今は現役のヒロアカや、まだvsもあって新鮮なルパパトもいずれそうなっていくのだ…
ようやく見つけた──デクの仇。
彼がまずもって表したのは、人間に対する侮りの感情だった。
「おやおや、いけないなァ。人間がこんな所に来ちゃ」
恰好から相手が快盗であることはわかっているだろうに、立ち上がろうともせずにこの言葉。いつもなら勝己の逆鱗に触れていただろうが、今日の彼は特段の反応を見せなかった。──彼の激情は、とうに天井に達していたのだ。
「一年前……てめェ、何した?覚えてねェとは言わせねえぞ」
「ん~……」
「呼吸?」
「……!」
「な~んて……ハハハハハッ」
哄笑する青年に、勝己は淡々と銃を向けた。言葉をかわすのも、怒りを露にするのも無意味だとわかっていたから。
しかしそれでも、相手のほうが上手だった。凍てつく風が頬を撫ぜたかと思えば、氷漬けになったシルクハットが吹き飛ばされる。床に落着したそれは、一瞬にして粉々に砕け散る──デクのように。
「ッ、」
「冗談も通じないのか、あぁ……サムい」
氷のみで造りあげたかのような意匠の銃を構えながら、肩をすくめる青年。VSチェンジャーのグリップを握る手に力がこもるのが、勝己は自分でもわかった。
「……一年前もそのルパンコレクションの力で、デクを消したのか」
「でく?」首を傾げつつ、「つーか、そんなモノ持ってないよ。これは、オレ自身のチ・カ・ラ」
怠そうに立ち上がると同時に、氷の銃を無造作に投げ捨てる。なるほどそれはシルクハット同様粉々に砕け散り、氷粒のみをその場に残した。
「人間を消すなんて簡単なもんさ。その"でく"ってヤツのこと、キミは人間扱いしてなかったみたいだけど」
「……!」
なぜ、今の会話だけでそんなことがわかる?疑念とともに勝己の心臓は跳ねた。
同時に、青年の身体が変化する。全身が氷に覆われたかと思えば、寒々しい色の外皮に覆われた怪物に。その姿は、まるで水妖のようでもあった。
人間体の面影を残したテンガロンハットのような頭部を撫で、ザミーゴ・デルマは嗤った。
「──ザミーゴの奴、こんなところに呼び出しやがって……」
掃除夫の男に化けたブレッツ・アレニシカは、かのアジトに向かいつつそうぼやいた。人間たちには死亡したと思い込ませ、まんまと逃げおおせた彼はすっかり無警戒になっている。とりわけ、人間たちの科学技術にはまったく無頓着であった。
その結果、見事に足を掬われることになるのだが。
「動くなッ、国際警察だ!!」
「!?」
まだ少年のいろを残した口上とともに、駆けつけてきたパトレンジャーの面々に背後からVSチェンジャーを突きつけられる。
「国際警察……!お前ら、なんでオレが生きてるって……」
「人間、あんま舐めんじゃないよ」
「どんなからくりを使ったのか知らないが……今度こそ殲滅するッ!!」
「チィィ……!」
一度敗走したことは事実なので、ブレッツは焦った。しかしあれは一時的な撤退にすぎないのだと自分に言い聞かせ、擬態を解いてパトレンジャーに対峙する。
対する三人も、
「「「警察チェンジ!!」」」
『1号、パトライズ!警察チェンジ!』
警察スーツを装着、
「国際警察の権限において──」
「「「──実力を行使するッ!!」」」
ブレッツ・アレニシカの放つ電撃をかわしながら、散開したパトレンジャーは一斉に飛びかかった。作戦はもう決まっている、付近の廃ビルへ追い込み、逃げ場を与えず倒すのだ。
──無論、その廃ビルの中で爆豪勝己とザミーゴ・デルマが対峙していることなどは知るよしもない。
「………」
いつ終わるとも知れず続く、張り詰めた静寂。勝己は銃口を向けずVSチェンジャーを握りしめたままだが、ザミーゴはそれさえしていない。両手を宙で遊ばせているだけだ。
──その瞬間が訪れるのに、前兆はなかった。
勝己がいよいよ銃口を突きつけようとすると同時に、空の金庫から氷の銃を生成するザミーゴ。しかし、互いに引き金を引くことはなかった。
作戦通りブレッツを追い込むことにしたパトレンジャーが、彼もろとも乱入してきたのだ。
「!?」
「え……ギャングラーに快盗!?」
勝己も鋭児郎──パトレン1号も、互いの姿を認めて驚愕するほかなかった。なんという偶然……いや、ブレッツはザミーゴに呼び出されてここに来たのだから、必然か。
闖入者は、彼らだけではなかった。
「見つけてくれてありがと~!」
「今度こそコレクションは貰い受ける」
「何ィ!?」
「ッ、快盗!」
「てめェら……」
「えっ……?」
互いが、互いがここにいることに驚きを隠せないでいる。この混沌とした状況を愉快に思ってか、ザミーゴは高らかに哄笑した。
