大晦日~元旦にかけては劇場版ライダー観たりカラオケ行ったりしていましたが、インフル…あとは言わなくてもわかるな?
烈怒頼雄斗こと切島鋭児郎が警察戦隊に復帰──晴れて正式な出向となった──し、一週間ほどが経過したある日のこと。
「バクゴーたちが……快盗?」
耳郎響香からもたらされた推測は、鋭児郎にとって耳を疑いたくなるようなものだった。突拍子もない言葉に、飯田天哉や塚内管理官も懐疑を露にしている。
「一体どうしたんだ……藪から棒に」
「何か気になることでもあったのか?」
管理官の問いに、部下の女性捜査官はこくんと頷いた。
「この前……物間が去り際、耳打ちしてきたんです」
──ジュレの三人、気をつけたほうがいいですよ。
「あのときは意味がわからなかったけど、物間は性格アレでもむやみに民間人を誹謗するヤツじゃないし。それから、ずっと考えてて……」
「そういう結論に至ったと?」
「はい。……考えてみればあの三人と快盗、雰囲気がよく似てるんだ。なんで今まで疑わなかったのかってくらいに……」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」話についていけなかった鋭児郎がようやく口を挟んだ。「あいつらが快盗だなんて、そんなわけ……」
天哉と言い争いになったときだって、彼らが修復のきっかけとなる言葉をかけてくれたのだ。彼らが快盗なら、そんなことをするわけがない。宿敵パトレンジャーが仲違いしていたほうが、都合が良いに決まっているのだから。
「こう言っちゃうとアレだけど……どっちも感触の話でしかない。ウチのも、切島のも」
「……確かに、いずれも証拠があるわけではないな。だが、どうする?」
「いきなり逮捕して取り調べというわけにはいかないぞ」と、天哉。国際警察は世界を股にかけるだけあって超法規的な権限を多くもっているのだが、流石になんの証拠もなく民間人を逮捕拘留などできるわけがない。響香だってそんなことはわかっている。
「もちろん。大体、いきなり強行手段に出たって誤魔化されるに決まってるんだ。ここは、言い逃れできない証拠を掴むしかない。……ってわけで、ジム」
『ハイ、簡単に調べておきました!』
待ってましたとばかりにジムがちょいちょいとコンピュータを操作するや、すぐさま立体モニターに映像が浮かび上がる。薄い金髪に獰猛な赤い瞳が特徴的な、詰襟姿の少年。鋭児郎たち全員、見知った顔だった。
──爆豪勝己、16歳。A型。身長172cm。
『折寺中学出身。両親あり、兄弟はいません。中学では生活態度良好、成績優秀。雄英高校ヒーロー科を志望していたとの情報もありますが、卒業後は進学せずSALON DE THE JURERにて住み込みで働きはじめています』
「気になるね……」
確かに奇妙な経歴であり、響香がそうつぶやくのも無理はないが……鋭児郎は、別の部分が引っ掛かっていた。
「雄英志望?でもあいつ、初めて会ったとき"ヒーローとか興味ねえ"って……」
「……この経歴を見るに、快盗云々は兎も角も何事かあったのだろう、進学を断念せざるをえない出来事が。ジム、彼の家庭環境等に何か問題は?」
『特段確認されているものはありません!』
「!、もしかして……あいつ無個性らしいし、それで……」
いかに他の才能にあふれていようと、無個性でヒーローを務めるのは困難──鋭児郎もまた、それは自明の理として認識していた。
しかし、
『え?彼は無個性ではありませんよ』
「は!?」
なんだって!?最大限見開かれた鋭児郎の目に、爆豪勝己のプロフィールの一番下──"個性"の欄が捉えられた。
「爆、破……?」
何もできない木偶の坊どころか、直接戦闘においてはこれ以上ない強力な個性ではないか。
「ウソつかれたってこと?」
「う、う~ん……そうなるけど……。あ、で、でもッ、快盗だとしたら逆に本当のこと言うと思うぜ!?個性なんて調べりゃこうやってすぐわかるんだし、快盗やってるときは使わねえだろうし……」
「……まあ、それもそうだね」
響香が渋々頷く一方で、
「折寺中学……聞き覚えがあるな」
「ご存知なのですか、管理官?」
「多分。……歳をとるとこれだからいけないな、思い出してみるから次に行ってくれ」
『了解しました!』
続いて表示されたのは──轟炎司、45歳。AB型。身長195cm。個性"ヘルフレイム"。
『言わずと知れた元プロヒーロー・エンデヴァーですね。一年前に突如引退、直後に同店の店長に転職したようです』
「……やはり、改めて考えてみると特異な経歴だな」
「確かエンデヴァーって、一年前の集団失踪事件で息子がひとり行方不明になってたよな?」
「うん。ネットやマスコミなんかじゃ、それで自信喪失して引退したなんて言われてるけど……」
だとしても、失踪から引退までの期間があまりに短すぎる。トップヒーローとしての権限と威光を利用すれば、日本警察はおろか国際警察までも大規模に動員することが可能なのに、そういう根回しをした形跡すらない。しかも、それでなんの縁もゆかりもない喫茶店で働いているというのはどういうことなのか?
