【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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いよいよ明日からですね、4期。

デクとの相剋を乗り越えたアニメ(原作)かっちゃんがトップヒーローへの道を突き進んでいく一方で、拙作のかっちゃんは強くなればなるほど夢から離れていく。そんなかっちゃんが好きです。


#6 スカベンジャー 2/3

 

 快盗、警察双方にある意味甚大な被害を与えたルレッタ・ゲロウは、人間界における己のアジトに凱旋していた。アジトといっても、これまでのギャングラーたちにみられるようないかにも人目につかない陰の場所というわけではない。閑静な住宅街の一角にある、ごくありふれた新築の一軒家だ。

 

 ダイニングの中心に置かれたふかふかのソファを、可愛らしい蛙顔の少年の姿で占領するルレッタ。やはり複数の女性たちを周囲に侍らせ、身体を撫でることを許している。

 

「う~ん、首尾は上々って感じかなぁ。ジャマな快盗と警察もあのザマだし、チョロいチョロい♪」

 

 ケロケロと愉快そうに笑っている。と、キッチンから磁器の皿を持った女性が恭しげな足取りでやってくる。彼女の目にも光はなく……その異常性を示すかのように、皿の上のショートケーキには苺の代わりに大きなトノサマバッタが乗せられていた。

 フォークでその破片を切り取り、長細い舌に乗せる。咀嚼する口が……ほどなく止まった。

 

「……もっと甘くしろって言っただろッ、使えねーなぁ!!」

 

 皿ごとケーキを投げつけ、さらに蹴り飛ばす。倒れ込んだ女性のそばで、よく磨かれた木製のフローリングが白い生クリームとバッタの死骸とで汚される。

 ルレッタが舌打ちしていると、窓を開けていないにもかかわらず風が吹き込んできた。それも自然のものとは思えない、冷たい風が。

 

 気づけば傍らに男が立っていた。寒々しい青いポンチョを身につけ、ソンブレロを目深に被ったその姿はいかにも常人のそれではなかった。

 

「あぁ、アンタか」ルレッタも彼を知っているらしかった。「ボクにピッタリな化けの皮をありがとう。おかげで人間界、サイコーに楽しめてるよ」

「………」

 

 男は何も答えない。が、構わず続ける。

 

「あぁそうだ、ボクがボスになったらアンタを右腕にしてあげるよ。あの小生意気なデストラじゃなくてね……」

 

 男はやはり、何も答えない。ただどこからともなく氷を取り出し、口に放り込む。

 

 

 がり、と、噛み砕く音が響いた。

 

 

 *

 

 

 

 イエローに引っ張られつつどうにかジュレへの帰還を果たしたルパンレンジャーの面々。イエロー……もとい麗日お茶子を除いてオタマジャクシ型の重りを背負った彼らを迎えたのは、首から上が靄のようになった男だった。

 

「お邪魔しています」

「黒霧……」

 

 優雅に紅茶を啜りつつ、一礼する黒霧。鍵はきちんと閉めて出たのだが、"ワープゲート"の個性をもつというこの男には関係ないのだった。

 

「おふたりとも災難でしたね、このようなことになってしまって。麗日さんだけでも無事だったのは不幸中の幸いでしたが」

「チッ……なんか用かよ?」

 

 よもや、本心なのかもわからない労いの言葉を吐くために訪れたのではあるまい。

 

「もちろん。ルレッタ・ゲロウの持つルパンコレクションについて、情報をお持ちしました」

 

 テーブルに広げられた、辞典のような巨大な書物。古びたそれは、すべてのルパンコレクションについて記されたルパン家の秘伝書とでも言うべきものであった。

 

「彼が所持しているのは、これ──」書物を指差す。「"転がる賽のように"である可能性が濃厚です」

「賽……サイコロ?」

 

 羊皮紙の絵も、一点の歪みもない立方体として描かれている。

 

「……形はなんでもいいが、一体どのような能力がある?」

「ひと言で申し上げれば、"確率操作"です」

「!」

 

 もしかして、とお茶子は思った。あの近距離で射撃を外してしまった際、ルレッタの金庫が光を放っていた。コレクションの能力で命中率を操作したと考えれば辻褄が合う。

 

「ただし、上を向いた目に基づいた効果しか発揮しません。6なら完全に思い通りの結果になりますが、数字が小さくなればなるほど効力は弱くなります」

「ふむ……そういえば奴は、これを我々に当てたあと"5が出た"と悔しがっていたな」

 

 あのとき出た目が"6"だったらば、お茶子もまたこのオタマジャクシを背負う羽目になっていたのだろう。だが、

 

「で、でもさっ!」努めて明るい声をあげるお茶子。「サイコロなら、狙い通りの目を出せるわけでもないでしょ?それなら──」

「……ンなテキトーなタマに見えっかよ、あいつが」

 

 終始不機嫌そうに黙りこくっていた勝己が、ここでぼそりとつぶやいた。

 

