【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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ルレッタの人間体(蛙顔の少年)には実は明確なモデルがあります、原作に存在するキャラクターで。誰とは言いませんが……。


#6 スカベンジャー 3/3

 自室にこもりきりだった勝己と炎司がジュレに降りてきたのは、いよいよ街が夜明けを迎えようかという頃だった。

 ふたりとも、目の下にうっすらと隈が浮かんでいる。ひけらかすまでもなく徹夜で考え込んでいたのだろうし、背中にあんな重石があっては眠るに眠れなかったろう。

 

 お茶子も寝てはいなかったが、といって戦術を練る暇もなかった。戦力部隊の一員であるにもかかわらず子供を保護して回る天哉を放っておけず、こんな時間になるまで付き合ってしまった。そんな事情を説明したら、ふたりにはすっかり呆れられたが仕方がない、元々頭脳面では水を開けられているのだ。

 

 それに。あとになって思えば、炎司はともかく勝己が怒らなかったのは、自身の立てた作戦にわずかながら後ろめたさがあったからかもしれなかった。

 

「……テメェの個性が要だ、丸顔」

「えっ……」

 

 かけられた言葉に、お茶子は呆けたように口を開いた。個性は役所に届け出ているものだから、快盗稼業とは致命的に相性が悪い。今までも緊急避難的に使用したことはあったが、作戦に組み込んでよいものなのか?

 炎司に視線を遣ると、彼はため息混じりにこめかみのあたりを押さえていた。掟破りを憂いているのかと思いきや、

 

「……考えることは同じか」

「へっ?」

 

 炎司のひと言で、お茶子が掟破りをすることは決定的になった。

 

 

 *

 

 

 

 ルレッタ・ゲロウは少年の姿のまま、怪しまれることもなく朝の街に降り立っていた。

 

「さぁてと、そろそろ活動再開しよっかな~?」

 

 ビルの屋上で、べろりと舌舐めずりをする。ここからなら街中にオタマジャクシをばらまくのも容易い。ルパンコレクション──"転がる賽のように"の能力があれば、ばらまいた分だけ命中してくれる。

 

「ボロいよなぁ、ケロケロ!」

「愉しそうだなァ、俺らも混ぜろや」

「!」

 

 いつの間にか、背後にひと組の少年少女の姿があった。タキシードあるいはドレス、仮面の姿で気取ってはいるが、赤いほうは自身の放ったオタマジャクシを背負っている。ルレッタの唇が歪んだ。

 

「おやまぁ、快盗さんじゃないですか。ボクは見ての通りただの子供ですよ、何かご用ですか?」

 

 肩をすくめてとぼけるルレッタだが、黒霧からあらかじめ情報提供を受けている快盗たちに通用するはずがない。変声期も迎えていない少年の姿をしていることも、彼ら……とりわけ爆豪勝己に対しては意味をなさないのだった。

 

「!」

 

 銃口を向けられたかと思えば、身構える間もなく引き金が引かれた。

 元々、動作自体は機敏といえないルレッタである。回避はもちろんのことコレクションを発動させるのも間に合わず、頬のあたりに被弾してしまう。

 

「ガッ!?」

 

 それは血を流させるばかりでなく、彼のまやかしの姿をなきものとするに十分だった。一瞬膨れあがった身体が弾け飛び、醜い蛙怪人の姿が露になる。

 

「ッ、マジかよ……!」

「………」

 

 勝己は何も答えなかった。ただ、今の発砲がすべてだとでも言わんばかりに。

 代わりに口を開いたのは──お茶子だった。

 

「……あなたに親と引き離された子供たちがいま、どんな思いをしてるかわかる?」

「ハァ?」

 

 首を傾げるルレッタ。対峙する少女の目に瞋恚が宿りつつあることに、彼は気がつかない。

 

「さみしくて、つらくて……お腹だってすくのに、ご飯をつくったり、買ってくれる人もいなくて……ゴミ袋まで漁ってる子供たちの気持ち、わかる?」

 

 あの子供たちは、泣いていなかった。泣くことになんの意味もないのだと、理解していたのだ。

 

「……許さない、」

 

「おまえだけは……絶対に許さない……!」

 

 ありふれた幸せを、当たり前の顔をして踏み潰していく化け物どもなど。

 

「許さないィ?」ルレッタが鼻を鳴らす。「じゃ、どうするって言うのサ?」

 

 そんなこと、決まっている。

 

「「快盗チェンジ!!」」

 

