ぶっちゃけリュウソウジャーの練習みたいなものなので、ストーリーらしいストーリーはほぼないですが良ければどうぞ。
超常が日常に、架空は現実へ。
現代を象徴するキャッチフレーズは、ギャングラーの出現を契機に異世界の存在にまでその範疇を広げていた。
ぼくらの生きる世界は唯一無二のものではなく、次元の壁を一枚隔てた向こう側にはまったく別の世界がある。今やそれが夢物語でないことは、周知の事実となっているのだ。
しかしそれが、姿かたちの同じ人間たちが生きる世界──パラレルワールドであったとしたら、どうであろうか。
「──うぉあぁぁぁぁッ!!?」
野太い悲鳴をあげ、逃げ惑う赤髪の青年がいる。彼の名は切島鋭児郎。若手ヒーロー・烈怒頼雄斗であると同時に、ギャングラーと戦う精鋭チーム・警察戦隊パトレンジャーの一員たるパトレン1号でもある。
そんな彼がいったい何から逃げるというのか。答は、一目瞭然だった。
「ガァアアアアア──ッ!!」
耳を劈くような甲高い咆哮。大理石色の身体に、鋭く伸びた紺碧の爪。──そんなモノをもつ見上げんばかりの怪物が、一心不乱に彼を追跡していたのである。
いったいなぜ、こんな状況に陥ってしまったのか。考える以前に、命が危うい。このスケールの差では個性など焼け石に水であるし、唯一の切札たるVSチェンジャーは──
「……!」
そのとき、鋭児郎は足を止めた。そうせざるをえなかったのだ。
──目の前は、断崖絶壁だった。
「ま、マジかよ……っ」
「グォオオオ……!」
「──ッ!」
怪物が、間近に迫っている。一方で眼下には、激流が広がっていて。
鋭児郎は、覚悟を決めるほかなかった。
「〜〜ッ、漢ならぁああああッ!!」
「ガァアアアアッ!!!」
振り下ろされる爪。それと時を同じくして──鋭児郎は、宙に身を投げ出した。場違いな浮遊感とともに、墜ちていく。墜ちていく。
そして鋭児郎は、深淵へと呑み込まれていった。
*
長大な流れの川尻に、ひとりの少年の姿があった。緑がかったぼさぼさの黒髪に、卵型の翠眼をじっと水面に向けている。その手には、釣り竿が握られていた。
「……釣れないなぁ、昔ならこの場所で色々釣れたはずなんだけど。川上に街ができたせいで水質が変わってしまったんだろうか……」
考え込みつつ、右手を下唇にやってブツブツと独りごちる。放っておけば永遠にでも続きそうな怪しい挙動は、しかし間もなく中断された。
「ん?──!、あれって……」
川上から流れてきたものを目の当たりにして、彼は一目散に水の壁へ突き進んでいった。
*
「……から………って、……ないか……」
「……じゃ………かよ……かが………」
すぐ傍で、言い争うような声がする。
なんの話だろう、喧嘩に発展しそうなら仲裁に入らなければと麻痺した頭で考えるのは、半ばヒーローとしての本能のようなものだった。
そうして鋭児郎は、覚醒へと導かれた。うすく瞼を開けると、ごつごつとした岩肌の天井が目に入る。
「……ここは……?」
「!」
鋭児郎の声に気づいてか、大きな翠眼が覗き込んでくる。
「あ。目、覚めましたか?」
「………」
視界を占める、ふんわりした印象を受ける童顔。未だ鮮明にならないそれはしかし、彼に既視感を覚えさせるもので。
(こいつ……どこかで……?)
