【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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ガッツだレッツラレッドライオット!

今回のアニアカをどちゃくそリピートしながら書きました。


#8 重なりあうもの 2/3

 

 まんまと戦場から逃げおおせたゴーシュとブンドルトは、人気のない廃工場に転移していた。

 

「で……なんなんだよ、良いニュースと悪いニュースってのは?」

「さあ……どちらから聞きたいかしら?」

「どっちでもいいよ、勿体ぶんな!」

 

 仮にも命の恩人に対する言動としてはあまりに恩知らずといえるものだったが、ゴーシュはそれを不快に思うこともなかった。ただし彼女に慈悲の心など微塵もない──目の前の男など所詮、彼女にとっては実験台にすぎないのだから。

 

「じゃあ、悪いニュースから。……デストラがカンカンに怒ってるわよ、仕事放り出して敵前逃亡なんかするから」

「なっ!?」平静を失うブンドルト。「ほ、放り出したつもりなんか……ありゃ戦略的撤退だっての!」

「なんでもいいわよ、私は別に」

「~~ッ、じゃ、じゃあ良いニュースってのは?」

「フフ……」

 

 意味深に笑うゴーシュ。幾多の生物を切り刻んできたその手がす、と構えられ、ブンドルトは思わず息を呑んだ。

 

「──改造手術、興味はなくて?」

 

 

 *

 

 

 

「何でそう分からず屋なんだよ、あんたは!?」

 

 警察戦隊のタクティクス・ルームに、切島鋭児郎の怒声が響き渡る。その吊り上げられた眦が向けられた先には、負けじと睨み返す飯田天哉の姿があって。

 

「……一体どうしちまったんだ、彼らは?」

 

 皆を労おうとあらかじめ取り寄せておいた大福を手に戻ってきた塚内直正は、その光景にまずはただただ困惑するほかなかった。そこで、ため息混じりに傍観している響香に問いかけたのだが。

 

「まあ……意見の相違ってヤツですかね」

「意見の?」

 

 

──事は数分前に遡る。

 

 ブンドルトを逃がしてしまったことを殊更悔しがり、次こそなんとしても自分たちの手で倒してみせると息巻いていた天哉。

 その様子に耐えかねたように、鋭児郎がぽつりと言ったのだ。

 

「けど……快盗たちに何もさせないことが、本当に正しいことなんスかね……」

「……どういう意味だ?」

 

 天哉が唸るような声を発するのを聞いて、鋭児郎は我に返った。本当はこんなこと、口に出すつもりはなかったのだ。

 しかし相手の耳に入ってしまった以上はもう、撤回も誤魔化しもきかなかった。

 

「……うまく言えないんスけど、あいつらは多分、のっぴきならない事情を抱えて快盗やってるんだと思うんです。あいつらにはきっと、ルパンコレクションを手に入れなきゃなんねえ理由がある──」

「……確かに、ただの悪党にしちゃあ……ね」

 

 響香が小さくながらうなずく。彼女などは結果的にルパンレッドに助けられた経験があるから、鋭児郎の言い分も理解できるようだった。

 しかし、天哉は。

 

「──甘い!!」

 

 勢い激しく机を叩き、そう吠えた。目的のためなら人間相手でも銃口を向け……自分たちから、平和を守るための武器を奪い去った。潔癖な彼には、到底許せることではなかった。

 

「どんな事情を抱えていようが、奴らはれっきとした犯罪者だ!あの戦力も、行為も……!烈怒頼雄斗、きみは犯罪者を容認するつもりか!?」

「!?、な……」

 

 天哉がまっすぐな硬骨漢であることはとうに理解しているつもりだった。しかしここまで激しい拒否反応を示されるとは──鋭児郎ばかりか、付き合いの長い響香でさえ当惑しているありさまだ。

 だが、ルパンレッドの苦しげな声が未だ耳に残っている鋭児郎は、とても黙ってなどいられなかった。

 

「認めるとか認めないとか、そんな話じゃねえ!ただ力で押さえつけるだけじゃアイツらは止められねえって、そう思ったから……だから……!」

「それが甘いと言っているんだ!!事情があるというなら、逮捕して文字通り事情聴取をすればいいだけだ!奴らを野放しにしていい理由にはならない!!」

「野放しにするとは言ってねえよ!ただ、俺は──」

「僕にはそう聞こえた!快盗どころか、ギャングラーまでな!!」

「ンでそうなるんだよ!?」

 