一方のブレッツはというと、「あぁもう何が何だか!」と自棄になって電撃を放った。狭い空間を稲光が走り回り、人間たちはいったんその場から退避せざるをえなくなる。当然、勝己も。
しかしそのおかげで、唐突に現れた仲間たちと合流することができたのも事実だった。
「爆豪くん……なんでここに?」
「てめェらこそ……。つーか、なんであのシカ野郎が生きてる?」
「何故かは知らん……が、まだ終わっていなかったということだな」
戦闘の様子を見遣りつつ、炎司。その奥では、肩をすくめたザミーゴが悠々と立ち去ろうとしていた。
「あのギャングラー、何なん?」
「……一年前、デクたちを消した野郎だ」
「何だと……!?」
炎司は思わず目の前の少年に詰め寄った。
「貴様、ひとりで奴を追っていたのか!?」
「……俺しかいねェだろ」
怒鳴り返すでもなく、勝己は静かにそう告げた。
「俺が氷野郎をブッ殺せば……全部、もとに戻せっかもしれねえ。だから奴は──俺に任せろ」
「小僧……」
目の前の紅い瞳が、しずかに燃えている。そこに揺らめく炎は、常々彼が発露している瞋恚とは異なるもので。
「──わかった。ブレッツは今度こそ、俺たちが必ず」
「……爆豪くん。絶対、死なないでね」
「ア゛ァ?丸顔、誰にモノ言って──」
最後までは、言葉にならなかった。仮面から覗くお茶子の瞳が真剣な煌めきを放っていると、気づいてしまったから。
「約束、だからね!」
「……おー」
頷いたお茶子が、VSチェンジャーを目の前に差し出す。その行為の意味をたがえず受け取り、炎司、そして勝己もまた。
そして、
『レッド!』
『ブルー!』
『イエロー!』
『マスカレイズ!』
「「「──快盗、チェンジ!!」」」
悠々と立ち去ろうとしていたザミーゴは、背後から響く銃撃の音にひらりと身を翻した。
「……へぇ」
「………」
「──ルパンレッド!!」
そして、パトレンジャーとブレッツの戦闘に割り込む彼らも。
「ルパンブルー……!」
「ルパンイエロー!」
「快盗戦隊──」
「「「──ルパンレンジャー!!」」」
ザミーゴと対峙するルパンレッド、ブレッツやパトレンジャーと三つ巴の死闘を繰り広げるブルーとイエロー。彼らは別々の戦場にいて、それゆえ互いの声など届いているはずもない。
「予告する」
「あなたのお宝いただいて──」
「──てめェをブッ殺して、願いを遂げる!!」
しかし彼らの叫びは、寸分のずれなく揃っていた。大切なものを取り戻したい──その願いはひとつ。ゆえに心もひとつなのだと、誰に誇るでもなく彼らは示したのだ。
*
ブレッツ・アレニシカを標的とした戦闘、今度は終始ルパンレンジャーのペースで進んでいた。昨日の戦闘では電撃を警戒するあまり後れをとった。その反省から彼らはとにかく懐に飛び込み、遮二無二コレクションを取り上げる作戦に出た。それが功を奏し、ブレッツは腰が引けぎみで電撃を有効に使用できていないのだった。
「はっ!」
「ッ!」
邪魔をしようとする警察を、さらにイエローが妨害する。そして体術でブレッツを翻弄することに成功したブルーが、ついにダイヤルファイターを金庫に押しつける。
「なァ!?」
「よし……!」
いよいよ解錠が始まろうかというときだった。
スポンと何かが小気味よく抜けるような音とともに、ブレッツの背後からもう一体、ブレッツが現れたのだ。同時に、ブルーの目の前にいたブレッツは風に吹かれて崩れ去っていく。
「何……!?」
「フゥ、危ねえ危ねえ」
一瞬、何が起きたか困惑するのは是非もなし、しかし様々なギャングラーと戦ってきている快盗たちはすぐに答を導き出した。──脱皮、あるいは分身か。
「……ふむ、昨日警察が倒したのはあの偽物だったというわけか」
「──ならば、脱皮する前に本体を倒すッ!!切島くん、耳郎くん!」
「おう!」
「ああ!」
パトメガボーを手に、必殺の構えをとる三人。ブレッツは再び分身でかわそうとするが……これを最大にして最後の好機と捉えたルパンブルーは、咄嗟に彼をワイヤーで拘束した。
「ぐええッ、何しやがる!?」
「この程度で分身できなくなるのか、侘しいな。──イエロー、行け!」
命じられるより前に、イエローは既に走り出していた。身動きのとれないブレッツの金庫にダイヤルファイターを押しつけ、
『3・8・8──!』
『ダメ・絶対斬り──!』
気づけば、パトレンジャー三人が目前にまで迫っている。イエローは咄嗟に逃げ出すほかなく、それができないブレッツは見事にパトメガボー三連擊の直撃を受けた。
「ぐァあああああああ──!!」
