機材が打ち捨てられたまま、荒廃した近衛工場跡地。
そこにギャングラー、ガラット・ナーゴの姿があった。どこぞから調達してきた椅子にふんぞり返り、周囲にボーダマンを侍らせるその姿はさながら城主のようだ。上手くいけば禅譲を受け天下を獲れるという状況下、彼の心は逸っていた。
そこに、別のボーダマンが飛び込んでくる。その耳打ちを受け──ガラットは、上機嫌な笑い声をあげた。
「フハハハハ、そうかァ!国際警察の連中、引っ掛かったか!!」
高揚のままに立ち上がる。その際に鋭く長く伸びた爪が不幸にも側近のボーダマンに直撃、昏倒させてしまったのだが、そんなことは気にも留めない。
「客は、このオレ直々にもてなしてやらねぇとな……」
先の哀れなボーダマンを除いた配下を引き連れ、埠頭にまで"出陣"するガラット。
その姿を、見下ろす者たちの姿があった。
「おー、ホントに出てきたギャングラー♪」
双眼鏡を覗きつつ、口笛を吹くお茶子。すかさず背後から「へたくそ」と罵られる羽目になるのだが。
「うっさい、バカ豪!」
「……テメェから消し炭にしてやろうか?」
睨みあう仮面の少年少女だったが、
「いい加減にせんか貴様ら」
「ッ!」
「あだッ!?」
同じく仮面の壮年の男に揃って頭を叩かれる。父親ほどの年齢の彼には、果たしてそれ以上の威厳があった。
「奴が出てきたということは、国際警察が網にかかったのだろう。コレクションを確認できたところで、一気に奪いにかかるのが上策か」
「………」
主要武装たる"VSチェンジャー"を構え、じっとその瞬間を窺う。当然ガラットの持つルパンコレクションもターゲットだ。
と、そのとき些細な"想定外"が起きた。お茶子の肩に、ピタリと何かが付着する。
「ん?──ッ!?」
刹那、彼女の頭は真っ白になった。茶色い翅が、パタパタとはためいている。
「がッ、蛾ァ──むぐっ!」
思わぬ大敵の登場に大声を上げそうになったお茶子の口は、勝己の手によってすかさず押さえつけられた。
「デケェ声出すな、ボケ」
「ふぐむむむぅ……!」
建物の屋上に身を潜めているとはいえ、大声を発すれば聞こえてしまいかねない。個体差はあれ、ギャングラーは五感においても常人よりすぐれている。
そしてガラットの聴覚の鋭さは、彼らの予想を超えていた。
「──鼠がァ!!」
唐突なシャウト。快盗たちがその意味を解するより早く、ボーダマンの銃口が突きつけられた。
無数の銃声が響き渡り……三人のいた屋上で、爆発が起きる。
「ッ!」
彼らもさるもの、不意打ちであっても死命を制されるような失敗はしない。すかさず地上に降り立ち、ターゲットと対峙する。
「そろそろお前らも来ると思ってたぜ、快盗どもォ!」
「うげっ……私たちの作戦、バレバレ?」
「漁夫の利狙いとはいかなかったか」
ふたりが少なからず忸怩たる表情を浮かべる一方で、
「ハッ、どっちにしろブッ殺すつもりだったんだ。──やったらァ!!」
好戦的な笑みを浮かべ、銃を構える勝己。これまでどこか厭世的な雰囲気を醸していた彼だが、その本性は獰猛そのもの。戦闘は、望むところ。
「お前らの首も貰ってやるぜ、──殺れェボーダマン!!」
号令を受け、無数のボーダマンが一斉に銃撃を仕掛けてくる。
三人の快盗は軽やかな跳躍とともに放たれる弾丸をかわし、着地を待たず反攻に転じる。光弾がボーダマンに直撃し、その身を撥ね飛ばす。
武器の性能もさることながら、彼ら三人は快盗たるにふさわしい天性の身体能力をもち、それらを余すことなく引き出すための訓練を受けてきた。ゆえに生身であっても、ボーダマン程度にはまったくひけをとらない戦いぶりを見せつけている。
「チッ、しぶといじゃねえか!」
業を煮やしたガラットが早くも動いた。彼の胸元で存在を主張する金庫が鈍い光を放ち、刹那のうちに両手から火炎が放たれる。