「……まだ意識がはっきりしないみたいだな。──口、ちょっと開けてもらって良いですか?」
言われるがままにゆるく口を開けると、少年の手にある筒から少量の液体を流し込まれる。それが舌を伝った途端、
「!?、う゛ぇッ、ゲホゲホッ、かは……っ!」
どくだみを濃縮したような、今までに味わったことのない強烈な苦味だった。頭を覆っていた靄はその衝撃で吹き飛ばされ、鋭児郎は反射的に飛び起きる羽目になった。
「な……ンだよ、これっ!?」
「気付け薬です。頭、すっきりするでしょう?」
「し、したけど……──!」
少年の顔をここではっきりと目にして、それでようやくわかった。彼が誰に似て……否、まったく同じ顔をしているのか。
──緑谷出久。快盗の正体だった年少の友人が、取り戻そうとしていた幼なじみ。
「?、どうかしましたか?」
答えられずに口をぱくぱくさせていると、さらに追い打ちをかけるような声が響いた。
「おいデク、目ぇ覚ましたんならとっととそいつ放り出せや」
「……!?」
このやや鼻にかかったような、ぶっきらぼうな声。緑谷のそれとは比較にならない、耳に慣れ親しんだもの──疑いようもない。
「ばく、ごー……」
「ア゛ァ?」
「おめェら、爆豪と緑谷だよな……?」
恐る恐る訊く鋭児郎。対するふたりは、怪訝な表情で顔を見合わせ──
「「……誰それ?」」
*
「──待ってくれって!おめェら、爆豪と緑谷じゃねーのか!?」
「しつっけえな!だから知らねえわそんなヤツ!!」
ずんずんと大股で歩を進める勝己そっくりの少年を、鋭児郎は必死になって追っていた。そのすぐ横に、緑谷出久によく似た少年がぴったりとくっついている。
「あの……かっちゃん──彼の言う通り、人違いですよ」
「ッ、でもおめェら、"かっちゃん"とか"デク"とか……。名前、なんて言うんだ?」
「チッ……」舌打ちしつつ、「──俺がカツキで、」
「僕はイズクです」
「やっぱり爆豪と緑谷じゃねえか!?」
「だから違ぇっつってんだろうがブッ殺すぞクソ髪が!!」
「かっちゃん、言い過ぎ!」
姿かたちはおろか、名前まで同じで別人のはずがない。ただ、そうと断言するには奇妙な点が幾つもあった。
鍛えられた剥き出しの上半身に首飾りなどの装飾を身につけ、派手な毛皮付きのマントを羽織ったカツキ?と、ホワイトシャツにグリーンのベストを着込んだイズク?。下はふたりともジーンズのようだが、既製品とは見るからに材質が異なる。
そうした服装は似合う似合わない以前に、明らかに現代日本のそれではない。そもそも、どこまでも森の続くこの風景自体、自分の居た街とは明らかに異なっていた。
何よりふたりは、揃いの剣を帯びていて。鍔が竜の頭部のような形状になっているそれは、玩具や演劇の小道具のようにも見えなくはない。ないけれど──
「なぁ、みど……えっと、イズク?」
「なんでしょう?」
「ここってひょっとして、日本じゃない?」
「ニホン?」
こてんと首を傾げるしぐさが、年不相応に愛らしい……ではなく。
(やっぱりそうだ、)
──"パラレルワールド"。よぎった言葉に、鋭児郎は頭を抱えたくなった。荒唐無稽な思考とは言い切れない。現に、ギャングラーが本拠としている異世界は観測されていて、自分は足を踏み入れたこともあるのだから。
しかしあの世界の人間はとうに亡びてしまったと聞くし、ここはまた別の世界らしい。どうして自分がそんな場所に来てしまったのか、記憶に靄がかかったように思い出せない。
「……でも、帰んねえと……」
「……大丈夫ですか?えっと──」
「あ……っと、俺のことは切島で良いぜ!」
「キリシマさん、ですね。わかりました!」
朗らかに肯くイズク少年。ここが仮にパラレルワールドだとして、カツキ少年を見る限り人格に大きな違いはないのだろう。ということは"イズク"は、こういう人当たりの良い性格なのだ。
「ふたりは、ひょっとして幼なじみだったりするのか?」
「ええ、どうしてわかったんですか?」
「俺の知ってる爆豪と緑谷がそうだったからさ。もしかしたらって」
