獲物を仕留めそこねたザミーゴ・デルマだったが、取り逃がしたとは思っていなかった。
「おぉぉーい、出てこいよルパンレンジャー!タイセツナヒトが化けの皮になっても良いのかなァ!!?」
こう叫べば、彼らは飛び出してこざるをえない。卑劣とは思わなかった。あの氷塊の中の少年たちは釣り餌にすぎず、戦闘において人質にしようというわけでもないのだから。
「──させるわけねえだろ」
果たしてそれは、かの少年のものとしては落ち着いたよく通る声だった。
振り返るザミーゴ。──建物の上に、四つの人影が立っている。赤、青、黄──白銀。
「さあ、決着の続きだ……!」
「おいおい……四匹に増えてるじゃんか」
「あいにく、正々堂々にもう興味はなくてな」
「俺ら、快盗だからなァ」
「きょうこそ……
これ以上はないほどの闘気を漲らせる快盗たちの姿に──ザミーゴの昂奮もまた、最高潮へと達しようとしていた。
「ハハハハッ!いいぜ……まとめてかかって来な!!」
言われるまでもない。勝己は血に濡れたレッドダイヤルファイターを滑り落とさぬよう、その手でがっちりと掴んだ。
そして、
「「「「──快盗チェンジ!!」」」」
『レッド!』
『ブルー!』
『イエロー!』
『0・1──0!』
『2・6──2!』
『1・1──6!』
『マスカレイズ!』
『Xナイズ!』
──快盗、チェンジ。
そして彼らは再び、仮面の快盗へと変身を遂げて。
「ルパンレッドォ!!」
「ルパンブルー……!」
「ルパンイエロー!!」
「ルパン、エックス!」
「「「「快盗戦隊──ルパンレンジャー!!」」」」
「予告する。背中のお宝いただいて──」
「貴様を倒し……!」
「大事な人を取り戻す!」
「──ファイナルゲーム、スタートだ!」
コンクリートを力いっぱい蹴り、跳躍するルパンレンジャー。ザミーゴもまた怪人態へと変身し、氷銃を構える。「派手に遊ぶ」──彼の願いはただそれだけで、快盗たちのそれとどちらが劣るというものでもない。
趨勢を決するのは最初から、力だけだ。
*
街を焼け野原へと変えながら、ドグラニオ・ヤーブンは我が物顔での闊歩を続けていた。背後に大量のポーダマンを引き連れているとはいえ、その地獄はほとんど彼独りによってつくり出されたものである。
さありながら、彼の衝動は収まるところを知らない。なぜならその視界に映るのは、一面整然と保たれている街だからだ。破壊と殺戮を続け、やがて前後左右すべてが紅蓮へと染まらぬ限り、彼は止まることがない。
──ならば、同じ力をもって止めるしかない。
「動くなッ、ドグラニオ!!」
「………」
駆けつけた若者たち。身のこなしこそ鍛えられてはいるが、彼らは正真正銘、ただの人間でしかない。うち一名がヒーローと呼ばれるこの世界の守護者で、一般人よりは多少図抜けているとしても、ドグラニオには関係のない話だった。
「国際警察だ……!」
「言われんでももう知ってる。性懲りもなく正面から来るとは、俺を倒す秘策でも見つけたか?」
「そんなもの、あろうがなかろうが関係ない!!」
「ギャングラーの殲滅が、ウチらの使命だからな……!」
「相手が誰だろうが……怯まねえッ!!」
青年たちの叫びに、ドグラニオは碧眼を冷たく光らせた。自分を相手に、これだけの啖呵を切ったのだ。
「愉しませてもらおうか」
──そうでなければ、絶対に許さない。
ドグラニオの無言の号令を受けて、ポーダマンの群れが一斉に向かってくる。対する鋭児郎たちは一片の恐怖すら露にすることなく、切札たる魔具を構えた。
「「「警察チェンジっ!!」」」
『1号!』
『2号!』
『3号!』
『パトライズ!』
──警察、チェンジ。
銃口から放たれた光が、三人の身体を装甲に包み込む。それと時を同じくして、彼らは戦闘状態へと突入した。
「国際警察の権限においてッ、実力を行使する!!」
