【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#8 重なりあうもの 3/3

 

 走る、鋭児郎。

 

『烈怒頼雄斗、今どこ?』響香からの連絡。

「えーっと……前に歓迎会やってもらったジュレって店の、すぐ近くの交差点のとこっス!」

『……ラッキー、ちょうど目の前だ』

「へ?」

 

 次の瞬間、サイレンを鳴らした特殊仕様のパトカーが目の前に横付けしてきた。

 

「うおっ!?」

「さ、乗って!」

 

 助手席から顔を出した響香の有無を言わさぬ言葉に、鋭児郎は頷く間もなく従うほかなかった。するりと後部座席に乗り込む。

 

 走り出すパトカー。運転手は──飯田天哉。

 

「………」

 

 暫し沈黙が流れる。どう切り出したものか……そもそもこの状況で切り出していいものか、鋭児郎は悩んだのだが。

 

「烈怒頼雄斗……いや、切島くん」

「!」

 

 名前で呼ばれたのは、初めてのことだった。

 

「意固地な言い方をしたことは僕の過ちだ、すまなかった。……だが僕はやはり、なんとしても快盗を逮捕したいと思う。そこは譲れない」

「………」

 

──譲れない、それは鋭児郎も同じだ。つい先ほどの、ジュレで働く少年たちの言葉を思い返す。

 

「俺も……お兄さんはそんな人じゃなかったなんて言ったことは、悪かったと思ってる」

「……構わない。僕は兄のようにはなれないんだ、それは受け入れなければならない事実だと思っている」

「………」

「きっと、長い年月がかかるだろうがな」

 

 それでも、天哉をあのとき傷つけてしまったこともまぎれもない事実だった。ゆえに鋭児郎は、もう一度「ごめん」とつぶやく。

 

 互いに歩み寄りたいと思っていても、それは容易いことではなかった。

 

 

 *

 

 

 

 街に出現したブンドルト・ペギーは、本能に身を任せるかのように暴れまわっていた。

 

「オラァッ、出てこい快盗!出てきてオレにルパンコレクションを献上しろォ!!」

「──いい加減にしろよ、ギャングラー!!」

「!」

 

 この声は、とブンドルトは思った。それは歓喜ではなく……辟易。

 

「動くなッ、国際警察だ!」

 

 VSチェンジャーを構え、叫ぶ天哉。しかし向けられた銃口に、ブンドルトが動じることはない。

 

「けっ、テメーらなんかお呼びじゃねーんだよ!」

「……奇遇だね、ウチらもそうだよ!」

「貴様の顔を見るのもこれで最後だ!──いくぞ!」

 

「「「警察チェンジ!!」」」

 

『1号!』

『2号!』

『3号!』

 

『パトライズ!──警察チェンジ!』

 

 トリガーマシンを装填し、撃ち出す──既に幾度も繰り返したプロセスにより、三人は警察スーツを纏うのだ。

 

「パトレン、1号!!」

「パトレン2号ッ!!」

「パトレン3号!」

 

「「「警察戦隊、パトレンジャー!」」」

 

──国際警察の権限において、実力を行使する。その口上を述べたのは他でもない、パトレン1号・切島鋭児郎だった。

 

 対するブンドルトは、どこからともなく無数のポーダマンを召喚した。

 

「やっちまえ!!」

 

 号令に応じ、銃撃を開始するポーダマン。警察スーツの防御力でそれらを弾きつつ、反撃に打って出るパトレンジャー。

 

 そこに、第三の戦士たちが姿を現した。

 

「「「──快盗チェンジ!!」」」

 

 叫びと、閃光。刹那ののちには、放たれた銃弾がポーダマンの過半数を弾き飛ばしていた。

 

「な……!?」

「待たせたなァ、クソペンギン!!」

 

「ルパンレッドォ!!」

「ルパンブルー……!」

「ルパンイエロー!」

 

「「「快盗戦隊──ルパンレンジャー!!」」」

 

