【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#5 鳴らない六弦 2/3

 快盗ルパンレッドこと、爆豪勝己は苛立っていた。

 

 素の状態で、学内に一人ぼっち。仲間たちに置いていかれてしまった恰好である。ギャングラーを捜したいが、人目の多い大学で勢揃いで動くのは得策ではないという炎司の意見が発端なのだが、これについてはまあ理解できた。

 

 問題は、残留者の選定プロセスにあった。

 

──爆豪くん、罰ゲームで居残り決定ね!

──ア゛ァ!?ンだ罰ゲームって!?

──ギャングラーの情報を警察に渡しただろう、我々になんの断りもなく。

 

──どうせ理由(わけ)を話すつもりはあるまい。訊かないでおいてやるから、尻拭いも自分でするんだな。

 

(クソが……!)

 

 図星。だからこそ余計に腹立たしかった。連中は今頃、のほほんと待機中という名のティータイムにでも興じているのだろう。無論そこに混ざりたいなどとは微塵も思わないが。

 

 

 一方、切島鋭児郎もまた構内をひとりで歩いていた。こちらは当然、罰ゲームなどではない。

 

「──つーわけで、耳郎さんは狙われてた上鳴ってヤツに付いてます」

『そうか……。しかし、学生時代の耳郎くんのファンとはな』

 

 インカムの向こうで、飯田天哉が感慨深げにつぶやく。

 

「ビックリしましたよマジで!そんな有名なギタリストだったんスね、耳郎さんって……」

『うむ。音楽については俺も不案内なので詳しくは知らないが、その道では将来を嘱望されていたそうだ。だが、事故があったとかで……』

「事故……」

 

 響香とは同期の天哉であるが、本人の口から詳細を聞いたことがあるわけではない。すべては噂だ。しかし「卒業くらいはしたかった」という車内でのつぶやきは、それを裏付けているように思われた。

 

『ともかく、俺はもう少し失踪者の周辺を洗ってみる。またギャングラーが現れたら連絡してくれ』

「わかりました!んじゃ、また!」

 

 通信を終え、ふうぅと息をつく。聞き込みは続けているが、やはりめぼしい情報は得られていない。それに、警察がいるとわかっていて再びのこのこ現れるだろうか?

 

(ま、だからって諦めるつもりはねーけどな!)

 

 一刻も早く失踪者の行方を掴まなければならないのだ。響香の言葉を思い返し、鋭児郎は己を奮い立たせた。

 

──のだが、

 

 歩きだそうとしたところで、すれ違った相手と肩がぶつかる。刹那、

 

「テメェどこに目ぇつけて歩いてんだ!?」

「!?」

 

 反射的に「わりィ」と発するよりも先んじた罵声。いっそ感心すらしながら相手を見遣った鋭児郎は、それが見知ったものであることに気づいて目を見開いた。

 

「うぇっ!?きみ、ジュレの……」

「!、げっ……」

 

 ぶつかった相手は、爆豪勝己その人だったのだ。

 

──蛙の潰れたような声を発した勝己のほうはというと、戦闘の興奮冷めやらぬ状態に身を任せて因縁をつけてしまったことを早くも後悔していた。まさかよりにもよって、相手が切島鋭児郎だとは。

 

 表向きは喫茶店の店員でしかない自分がこんなところにいるのは不自然だ。案の定、相手は怪訝な表情を浮かべている。

 

「偶然だなぁ……。でも、どうしてここに?」

「……ッ、」

「!、まさか──」

 

 

「……また、野次馬?」

「は?」

 

 絶体絶命かと思いきや、斜め上の勘違いをしてくれたらしい。この大学にギャングラーが潜伏しているという噂は、確かにSNS上などで広まりつつある。

 

「まあ……そんなとこ」

 

 勝己が小さくうなずくと、鋭児郎は「やっぱりかぁ……」と頭を抱えてみせた。

 

「好奇心旺盛なのはいいけど……あんまり危ないことに首突っ込むもんじゃねーぜ」

「けっ……」

 

「余計なお世話だ」──そう言いかけて、いや待てと思い直した。こいつは堂々とギャングラーの情報を得られる立場にある。この前の炎司の言葉──"なんとかとハサミは使いよう"──を鑑みれば、ここはむしろ。

 

