インフェルノのフルがカラオケにないのに次期OPは既にあるのが悲しい。
翌日。
母校である音大に、耳郎響香は再び足を踏み入れていた──単身。
「………」
仲間には何も言わずここへ来た。ゆえに、彼女がひと晩かけて導きだした結論を知る者はいない。その背中も、何も語りはしないのだった。
*
駐車場の片隅に駐められたオートバイ、そのすぐ脇に、しゃがみ込む男の姿があった。
工具を手に、バイクに何か手を加えようとしている。そのルビー色の瞳は瞬きもなく見開かれ、尋常でない気迫さえ纏っていて。
「──何を……してるんですか、高宮先生」
「!」
唐突に背後からかかった声。気配すら感じとれなかった高宮が反射的に振り返る。
──響香の姿が、そこにはあった。
「なんだ、響香じゃないか!おはよう!」
まるで何もやましいことなどないかのように、高宮はぱっと笑顔を浮かべてみせる。
「バイクの調子が悪いみたいなんだ!そうだ響香、ちょっと診てくれないか?」
「それ、先生のバイクですか?」
「もちろん!」
響香は密かに拳を握りしめた。──あぁ、もう決まりだ。
「うそ、」
「………」
「上鳴のでしょそれ。ウチ、昨日見ましたから」
彼女は昨日、電気が大学を出るまでを見届けている。彼の愛車は響香が昔乗っていたものと同種のオートバイ、記憶に残らないはずがなかった。
「先生だったんですか?ウチの事故、仕組んだのは……」
ゆらりと立ち上がる高宮。その顔にもはや笑みはない。
「なんで……なんでそんなこと……!」
響香にはもう、尊敬していた恩師が見も知らぬ怪物としか思えなかった。いや、あるいはそれこそが事実かもしれない。だって、この男は──
「そうやって
「は……?」
いつものトーンで叫ばれた言葉を、響香はすぐには理解できなかった。
「おまえが悪いんだぜ響香!聞き分けのいい優秀な教え子だと思ってたのに、勝手に俺の才能を上回ってよう!電気の奴だってそうだ、まったくどいつもこいつも、先生怒りで身が震える毎日だぜ!!」
「何、言って……」
──嫉妬、とか?
昨夜の勝己のひと言が不意に脳裏をよぎり、響香ははっとした。まさか、そんな理由で?
「だから、おまえみたいなヤツにはお仕置きをしてやるんだ。才能を二度と発揮できなくしてやる、命まではとらない!みじめに生きながらえたほうが、自分の罪を懺悔できるって寸法だぜ!」
冷酷な本性を熱く語る──それを聞く者は響香だけではなかった。
「………」
柱の陰で様子を伺っている、快盗姿の爆豪勝己。昨日の邂逅の時点で、彼は高宮の本性を見抜いていた。終始笑顔で元教え子や現教え子と接していたあの男の目には、情というものがまったく感じられなかった。邪悪、そのもの。
そしてその邪悪な本性を、目に見える形で露にするときが来た。
「でも、もっと面白いことを思いついた!オレの能力で拐って仲間に売りつけるんだ、商売にもなるし一石二鳥だろう?だから──」
刹那、高宮の身体が膨れあがり……弾けた。現れた中身は、フクロウに似た醜悪な怪物。
高宮……否、ギタール・クロウズは、即座に己のもつルパンコレクションの能力を発動させた。感情の奔流に声も出せない響香の背後に、突如としてブラックホールが姿を表す。
「よりによって警察に成り下がったおまえのことも、売り飛ばしてやるぜぇ!!」
ブラックホールの発する突風は、オートバイすら浮上させて吸い込む。当然、響香に抗えるわけがなかった。
「きゃぁああああ──!」
漆黒の闇へ消えていく響香。それを見届けたうえで、ギタールも自らあとに続く。
そして役目を果たしたブラックホールが閉じようとする瞬間に、勝己もまた動いた。軽やかに跳躍し、穴に飛び込む。彼の姿もまた消えた一秒後には、荒れ果てた駐車場は静寂のみを取り戻していたのだった。
*
──響香。
恩師の呼び声がいずこからか聞こえる。音量が大きすぎることもたまにはあるが、親身で温かな響きが響香は好きだった。
──響香、
あぁ、でももう少しだけ。もう少しだけ、甘い過去の残像に……。
「起きろ響香ぁ!!」
「う゛あぁッ!?」
背中に奔る衝撃──遅れて激痛。響香の意識は一瞬のうちに現実へと引き戻された。
そう、現実──冷たい岩肌の上で、恩師と同じ声をした怪物に踏みつけられているという。