「予告したろ、お宝は完膚なきまでにいただき殺すってなァ!!」

「ヘン、忘れたなァそんなこと!」やり返すブンドルト。「テメーらこそ、奪ったコレクション返しやがれェ!!」

「返せって……元々あんたのじゃないでしょ!」

 

 ルパンコレクションは警察のものでも、ましてギャングラーのものでもない──それを持つべきはルパン家、そして彼らから力を与えられた自分たち快盗だ。

 

「オラァッ!!」

 

 両腕に装着したウイングソードを振るい、かまいたちを発生させるブンドルト。敵を寄せ付けないことを徹底した戦いぶりに、快盗たちは舌を巻く。

 

「奴め、新しい能力を得ているのか……」

「コレクションの力、じゃないよね……?」

「けっ、なんでもいいわ。あんなモン大したこたァねぇ!!」

 

 かまいたちをひらりとかわしつつ、ルパンレンジャーは果敢に切り込んでいく──

 

 その、一方で。

 

「ちっ、また三つ巴か……」

 

 ポーダマンをいなしつつ、ぼやく3号。こうなると結局、快盗の思い通りになってしまうか──

 

「……どうする、飯田?」

「!」

 

 仮面のために表情の見えない同僚に、彼女はあえて判断を仰いだ。己の矜持に、彼がどう向き合うか──そしてもうひとりの同僚が、それをどう受け止めるか。

 一瞬の静寂ののち、彼のVSチェンジャーがポーダマンの頭部を吹き飛ばして。

 

「……危険度の高いギャングラーを優先する!快盗は……そのあとだ」

「……!」

 

 表情が見えなくとも、1号──鋭児郎が目を丸くしているのがわかる。響香は笑みを漏らしかけたが、作戦行動中であることを思い出してこらえた。

 

「それでいい、烈怒頼雄斗?」

「………」一瞬の沈黙のあと、「……とりあえずは!」

 

 ブンドルトを、倒す──快盗にルパンコレクションを渡すかどうか、その結論はあえて出さなかった。警察の使命を遂行することで、三人は一致をみたのだ。

 だがそれを目ざとく察知した"もうひとりの赤"が、同じ赤へと飛びかかった。

 

「おらァ!!」

「ぐあっ!?」

 

 赤と赤が、もつれあう。そうして目の前の宿敵に馬乗りになって、ルパンレッドはVSチェンジャーを突きつける。

 

「この前はあんがとよヒーロー崩れ、今度こそ装備全部置いてけや!」

「ッ、おめェってヤツは……!」

 

 やはり、こいつらはこうなのだ。しかし鋭児郎の胸に失望はなかった。彼をここまで駆り立てるものを知りたいという思いが、膨らんでいくばかり。

 とはいえ相手がそれに応えるはずもなく。引き金が引かれようとした瞬間、

 

「切島くん!!」

 

 本名を呼ばれるのは二度目だった。同時に光弾がルパンレッドに襲いかかる。

 

「ッ!」

 

 自身が被食者にならんことを機敏に察知した彼は、1号を脅迫するのをあきらめて早々に飛び退く。その仮面は鋭く、緑の戦士を睨みつけていた。

 

「チッ……どうせなら三人まとめてかかってこいや、雑魚ども!!」

「何を……!」

 

 怒りに震える、銃把を握る拳。響香は彼が感情にまかせて己の宣言を覆してしまうのではないかと心配したが……その必要はなかった。

 

「烈怒頼雄斗!」再び、ヒーロー名。「ルパンレッドの相手はきみに任せたい。いいか?」

「!」

 

 問う声は、冷静さと思慮を存分に残すものだった。内容も。

 

「……っス!」

 

 はっきりと頷き、パトレン1号は敵の眼前に立ちふさがる。自分がこいつを抑えているうちに、仲間たちがブンドルトを倒しにかかる。まだルパンブルーとイエローもいるが、そちらも含めて彼らは引き受けてくれたのだ。

 

(だから俺も……全力でッ!!)