「そうなんですか、すごい偶然ですね!」驚くそぶりを見せつつ、「僕ら、子供の頃から一緒に世界中を旅してるんです。もうごじゅ……ゴホン!……五年くらいになるかな」
「え、ふたりでか?」
「うーん、まぁ……そうですね」
妙な歯切れの悪さは気になったが、それより「色んなことがあったなあ」と懐かしむイズクの表情が目に留まった。性格は似ていても、この世界の彼らの関係性は正しく幼なじみらしいもののようだ。自分の知る勝己たちが知ったらどう思うだろうかと、とりとめもなく鋭児郎は考えた。
「そういえばキリシマさん、珍しい恰好してますけど……そのニホンって場所の衣装か何かですか?」
「え、あ、えーっと……ニホンつーか、国際警察っつーか……」
「?」
この異界人に、どう説明したものか。悩む鋭児郎だったが、
「──いつまでくっちゃべってんだ」
カツキ少年のぶっきらぼうなひと言により、会話は容赦なく中断された。
「おいクソ髪、あんたが怪物に襲われたっつーのはこのあたりか?」
「……おう」
「チッ、流石に居ねえか……。──デク、」
「うん」
頷きあったふたりは、腰に差した剣を徐に抜いてみせた。鋭く光る刃先は、やはり真剣そのもので。
「キケソウル、」
「クンクンソウル!」
竜の頭部を模したオブジェクトを騎士の姿に変形させ、鍔に挿し込む。と、そこから光が放たれ、ふたりの身体を包み込んだ。
『キーン!』
『クンクンー!』
「おい、それ──」
「喋んな」
険のある口調で切り捨てられれば、口をつぐまざるをえない。
やむなく様子を見守っていると、ふたりが何をしているのかがわかってくる。カツキはじっと耳を澄まし、イズクはくんくんと何かの匂いを嗅いでいる様子だ。先ほどのオブジェクトで、聴覚や嗅覚を強化したのだろうか──この世界における、ルパンコレクションのようなものか?
そうして待つこと数十秒──ふたりが同時に、目を開けた。
「──デク、」
「うん、行こう!」
突然走り出すふたり。慌てて追おうとする鋭児郎だったが、
「キリシマさんはここで待っててください、危ないですから」
「!、危ないって……まさかおめェら、あいつと戦うつもりか?」
「関係ねーだろ」
「関係ないことねえよ!」
半ば反射的に言い返してしまった鋭児郎だったが、その言葉に嘘偽りはない。どこの世界であろうと自分はヒーローだし、彼らはよく知る者たちと同じ魂をもっている。
「せっかく救けてもらったんだ。借りはきっちり返さねーとな!」
「……デクてめェ、クソウゼェヤツ救けやがって」
「はは……」
本気で呆れている様子のカツキに対し、イズクは苦笑しつつもどこか嬉しそうだった。彼も正義の心を強くもっていて、そういうところが鋭児郎と通じるのだろう。爆豪勝己が自分に複雑な感情を抱いていた理由が、ほんの少しだけわかったような気がした。
*
怪物は、我が物顔で闊歩を続けていた。その巨体が、障害となる木々を容赦なく薙ぎ倒していく。森がどうなろうと知ったことではない、彼を突き動かすのは野獣の本能だけだった。
その姿を、覗い見る者があった。
「……ガーゴイルマイナソー。随分と、育ったものだな」
年齢、男女の別さえ判然としない、紫の鎧に全身を覆った騎士。ただ彼、あるいは彼女が手にした剣は、カツキやイズクが持つのと同じ造形をしていて──
「!、来たか……」
"彼ら"の到来を察知して、鎧騎士は身を翻したのだった。
「いたよ、かっちゃん。マイナソーだ」
イズクの言葉に、足を止めたカツキは獰猛な笑みを浮かべた。獲物を仕留めんとする狩人の表情は、快盗の爆豪勝己とそっくり重なる。
「は、ブクブク太りやがって」
「騎士竜に頼む?」
「要らねえ。あんくれぇなら、俺らで十分だろ」
マイナソーはあの怪物の名として、騎士竜?首を傾げる鋭児郎だったが、訊くより先んじてカツキがじろりと振り向いた。
「おいクソ髪、ついてきたンは自己責任だがてめェに出る幕はねえ。おとなしく突っ立ってろや」
「ッ、……おめェらがピンチになったら手ぇ出すからな!」
「は、舐めんなや。俺らを誰だと思ってやがる」
いや誰だよ。内心そう突っ込みつつ、ひとまずは彼らの言に従わざるをえないと鋭児郎は歯噛みした。
(変身さえできれば……っ)
