【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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戦隊史上最速のメンバー交代劇、二例目のレッド交代劇(棒読み)

さらば烈怒頼雄斗、キミのことは忘れない(棒読み)



#9 1号の2号!? 1/3

 

「え、ええ~ッ!!?」

 

 国際警察日本支部内、警察戦隊のタクティクス・ルーム。時刻は午前8時ちょうど。そんな早い時間から切島鋭児郎が間抜けな声をあげるのも無理からぬ宣告が、唯一の上司である塚内直正管理官からなされていた。

 

「それ……マジなんですか?」

 

 口をぱくぱくさせてもう声も出せない鋭児郎に代わり、まだ幾分かは平静を保っている耳郎響香が訊く。尤も、塚内が"そんなこと"を冗談で告げるはずもなく、無意味な質問であることは間違いないのだが。

 

「……残念ながら、マジだ。烈怒頼雄斗には一週間後、所属事務所に戻ってもらう」

「そんな……」

 

 飯田天哉も絶句している。いや、元々は緊急措置として協力を依頼していただけにすぎず、遠からずしてこうなることはわかっていたのだ。ただ鋭児郎自身、パトレンジャーの職務を意気に感じていたし、チームとしての輪も先日の一件を通じて強固なものになっている。その矢先の通達だった。

 

「……もしかして、VSビークルを快盗に奪われちまったから?」

 

 先日のブンドルト・ペギーの一件の際、ルパンレンジャーに奪われた二台のVSビークル。うちトリガーマシンバイカーは──グッドストライカーの思わぬ援護により──取り返したが、サイクロンダイヤルファイターは奴らの手の中にあるままだ。

 直接の責任は、自分にある──ルパンレッドと直接対決に及んでいた鋭児郎はそう思っていて、だからこそ取り戻すと意気込んでいたのだが……上層部からの信頼は、既に失われていたのか。

 

 青ざめる鋭児郎だったが、塚内の答は否だった。

 

「いや、そういうわけじゃない。チーム内の事情は別にして、上層部(うえ)としてはあくまできみは暫定の1号……正規の隊員の選考も続けられていたんだ」

「……じゃあ、新しい1号が決まったってことっスか?」

「ああ」

「誰なんです?切島の後任……」

 

 複雑そうな表情を浮かべつつ、塚内は一枚の調書を取り出した。そこに載せられた写真、名前──それらすべて、彼ら三人の記憶にあるものだった。

 

 

 *

 

 

 

──一週間後 ジュレ

 

 快盗たちの隠れ蓑でありながら、周辺住民には知る人ぞ知る隠れた名店のように扱われつつあるこの喫茶店では、珍しい取り合わせで開店準備が行われていた。

 

「♪~」

 

 鼻歌混じりにテーブルクロスをかけていく麗日お茶子に、料理の仕込みをしている爆豪勝己。元トップヒーロー・エンデヴァーである店長の轟炎司は不在にしていた。その理由は至って単純である。

 

「残念やったねぇ爆豪くん、サボる口実とられちゃって!」

「……けっ」

 

 そう、店長は只今買い出しに出かけていた。勝己があまりにも帰ってこないものだから、ついに堪忍袋の緒が切れたというところか。あくまで本業は快盗であるから、どれだけ怠慢だろうがクビにはできない。表向き雇われ店長としては、頭の痛い問題だった。

 

「………」

 

 ただ、一年以上行動をともにしてきて、お茶子はこうも思うようになった。彼が"爆豪勝己"としての生活においてなげやりな行動ばかりをとるのは、あえてそうしている面もあるのではないかと。不良じみた言動の端々から滲む彼の本性は意外なほどにすれていなくて、それでいて繊細だ。彼はそんな自分を自ら傷つけながら、快盗であり続けている──

 

「……何さっきからジロジロ見てんだよ、丸顔」

「あ……」

 

 気づけば、勝己が探るような目つきでこちらを見据えている。繊細であるがゆえに、彼は他人の機微にも敏いのだ。感情が表に出やすいお茶子のような人間の心情など、すぐに察知されてしまう。

 見ていたこと自体は否定せず、彼女はその理由を誤魔化すことを選んだ。

 

「いやホラ……黒霧さん、どうしてサイクロンは私たちに預けたまんまなのかなーって」

「アァ?ンなモン、VSビークルだからに決まってんだろ」

 

 つまりはルパンレンジャーの即戦力として扱えるということ。実際、ルパンカイザー"サイクロン"は強大なパワーを発揮したのだ。

 

「でも、リスクもあるワケやし……警察に奪い返されるとか」

「……俺が連中に遅れをとるって言いてぇんか?」

 

 しまった、地雷を踏んでしまったか。勝己の表情がみるみる強張っていくのを目の当たりにして、お茶子は己の軽はずみな発言を悔いることになった。

 