 

「──うぉおおおおおッ!!」

 

 雄叫びとともに、躍りかかる。当然ルパンレッドはVSチェンジャーで迎撃してくるが、1号にかわすつもりはなかった。"硬化"を発動させ、警察スーツの防御力と併せてすべて弾き返す。通常の被服だと皮膚が尖ったりもするせいで破れてしまうのだが──だからヒーローコスチュームは半裸なのである──、このスーツは耐えてくれるのがよかった。

 

「チッ……」

 

 舌打ちをこぼしつつ、迫る拳をひらりとかわすルパンレッド。警察、とりわけこの男はすぐに距離を詰めてくる……それが忌々しくて仕方がない、いつもいつも。

 

「……もう一回だけ訊くぜ。おめェらは一体、なんのために戦ってんだ!?打ち明けてくれりゃ、俺らなりに力になれるかもしれねぇ!」

「……ッ、」

 

 こういう、ところも。

 

「……死ね……!」

 

 絞り出すようなそれが、勝己の返答だった。

 

「……そうか、わかった」

 

「だったら俺も、もう迷わねえッ!!」

 

 それでも本当は、救けたい。そのためにこいつらに銃を向けるのだと、彼は決意した。

 

 

 *

 

 

 

 一方、例によって三つ巴の様相を呈している、もうひとつの戦闘。ルパンブルーとパトレン2号のインファイトに、ルパンイエローとパトレン3号の銃撃合戦。しかし彼ら彼女らの真の標的はギャングラーであって、それを忘れてしまうほどには頭に血が上っていない。

 

 このトリッキーな状況に、ブンドルトの苛立ちは頂点に達しようとしていた。

 

「テメェら……鬱陶しいんだよォ!!」

「!」

 

 両腕のウイングソードを、十字を描くように振るう。Xの形となったかまいたちが、獲物めがけて襲いかかる──

 

「ッ!」

 

 咄嗟に散開する四人。おかげで彼らは被弾を免れたが……その先には、一対一の戦いを繰り広げるルパンレッドとパトレン1号の姿があって。

 

「レッド!」

「烈怒頼雄斗!」

 

 イエローと3号の声が重なる。反応が早かったのは、快盗のほうだった。

 

「チィッ!」

 

 快盗スーツの性能を活かし、素早くマントを翻すレッド。一方の1号は、

 

──なぜか、そこから逃げようとはしなかった。

 

 むしろ大地を踏みしめるように両足に力を込め……硬化を、発動させた。

 

「──ぐうぅぅ……ッ!」

 

 鋭いかまいたちを、己の身ひとつで受け止める。しかしいかに強化スーツと鍛えあげられた肉体といえど、超常の怪人の……それも強化改造されたうえでの全力の一撃を、単身で御しきれるはずがない。

 

「バカっ、なに考えて……!」

「いや待て、あれを見るんだ」

 

 2号が指差した先──1号の、背中の向こう。

 

 建物の陰に、息を潜める数人の姿があった。

 

「民間人……!?逃げ遅れたのか……でも……」

 

 まったく気がつかなかった。姿が見えないのは致し方ないにせよ、音も。聴力にはすぐれていると、自認しているのに……。

 響香は唇を噛んだが、次の天哉の言葉で我に返った。

 

「ダメだ、あれではもたない……!」

 

 警察スーツに覆われて見えないが、鋭児郎の全身は今、それこそ"異形型"とみまごうばかりに硬質化していた。

 しかしその間は全身全霊で力み続けなければならない。ゆえに、限界は遠からずして訪れる──天哉には、それがわかったのだ。

 

(ならば……!)