パトレン1号にさえなっていれば、彼らを危険な戦いに臨ませることもなかった。多少スケールの違う相手だろうと、倒せるだけの武器は揃っているのだから。
それができなかったのは──あのマイナソーとかいう怪物に襲撃を受け変身しようとした際、VSチェンジャーを吹っ飛ばされてしまったためだ。戦力を失った今の自分では、あいつは倒せない。
だから……使いどころは、見極めなければ。
と、進み出たふたりの存在に、ガーゴイルマイナソーが勘づいた。
「グォオオオオ……!!」
その咆哮に対し、
「「──リュウソウチェンジ!!」」
イズクが緑の、カツキが黒の竜騎士の模型──"リュウソウル"を、左手首のブレスに装填する。と、
『ケ・ボーン!!──リュウSO COOL!!』
銀の鎧を纏った竜の魂が無数の光の欠片を生み出し、ふたりを取り囲む。──高笑いのような音声が響き渡ると同時に、彼らの全身は欠片に包み込まれた。
「……!」
鋭児郎は思わず、息を呑んだ。イズクもカツキも──"変身"を、遂げていたのだ。
「おめェらも戦隊だったのか……!?」
その声は、既に彼らには届いていなかった。マイナソーが攻撃を開始したのだ。
「ッ!」
素早く飛びのきつつ、剣──リュウソウケンをその腕に突き立てるふたり。鋭い刃が肉に食い込み、怪物が苦悶の声をあげる。
「ガァアアアッ!!」
怒りの雄叫びとともに爪を振るうマイナソー。それをことごとくかわし、ふたりの騎士は着実に刃傷をつけていく。手数はグリーンが勝っているが、ひとつひとつの深さはブラックが上回っている。いずれにせよ、遜色ない戦いぶりだ。鋭児郎は目を瞠っていた。
(すげえ……)
自分たちパトレンジャーと遜色ない、いやそれ以上かもしれない戦いぶり。ルパンレッドである爆豪もそうだったけれど、彼らの一挙一動には歴戦の技巧というものが感じられた。推定十代半ばとは、とても思えない。
ただそれでも、ガーゴイルマイナソーを完全に抑えることはできなかった。リュウソウケンの刃に比べて、マイナソーのスケールがあまりに大きすぎるのだ。
「ッ、やっぱり……大きい!」
「はっ……久々に骨があらぁ」
傷をつけても決定的なダメージにならず、むしろ怒りによってマイナソーの秘めた獰猛さが露になっていく。──こんなヤツに、ふたりだけで勝てるのか?
「目を狙うんだ!」
「やったらぁ!!」
「──ハヤソウル!」
グリーンの手にした新たなリュウソウルを、リュウソウケンにセット。
『リュウ!』
一回、
『ソウ!』
二回、
『そう!』
三回、
『そう!』
──四回、
『この感じィ!!』
電子音声──異世界のそれが"電子"であるかは考察の余地があるとして──がハイテンションに叫ぶと同時に、グリーンの右肩から腕にかけてを黄金の鎧が包み込んだ。
『ハヤソウル!ハヤハヤ〜!』
刹那──グリーンの姿が、消えた。
「……!?」
鋭児郎は慌てて目を擦った。自分の視覚がバグを起こしたのかと思ったからだ。しかし現実に、グリーンはその場から消えていた。
──否、走り出していたのだ。"ハヤソウル"によって脚力を大幅に強化されたことで、彼は目にも止まらぬ速度で
「僕のスピードに、着いてこれるかな!?」
自信に満ちた声に違わず、マイナソーはグリーンを捉えきれていない。周囲を駆けずり回る彼に爪を振り下ろすが、それはまったく見当違いの場所に突き立てられる結果となった。
「は、速ぇ……」
「あいつは、"疾風の騎士"だからな」
「!」
さも当然のように言うブラック──カツキに、思いがけなく面食らう。幼い頃からふたりで旅をし、戦ってきたのだろうふたりの関係は、卑近な言葉で表せば相棒と云うべきもので。
「──ンで俺ぁ、"威風の騎士"だ」
その手に、また別のリュウソウルが握られる。指で弾くことで、竜から騎士の姿へ。
「ブットバソウル、」
『リュウ!ソウ!そう!そう!──この感じィ!!』
『ブットバソウル!ボムボム〜!』
漆黒に炎をあしらったような鎧を纏うと同時に、跳躍するブラック。──いきなり眼前に現れた敵に、マイナソーは面食らった様子で。
「潰れろやぁ!!」──BOOOM!!