「……じゃああんたが守ってくれよ、ヒーローのオニーサン?」

「へっ?」

 

 ぽかんと開いた口があまりにも間抜けだった。噴き出しそうになるのをこらえつつ、勝己は続ける。

 

「だってひと目くらい見てーもん、ギャングラー」

「あ、あのなぁ……。大体、一般市民連れ回すわけには……」

「あっそ。ヒーローなのにその一般市民見捨てんの?しかも未成年を」

「うっ……」

 

 そもそも素直に退去しない時点で何を言おうと理はないのだが、"見捨てる"というひと言にひどい衝撃を受けてしまった。その時点で、鋭児郎の負けだ。

 

「わかったよ……一緒に連れてってやるから。その代わり、もしギャングラーが出たらすぐ逃げてくれな」

「アザマース」

 

 心のこもらない謝辞を受け止めつつ、鋭児郎はこの平和ボケしている──ように振る舞っている──少年に対し、半ば愚痴るようにしてギャングラーの恐ろしさを語る。

 

「マジで怖ぇんだからなギャングラーって、俺らヒーローの個性もほとんど通用しねぇし」

「だろーな」

 

 そういや、と鋭児郎は手を叩いた。

 

「きみの個性ってどんなの?見た目ハデだし、実はスゲー個性もってたり?」

 

 それは純然たる興味でしかなかった。いかに強力な個性をもっていようが、いち民間人の少年を戦力にするつもりなど毛頭ないのだ。

 しかし、返ってきたのは予想だにしなかった答だった。

 

「……無ェよ」

「へ?」

「ムコセー。なんもできねー木偶の坊ってわけ」

「あ……そ、そっか……珍しいな。でも、木偶の坊なんて言うなよ。少なくとも俺、きみの作ったメシ美味ェと思ったぜ?」

 

 それだけで十分、"何かができている"ことにはなるまいか。鋭児郎は心の底からそう告げたが、勝己は目を伏せたままだった。

 

 

 *

 

 

 

「ひと目惚れ、だったんス」

 

 上鳴青年の唐突な告白に、響香は面食らっていた。

 彼はやはりというべきかここの一回生だった。狙われる心当たりはあるかなど、思い当たることはひととおり聴取したのだが……めぼしい成果は得られず。質問の弾も切れてしまったところで、冒頭のひと言である。

 

 響香が呆気にとられて何も言えずにいると、頬をぽりぽり掻きながら青年は続けた。

 

「中坊んとき、あなたがやってたバンドのライブをたまたま見たんです。それでなんつーか、ビビッと来ちゃって……俺も、あなたみたいにギターが弾きたいって思った」

「そう……なんだ」

 

 響香の脳裏に、張り詰めた六弦をひたむきにかき鳴らしていた頃の記憶が甦る。髪と同じ黄金色の瞳──軽薄そうな外見とは裏腹に無邪気に輝いているのを目の当たりにして、響香の手は無意識に青年の手を取っていた。

 

「………」

「え、あ、センパイ……?」

 

 指を絡ませるように握られ、顔を赤くする電気。が、響香の目は至って真剣だった。

 

「……昔のウチと、同じ指してる」

「え……マジっすか?」

「うん。──ねえ、よかったら弾いてみてよ」

「!」

 

 嬉しそうにうなずくと、電気は弦に指をかけた。

 

──音が、あふれる。

 

 当初はやや躊躇の感じられた演奏だったが、次第に波が整っていく。伏せられた瞼。覗く黄金色の瞳は、真剣そのもので。

 

 響香もまた、奏でられる音色を目を閉じて聴いていた。己が警察官であることも、それが過去に自分の弾いていた曲であることも……何もかも忘れて。いまこの瞬間だけは、彼女は純粋なるオーディエンスでしかなかった。

 

 

 気づけば、あっという間に数分が経ち。電気の指が、遂に終止符を奏でた。

 

「………」

 

 静かに目を開ける響香。再び、視線が交錯する。

 

「……どう、っスかね?」

「……うん、悪くなかった」不意に悪戯っぽい笑みを浮かべ、「ねえ。あんたって結構……おバカでしょ?」

「ウェッ!?」

 

 整った顔立ちが間抜けに崩れる。が、響香は何も、貶すためにそう言ったわけではなかった。

 

