【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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切島くんは銭湯とか好きそう。


#7 侵入、国際警察 2/3

 

「ふぃー……いい湯だったぜ」

 

 垂れた赤髪からほかほかと湯気を立てながら、鋭児郎は当直室に戻ってきた。

 警察戦隊では、平時における夜間は交代でひとりずつ庁内に詰めることと定められている。出向扱いになっている鋭児郎にはその義務はないのだが、これまで一度も拒否権を行使したことはなかった。ヒーロー事務所においても同様の役割はあったし、何よりまだまだひよっこの自分に良くしてくれる年長者たちの負担はできるだけ減らしたかったのだ。

 

──と言いつつ、役得があるのも否定はできない。

 

(スゲー豪華なんだよなぁ、ここの風呂)

 

 ふつう官公庁施設の入浴設備など、シャワールームがあれば上等だと思うのだが。ここはそこいらのスーパー銭湯に負けない広い浴場が用意されており、特に夜間は彼のような当直の職員で賑わっている。流石は世界を股にかける国際機関というべきか。

 そのスケールの違いに当初は圧倒されっぱなしだった鋭児郎だが、最近ではすっかり楽しみのひとつとなっていた。普段職務上では関わることの少ない他部署の職員たちとの、文字通りの裸の付き合い。職員の中でも最年少で人懐こい性格の彼は、異質な立場ながらも皆から可愛がられ、仲間として認められつつある。

 

「けど……まだ一ヶ月も経たねえんだよなぁ」

 

 長かったようで、あっという間でもあった。昔ながらの畳の上に腰を下ろしつつ、鋭児郎はこの一ヶ月弱を思い返す。

 

──初めは、偶発的な事故でしかなかった。

 

 ルパンレンジャーとギャングラー"ガラット・ナーゴ"の攻撃に晒された飯田天哉と耳郎響香を救けるため、彼らとともにパトレンジャーへと変身することになった。そのときはまだ、ガラットを倒せばお役御免のはずだったのだ。しかし短い間に事件が連続したということもあって、気づけばプロヒーローとしてよりパトレンジャーとしての活動期間のほうが長くなりつつある。それでも不思議と焦りはなかった。──ヴィランに立ち向かえるヒーローは大勢いるが、ギャングラーから人々を守れるのはパトレンジャーしかいないのだ。

 

(もう少し、ここにいてもいいかな)

 

 そんなふうに思いつつ、スマートフォンを手にとる。何事も起きない限り、当直はとかく暇なのだ。気の緩みは戒めるべきだが、ある程度はやむをえないだろう。何せ夜はまだまだ長い。ようやく、日付が変わろうとしている──

 

 その瞬間が訪れた直後、にわかに警報が鳴った。

 

「うおッ!?」

 

 けたたましいそれに、思わずスマートフォンを放り出してしまう。事件発生?──いや、違う。

 

『緊急警報発令、施設内に侵入者あり。繰り返す──』

「な……侵入者!?」

 

 この厳重な警備がなされた国際警察に?何者かはわからないが、いずれにせよ尋常な存在ではあるまい。

 即座に立ち上がった鋭児郎は、制服を羽織って当直室を飛び出した。たまたま廊下にいた職員──先ほど風呂で一緒になった男だった。鋭児郎の姿を認めて、彼の表情がわずかに安堵したものとなる。

 

「烈怒頼雄斗……!」

「な、何があったんスか?侵入者って……」

「わからない……だがおそらくギャングラーだ!」

「ギャングラー!?」

 

 確かにどんなヴィランよりも、得心がいく侵入者ではあるが。

 

「ッ、とにかく俺、行きます!」

 

 天哉も響香も既に退庁している。彼らに召集がかかって実際に駆けつけるまでの間、敵を食い止めるのが自分の役割だ。どんな目的があるにせよ、こちらの本拠地に殴り込みを駆けてくるような相手。実力には自信があるのだろうが──ならばなおのこと望むところだと、鋭児郎は己を奮い立たせた。

 

 

 *

 

 

 