──そのとき、不意に塚内が声をあげた。
「!、そうだ思い出した。爆豪勝己の在籍していた折寺中学でも、数人の生徒がその日に行方不明になっている」
「!!」
つまりふたりとも、近しい人間──爆豪勝己については必ずしもそうとは言い切れないが──が失踪しているという共通点があるということ。
「じゃあ、麗日も……?」
鋭児郎のつぶやきに合わせるように、セーラー服姿の少女の姿が映し出された。
──麗日お茶子、15歳。B型。身長156cm。個性"
『露座柳中学卒業後、同店に就職。父が建設会社を経営していましたが、ギャングラーの襲撃により壊滅的被害を受け一年前に倒産。父本人も重傷を負い、現在も入退院を繰り返しているようです』
「……彼女もヒーローを目指して頑張っていたんだ。それを、家族を養うために単身働きに出てきて……くっ」
拳を握りしめる天哉。その角張った瞳が、今にも泣き出しそうなほどに歪められている。ルレッタ・ゲロウの一件で、彼はお茶子と個人的に親しくなってしまっていた。
良くも悪くもそうした人の機微を慮らないジムが、構わず続ける。
『ただ、彼女の周囲に失踪者は確認できていません』
「なら、三人の共通点とは言い切れないな……」
現状、共通点はふたつ。現役プロヒーローないしヒーロー志望だったことと、それらから背を向けたこと。天哉と響香からすれば、むしろ自分たちとも通じるものを感じるところだった。
「プロフィールについてはこんなとこか……」
「……正直に言えば、彼女らを疑うようなことはしたくないな」
立ち直った天哉がぽつりとつぶやく。しかし彼は、警察官としての本分を投げ出すつもりはなかった。
「だが、物間くんもきみも疑いをもったとなれば……はっきり白黒つける必要があるとも思う」
「見張ろう、彼らを」──天哉の言葉で、パトレンジャーの次なる
*
警察戦隊の動きを知るよしもない快盗戦隊ルパンレンジャーの面々は、ちょうどその頃全力で快盗活動に邁進していた。
『快盗ブースト!』
「まとめて、死ねぇ!!」
三人のVSチェンジャーから同時に放たれた必殺の弾丸が、ひしめくポーダマンの群れに直撃する。起きる爆発。跡形もなく消滅するポーダマン。
いや、一匹だけ難を逃れた者がいた。恐れをなした彼は、半ば腰を抜かしたような状態で逃げ出していく。
「あ、逃げた」
「待てやコラァ!!」
当然、即座に追う三人。ポーダマンが入っていった曲がり角は袋小路だ、逃げられるはずがない。
──しかし、
「あ、あれ……?」
袋小路に飛び込んだ三人は呆気にとられた。──ポーダマンの姿が、どこにもない。
「あいつ、どこ行きやがった……!?」
「うう~ッ、追い詰めたと思ったのに!」
「………」
ひとしきり周囲を窺ってみるが、付近にポーダマンの気配は影も形もない。身を隠せる場所もなかった。
「ふむ……」
考え込むルパンブルー。対して、若者たちの切り替えは早かった。
「……あのモヤモブの調べは確かか。なんかあンな、この辺」
「そうだね……いったん仕切り直しかなぁ」
今日は"表向きの仕事"のほうに団体の予約が入っているのだ。手がかりが掴めそうならそちらは躊躇なくキャンセルするところだが……あまりそういうことを繰り返していると店が立ちゆかなくなる。一応はカモフラージュに有用な店であるので、客に対する最低限の誠意は必要なのだった。
──にも、かかわらず。
「もおぉ……!なんで爆豪くんはこんなときまでサボるかなぁぁ……!」
コースメニューの皿を次々と客席に運びつつ、お茶子は独りごちていた。
