗たちの潜む郊外にまで伝わっていた。

 

「うそ……あれ、ドグラニオ!?」

「見りゃわかんだろ」

「いきなり巨大化してきたか……!」

 

 驚愕と焦燥……しかし、少なからず予想しえたことではあった。またどこからか飛んできたグッドストライカーなどは、横でわぁわぁと喚いているが。

 

「……クソオヤジの息子とデクが戻らなかったら、コレクションが必要だ。やるしかねえ」

「ッ、せやね……。──グッディ、力貸して!」

『うう〜ッ、怖いけどぉ……がんばる!!』

 

 気持ちは皆、同じだった。頷きあい、白身銃を手にとる。──そうして、地獄の戦場へと飛びたつのだ。

 

 

 まずもって彼らは、航空形態のままドグラニオに攻撃を仕掛けた。速攻かつ不意打ちかつ、一斉掃射。ドグラニオの反応速度がどんなにすぐれていても、これなら完全には防ぎきれないだろうという算段だった。

 しかしドグラニオは、猛火をかわそうともしなかった。ギャングラーとしては小柄な──今は巨大化しているが──身体に反して、頑丈さにおいても彼は卓越していたらしい。間隙をすり抜けていく戦闘機の群れに、杖から電撃を放って反撃する。着弾と同時に、爆発が起きる。

 

「──ッ!」

 

 操る快盗たちは、その衝撃を合体によって相殺していた。爆炎の中から鋼鉄の巨人が飛び出し、地上に降り立つ。

 

「快盗どもか」

 

 ドグラニオが感情のない声を発する。彼にしてみれば快盗が現れるのは当然のこと、ただ警察とどちらが先になるかという点だけが不確定要素だった。

 

「とにかく、金庫だ」

「まずはあの鎖を断つ……!」

 

 先手必勝とばかりに動き出す巨人──ビクトリールパンカイザー。鎖を断ち切るという目的のために丸鋸のイエローダイヤルファイターを左腕とし、バランスを保つため右腕はブルーダイヤルファイターとしている。通常より若干出力は落ちるが、それはビクトリーストライカーが補ってくれるはずだ。

 ドグラニオの迎撃を右腕で受け止めつつ、突撃する。ゼロ距離にまで迫ったところで、勢いよく丸鋸を突き出した。

 

「──!」

「やった……!」

 

 鋸が鎖を銜えて回転する。──しかし、

 

「無駄だ」

「!?」

 

 金庫を覆う鎖は、変わらずその位置で揺れ続けていた。

 

「残念だったな、俺の鎖は絶対に切れない。俺自身にもな」

『うそ〜〜ん!?』

 

 巫山戯た声を発するグッドストライカーだが、明らかに危機的状況だった。金庫を開けてルパンコレクションを回収しなければ、本気で戦うわけにはいかない。この、恐るべき強敵を相手に。

 そして黒霧の言葉通り──ドグラニオは、そこにあるすべてのコレクションの力を行使することができた。

 

「せっかくだ、コレクションの力を味わっていけよ」

 

 言うが早いか、金庫が鈍い光を放ち──彼の周囲の地面が膨れあがり、巨大な巌が浮かび上がった。それらはたちまち鋭い杭の形状をとると、一斉にビクトリールパンカイザーへと向かってきたのだ。

 

「ッ!!」

 

 咄嗟に身構える巨人……その周囲が次の瞬間、劫火へと包まれて。

 

 

「──あーらら、張り切っちゃって……」

 

 そんな言葉を発したのは、付近のビル屋上に立つ青年だった。むろん、普通の青年がこんなところにとどまっているわけがない。ソンブレロにポンチョというメキシコ風の装いはまぎれもない──ギャングラーの数少ない生き残り、ザミーゴ・デルマのものだった。長く目にしていなかった首領の本気を目の当たりにして、思わず口許が緩む。

 ただ、

 

「でも……お気に入りのオモチャ、譲る気はないって言ったろ」

 

 刹那、ザミーゴの傍らに何かが現れ──

 

 

 ドグラニオの攻撃を受けたビクトリールパンカイザーは、小さくはないダメージを負っていた。コックピットの中では、アラート代わりにグッドストライカーが喚いている。

 

『ヤバいぞコレぇ〜!?もう一発浴びたらやられちまうよぉ!!』

「わーっとるわ!!」

「で、でもどうするん!?鎖が切れないんじゃ……」

「ッ、──!」

 

 そのとき、コックピットにドグラニオとは別方向の映像が表示された。何事かと思ってみれば、

 

「ザミーゴ……!?」

「!、ねえ、あの横にあるのって……」

 

 ちょうど人ひとりをすっぽり包み込んでしまえるような、巨大な氷塊がふたつ。透明を幾重にも重ねた向こう側に、何かが閉じ込められている。よくよく目を凝らして……少年たちは、我を忘れた。

 

「焦、凍……!?」

「デク……!?」

 

 ふたりが夢にまで見た──取り戻したいもの。二年前とまったく変わらぬ姿で、彼らはそこに在った。

 

「よ、良かった……!化けの皮にされてなかったんだ」

 