 鋭児郎には知るよしもないことだが、侵入者はやはりブンドルト・ペギーだった。複数のポーダマンを引き連れ、施設内を我が物顔で闊歩している。当然、武装した警察官たちが行く手を阻もうとするが……彼らの力で足止めができるなら、パトレンジャーだけに戦闘を委ねることなどない。彼らはブンドルト自身には銃弾ひとつ撃ち込むことができず、ポーダマンによって掃討されてしまった。

 

「けっ、雑魚どもが!オレの邪魔したきゃゴーシュにでも改造してもらうんだな」

 

 嘲笑しつつ、風貌に不似合いな端末を取り出す。そこに表示されたのは──驚くべきことに、この日本支部内の図面だった。あるポイントに、赤い点が打たれている。

 

「ヘッ、着いた着いた。……ここかァ」

 

 

 鋭児郎は走っていた。行く先所々にギャングラーにやられた警官たちが倒れている。ヒーローとして、彼らを救護したい欲求が沸きたつのは避けられない。

 

「……ッ、」

 

 心を鬼にして、その感情を抑え込む。パトレンジャーの一員として、優先すべきはギャングラーを殲滅すること。──それを為すことが、これ以上の犠牲を出さないことにも繋がるのだ。

 

 広い庁舎内を、どれだけ走っただろう。体力自慢の彼も流石に息切れし始めた頃──にわかに、途上の部屋の扉が勢いよく倒れてきた。

 

「うわっ!?」

 

 咄嗟に身を転がし、足先一寸のところで扉をかわす。激しい衝突音とともに横たわったそれは、よく見れば穴だらけになっていた。それも、銃弾の形の。

 

「ヘヘヘヘッ、カンタンな仕事だったぜぇ」

「!!」

 

 下卑た声とともに姿を現すブンドルト、そして彼に従うボーダマンたち。片膝をついた姿勢のまま、鋭児郎はVSチェンジャーを手にとった。

 

「ギャングラー……!」

「ん?……なァんだ、誰かと思えばパトレンジャーじゃねえか!ひと足遅かったなァ」

「ンだと……!?」

 

 そこでようやく鋭児郎は気づいた。ブンドルトの手に、アタッシェケースがぶら下がっていることに。

 

「おまえ、それ……」

「あァ、お前らの持ってたルパンコレクションだよ」あっさり種明かしをする。「預からせてもらうぜ。オレたちギャングラーが持ってたほうが有効利用できるからなァ……ギャハハハッ!!」

「……!」

 

 つまりあのアタッシェケースの中にあるのは、間もなく警察戦隊に配備されるはずだったVSビークル?

 ブンドルトの目的を察すると同時に、鋭児郎の胸のうちに怒りの炎が湧きあがった。

 

「……返せ……!」

「アァン?」

「返せっつってんだッ、それはおまえみてェな野郎が使っていいモンじゃねえ!!」

 

 普段の陽気な彼を知る者が見れば、驚愕を禁じえないであろう激昂。並のヴィランが相手なら怯ませることができたかもしれないが、生憎相手は並のヒーローでは太刀打ちできないギャングラーだった。

 

「ヘッ、ヒーロー気取りのガキが。イキってんじゃねえよ!──ポーダマン、やっちまいな!!」

 

 ブンドルトの号令を受け、一斉に銃剣を構える取り巻きたち。それはこけ脅しなどではない──ゆえに、引き金が引かれるまでには寸分の猶予もない。

 

「ッ!」

 

 銃弾の到達までに、変身が間に合わない。半ば本能的にそれを察知した鋭児郎は、咄嗟に己が個性を発動させた。全身の皮膚がダイヤモンドのごとく硬化し、銃弾を弾いていく。ただ硬くなっただけに衝撃はよりダイレクトに伝わってくる。呻き声を噛み殺しながら、鋭児郎はトリガーマシンをVSチェンジャーに装填した。

 

「ッ、警察……チェンジ!!」

 

 絞り出すように叫び──引き金を、引く!