「いつまで寝てるんだよ!?おまえは売り物なんだから、自分の立場をわきまえなきゃダメだぜ!!」
「ぐ、うぅ……ッ」
声ばかりでなく、特徴的な話し方まで何ひとつ変わらない。──もうわかっているのだ、この怪物こそ恩師の正体だったのだと。
なんとか顔だけ上げれば、洞窟の奥に手足を拘束された人々の姿があった。すべて見知った顔……失踪者たちと一致している。
「……ッ、」
なんとか、あの人たちだけでも救けなければ──思いとは裏腹に、ギタールの足にはますます力がこもっていく。
「なに抵抗しようとしてるんだよ!?一度裏切られちまったけど、オレはまだおまえのこと信頼してるんだぜ!頼むからこれ以上オレを悲しませないでくれよ!!」
「ふざ、けないで……!」
「おい返事が違うだろ!?」
「ぐぁ……ッ!」
──背骨を、折られる。流れる冷や汗とともに、そんな恐怖が全身を支配する。高宮は昔から、熱くなると周りが見えなくなるところがあった──それは演技でもなんでもない、ギタール・クロウズの本性そのままだったのだろう。だから、尚更……。
「先生の言うことが聞けない悪い子には、もういっぺんお仕置きだぁ──ッ!!」
「──!」
刹那、
「ぐわッ!?」
突然ギタールがうめき声をあげ、足もまた響香の身体から離れる。
その身体には、赤いカードが突き刺さっていた。
「よォ、熱血クソ野郎」
「!」
この声は──
「快盗……!?」
なぜここに。この瞬間ばかりは、響香とギタールの疑問は一致していた。
いずれにせよ、そんなものに応えてやるほど勝己はお人好しではない。
「テメェのお宝、今度こそいただき殺すッ、──快盗チェンジ!!」
VSチェンジャーから放たれた光弾がギタールを弾き飛ばし、ブーメランのように帰ってきたかと思えば今度は勝己の全身を包み込む。
そしてギタールに飛びかかったときには、彼は一瞬にしてルパンレッドに変身を遂げていた。
一方で解放された響香は、痛みをこらえて起き上がるや囚われた人々に目を遣った。個人的感情よりも、いまは警察官として。
彼らの拘束を解き、さらにVSチェンジャーで牢を破壊する。
「これでもう大丈夫。さ、早く逃げて!」
響香の誘導により逃げ出す人々。しかし、ひとつ難点があった。途上にいるギタールが、それを黙って見逃すはずがないという。
「あっ、おい待てお前ら──」
「ピーピーわめくな耳障りなんだよ!」
すかさずルパンレッドが攻撃を仕掛け、ギタールの挙動を阻む。そのおかげで、響香が身を挺すまでもなく彼らは洞窟から飛び出していった。
(こいつ……)
それが意図したものかどうか、響香にはわからない。だが、結果は結果だ。
唇が弛みかかるのを抑えて、響香はVSチェンジャーを構えた。
「警察……チェンジ!!」
『3号、パトライズ!』
警察チェンジ、と電子音声がリピートし、響香の身体が桃と純白の装甲に包み込まれる。
パトレン3号へと変身を遂げた彼女は、VSチェンジャーを構えた。銃口の向かう先では、ルパンレッドとギタールがなおも死闘を繰り広げている。
「………」
快盗と、恩師という名のギャングラー。
狙いは当然、後者だった。
「がッ!?」
目の前の敵に注力していたギタールにとり、これは完全な不意打ちだったらしい。よろけたところに、すかさず駆け寄り──
「ふ──ッ!!」
拳を、振りかぶった。
「ゴハァッ!!?」
顔面に突き刺さった一撃は、そのままギタールを吹き飛ばすこととなった。彼は背中から岩壁に叩きつけられる。その威力はただの殴打というには強力だったのか、彼はすぐには起き上がれない。
そう、それほどの一撃を放つほどの気迫を、いまの彼女は放っていた。傍らのルパンレッドが、思わず息を呑むくらいには。
だが、
「……借りは返したよ」
「!」
そのひと言で、レッドは彼女の意図を悟った。──そういうことなら、乗らない手はない。
すかさず駆け寄ったレッド。起き上がろうとするギタールの胸を力いっぱい踏みつけると、腹部の金庫にダイヤルファイターを押し当てた。
『2・9・6!』
「あッ、おいやめ──」
ギタールの意志とは関係なく、金庫は開かれてしまう。すかさずレッドの手が侵入り込み、コレクションを取り上げる──
「おまえ、返せよ!!」
「ヤだね。──オラァっ!!」
