ドグラニオの金庫の中へ突入したルパンレンジャー。彼らの前に広がる景色は、まるでスライドショーのように目まぐるしく変わっていく。彼自身がつくり出した地獄のような瓦礫の山かと思えば、何もないまっさらな砂漠へ。それが打って変わって宇宙や海の底と化し、地表が緑に覆われていく。
そうして最後には、彼方まで続く草原が快盗たちを包み込んでいた。
「……これが、ドグラニオの体内なのか」
「!、ねえ、あれ……」
イエローが指差した先……虹色に染まる空に、大小様々なオブジェクトが浮かんでいる。いずれも特徴的な、既視感のある形状。
「まさか全部、ドグラニオの持ってるルパンコレクション……?」
「チッ……」
目の前にこれだけの宝をぶら下げられていて、どうにもできないというのは口惜しいものがある。少なくとも、勝己が悪癖である舌打ちを洩らす程度には。
とはいえ彼らの標的は、言うまでもなく別だ。
「ようこそ、ルパンレンジャー」
「!」
先に侵入を果たしていたザミーゴが、ゆったりとした足取りで歩いてくる。
「これで誰にも……ドグラニオにも邪魔されず、最後まで戦える」
「はっ……そりゃあ、サイコーの舞台だなァ」
勝つか敗けるか。──願いがかなうか、かなわないか。もはや撤退はありえない、どちらかが斃れるまで戦うのだ。
「──いくぜ」
互いに構えた銃が、決戦の火蓋を切って落とした。
一方、彼らを体内に抱えたドグラニオ・ヤーブンは、金庫をするりと撫でてつぶやいた。
「さて……俺も、俺のやりたいことをするとしよう」
「……!」
平凡にも思える言葉は、しかし新たな惨禍を予期させるもので。──ならば傷ついたパトレンジャーには、再び立ち上がるほかに道は残されていない。
「させるわけ、ねえだろ──ッ!!」
『パトライズ!警察チェンジ!』
その身に強化服を纏い、ドグラニオの背中を追って走り出す──
「──ハハハハハァッ!!」
これ以上ない歓声をあげながら、ザミーゴの望んだ死闘が始まっていた。彼の周囲を快盗たちが縦横無尽に飛び回り、攻撃を仕掛ける。液状化能力は既になく、それらの回避にも気を遣わねばならない。しかし背中の金庫にいちいち注意を払う必要がなくなり、彼は開放的な気分を味わっていた。ルパンコレクションがそれひとつで強大な力を発揮することは確かだが、己を縛るものなどやはり必要なかった。
「オレを縛るのは……オレだけさぁあッ!!」
敵が迫ればその格闘に応え、距離を開けられれば氷銃の引き金を引く。もはや後先など考えない、ただ"狩る"ためだけの戦いぶりだ。
快盗たちもまたそれを鮮明に感じとりながら、全身全霊で攻撃を仕掛けていた。とりわけルパンブルーは、己の個性たるヘルフレイムの劫火により氷弾を防ぎ少年たちを守っている。
「厄介な力だなァ……どうして前は使ってくれなかった?」
「守るものが、あったのでな……!」
この男に、正体を知られるようなことをすれば何が起こるかわからない──焦凍と緑谷出久を人質もとい釣り餌に使うという行為を思えば、その懸念は的中していた。的中した、と過去形で話すような状況であるからこそ、もはや遠慮する必要はなくなっている。
そして彼の扱う紅蓮により、ザミーゴの行動はかなりの制約を受けていた。ならばとブルーに肉薄して手傷を負わせようとしたところで、鮮烈な黄色が目前に飛び込んできた。
「ッ!」
慌てて氷銃を突きつけようとするザミーゴだったが、そうくることは織り込み済みだった。──次の瞬間、ザミーゴの手首に彼女のキックが炸裂していた。
「ぐッ!?」
「まだ終わりじゃないっ!!」
イエローはトリガーマシンバイカーをVSチェンジャーに取り付けていた。すかさずそれを回転させ、蓄えられたエネルギーを一気に解放する。
「バイカー撃退砲ッ!!」
「──ッ!!?」
数多のギャングラーを葬ってきた──パトレンジャーが──光砲の直撃を受け、ザミーゴは声にならない声をあげて吹き飛んだ。この異空間にも当然のように重力は存在し、彼は地面に叩きつけられた。砂塵が一瞬、その身を覆い隠す。
「ッ、……痛、ってぇなァ」
「チッ……!」
ステイタス・ダブルゴールド相手に、致命傷とはならなかったか。しかしこの氷魔を相手に、初めて明確な有効打を与えることができたのは確かで。
「まさか、そうくるとはねぇ……ッ」
「貴様は眼中になかったようだがな──」
「私たちだって、あんたと戦い慣れてきてるんだから!」
宣言するふたりの肩に、赤の少年が揚々と手をかけた。
「はっ……てめェが思っとったよりやるだろ、世間を騒がす快盗は」
「ッ、確かに……ちょっと油断、してたかなァっ!!」
猛然と立ち上がったザミーゴが、再び反攻に打って出る。しかしその所作は、バイカー撃退砲を浴びた影響で明らかに鈍くなっている。──今なら"その好機"も遠からずして見つかるはずだ。
焦るな。
必ず、
必ず、勝機は間もなく訪れる……!