 その発声こそが答。ダイヤルファイターをVSチェンジャーに装填し、

 

『1・1・6!──マスカレイズ、快盗チェンジ!』

 

 電子音声が流れると同時に、引き金を引く。

 

 発射された光を纏い、彼らはルパンレンジャーへと変身を遂げたのだった。

 

「予告する──」

 

「テメェのお宝、」

「──いただき殺すッ!!」

 

 口上を途中から奪い取られたような形になったが、勝己は何も言わなかった。お茶子の想いを彼なりに慮ってくれたのだろうと思う。

 

 いずれにせよ、イエローは即座にルレッタめがけて光弾を撃ち込んだ。しかし二度目は既に読まれている、標的はルパンコレクションの能力を発動させた。

 弾丸がひとりでに逸れ、むなしく虚空へ消えていく。イエローは悔しい思いをしたが、とはいえ予想できないことではなかった。

 

「ケロケロ、当たらないっつーの!──でも……お返しっ!」

 

 くわっと口を開け、舌を突き出すルレッタ。十数メートルも伸びるだけでなく、そのスピードは弾丸にも匹敵する。

 それでもイエローは即座に回避行動をとったが、かのギャングラーが狙ったのは彼女ではなかった。

 

「ぐっ……!?」

 

 舌を叩きつけられ、撥ね飛ばされたのはレッドだった。ルレッタお手製のオタマジャクシを背負わされているために、彼は普段のように機敏には動けなかった。

 

「あ……レッド!?」

「ッ、……こんくらい、屁でもねェわ!」

 

 詰めた息を思いきり吐き出して、立ち上がるレッド。痛々しい姿だったが、気遣いなど彼は望んでいない。

 

「とっととコイツぶっ殺すぞ。あのクソオヤジが、()()()してるうちにな」

「……うん!」

 

 これから使うつもりである、個性。その瞬間を"彼ら"に見られるわけにはいかないからこそ、轟炎司はこの場にいないのだ。

 

 

 *

 

 

 

 ギャングラー出現の報を聞きつけ、パトレンジャーの面々もサイレンを鳴らして現場へ向かっていた。

 

「ッ、………」

 

 皆、当然のようにオタマジャクシを背負ったままである。気を抜くと立っていられない重量に苛まれてひと晩を過ごしたのだから、顔色はすぐれない。ましてそんな状態にもかかわらず、彼らが休んでいないことは飯田天哉の行動からも明らかだ。

 

 それでも、ギャングラー討伐の役割を他人に任せてしまうわけにはいかなかった。プロヒーローにも……まして、快盗になど。

 

 その快盗のうちのひとりが、突如として目の前に現れた。

 

「ッ!?」

 

 反射的にブレーキを踏む天哉。衝突は避けられたが、仮に停止が間に合わずとも彼は鍛えあげた肉体と青の快盗スーツの強度で耐えきってみせていただろう。

 ともあれ、三人はすぐさまパトカーから降り立った。「なんのつもりだ」と、天哉ががなりたてる。

 

 快盗──ルパンブルーは、冷笑をもってそれに応えた。

 

「今日ばかりは、お前たちに戦場を荒らされては困るのでな」

「なに……!」

「かかってこいヒヨッコども。正義を気取るならば、それに見合った実力を見せてみろ」

「!……上等じゃねえか!」

 

 鋭児郎は……否、彼らは揃って元ベテランヒーローの挑発に乗ってしまった。炎司がエンデヴァーのままで、これが模擬戦の類いであるならば、それは快いものであったかもしれないが。

 

「「「警察チェンジ!!」」」

 

 銃声が、響き渡る。次の瞬間には赤、緑、桃の装甲に身を包んだ戦力部隊が、青の快盗へと襲いかかっていた。

 

「ふ……ッ!」

 

 いつものようにひらりと身を翻す……というわけにはいかなかった。重石を背負っているのはブルーも同じなのだ。無論パトレンジャーとて普段より動きは緩慢なのだが、彼らの警察スーツはもとよりパワーと防御力を重視している。アドバンテージは、彼らにあった。

 

「そんな状態で……ッ、三人に勝てると思ってんの、おっさん!」

「言ってくれる……!」

 

 振り下ろされるパトメガボーをVSチェンジャーで受け止めつつ……ブルーは、不敵に笑う。

 

「言っただろう、お前たちを戦場へは行かせない。俺の目的は、それだけだ!」

 

 それさえ成せるなら、這いつくばり地を舐めることになろうとも構わない。勝利への渇望など、エンデヴァーの美名とともにとうに捨てたのだ。快盗である以上、そんなものは無意味なのだから。

