相手が自分より優れていることを認めつつ、折れてしまうとああなるんだろうな…と思った。一方的に背中から切りつけたナダと異なり、当作品の二人は傷つけ合った結果こうなってるわけですが。
ガイソーグかっちゃんvsリュウソウレッドデク!(思いつき)
薄暗い路地裏を、男が歩いている。だらしのない服装に不似合いなサングラス、歩き方も不自然に大股──風体が、明らかによくない。
尤も、ただ単に柄が悪いだけならば……"彼ら"による捕捉を受けることはなかっただろう。
「間違いないな。──奴が"ブンドルト・ペギー"だ」
手元にある写真と男を見比べつつ、つぶやく……轟炎司。彼、そして爆豪勝己と麗日お茶子のふたりは今、快盗としてギャングラーを追っていたのだった。
「罪状は連続強盗殺人、その後の逃げ足は極めて速いらしい」
「ルパンコレクションの能力……だよね」
「ハッ、久々にちったァ骨のある奴みてェだな」
赤い仮面の少年──勝己の唇が、三日月型の弧を描く。この小僧にはこういうところがあると、炎司は密かに嘆息した。それでも猪突猛進というわけではなく、クレバーな思考をする点については評価しているのだ。ギャングラー相手にはそれを発揮してくれるから構わない、しかし警察が相手となると──
ひとまず思考を収め、息を合わせて跳躍する三人。着地と同時に、ブンドルトを取り囲むように布陣する。
「よォ、ギャングラー」
「な……!?お前ら、快盗!?」
「ご名答!」
「知っているなら話は早い。さっさとルパンコレクションを置いて、立ち去れ」
三方向からVSチェンジャーを突きつけられている状況下、ブンドルトはギリリと歯を鳴らす。無論言うことを聞く気は微塵もないが、迂闊に動けば銃口が火を噴くとわかっている。──だが、ルパンコレクションの能力なら!
「ジーッとしてても……トウッ!」
「!」
ルパンコレクションの能力を発動させ、跳躍する──刹那、
「おらァッ!!」
「グガッ!?」
勝己の放ったロープが右足に絡みつき、彼はあえなく地面に叩きつけられた。その衝撃で人間の身体が弾け飛び、甲冑を着たペンギンのような正体が露になる。
「テメェのコレクションの能力はわかってンだ。俺らから逃げられると思うなよ、クソペンギン」
「き、貴様ァ……!」
どちらが悪かわからないような笑みを浮かべながら、ダイヤルファイターを構える勝己。仲間ふたりもそれに追随する。このまま戦闘が始まり……そして、彼らの望みがかなえられる。
そんな確信が生まれた瞬間、不意に空間が歪んだ。
「!?」
同時に、吹き付ける突風。三人がたまらず身構えた直後──ブンドルトの傍らに現れたブラックホールから、巨駆の怪人が姿を現した。
「何を遊んでいる、ブンドルト」
「で、デストラさん……!」
「ンだテメェ!」
がなりたてた勝己を、その一つ目がぎょろりと睨みすえた。凄まじいプレッシャーに、身が震えそうになる。しかしそれと同時に、血が沸くような錯覚があった。
──両肩にひとつずつ……都合ふたつの金庫を、彼は持っていたのだ。
「デストラ・マッジョ。覚えなくて構わない、貴様らに用はないのでな」
「そうかよ……こっちにはあるわ!!」
即座にVSチェンジャーを突きつけようとする。しかし意外にもそれを阻む者があった──炎司だ。
「よせ、小僧!……この敵は、普通とは違う」
「ア゛ァ!?何言って……」
いつも通り喰ってかかろうとして……ぎょっとした。仮面越しの炎司の表情……いつもは冷静を通り越して冷徹そのもののそれが、明らかな焦燥に染まっている。元トップヒーローである彼が、それほどまでに警戒する相手。
幸か不幸か、言葉通りデストラは彼らとぶつかる意欲をもってはいないようだった。
「ブンドルト、おまえには別の仕事を任せたはずだ。──来い」