「……どういうこと?」

「金庫の中でどの目が上を向いているか、奴は推測のうえで能力を使っている……いや、どの目が出るかも計算して身体を動かしている。そういうことだろう」

 

 流石に炎司のほうが読みは鋭かった。黒霧もまた首肯しているつもりなのか、顔の靄が上下に揺れている。

 

「つまりこの……オタマジャクシのような物体は、奴自身の能力というわけか」

 

 ルレッタの言動と照らし合わせるに、子をもつ親はこのオタマジャクシを我が子と誤認する催眠をかけ──本当の我が子のことは認識できなくする──、そうでない者には単純に重石として機能するのだろう。

 納得のいく推測だったが……ここでふと、お茶子は疑問をもった。

 

「あれ?でも子供いたよね……炎司さんって」

「!」

 

 名指しされた壮年は一瞬目を丸くしたあと、やや気まずげに顔を伏せた。

 

「……俺の子供たちはもういい大人だ。こうして離れて暮らしてもいる。子供が自立している人間は催眠にかからないんだろう」

 

 いつも堂々としていて、すっぱり切り込んでくるような鋭さがある炎司にしては、やけに歯切れの悪い発言だ。

 薮蛇だったかと早くも後悔するお茶子だったが、もうひとりはまったく違っていた。

 

「へぇ……本当にそんだけかよ?」

「……何が言いたい」

「さあ?」

 

 睨みつける碧眼を、真正面から受けて立つ赤。いやな相剋である。どうしてこう、むやみに火種をばらまくのか。

 やむをえず、お茶子は話題を換えるために黒霧を利用することにした。

 

「そ、それよりさっ!ふたりともこんなだし、コレクション取り戻すには頭使わないと……だよね?」

「同意します」頷きつつ、「その点、皆さんのほうが知恵はおありでしょうが」

 

 つまり、戦術については関知しないということ。己の領分を外れる事柄にまで助け船を出さないという快盗の掟を、彼もまた遵守するらしかった。

 

「……確かにおまえの言う通りだ。作戦を考える必要がある、奴が動き出すまでにな」

「チッ……」

 

 舌打ちは、むしろ同意の証か。ひとまず意見がまとまったのはよかったが、爆豪勝己という少年の行動が一から十までお茶子の思い通りになるわけがなく。

 

「えっ、爆豪くんどこ行くん!?」

 

 彼がオタマジャクシ付きの背中を向けて奥へ引っ込もうとしたので、慌てて呼び止める。

 彼は振り返りすらせず、

 

「独りで考えさせろや」

「で、でも、話し合ったほうが……」

「知恵出し合うんなら絞ってからじゃねーと面倒くせーんだよ、わかれや」

「ええ~……え、炎司さん!」

 

 今度は炎司に助けを求めたのだが、彼も彼でつれなかった。

 

「……確かに、我々はこんな状態だ。今回ばかりは少し時間を貰おうか」

「………」

 

 険悪なムードを漂わせておきながら意見を一致させた男たちは、さっさと二階に上がっていってしまった。ひとり店舗スペースに取り残されたお茶子……いや、黒霧はまだ残っているのだが。

 

「では、あとはお任せします」

 

 こう言ってまさしく靄のように消えてしまうのだと、彼女は既に予期していたのだった。

 

 

 *

 

 

 

 作戦を考えると言ってそれぞれ自室にこもった勝己と炎司だったが、何時間待っても彼らが姿を現すことはなく。

 

「……ハァ」

 

 すっかり陽の隠れた夜空を窓越しに見上げて、お茶子はため息をついた。幸か不幸か、ルレッタが再び現れる気配は今のところ、ない。

 彼女も彼女なりに頭を巡らせていたのだが、未だ有効と確信できる策は思い浮かばない。偏差値79とも言われる雄英高校を志望していただけあり、決して考えることが苦手なわけではない。ただ経験豊富な炎司、性格以外に欠点のない勝己に比べると、基本的に彼女はふつうの女の子なのだ。

 

 自分まで部屋にこもっていてはどん詰まりな気がして、お茶子は少し夜風に当たることにした。

 

 

 外に出てみると、周囲の雰囲気がいつもと違っていた。

 明確に何が、というわけではないのだ。ただお茶子は快盗になるための訓練をみっちり受けている。小さな違和感の正体を探らずにはいられなかった。

 

 そして、その答はすぐに見つかった。

 

「きみたち、何しとんの!?」

 

 思わず国言葉で声をあげると、ゴミ袋を漁っていた子供たちはびくりと肩を震わせた。男女の別はあるが、顔立ちがよく似ている。幼い兄妹のようだった。

 

 その手に店から出た生ゴミが握られているのを目の当たりにして、お茶子はぎょっとした。慌てて駆け寄り、半ば強引に引き剥がす。「はなせよ」と少年が喚くが、それを気にとめることはない。

 

「それ……まさか食べる気だったん!?なんで……」

 

 身なりもちゃんとしているし、生ゴミを漁るほど逼迫した生活をしている子供たちには見えない。そこまで考えて、お茶子ははっとした。

 