 不意にドアが開き、人影が現れたのはそんな折だった。てっきり炎司が帰ってきたのだと思ったお茶子は、救けを求める顔でそちらを見やったのだが。

 

「!」

 

 そこに立っていたのは、炎司とは似ても似つかぬスーツ姿の細身の青年だった。金髪碧眼に垂れ目が特徴的な甘いマスクに、一瞬見とれかかるお茶子。しかし、

 

「……いらっしゃいませも無しかい、この店は?」

「えっ、あ、いいいらっしゃいませ……でも、まだ準備中なんですけど……」

「あれぇ?おかしいなぁ?」大仰に肩をすくめ、「外のプレート、ちゃんと"ouvrir"ってなってたんだけどなぁ?ご丁寧にフランス語で書いてあって、この僕が見間違えるとでも?」

「え、えっと……」

 

 おそらくは直し忘れだろう、腰かけなうえに少人数経営なのでそういう綻びはどうしても出てしまうのだ。

 

「いいわ、丸顔。もうコーヒーくらいなら出せる」

「!、あ……じゃあ、お席にご案内しまーす……」

「……やれやれ」

 

 ため息混じりについてくる青年。顔立ちから受けたさわやかな印象と、実際の性格はだいぶ異なるらしい──密かに嘆息しつつ。

 

(この人……どっかで見たことあるような)

 

 奇妙な既視感。その正体がなんなのか掴めぬまま、注文を承る。尤も今出せるのは飲み物くらいしかなく、青年もそのつもりだったようだが。

 これでようやくひと段落──と、思いきや。

 

「ここって、元エンデヴァーのやってる店なんだよね?姿が見えないけど」

「あ、ああ……炎司さ、店長なら買い出しに行ってますけど……」

「買い出し?元トップヒーローが?」片眉をあげ、「おやおや。これほどC'est la vie(人生そんなもん)って言葉が身に染みることもないね」

「……ッ、」

 

 哀れみか、嘲りか。いずれにせよ青年の人を喰ったような態度は、他人事でない以上お茶子には不愉快でしかなかった。

 

「朝っぱらから当てこすりたぁ、いいご身分だな」

 

 コーヒーメーカーからカップに液体を注ぎつつ、勝己が低く唸るようにつぶやく。室内の気温を何度も押し下げるような声だった。

 

「そういうアンタはどこの馬の骨なんだか」

「……どうやらエンデヴァーは教育も不得手なようだね。ま、息子を家出させてるんだから当然か」だめ押しに毒を吐きつつ、「僕は──」

 

 青年が己の身分を明かそうとしたとき、再びドアベルが鳴った。

 

「戻ったぞ」

「あ、炎司さん……」

 

 元トップヒーローの店長は、青年の顔を見るなり目を見開いていた。

 

「……きみは確か、雄英の」

「ええ。ご無沙汰しています、エンデヴァー」

 

 立ち上がり、慇懃に一礼する青年。先ほど馬鹿にしていたとは思えない豹変ぶりだが、その表情はどこか挑戦的だった。

 

「え……知り合いなん?」

「知り合いも何も……彼はプロヒーローだぞ、雄英出身のな」

「!」

 

 勝己もお茶子も、揃ってぽかんと口を開けていた。面識はないのに既視感があると思ったら。

 

「おっしゃる通り。コピーヒーロー"ファントムシーフ"……知らないのも無理はないかな。プロデビューから二年、ずっとフランスはパリで活動してきたし」

「………」

「しかしエンデヴァーにこんな辨えがあったとは、僕たち案外気が合うかもしれないな。いい店だと思いますよ、ちょっと接客に難がありますけど」

「……失礼があったのでしたら謝罪します」

 

 頭を下げる炎司だったが、それが形ばかりのものであるのは誰の目にも明らか。ただ、ファントムシーフを名乗った青年が気を悪くした様子はなかった。

 

「ま、これからは職場が近くになるので。たまに寄らせていただきますよ」

「事務所を移られたのですか?」

「いや。実は国際警察に出向することになりまして」

「!」

 

 三人の間に緊張が奔る。ヒーローが出向──どうしても今警察戦隊にいる赤髪の青年を連想する。

 お茶子が思いきって、その男の名を口に出した。

 

「ヒーローで出向っていえば、烈怒頼雄斗さんも今国際警察にいますよね!あの人もたまに来ますよ!」

「へぇ、彼がね」

 

 次いでファントムシーフの放った言葉は、衝撃的なものだった。

 

「その烈怒頼雄斗の後任として来たんだよ、僕は」

「……へ?」

 

 烈怒頼雄斗の、後任?──パトレン1号の?