「きゃっ!?」
「ッ、コレクションの力か……」
柱の陰に隠れて隙を窺う炎司とお茶子だが、炎は絶えることなく噴出し続ける。黒霧の言ったとおり、ルパンコレクションの力は悪に利用されれば恐るべき脅威となりうるのだ。
ただ、彼らはガラットのもつコレクションの特性をあらかじめ知っている。ゆえに、
「好きなだけ燃やせやネコミミ野郎!!」
ネコミミ!?とお茶子が内心でツッコミを入れているうちに、勝己は行動に打って出ていた。隠しもっていたトランプカードをひと息に投げつける。反射的にガラットが火炎を差し向けた途端、カードは風に吹かれて四方八方に散らばっていった。
「!?」
それらすべてが燃やされた結果、自ら生み出した炎がガラットを包み込む。ルパンコレクションの作用により熱には耐性があるため、それだけでガラット自身がダメージを受けることはない。が、紅蓮が彼の視界を完全に塞いでしまうことまでは防ぎようがなかった。
「み、見えなくなっちゃった──」
狼狽するガラット。敵は既に、彼の至近まで迫っていた。
「──捕まえたぁ!」
「!?」
カードが燃え尽きると同時に、両腕にずしりと加わる重み。──左腕をお茶子が、右腕を炎司が、がっちりと拘束していた。
「今だ、コレクションを!」
「言われるまでもねえッ!!」
VSチェンジャー、そしてルパンコレクションのひとつであるダイヤルファイターを携え、突撃を敢行する勝己。彼の鋭い双眸はガラット……ではなく、その胸元にある金庫を捉えて離さない。ギャングラーは皆、身体のどこかに金庫をもっており、そこにルパンコレクションを収納している。ダイヤルファイターを使用すれば、金庫の鍵を開けることができる──
「そうはイカの金時計よォ!!」
刹那、ガラットの
「な──ッ!?」
咄嗟に動きを止める勝己。その判断は間違いなく正しかったが、ガラットに密着していたふたりに逃避のすべはなく。
「ぐッ!?」
「きゃあッ!!」
振り払われただけでなく、さらに四本に増えた腕を使って強かに殴りつけられる。重い一撃を受けたふたりは、そのまま人質とされてしまった。
「ッ、丸顔、クソオヤジ!」
「おまえ仲間の呼び方酷ぇな……。まあいい、これでジ・エンドだ」
「お前らのコレクションもよこせ」──冷酷なる要求。当然、ふたりの命と引き替えにということだろう。
「チッ……」
舌打ちする勝己。後退した際、咄嗟に銃口を向けていたため、まったく無防備な状態を晒しているというわけではなかった。だが人質をとられている以上、発砲するどころか今すぐにでも銃を下ろさざるをえない──普通なら。
しかし勝己は、いっこうに降参の意を示そうとはしない。
「?、早くそいつを投げてよこせ!コイツらがどうなってもいいのかァ?」
「………」
「オイ聞いてんのか!?」
焦れたガラットががなると、ようやく勝己は口を開く──
「知るか」
「へ?」
「自分で助かれや!!」
VSチェンジャーを下ろすのではなく……上げた。ガラットが呆けている間に、彼が背にしている建造物めがけて躊躇なくトリガーを引く。
元々老朽化していた建物は、強力な光弾を受けてとどめを刺された。亀裂が一気に拡がり、耐えきれなかったコンクリートが無数の瓦礫となってガラットの脳天へと降りそそぐ。
「なァあああ──ッ!!?」
想定外の事態、人質をとっていたことも災いし、瓦礫に呑み込まれるガラット。
──そう、人質がいるのだ。炎司とお茶子……ガラットに拘束されていたふたりもまた、当然巻き添えになった。
地面を埋め尽くす、瓦礫の群れ。その光景をつくり出した張本人が立ち尽くしていると、音をたてて一部が吹き飛んだ。中から現れたのは──かの、異形の怪人。
「きっ貴様ァ……それでも人間かァ!?」
「ハッ、テメェがソレ言うんかよ」
