【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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アニメは今週から文化祭編とのことですね。PVのかっちゃん、とてもたのしそう

ここの秋かっちゃんは多分ルパンマグナ…(それ以上はいけない


#12 オーヴァーラップ 2/3

 

 警察戦隊のタクティクス・ルームにて、例によって飯田天哉が頭から湯気を立てていた。

 

「く……ッ、またしてもギャングラーも快盗も取り逃がしてしまった……!不覚!!」

 

 知らない者が見れば、大袈裟としか思われない感情表現。ただここにいる面々は彼が至って真面目だとわかっているので、苦笑するほかなかった。

 

「落ち着きなって飯田。あのギャングラーの目的はわかったんだし」

「女社長の持ってるペンダント、かぁ……」

 

 「スゲー高ぇのかな?」と心なしか目を輝かせている鋭児郎。捉え方はより純粋だが、彼の発想は勝己と変わらなかった。

 

「宝石強盗か……まあギャングラーらしいといえばらしいが。──ジム、八百万氏はどうなっている?」

『現在、知人のもとに身を隠しているそうです!それと、明日予定されていた宝石展示会は中止とのことで……』

「ふむ……」

 

 まあ、当然といえば当然だった。よりによって前日の襲撃ということで、気の毒としか言い様がないが──

 

「──いや、」

 

 不意に響香が声をあげた。

 

「開きましょう、展示会」

「え……」

 

 呆気にとられる鋭児郎と天哉だったが、彼女の上司はその意図を瞬時に理解していた。

 

「なるほど、ダミーの展示会か」

「ええ。ペンダントのダミーを作って大々的に宣伝し、ギャングラーを誘き出すんです」

「!、そうか……そうすりゃギャングラー倒せるし、八百万さんの安全も確保できるってワケだな!」

 

 「だが」と、天哉が懸念を述べる。

 

「ダミーとはいえ、客を入れないのは不自然だ。一般客の安全も確保しなければ……」

「もちろん。ウチら以外の職員も大勢入れて、いざってときの避難誘導が滞らないようにしよう」

「確かに……んじゃ、リハーサルも必要だな。早速準備に取りかかろうぜ!……あ、いいっスよね管理官?」

「──ああ。こちらで人手は確保しておくから、きみたちは出来ることから始めてくれ」

 

 「了解」の声が揃い、早速動き出す三人。部下の手がかからないのはいいことなのだが、少し寂しくもある──そんなことを考えてしまう自分はまだまだ未熟だと嘲いながら、塚内は備え付けの受話器を手にとった。

 

 

 *

 

 

 

 八百万百は、知人の家に身を隠している。確かにまったく嘘とは言い切れなかった、今日初めて邂逅した相手を知人と断言できるならば、だが。

 

 その知人こと爆豪勝己はというと、ただ今ブレッツを取り逃がしたお仲間ふたりに唸っている真っ最中だった。

 

「てめェら本ッ当に使えねぇなァ……!」

「……しょうがないやん、警察来ちゃったし」

「ア゛ァ!!?」

「ナンデモナイデス」

「けっ……特にクソ親父、あんたソレでトップヒーローだったンかよ。世も末だな」

「………」

 

 どうしてか炎司は眉ひとつ動かさなかった。こういう大人ぶった──実際大人も大人なのだが──対応が余計に腹立たしいのだ。自分の欲のために他者、それも家族を傷つけるような子供おとなだから、今ここにいるというのに。

 

──まあ、いい。最低限の目標はクリアした。八百万百が、今目の前にいる。

 

「……で、いい加減教えろやお嬢サマ。あの人っつーのは、ドコの誰なんだよ」

「………」

 

 それこそそんなに大事なことかと炎司もお茶子も思ったが、最初に百と接触したのは勝己だ。彼なりに考えがあるのだとしたら、今はお手並み拝見といくほかない。

 百のほうはというと、ややあって重い口を開いた。

 

「……"デューク・エリシオン"──ご存知ですか?」

「あ?」

「デビュー当初から地方の田舎町を巡業しているプロヒーローか」

 

 大仰なヒーローネームの割に随分と地道に活動している──というのは、今も昔も変わらぬ所感だった。知名度は低く、世間で話題になることも少ない。

 