断末魔の絶叫とともに、ブレッツの身体が爆発四散する。ひしゃげ焼け焦げた金庫だけがその場に残されたことが、パトレンジャーが彼らの任務を遂げたという事実を示していた。
では、俺たちの願いは──固唾を呑んで立ち尽くすルパンブルーの視界の端で、イエローがふううと息をついた。
「ぎりぎりセ~フ……ルパンコレクション、いただき!」
彼女の手には、巨大な乾電池のようなオブジェクトが握られている。ブルーもまた、密かに息をついた。
「まったく、手こずらせてくれたものだ……」
とはいえ、まだ戦いは終わっていない。パトレンジャーの標的は早くも自分たちに移っている。
ただ、第二ラウンドが快盗vs警察とはなりえないことを、既に彼は予測していたが。
「私の可愛いお宝さん──」
「!」
いつの間にか、姿を現していた──ゴーシュ・ル・メドゥ。彼女に対して生半可な攻撃は通用せず、それゆえ妨害もままならない。
「──ブレッツを、元気にしてあげて」
そして、禍々しいエネルギーが放たれた。
*
愉しげな笑い声と、銃声。それらが同時に響き渡る度に、辺り一面が凍りついていく。
ザミーゴ・デルマの手にする氷の銃。放たれる氷弾の標的とされたルパンレッド……爆豪勝己は、持ち前の身のこなしでそれらをかわし続けていたが。
「チィ……ッ!」
この戦い、完全にザミーゴのペースだ。デストラやゴーシュと同じく、この敵は有象無象のギャングラーとは格が違う。
──それでも、尻込みなんてするわけがなかった。
「おらぁッ!!」
懐に飛び込み、至近距離でヘッドショットを図る。しかしザミーゴは「おっとぉ」とおどけた声を発してあっさりと光弾を回避し、さらにはレッドを殴り飛ばした。
「ヘイヘイヘイっ!」
銃を二丁にして、さらに大量の氷弾を撃ち込んでくる。
「ッ!」
素早く床を滑走し、障害物を利用して間一髪逃げる。「踊れ踊れ」と、ザミーゴは心底この一方的な戦いを楽しんでいた。
(ッ、これ喰らったら、一発でお陀仏かよ……!)
昨夜は死を考えていた勝己だが、"まだ終わっていない"ことがはっきりした今、絶対に死ぬわけにはいかなかった。絶対に、取り戻す。
彼が撃ち返してきた光弾を余裕綽々とかわすザミーゴだったが、次の瞬間その身はワイヤーで拘束されていた。動き回りづらい屋内での戦闘ではもとより不利だ、それなら。
「オモテ出ろやぁッ!!」
力いっぱい、ワイヤーごとザミーゴを投げ飛ばす。果たしてその身体は打ちっぱなしの壁を突き破り、レッドの意図通り青空の下に追い出された。
とはいえ、彼の余裕はまったく変わらなかった。
「よいしょ、っと!」
「ッ!?」
なんの苦労もなく着地したかと思えば、軽々と身体を揺らし──その挙動のみで、ワイヤーで繋がったルパンレッドを引きずり出したのだ。
あっさり拘束を解き、地面を転がるルパンレッドに銃口を突きつけるザミーゴ。コンマ数秒のあとで、氷弾が放たれ──
「──ッ!」
咄嗟に身を翻し、直撃を避けるレッド。が、避けられたのはあくまで直撃だった。マントをかすっただけで、氷弾は加速度的に侵食を開始する。これが身体にまで到達したらばもう取り返しがつかないのだと、彼は即座に悟った。
「ぐううう……!」
空中で身体を回転させたのは、殆ど反射的な行動だった。同時に凍りついていくマントをVSチェンジャーで撃ち、氷もろとも砕いていく。咄嗟の機転が功を奏し、彼自身が凍りつくことはなかった。
しかし危機は脱しても、劣勢を覆せるわけではない。身体の芯から冷えていくような感覚に、地面に倒れ落ちたレッドはすぐには起き上がることもできない。
「へえ。結構頭イイねえ、おまえ」
ひゅう、と口笛を吹くザミーゴ。敵の奮戦ぶりを、そうでなくては張り合いがないとばかりに彼は楽しんでいた。
「でも……次はないぜ?」
「……!」
二丁銃が、獲物を喰らわんと牙を煌めかせている。
「アディオ~ス」
もう、逃げられない。
──ならば、
『シザー!』
(コイツに……賭ける!!)
VSチェンジャーの引き金を引くと同時に、ルパンレッドの姿が氷山に覆われる。勝利を確信したザミーゴだったが、
『快盗ブースト!』
「!」
勇ましく響く電子音声の直後、どこからともなく飛翔する巨大ブーメランが氷結を打ち砕いていく。そうしてザミーゴの眼前に、再びルパンレッドが現れた──シザーダイヤルファイターが変化した盾によって、彼は氷弾を弾き返したのだ。
「へぇ……」
感嘆めいた声をあげるザミーゴ。対するルパンレッドもまた、不敵な笑みをもって応えた。
「本ッ当に俺が強ぇのは、こっからなんだよ……。──行くぜ氷野郎ッ!!」
この切り札に、爆豪勝己は命運をかけるつもりでいた。