 

 

 *

 

 

 

 快盗と子供じみたギャングラ──―大人不在の戦いは、後者の思い描いた通りに進んでいた。

 

「ッ!」

 

 素早くマントを翻しながら銃を連射するルパンイエローと、足を引きずるようにしながらルパンソードで接近戦を挑むレッド。だがルパンコレクションの能力を最大限に活用し続けるルレッタにとって、それらの攻撃はまったく脅威ではない。銃弾は勝手に逸れるし、オタマジャクシを背負わせたレッドの動きは緩慢に過ぎた。

 

「アハハハっ、なーに遊んでんだよ!?楽しい?楽しいの?うわぁっ、レベル低っ!」

「ッ、このクソガキが……!」

 

 本当にただの餓鬼なら拳骨の一発で済ませてやるところだが、相手はギャングラーだ。殺す、完膚なきまでにブッ殺す。

 そのためにも。

 

「ごめんねぇ……ボクはもう、飽きちゃったよ!!」

 

 ルレッタの舌がレッドの胸を叩く。彼が思わず身体をくの字に折ったところで、大量のオタマジャクシがレッドの身体に纏わりついた。

 

「が、ふッ!?」

 

 重量に耐えきれず、地に沈むレッド。その醜態を見下ろしてひとしきり嘲笑うと、残るイエローのことはまるっきり無視して踵を返した。彼女がいかに仕掛けてこようが、コレクションを使えば無力化できるのだからと。

 

「……ッ、」

 

 お茶子の腸は煮えくり返ったが、一方でこれはチャンスだとも思った。ルレッタが油断しきっている今なら、作戦を成功させられる。

 

 イエローは走り出した──ルレッタではなく、地に伏せたままのレッドめがけて。そればかりか、彼女は変身まで解除してしまった。手袋も邪魔だと、片方を無造作に脱ぎ捨てる。

 そして、

 

「爆豪くんッ、頼んだ!!」

 

 バトンを渡すかのように、その身体に触れた──

 

 

 悠然と立ち去ろうとしていたルレッタは、不意に頭上に影が差したことに気づいた。顔を上げて──戦慄する。

 

「な……!?」

「──よォ」

 

 ルパンレッドが、浮かんでいる。飛んでいるのではない。ふわふわと浮遊しているのだ。全身にオタマジャクシを抱えているにもかかわらず……いや、その有無に関係なくありえない光景だ。この重力化で。

 

「丸顔!!」

 

 叫び。刹那、

 

「解除!」

 

 レッドの身体が落下をはじめる。そのしなやかに鍛えられた肉体が、大量のオタマジャクシもろともルレッタに襲いかかった。

 

「ぐぎゃあッ!!?」

 

 その威力は、人間より遥かに頑丈なギャングラー相手にも痛烈なものだった。コンクリートとサンドイッチにされ、ルレッタは痛々しいうめき声をあげる。頭を思いきり打ちつけ、視界がぐらぐらと揺れた。

 

「て、めぇ……ッ」

「……はっ」

 

 仮面に隠され顔は見えない。しかしルレッタにはわかった──その表情は、悪魔のごとき獰猛な笑みをたたえていると。

 全身全霊でルレッタを押し潰したまま、レッドは彼の金庫にダイヤルファイターを押し当てた。

 

『9・1……3!』

 

 電子音声とともに解錠がなされ、ひとりでに金庫が開く。レッドは容赦なくそこに手を突っ込み、目的のものを取り出した。

 

「あッ!」

「ふん、──丸顔ッ!!」

 

 背後のお茶子めがけ、それを投げつける。手袋をしたままの左手でしっかりと受け止めると、彼女はべ、と舌を出した。

 

「ルパンコレクション、いただき!」

「!?」

 

 ルレッタの脳内は混沌に陥った。生命線ともいえるルパンコレクション、早く取り戻さなければ!しかしのしかかったままのレッドが邪魔だ。この重量をどかすのは容易ではない、それならば──

 

「……チィッ!」

 

 ルレッタはやむをえず、レッドに付着させたオタマジャクシの命を絶った。黒い塊がぼろぼろと転がり落ち、次の瞬間には白煙を残して消滅する。

 

「──!」

 

 思いもかけない僥倖だったが、レッドの対応は素早かった。ルレッタの舌に弾き飛ばされるより早く、転がって回避行動をとる。ルレッタにしてもこの場は自分の上から退かせればよく……何より彼の意識にはもう、お茶子の手の中にあるコレクションしかなかった。