リュウソウケンが振り下ろされると同時に、爆炎がマイナソーの顔面を灼いた。
「グガァアアアア──ッ!!?」
苦悶の声をあげるガーゴイルマイナソー。初めて与えた明らかなダメージに、少年騎士たちは手応えを感じていた。
「やったね、かっちゃん!」
「おー。一気にトドメ、刺すぞ」
決着──確かに手出しの余地はなかったかと鋭児郎が嘆息したときだった。
「ウ゛ゥゥゥ……ッ──ウガァアアアアッ!!!」
凄まじい絶叫とともに、潰れたマイナソーの両眼が奇怪な光を放つのを鋭児郎は見た。これまでの経験が染みついた身体は、意識するより早く動いていて。
「──危ねえッ!!」
「!?」
全身を硬化させた鋭児郎がふたりの前に割り込むのと、マイナソーの眼孔から熱線が放射されるのが同時だった。
「ぐぅ──ッ!?」
「キリシマさん!?」
イズクの声が、遠くに聞こえる。──熱い、熱い、熱い。巌と化した皮膚が灼けることはないが、それでも熱感と衝撃までもを和らげることはできない。鋭児郎の身体は次の瞬間、大きく後方まで吹っ飛ばされていた。
「あのバカ、勝手に割り込んで吹っ飛ばされやがって……!」
「ねえ見た、かっちゃん!?あの人の身体、リュウソウルなしでまるで岩みたいに……」
「見とったわ。おおかた魔法かなんかだろ、それより──」
ガーゴイルマイナソーは怒りのあまり猛り狂っている。これは久々に手を焼きそうだとふたりは思った。だとしても、マイナソーは絶対に倒さねばならない。
──それが、"リュウソウジャー"の使命なのだから。
一方で、吹っ飛ばされた鋭児郎はというと。
「痛、っでぇぇぇ……ッ」
木の枝に引っ掛かっていた。頬にくっついた虫を、そっと払いのける。
「くっそ……あいつ、ギャングラー並みに強ぇ……」
ギャングラーと違って理性はないようだが、この世界にとっても脅威であろうことは想像に難くない。
「やっぱ、VSチェンジャーを見つけねえと……ん?」
ふと視界の隅に映った白銀。まさかと思って目を向けると、繁葉の隙間に"それ"が引っ掛かっていて。
「あ、あるじゃねえかVSチェンジャー!?つーかなんでここに……」
マイナソーの攻撃によって吹き飛ばされたはずだが。……いや自分とまったく同じ境遇で、同じ場所に飛ばされてきたとすれば、合点が行った。
「ヘヘッ……俺とおめェは、どこまでも一心同体みてぇだな!」
不敵に笑い、VSチェンジャーを手に取る。尤もその際の重みで枝が折れ、彼はあえなく地面に墜落したのだけれど。
「痛っ、でぇぇぇ……!またかよぉ……ッ」
尻を擦りつつ、よろよろと立ち上がる。痛いものは痛いが、呻いている場合ではない。異邦の守護者たる漢の意地を、この世界の騎士たちに見せてやらねば。
「いくぜ……!」
『1号、パトライズ!』
「──警察チェンジ!!』
*
リュウソウグリーンとリュウソウブラックは、自分たちの背丈の数倍はある巨大マイナソー相手に決め手を欠いていた。
「どうしよう、やっぱり騎士竜を呼ぶ!?」
「この程度のヤツ相手に呼んだら、嘲われンだろうが!!」
「そんなこと、言ってる場合じゃないかもしれないよ……!」
「ッ、一気に決める!!」
そう叫んで、新たなリュウソウルをチャージしようとしたときだった。
「ちょーっと待ったぁ!!」
「!」
勇ましい声と同時に、光弾がマイナソーに直撃する。火花が散り、ダメージには至らないまでもかの獣は明らかに怯んだ様子だった。
「パトレン1号、満を持して参上ッ!!」
「……誰だてめェ」
「!、もしかして……キリシマさん?」
「おうよ!おめェらのそのリュウソウ……なんとかと同じ、これが俺のバトルスーツだぜ!」
