【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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思ったより筆が進みました。
1クール最後の山場回、がんばれかっちゃん、まけるなかっちゃん。


#13 ノットオーヴァー 1/3

 

「……コレクションごと、警察にやられた」

 

 そのひと言に、爆豪勝己の頭は真っ白になった。

 

「……何、やってんだよ」

 

 気づけば勝己は、炎司の胸ぐらに掴みかかっていた。

 

「何やってんだよてめェら!!任せろっつったよなァ、ア゛ァ!!?」

「………」

 

 炎司には年長者としてのプライドがある、いくらなんでもここまでの振る舞いは許さないだろう、普段なら。

 それでも彼は、抵抗するそぶりさえ見せない。筋骨隆々とした身体からは、ぐったりと力が抜けたままだった。

 

 激した勝己が拳を振り上げる──と、それでも何もしない炎司自身の代わりに、お茶子が割り入ってきた。

 

「ごめん!!……爆豪くん、ごめんね……っ」

「………」

 

 勝己の手からも、だらんと力が抜けた。──無意味なのだ、もう。謝られても、吊し上げても。

 

「……終わりだな……」

 

 力なくそうつぶやいて、踵を返す。目的を遂げることが不可能になった以上、ここにとどまる意味はもうない。飛び出していく勝己を、仲間たちは追いかける気力もなかった。

 ただ、

 

「これで終わりなんて……ヤだよ……」

 

 お茶子のつぶやきだけが、むなしく店内にこだました。

 

 

 *

 

 

 

 ジュレを飛び出した勝己に、当然行くあてなどない。夜の街をふらふらと彷徨いながら、気づけば彼は高架橋の上にいた。自身の重みでフェンスががしゃんと音をたてるまで、そんなことにさえ気がつかなかった。

 

「………」

 

 見下ろす幹線道路は、行きかう車のヘッドライトで煌々と照らされていた。美しいが、どこか空々しい光景。

 

(ワンチャンダイブ、)

 

 不意によぎった言葉だった。

 

 握りしめたフェンスが、ぎしぎしと悲鳴をあげる。ここから飛び降りて個性も使わなかったら、身体能力の高い勝己であっても命にかかわる怪我を負うだろう。

 

 デクにはあんなことを言っておきながら、今まで自死なんて考えたことはなかった。でも、願いの遂げられないこの世界に生きていても意味はない。あの瞬間、もしかしたらデクもそう思ったのだろうか。あのとき凍てつく風が吹かなくても結末は同じだったのかもしれないとようやく思い至って、勝己の手は震えた。

 死ぬのはこわくない。ただ本当に来世があったとして、自分がそこにたどり着くには地獄で永い永い遍歴を積まねばならないだろうとも思う。天国へ逝けたであろうデクと違って。まあ、このまま無為に生きながらえても同じことなのだが。

 

「あれ、バクゴー?」

「!!」

 

 死への願望にとりつかれた勝己が顔を上げると、憎むべき仇敵の姿がそこにはあった。

 

「よう、こんなとこで何してんだ?またサボり?」

 

 こちらの気持ちなどつゆ知らず、切島鋭児郎は親しげに話しかけてくる。帰宅途中なのか、いつもの警察戦隊の制服ではなくワイシャツ姿だ。安物の。それを嘲う気力さえ、今の勝己にはなかった。

 

「……話しかけンな……。今あんたの顔は見たくねェんだよ……!」

 

 わざと肩をぶつけて、鋭児郎が今来た方向へと歩き出す。顔を見たくないどころか、本音を言えば忍ばせたVSチェンジャーで今すぐ撃ち殺してやりたいくらいには憤懣やるかたない。ただそうしてこの男を手にかければ、デクの夢見たものをますます踏みにじるような気がした。勝己にとっての仇敵は、鋭児郎以上に自分自身だった。

 

──だのに、この三つ年長の青年は無邪気にあとをついてくる。

 

「今日は一段と荒れてんなぁ……。なんかあったのか?」

「関係ねえだろ……とっとと失せろ」

「言ったろ、ヒーローなんだしほっとけねえよ。そんな顔して歩いてちゃ、よからぬ輩に絡まれるぜ。春先なんかもそうだけど、こういう季節も増えるからよ、変質者とか」

 

 うるさい、黙れ──そう罵ろうとしたときだった。

 