勇ましい口上を叫びながら拳を振るい、引き金を引く。彼──パトレン1号ばかりではない、2号と3号もそうだ。彼らは良くも悪くも後先を考えない。これ以上の被害を出さないために、ポーダマン相手にも全力で立ち向かう。
そうして今まで、勝利を掴みとってきたのだ。
「烈怒頼雄斗ッ、安無嶺過武瑠!!!」
全身を限界まで硬化させると同時に、敵の群れへと突進を敢行する。強化服の下の巌がごとき皮膚は、容赦なくポーダマンを弾き飛ばしていく。
「流石だ、切島くん!」天哉が声をあげる。「個性は使えないがッ、俺も負けてはいられない!!」
そのぶんだけ純粋に高めた身体能力。たとえヒーローの夢を断たれても、彼の心根が変わることはなかった。その果てが今、こうして深緑の戦衣を纏う英雄だ。──平和の守り手として、自分は兄にだって負けていない!
そしてそのすぐ隣で、響香も自身の個性を振るっていた。イヤホン状の耳朶をしならせて敵に接触させ、自身の心音を最大音量で流し込む。人間より五感の敏い彼らは、それだけで神経を破壊されて昏倒してしまう。同時に彼女は、別の敵に対して銃撃を繰り出していた。
「やるな耳郎、いつもながら器用だぜ!」
「褒めなくて良いから、仕上げるよ!!」
「おうよッ!!」
躊躇なく3号の腰に手をかけ、その身を持ち上げる1号。ぐるりとその場で回転しながら、彼女はVSチェンジャーを掃射する。そうして、残るポーダマンは完全に殲滅された。
「っし……!」
「あとはドグラニオ、貴様だけだッ!!」
「フ……、」
ポーダマンを全滅に追い込まれるまでは想定の範囲内だったのだろう、ドグラニオは悠然と構えたままでいる。腹立たしいことだったが、鋭児郎たちにとっても本番はこれから。──絶対に、倒す。
「うぉおおおおお──ッ!!」
雄叫びとともに、パトレンジャーは駆け出していった。
*
ルパンレンジャーとザミーゴ・デルマの対決も、最高潮を迎えていた。
「うぉらあぁぁッ!!」
雄叫びをあげ、ザミーゴに飛びかかるスーパールパンレッド。その構図自体は先の戦闘と変わらないが……最大の違いは、標的を取り囲むように仲間たちが布陣しているということだ。液状化のために相変わらずこちらの攻撃は通じないが、ザミーゴの意識は明らかに散漫となっている。
あとは、
(
それとて無敵の力でないことは、既にわかっている。無駄のようでもあきらめず、攻めて攻めまくる。そこに勝機があるというのが、口に出して共有するまでもないルパンレンジャーの統一見解だった。
「ハッハァ!!」
一方で、狙いも定めず氷銃を乱射するザミーゴ。敵が四人もいる以上、定める必要もないというのが彼の考えで。確かにそれは的を射ていて、何十発目かがエックスの軌道と掠った。
「!!」
まずひとり──確信するザミーゴだったが、氷弾がその軌道に乗るより早くルパンブルーが割り込んでいた。"ヘルフレイム"──浄めの焔にふさわしからぬ名を与えられた彼の個性が、氷を一瞬にして融かし尽くす。
「っとと……Merci、さっすがエンデヴァー」
「礼は要らん」
一方のザミーゴは、ひゅうと口笛を鳴らしていた。よもや、ヒト由来の力が自身のそれに打ち勝つとは。氷と焔という、相性の問題はあれど。
そちらに注意を惹きつけられたザミーゴは、背後から迫るルパンレッドへの対処に出遅れた。
「おらァッ!!」
「!」
振り向くと同時に銃を突きつけたのが禍した。持ち手を力いっぱい蹴りつけられ、衝撃で銃が宙を舞う。それを、レッドの手が掴みとった。
「ッ、……なんのつもりだ?」
「はっ、コイツなら液状化できねーだろ?」
液体は凍る──シンプルな発想だったが、まぎれもない図星だった。初めて舌打ちを洩らしつつも、ザミーゴはレッドと距離をとるべく走り出す。
「無駄だっつの……!」
そこで、ビクトリーストライカーの固有能力を発動させる。ザミーゴの進行方向を先読みし、氷弾を撃ち込む。──勝った!