追い討ちに思いきり蹴りつけ、飛び退く。もう用は済んだ、この場にいる意味はない。ないのだが……拳に力を込めたまま立ち尽くす3号を見ていると、不思議と撤退する気が失せた。
「く、くっそぉ……!」
「!」
よろよろと立ち上がるギタール。金庫が半開きのままなのが実に滑稽だが、彼はまだあきらめてはいなかった。
「オレを舐めるんじゃねえぜッ、うおおおおおおお──!!」
雄叫び。それはただの熱血ぶりの発露ではなかった。ギャングラーは皆、ルパンコレクションのほかに生来もつ特殊能力がある──人間たちの"個性"と同じく。
ギタールにも当然それがあった。彼は自身の声を増幅し、聴く者に甚大なダメージを与える音響兵器とすることができる。
「ぐ……!」
「……ッ、」
咄嗟に耳を塞ぐふたりだったが、ギタールの咆哮は手で押さえたくらいでは到底防げない。
このままでは、聴覚中枢まで破壊されるのも時間の問題。この音に侵されたままでは身動きすらとれず、ふたりの抱く危機感は頂点に達しようとしていた。
しかし、すんでのところで彼らは救われた。
洞窟の外から飛んできた光弾がギタールに直撃したのだ。当然、シャウトは悲鳴へと変わってしまった。
「そこまでだッ、ギャングラー!!」
入れ替わるように、勇ましい声。洞窟内に降り注ぐ陽光を背に立つふたつの影。それは、
「パトレン1号!!」
「パトレン、2号ッ!!」
暗闇に打ち勝つ鮮烈な赤、あるいは緑を輝かせた、響香の仲間たちの姿だった。
「無事か、耳郎くん!?」
「飯田、烈怒頼雄斗……どうしてここが?」
「耳郎さんの携帯の位置情報、ジムに調べてもらったんス!」
「スンマセン!」と手を合わせる1号。おかげで助かったのだから構わないが、それにしても早いと感じた。あるいは仲間たちには、自分がこういう行動に出ることは予想しえたのかもしれない。
「しかし、独りでよく保たせたな」
「え、独りって……」
慌てて振り向けば、先ほどまでそこにいたはずのルパンレッドが忽然と姿を消していた。当然、ルパンコレクションもろとも。
「響香……ッ」
「!」
名を呼ばれて、3号は恩師の存在を思い出した。恩師──ギタールは息も絶え絶えで目前に立ち塞がっている。縋るように、手を伸ばしてくる。
「………」一瞬の沈黙のあと、「ふたりとも……手ぇ貸して」
「……いいんスか?」
「ウチらの仕事は、ギャングラーを殲滅することだよ」
「!」
あらゆる想いを込めた彼女の言葉。ならば仲間たちに、彼女を抑える権利などあるはずがない。
「……パトレン、3号!」
「「「警察戦隊、パトレンジャー!!」」」
「国際警察の権限において……実力を行使する!」
『お前らの覚悟、グッと来たぜ!』
チームとしての名を名乗ると同時に、グッドストライカーが疾風のごとく現れる。予測はしていないまでも、既に彼を手にした経験のあるパトレンジャーは迷うことなくその到来を受け入れた。
『1号!2号!3号!』
『一致団結!!』
1号のVSチェンジャーにグッドストライカーが取りつくと同時に、2号と3号の身体が光となって1号に"融合"する。
融合──"パトレンU号"は、沈黙のままに銃口をギタールへと向けた。
「や、やめろ響香!オレを殺すことの意味がわかってるのか!?音楽界における大いなる損失になるぞ!?」
「………」
自身が追い詰められていることをようやく自覚してか、ギタールはU号──主に元教え子──を説得しようとする。それでも銃を握る手が揺るがないとみるや、切り口を変えてきた。
「わかった、またギター弾けるようになりたいんだよな!?それならギャングラーのいい医者を紹介してやる、彼女の治療を受ければ元通りに弾くのなんて簡単だぜ!!」
「!、………」
一瞬、指が引き金を離れかける。それを認めたギタールが胸を撫で下ろしかけた、刹那。
「……ウチはもう、警察官だから」
つぶやきとともに、再び指に力がこもる。
『イチゲキ、ストライク!!』
電子音声とともに、ひときわ巨大な光弾が放出される。それは一瞬にしてギタールに接触し、内側に捕らえることに成功した。閉じ込められた肉体に、膨大なエネルギーが容赦なく降り注ぐ。
「ぐ、がぁッ、ぎゃあああああああ!!?」
灼熱の波動に、ギタールの生身が耐えきれるはずもなく。寸分のちに彼は大爆発を起こし、その身は粉々に四散したのだった──
