【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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戦隊ならではの1話完結個別回。1~4話の流れ的に連続ドラマ方式も考えたんですが、やっぱり戦隊はこうなります。

早くX出したいなぁ~。


#6 スカベンジャー 1/3

 

 今さらながら、快盗戦隊ルパンレンジャーの面々は元締めのルパン家により、喫茶ジュレという職場を与えられている。

 

 それは世間の目を欺くと同時に、報酬を支払うためのカモフラージュでもあった。──つまり快盗たちは表向きの身分を利用し、快盗稼業の対価を堂々と得ているのである……給与という形で。

 

 以上のような前置きとなったのは、この日が彼らの給料日であり、それを心待ちにしていた者がひとりいたからだ。

 

 

「──あ、もしもしお母ちゃん?うん、今月も振り込んどいたよ。……もう、ええねんてそんな!お仕事、案外楽しいんやから。それより……お父ちゃんの具合、どう?」

 

 電話越しの母の言葉に、相槌を打ち続ける少女。その表情がわずかに沈んだものとなるが、往来をゆく人々は気にも留めない。

 

「……私のほうは大丈夫やから、お母ちゃんもあんま無理せんといてな。うん、うん……じゃあまた、来月ね」

 

 通話を終え、携帯電話を()()()。ふと傍らを見ると、登校途中なのだろうセーラー服の少女たちが、スマートフォンを手に楽しげにすれ違っていった。

 

「………」

 

 その姿を見送る少女の表情に、一瞬ほんのわずかな悲哀のいろが浮かぶ。

 

 

 彼女──麗日お茶子の人生は、ギャングラーによって狂わされたのだ。

 

 

 *

 

 

 

 そのギャングラー構成員のひとりが性懲りもなく、次代のボスの座を狙って動きだそうとしていた。

 

「~♪」

 

 わざわざ持ち込んだロッキングチェアを揺らしながら、口笛を吹く少年。あどけない容姿に相応しからぬ尊大な態度、その傍らにはふたりの女性が侍っている。彼女らの表情は一様に茫洋としており、感情という感情が削ぎ落とされてしまったかのようだった。

 

 彼は背もたれに身を預けたまま、幼いどんぐり眼でテーブルの向かいに座る異形の老人を見据えた。

 

「ご機嫌麗しゅうドグラニオ様、お会いできて嬉しいよ。ボスの座を引き継ぐ以上は、早くご挨拶しなきゃと思っていたからね」

 

 既に決定事項であるかのように言う少年。それに対し食ってかかったのは、ドグラニオの側近くに仕えるデストラ・マッジョだった。

 

「貴様、口のきき方をわきまえろ!大体なんだ、その姿は?誰が人間を連れ込んでいいと言った!?」

「……うるさいなあ、おまえになんか用はないよ」

「なんだと、貴様……!」

「──よさないか、デストラ」

「!」

 

 例によってデストラを制止しつつ、彼の主はくつくつと愉快げに喉を鳴らす。

 

「随分人間界を満喫しているようじゃないか、ルレッタ。で、おまえが人間界を掌握すると?」

「うん♪人間界を支配するのに、何も武力に頼る必要はないんだよ」

「ほう?」

 

 興味深げに身を乗り出すドグラニオ。その反応に満足した少年──ルレッタ・ゲロウは声高に己の計画を語った。子供の姿を()()()()()からこそ学べたこともある。他の粗野で浅慮な連中には、思いもよらない作戦だろう。

 

「満足させてあげるよ、絶対にね。だから──」

 

 刹那、少年の姿は椅子の上から消えていた。そして瞬きもしないうちに、ドグラニオの鼻先に蛙に似た醜悪な怪物の姿が現れる。デストラが止める間もなかった。

 

「ボクだけを見ていてよ……ドグラニオ様?」

「ッ、離れろ!!」

 

 慌てたデストラが引き剥がそうとするも、そうするまでもなく彼は跳躍して距離をとっていた。着地の瞬間にはもう、その姿は少年のそれに戻っていて。

 

「じゃ、行ってきま~す♪」

 

 目に光のない女性たちを引き連れ、ルレッタは颯爽とドグラニオの館をあとにする。残されたままのロッキングチェアが、彼の自信のほどを示していた。

 