「そういや、昨日の朝だっけかな……メキシコっぽい服装で、氷そのまま噛み砕いてるヤツとすれ違ったの」

「……!」

 

 その言葉に、勝己の記憶は一年前に飛んだ。氷山ごとデクが砕け散った直後、確かに聞いた氷を噛み砕くような音。──そうだ、炎司も言っていた。息子を失ったあのとき、メキシコ風の装いの男とすれ違ったのだと。

 

「……そいつ、どこで見た?」

「へ?」

「いいから答えろッ、どこで見た!!?」

 

 胸ぐらを揺さぶって、詰問する。あまりの剣幕に押されてか、鋭児郎は一も二もなくその場所を教えてくれた。

 

 

 *

 

 

 

 空が白みはじめた頃、麗日お茶子と轟炎司は昨日ブレッツ・アレニシカが倒された国際警察関係の施設に忍び込んでいた。正確には、単身飛び出そうとしたお茶子に炎司が渋々着いていった、というところだが。

 

 そのお茶子はというと、ブレッツが爆死した芝生の上に這いつくばり、懸命に目を凝らしていた。少し離れて見守る炎司が、小さなため息をつく。

 

「お茶子……もういい。おまえがそこまでする必要はないだろう」

「あるよ!」這いつくばったまま、激しい返事がくる。「私だって、快盗なんだから……!それに、いくら爆発したっていったって、ルパンコレクションの欠片くらい落ちてるかもしれないもん。集めてくっつけたら、なんとかなるかも……!」

「……だが、現に一片も見つかっておらんだろう」

 

 そう、かれこれ四半刻は探しているのだが。もう少し明るくなってしまったら、それはそれでここに留まっているわけにもいかないのだ。ふたりは快盗姿ですらないのだから。

 

「ねえ……ちょっと引っ掛かってたんだけど、」

「どうした?」

「あのゴーシュってギャングラー、どうして出てこなかったんだろう?いつもならすぐ出てきて、巨大化させちゃうのに……」

「!」

 

 それは──確かにその通りだ。

 芽生えた疑念、それは鈍りきっていた炎司の頭脳を急速に回転させる。

 

(そもそも、ギャングラーの金庫は頑丈だ。ブンドルト・ペギーのときは金庫の中から爆発させられたにもかかわらず、原型をとどめた残骸が残っていた。しかし、今回は──)

 

「……お茶子!」

 

 ひとつの結論を見出だした炎司は、昂った声で言い放った。

 

「まだ……終わっていない!」

 

 

 *

 

 

 

(まだ、終わってねえ……!)

 

 すっかり夜も明けた頃、勝己は同じ言葉を胸に街を走っていた。無論、炎司たちとは異なる意味でだが。

 

──あいつを倒せば、たとえルパンコレクションが集められないとしても。

 

「さっきのヤツ、ヤバくなかった?」

「それな。なんで氷食いながら歩いてんだろ?」

 

 不意に耳に入った会話。はっと振り返れば、登校途中なのだろう同い年くらいの少年たちがきゃっきゃとはしゃぎ合っている。勝己は即座に踵を返した。

 

「おい!」

「え?──!」

 

 振り向いた学生たちの視界いっぱいに映ったのは、般若のような凶悪な面、そして爛々と輝く血のいろをした瞳だった。

 

「ソイツ、どこで見た?教えろや……!」

「ヒィ──ッ!」

 

 悲しいかな、彼を抑制できるものはこの場にはいなかった。

 

 

 *

 

 

 

「ううむ、今日も実にいい天気だ!」

 

 庁舎を出て開口一番、飯田天哉はそう声をあげて背筋を伸ばした。ギャングラーを倒した翌日、こんな快晴のもとに穏やかな一日となればいいと心から思う。警察官やヒーローが暇なのが、本来的には理想なのだから。

 

「あっ、飯田さ~ん!」

「ム、」

 

 呼びかけに振り向くと、手を振りながらこちらへ駆け寄ってくる少女の姿。まろい頬と大きな卵形の双眸は、彼女を実年齢以上に幼く見せている。実年齢でいっても、天哉よりずいぶん年少なのだが。

 

「おお、麗日くんじゃないか。おはよう!」

「おはようございます」

 