しかしザミーゴは、事ここに至ってもなお一枚上手だった。
「うぉっと!!」
もうひとつ銃を生み出して地面に弾を撃ち込み、氷上をスライディングで滑走する。予知しきれなかったその動作のためにレッドの氷弾はあとわずかのところで彼を素通りし、
「あ──ッ!?」
「!、丸顔ッ!?」
そこには、イエローがいた。慌ててかわそうとする彼女だが一歩遅く、彼女は氷像へと成り果ててしまった──
「ハッハァ、残念だったなァ!!」
「ッ!?」
レッドが動揺した瞬間を、文字通りザミーゴは狙い撃った。三つ目の氷銃を金庫から生成し、二丁で仕掛ける。すんでのところでかわすレッドだが、この氷魔は追撃の手を緩めることなく肉薄してきた。
「ハハハ……凍らせちゃうよォ?」
「ッ、クソ、がぁ……ッ」
互いに氷銃をもっているとはいえ、数で勝り、使い慣れているザミーゴに軍配が上がるのは目に見えている。万事、休すか──
「──なんてなァ」
「!」
レッドの声色が変わるのと、彼の持つ氷銃が鈍い光を放つのが同時。はっとしたザミーゴが振り返ったときには、氷の中にいたはずのイエローが間近に迫っていて。
『3・3──5!』
「ッ!」
ダイヤルファイターを押し当てられ、暗証番号を読まれる。抵抗しようとするザミーゴだったがふたりに至近距離で挟み込まれていること、両手が塞がっていることが災いし、彼の行動は大きく制約されてしまっている。
そして、
「──ぶっ飛べッ!!」
麗日お茶子渾身のストレートが炸裂──ザミーゴは台地から吹き飛ばされ、墜落していく。それを見下ろすイエローの手には、手裏剣のような形をした紺碧の結晶が握られていた。
「ルパンコレクション、いただき〜ッ!!」
「っし、よーやった。……麗日」
「えっ、なんて!?もっかい、もっかい言って!」
「チョーシ乗んな丸顔!!」
ともかくも、彼らは敵を追って地上に降り立った。仰向けに寝転んでいたザミーゴだったが、白旗を揚げたわけではない。勢いをつけて身を起こすと、またしても口笛を吹いてみせる。
「へえ、銃に解凍能力があることまで見抜いてたってワケか。流石、やるねえ」
「ホンット、愉しませてくれるなァ」と笑うザミーゴ。相変わらず余裕ぶっているのは癪に障るが、態度がどうであれ現実は変わらない。
「これでもう液状化はできん」
「いよいよてめェをブッ殺すだけだ」
決着のとき。快盗たちが、それぞれの全力を発揮しようとしたときだった。
「ぐぁああッ!?」
「!」
爆炎に塗れて、吹っ飛ばされてきた三つの影。地面を転がった全身装甲は、光が散るように"中身"の姿を晒した。
「切島ッ!?」
「!、爆豪……!」
彼だけではない、パトレンジャーの面々が全員。一瞬呆けてしまった彼らは、刹那、冬に似つかわしくない熱い疾風を感じた。
──ルパンエックスが走り出したのは、その直後だった。
「がぁああ──ッ!!」
「死柄木!?」
飛んできた光砲に、一瞬で呑み込まれるエックス。それは元々鋭児郎たちを狙ったものに他ならなかった。彼が割って入らなければ、生身の三人は影さえも残らず蒸発していただろう。
代償としてエックスの変身は解除され、傷ついた弔が警察とともに転がることになったのだが。
「ッ、ぐ……」
「──おや?ザミーゴに快盗どもじゃないか」