 

『1号、パトライズ!警察チェンジ!』

 

 電子音声が流れ、同時に銃口から放たれた光が鋭児郎の全身を包み込む。光は赤を基調とした"警察スーツ"へと姿を変え──鋭児郎を、パトレン1号と呼ばれる姿に変えたのだ。

 

 変身を遂げた鋭児郎はふ、と息を吐き出した。同時に硬化が解けるも、警察スーツはポーダマンの弾丸をことごとく弾いてくれる。

 お返しとばかりに、鋭児郎──1号はVSチェンジャーを彼らに向け、光弾を放った。その直撃を受けたポーダマンは悶絶し、倒れ伏していく。

 

(もうすぐ飯田さんたちが来る……。それまでに、雑魚だけでも!)

 

 

 *

 

 

 

「耳郎くん!!」

 

 息を切らしながら庁舎前にたどり着いた耳郎響香の耳に、慣れ親しんだ同僚の大声が飛び込んできた。

 振り向けば同じく全力疾走してきたのだろう、飯田天哉の姿。

 

「飯田……流石、早いね」

「きみこそ。烈怒頼雄斗が心配だ、急ごう!」

「……だね!」

 

 VSチェンジャーを構え、再び走り出すふたり。自分たちを冷ややかに見下ろす三つの影の存在など、思いも寄らない。

 

「チッ……連中もう来やがった」

 

 半ば習慣づいた舌打ちをこぼす──爆豪勝己。ブンドルトに続き、国際警察に侵入しようとしていた矢先だった。

 

「国際警察の単身寮はここから徒歩10分もかからんからな。迅速に動けばこんなものだろう」

「ッ、そーいうこたぁ先言えや!!」

「なんだ、知らなかったのか。敵を知ることは基本中の基本なんだがな」

「~~ッ!」

 

 あわや16歳と45歳のバトルが勃発──日常茶飯事ではあるが──というところで、麗日お茶子が半ば呆れぎみにそれを押しとどめた。

 

「も~、ケンカしとる場合?炎司さんも炎司さんで大人げないし……」

「……む」憮然としつつ、「まあ、いればいたで使いようもある」

「けっ、またそれかよ」

「………」

 

 流石に炎司はもうやり返さなかった。いつもこんなだが、いざというときの連携に不安はない。ヒーローというアイデンティティさえ棄ててきたことを思えば、反りが合わないくらいなんだと言うのか。

 

「じゃ、私たちも行こうぜぃ!」

「仕切んな丸顔!」

「ええやんたまには!」

 

 ともあれ、彼らもまた国際警察への侵入を図る──

 

 

 *

 

 

 

 パトレン1号の孤独な戦いは続いていた。逃げ遅れた職員たちを守り避難させつつ、ポーダマンを着実に減らしていく。

 そして、

 

「お、らぁッ!!」

 

 パトメガボーを力いっぱい叩きつけ、最後の一体を沈黙させた。

 

「っし……」

「調子に乗んなよクソガキぃッ!!」

「!」

 

 はっと振り向けば、目にも止まらぬ速さで跳躍を繰り返しながら、迫るブンドルトの姿。その手には魚を口から串刺しにしたかのような形状の剣──"ロングウオーソード"が握られている。

 咄嗟にパトメガボーを構え、刃を受け止める。その衝撃で、身体がずりずりと後退した。

 

「ッ、ぐ……!」

「ヘッ、せっかくだ……おまえのコレクションも頂いていくぜ!」

「ざっけんな……!」

 

 じりじりと、膠着状態が続く。もうすぐだ、もうすぐ。いや孤立無援だとしても、鋭児郎はあきらめるつもりなど微塵もなかった。不屈(アンブレイカブル)──技の名にまで採ったその心意気は、決して砕けることはない。

 

 そしてそれに応えるように、"彼ら"が来た。

 

「ぐほぁっ!?」

「!」

 

 突如体表に火花が散り、吹き飛ぶ──それでもアタッシェケースは手放さない──ブンドルト。鍔迫り合いから解放された1号が振り向くのと、カラーリングの異なる警察スーツを纏ったふたりが駆け寄ってくるのが同時だった。

 

「烈怒頼雄斗!」

「飯田さん……耳郎さん!」

 

 まだ出会って間もないが、既に強い信頼で結ばれている仲間たち。その鮮烈な緑と桃を見るだけで、激戦のさなかであっても笑みがこぼれる。

 

「チッ、もう揃いやがったか……!」

 