 ふたりの言い争いに、結論は出ない。ただお互いの頭に血が昇っていく一方だった。

 

 

 そして怒りに我を忘れた鋭児郎が、ついに決定的なひと言を口にした。

 

「インゲニウムは……アンタのお兄さんは、そんな人じゃなかった……!」

「……!」

 

 一瞬、時が止まったかのような静寂が場を支配する。それで鋭児郎は火のついた心の中心が急速に冷えていくのを自覚した。──天哉は何より兄を敬愛し、その結果として自らヒーローへの途を絶ってしまったのだ。

 

「……わかっている、そんなこと」

 

「きみに言われなくても……そんなこと、僕自身よくわかっている……!」

「あ……」

 

 背中を向ける天哉。足はそのまま、タクティクス・ルームの外へと向けられる。

 

「……残念だ、烈怒頼雄斗。きみとは……上手くやっていけると思っていた」

「……ッ」

 

 大きな背中を心なしか丸め、去っていく天哉。悄然と言葉を失っている鋭児郎を気遣うように視線をやったあと、響香は彼を追っていく。

 一方、塚内は彼の肩を優しく叩いてやりつつも、再び検索作業に没頭しているジム・カーターのもとに歩み寄った。ここで行われていた諍いに対して、この事務用ロボットはまったく無頓着であった。

 

「ある意味流石だな……ジム。──どうだ?」

『がんばって捜してますぅ……。でももう、どこかに雲隠れしちゃった可能性が高いですよ』

「まあ……一度発見してしまった直後だからな」

 

 正直、可能性は限りなくゼロに近い。だがそれでも地道な捜査をあきらめてはならないと、塚内はジムを励ましたのだった。

 

 

 *

 

 

 

 個性を失っても、常にきびきび行動する天哉は足が速い。

 すぐにあとを追った響香だったが、廊下にはもう彼の姿はなく──

 

(あいつのことだから、庁舎内にはいるだろうけど……)

 

 もしも自分が同じ立場だったら、どこへ行くか。響香は考える。外の空気を吸いたくなるだろうが、上述の通り職務中に庁舎を飛び出していくような男ではないだろう。

 

「となると……あそこか」

 

 ふぅ、とため息をついてから、響香は歩きだした。足を向けた先は──屋上。

 

 

 果たして天哉は、ぼうっとそこに立っていた。

 

「飯田」

「………」

 

 響香が来ることを予期していたのか、天哉は振り向くこともしない。今は放っておいてくれと、その背中が主張している。

 察しはしても、その意を汲み取ってやるつもりはさらさらなかった。

 

「確かに甘いのかもね、烈怒頼雄斗は」

「………」

「けどそんなの、最初からわかってたことじゃん。あの子の正義感ってのは、優しさからできてるんだって」

 

 悪を憎むことができないわけではない。ただその裏にあるものに、情をかけずにはいられない──優しさゆえに。

 

「あの子も、それが全面的に正しいと思ってるわけじゃない。悩んでるんだ、どうすればいいか……」

 

「──飯田。あんただって本当は、そうなんでしょ?」

「……ッ」

 

 天哉の拳に力がこもる。俯いた首が……ふるふると、かぶりを振った。

 

「僕は……迷いなどしない……!ギャングラーを倒し快盗を捕らえる、それ以上にどんな正しいことがあると言うんだ!?」

「………」

 

 頑なな天哉の心。響香は、そんな姿に既視感を覚えずにはいられなかった。

 

「なんか、昔に戻ったみたい」

「……昔?」

 

 初めて振り向く天哉。その硬質な顔立ちは、()()となんら変わっていない。

 

「警察学校、入りたてのとき。あんた、随分やさぐれてたし」

「やさぐれていたなんて……そんなこと」

 

 無論、不良少年と化してしまっていたというわけではない。ただ兄の復讐を成し遂げられず、それどころか自身も夢を断たれてしまい──当初の彼はとげとげしく、他人の些細な怠慢やミスを執拗に攻撃するようなところがあった。響香がフォローしていなければ、あわや暴力沙汰というくらい相手とヒートアップしたことも一度や二度ではなかったほどだ。

 

「……きみはあの頃、どうして僕を庇ってくれたんだ?」

 

 "イヤな奴"だったのは響香に対してだって変わらなかったと、自分だってそう思うのに。

 ふ、と、響香は静かに微笑んだ。

 