 

 響香が走りだそうとしている。"走る"なら、自分のほうが。

 

「……すまない耳郎くん。また迷惑をかける」

「え……?」

 

──ふくらはぎが、唸りをあげた。

 

 

「ぐうぅぅぅ……ッ!!」

 

 駄目だ、耐えきれない──それは鋭児郎自身、嫌というほど自覚していることだった。既に全身の筋肉という筋肉が悲鳴をあげている。このままかまいたちの威力を殺しきれたとしても、その頃にはどれだけのダメージが積み重なっているか、想像もしたくなかった。

 

──ヒーローに、無理は禁物。無理をしてその場は任を成し遂げられたとしても、そこで再起不能になってしまえば……その先の未来で救けられるはずだった人を、救けられなくなってしまう。

 

 わかっている。だから決して賢いとはいえない頭で、自分なりに考えながらやってきたつもりだ。

 しかし今、今だけは──

 

(ここで、俺が退いちまったら……あの人たちが、100パー死ぬ……ッ!)

 

 そうとわかっているのに、無理をしないでいられるわけがないじゃないか。ゆえに、踏ん張り続けるパトレン1号。

 しかし無理を通し続ければ、自ずと限界にぶち当たる。

 

「ぐ、ぁ……くそ、おぉぉぉっ!!」

 

──撥ね飛ばされる。全身を鈍くも強烈な痛みに支配されながら、鋭児郎の心は絶望に染まっていた。

 

 しかし……彼の"無理"は、決して無駄ではなかった。

 

「うぉおおおおおッ!!」

 

 凄まじい速度で走り込んできた緑の影が、かまいたちの前に立ち塞がる。かなり勢いの弱まったそれを、パトメガボーで一閃。──旋風は、消失した。

 

「!、あ……」

 

 鋭児郎が、響香が、驚愕の声をあげる。

 "それ"を為したのは他でもない、パトレン2号──飯田天哉だったのだ。

 

「はぁ……はぁ……ッ、ぐ……!」

 

 息も絶え絶えでその場に膝を折る2号。理由は言うまでもあるまい……血に染まったふくらはぎが、すべてを物語っている。

 

「飯田……さん、あんた……」

 

 自身も倒れ伏したまま、呆然とその名を呼ぶ1号。

 ややあって、

 

「切島、くん……」

「……!」

 

 仮面越しにもわかる──天哉の角張った瞳が、まっすぐに自分を見つめている。

 

「僕たちには、相容れない部分がある……あるいは永遠に交わることがないかもしれない……。──だが、間違いなく重なりあうものもあるのだとわかった」

「………」

 

 それがなんなのか、鋭児郎にはもうわかっている。

 

(あぁ、そうだ)

 

 

「命に代えても市民を守る……!」

 

「「──それが、俺たちの絆だッ!!」」

 

 そう……最初からそれだけだった。それさえあれば、他には何もいらなかったのだ。

 

──その宣言を聞いていたのは、人の形をしたもの──ギャングラーも含めて──ばかりではなかった。

 

『ヒュ~、煮えたぎるような熱血!オイラ、グッと来ちまったぜ!』

 

 いつも通りぶらっと参上する漆黒の翼──グッドストライカー。しかしその行動は、普段のそれとは様相を異にしていた。

 まだ反応の途上だったルパンレッドの周囲を巻いたかと思うと、懐から"何か"を抜き去ったのだ。

 そして、

 

『パトレンジャー、コレを使いな!』

「うおっ!?」

 

 いきなりオブジェクトを投げ落とされ、狼狽しながらもそれをキャッチする1号。その、手の中にあったのは。

 

「これ……バイカー?」

 

 トリガーマシン"バイカー"。ルパンレッドが持っているはずのそれがグッドストライカーからもたらされたということは、つまり。

 

「……は?」

 

 懐を探るレッド。──当然、ない。

 

「はァああああああ!!?」当惑と憤怒の絶叫。これも当然である。「ゴルァァァァコウモリヤロォ!!テメェ何してくれてんだア゛ァ!!?」

『だってェ……あいつらにグッと来ちゃったんだもん!』

 

 そんな言い訳が通用するなら、この世に警察も快盗も必要ないのだ。

 次の瞬間、グッドストライカーはルパンブルーに握りしめられていた。

 