 

 *

 

 

 

 国際警察のタクティクスユニット、警察戦隊パトレンジャー。表向きギャングラーが平静にしている中であっても、彼らに安息のときはない……無論、非番の日はあるが。

 

 この日は始業早々、管理官・塚内直正から重大な報告があった。

 

「ギタール・クロウズこと高宮隼人についての調査が完了した」

 

 黙っていれば壮年には見えない童顔の上司の言葉に、隊員たちの肩には自ずと力が入る。

 

「結論から言えば……彼の人間としての経歴に、偽造されたものはなかった」

「……!」

 

 え、と声を漏らしたのは、ヒーロー事務所から出向という形で籍を置いている切島鋭児郎だった。つまりギタールは、身分を偽ってあの大学に潜り込んだわけではなかったということだ。

 

「ジム、資料を」

『はい!』

 

 ジム・カーターが一同に書類を配っていく。そこには各方面から集められた情報がまとめてある。中には明らかに高宮の面影を残した少年の写真まで。

 

「……これを見る限り、高宮せんせ……高宮は、ギタールのつくり出した架空の人物ってワケじゃなさそうだね」

「まさか子供んときからギャングラー……なんて、ありえないっスもんね」

「ギャングラーがこの世界に現れたのはここ五、六年の話だからな……。しかし管理官、そうなるとギタール・クロウズは、この数年間のどこかで高宮とすり替わったということでしょうか?」

 

 高宮はあの若さで音大の教授を務めていただけあって、それなりの経歴を有している。ギタールも音楽に造詣はあったからその点は問題なかったかもしれないが、社会生活においてまったくボロを出さなかったとは考えにくい。

 

「きみの言う通りだ。……実は五年前、高宮はある日突然修行のため海外へ行くと言って数ヵ月間行方をくらましている。その間、知人とはSNS等でのみやりとりをしていたようだ。そして帰国後にはやや人が変わったようだったと、複数の関係者が証言している」

「不自然さを誤魔化すために暫く周囲との関係を絶っていたということか……。海外に何ヶ月もいると、感化されて言動が変化する例もないではないしな」

「でも、だとすると……本物の高宮さんは?」

 

 室内に、重苦しい沈黙が降りる。皆が想像している答は一致していたのだ。それも、最悪の──

 

 

 そのとき。間の悪いことに、ジムに装備されたサイレンがけたたましいアラート音を鳴らした。鋭児郎などは思わず「うおっ!?」と声をあげ、椅子からずり落ちそうになってしまう。

 

「どうした、ジム?」

『愛野谷町に、ギャングラー出現の通報ですッ!』

 

 先のようなありさまだった鋭児郎も含め、三人が一斉に立ち上がる。

 

「ッ、今はこちらが優先か……」

「あ、いっそのこと訊いてみるのはどうっスかね!?そのギャングラーに」

「確かに……訊くだけならタダだしね」

 

 気休めのような提案ではあったが、少なからず彼らの士気を高めるにはひと役買った。生命線ともいえるVSチェンジャーを携え、タクティクスルームを飛び出していく。

 

『皆さん、お気をつけて!』

「………」

 

 有言と不言。そこに違いはあれ、見送るひとりと一機の心情も一致していた。

 

 

 *

 

 

 

 麗日お茶子は目の前の光景に言葉を失っていた。

 

 朝イチで銀行を訪れ、ついでに買い出しも済ませてちょうどスーパーマーケットから出たところだった。すると独りぼっちで座り込んでいる男の子がいたので、迷子かと思って声をかけたのが始まりだった。

 

 結論からいえば、男の子は迷子などではなかった。母親は彼の目と鼻の先にいたのだ──ただし、奇妙な黒い塊を抱いて。

 それは球体から尻尾のような突起が生え出でたような形状をしており、幼少時代に近所の川で獲ってきたオタマジャクシを思い起こさせた。

 不審に思いながら母親に声をかけたお茶子だったが、返ってきたのは胡乱な視線だった。懐に抱いたオタマジャクシをまるで愛すべき我が子であるかのように扱いながら、そそくさと車に乗り込んでしまう。