小柄な体躯に比して、重々しい足音。そこに鎖が擦れる音が重なって、さらに禍々しく響き渡っている。
「……ドグラニオ……!」
ギャングラーの首領、ドグラニオ・ヤーブン──よもやこの時機にと、快盗たちはぎりりと歯を鳴らした。
しかしこのときばかりは、ザミーゴの感情も彼らと一致していた。
「おいおい……せっかくルパンレンジャーだけ誘い出したってのに、ハァ……しょうがない」
畏怖など微塵も窺わせず、黄金の首領と対峙するザミーゴ。いよいよ叛意を露にするのか、それとも──と思われたそのとき、彼は皆が思ってもみないことを口にした。
「なあ、ボス!──あんたの金庫に、オレを入れてくれよ」
「な……!?」
「ッ!?」
「──ほう、」
ただ独りドグラニオだけは、「そう来たか」とでも言いたげな声を発したのだが。
「ッ、てめェ……逃げんのか!!」
「ハァ?サムいこと言うなよ。誰にも邪魔されずにお前らと決着つけたいからに決まってんだろ……!」
それは普段の彼からは想像もつかない、肚の底から出でた声だった。その本気を、誰もが感じとらざるをえない。ドグラニオも、また。
「良いのか?金庫に入ってしまえば、俺が開けてやらん限り外には出られんぞ」
「そんなの大した問題じゃない。オレはただ、心ゆくまであいつらと戦いたいんだ……!」
今のザミーゴには、それしか見えていない。生まれて初めて覚えた燃え滾るような情熱。──火をつけられたのだ、快盗たちに。決して融けることのない氷塊の奥底にまで。
(……この、男もか)
炎司はそこに、今は亡いも同然の我が子の姿を見た。紅蓮に染まった心はもう、元には戻らない。その果てにあるのは栄耀か破滅か、ふたつにひとつ。
「ふ……己の自由までも賭けてみせるか。──良いだろう」
首肯いたドグラニオの金庫から、まるで生物のようにしゅるりと鎖が外れ──開く。果たしてその内部はブラックホールのように渦巻く暗闇が広がっていてください
「サンキュー、ボス。……さあ来い、ルパンレンジャー」
吹きつける突風に引き寄せられ、吸い込まれていくザミーゴ。招かれたルパンレンジャーの答は、
「受けて立ってやらぁ……!」
「ッ、駄目だルパンレンジャー!!」引き止める弔。「ドグラニオも言っただろッ、あの中に入っちまったら、もう……!」
「だからって、ザミーゴ放っとけないでしょ!」イエローが言う。
「貴様は世界の平和も守るんだろう。……後は託したぞ」これはブルー。
「……ッ、」
止める術を失った弔は、黙ってトリガーマシンを差し出した。それを受け取り一歩を踏み出す彼らに、今度は鋭児郎が「待てよ!!」と制止の声を発する。──果たして彼らは、確かに足を止めはしたのだけれど。
「……ん、」
「!、おい、これ……?」
差し出されたオブジェクトに、鋭児郎が言葉を失うのも無理はなかった。──それはビクトリーストライカーをはじめとした、彼らが命より大切にしていたはずのVSビークルの数々だったのだ。
「快盗……ッ」
「──アデュー、パトレンジャー」
そう、今度こそ別れを告げて。──ルパンレンジャーもまた、ドグラニオの中へ飛び込んでいく。
呆然と見送る四人の前で金庫は閉じられ、再び鎖に覆われた。ゆえにもう、伸ばした手は届かない。