「今すぐこの場で解体してやろうか……!」

「信じられんわホンマ……」

『キャ~、ヤメテ許して~!』

 

 グッドストライカーに生命の危機が迫る一方で、パトレン1号は己を叱咤して立ち上がった。バイカーを託されたのだ、使わない手があろうか──あるはずがない。

 

「いくぜ……!」

『バイカー、パトライズ!警察ブースト!』

 

 その電子音声を耳にして、コウモリ野郎を徹底的にいたぶろうとしていた快盗ははっと我に返った。

 

「ッ、やべぇ……!」

 

 咄嗟に走り出すルパンレッド、次いでブルー。逃げ出そうとするブンドルトを捕まえ、金庫にダイヤルファイターを押しつける。

 

『0・2・8──!』

 

 解錠──と同時に、

 

『バイカー、撃退砲!!』

 

 放たれるホイール型の弾丸。本能的な危機に飛び退きそうになる身体を理性で抑え込み、中に鎮座していたルパンコレクションを取り上げる。

 

「っし──!」

 

 そして、離脱。それはほとんどコンマ数秒の戦いだった。翻ったルパンレッドのマントの端を焦がし、通過した弾丸は開きっぱなしの金庫の中へ──

 

「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!?」

 

 絶叫するブンドルト。他の体組織からは分離しているとはいえ、れっきとした体内を蹂躙されているのだ、彼の辿る末路は明らかだった。

 

 ホイールが加速度的に熱量をもって肥大化し……遂に、爆ぜる。ブンドルトの全身がバラバラに千切れ、焼き尽くされていく。唯一残ったひしゃげた金庫は、やはり彼らギャングラーのボディの中では最も頑丈な部位であった。

 

「任務……かん、りょ……う」

 

 構えを解いた1号が、どさりとくずおれたのはほどなくのことだった。3号が駆けつけ、咄嗟にその身体を支える──先ほどまでとは打って変わって、ふにゃふにゃに力の抜けた筋肉。彼は意識を失っていた……正確には、眠り込んでしまったというところか。

 

「ったく……ムチャするよ」

 

「飯田、あんたもね」

「……ふっ」

 

 座り込んだまま、天哉もまた息を弛めた。どれだけ意を違えようが、根幹をなすものは同じ──それを知ってさえいれば、他に何もいらないのだ。

 

 

 一方、してやられた形のルパンレンジャーは。

 

「レッド、コレクションは!?」

「……ギリ獲ったわ」

 

「セフセフ……」と胸を撫で下ろすイエロー。ただそれは、不幸中の幸いというほかなく。

 

「警察はあの状態……今なら取り戻せるぞ」

 

 確認するようにつぶやくルパンブルー。確かに、今まともに動けるのは3号だけだ。ならば、答は決まっているのだろうと思う。

 

「………」

 

 だが、不思議と獲りにいく気になれなかった。1号と2号──鋭児郎と天哉の、重なる声のリフレイン。それが頭の中から消え去るまでは、きっと。

 

──そうしているうちに、ゴーシュ・ル・メドゥが姿を現した。

 

「私の可愛いお宝さん、ブンドルトを元気にしてあげて……」

 

 どこか艶やかな口上とともに、怪物は己のルパンコレクションの能力を発動させる。

 エネルギーを注ぎ込まれた金庫が、ふわりと浮かび上がる。──そして、ブンドルトを蘇生させた。

 

 今さら言うまでもないが、ただ蘇生させるだけではない。彼の肉体は数十倍──周囲のビルなど優に越える大きさにまで、巨大化するのである。

 

「もうイヤァァァァァ……あれ?復活した?」

「……その口調、どうにかならないのかしら」

 

 ぼやきつつ、素早く姿を消すゴーシュ。それとほとんど同時に、復活ブンドルトは快盗と警察を獲物と見定めた。

 

「ヘヘヘヘ……テメェら、死にたくなかったらコレクションを差し出しなッ!おらァ!!」

「ッ!」

 