「う、うっすー!」
再び開いたブラックホールへと消えていく二体のギャングラー。炎司の反応からして、見送るほかないのは勝己も理解した。しかしそれでも、なんの成果も得ずに帰るつもりはなかった。
ブンドルトが消える直前、勝己の投げた小さなオブジェクトがその背中に付着する。──今はせめて、それだけでも。
「……何、投げたん?」
「トーチョーキ」
盗聴器──発信器という選択肢もあったが、まずはデストラの言っていた"別の仕事"がなんなのかが気になったのだ。それがわかれば、次の出現場所も読めるという考えもある。
「店戻んぞ、ここじゃ落ち着いて聞けやしねえからな」
「おー……久々に冷静な爆豪くんや」
「俺ぁいつでも冷静だクソが」
「いやウソつけぃ!」
「………」
軽口を叩きつつ、迅速に撤収する少年たち。彼らの背中に続く炎司だったが、一度だけ後方を……ブラックホールのあった箇所を仰ぎ見る。
デストラ・マッジョと名乗ったかのギャングラー。ヒーロー時代も含めた炎司の長い戦いの人生においても、あれほどの威圧感を発する敵は初めてだった。しかし自分たちの願いをかなえるためには、奴からもルパンコレクションを奪い取らなければならない。……ヒーローであることを捨てた自分たちに、果たしてそれができるだろうか。
*
「新しいVSビークル?」
もはや常の職場になりつつある警察戦隊のタクティクスルームにて、ルーキーヒーロー・烈怒頼雄斗こと切島鋭児郎はそう訊き返していた。
VSビークル──彼らパトレンジャーが使用しているトリガーマシン、ルパンレンジャーが利用するダイヤルファイターなどのマシン型ルパンコレクションの総称である。VSチェンジャーに装填することで強化スーツを装着させたり、必殺技を放つことができたり……挙げ句には数十メートル大に巨大化したりと様々な能力を発揮してくれる優れもので、パトレンジャーの生命線ともいえるわけだが。
「そうだ」塚内管理官が頷く。「先日、パリの本部から極秘裏に運び込まれてきたものだ。前回の反省もあって、ごく一部の人間にしか知らされていなかった……私もつい昨日聞かされたくらいだからな」
一度運搬途中にギャングラーの襲撃を受けている以上、賢明な判断ではある。
「現状、きみたちは十分によくやってくれていると思う。しかしギャングラーの組織形態が不透明である以上、さらに強力な存在が現れる可能性を鑑み、戦力を増強するべきだと判断されたわけだ」
「戦力を増強ね……それは賛成ですけど。新しいVSビークルが配備されるってことは、このチームに増員があるってことですか?」
三人いる快盗とギャングラー、両方を相手取って戦うわけだから、頭数はあったほうがいいのは間違いないが。
『いえ、変身に必要なVSチェンジャーは皆さんの持つ三丁しかありません』ジム・カーターが口を挟む。『あとは三丁、快盗が所持していますが……』
「……なるほど。頭数が欲しけりゃ、快盗捕まえるのが手っ取り早いってワケね」
「ギャングラー倒すより難易度高そうっスけどね……」
「確かに。だが、それでも成し遂げるのが我々の使命だ!」
胸を張る天哉。彼に限らず鋭児郎にせよ響香にせよ、常に士気を高めあいながら職務に打ち込んでくれている。結成から日が浅いにもかかわらず──信頼感を覚えると同時に、この布陣が暫定的なものであることを塚内は残念に思った。わざわざ冷や水を浴びせることもないので、表には出さないが。
「ジムの言った通り、増員の予定は現状ない……が、使用できるトリガーマシンの追加は快盗に対してもギャングラーに対しても大きなアドバンテージになる。きみたちなら十分に使いこなせると、正直、期待している。がんばってくれ」
「「「──了解!」」」
三人の声がぴしりと揃った。
*
