【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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場面転換の嵐


#50 七番目の空 1/3

 

 爆豪勝己は、たった独りでザミーゴ・デルマに挑んでいた。

 

「ハハハハっ、ハハハハハ!!」

 

 心底愉しげな笑い声を発し続けながら、氷銃を連射し続けるザミーゴ。対する勝己──ルパンレッドは絶えず室内を駆け回りながら、間一髪のところで氷弾をかわしていく。すぐ背後で氷が拡がる気配とともに、冷たい風が強化服越しに肌を刺す。それは敗北の臭気そのものだった。

 

「ハ、──オラァ!!」

「!」

 

 傍にあったテーブルを蹴りつけ、凍った床を滑走させるザミーゴ。向かってくるそれに一瞬気をとられたレッドだが、致命的な隙を生む前に彼は動いていた。自らもスライディングの要領で氷上を滑り、あえてテーブルへと向かっていく。その隙間をすり抜け、一挙ザミーゴへ接近したのだ。

 

「死ねぇ!!」

「ぅおっと!」

 

 殴りかかるレッド。しかしザミーゴはそれを容易くいなすと腕を掴み、異形の力でそのまま投げ飛ばした。

 

「ぐッ……──らぁ!!」

『ビクトリーストライカー!1・1・1──ミラクルマスカレイズ!』

 

 装填したビクトリーストライカーのダイヤルを回したところで、ザミーゴは容赦のない追撃を仕掛けてくる。態勢を崩してしまった今の自分にはかわしきれない──そう判断したレッドは、咄嗟に傍にあった椅子を足払いで蹴り飛ばし、盾とした。果たして弾丸はそちらに命中し、かえって目眩ましの役割を果たしてくれた。

 

 彼が氷塊を飛び越えて跳躍したときには、彼はスーパールパンレッドへの変身を遂げていた。マントを翻し、銃撃を仕掛ける。

 

「!!」

 

 それは見事、命中をとった──しかしザミーゴはその瞬間、三つ目の金庫を光らせていた。液状化が発動し、弾丸はその身をすり抜けてしまう。

 

「ハハハ……、ざ〜んねん」

「ッ、クソが……っ」

 

 コレクションを奪えない限り、勝利の糸口は掴めない──

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、飯田天哉・耳郎響香は変身し、戦場へと飛び込んでいた。とはいえ敵はことごとく巨大化していて、迂闊に手出しできない状況なのだが。

 

「くっ……切島くんたちはまだか!?」

「グッドストライカーも来ない……。ッ、しょうがない、ウチらだけで──」

 

 覚悟を決めて、ふたりがトリガーマシンを出撃させようとしたときだった。

 

「──飯田、耳郎っ!」

「!」

 

 振り向けば、駆けつける鋭児郎──パトレン1号、そしてパトレンエックスの姿も。後者の手には、求めていたグッドストライカーの姿があって。

 

「……悪ィ、遅くなった!」

Moi aussi(右に同じく)、グッドストライカーの修復に時間がかかってね」

『ドグラニオには吹っ飛ばされたけど、ポーダマンなんかに敗けるかよぉ〜!』

 

 昨日の鬱憤が溜まっているのか、いつも以上に意気軒昂のグッドストライカー。ならばあとは、人間たち次第だ。

 

「──いくぜ……!」

 

 脳裏で浮沈を繰り返す友の姿を強引に押し込めて、1号はVSチェンジャーにサイレンストライカーを装填した。仲間たちもまた、それに続き──

 

 

──数秒ののち、戦場に二機の巨人が立っていた。サイレンパトカイザーに、エックスエンペラーガンナー。破壊の限りを尽くしていたポーダマンらの視線が、彼らに集中する。

 

「こんなヤツらに時間はかけねえ、とっととカタぁつける!」

「「「──了解!」」」

 

 弔も含めた仲間たちから返答があって、彼らは即座に動き出した。ポーダマンの銃撃をいなしつつ、エックスエンペラーが砲撃を見舞い返す。

 そしてサイレンパトカイザーは一挙に跳躍し、クレーンとバイカーの両輪で伸縮自在の攻撃を仕掛ける。

 