一緒に戻ってきた爆豪勝己は、予約のあったコースメニューを素早く仕上げると──そういうところはやはり才能マンなのだ──ちょっと二人が目を離した隙に忽然と姿を消してしまったのだ。彼の領分である調理は済ませているからまだいいが、これだけ大勢の客がいるのだからせめて待機しているのが筋というものではなかろうか。
「……言っても無駄だ、放っておけ」
「炎司さんがそうやって甘やかすから!」
「………」
炎司の口から反論はなかった、自覚はあるのだろう。ただ、あまり言い過ぎると彼のトラウマを刺激しかねないことも理解はしているので、程々にして口をつぐんだが。
彼女も、そして炎司も、接客に追われて"外からの監視者"に気づくことはなかった。
「………」
双眼鏡を構え、店内の様子を窺うパンツスーツ姿の女性──耳郎響香。隣にはやはりかっちりしたスーツに着替えた飯田天哉が控えているが、大柄な彼はあまりに目立つのだった。
「耳郎くん……その、俺は邪魔ではないか?それに、あれだけ客がいる中でアクションを起こすとは思えないが」
「わかってる。客がいなくなってからが本番だよ」
「ふむ……そうだな」
うなずきつつ、オレンジジュースを口にする天哉。もとは個性を使用するためのエネルギー源として重宝していたのだが、個性を──無理矢理にしか──使用できなくなった今も好物であることは変わらないのだった。
「さて……切島のほうはどうかな」
同じ頃、爆豪勝己はつい数時間前にポーダマンと交戦していた濱ヶ崎浄水場に足を踏み入れていた。サボりの常習犯である彼だが、快盗稼業に対して一番熱心なのもまた、彼だった。
彼の意図など知るよしもなく、密かに尾行している切島鋭児郎は疑惑の眼差しを向けていた。サボりにしても、こんな場所に来るものだろうか?
「………」
かの袋小路にて、建物の壁をじっと睨みすえる勝己。──と、その服の中がぼこりと胎動した。
『おい!』
「うおッ!!?」
「!」
いきなり勝己が大声をあげるものだから、鋭児郎は思わず飛び出しそうになってしまった。どうにか堪えたが。
一方の勝己は、文字通りの闖入者に対して目を丸くしていた。
「てめッ……コウモリ野郎、どっから出てきて……つーか何勝手に入ってやがんだ!?」
『バカ、大声出すな!』
「ア゛ァ!!?」
『おまえ、国際警察に監視されてるぞ!』
「!」
一瞬にして、勝己は口をつぐんだ。そして背後に神経を尖らせる。──黙っていても五月蝿い、赤髪の気配。
小声で、グッドストライカーが続けた。
『気づかれたんだよ、お前らが快盗だって!』
「な……!?」
それは彼にとって、死刑宣告にも等しい申し渡しだった。このまま捕まれば、何もかもが──
「……ッ」
勝己は自身を戒めた。鋭児郎ひとりが自分についているなら、残りのふたりが何をしているのか……考えるまでもない。
少し考えて、勝己はジュレの固定電話をコールした。二、三──機械的な呼び出し音が、もどかしい。
ややあって、
『はいっ、お電話ありがとうございます。ジュレです!』
愛らしい麗日お茶子の声。それをろくに聴くこともなく、勝己は「俺だ」と応じた。
『あ、爆豪くん!?まったくもう今どこに──』
「──"雨が降りそうだ"」
『……!?』
お茶子が息を呑む。一方で鋭児郎は、勝己の言葉をそのまま捉えて空を見上げていた。確かに曇り空ではあるが。
鋭児郎には知るよしもなかったが、それは快盗同士でしか通用しない暗号のひとつだった。──正体が露呈した。ルパンレッドはそう、仲間に伝えたのだ。