 脅迫と同時に、巨大なかまいたちがその場にいる者全員に襲いかかる。快盗は素早く身を翻して避けたが、三人中ふたりの動けない警察は吹き飛ばされてしまった。

 

「ッ、……快盗!」

「あ?」

「悪いけどヤツは頼むよ、ウチらこんなだし。……見返りはやれないけどね」

 

 バイカーを握りしめつつ、3号。普段なら、ふざけるなと一蹴しているところだったが。

 

「……チッ、テメェらのお恵みなんざ願い下げだわ」

 

 吐き捨てた言葉は、実質的には了承そのものだった。

 

「やむをえまい……やるか」

「グッディ、今度は私たちの味方してよ!?」

『わかってるって!いくぜー!』

 

 

『──Get Set……Ready Go!!』

 

 三機のダイヤルファイター、そしてグッドストライカー。続々と巨大化したマシンは、早くも次なるフェーズに移る。

 

『快盗ガッタイム!勝利を奪いとろうぜ~!』

 

 グッドストライカーを中心に、変形しながら人型の部位を形成していくマシンの群れ。──程なく群れではなく、それはひとつの個体として生まれ変わる。

 その名も、

 

『完成ッ、ルパンカイザー!!』

 

 快盗の皇帝──その名にふさわしい威容が、地上へと君臨した。

 

 

 *

 

 

 

「その図体ごと持ち帰ってやるゥゥゥ!!」

 

 健在のウイングソードを振りかざし、襲いかかるブンドルト。それを受け流しつつ、パイロットのひとりであるルパンレッドが悪役じみた笑い声をあげる。

 

「ハッ、テメェにンな大層なシゴトができんのかよ。このオカマペンギン!」

「オカっ……あ、甘く見てもらっちゃ困るぜェ!」

 

 再びかまいたちを炸裂させる──音速で迫るそれを、ルパンカイザーのスピードをもってしてもかわしきれない。胴体に炸裂し、火花とともに後退させられる。

 

「……ッ、」

『イヤァァ、オイラのつやつやお肌に傷がついちゃうぅ!』

「傷で済むんだ……」

「心配するな、あとでヤスリで磨いてやる」

『イヤァァァ!』

 

 漫才のような会話を聞き流しつつ、レッドは手元に残されたサイクロンダイヤルファイターを取り出した。

 

「──なら、コイツ使わせろや」

 

『Get Set!Ready──』顔面が開き、コックピットが露出する。『──Go!!』

 

 たちまち巨大化するサイクロン。その勢いを買ってブンドルトに体当たりをかますと、それは素早く旋回して帰ってきた。

 

『左腕、変わりまっす!』

 

 ルパンカイザーの左腕──イエローダイヤルファイターが分離し、サイクロンと交代する。

 

「かっ……換装したァ!?」

「っし……ブッ殺ォす!!」

 

 先端が展開し、プロペラがふたつに割れる。それはとりわけ重要な意味をもつ変形だった。

 

『グッとくる竜巻~!!』

 

 ぬいぐるみグッディの独特のセンスが光るシャウトとともに、ふたつのプロペラが干渉し合い……強烈な旋風を生み出した。それはブンドルトのかまいたちを一瞬にして跳ね返し、ブンドルト自身をも巻き上げることに成功した。

 

「お~、すっごい……。警察もトンでもないもの持ってくるよね」

「感心するのはあとだ。──小僧、」

「わぁってら。……じゃあな、クソペンギン!」

 

 立ち上がり、VSチェンジャーを構える三人。その動作に連動し、ルパンカイザー"サイクロン"は最後のシークエンスに突入する。

 両腕に最大のエネルギーを込め、

 

『グッドストライカー連射、吹き飛んじまえショット~!!』

 

 さらに勢いを増す旋風。同時に右腕のブルーダイヤルファイターが、機関銃のごとくエネルギー弾を放出──ことごとく、ブンドルトのボディを食い破っていく。

 