「チィッ、」
氷銃をがむしゃらに撃ち続けていたザミーゴだったが、不意にひとつ舌打ちをこぼして銃を投げ捨てた。彼のそれは、一丁につき十発……それで弾切れを起こして、使いものにならなくなる。リロードはできず、彼は体内で新たな銃を生成して金庫から取り出すのだ。
「──今だ!!」
レッドの叫びを聞いて、ブルーとイエローはその場にVSチェンジャーを投げ捨てた。そのままザミーゴの両脇から迫る。新たに取り出された氷銃をいなし、金庫に
「馬鹿かッ、オレの力はコレクションじゃないって言ってんだろ!!」
ふたりの無意味な行動を嘲ったザミーゴは、そのまま氷銃を彼らに押しつけた。この至近距離では回避も間に合わない。
──次の瞬間、ふたりは氷漬けにされていた。
「……!」
「ハハハ、あとはおまえだけだルパンレッドォ!!」
もはや勝利を確信したか、氷銃を連射するザミーゴ。当然ながら、二丁ともがレッドひとりを標的としている状況──ザミーゴはその動きを先読みしながら引き金を引いており、狙いは加速度的に正確になっていく。そして次の一発は、いよいよ直撃をとると確信したときだった。
「──ッ!!」
飛来する氷弾めがけ、掌を突き出すレッド。自棄でも起こしたのかと嘲いかけて……ザミーゴははっとした。この構えは、
次の瞬間、爆ぜる紅蓮が氷弾を呑み込んでいた。
「おまえ、それは……!」
「見たことあんだろ?デクの記憶、読んだならよ」
その通りだった。──"爆破"。爆豪勝己がかつて誇っていた、生まれながらの力。
「おまえがそうくるとは思わなかったよ……。その力で、さんっざん"デク"を痛めつけておいてなァ!!」
「………」
「あァ、そうだな」
肯定の声は、ザミーゴが一瞬呆けてしまうほど平静に響いた。
「それでもなァ……──快盗は手段選ばねえんだよ!!」
今度は、より烈しい爆発が起きた。その余波で吹き飛ばされるザミーゴ。氷銃が指を滑り、地面に落下した。
「ッ、この……!」
苛立ちを露にしつつ、ザミーゴは腰の金庫に手をかける。──そこでようやく、異変に気がついた。
「!、開かない……!?」
言葉の通りだった。愕然とするザミーゴは、今までに見たことのないような焦燥ぶりに、勝己は思わず笑みを洩らした。
「──俺らの勝ちだ」
「何……!どういうことだ!?」
時は、死柄木弔も含めたルパンレンジャー四人がザミーゴと対峙する直前に遡る。得意げにトリガーマシンを提示した弔は、その真の能力を勝己たちに開陳したのだ。
──ご存知の通り、ダイヤルファイターには金庫を開ける能力がある。なら、トリガーマシンを金庫に当てたらどうなると思う?
──まさか……閉じるのか?
──御名答。つまりこのトリガーマシンで、ザミーゴの金庫の暗証番号を初期化……俺たちで設定し直す。
──金庫が開かなければ、ザミーゴは氷の銃を使えない!
──あいつを……倒せる。
「そういうこと」と、弔は笑った。
──どうする?この話……乗る?乗らない?