 胸を撫でおろすイエロー。確かにそれは喜ばしいことだった。しかし無邪気に喜ぶことなどできるはずがない。

 

「まずい……!」

「えっ?」

「奴は我々の関係に気づいたんだ!でなければ、ふたりだけをこの場に連れてくるはずがない!!」

「──ッ!」

 

 このとき、快盗たちの意識は完全にザミーゴへ向いていた。それも無理からぬことだったけれど……今のドグラニオが、そんなものに配慮してくれるはずがなく。

 

「隙だらけだな」

 

 別のコレクションの力が発動し、朦々たる光砲が放たれる。パイロットたちは直前までそれに気づくことができず、

 

「がぁああああ──ッ!!?」

 

 ビクトリールパンカイザーは、その直撃を受けた。

 大量の火花を散らしながら、後方へと吹き飛ばされる機体。その無惨な姿に飽き足らず、追撃を仕掛けようとするドグラニオ。

 

 絶体絶命を自覚する前に、快盗たちは文字通り潰えてしまう──そう思われたとき、黄金の影が間に割って入った。

 

『──ルパンレンジャー、また動けるか!?』

「!、死柄木さん……!」

 

 死柄木弔──パトレンエックスの操るエックスエンペラーガンナー。間一髪救われた快盗たちだったが、状況が好転したわけではない。エックスエンペラーの銃撃は、コレクションの能力によるバリアでことごとく消散してしまっている。

 

「……ッ、」

 

 コントロールを取り戻し、かろうじて身を起こすビクトリールパンカイザー。しかしそのとき再び、快盗たちは見てしまったのだ──ザミーゴとデクたちが、()()場所を。

 

「──いない……!?」

 

 そう、もはやいずれの姿もその場から消えうせていたのだ。快盗たちの心は再び焦燥に支配された。

 

(デク……っ!)

 

 彼らがそうしている間にも、エックスは孤軍奮闘していた。銃撃が効かないとみるや、スラッシュに転換(コンバート)して斬撃を仕掛ける。しかし近接戦闘とて、ドグラニオはこの戦機を遥かに凌駕していた。

 

「ッ、ルパンレンジャー何してる!?戦いに集中しろ!!」

 

 事情を知らないエックスが叫ぶ。しかし快盗たちの心は戻らない。唯一の例外であるイエローがその声に反応するけれども、ドグラニオの力の前には遅きに失したと言わざるをえない。

 煌めく刃がエックスエンペラーを取り囲み……刹那、爆ぜた。

 

「ぐぁあああああッ!!?」

 

 激震とともに大量の火花が散るコックピット。堪らず倒れる機体は、美しい白銀が見るも無惨に焦げている。今の一撃で、致命的なダメージを受けてしまったことは確かだった。

 

「貴様ごときが湧いたところで、なんの意味もない。──終わりだ」

 

 再び金庫が輝き、ドグラニオの掌に光球が生み出された。それは目まぐるしく色を変えながら、鈍色の空に昇っていく。そして、雲間に吸い込まれた瞬間──

 

──目を開けていられないほどの眩い光が、世界を覆い尽くした。

 

 

「ッ、ぐ、う……っ」

 

 いったい、何が起きたのか。──ちょうど今まさにこの戦場へと駆けつけたパトレンジャーの面々は、咄嗟にパトカーの陰に身を潜めたことでかろうじて無事だった。同時に、あまりに唐突な出来事に、即座には理解が及ばないのも当然で。

 

 しかし辺り一面を覆う粉塵が晴れ……彼らは、絶望にも似た気持ちを味わった。

 

──街が、失われていた。ビルが建ち並んでいた場所はことごとくが瓦礫と劫火に包まれている。まるでインフェルノ……地獄。デストラのときと同等、いやそれすらも凌ぐ滅びの光景だった。

 

 その中央に堂々と立つのは、他ならぬ禍の主──ドグラニオ・ヤーブン。彼は周囲を一瞥すると、つまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

「ふ……今日は、こんなところか」

 

 そのまま踵を返し、自らつくり出した異次元の扉に消えていく黄金の姿。いっそ目に痛くすらあるそれは……この世界からすべての安寧を消し飛ばす、悪鬼であることに違いなかった。

 

 

 瓦礫の隙間に、血塗れたキャップ帽が落ちている。この惨禍の中にあって、その持ち主がどうなったかは容易に想像がつく。想像はつくけれども、考えたくはないだろう。

 ただ現実には、持ち主は生存していた。帽子から数メートル離れた場所に、傷だらけではありながらも五体満足の状態で倒れていたのだ。

 

「ッ、………」

 

 閉じられた瞼がぴくりと動き、ややあって緋色の瞳が露になる。途端、彼は襤褸切れのようになった身体を半ば無理矢理に起き上がらせた。

 

「クソオヤジ……、丸顔……っ」

 

 同じく投げ出されたはずの仲間の姿が、どこにもない。離れた場所に落下したか、既に目を覚まして離脱したか。

 あるいは──考えたくはない可能性は、しかし最も信憑性があった。そして自らがその二の舞にならないために、仲間を捜すこともなく彼は身体を引きずって歩き出したのだった。

 

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