ドグラニオ・ヤーブンの猛攻は、終わることなく続く。
「う゛ああああ──ッ!!」
悲鳴とともに地面を転がるルパンエックス。麗しい白銀が焼け焦げ見る影もなくなった鎧は、とうに限界を迎えていて。──次の瞬間には、その姿は死柄木弔のそれへと戻っていた。
「しが、らき……ッ!」
「ッ、おのれ……!」
パトレンジャーの面々も、受けたダメージが大きすぎて未だ立ち上がることができない。これでドグラニオが引導を渡す意志を見せていれば、もはや万事休すだっただろう。
「……ふぅむ、いつの間にかやりすぎていたか」
不意のつぶやきは、燃えさかる街に向けて発せられたものだった。
「暴れるなら、もっとにぎやかな場所がいい」
そう言い放ち、踵を返して去っていく。向かう方角は、まだその被害を受けていない街──
「ッ、立てよ……皆……!」
誰よりも傷ついた弔が、血を滴らせながら言った。
「ここで敗けたら……ッ、今までの全部が、無駄になっちまう……!だから──」
「──わかってる……!」
ついに鋭児郎が立ち上がる。次いで天哉が……響香が。肉体が襤褸切れのようになろうとも、その精神は決して擦り切れてはいないのだ。
「絶ッ対に、勝つ……!──いや、」
「勝って、救ける──!」
「──ドグラニオっ!!」
振り向いたドグラニオが見たのは、果たしてことごとく地に伏せたはずの人間の戦士たちだった。
「ここから先へは……行かせねえ!!」
「フン……とどめを刺されに来たのか?え、おまわりさんよ」
露骨な挑発な言葉に、彼らの感情が波立つことはない。もはやその心は限界まで昂っていて、これ以上の反応はしようがないのだ。
「貴様らギャングラーが現れたせいで、罪のない人たちがたくさん苦しんだ……!!」
「これ以上誰も苦しませないためにッ、ウチらが倒れるわけにはいかないんだよ……!」
「────、」
「──てめェを倒すッ、ドグラニオ!!」
喉を枯らすような叫びに、少なからず感じいるものがドグラニオにもあった。現代のギャングラーに、これほどの情熱と豪勇とを露にする者がいただろうか。人間にしておくのは惜しい。これが自分と同じ化け物なら、手許に置いて後継者として育ててやるのに──
「精神力でどうにかなるほど、このドグラニオは甘くないぞ」
しかし現実に彼らは人間であり、自分も既にギャングラーの首領ではない。目の前の障害物を今度こそ跡形もなく消し飛ばし、心ゆくまで破壊と殺戮を愉しむほかに目的などないのだ。本来なら、言葉を発する必要すらない。
果たしてドグラニオの金庫が鈍く光り、彼の周囲の地面が隆起し、巌の荊棘をいくつも形成する。身構える四人だったが、その行為をせせら笑うようにさらなるコレクションの力が襲う。──ドグラニオの影が長く伸び、そこから実体化した黒い触手が彼らを絡め取ったのだ。
「……ッ!?」
「文字通り、串刺しにしてやるよ」
迫る荊棘。もはや身体を捩ることすらできない状態でも、彼らは全身全霊をかけて危機を脱しようともがく。倒す、勝つのだという叫びは、決してハッタリではないのだから。
それでも人間である以上、奇跡を願う気持ちはあって──ひたむきに正義を為してきた彼らの心に応えるように、"それ"は起こった。
鋭児郎たちの眼前にまで迫った荊棘が、突然跡形もなく砕け散ったのだ。次の瞬間、驚く間もなく彼らを拘束していた影も消失する。
「──!?、なんだと……!?」
本来であれば、唯一その挙動を操ることのできるドグラニオ。誰より彼が平静を失っているということは、つまり。
「コレクションの効果が……消えた?」
*
ちょうどその頃、漆黒の翼が窓ガラスを突き破り、ルパン家の屋敷へ突撃していた。
『待ってろカツキ、エンジ、オチャコぉ!お前ら救けられそうなコレクション、今見つけてやるからなぁ!!』