「……任務、完了」
それはどこまでも、静かな宣告だった。
*
唯一原型を残したギタールの金庫が、洞穴を飛び出してくさむらに転がっている。
そこに、空間をねじ曲げるようにして"彼女"が現れた。──ゴーシュ・ル・メドゥだ。
「商品を逃がしたうえに逆に私を売ろうとするなんて、どうしようもないわね……まったく」忌々しげに毒を吐きつつ、「私の可愛いお宝さん。ギタールを元気にしてあげて」
ルパンコレクションの波動を浴びた金庫がふわりと浮遊し、
「ウオオオオオオオオッ!!」
ギタールは生前の姿そのままに復活を遂げた──ただし、何十倍にも巨大化した状態で。
「面目ないぜゴーシュっ、あとは任せろ!!」
「言われなくても帰るわよ……」
冷たく言い捨てると、ゴーシュは夢幻のごとく一瞬にして姿を消してしまった。
ギタールにしても、既にゴーシュに関心はない。
「よくも先生の命乞いを黙殺したな響香ァ!おまえだけは絶対に許さねえ!!」
「!」
「踏み潰してやるゥ!!」という宣言どおり、洞窟から出てきたU号めがけて迫りくる巨大ギタール。"イチゲキストライク"は文字通り一撃必殺、短い間隔で連射はできない。
彼らが動くより早く、ギタールの足が振り下ろされようとしている──
「死ねぇええええッ、警察~!!」
『テメェが死ね!!』
「!?、ぐわっ!」
突如飛来した赤い飛行体が、果敢にもギタールに衝突する。彼がよろけたところですかさず距離をとり、砲弾を浴びせかける。
「あれは確か、快盗の……?」
レッドダイヤルファイター。撤退したわけではなかったのかと響香は思った。彼はもう、目的を達しているはずなのだ。
彼女の疑問には当然応えず、孤軍奮闘を続けるレッド。しかしギタールが雄叫びで反撃を開始すると、決め手に欠けるダイヤルファイターではいとも容易く押し返されてしまう。
「チッ……」
焦れたレッドが舌打ちをこぼしたそのとき──ギタールの背中越しに、青と黄の二機が姿を現した。
「お待たせ~レッド『遅せェわカスども!!』……うわぁ」
「自分が勝手に飛び出したんだろうが……まったく」
しかしいずれにせよ、これで役者は揃った。あとは──
『おいコウモリ野郎ッ、いつまでそこで見物してやがる!?』
「!」
『!、おおっと、オイラとしたことが……』
パトレンジャー一同が制止する間もなかった。グッドストライカーはVSチェンジャーを離れ、空高くへ飛んでいく。同時に
「うわっ、あいつまた……」
「くっ、快盗め……!」
男たちが遺憾を露にする一方で、
「……ま、任務完了っつっちゃったしね」
響香だけは、憑き物が落ちたかのように飄々としていた。
『グッドストライカー!Get Set……飛べ!Ready……Go!!』
ルパンレッドのVSチェンジャーから撃ち出されたグッドストライカーが、電子音声とともに巨大化していく。
『勝利を奪い取ろうぜッ、快盗ガッタイム!!』
グッドストライカーを中心に、寄り集まっていくダイヤルファイター。ダイヤルが回転しながらそれぞれが人体のパーツの形へと変わっていく。
そして、接合。グッドストライカーから人面が露になれば──いよいよ、快盗の王が誕生する。
『完成、ルパンカイザー!』
その瞬間を告げる声とともに、コックピットの中心からぬいぐるみ型になったグッドストライカーが現れる。
『よう、またよろしくな!』
「……こっち見んな、コウモリ野郎」
『おまっ……いい加減名前で呼べよな~!?』
「やだ。長ェし」
『ムキ~!!』
頭?から湯気をたてるグッドストライカー人形。見かねたイエローが、横から口を出した。
「じゃあ、"グッディ"なんてどう?」
『グッディ!?……グッと来たぜ!』
こちらは気に入ったらしく、一転してはしゃぐ。──と、そのとき、業を煮やしたギタールが攻撃を仕掛けてきた。
「ッ!」
不意打ちになるかと思われたが、ルパンカイザーは素早く身を翻してみせた──会話に参加しなかった一名のおかげで。
「……おしゃべりはそこまでだ。戦いに集中しろ」
「チッ……わぁっとるわ!」
すかさず右腕のガトリングが火を噴く。銃弾の雨あられに悶えるギタールだが、それだけには終わらない。銃撃を続けながら、木々を掻き分けるように走る、走る、距離を詰める。
そして、
「いっけぇ!!」