 果たしてそれらはグッドストライカーの言葉通り、ポーダマン相手には強烈すぎる猛攻であった。一発、一発と炸裂するたびに、その数は確実に減っていく。

 そうしてある程度の余裕ができたところで、彼らは一挙に勝負に出た。

 

「「「「──サイレンガンナーストライクっ!!」」」」

 

 二大巨人の一斉掃射が同時に炸裂し、その膨大なエネルギーに呑まれたポーダマンの群れは跡形もなく消滅していく。そうして街は、惨禍のあとを残しながらも静寂を取り戻した。

 

「任務……完了」

「………」

 

 言葉とは裏腹に、四人の心にはひとときの安寧も訪れはしない。糸を引いているギャングラーの首領がどう動くか……そして、快盗たち。今このときは、彼らパトレンジャーにとっても苦しい局面に違いないのだった。

 

 

 *

 

 

 

 意識を取り戻した麗日お茶子が目にしたのは、染みひとつない無機質な天井だった。

 

「ここは……──ッ、」

 

 痛みと倦怠感の残る身体を起こし、周囲を見やる。隣のベッドには炎司の巨躯が横たわっていて、さらにその向こう側は分厚いガラスで覆われている。

 まさか、と嫌な予感を覚えていると、がちゃりと扉が開いた。

 

「目が覚めたか」

「!、あなたは……」

「国際警察だ。おまえたちを拘束──」

 

 そのときだった。担当官がうっと声をあげ、その場に倒れかかったのは。

 

「……迂闊に身を起こすな」

「!、え、炎司さん……」

 

「行くぞ」──差し伸べられた手を、お茶子は躊躇なくとる。そして病室、ひいては病院をも抜け出したのだった。

 

 

 *

 

 

 

「悪い、切島くん。こんなときに付き合わせて」

 

 庁舎への帰途、弔は鋭児郎だけを呼びとめていた。冷たい風が、向き合う青年たちに絶えず吹きつけている。

 

「いいよ、おめェの頼みなら」笑顔でそう応じつつ、「でも、話ってなんだ?」

 

 一瞬、逡巡めいた表情を浮かべる弔。今となってはそれだけで、彼が"快盗側"として何かを請おうとしていると鋭児郎にはわかる。だからといって、耳を塞ぐつもりはなかったが。

 ややあって、

 

「……俺がこれから頼むのは、きみたちを危険に晒すようなことかもしれない。でもきみたちにしか、頼めないんだ」

「………」

 

 鋭児郎の拳に、力がこもった。

 

 

 *

 

 

 

 がしゃんと、ガラスの割れる音が響く。

 積み上げられた書類が風によって飛ばされ、床が瞬く間に白で荒らされていく。

 

 警察戦隊のタクティクス・ルームに、賊が侵入していた。青い燕尾服に身を包んだ大男と、黄色と黒のドレスを纏った少女。彼らにとっては幸いなことに、部屋には誰もいなかった。今のうちにと、手当たり次第デスクを漁っていく。

 

「ほ、ほんとにこんなとこ入っとんのかな……?」

「前に死柄木が話していただろう、パトレンジャーの連中は証拠品の管理が甘いと」

 

 いちおう引き出しに鍵はかかっているが、彼ら快盗にしてみればそんなものは目印にしかならない。ダイヤルファイターを押し当てて一瞬で解錠することができるのは、今さら言うまでもあるまい。

 

 しかし彼らにはひとつ、誤算があった。

 

「──病院を抜け出して、VSチェンジャーを捜しに来たのか?」

「……!!」

 

 捜しはじめて間もないうちに、開く扉。そして姿を現したのは、VSチェンジャーを構えた飯田天哉と耳郎響香だった。

 

「飯田、さん……っ」

「……麗日くん、おとなしく病院へ戻るんだ」

「………」

 

 答は、決まっていた。

 