 早くも態勢を立て直し、舌打ちするブンドルト。厄介になったという気持ちはあるが、まさか自分が敗北するなどという危機感は微塵ももってはいなかった。

 そんな怪物と、警察戦隊は対峙する──

 

「──パトレン1号ッ!!」

「パトレン、2号!」

「パトレン3号!」

 

「「「警察戦隊、パトレンジャー!!」」」

 

「国際警察の権限において、実力を行使するッ!!」

 

 その口上を、鋭児郎は初めて自ら述べた。彼の心は既に、烈怒頼雄斗であると同時にパトレンジャーのパトレン1号なのだ。

 

「いくぜ──!」

 

 改めて、戦闘の火蓋が切って落とされた。

 VSチェンジャーで牽制射撃を行いつつ、一気に距離を詰めていく三人。弾丸をロングウオーソードで弾きながら迎え撃つブンドルトだが、敵が三人に増えたこともあって先ほどよりも苦しい様子だった。

 

「ッ、テメェら、なんぞにィ!」

「それはこっちの台詞だっての!」

「貴様らギャングラーなどに、VSビークルは絶対に渡さん!!」

 

 残念ながらというべきか、VSビークルは既にブンドルトの手に渡ってしまっている。しかし発想を逆転させれば、そのために片手が塞がり、彼の戦闘に支障をきたしているという事実がある。

 

(ヤツの気を逸らして、その隙にケース持ってる左手を狙えば……!)

 

「耳郎さん!」

「!」

 

 思い浮かんだ作戦を、そのまま3号に耳打ちする。発想を精査している猶予はないと思った。

 そして彼女も、それに乗った。

 

「OK、任せな!」

「あざす!」

 

 ブンドルトはというと、ただいまパトレン2号と鍔迫り合いを演じている。それでもまだ残るふたりを窺うだけの余裕をもってはいる。

 

「チィ、何か企んでやがるな……!」

「──ご名答、ってね!」

 

 言葉は悪いが2号は囮、当人もそれを承知していた。ふたりが動くまで、ブンドルトを抑える。

 そして、3号が動いた。両耳朶──先天的にイヤホンのような形状をしたそれを露出させ、標的の胴体にプラグを突き刺す。

 

「ッ!?」

 

 2号が離れる──と同時に、彼女は己の心音を送り込んだ。あとは……ガラット・ナーゴのときと同じく、である。

 

 悲鳴をあげながら、全身を痙攣させるブンドルト。それでもアタッシェケースを手放さない根性は見上げたものだが、それもここまで。

 

「ふ──ッ!」

 

 ブンドルトの左手首を狙い、1号が引き金を引く。

 

「グワァッ!?」

 

 果たして光弾は直撃し、ついにケースは宙を舞った。しかしその衝撃でロックが外れ、中身が露になってしまう。

 

「やべ……!」

 

 放り出されるふたつのVSビークル──"サイクロン"と、"バイカー"。焦りながらも、1号は飛んだ。二兎を追う者は一兎をも得ず。まずは、片方だけでも!

 その考えが功を奏してか、バイカーは彼の手中に収まった。残るサイクロンが音をたてて床に転がる。

 

「任せろ!」

 

 ひとりが取りこぼしても、仲間がいる。すかさず2号が獲りに動いた。ブンドルトは"イヤホンジャック"の後遺症から未だ立ち直れずにいる。パトレンジャーがふたつのVSビークルを奪還するのは、もはや疑いようのない確定事項となった──と、思われた。

 

 そのときだった。

 どこからともなく伸びたロープがサイクロンに巻きつき、引き上げていく。2号の手はむなしく空を切った。

 

「……!?」

 

 一体、何が起きたというのか?ブンドルトの伏兵がまだ潜んでいた?

 

──"潜んでいた"という部分については、正解だった。

 

「まずは一個、ゲットだね!」

 

 朗らかな少女の声とともに、降り立つ三つの影。三原色を分かちあった衣装の三人組は、鋭児郎たちにとって否が応なき因縁の存在だった。

 

「お、おめェら……!?」

「……よォ、警察にギャングラー」

 

「残りのお宝──完膚なきまでにいただき殺すッ!!」

 

 ルパンレッドの獰猛な叫びが、その場に響き渡った──

 

 

 

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