「だって、パパとママが……」

 

 今にも泣き出しそうな少女のつぶやきは、お茶子の推察を確信へと変えるものだった。──ルレッタ・ゲロウによって、彼らは親を奪われたのだ。

 

 生ゴミですら食糧と捉えるほどにお腹を空かせている。ふたりともまだ幼く、自炊もできなければコンビニ等で食べ物を買うための持ち合わせもないのだろう。

 

「………」

 

 "むやみに救けるな"──快盗の掟を借りた警鐘が脳内で鳴る。ただお茶子には名分があった。彼らがありつこうとした食事を──たとえ生ゴミであっても──取り上げたという。であるからには、代替の品を供することになんの問題があろうか。

 

「ちょっと待ってて。お菓子ならすぐ用意できるからさ!」

「!」

 

 兄妹が目を丸くしている間に、お茶子は店に舞い戻り、店頭に置かれたマカロンの箱を手にとった。持ち帰り用の売り物だが、数百円の代物だ。あとで自分の財布から償えばいいだろう。

 そう決意して再び店を出たお茶子だったが、そこにはたった三〇秒ほどの間に"第四の男"が姿を現していた。

 

「この近くの交番へ行きたまえ!きみたちのような子供を保護することを想定して、食事も用意してあるぞ!」

「!、あ……」

 

 背中に件のオタマジャクシを背負った大柄な青年が、子供たちを案内するように大袈裟に両手を振っている。紺地にパーソナルカラーとして緑をあしらった制服は、彼が警察戦隊の一員であることを示していた。

 

 

 *

 

 

 

「すまないな、こんなところまで付き合わせてしまって」

「い、いえ……」

 

 そう言ってホットココアを飯田天哉が勧めてくれるので、お茶子は頬をひくつかせながらそれを恭しくいただくしかなかった。

 

 角張った態度を崩せない天哉に子供たちが怯えてしまったので、彼らを交番へ連れていくためにお茶子も同行する羽目になったのだ。警察といっても日本警察、直接相まみえたことはないがどうしても敵地にいる気分になる。天哉にその気はなかろうが、"こんなところ"という物言いには内心全力で首肯したかった。

 

「だがおかげで助かったよ。何せ、こんなものを背負って駆けずり回っていたものだからな」

 

 否が応にも目に入ってくる巨大オタマジャクシ。仲間たちも同じものを背負わされていることを思うと、彼と遭遇したのが自分でよかったとお茶子は密かに胸を撫でおろすのだった。同時に、表向き取り繕うことも必要で。

 

「それって、ギャングラーにやられたんですか?」

 

 内心ではわかりきったことを訊く。

 

「うむ、既に報道されている通り子をもつ親に対しては一種の催眠効果があるようだが、そうでない者には単純に重圧をかけるようだ。しかも、どうやっても引き剥がせない」

「大変……ですね」

 

 言葉にすると他人事のようだったが、実際には真に迫った響きをもっていたことは言うまでもあるまい。

 天哉はというと、頷きかけ……ぶんぶんと首を横に振った。

 

「我々はいいんだ、こんなもの大したことはない。だが、子供たちは……」

 

 既に数十人もの子供たちが、親と引き離され心細い思いをしている。正義感の強い天哉にとって、決して許せることではなかった。

 

 いや……お茶子にとっても、そうだった。

 

「……大切な家族と離れ離れになるって、寂しいですよね。この歳になっても、そう思います」

「そういえば、きみも親元を離れてあの店で働いているんだったな」

 

 まだ15歳のお茶子がどのような思いでその生き方を選んだのか。きっと、自分がヒーローをあきらめたのと同じくらい重い決断だったのだろうと天哉は思う。それを単なる興味にしてはいけないと己を戒めつつも、やはり気になってしまうのが人間の性だった。

 お茶子にも、その気持ちがわかった。誰彼構わず受け入れられるわけではないけれど、この青年になら、と感じる。敵同士という立場上の問題より、彼の人間性への敬意が勝った。

 

 

「ギャングラーの、せいなんです」

 

 哀しみのこもった笑顔で、少女は告げた。

 

 

 お茶子の生家は小さな建設会社を営んでいた。この御時世、仕事は少なく暮らし向きは決して楽ではなかったが、それでも優しい両親や社員たちに囲まれ、彼女は幸福だった。

 ギャングラーの気まぐれな襲撃のために、父が大怪我を負うまでの話だが。

 

 幸いにして一命はとりとめたけれど、父は今でも車椅子から立ち上がれないばかりか、身体の内まで弱ってしまったのか入退院を繰り返している。この窮状に、お茶子は自分がもう夢を追いかける子供ではいられないのだと思った。

 

(なりたかったな……ヒーロー)

 

 そうして両親に、胸を張れるような形で楽をさせてあげたかった。けれど現実に、少女は既に誰にも誇れぬ快盗の身である。巨悪の蔓延る世界で、力なき者はささやかな幸せひとつ守れはしない。

 

 

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