「だ、誰かぁ……誰かタスケテ!デストラさん、ゴーシュぅぅぅぅ!!」

 

 もはや、彼を助けようとする者はいなかった。いたとして、助けようがなかったが。

 次の瞬間には、今度こそ彼は跡形もなく消滅──行き先を失ったエネルギーが、爆炎を巻き起こしていたのだった。

 

『ヒュー、気分はサイコ……痛でッ!?』

「最ッ悪だわ……クソが」

「コレクションひとつ、警察に渡した罪は重いぞ……」

 

 男ふたりに唸られても、グッドストライカーは飄々としていた。

 

『ヤだな~、そんなカリカリするなって!そんじゃ、アデュー!』

「あ、おい──」

 

 刹那、分離。いずこかへ高速で去っていくグッドストライカーには追いつけない。舌打ちしつつ、ルパンレンジャーもまた帰還の途につく。

 

「……痛み分けか」

 

 ぼやきつつ、

 

(あの熱血ヒーロー崩れ……マジで厄介だな)

 

 あの男は自分たちと向き合う覚悟を固めたようだった。苦々しい思い。晴らすためには、願いをかなえるほかに方法はないのだった。

 

 

──見送る男の姿が、地上に在った。

 

「デストラの奴……せっかく情報くれてやったっていうのに」

 

 がり、と、氷を噛み砕く音が響く。彼は一体、何者なのか──その答は未だ、風に吹かれている。

 

 

 *

 

 

 

「これ、塚内管理官から差し入れ。仲良く半分こして食べろってさ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて菓子折りを見せつける耳郎響香に、切島鋭児郎は思わず苦笑いを浮かべた。その隣のベッドでは、飯田天哉が憮然とした表情を浮かべている。

 身体を限界まで酷使した二人は、強制入院という処置が下された。それも、同室。隣同士。

 

「ぼ、俺はそんな、食べ物のことでケンカをするほど幼稚ではない……つもりだ!」

「ま、そりゃそうだろうけど。──あ、そうだ切島」

「ハイ……えっ?」

 

 天哉に続き、今度は響香にまで本名で呼ばれた。目を丸くする鋭児郎だったが、彼女の放った質問にはさらに肝を冷やした。

 

「あんた、あれからコイツにタメ口きいてんの?」

「ハァ!?」

 

 あれからというのは、ケンカをしてしまったときのことを指しているのか。冷や汗をかきつつ、鋭児郎はがばりと頭を下げた。

 

「す、スンマセンっした!生意気な口きいちまって……」

「……構わない」

「そうっスよね……え?」

 

 天哉はどうしてか笑顔だった。長幼の序には厳しそうな男であるにもかかわらず。

 

「俺は心の広いほうではないからな……普通なら、少なからず不愉快に思うところなんだが。どうしてだろう、きみが相手だとしっくりくるというか、それが当然のことであるような気さえしてくるんだ」

「飯田さん……」

「ねえ切島、」響香が続ける。「別に敬語じゃなくてもいいよ。歳は違うけど、一緒にチームを創ってきた仲間なんだしさ」

「あ……」

 

 仲間──どうしてだろう。ふたりにそう言われると、歓喜と同時に、懐かしいような気さえしてくる。天哉も響香も、同じ気持ちなのだろうか。

 で、あるならば。

 

「あんがとな、──飯田、耳郎!」

 

 

 朗らかな笑顔が、こぼれる裏で。

 

 

「ッ、しかし……!」

『これは決定事項だ、塚内管理官』

 

『烈怒頼雄斗に代わり、"彼"に正規のパトレン1号を任せる。──きみの采配に期待するよ』

「……ッ、」

 

 上層部から下った宣告に、塚内は唇を噛みしめていた──

 

 

 à suivre……

 

 

 




次回「1号の2号!?」

「皆さん……今までお世話になりましたッ!!」

「同じ"盗人"同士、よろしくするかい?」

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