「だって、わかったから……あんたの気持ち」

「!、あ……」

 

 そうだ。響香も夢を断たれてここに来たのだと、天哉は思い出した。当初はそんなことも知らず、今にして思えば随分酷い言葉をぶつけてしまったこともあった。無論、とうに謝罪はしているが……思い返すと、今でも申し訳ない気持ちになる。

 

「飯田、きっとあんたは正しいよ。だから自分を曲げる必要はないと思う」

「えっ、いや……だが……」

 

 まさか自分の主張を後押しするようなことを言われるとは思わず、当惑する天哉。ただ、響香の言葉には続きがあった。

 

「でも……正しいだけじゃ、正義にはなれない」

「……!」

 

 そう告げて、響香は踵を返した。今度は天哉のほうが、彼女の背中を見送る側となってしまった──

 

 

 *

 

 

 

 昼どきを過ぎ、ジュレはようやく平穏を取り戻していた。客の引いた店内で、カウンター席に突っ伏すウェイトレスが約一名。

 

「く……くたびれたァァ……」

「……行儀が悪いぞ」

 

 軽く咎めつつ、本気でやめさせようとはしない轟店長は皿洗いに勤しんでいる。調理担当のピンチヒッターはこなしてくれた黒霧だったが、むやみに手助けしないという姿勢は貫徹している。皿洗いなら、炎司にもお茶子にもできるのだ。

 

「カモフラージュでやってるだけなのに大変やわぁ……。高校入ったらバイトするつもりやったけど、絶対両立できんかった……」

「雄英はそんな、甘いところではないからな」

「だよね~……ハァ」

 

 ため息をついていると、不意にドアベルが鳴った。すかさず立ち上がるお茶子。快盗としての訓練を受けているだけあって、だらけていたことを微塵も感じさせぬ身のこなしだったのだが。

 

「……たでーま」

「げぇっ、サボり魔!?」

 

 いちおう自覚はあるのか、渋面をつくるだけの爆豪勝己。仲間たちの冷たい視線をものともせず、彼はどかりと椅子に腰かけた。買い物袋は無造作にカウンターに置かれ、がさりと音をたてる。

 

「随分と長い買い出しだったな、本来の仕事までほっぽり出して」

「……チッ、"本来の仕事"ならしようとしたわ」

「えっ、何ナニ?」

 

 興味をもったらしいお茶子が身を乗り出してくるので、勝己は努めて得意げな表情を浮かべた。

 

「ヒーロー崩れの野郎が公園でしょぼくれてやがったからな。あのクソペンギンの情報、聞き出そうとしたんだわ」

「ほうほう、それでそれで?」

「……あの野郎、俺に気づかねえでどっか行きやがった」

 

 がくっと、お茶子が項垂れるのがわかる。炎司に至っては露骨にため息をついたので、勝己はかえって不愉快な思いをする羽目になってしまった。

 

「聞き出せなかったのでは意味がないな。少なくとも三時間以上もサボっていた言い訳にはならん」

「そーだそーだ!」

「ッ、テメェら……」

 

 それはそれは低い沸点に達しようとしたとき、再びドアベルの音。

 

「あ、いらっしゃいま──」

 

 刹那、三人の間に緊張が走った。その原因となっている青年はというと、そんなこと思いも寄らないとばかりに鬱いだ表情を浮かべているのだが。

 

「今……大丈夫っスか?」

「ええ。……おひとりですか?」

 

 炎司が訊くと、青年──切島鋭児郎は曖昧な笑みを浮かべ、うなずいた。

 

 

「──ほれ、水」

「ああ……」

 

 勝己が乱暴にコップを置くも、鋭児郎の反応は極めて薄いものだった。先ほど公園で見かけたときより、さらに落ち込んでいる様子。どうしてか胃のあたりがむかむかするのを、勝己は自覚せざるをえない。

 彼が渋い表情を浮かべていると、よくも悪くも邪気のないお茶子が声をかけた。

 

「烈怒頼雄斗さん、元気ないね……。何かあったん?」

「!、………」

 

 しまったと、鋭児郎は思った。元々感情が顔に出やすいタイプだと自覚はしているが、守るべき一般市民に心配されるようではヒーロー失格だ。自己嫌悪が、ますます深まる。

 とはいえ気取られてしまった以上はと、鋭児郎は思いきって口を開いた。

 