ジュレに戻った快盗たちは、厳重に戸締まりをしたうえで盗聴作業に取りかかった。明るく開放的なつくりの喫茶店内、真剣な表情で身を寄せ合い、無骨な装置から聞こえてくる音声に耳を研ぎ澄ます少年少女と壮年の男の三人組。ミスマッチ極まりない光景ではあるが、指摘する者は誰もいなかった。
「よしっ、周波数の調整かんりょー!」
「……おー」
雑音ばかりだったヘッドフォン越しの音が、徐々に鮮明に聞こえてくる。
──やがて、
『スンマセンっした、デストラさん!』
いきなり聞こえてきたのは、ブンドルト・ペギーの威勢のいい声だった。この様子だと、まだ根幹のやりとりには至っていないようだ。
『構わん。それより、頼んだ仕事の算段はついているのか?』次いで、デストラの声。
『勿論でさァ。国際警察なんざ、オレの能力でチョチョイと侵入してやりますよ!』
『油断はするなよ、あの楼閣はパトレンジャーなどという戦力を擁している。取るに足らない連中だが、奴らに敗れた者がいることも事実だ』
『おまえの使命は、奴らが運び込んだというルパンコレクションの奪取にあることを忘れるな』
「……!」
三人は思わず顔を見合わせた。──VSチェンジャーとトリガーマシンのほかにも、国際警察がルパンコレクションを入手している?
『わかってまさァ。人間どもはたいがい夜には休みます、国際警察も夜は手薄になるはずだ』
日付が変わった午前0時ちょうど、作戦を決行する──ブンドルトの宣言を聞いて満足したのか、デストラの声が聞こえなくなった。その場を立ち去ったのだろう。
暫くブンドルトのとりとめもない独り言が続くのを聞き届けたうえで、勝己はヘッドフォンを取り外した。ふぅ、と深いため息をつく。そして、
「……十分後だ」
「へ?」
首を傾げるお茶子。それに対し、
「ブンドルトが国際警察に侵入した十分後、つまり0時10分に我々も侵入する。そう言いたいわけだな、小僧?」
「チッ、……おー」
根っこの思考回路は似通っているためか、炎司の解釈は極めて正確だった。言い当てられた勝己がかえって不機嫌になるのはもう、様式美というほかないが。
「奴の言う通り、国際警察といえども深夜には手薄になる。無論宿直の人員はいるだろうが」
「さらにギャングラー侵入の混乱に乗じれば……ってことやね!」
逆に言えば、そんな状況でもなければ国際警察への侵入など無謀もいいところ。この千載一遇の好機──漁夫の利は最大限に得なければと三人は思った。とりわけ爆豪勝己は。
(連中のチェンジャーとビークルも……奪い殺してやる)
市民を、世界の平和を守るのだと心の底から宣言しているパトレンジャーの三人。彼らが普遍的に疑いようのない"正義"であることは認めている。
だが、だとしても。──デクを取り戻す障害である以上、勝己にとっては悪でしかないのだった。
*
ドグラニオの屋敷に帰還したデストラ。彼を迎えたのは主ではなく、近しいながら好ましからざる存在であるマッドサイエンティストの女だった。
「お帰りなさい。ドグラニオ様の腹心ともあろう方がどちらにお出かけだったのかしら?」
「……貴様には関係のないことだ」
冷たくあしらいながら、かの異形の女が何も知らないと思うほど甘いデストラではない。
「昔の子分に何をやらせようというのかしら?ボスにまで内緒にして」
「この私がボスを裏切るとでも?」
思わず嘲笑が込み上げる。そんなことは断じてありえない──心の底からそう断言する。
ゴーシュとて、そんなことはわかっていた。本当のところは、純粋に興味があったのだ。ドグラニオの威容をいかにもり立てるか──その一点にしか関心のないようなデストラが、人間の手に渡っているルパンコレクションをどうしようというのか。
「いずれわかる」
デストラの答は、ただそれだけだった。