 

──そんな光景が繰り広げられていたのは、スーパーマーケットの敷地内ばかりではなかった。

 

 街のあちこちで、オタマジャクシを抱いた父母らが我が子を置き去りにしていた。通行人らの異様なものを見る目どころか、子供たちの呼び声にさえまったく反応を示すことはない。

 

「何なん、これ……?」

 

 呆然とつぶやくお茶子。と、同じように辺りを窺っていた親子ももとに、あらぬ方向から黒い球体が飛んできて激突した。

 次の瞬間には、その親子も周囲と同じ末路を辿っていた。子供は放り出され、親は歪な肉塊を我が子と思い込んでいるようだった。

 

 よもやと思ったお茶子は、球体の飛んできた方向を仰ぎ見た。雑居ビルの、屋上。そこに異形の怪物の姿があったのだ。

 

「ギャングラー……!」

 

 反射的に飛び出そうとしたお茶子だったが、すんでのところで踏みとどまった。ルパンコレクションを奪取するためには、自分ひとりではあまりに心許ない。

 その場で携帯電話を取り出し、

 

「もしもし、炎司さん?………」

 

 

 一方、かのギャングラ──―ルレッタ・ゲロウは満足げに舌舐めずりをしていた。

 

「う~ん、イイ感じ♪この調子で、ボク以外のガキどもなんてみんな捨てられちゃえばいいんだ!」

 

 つぶやきというには喧しい声を発しつつ、己の肉体から生成した球体を弄ぶ。"スポーン・ボム"と名付けられたそれこそ、親子を引き裂く元凶そのものだった。

 

「さあてと、もういっちょ──」

 

 ボムを地上に投げつけようとしたルレッタだったが、刹那、手首に熱と衝撃が奔った。

 

「痛でッ!?」

 

 たまらず呻く。──それが銃撃によるものであることは、すぐにわかった。

 同時に、黄色と黒で全身を覆った仮面の少女(マスカレイド)がいきおい眼前に現れる。

 

「ゲッ、快盗……」

 

 直接相まみえたのはこれが初めてだったが、知識としてその存在を知ってはいた。何せ、既に幾人もの同輩が命もろともお宝を奪われているのだ。

 

「何ワケのわかんないことやってんの、ギャングラー!」

「ワケわかんない?ハハッ、想像力の欠如だね!」

「ッ!」

 

 ギャングラーを相手に会話を試みるだけ無駄だと、彼女──ルパンイエローは瞬時に戦闘態勢をとった。自分のすべきことは、第一にルパンコレクションを奪取すること。

 

「ふ──ッ!」

 

 今度は胴体に照準を定めて、VSチェンジャーのトリガーを引く。中距離からの射撃である以上は、彼女が外すことはもちろん、相手がかわしきることも至難のはず。

 

 刹那、彼の腹部に嵌め込まれた金庫が、鈍い輝きを放ち──

 

 

──弾丸が、ひとりでに逸れた。

 

「え……!?」

「ケロケロ、ボクには当たらないよぉ!!」

 

 嘯くと同時に、彼はくわっと口を開いた。隠されていた舌が一挙に伸び、イエローの眼前に迫る。

 

「きゃあぁっ!?」

 

 次の瞬間には、彼女はビルから叩き落とされていた。

 

「痛ッ、うぅ……!」

「ごめんねぇ、痛かった?」

 

 「でもキミが悪いんだよ、ボクの邪魔したから」と、ビル上から見下すようにしながら嘲うルレッタ。どこまでも人を喰ったような態度にイエローの腸は煮えくり返ったが、独りではやはり限界があった。

 

「ホントは戦うのめんどいんだけどなぁ……キミひとりなら簡単に片付きそうだし、どうしよっかなぁ」

 

 

「決ぃめた、ココで殺しとこっと!」

 

 冷酷な宣言とともに、容姿に似合わぬ軽やかな所作で飛び降りる。突き出した金色の瞳が、ぎょろりとイエローを睨みすえる。

 

「……ッ、」

 

 イエローはVSチェンジャーを握りしめて立ち上がった。当然、殺されてやるつもりなど微塵もない。それに……そろそろ、頃合いだろう。

 