 国際警察の前で彼女と会うのは初めてのことだった。いつもは彼女の働いている店に出向くばかりなのだ。

 

「今日はまた、こんなところにどうしたんだ?もしや、また何か相談事かい?」

「あっ、いえ……近くを通りかかったので、ちょっと国際警察の建物見てみたいな~って思って。──それより飯田さん、昨日もギャングラーと戦ったんですよね?守ってくれて、ありがとうございます」

「どういたしまして。だが、それが俺の職務だからな、当然のことをしたまでだ!」

 

 胸を張る天哉は、やはり心からパトレンジャーの仕事に誇りをもっているようだった。目を合わせるのがつらくなるお茶子だったが、快盗だって自分にとっては誇りをもてる稼業だと思い直し、改めて天哉の顔を見上げる。

 

「最近、ギャングラーっておっきくなりますよね?あれ、どうしてなんですか?」

「ああ……詳しくは話せないんだが、あれは──」

 

 答えられる範囲で答えようとしたとき──天哉の脳裏に浮かんだのは、昨日の戦闘だった。

 

(そういえば、昨日はなぜあの女ギャングラーが現れなかったんだ?)

 

 それに、いつもなら残っているはずの金庫の残骸もなかった。──ひとつの事実に思い至って、天哉は愕然とした。

 

「飯田さん?」

「──すまない麗日くんッ、すぐ戻らなければ!回答はまた今度としてくれ!」

 

 庁舎に駆け戻っていく天哉。"エンジン"の個性を使えなくとも、その走力は大したもの。

 背中を見送りつつ、お茶子は「ごめん飯田さんっ」と両手を合わせる。──今度こそ本懐を遂げるために、これから彼を……彼らを利用するのだ。

 

 

「──実はそれ、ウチも引っ掛かってたんだ」

 

 タクティクス・ルームに戻った天哉が湧いた疑念について話すと、耳郎響香もまたそう言って首肯した。

 

「確か、昨日の現場検証でもなんも出てきてなかったよな?遺留品とか……」続く、鋭児郎。

「ということは、まさか……」

 

「──あのギャングラー、ブレッツ・アレニシカは逃げ延びている可能性があるな」

 

 塚内管理官が、最後にそう引き継いだ。責任者である彼がそのように発言したということは即ち、それが警察戦隊としての結論になるということだ。

 

「ジム、あの施設から半径5キロ以内の防犯カメラの映像を確認してくれ。時間は昨日の正午以降だ」

『了解しました!』

 

 

 *

 

 

 

 快盗と警察が日を跨いでブレッツ生存を疑い出した一方で、彼の能力を知っているギャングラーの面々はそれを当然の事実として話していた。

 

「ブレッツの奴、お得意の技で逃げ延びたか」

 

 優雅にワインを傾けつつ、つぶやくギャングラーの首魁──ドグラニオ・ヤーブン。彼の傍には、例によって側近ふたりが侍っている。

 

「まあ、デストラに利用されるだけ利用されて死ぬんじゃ、可哀想ですものね」

「……勝手な行動をとって申し訳ありません、ボス」

 

 ゴーシュに対しては含むものがありながらも、デストラは主に向かって心底すまなそうに頭を垂れた。対するドグラニオは鷹揚だ。

 

「かまわんと言ったろう。快盗どもはあれで耳が早い、いちいち俺に伺いをたてていては遅れをとっちまうだろうからな」

「……はっ」

 

 実際、VSビークルは快盗の手に渡った。純粋な戦闘能力でいえば取るに足らないガキだったが、あの判断力と胆力はなかなかのものだ。本気で叩き潰すか、それとも──思案のしどころだった。

 

 

 *

 

 

 

 昼間でも人の寄りつかない、郊外の廃ビル。そこに爆豪勝己の姿があった。快盗活動用の燕尾服にシルクハット、正体を隠すための仮面。既に確信をもった彼は、戦いに臨む姿勢を誰にともなく明らかにしている。

 

 VSチェンジャーを構え、息を殺しながら廊下を進んでいく。──ややあって、聴こえはじめたのは口笛の音だった。その方向めがけて、迷わず歩を進める。

 

 いた。──見つけた。

 

「やっと会えたな……氷野郎」

 

 安楽椅子に座った男は、ひゅう、とまたひとつ口笛を吹いてみせた。

 

 

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