些か強引ではあるが、鋭児郎はそう押し切った。この御伽話の登場人物のような異界人たちにとって、警察スーツはオーパーツにも程があるだろうから。
「それより決め手なら、俺が持ってる。手ぇ貸すぜ!」
「ア゛ァ?てめェに出る幕はねえっつったろ!すっこんでろや雑魚が!!」
「!?、ざ……爆豪にも言われたことねえぞそんなこと!」
「だから知らねーわそんなヤツ!!」
ぎゃあぎゃあと言い争いになるのは、世界を越えた様式美のようなもので。慌ててイズクが仲裁に入ろうとするが、それより魔獣の足が出るほうが早かった。
「!!」
足裏と地面の間に──鋭児郎が、消えた。
「な……!?」
「キリシマさん!?」
踏み潰された……!?唖然とするふたりだったが、言うまでもなく、我らがパトレン1号はこんなことで斃れたりしない。
「……!?」
まず反応を示したのは、マイナソーだった。それから遅れて、イズクとカツキは目撃することになる。1号を踏み潰したはずの右足が徐々に持ち上がっていくのを。
「う、おおおおおお……ッ!」
「な、あいつ……!?」
「すごいパワーだ……」
強化服の下をガチガチに硬化させ、鋭児郎はあらん限りの力を振り絞っていた。ガーゴイルの巨大な足が少しずつ持ち上がっていく。それによって姿勢制御が崩れたことで、力比べのシーソーは鋭児郎へと傾いていく。
そして、
「──お、らァアアアアッ!!」
ついに彼は、マイナソーを投げ飛ばした。悲鳴をあげながら、その巨体が森林に突っ込んでいく。
「はぁ、はぁ……ヘヘッ、どうだばくご……じゃなかった、カツキ!俺も、なかなかやるだろ?」
「……チッ、」舌打ちしつつ、「てめェの力なら倒せんだろうな?」
「あたぼうよ!」
カツキの感情が変わったことを察知した鋭児郎は、嬉々としてサイレンストライカーを取り出した。トリガーマシンの多くは快盗の手に渡ったままだが、これだけは手元に残っている。いざというときの切札として。
『サイレンストライカー!グレイトパトライズ!』
「いくぜッ、超警察チェンジ!!」
VSチェンジャーにビークルを装填し、トリガーを引く。慣れ親しんだ動作とともに、黄金の鎧が警察スーツの上から装着された。
「スーパーパトレン1号ッ!!」
「おおっ、僕らの竜装と一緒だ!」
イズクが背後ではしゃいでいるのがわかる。だがその火力は彼らのそれを遥かに凌ぐだろう。何せギャングラーの首領にさえ、膝をつかせたコレクションなのだから。
「チッ!こいつひとりにやらせっかよ、俺らも行くぞ!」
「了解!」
「「──ツヨソウル!」」
再び、新たなリュウソウル。"ツヨソウル"と名付けられたそれは、文字通り剣技の威力を上昇させる効果がある。
『それ!』
一回、
『それ!』
二回、
『それ!』
三回、
『それ!』
──四回、
『その調子ィ!!』
「「──ダブル・ディーノスラァッシュ!!」」
『剣ボーン!』──けたたましいシャウトとともに、竜の形をとった剣波が放たれる。
同時に、
「グレイトイチゲキストライクッ!!」
スーパーパトレン1号が放つ、黄金の火砲。それらは互いに弧を描くようにしながらひとつとなり、マイナソーを呑み込んでいく。
「グォアァァァァァ──ッ!!?」
如何に巨体といえども、この膨大なエネルギーを前にしては堪らない。ガーゴイルマイナソーは瞬く間にその身を削られ、消滅していく。
──そして、ひときわ大きな爆発が起きた。
「っしゃあ、任務完りょ……えっ?」
喜びもつかの間、再び事態が急変した。爆炎はたちまち拡がり、鋭児郎をも呑み込まんとするのだ。
「な……──うわぁああああっ!?」
「キリシマさん!」「キリシマ!」と叫ぶ、少年たちの切羽詰まった声があっという間に遠ざかっていく。その姿かたちも。