イエローのかけ声とともに、左腕のノコが回転しながらギタールの胴体を切り裂いた。
「グハァッ!?」
鮮血が噴き出す。人間だったらば致命傷になりかねない傷だが、ギャングラーは常人より遥かに頑丈だ。
「オレは……この程度であきらめないぜッ!──ウオオオオオオオオッ!!」
再び発動する、切り札たるデスボイス。その激しさはマシンですら押し返す迫力があった。
「ッ、耳障りな……!」
「クソが──ウゼェんだよ!!」
だが、快盗相手に風向きを変えるには程遠かった。押しやられかけたルパンカイザーが、レッドのがむしゃらな操縦で前進に転じる。一気に距離を詰め、
「ぐわばらぁッ!?」
体当たり。その重量に負け、ギタールは木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいく。
確かに効果的な攻撃ではあったが、反動は当然にあるわけで。
「痛つつ~……乱暴やなぁもう」
「るせーわ。コウモリ野郎、トドメだ」
『………』
「おいコウモリ野郎!」
『……やだ』
「あ!?」
『グッディって呼んでくれなきゃやだ!』
刹那、静寂に包まれるコックピット。思わず左右を仰いだレッドは、仲間たちの視線が己に集中していることに気がついた。
(……早くしろ)
(早くしろ!)
念を、送られている。
「……ディ、」
『え?なんだって!?』
「グッディ!!トドメだっつってんだ!!」
『!、承ったぜ~!!』
地面を蹴って跳躍するルパンカイザー。その機体が遥か高みにまで昇ったところで、三人はVSチェンジャーを構えて立ち上がる。
「
ルパンカイザーの手の中に形成された巨大なVSチェンジャーから、無数の光弾が降り注ぐ。それらは一発も外れることなくギタールの身体を食い破っていく。
そして──
『グッドストライカー連射ッ、倒れちまえショット~!!』
弾が尽きたときには、立ち尽くすギタールの身体は蜂の巣になっていた。
「オレの、才能……誰よりも……」
ゆっくりと地面に崩れ落ち──爆発。復活から数分のうちに、彼は再び爆発四散した。今度は、金庫ごと。
「……地獄の底でほざいてろ、熱血クソ野郎」
ルパンカイザーの勇姿が、遮るもののない陽光を浴びて輝いていた。
*
数日後、響香は再びかの音大にいた。
「ほら、また同じとこで指使いがテキトーになってる!」
「む、ムズいっス……」
「泣き言言わない!もう一回!」
上鳴電気の演奏が、空き教室に響く。指導なんて柄じゃないと自嘲しつつも、彼女は自らそれを買って出ていた。
「……うん、まあ良くなってきたかな」
「マジっすか?あざっす!」
疲れが見えていたのが一転、ぱあっと表情を明るくする電気。──彼は、高宮は急遽海外の大学へ転籍になったと思っている。
軽薄そうで実のところは純粋な感性をもっているこの青年には、今しばらく真実は告げられそうにない。
響香が複雑な心持ちでいると、ふたりきりの教室のドアがにわかに開かれた。
「!、あんた……」
「……ども」
爆豪勝己だった。
どうしてまた、彼がここに──疑問を抱いたのはほんの一瞬だけだった。
勝己と視線がすれ違った瞬間、響香は悟った。この少年は、すべて理解っている。理解って、ここに来たのだと。無論この時点では、彼があの赤い快盗の正体だなどとは知るよしもないが。
「おっ、おまえこの前いたヤツだよな?」何も知らない電気が親しげに声をかける。「ひょっとして、俺のファンになっちゃった系?」
「ンなワケねーだろアホかアホ面」
「あ、アホ面ぁ!?」
明らかに年少の少年にアホ面呼ばわりされショックを受ける電気。ただ何も、勝己も彼を罵倒しに来たわけではなかった。
「……ま、聴いてやってもいいけどな」
「!」
再び視線が交錯する。勝己の口許がわずかにゆがむのを認めて、響香もまた頬を弛めた。
──聴衆ふたりのがらんとした教室に流れる、インプロヴァイズ。何も知らないはずの青年のそれは、郷愁を色濃くにじませたもので。
けれど……そのわずかな隙間から、きらりと光るものがあった。
演奏を聴きながら、響香は思う。
自らこの音色を奏でられないことなど、もう惜しくはない。
これから先、この音色を守ってゆくことができるならば、それで十分だった。
à suivre……
次回
「スカベンジャー」