グッドストライカー、彼にも自分が快盗たちの仲間であるという自負があった。それでもグッと来て警察に味方してしまうのは、己のアイデンティティのようなものだから仕方がない。──その性質は、結果的に主の願い通り世界を守る一助となったのだ。
ともあれ、そうしてコレクションが保管された地下室へ飛び込んだグッドストライカーは、そこで何かに衝突した。「うぐ!?」といううめき声とともに、"彼"は床に倒れ込む。
「ッ、グッドストライカー……?どうしてここに──」
『黒霧……おまえこそ!』
ゆるゆると身を起こした黒霧は、靄を揺らしてため息をついた。
「……考えていることは、同じかと」
『そ、そうか。それで、どうだ?何か見つかりそうか!?』
勝己たちをドグラニオの体内から救い出す──それこそが至上命題なのは確かだ。しかし今、また別の驚くべきことが起こっていたのだ。
「見ていなさい」
『は?何──』
グッドストライカーが訝る声をあげようとしたときだった。保管庫の空白を埋めるようにして、失われていたはずのルパンコレクションが現れたのだ。ひとつ、ふたつ──次々と。
『な、なんだこれ?コレクションが増えた!?』
「おそらく、ドグラニオの体内にあったものです」
『え?でも、どうやって……』
コレクションの転送を司る台帳は、黒霧の手元にある。勝己たちにそんな芸当ができるはずがない。
──いや、違う。
「まさか……"彼"の台帳を?」
*
「──おい、チェンジャーよこせ」
巻き上げるような物言いに顔を顰めつつ、炎司とお茶子は勝己にVSチェンジャーを差し出した──ダイヤルファイター付きで。
それを、かの青年から譲られた台帳へと触れさせる。と、まるで水に落としたかのようにアイテムが沈み……消えていく。やがて色褪せていた台帳の絵が、鮮やかな色を取り戻す。コレクションの転送が、完了した証だ。
「……っし、あとは──」
残る、ひとつ。仲間たちと一瞬、視線をかわしあった勝己は、次の瞬間ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
「最後のひとつ──"
伸ばされる手。彼は……
しかしきっと、これが最後だ。思念だけの存在になってより永い永い旅路も、ようやく終わる。
(ようやく、あなたに逢える)
(──にいさん、)
*
自身の体内で何が起こっているかなどつゆ知らぬドグラニオは、いっそ無様なほどに焦燥を露にしていた。
「どういうことだ……!?力が……抜けていく……ッ」
「よくわかんねえけど……このチャンス、逃すわけにはいかねえ!!──飯田、耳郎、死柄木!」
呼びかけられた三人は、応の返答と同時に変身銃を構えた。陽光を反射して煌めく銃身──煤けていても、その輝きは失われることはない。
「「「「──警察チェンジっ!!」」」」
彼らの叫びが、決して嗄れることがないように。
そして、
「パトレン1号ッ!!」
鋭児郎が、
「パトレン、2号!!」
天哉が、
「パトレン3号……!!」
響香が、
「パトレン……エックス!」
弔が、
「警察戦隊──」
「「「「──パトレンジャー!!!」」」」
──その全身に、正義の証明たる戦衣を纏った。
「国際警察の権限において……実力を行使するッ!!」
勇ましい咆哮に、ドグラニオは肚の奥がぐわっと熱くなるほどの烈しい苛立ちを覚えた。所詮、改造したコレクションに頼らなければ俺たちギャングラーの足元にも及ばぬ人間風情が、調子に乗って。
「コレクションなどなくとも、俺はいくつもの世界を奪ってきた……!お前ら人間ごとき、捻り潰してくれるわ!!」
言うが早いか、身体に巻きついた鎖の群れを解放──触手のごとく差し向けるドグラニオ。標的とされるパトレンジャーは素早くそれをかわすが、鎖の動きが鈍ることはない。彼の言葉は決して、大言壮語ではないのだ。