「幼なじみなんです。ペンダントは、彼からいただきました」

「へぇ。で、何、会いたくないって?痴情のもつれでもあったンか?」

「ちょ、爆豪くん……」

 

 お茶子が慌てて失言を咎めようとするが、百は自嘲めいた笑みを浮かべるばかりだった。

 

「そんなんじゃありませんわ、親しくしていたのは幼い頃だけでしたもの。彼は優しくて、頑張り屋さんでしたけれど……何をやってもてんでダメで。でもそういうところがかわいくて……私が守ってさしあげなければと、そう思っていました」

「……!」

 

 勝己の様子がわずかに変わったことに気づくことなく、百は独白のように続ける。

 

「でも、成長するにつれて……他人に優しさを振り撒いてばかりで、自分が傷つくことを厭わないその姿が、疎ましく思えてきて──」

「──顔を見んのも、イヤになった?」

「えっ……」

 

 勝己は笑みを浮かべていた。今までの意地悪な笑みとは違う、ここまでの百と同じ、自嘲めいたものを。

 

「あんた、見るからに天は二物も三物も与えるってタイプだもんな。なんでも持ってる自分が、なんも持ってないソイツより劣ってるように思えたんだろ?」

「……貴方、他人の心を読める個性をお持ちですの?」

 

 それはまさしく図星という反応だった。

 

「ええ、きっとその通りですわ。子供だったとはいえ、浅はかで、思い上がりにも程がある……。どちらにせよ、私にヒーローは不似合いだったということですわね」

「……あんたも、ヒーロー志望だったンか」

「ええ。尤も私はひとり娘で、家業を継ぐよう厳命されていましたので……」

「………」

 

 黙り込んでしまった勝己。暫し静寂が続くものだから、気まずくなった──少しばかり甘酸っぱい匂いも嗅ぎとった──お茶子がたまらず声をあげる。

 

「その幼なじみのヒーローさんとは、いつから会ってないんですか?」

「……中学校の卒業式の日から、ですわね。このペンダントも、その日にいただきましたの」

 

 目を閉じれば、あの日の情景が鮮明に思い出される。卒業式のあと、もう久しく会話すらしていなかったというのに呼び出され、何かと思えばこれを半ば強引に押し付けられた。訊けば、彼の早くに亡くなった母親の形見だというではないか。

 

──受け取れませんわ!そんな大切なもの……もう、お会いすることもないのに。

 

──うん……そうだね。だからこれは、僕からの最後のお願い。

 

 「受け取ってよ、百ちゃん」──最後のお願いとまで言われては、流石に無下にはできなかった。ただそれだけのつもりだったのに、気づけば自分は未だにこのペンダントを身につけている。

 

「爆豪さんでしたわね、早とちりしてしまったことは謝罪しますわ。……何年経っても彼のことを意識してしまうなんて。私のほうから離れたのに、情けない限りですわね」

 

 別にそんなこと、謝られるようなことではなかった。ただ、

 

「──だったら、会えばいいんじゃねえの」

「え……?」

「そいつと。会えるうちに」

「そのようなこと……今さら会えませんわ。思い返せば、色々と酷いことも言ってしまいましたもの」

 

 優しい彼は何も言い返してこなかったが、きっと自分の言葉に傷ついたこともあったろう。それでもう十年近くもお互い接触がなくて、きっと彼にとって自分は想い出の中に住む存在でしかない。それもその殆どが、苦い記憶。

 

「それでもだ」なおも言い募る勝己。「……会えなくなってからじゃ、遅ェんだよ」

 

 掠れた声。夕陽を浴びたその背中がひどく寂しそうに見えたのは、きっと目の錯覚などではなかった。

 

 

 *

 

 

 

 そうして、夜も深まった頃。

 このまま何事もなく明日を迎えるばかりだと思われていたところに、サプライズニュースがもたらされた。

 

──八百万ジュエリー主催の宝石展に、社長……つまり百の所有するペンダントが、展示されることになったというのだ。

 

 人間に化けて潜伏中のブレッツ・アレニシカも、このニュースを捉えてほくそ笑んでいた。

 

「このタイミングでありがたい話だ。今度こそ奪い取ってやるぜ」

 

「──待ってなよ、デストラさん」

「………」

 

 佇むデストラ・マッジョ。ブレッツの行動は、彼が糸を引いていたのだ。尤もその割には、彼の反応は快いものではなかったが。

 