「実は……仲間とケンカしちまって」

「えぇっ、仲間って……飯田さん?それともイヤホンの人?」

「飯田さんのほう。なんつーか……意見の違いでさ」

「そうなんや……」

 

 ピンチヒッターのような立場で警察戦隊に入り込んでいる割には最初から随分と上手くやっているようだったが、流石に綻びが出たか。快盗としては嘲ってしまうような話であるのだが。

 

「警察も色々大変なんやね……。でも気にすることないですよ、このふたりなんかしょっちゅうやりあってるもん!炎司さんは大人げないし、爆豪くんはクソを下水で煮込んだような性格しとるから」

「………」

「テメェのボキャブラリーはなんだ丸顔ォ……!」

 

 唸る勝己を見るに、喧嘩をしているのは男たちだけではなさそうだと鋭児郎は思った。くすりと笑みがこぼれる。ただ自分の場合は、彼らとは違うのだ。

 

「俺なぁ……弾みであの人に酷ぇこと言っちまったんだ。本当はあの人の言うことが正しいって、わかってたのに」

「………」

「でも……それでも俺、自分を曲げられる気がしねーんだ。参っちまうよなぁ、ホント……」

 

 一度吐き出した弱音は、とどまることを知らない。それでも鋭児郎は、最後の最後はきちんと吹っ切れた笑顔でここを去ろうと決めていた。弱気なプロヒーローに対して彼らが抱くであろう不安、せめて尾を引かないようにしなければと。

 そのとき、返ってきた言葉。それはお茶子のかわいらしい声ではなく。

 

「ンなモン、曲げる必要なんかねーだろ」

「え……」

 

 そのぶっきらぼうな声が爆豪勝己のものだと認識するのに、数秒の時間を要した。

 彼はそっぽを向いていたが、言いっぱなしにするつもりはないようだった。

 

「譲れねーからケンカまでしたんだろうが。……ソレと酷ェこと言ったんは、別の話だろ」

「お、おう……」

「──ねえ烈怒頼雄斗さん」再び、お茶子。「意見が違うってのは、別に悪いことやないと思う。烈怒頼雄斗さんが悪いと思ったことを、ちゃんと謝ったらいいんと違うんかな」

「………」

 

 自分より年下の、少年少女の言葉。それがすとんと胸に落ちた。

 そうだ、そんな簡単なことだったんだ。

 

「……俺って」

「あ?」

 

「俺ってなっさけねぇぇぇぇ!!」

「!?」

 

 少年少女ばかりでなく、やや離れたところにいた炎司までもが目を丸くしている。それくらい唐突な叫びだった。

 

 店内にひとしきり声を轟かせたあと、鋭児郎はそれは深く息を吸い込んだ。そして、ぱあっと笑顔を浮かべる。

 

「……100パーおめェらの言う通りだ!サンキューな麗日、バクゴー!」

「……どーいたしまして!」

「けっ……呼び捨てかよ、馴れ馴れしい」

 

 勝己が吐き捨てるのと、鋭児郎の携帯が鳴るのが同時だった。

 

「!、はい切島。……わかりましたっ、すぐ向かいます!」

 

 来店したときの落ち込みようはどこへやら、鋭児郎は勢いよく立ち上がった。まだ注文もしていないことに気づいてか、すぐにばつの悪そうな表情を浮かべたのだが。

 

「あ、スンマセンなんも頼まなくて……。また来ますんで、今度は仲間も一緒で!」

「……ええ、お待ちしております」

 

 炎司の言葉にほっと胸を撫で下ろすと、鋭児郎は機敏に店を飛び出していった。

 それを見送りつつ、

 

「……煽るどころか、修復のチャンスを与えてしまったな」

「うぅっ……だってほっとけなかったんだもん。ねえ爆豪くん?」

「……仲間割れしてようがしまいが大して影響ねーだろ、雑魚は雑魚だ」

 

 パトレンジャーのことはこれまで油断ならない相手として扱ってきたのだ。勝己の言葉は強がりとしか思われなかったが、流石にそこまで指摘するほど炎司は粘着質ではなかった。

 

「まあいい。それより……我々も"本業"だ」

「だね!」

「あのクソペンギン……今度こそブッ殺す!」

 

 当然ブッ殺す前に、ルパンコレクションを手に入れるのだ。

 

 

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