しかし、彼自身の攻撃手段は相当に限られている。ならばそれを、こちらも徹底的に利用してやれば良い。
「切島くん──!」
「わかってらぁ!!」
彼らの間に、言葉は要らない。次の瞬間、1号の掌が鎖を捉えた。
「ッ!?」
「お、らァッ!!」
そのまま力いっぱい鎖を引き寄せ──投げ飛ばす。小柄なドグラニオの身体は想像以上に軽く、容易く宙を舞ってフェンスに叩きつけられる。
「ぐぅ……!」
うめくドグラニオ。無論この程度、ダメージの範疇には入らない。しかし彼が態勢を立て直すより先んじて、2号と3号がマジックアローとシザー&ブレードで攻撃を仕掛ける。流石にと言うべきか、ドグラニオは杖を振り回すことでそのことごとくを弾いてみせた。
しかしそこに、パトレンエックスが打ちかかる。
「ッ、エックス……!──はっ、俺が憎いか!?」
「……ああ、憎いね」
鋭い返しと裏腹に、彼の声はひどく穏やかなもので。
「世界の平和を……たくさんの人たちに消えない傷をつけたお前らが、憎い」
「……!」
「──だから今日、ここで終わらせるッ!!」
杖を力いっぱい弾いてよろけさせたところで、その胴体や頭部にXロッドを叩きつける。さらに、
「エクセレント──エックスッ!!」
「!?、ぐぉあぁぁッ!!」
渾身の一撃を浴び、まるで紙のように吹っ飛ばされるドグラニオ。空中で態勢を立て直して着地するも、次の瞬間、彼は血反吐を吐き出した。老体には、確実にヒビが入っている。
『ビクトリーストライカー!1・1──1!』
「いくぜ、死柄木!!」
すかさず1号が、ビクトリーストライカーの力が宿った光弾を、エックスめがけて躊躇なく撃ち出す。──と、放たれた光はそのまま、彼の上半身を包んでいった。
──そう、ビクトリーストライカーの力は具現化する。白銀の鎧と、マントという姿かたちをとって。
「スーパー、パトレンエックス……!」
自らをそう名乗った彼は、静かにXチェンジャーを構え直す。その姿にたじろぎつつも、ドグラニオは再び攻撃に転じた。きらきらと弾けるような光でその存在を主張する、無数の透明な刃。
その思わず目を細めてしまうような美しさとは裏腹に、それはとてつもない凶悪な武器だと弔は知っている。すかさず予知の力を発動させて攻撃の軌道を読み、強化されたスピードでそれらをかわしていく。
ひらりとマントをたなびかせつつ──返す刀ならぬ銃で、ドグラニオに弾丸を撃ち込んだ。
「ぐおぉ……!?」
「………」
「この俺が、こうまで……ッ。一体なぜ……!」
先ほどまでの圧倒的な力が夢であったかのように、一方的な苦戦を強いられている。そんな現実を受け入れられず、ドグラニオの動揺はいよいよ深まっている。
なるほど確かに、ドグラニオは強大な力をもっていたのだろう。しかし彼にも、打ち勝ちえない絶対的な壁があったのだ。
「おまえは気づいてなかったんだ。その老いた身体が、想像以上にコレクションの力で支えられていたことに」
「ぬうぅ……ッ、黙れ!!」
怒りのまま猛攻を仕掛けるドグラニオだが、冷静さを欠いたそれはスーパーパトレンエックスを前にしては無力なものだった。予知の力が、敵の一挙一動をすべて教えてくれる。
この状況なら、快盗たちを救け出すための戦いができる!──希望を見出したパトレン1号が、今がそのときだとばかりにサイレンストライカーを手にした。
『サイレンストライカー!──グレイトパトライズ!!』
「超、警察チェンジっ!!」
ドグラニオのそれより余程燦然と輝く黄金の鎧が、1号の胴体を覆っていく。
「スーパーパトレン1号……──烈怒頼雄斗!いくぜぇ!!」
雄々しき叫びとともに、黄金の砲口が唸りをあげる。長き戦いに、終止符を打つために。
*