人間の"情"を知識としてもってはいるガラットを、鼻で嘲う勝己。どちらが悪なのかわかったものではない態度で、彼は続ける。
「この程度でくたばるような役立たず、要らねえんだよ。……それに、」
──取り戻すぞ、必ず。
──たとえ、誰が倒れたとしても……。
──残った奴が……願いをかなえる。
そのときだった。
ガラットの背後に積み上がっていた瓦礫片がにわかに浮き上がり、
同時に、ルパンコレクションのそれにもひけをとらぬ猛火が舞った。
「うおっ!?」
炎に耐性があるといえど、これには虚を突かれた。──まるで無重力下にあるかのごとく浮遊している瓦礫の群れ。その中心に不敵な笑みを浮かべて立つ、少女と壮年の男。
「お、お前ら……なんだそれはァ!?ルパンコレクションの能力じゃないな!?」
「──"個性"!知ってるでしょ?」
そう、この世界の全人口のうち8割はなんらかの特異体質──"個性"をもっているのだ。轟炎司と麗日お茶子もまた、例外ではない。
お茶子の個性"
「知ってたもん、どうせ助けてくれないって!」
「"自分のことは自分でなんとかする"、それが我々のルールだからな」
ひらりと跳躍し、勝己を中心に並び立つ。三人の快盗──そのトライアングルを崩すには、ガラットでは力不足だった。
「わかったかネコミミ野郎、」
「遊びじゃねえ……命がけで快盗やってんだ!!」
笑みを消し、勝己は叫ぶ。その表情は獰猛であると同時に、何かに縋りつくようでさえあった。
「行くぞテメェら──」
「「「──快盗チェンジ!!」」」
咆哮すると同時に、VSチェンジャーの銃身に各々のもつダイヤルファイターをセットする。
『レッド!』
『ブルー!』
『イエロー!』
ダイヤルを回し、
『0・1・0!』
『2・6・0!』
『1・1・6!』
『──マスカレイズ!快盗チェンジ!』
プロセスを完了したことを示す電子音声が流れる……と同時に、トリガーを引く!
刹那、三人の身体が光輝に包まれる。放たれたカード状の弾丸がブーメランのごとく彼らに命中──それぞれのパーソナルカラーと漆黒を基調とした、"快盗スーツ"へと変化する。
そして"マスカレイズ"の発声どおり──首から上にもまた、シルクハットのような意匠が覆いかぶさった。それは頭部全体を包み込み、覆い隠すメットへと変化を遂げた。
そして、
「ルパンレッド!!」
「ルパンブルー……!」
「ルパンイエロー!」
「「「快盗戦隊──ルパンレンジャー!!」」」
"ルパンレンジャー"としての名乗りを、堂々と彼らは挙げたのである。
「予告する、」
「テメェのお宝、いただき殺すッ!!」
勝己──ルパンレッドの、烈しい宣戦布告。それは今まで幾多のギャングラーへと向けられ、為されてきたことだった。
──そして、死闘が始まる。
「「死ねぇッ!!」」
ルパンレッドとガラット・ナーゴ、ふたりの声が重なる。同時に、銃撃と火炎。
破壊力はガラットにやや分がある。しかし敏捷性においてはルパンレンジャーに軍配が上がった。
それに、
「全体に目を配れないのでは二流だな」
「は、──グハァッ!?」
いきなり目の前に現れたルパンブルーに、先ほどの意趣返しなのか強かに殴りつけられる。三人の中でも群を抜いて鍛え上げられた体躯から放たれる拳はあまりに重い。
よろけるガラット。そこにブルーの肩を蹴る形で、ルパンイエローが跳躍してくる。
「厳しいなぁブルーは……そぉれっ!」
頭上から、VSチェンジャーの掃射。降りそそぐ光の雨あられに、ガラットは望まぬダンスを踊らざるをえない。
「痛で、痛ででででッ!?こ、こんのォ~……ッ」
「まだ終わりじゃねえぞ!!」
「!?」
イエローとは対照的に、スライディングで勢いよく滑り込んできたレッド。態勢も整えぬまま光弾を連射する。無茶苦茶といえば無茶苦茶な戦い方だが、ゼロ距離射撃が脅威であることに変わりはない。