「それがいいんだよ。演奏にはね、時にはおバカになることも必要なの」

「そう……なんスか?」

「そうだよ。技術は努力で磨けるけど、それは才能だから」

 

「頑張んな、上鳴。あんたなら、ウチのことなんかすぐに超えられるよ」

「!」

 

 弦から離れた電気のしなやかな指が、わずかに震える。

 

「……うっす!まだまだ背中は遠いっスけど……俺、頑張ります!」

「ふふ……」

 

 響香が笑みをこぼしたときだった。不意に、教室の扉が開かれる。

 同時に、拍手の音。

 

「……Excellent!素晴らしい演奏だったぞッ、電気!」

「!」

 

 突然入り込んできた赤毛の男性は、電気のみならず響香にとっても縁深い人物だった。

 

「高宮先生……!」

「うん、久しぶりだな響香!」

 

 ファーストネーム呼びも、馴れ馴れしいとは思わない。彼はこの音大の教授であり、響香にとって恩師でもあったから。

 

「こちらこそご無沙汰してます。相変わらず熱血キャラですね……」

「ハハッ、よく言われる!おまえも元気そうで何よりだ、国際警察に入ったんだって?」

「ええまあ。それで今日は、捜査の関係で伺ったんですけど」

「ああ、聞いてるよ。ウチの学生も何人か失踪してる、協力できることがあったらなんでも言ってくれ!」

 

 キラリと白い歯を見せてウインクする高宮。ややキザな振る舞いだが、もとがハンサムなので違和感はない。響香はまた懐かしい気持ちになった。

 

「それは置いておいて……電気の演奏、良いだろう?こいつのことは元々目ぇかけてたんだが、憧れのセンパイに聴いてもらえてプルス・ウルトラできたみたいだな!」

「ちょっ、勘弁してくださいよ先生……」

「照れなくてもいいだろ!な、響香?」

「ハハ……」

 

 苦笑していると、さらに来訪者が続いた。──鋭児郎と、彼に伴われた勝己である。

 

「取り込み中スンマセーン……」

「あぁ烈怒頼雄斗……あれ、その子ジュレの……なんでここに?」

 

 そっぽを向いてしまった当人が説明する気ゼロなので、やむをえず鋭児郎が代行する羽目になった。もっとも、「野次馬ですって」で済んでしまうのだが。

 

「野次馬って……帰らせなよ……」

「いやぁハハ……おっしゃる通りなんスけどね……」

「……まあいいや。何か有力な情報はあった?」

「あー……すいません、まだ特には」

 

 そこで高宮の存在に気づき、鋭児郎は軽く会釈した。「どうもご丁寧に!」というやや過分な返答がくるが、かといって彼ら個人については関心の埒外らしく。

 

「パトレンジャー、だったか。重要な仕事を任されているんだな!」

「ええ、まあ」

「あんな事故のせいで夢を断たれて……それでも平和のために頑張っているなんて、きみは本当に素晴らしい教え子だ!俺も誇らしいよ、うん!」電気に向き直り、「おまえもこれからは彼女を見習うんだぞ、電気!」

 

「合コンばっかり行ってないでな!」といい笑顔で叱咤され、電気は蛙の潰れたような声を発した。

 

「じゃ、俺は授業があるのでそろそろ行くことにするぜ。聞きたいことがあったらいつでも連絡してくれよッ、それじゃな!」

 

 サムズアップとともに颯爽と去っていく高宮。響香の在籍当時、授業もこんな感じで締めていたのだが……相変わらずらしい。

 微笑ましく見送る一同。──ただひとりだけ、例外があった。

 

「………」

 

 爆豪勝己だけは、疑り深い眼差しを彼の背中に向けていたのだった。

 

 

 *

 

 

 

 その後数時間に渡って警戒を続けたものの、いっこうにギャングラーが姿を見せる気配はなく。

 

 電気も合コンがあるとかで──早速高宮先生の言いつけを守っていないのはご愛嬌である──帰ってしまったので、彼を見送ったあとで鋭児郎たちもいったん本部に戻ることになった。

 

「結局出てきませんでしたね、ギャングラーの奴」

「まあ、ウチらが嗅ぎ回ってるってわかっててのこのこ現れたら間抜けもいいとこだしね。……にしても、」

 