この場すべてのルパンコレクションを取り込んだ台帳を地面に置き、三人はふぅとため息をついた。
「これで、できることはすべてやったな」
確認するように、炎司がつぶやく。それに対して勝己ははっきりと首肯いた。お茶子はほんの少しばかり名残惜しげな表情を浮かべているが。
「死柄木さん……アルセーヌさんに逢えるかな?」
「知るかよ、あいつ次第だろ」
だから、
「絶ッ対倒せよ……パトレンジャー」
虚空めがけてつぶやくと同時に、どさりと地面に倒れ込む勝己。仲間たちはぎょっとしたが、その表情は満足げな笑みに染まったままで。
「はあぁ、」と勝己は深いため息を吐いた。もとより他人に己の弱みを見せないどころか、自分自身の中でさえそれを徹底的に抑えつけるような少年だ。それがこんなリラックスした姿を見せるのは、いよいよ終わりというものを仲間たちにも実感させた。
その様子に寂しげに目を伏せたお茶子だったが、ややあって、倣うように勝己の隣に寝転んだ。「気持ちいい〜」と、声に出してしまうあたりが彼女らしい。
「………」
苦笑しつつ……炎司も、お茶子の反対側に身を横たえる。ふたりに比べてずっと身体が大きく幅もあるので隣と袖が擦り合ってしまう。擽ったそうに身を捩った勝己が「最後がオッサンと濃厚接触とか、きめェ」とどこか可笑しそうにつぶやくと、その向こう隣でお茶子が噴き出すのがわかった。
それきり続く沈黙の中で、思い起こすのは取り戻したかったもののこと。
(母ちゃん、父ちゃん……私がいなくても、幸せになってね)
お茶子が、
(焦凍。おまえなら、なりたいヒーローになれる)
炎司が、
(デク……)
「──おまえは、生きろ」
勝己が、──彼らの未来を願い、静かに瞼を閉じた。
*
「終わりだ……!ドグラニオっ!!」
黄金の火砲が爆ぜる。眩いばかりの光が、一挙に放出される。
その光景を目の当たりにしてもなお、ドグラニオは一歩も退こうとはしなかった。杖に己のエネルギーを集中させ、邪悪な波動へと変えて敵へぶつける。生まれてこのかたの約千年で数えるほどしか使ったことのない、渾身の必殺技だ。
そのふたつが、矜持も怯懦も瞋恚も、何もかもを呑み込んで衝突する。
果たしてそれは、いずれもが一歩も退かないぶつかり合いだった。スーパーパトレン1号はもちろんのこと、ドグラニオとて己のエネルギーを使い尽くす覚悟の一撃である。何が勝負を決するかわからない──つまり、どちらが勝利を獲るかも……また。
「ッ、ぐぅううう……っ!」
鋭児郎は尖った歯をぎりぎりと噛み締めた。あと少し、あと少しで届くのに。
(爆豪、爆豪……爆豪っ!!)
──切島、
そのときだった。押しやられかかる背中に、ぐっと大きな力が加わったのは。
「……!」
「切島、くん……っ!!」
「絶対、退くな──ッ!!」
2号、3号、そしてエックス。仲間たちが背中を支えてくれている。ならば前進はあれど、その反対はありえない。向かうドグラニオの傍にはもはや、誰もいない。
それが決め手となったかは定かでないけれど……1号のそれが、いよいよドグラニオの波動を呑み込んだ。
「──!?」
砲火が、爆ぜる。ドグラニオの姿が劫火の中に消えると同時に、黄金の鎧も限界を迎えて砕け散った。
「ッ、………」
息を呑む、鋭児郎。──切札は切った、もはや打つべき手はない。しかしドグラニオが死んでいても駄目なのだ。鎖の向こうの、金庫を開けるまでは。
けれど──目の前に広がる現実は、いっそ勝利とは程遠いもので。
「……マジかよ……!」
最初にそう声をあげたのは、弔だった。
散りゆく爆炎の中から現れたドグラニオは……鎖で身を覆い尽くすことで、そのダメージを軽減していたのだ。
「ッ、ぐぅ、あぁ……っ」