そうして鋭児郎の意識は、光の中に消えていった。
*
ようやく目を開けた鋭児郎が最初に見たのは、見慣れた天井だった。
「……?」
『あ、切島さん!目が覚めましたか!?』
視線を逸らすと、やはり見慣れたサポートロボットの姿があって。
「……ジム……?」
『はい!良かったぁ、"個性"が解けたみたいですね!』
「こせい……?リュウソウ……なんとかと、マイナソーは……?」
『なんですかそれ?切島さん、ずっと眠ってたんですよ!子供の個性の暴発に巻き込まれて』
数時間前、鋭児郎と仲間たちはギャングラー出現の報を受けて出動した。その際、現場に取り残された幼児を救出しようとしたところ、折悪く発現した個性にかかってしまった──それがジム・カーターの説明だった。
『とにかく今、皆さんを呼んできますので!』
慌ただしくジムが去っていってしまうと、視線の置きどころを失った鋭児郎はなんとなく自分の手を見下ろした。
「……夢、だったのか?」
眠っていたということは、そうとしか考えられない。けれどマイナソーの攻撃を受け止めたあの感触も、あの世界のカツキとイズクの一挙一動も、色濃く五感に残されていて。
「いや……きっと夢じゃねえ」
鋭児郎は拳を、そっと握りしめた。おそらく子供の個性が作用して、自分は精神だけあの世界に飛ばされた。そして、異世界の彼らと共闘することができたのだ。
真実など、子供の個性を詳しく調べればわかること。ならば結果が出るそのときまでは、彼らの勇姿を現実のものとして心に刻んでおこう。こちらの世界の勝己たちに知らせてやるのは、それまで待っておくべきかもしれないが。
*
「キリシマさんって、ひょっとして異世界の人だったのかな?」
「あ?」
相棒の発した突拍子もないひと言に、カツキは顔を顰めた。
「昔読んだ本に書いてあったんだ。世界は幾つもあって、そこには僕らと同じ姿かたちをした人々が住んでるって。彼の言ってた"ミドリヤ"と"バクゴウ"って人も、異世界の僕らだとしたら納得がいかない?」
「けっ、どーでもいいわ」
「ほらぁ、すぐどうでもいいって言う!少しは戦い以外も興味持とうよ」
「そーいうのはてめェの領分だろ」
当たり前のように言う。まったく人の苦労も知らないでと呆れつつ、イズクは微かな喜びも覚えていた。その気になれば独りでなんでもこなせる幼なじみは、自分の存在を前提に思ってくれている。彼の役に立てるならば、こんなに嬉しいことはないのだ。
「おら行くぞ、デク」
「あ、待ってよかっちゃん!」
マイナソー狩りの旅は、いつ終わるともなく続く。その現実を厭うこともなく、彼らは再び歩き出す。それこそが、リュウソウジャーの使命なのだから。
「そうだ。キリシマさんが異世界の人なら、この世界にもいるのかもしれないね!」
「あんな鬱陶しいクソ髪、一生関わりあいになりたくねえな」
「またそんなこと言って!案外、すぐ傍にいるかもしれないよ?」
「サブイボ立つわ」
「そんなに!?」
──………。
「………」
辺境のとある村で、とある少年が夜空を見上げていた。大柄ではないが鍛えられた身体つきに、逆立てた赤髪。そしてその緋色の瞳は、星を反射してきらきらと輝いている。
「おーい、儀式始まっちまうぞー!早く来いよ〜!」
「──エイジロウ!」
友人に呼ばれ、駆け出していく少年。その名がエイジロウであることも、切島鋭児郎と瓜二つの──少しばかり幼いが──姿かたちをしていることも、もはや些末なことにすぎない。
ただひとつ、言えること。
次は、彼らの番だ。
Continued in Ryusoul Adventure…
次回作もよろしくお願いいたします!