「そんな、馬鹿な……!」
「キー触られたのにも気づかなかったんか?言ってる傍から、油断したなァ」
「ッ!」
苛立ちを露にしたザミーゴは、咄嗟にブルーとイエローが落としていったVSチェンジャーに目をつけた。これを武器にできればまだ、勝機はあると。
しかしレッドは、丸腰になったザミーゴがどう動くかも予想していた。ゆえにビクトリーストライカーに頼るまでもなく、彼の進行方向を先読みして弾丸を撃ち込んだのだ。
「ガアァッ!?」
直撃にうめくザミーゴ。しかし当然、弾丸一発で終わるはずがない。弾切れのないVSチェンジャーは、獲物を喰らい尽くすまで火を噴き続ける。
やがて寒色のソンブレロが吹き飛ばされ、つるりとした頭部が露になると同時に、彼はその場に膝を折った。倒れかかりそうになる身体を、両手をその場について支えている。大きなダメージを受けたのは確かだが、これでは遠からずして復活するだろう。
──その前に、倒す。意を決したレッドの手に、ルパンマグナムが握られた。
『イタダキ、ド・ド・ド──』
「……永遠に、アデュー」
『──ストライク!!』
マグナムが放つ砲火が──ザミーゴを、貫いた。
「……!」
声もなきまま、ザミーゴの全身が瞬く間に氷像と化す。そして胴体に開いた風穴を中心に、放射状のヒビが広がっていき、
「愉し……かったぜぇ……!」
「………」
「アディ……オォス──!」
砕けた氷の一部から、そんな声がした。
──氷像が、ゆっくりと融け崩れていく。そうして最後に残されたのは、氷でも水でもない……蒼い、無数の花弁で。
同じ頃、各地で驚くべきことが起こっていた。なんの前ぶれもなく氷の塊が現れたかと思えば、それが融けて中から生きた人間が現れたのだ。大通りなど人目の多い場所では、この事態にちょっとした騒ぎが起こった。
そう、ザミーゴが斃れたことで、氷漬けにされていた人々が戻ってきたのだ。無論、既に化けの皮にされてしまった者たちは戻らないけれど。
──つまりは……"彼"と、"彼"も。
「ッ!……?」
呆気にとられたような表情で、周囲を見遣る見目麗しき少年。紅白に分かたれた髪、オッドアイに左目の周囲を覆う火傷痕と情報量の多い容姿ながら、今最も困惑の中にいるのは彼自身だった。凍らされてからの記憶はなく、肉体もまた当時のまま。ただ、彼──轟焦凍の胸に湧くのは、"何かが起こった"のだという漠然とした違和感だった。
緑谷出久もまた、より鮮明な形でそれを感じていた。
「──かっちゃん……?」
二年の時の流れなど存在しない、澱みのようなごみ捨て場。ただ目の前に、爆豪勝己だけが存在しない。そして、あれほど渦を巻いていたどす黒い感情も……また。
ただ今は、わけもなくその顔が見たかった。
*
「ッ!」
「!、戻った……のか?」
同じく解放され、顔を見合わせる炎司とお茶子。そこに、
「クソオヤジ、丸顔ッ!」
「え──うおぅ!?」
後者が野太い悲鳴を発するのも無理はなかった。物凄い勢いで駆け寄ってきたルパンレッドが、そのままふたりに抱きついてきたのだから。
「ばっ、爆豪く……まさかザミーゴ!?」
「ンなワケねーだろよく見ろ!!」
変身が解かれ、露になったはまぎれもない爆豪勝己の姿だった。その表情は今までに見たことのない、抑えきれない歓喜に染まっていて。
「!、やったのか……勝己?」
「ああそうだ!……これで、デクたちももとに戻る……!俺らの願い、やっと果たせたんだ!!」
「……!」
一瞬、言葉が出てこなかった。けれども心のうちだけは、この異空間の空よりもずっと美しく澄み渡っていく。
「〜〜ッ、爆豪くん……っ!」
それが行動として現れたのは、数秒遅れてのことだった。ふたりして、勝己の身体をぎゅうぎゅうと抱きしめる。もし傍目に見る者があれば実に滑稽な様子であったろうが、この場にはもう、彼ら三人のほかに生けるものはない。
「やった……!よくやったな、勝己……!」
「ッ、ああ……!」
勝己の緋色の瞳から、つう、と透明な雫が零れる。色のないものを美しいと感じるのはきっと、これが最初で最後だろうと炎司は思う。半世紀近く生きてきて、ヒーローとして頂点を極めていて──さありながら、初めてほんとうの達成感というものを味わったのだ。
歓びに浸る三人の傍らで、ダイヤルファイターが静かにその身を横たえていた。
*
『──ジム・カーターから、パトレンジャーの皆さんへ!聞こえますか!?』
ドグラニオと対峙するパトレンジャーのもとへも、ジム・カーターから通信が入っていた。──失踪事件の被害者たちが、各地に戻ってきたのだと。
「そうか……!」
改めて、ドグラニオの金庫を見遣る。その中で快盗たちは確かな勝利を掴んだのだと、彼らにはすぐわかった。
無論、ドグラニオにも。
「ハハハハハッ!ザミーゴのヤツ、敗けたのか。まあ良い、勝った快盗もここから出られないんだからな」
「……ッ!」
響き渡る悪魔の哄笑。それを覆すことはもとより困難で──それでも、
「なら……俺が!俺たちが!!──てめェをぶちのめして、快盗(あいつら)を救け出すッ!!」
「面白い……──やってみろ!」
両腕を広げて迎え撃つ黄金の戦鬼に、守護者たちは再び立ち向かっていく──
à suivre……
最終回「暁鐘」
「う゛あ゛あああああーーーーッ!!!」