 

 一方でもう就寝の準備万端だったお茶子は、混乱の極みにあった。

 

「ええ~ッ、だって、ホンモノは八百万さんと一緒に私の部屋なのに!?」

「「素直か」」

 

 思わず声が揃ってしまったものだから、勝己も炎司も顔をしかめた。「この少女はやはり快盗に向いていない」という所感も共有していたのだが、殊更確認はしたくなかった。

 

「ブレッツは俺たちに任せろ。貴様は彼女のペンダントを」

「おー、……」

 

 良くも悪くも物事に対する是非のはっきりしている勝己にしては、妙に歯切れの悪い反応。その理由は、先ごろの八百万百とのやりとりを見ていれば考えるまでもない。

 

「デクくんのこと……思い出しちゃった?」

「ア゛?」

「い、いやだってほら!思うところ、あるみたいやったし……」

 

 表情にこそ不快を露にするが、それはいつものことだった。怒鳴り散らされるくらいお茶子は覚悟していたのだが。

 

「関係ねえ。アレがルパンコレクションなら……ぶん獲るだけだわ」

「……確かに、想い出の品ならカネでは動かんだろうしな」

 

 いずれにせよ、明日決着をつける──百のことも、ブレッツのことも。

 意気込む快盗たちだが、このときの彼らは憂愁にあてられていたのかもしれない。

 

 当の百が密かに話を聞いていたことに、誰も気がつかなかったのだ。

 

 

 *

 

 

 

 迎えた翌日。

 

 表向きは何事もなかったかのように、宝石展は開催されていた。当然かのペンダントに似せたダミーも展示されており、観覧客が興味深げに眺めている。

 

──その中に、パトレンジャーの面々の姿もあった。当然というべきか、彼らは制服を着ていない。鋭児郎は自前の私服、天哉はかっちりしたスーツ──彼にとっては殆ど私服のようなものだが──、響香は飾り気のないワンピースとばらばらの服装だ。見た目にはなんの共通性もない、面割れしていなければパトレンジャーとは気づかれないだろう。

 

 それにしても、と鋭児郎は思う。収集家なのか本職なのかわからないが、目利きの老紳士がかのペンダントのことを「見たことのない宝石だ」と呟いているのを耳にした。それをギャングラーが狙っている。

 

(なんかありそうだな……あのペンダント)

 

 無論、単に珍しい宝石だからということも考えられるが。

 

 そうして、宝石展が封切られておよそ四半刻後。──手ぐすね引いて待っていた招かれざる客が、満を持して来場した。

 

「おらッ、邪魔だ人間ども!!」

「!!?」

 

 威圧のつもりなのか、辺りのオブジェクトを蹴倒しながら現れた──ブレッツ・アレニシカ。その姿を目の当たりにした客が我先にと逃げ出していく中、彼は他に目もくれずペンダントのもとへ駆け寄った。拳で強化ガラスを粉々に叩き割り、目的を果たす──

 

「へっ、ペンダントはいただいグハァッ!?」

 

──と思いきや、横っ面を光弾で叩かれて吹っ飛ばされる。

 

「欲しけりゃどーぞ。ニセモノでよければだけど」

「な、何ィ!?お前らまさか……!」

 

 三方を囲む鋭児郎、天哉、響香。彼らはVSチェンジャーを構え、一斉にトリガーマシンを装填する。

 

「「「警察チェンジ!!」」」

『1号・2号・3号、パトライズ!──警察チェンジ!』

 

 引き金を引く──放出された光の束が、国際警察のシンボルマークとなって三人の身体を包み込んだ。そして、揃いの警察スーツが装着される。

 

「パトレン1号ッ!!」

「パトレン、2号!!」

「パトレン3号!」

 

「「「警察戦隊ッ、パトレンジャー!!」」」

 

「国際警察の権限において──」

「──実力を行使する!」

 

 有無を言わさぬ宣言とともに、彼らは躊躇なく屋内での戦闘を開始した。ここは表には出ていない国際警察の関連施設であるし、観覧客についてはあらかじめ配置しておいた職員によって迅速に避難が行われている。心置きなく戦うことができるのだ。

 

「チィ……ッ、罠だったのか!!」

「今さら気づいても遅いっての!」

「貴様は、ここで倒すッ!!」

 