 

「返せよッ、ボクの宝物!!」

「………」

 

「……お断りや!」

 

 お茶子の操るVSチェンジャーが、銃声を鳴らした。

 

 ルレッタの身体を光弾が貫いていく。それも一発では済まない。弾切れの心配がないゆえに、お茶子はただ無心になってトリガーを引いては放しを繰り返していた。

 

「ぐがあぁッ!?」

 

 たまらず仰け反るルレッタ。はずみで足を滑らせ、彼は屋上から墜落していく。その身が大気という牢獄に囚われたのを見逃すレッドではなかった。マントを翻し、なんの躊躇いもなく飛び降りていく。

 そして、

 

「死ねぇッ、クソガエル!!」

 

 ルパンソードを一閃──宙に浮いたままのルレッタの身体が二分される。次の瞬間には大きな爆発が起き……金庫を除いたあらゆるパーツが、粉々に吹き飛んだのだった。

 

 

 ルレッタの死は、未だ続いていたルパンブルーとパトレンジャーにも異変をもたらした。

 巨大なオタマジャクシを背負い、ずしりと重い身体で相剋を繰り広げる彼ら。状況を総合的にみるとブルーが圧倒的に不利なはずが、豊富な経験で若者揃いの警察を上手くいなしていたのだが。

 

「!、ム……」

 

 突如として、物理的に圧力をかけ続けていたオタマジャクシが消滅する。彼だけでなく、相対するパトレンジャーのそれも。

 

「うおッ!?き、消えた……?」

「……ということは、」

 

(ふ……、上手くいったか)

 

 ブルーの心に感激はなかった。未熟な少年少女といえど、彼らもまた快盗になるための訓練を積んできている。その程度、できて当然なのだ。

 

 

 一方、無造作に地面に転がる焦げた金庫。

 そのすぐそばに、"彼女"が姿を表した。

 

「こんな終わり方じゃあ、ボスどころか誰もあなたのことなんて見てくれないわね……ルレッタ」

 

 嘲りつつ、艶やかにほくそ笑む異形の女──ゴーシュ・ル・メドゥ。快盗とも警察とも撃ち合うつもりのない彼女が、戦場に現れる理由はひとつしかなかった。

 

「私の可愛いお宝さん、──ルレッタを元気にしてあげて」

 

 彼女のもつルパンコレクションの()()()がその能力を発揮する。そのエネルギーを注ぎ込まれた金庫はたちまち膨れあがり、

 

 ルレッタ自身をも巨大化、復活させたのだった。

 

「よくもボクを……ッ、ぶっ殺してやる!!」

「!」

 

 一度失った命を取り戻したことに対する当惑や歓喜よりも、仇である快盗に対する憎悪が勝っていた。即座に進軍を開始するルレッタ。

 その姿を認めて真っ先に動いたのは、快盗たちではなかった。

 

「このまま蚊帳の外でいられるものか……!──ふたりとも、行こう!」

「うっす!」

「了解!」

 

『位置について……用意!走れ!走れ!走れ!──出、()ーンッ!』

 

『轟・音・爆・走!』

『百・発・百・中!』

『乱・擊・乱・打!』

 

 射出されると同時に、巨大化していく三機のトリガーマシン。同時に跳躍したパトレンジャーは、内部に生成されたコックピットに乗り込んだ。

 それを見届けたうえで、軽くなった身体を楽しむかのようにブルーは身を翻した。程なくして、同じくこちらに向かっていた仲間たちと合流する。

 

「ブルー!大丈夫だった?」

「ふ……当然だ」

「……ンなことより、」ぶっきらぼうな声を発するレッド。「サツの連中、放っとく気かよ」

 

 視線をわずかに上へ滑らせれば、巨大なトリガーマシンが走り抜けていくところだった。さらにどこから飛んできたか、グッドストライカーの姿も。

 このまま獲物を掻っ浚われると思えば、彼が忌々しげにするのも理解できる。──が、快盗としての目的は既に果たしている。

 

「まぁ……おっきくなったのくらい、譲ってあげてもいいんじゃない?」

「ア゛ァ?」

「だってほら……適当にガス抜きしとかんと、あとで余計に絡まれるかもよ?」

 

 パトレンジャーの性質を考えると、苦しい言い分ではあるのだが……一応レッドは承服したらしい。何も言わずに踵を返す。

 ブルーともども彼の背中を追いつつ、イエローはふと、かの眼鏡の警察官の顔を思い出していた。

 