 響香の視線がバックミラーを捉える。

 

「爆豪くんだっけ……。あんた、逆によく途中で帰らなかったね」

 

 最後までふたりに同行した勝己が、パトカーの後部座席をひとりで占領している。まさか大学に置いていくわけにもゆかず、管理官の許可を得てジュレまで送る羽目になったのだ。まったく悪びれる様子もなく、響香としては呆れるほかなかった。

 

 そのまま続く沈黙。もしや到着まで一度も口を開かないのではとさえ思われた勝己だったが、終焉の時は唐突に訪れた。

 

「なぁあんた、あの大学の出身なんだってな」

「そうだけど……」

「それがなんで警察?音楽はやめたのかよ」

「……好きでやめたわけじゃないよ。やりたくても、続けられなくなったから」

「事故っつってたな、あの熱血センセー」

 

 響香の過去について、勝己は珍しく興味をもっているらしい。終始冷たくあしらわれてきた鋭児郎としては複雑だったが、とても口を出せる雰囲気ではなくなりつつある。

 ややあって、

 

「……勿体ぶるようなことでもないか」

 

 観念したように独りごちると、響香は語りはじめた。己の過去に、何があったのか。

 

 

──激痛に苛まれる中で見た鮮烈な青空を、いまでも覚えている。

 

 当時、響香はオートバイで大学に通っていた。事故があった日も、彼女はバイクで帰宅途中だったのだ。当然、彼女は危険な運転をする性質ではない。また、過失があったわけでもなかった。

 

 ブレーキが、効かない。

 

 それは突発的な事態だった。停車どころかスピードを緩めることすらできず、焦った響香はバランスを崩してバイクごと転倒した。

 悪夢はそのあとに訪れた。折り悪く向かいから走ってきた車。その車輪が、彼女の右手に乗り上げて──

 

──う゛ぁああああああああッ!!

 

 

「……幸い、日常生活に支障がない程度には回復した。けど──」

 

 ギターの演奏のような、繊細な指遣いにはもう堪えられない。つまり響香は、ギタリストとしての生命を断たれてしまったのだ。

 

「そんな……ッ」

 

 ハンドルを握る鋭児郎の手が震える。ぎゅう、と革がつぶれる音を聴いて、響香は自嘲ぎみに笑った。

 

「そんな表情(かお)しないでよ。言ったでしょ、昔の話だって」

「それは……でも──」

 

「──なァ、」

 

 沈黙を保っていた勝己が、不意に声をあげる。

 

「それって、本当に事故?」

「へ?」間抜けな声を発する鋭児郎。

「だって変だろ、そんないきなりブレーキがかかんなくなるなんて。よっぽど整備サボってたンなら知らねーけど」

 

 鋭児郎ははっとした。助手席に座る響香の表情に拭い去れない翳が差したのを、彼は見逃さなかった。

 

「……証拠はね、何も出てこなかった」

 

 響香の答は、逆説的に"それ"を認めたようなものだった──何者かが、バイクに細工したという。

 

「ンなことされる心当たりは?」

「あるわけないよ……他人に恨まれるような生き方してきたつもりはないし。でも、ウチが無自覚なだけかもしれない……」

「怨恨ね……。そうとも限らねえんじゃねーの?」

「……じゃあ、何?」

 

 フッと、ため息を吐き出すように勝己は笑った。

 

 

「嫉妬、とか?」

 

 

 *

 

 

 

 ドアに臨時休業の札が掛けられた喫茶ジュレの店内で、快盗ふたりが仲間の帰還を待っていた。

 

「遅いなぁ爆豪くん……もう大学も流石に店じまいちゃうんかなぁ?」

「……大学によるが、21時頃まで授業をやっているところもあるようだぞ」

「えぇっ、ヤバくない……?」

「高校までと違って、フルタイムで授業があるわけではないからな」

「そうなんや……ってか詳しいね、炎司さん」

 

 炎司はふんと鼻を鳴らすばかりでそれ以上は語らなかったが、子息たちの影響だろうとお茶子は推測した。元プロヒーローとはいえ、対等に接しているこの男に自分より年長の子供が三人もいるというのは、未だに実感が湧かないが。

 

 噂をすればというべきか、前触れなくドアが開かれた。

 

「あっ、おかえり爆豪くん!」

「……おー」

 