「……できません」

「麗日くん……っ!」

「ザミーゴ倒せばっ、爆豪くんと炎司さんの大切な人が戻ってくるのっ!!」

「それはきみの願いではないだろう!?」

「私の願いだよ!!……もう。……ふたりの笑った顔、見たいから……!」

「……ッ、」

 

 言葉に詰まった天哉と入れ替わるように、響香も口を開いた。

 

「……その傷で戦うつもりですか?──そんなのっ、死ににいくようなもんだぞ!?」

「だから行くんだ!!」劫火のような叫びだった。「俺たちより余程自分を顧みない奴が今、独りで戦っているんだ……!」

「仲間を、死なせたくないの……!そのためなら、なんだってするのっ!!」

 

 グリップを握る手に力がこもるのを、天哉は自覚した。──今の彼女たちに、どんな自分たちの言葉も届かない。そうとわかるのはそれが、彼女たちの意志が普遍的なものだから。

 

 だから今──自分たちの力では、彼女たちを救えない。

 

「………」

 

 傍らのデスクに、ふたつのVSチェンジャーが置かれた。

 

「……持っていけ。ウチらも……見殺しにはしたくない」

「逆の立場だったら……僕もきっと、走っていた。それが過ちだとわかっていても……。だから今、僕はきみたちの背中を押す……!警察官ではなく、ひとりの人間として……っ」

「……ありがとう……」

 

 VSチェンジャーを手にしようと伸びる手に、震える大きな手が重なった。

 

「!」

「……二年前に、出会いたかった。そうすれば、きみがこの手に銃を握るより前に、力になってあげられたかもしれないのに……っ」

「……飯田さん……」

 

 彼の手の上にさらに手を重ねると、お茶子はそれをそっと握り込んだ。

 

「飯田さんの望んだ結果じゃないかもしれないけど……それでも私、飯田さんに救われたよ。……ありがとう」

「……ッ、」

 

 手と手が離れ、彼らは再び快盗と警察に戻る。もう二度とこの手が触れあうことがなくとも、笑いかけあうことがないとしても。

 

「三人で、生きて帰ってきてください……必ず」

「……きみたちも」

 

 互いの無事を祈りあい──彼らは再び、道をたがえた。

 

 

 *

 

 

 

 ルパンレッドとザミーゴ・デルマの死闘は、終始後者の有利に運んでいた。

 

「ハハハ、ハハハハっ!!」

「ッ、クソが……っ」

 

 こちらの攻撃はすべてすり抜け、敵の攻撃ばかりが命を削らんと迫る。一発が掠りでもすれば、その時点で氷漬けの未来が待っている。何も為せない、昏く閉ざされただけの未来が。

 だから勝己はルパンレッドとして、全力で足掻いた。壁に叩きつけられても、間近で銃を突きつけられても。

 

「どうした、もう終わりか?」

「がぁあああああ────ッ!!!」

 

 氷銃を振り払い、殴りかかる。もはやザミーゴは液状化を発動させることもなくそれをいなすと、彼を力いっぱい殴り飛ばした。

 

「ぐぁ……ッ!?」

 

 吹き飛ばされ、凍りついた床を転がるルパンレッド。既に彼の体力は限界を迎えていた。変身が解け、爆豪勝己の姿が露になる。

 

「ッ、……ぐ……っ」

「ハハッ……」

 

「──アディオス?」

 

 銃口が向けられ……いよいよ勝己の運命に、終止符が打たれようとしていた。

 

──刹那、天井が破砕され、無数の弾丸が部屋に降りそそぐまでは。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に身体を液状化させつつ、後退するザミーゴ。ほとんど反射的な行動だったが、それゆえ彼は勝利を掴みそこねた。落下してきた瓦礫により、彼らは完全に分かたれることとなったからだ。

 

「──勝己っ!!」

 

 名を呼ぶ太い声とともに、ふたつの影が空から降りてくる。駆け寄ってきたそれらは、それぞれ青と黄に彩られていて。

 彼らは勝己の両脇を抱え、素早くこの戦場を離脱していく。瓦礫の僅かな隙間から、ザミーゴはその様を目の当たりにしていた。

 