 

『警察ガッタイム!正義を掴みとろうぜ~!!』

 

 巨大化したグッドストライカーを中心に、三機のトリガーマシンが変形しながら寄り集まっていく。接合に次ぐ接合、それが明確な人型を形作るのは二度目のこと。

 

「完成──」

 

 その名も、

 

「──パトカイザー!!」

 

 

 皇帝の名を冠する機械仕掛けの巨人が、醜悪なる蛙の怪物の目前に降り立つ。

 

「そこまでだッ、ギャングラー!!」

 

 コックピット内から発せられたパイロットの声は、パトカイザーを通してかの化け物に届けられる。それに対して、

 

「警察……!──ジャマだぁぁッ!!」

 

 ヒステリックに叫びつつ。彼らを相手にするつもりなどなかったルレッタは、ルパンレッドに対してしたように、大量のオタマジャクシをパトカイザーめがけて投げつけた。いかに大出力のロボといえど、あれを受ければその重みに押し潰されてしまう。

 しかし、

 

「そうはさせるか!!」

 

 勇ましく叫んだ2号の操縦により、左腕のトリガーキャノンを連射するパトカイザー。放たれた弾丸はことごとくオタマジャクシを直撃し、撃ち落としていく。

 それだけには終わらない。砲撃はなおも続く──ルレッタ本体を標的にして。

 

「ぐぁあああああッ!?」

 

 姿に似合わぬボーイソプラノの悲鳴も、銃声にかき消される。もはや趨勢は決したと言ってもよかったが、ルレッタはあきらめが悪かった。無理矢理に舌を伸ばして、敵に叩きつけようとする。

 果たしてそれはパトカイザーの機体に命中した。思わぬ一撃に踏ん張る間もなく、後方に吹っ飛ばされる鋼鉄の巨人。

 

「ぐッ!?」

 

 当然、コックピット内にも強烈なGがかかる。だが所詮はそれまでだ。鍛えあげた肉体を強靭な警察スーツで包み込んだ彼らを傷つけるには、生半可にすぎた。

 

「こんなモン……ッ、むしろチャンスだぜ!!」

「うむ……!──グッドストライカー!」

『ラジャー!!』

 

 トリガーマシンのエネルギーが、右腕のピンクの警棒へと集束する。ルレッタの視線は当然そちらに注がれるが、そんなものは前座にすぎない。

 警棒からさらに、エネルギーはトリガーキャノンに移されるのだ。

 

「「「パトカイザー……弾丸、ストライクっ!!」」」

 

 放たれた巨大な光の弾丸は、まず伸びたままの舌を焼き尽くした。その灼熱に目を見開くルレッタだったが、幸か不幸か彼は痛みを感じることさえなかった。

 次の瞬間には、彼自身も焼き尽くされていたから。

 

「ち……くしょおぉぉぉぉッ!!」

 

 断末魔もつかの間、ルレッタは今度こそ跡形もなく爆散したのだった。

 

『ヒュ~、気分はサイコー!』

 

 グッドストライカーの歓声とともに、着地を遂げるパトカイザー。そのまま何メートルも後方へと滑走した機体は砂塵にまみれていたが、それでもなお燦然と輝いていた──

 

 

 *

 

 

 

 保護されていた子供たちが、洗脳から解放された親たちと抱き合っている。

 

 そんな光景を、麗日お茶子は遠巻きに眺めていた。あの中には、ジュレの店先にて生ゴミで腹を満たそうとしていた、かの幼い兄妹の姿もある。家に帰ればきっと、温かいご飯が彼らを待っていることだろう。

 

「………」

 

 お茶子の口許に、ほのかな笑みが浮かんだ。快盗は、自分たちだけのために戦っている。しかし結果的にでも子供たちの笑顔を守れたのなら、それを喜ぶ気持ちを持っていたっていいじゃないか。

 

──ふと、親子を送り出す一団の中に、パトレンジャーの面々の姿を見つけた。中でもひときわ大柄な、眼鏡の青年。

 

 こちらに気づいた彼が、笑顔を浮かべて手を振ってくる。お茶子もまた、遠慮がちにではあるが手を振り返した。彼は快盗を敵視しているけれど……いまこの瞬間くらいは、そうする資格が自分にもあると思いたかった。

 

 

 à suivre……

 

 






次回「侵入、国際警察」


「やっぱり……快盗なんて間違ってる!」
「俺たちは……これしかねェから快盗やってんだッ!!」



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