 ふたりのいるホールを素通りし、厨房で冷蔵庫を漁る。見つけ出したペットボトルを気だるげに弄ぶ背中を見て、炎司はため息混じりに訊いた。

 

「日がな探りを入れていたんだ、成果はあったんだろうな?」

 

 今回の標的について、現状わかっていることは少ない。これまでのギャングラーに比べてよりディープに人間界に溶け込んでいるらしく、擬態した姿も判明していないのだ。

 

 ミネラルウォーターを煽ったあとで、勝己はそれに応じた。

 

「たりめーだ。奴が擬態した人間の目星はついたわ」

「おぉ~、誰なん?」

 

 カウンター越しに勝己が振り向く……舌打ち混じりに。

 

「テメェで考えろ、ブァーカ」

「ハァ!?」

 

 お茶子が呆気にとられているうちに、「もう寝る」と二階に駆け上がっていく。その間数秒、制止する暇もなかった。

 

「うわぁ……拗ねてる」

「まったく……」

 

 

 *

 

 

 

 一方、警察戦隊の面々もふたりとひとりに分かれて行動していたわけだが、こちらは正当な分業である以上後者が臍を曲げるはずもない。

 

 タクティクスルームにて、三人は今日の捜査結果について共有を行っていた。

 

「失踪者の自宅や関係先を回れるだけ回ってみたが、残念ながら確たる物証は出てこなかった」

「そう……まあ、相手はギャングラーだしね」

 

 ルパンコレクションの能力を利用して犯行を行っているのであれば、それも致し方ないと響香。

 ただ、天哉の報告には続きがあった。

 

「いや、手がかりがまったくなかったわけではないよ。──失踪者全員に、ひとつ共通点があったんだ」

「共通点?」

 

「さる人物との関わりだ」と、天哉。

 

「その男はきみたちが赴いた音楽大学の教授だ。仕事であったり、学生であればその男の講義を履修していたりと……なんらかの形で、接触があった可能性がある」

「!、それって……誰なの、一体?」

 

 かの音大の教授──その肩書きから彼女がまず連想したのはたったひとり。まさかと思っているところに、ジム・カーターがその男の顔写真をプロジェクションマップに映し出した。

 

 

──高宮、だった。

 

「……!」

「この人って……」

「ムッ、知り合いなのか?」

 

 知り合いどころか、響香の学生時代の恩師だ──鋭児郎がそう説明すると、流石に天哉も驚いた様子だった。

 

「そうか……しかし、まさかそんな人が──」

「ちょっと待ってよ!」響香が声を荒げる。「高宮先生は学生想いで、指導熱心で……大体、ちゃんとした経歴もある人だよ!?それがギャングラーなわけ……」

「お、落ち着け耳郎くん。その高宮という教授がギャングラーだとまでは言っていない、ただ参考人として浮上したというだけだ」

「でも……!」

 

 響香を宥める天哉。同期として付き合いの長いふたりだが、こんな逆転現象は初めてのことだった。

 

「飯田くんの言う通りだ」

 

 黙って隊員たちのやりとりを聞いていた塚内管理官が、初めて口を開いた。

 

「いずれにせよ、調べてみる必要はある。──ジム、高宮の身元を示す資料を集めてくれ。ギャングラーの擬態であるなら、不自然な点が見つかるかもしれない」

『了解しました!』

 

 早速動き出すジム。彼の電子頭脳は国際警察のネットワークに接続されており、蓄積された膨大なデータを収集することができる。

 

「そしてきみたちには、明日から高宮の周辺を洗ってもらいたいが──」

「………」

「納得できない者は外れてもらって構わない。……捜査に、私情は禁物だ」

 

 冷たく響く、管理官の命令。それは明らかな正論である以上、何者にも口を挟む余地はなかった。

 暫し立ち尽くしていた響香は、ややあって深々と頭を下げた。

 

「……少し、考えさせてください」

 

 そうとだけ告げて、ひとり部屋を出ていく。追いかけようとした鋭児郎だったが、それを天哉が制止した。

 

「いまはひとりにしてあげよう。彼女もプロだ、自分で判断するしかない」

「……そう、っスね」

 

 ただしそのための猶予は、そう長くはない──それは響香自身、よくわかっていることだった。

 

 

 

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