「ひゅう……どこまでも、愉しませてくれる」

 

 人間態に戻った彼の表情は、言葉通りの笑みに染まっていた。

 

 

 *

 

 

 

「勝己っ……大丈夫か?」

 

 どこか切羽詰まった低い声が降ってきて、危機を脱した勝己の胸に戸惑いが広がった。

 

「てめェら……なんで、」

 

 訊いた途端、お茶子の手が頬を引っ張る。「何しやがる」とがなるより早く、彼女は口を開いた。

 

「誰が倒れても残ったひとりが願いをかなえれば良い、なんて……そんな約束、クソっくらえだよ!」

「ここまで、三人でやってきたんだ。……今さら置いていくな」

「ってか、置いてかれても着いてくし!」

「お前ら……」思わず笑みがこぼれる。「どいつもこいつも……俺のこと大好きかよ。きっめェ」

 

 つられて笑うふたり。罪過の清算のための日々で、しかし彼らが紡いできた絆は本物だった。それぞれの願いはいつしか混ざりあい、決して分かつことのできないものとなっている。──ならば最後まで、全員で成し遂げるべきなのだ。

 

 立ち上がろうとする勝己を、すかさずふたりの手が支えてくれた。勝己もまた、彼らの手を引っ張り返す。そして再び、VSチェンジャーを手にとった。

 

「今日こそ絶ッ対、ザミーゴ倒して──」

「大事なものを取り戻す……!」

「そんで、最後にみんなで笑いあおう!」

 

 三つの銃身が触れあい、かたりと澄んだ音を奏でる。──そのときだった。傍らから、形状の異なる"四つめ"が差し出されたのは。

 

「三人じゃなくて、四人だろ?」

「!、死柄木……」

 

 白銀の衣装に身を包んだ彼もまた、今ではかけがえない同志に違いない。そして彼は自分たちと異なる立場ゆえ、異なる方向から突破口を切り開いてくれる。

 

「ザミーゴを倒すための秘策を持ってきた。褒めたたえるが良いぜ、諸君?」

 

 そう言って、弔は悪戯っ子のように笑った。

 

 

 *

 

 

 

「──クレーンとバイカーを死柄木に渡しちまいました!すんませんでしたっ!!」

 

 威勢よく声をあげて、鋭児郎はがばりと頭を下げた。

 塚内管理官とジム・カーターが、その姿を困り果てた様子で見下ろしている。

 

「……まったくきみといい、そこの飯田・耳郎両名といい、最後の最後で好き勝手やってくれるな……」

「面目次第もございません……!処分は覚悟のうえです!!」

「処分は部下の管理がなっていない管理官にも及ぶんだが?」

「ううっ……申し訳ありません、本当に……」

 

 すっかり萎びた声をこぼす天哉を認めて、塚内はくすりと笑った。

 

「……やれやれ。ま、クビになったら切島くんに養ってもらうか」

「うぇッ、俺っスか!?」

「だってきみ、俺たちと違って無職にはならんだろう」

「そ、そうっスけどぉ……あっ、じゃあこういうのはどうっスかね!?俺ら全員で喫茶店開くんス!俺はまあ副業って形になっちゃいますけど、烈怒頼雄斗プロデュースってことで!ウチの事務所にも出資してもらって!」

「はは、いいねそれ」響香が同調する。

『あのぅ……それって私はどうなるんでしょう?』

「あっ……」

 

 ジム・カーターの瞳が冷たく光り、気まずい沈黙に包まれる室内。──直後にパトランプが警報を鳴らしたのは、彼の感情を表したものではなかった。

 

『!、朝比奈地区にドグラニオ・ヤーブンと大量のポーダマンが出現との報告です!あ……半径1キロが既に壊滅状態だと……』

「ッ!」

「………」

 

「俺たちがどんな未来を語ろうと……ドグラニオを倒さない限り、それは永遠に訪れない。──切島くん、飯田くん、耳郎くん」

 

「今は、きみたちにすべてを託す」──その言葉に、三人は力強く頷いた。

 

 

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