 

「さて……モーニングコーヒーも堪能させてもらったし、そろそろ行こうかな」

「あ……」

 

 すたと立ち上がる若手ヒーロー。言われてみれば細身に見えて、その身のこなしはみっちりと鍛練されていることがわかる。

 わざわざクレジットカードで会計を済ませ、去り際──演技がかった態度で、彼はこう言い放った。

 

「これからは僕がギャングラーからあなた方を守ります。どうぞご安心を──民間人の皆さん?」

 

 最後のひと言は、明らかにひとりを標的としたものだった。

 

 

 *

 

 

 

 ファントムシーフこと物間寧人は嫌味な性格ではあるが、基本的に嘘つきではなかった──必要に応じてハッタリをかますことはあるが──。

 

 ジュレを辞してから半刻ののち。烈怒頼雄斗・切島鋭児郎の後任として、彼は警察戦隊のタクティクス・ルームに足を踏み入れていた。

 

「本日警察戦隊に着任となりました、物間寧人です。よろしくお願いします」

 

 警察の流儀に倣った敬礼に、びしっとした口調。性格のまずさばかりが目立つ青年だが、伊達にヒーローであるわけはなく、彼にはこうした真面目な一面もあった。これでも学生時代、クラスにおいては中心的な存在として皆から頼られることもあったのだ。

 

「管理官の塚内直正です。ファントムシーフ……いや、物間くん。歓迎するよ」

『私は事務用ロボットのジム・カーターです!』

「へえ、流石は国際警察。こんな最新鋭のロボットまで導入してるんですね」

 

 マニピュレーターと握手しつつ、感心を表す寧人。ジムは『それほどでも~』と恐縮している。

 

「そして……このふたりが、きみの同僚となるパトレンジャーのメンバーだ」

 

 天哉、響香が揃って前に進み出る。

 

「飯田天哉と申します、パトレン2号です!よろしくお願いします!」

「耳郎響香、3号です。よろしくね、ファントムシーフ」

「よろしく」

 

 少なくとも表向きは歓迎の笑みを浮かべるふたり。彼らとがっちり握手をして、最後に。

 

「そして、きみの前任。今日までパトレン1号を務めてくれた烈怒頼雄斗……切島鋭児郎くんだ」

「!」

 

 紹介された鋭児郎が居住まいを正す。──個人的な会話をしたことはほとんどないが、ふたりには面識があった。

 

「よ、よろしく頼んます!先輩!」

「よろしく。しかし、雄英の後輩から引き継ぎを受けることになるとはね……これもC'est la vieってヤツかな」

「……?」

 

 首を傾げる鋭児郎。彼にはフランス語の造詣がまったくと言っていいほどなかった。

 

「その引き継ぎだが、烈怒頼雄斗には復帰の準備もある。できるだけ速やかに……」

「!、お、俺は大丈夫っス丸一日使っても!そうだ先輩、施設の案内もしますよ。もう俺、全部覚えたんスから!」

「ふぅん。別に僕はどっちでもいいけど」

「ンなら行きましょう!早速!!」

「あ、おい……」

 

 挨拶もそこそこに、ぐいぐい寧人の背を押していく鋭児郎。その勢いの凄まじさに、一同は呆気にとられたまま見送るほかなかった。

 

「施設の案内なら、俺たちにでもできるんだが……」

「できるだけ長くここにいたいんでしょ。やること済んだら、もうお別れなんだし」

「そういうものか……」

 

 わずかひと月半ほどとはいえ、彼はこの警察戦隊にしっかりと根を張ってしまった。任務も、人員も。すっかり馴染んだこの庁舎から離れるのに、名残惜しく思わないはずがない。

 

「しかし……ファントムシーフか。ウワサだと、ちょっと性格に難ありみたいだけど」

「そうなのか?」

 

 計算高いとか、嫌味な性格だとか──聞くところによれば雄英時代、別クラスの問題児をわざと煽っては怒らせ、頻繁に衝突していたらしい。デビュー早々渡欧したのも、日本で引き取ってくれる事務所がなかったからだとまで言われている……流石にこれは眉唾だろうが。

 

「しかし、ヒーローとしての資質を疑われるような行動があったわけじゃない」口を挟む塚内。「反りの合う合わないはあるだろうが、上手く付き合ってやってほしい。……そういうものだからな、組織は」

「はっ……勿論です!」

「わかってます」

 

 いい大人だし、ましてこちらの方が年長者だ。爪弾きにするなんてありえない。ただしばらくはどうしても、内心では切島鋭児郎と比較してしまうだろうと思った。

 

 





補足事項:
切島が物間を先輩呼びしてますが、物間はハタチ(誕生日迎えて21?)設定です。飯田くん達よりは年下になります。

最初はキリシマンと同い年にするつもりだったんですが、あるシーンをやりたいがために成人させました。あとのお楽しみに!
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