「──その前に、ルパンコレクションは我々がいただく」

「!?」

 

 朗々と響く男の声。同時に下ろされたシャッターが突き破られ、青と黄の快盗が乱入してきた。

 

「警察の皆さん、ご苦労様でーす!」

「おかげでブレッツを捜す手間が省けた、感謝する」

「ッ、貴様ら……!」

 

 狙い澄ましたかのようにやってきた快盗たちは、パトレンジャーにとってもブレッツにとっても忌々しかった。それぞれが完全に反目し合っている以上、そこから先の戦闘は三つ巴となるしかありえないのだった。

 

 

 *

 

 

 

 一方で、ルパンレッドこと爆豪勝己だけは静かな時を過ごしていた。仲間たちと取り決めた通り、ペンダントを入手すべく八百万百と行動をともにしていたのだ。

 

 彼女はというと、仕事が溜まっているからと会社に戻る最中だった。それも徒歩で。ジュレのことを勘繰られないよう取り計らってくれるというのは、率直にありがたい。

 

「あの……爆豪さん、もうこの辺りで結構ですわ。ひとりで戻れますので」

「あっそ。俺ぁ勝手についてってるだけだから」

 

 一応、嘘はついていない。

 

「そう……見かけによらず、お優しいのね」

「………」

 

 

「それとも──そんなにこのペンダントが欲しいのかしら、快盗さん?」

「!」

 

 一瞬目を丸くしかけた勝己だったが、即座に鼻を鳴らして「なんの話だよ」と取り繕った。尤もそれは無駄な足掻きだったのだが。

 

「昨夜、皆さんのお話を聞いてしまいましたの」

「……盗み聞きかよ。マナーのなってねーお嬢サマだな」

「ふふ……反論はいたしませんわ」

 

 快盗とわかっていても、即時なんらかの対応をとるつもりはない百だった。ただ、

 

「どうして、このペンダントが欲しいんですの?貴方は昨夜、これがルパンコレクションなら……と、おっしゃっていましたけれど」

「………」

「麗日さんがおっしゃっていた貴方の幼なじみと、何か関係があるの?」

 

 そこまで聞いていたのか。同志であるふたりにだって積極的には知らせていないこと、まして一期一会の他人と話すときが来るなんて。しかしこの女が相手だと、不思議とそれも仕方がないと思えた。

 

「……デクに、もう一度会って話がしたい」

「……!」

「ルパンコレクションをすべて集めりゃ、その願いはかなう。集められなきゃ、願いはかなわない」

 

 ただ、それだけ。たったそれだけの、シンプルな現実。

 

「馬鹿みてぇだろ?二度とそのツラ見せんなってぶん殴ったヤツにもう一度会うために、命がけで犯罪者やってンだぜ」

 

 「そんなクソ、俺ひとりで十分だろ」──そう言って笑う勝己の表情は、百にはあまりに哀しく映った。

 

「爆豪さん、あなたは……」

 

 百が何事か口を開きかけたときだった。

 

「見つけたぞ、八百万百」

「!」

 

 ふたりの目の前で、にわかに空間が歪み──発生したブラックホールから姿を現す、一つ目の巨駆。

 

「てめェ……一つ目野郎」

 

 ブンドルト・ペギーのときにも現れた……確か、デストラ・マッジョ。たった一度の遭遇ではあるが、あのときの炎司の常ならぬ反応から勝己の記憶にも戻っていた。彼曰く、普通とは違う敵──

 

「俺を知っている?……そうか貴様、快盗だな」

「……ッ、」

 

 見破られてしまったが、もとより抱えている苛立ちが深まるというだけのことだった。百にも既に看破されているのだ、この場での選択肢はひとつしかない。

 

「そのペンダント……いやルパンコレクションは俺が貰い受ける。せっかく釣った魚を横取りされる気分はどうだ?」

「おめでてーなァ……誰もてめェにやるなんっつってねえだろうが!!」VSチェンジャーを構え、「快盗チェンジ!!」

 

『0・1・0、マスカレイズ!快盗チェンジ!』

 

 勝己の全身が光に包まれ、次の瞬間にはルパンレッドへと変貌していた。

 

「予告する。……てめェに、宝は渡さねえッ!!」

 

 それは、血反吐を吐くような叫びだった。

 

 

 

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