「そこまでだッ、ギャングラー!!」

「!?」

 

 予想通り、来た。ただしその人物たちについては、予想とは異なっていて。

 

「げっ、お巡りさん……」

 

 今度はイエローのほうが蛙の潰れたような声を発してしまった。お巡りさんこと、警察戦隊パトレンジャー。ギャングラーだけでなく、自分たちとも対立する存在。

 

「快盗も!……ひとりか?」

「ちょうどいいじゃないっスか。さっさとギャングラー、倒しちゃいましょう!」

「……だね」

 

「国際警察の権限において、実力を行使するッ!!」

 

 宣言すると同時に、果敢に躍りかかっていく警察戦隊。対するナメーロも余裕を保ってそれを迎え撃つ。

 一方でイエローはというと、敵と敵が激突する状況に置いていかれ気味だった。

 

「う~、ど、どうしよう……」

 

 どさくさ紛れにルパンコレクションを奪いたいが、ルレッタの周囲はパトレンジャーにがっちり固められてしまっている。自分の実力でうまく滑り込めるかどうか。正直、自信は──

 

「……ッ、」

 

 躊躇を捨てきれずにいると、背後からふわりと風が吹いた。それは仲間の到来を告げるもので。

 

「おい丸顔ッ、何やってんだ!」

「あ、ふたりとも……」

 

 レッドが怒り気味に肩をはたいてくる。

 

「警察も来ている以上猶予はない。我々が撹乱する、懐に潜り込め」

「う、うん!」

 

 ブルーの冷静な命令に、一も二もなくうなずいた。四半世紀にも及ぶプロヒーローとしての経験は、やはり戦場における命綱に他ならないとお茶子は思う。ただ、あくまで便利なツール程度にしか思っていない勝己と異なり、自分がそれに甘えすぎていることを自覚もしていたが。

 

 が、戦闘を好かないだけあって、ルレッタは状況の変化に対して敏かった。快盗までが揃ってしまった以上、この戦いを続けることになんのメリットもない。

 

「全員、ボクのおタマちゃんの虜になっちゃえッ。そ~れッ!」

 

 金庫が再び輝きを放ち──同時に、複数のスポーン・ボムを頭上に投げつける。

 

「!」

 

 咄嗟にかわそうとする一同。しかしどうしてか、身体がうまく動かない。そうこうしているうちに、オタマジャクシたちが身体に接着し──

 

「う゛ッ!?」

 

 ずしりと身体に重くなり、たまらずその場にへたり込む──イエローを除いて。

 

「う、ぐ……!」

「お、重……ッ」

「ンだ、これ……!?」

 

「ちぇっ、5が出るかぁ……」腹をさすりながらつぶやく。「にしても全員()()()の効果が出るとはねぇ。ま、冴えない独り身くさい連中ばっかだし当然か、ケロケロ!」

「ッ、ンだとこら……!」

 

 唸りつつ、ルパンレッドが目配せしたのはイエローだった。いま動けるのがひとりである以上、援護ができなかろうが彼女が矢面に立つしかない。

 

 ただ、彼女は即座には動けなかった。いや躊躇というほど明確な停滞ではない、ほんの一瞬のラグだったのだが、ルレッタには十分な猶予だった。

 

「はいよっと!」

 

 今度は自身の足下にボムを投げつける。ようやくその名に違わぬ効果を発揮したというべきか、球体が弾けて小爆発を起こす。そしてそれは、ルレッタの姿を眩ましてしまった。

 

──逃げられた。

 

「あ……」

「ッ、クソがぁ!」

「……ここは、退くぞ」

 

 表向き冷静さを保ったブルーの言葉に、年少のふたりは従うほかなかった。いつものようにロープを出してひらりと跳躍するには身体が重すぎるので、足を引きずるようにして地道に走るという醜態を晒す羽目になるのだが。

 そして警察の面々はというと、追跡どころか起き上がることさえできず彼らを見送るほかなかった。

 

「ま、待て快盗……ぬうぅッ」

「つ、つぶれるゥ……!」

「あ、あのカエル野郎……ッ」

 

 三者三様だったが、とかく悔しがっていることだけは共通していた。

 

 

 

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