しかし、完全に無効化できたわけではない。鎖がしゅるりと身体に巻きついていくと同時に、ドグラニオはその場に片膝をついた。いずれにせよ、先の攻撃でエネルギーも消耗しきっている。戦闘の継続さえ、不可能としか言いようのない状態で。
もはや趨勢は決した。しかし勝者とは思えない切羽詰まった声音で、鋭児郎は金庫を開けるよう迫る。
それを、
「フン……、──断る」
躊躇なく、ドグラニオは切り捨てた。
「開けろ……っ、開けろよ!!開けろぉ──ッ!!!」
「断る!!」
死んでも開けるものか。──ドグラニオに残された、薄汚い矜持の欠片だった。
『──か、管理官……っ』
モニター越しに戦況を見守っていたジム・カーターが、縋るように呼ぶ。けれど塚内にできることはない──快盗たちを、救け出すことにおいては。
一瞬顔をゆがめた塚内は……ややあって、戦場に通信を繋げた。
「塚内から各隊員へ。──責任は俺が取る、ドグラニオを……倒せ」
『……!』
機械を通して、ひゅ、と喉を鳴らす音が耳に滲みる。塚内にとっても、これは何よりつらい命令だった。──ドグラニオもろとも、友の命を奪う。それを自分自身でなく、若者たちに押しつけなければいけないのだから。
「──さあ、どうする!?正義のお巡りサンよ……!」
「……ッ、」
銃を握る手が、震える。"命令"を呑み込めない鋭児郎が俯いたそのとき、不意に友人の声が聞こえたような気がした。
──あんたは、そっちにいろよ。
いや……これは、頭の中にだけ響く記憶の残滓だ。
──こんな快盗より、救けなきゃなんねえ人間が大勢いるだろ。
「………」
そんなこと、わかっている。俺は烈怒頼雄斗で、パトレン1号だから。大勢の人々を、世界を守らなければならない。
一歩を踏み出した彼を、仲間たちは一瞬、唖然とした様子で見た。その視線にも構わず、彼はドグラニオに迫っていく。
──俺たちはこれしか無ェから快盗やってんだ……!
──好きにしろ、クソ髪。
勝己の姿かたちが浮かんでは消えて、また浮かぶ。──鋭児郎は、泣いていた。しかし流れる涙が止まらないように、歩みを止めることもなかった。
「──切島、くん……っ」
「切島……!」
天哉、そして響香。彼らの脳裏にもよぎる、快盗たちの在りし日の姿。炎司が先輩と呼んでくれたこと。お茶子と遊園地で共闘したこと。互いの無事を誓いあったこと。あなたに救われたと、そう言ってくれたこと。
死柄木弔にとって、快盗たちは願いはひとつと誓いあった同志だった。彼らとの間に育まれたものは、昔の自分なら陳腐にも程があると嘲っていただろうけれど、間違いなく友情と呼べるものだ。鋭児郎の常々口にするような柔らかく温かいものではないけれど、だからこそ唯一無二の。
失ったことを、悔しいと思うことはあった。涙を流して慟哭したことだって、数えきれないくらいあった。
けれど、失うことが怖いと心の底から思うのは、きっとこれが最初で最後だ。
──俺がもっと、頼れるヒーローだったら……っ、苦しんでるおめェらを救けられたかもしんねぇのに……っ。
──ヒーローになれねえ……頼れもしねえヤツが、快盗になるんだよ。
声が、記憶が、絶えず鋭児郎の心をかき乱す。この一年ずっと、爆豪勝己はそんな存在だった。
──あんがとよ、烈怒頼雄斗。
なあ、爆豪。
俺はもっと、おめェがそうやって笑う顔、見たかったよ。
いよいよパトレン1号は、ドグラニオの眼前にたどり着いた。指一本たりとも動かせない彼の脳天に、銃口を突きつける。
「……ッ、うぅ、あぁぁ……っ」
爆豪、と呼ぶ声は、声にならなかった。
それでも──背中に触れる掌の感触は、確かに勝己のもの。彼はそこにいる。いつだって、"烈怒頼雄斗"の背中を押してくれている。
(だから、)
(だから、俺は)
「う゛あ゛あああああ────ッ!!!」
銃声が響き渡ったのは、それから間もなくのことだった。