ただ、ガラットもやられっ放しではなかった。
「チィッ、舐めんなよクソガキがァ!!」
「!」
ほんの一瞬がら空きになった背中めがけ、鋭い爪を振り下ろす。その一撃をまともに受けたレッドが、激痛にうめく──
「──なァんてな」
「ヌ……!?」
爪を、鋭い鋼鉄の刃が防ぎきっていた。──"ルパンソード"。VSチェンジャーと並ぶ、ルパンレンジャーの主要武装である。
「おらァッ、死ねや!!」
「ぐはァッ!?」
袈裟斬りにされ、あえなく地面を転がるガラット。レッドの言うように死にまでは届かないが、ほとんど一方的に翻弄されている状況下、彼の運命はもはや決していた。
「やる~!流石レッド♪」
「フン、たりめーだこんくらい」
「だろうな。……さあ、そろそろ本懐を遂げるぞ」
VSチェンジャーからダイヤルファイターを外し、構える。今度こそ金庫を開け、ルパンコレクションを貰い受ける──
──そのとき、埠頭に車両が侵入してきた。周囲をボーダマンに埋め尽くされている。
それはルパンコレクションを運搬する、国際警察のパトカーに違いなかった。乗車するふたりの警察官の懸命な抵抗により水際で踏ん張っていたが……ここまでだった。
ボーダマンの振るった剣の一撃により、運転席側のドアがスライスされる。その刃が、車内に迫る──
「ッ!」
「飯田!」
仲間の危機。響香はイヤホン状に伸びた耳朶を己の意志で差し向けた。ボーダマンの胴体に突き刺し、
己の心音を、送り込む。
「グワァッ!?」
悲鳴をあげ、転げ落ちるボーダマン。同時にパトカーはその場に急停車した。これ以上は逃げても仕方がないと判断したのだ。
同時に、素早く外へ降り立つ。当然襲いかかってくるボーダマンたち。アタッシュケースを抱える響香を庇い、格闘する天哉。
その姿を真っ先に認めたのは、ルパンレッドだった。
「!、あいつらサツの……」
──好都合だ。
彼はもはや、ほとんど反射的に跳んでいた。
「ちょ、レッド!?」
「ソイツはテメェらでやれ!!」
「ッ、勝手な真似を……」
かの少年の独断専行はいまに始まった話ではない。一刻も早くすべてのルパンコレクションを取り戻す──執念にも似たその意志を、貫くための行動。
ただ、彼の場合は時に過激だった。──たとえばいま、この瞬間も。
警察官らが至近距離で戦っているにもかかわらず、躊躇なくVSチェンジャーのトリガーを引いたのだ。放たれた光弾は見事ボーダマンを打ち倒した。しかし、
「ッ!」
「快盗……!」
飛び散る火花。そこに敵意を察知し、結果的には救われた形となった天哉、響香はともに険しい表情を浮かべてレッドを睨む。
対するレッドは、VSチェンジャーを構えたまま仁王立ちしている。銃口はなんの躊躇もなく、ふたりの善良なる警察官に突きつけられていて。
「よォ税金泥棒。あそこにいるギャングラーぶっ殺してやっから、そのコレクションよこせや」
「ッ、ふざけるな!!」天哉が怒鳴る。「これは正義を為すために必要な力だッ、貴様ら快盗などに渡して堪るものか!!」
ルパンレンジャーが平和の守り手であるはずがない。こんなふうに、同じ人間相手にまで平気で銃口を向けているのが何よりの証拠だ。
天哉に比べれば幾分か冷静に快盗を見ていた響香もまた、想いは同じだった。
「欲しけりゃ撃ちなよ。……国際警察は、たとえ地の果てまでもあんたらを追いかけて捕まえる。その覚悟があるならね」
「……ハッ、そうかよ。テメェらはほんと、口だけはご立派だよな」
ぎちりと、グリップを握る手に力がこもる。
「覚悟なんざしてんだよ、とっくにな」
そして、
──引き金が、引かれた。
凶弾は、今度こそ罪なき者を標的として。主を、帰還不能点へ引きずり込もうとしていた──
à suivre……