やっぱええなぁヒーローズライジング…二人のヒーローもよかったけど
ひとつ気になったのがデクの右腕は大丈夫?ってなことでした
「おらぁッ、行けえ!!」
氷弾をシザーダイヤルファイター本体で跳ね返しつつ、ルパンレッドは背中に背負ったブーメランを投げつける。左手は本体で塞がっているので、右腕の筋力のみで扱うこととなる。そこは快盗としてはもちろんのこと、ヒーローを目指して子供の頃から鍛えてきた肉体だ。このルパンコレクションを扱うことなど造作もなかった。
「ッ、」
標的となったザミーゴは当然ブーメランを撃ち落とそうとするが、高速回転しながら向かってくる飛翔体に命中をとるのは困難だった。もとより彼はスナイパーではなく、乱れ撃ちを得意とするガンマンというほうがふさわしい。
「Shit!」
軽い調子で毒づきつつ、回避にシフトするザミーゴ。巨大なオブジェクトを避けることは彼にとって造作もないことだったが、銃弾などとは異なりブーメランは戻ってくる。尤も、それも折り込み済みのことではあったが。
「ひゅう♪」
「………」
結局命中はとれず、ブーメランはむなしくルパンレッドのもとへ帰ってくる──それにしては、彼は静謐を保っていた。
「……ハッ」
その仮面の下は、笑っていた。
ブーメランはルパンレッドの寸前で再び弧を描き、さらにますますスピードを増してザミーゴに向かっていったのだ。
「何──」
一瞬だが、初めてザミーゴの態度から余裕が失せた。咄嗟に身を翻した彼だったが、背中に鋭い痛みを覚えたのだ。
見れば、首から伸びた触手が数本、斬り飛ばされていた。
今度こそブーメランはルパンレッドの手に戻った。それを目の当たりにして、
「……ふ、くくく……。ははははは、ハハハハハハッ!!」
ザミーゴは、高らかに笑っていた。
「いいねぇ……気に入ったぜ、おまえ」
斬られた触手が一瞬にして再生していく。肉体の一部であっても、ルパンレッドがマントを破壊されるほどの感情の揺らぎもない。
「オレの名はザミーゴ・デルマ」
「!」
再び氷弾が放たれる。まっすぐな軌道であるため防ぐのは容易だったが、ザミーゴは氷結で視界を塞がれた隙に姿を消していた。
「また会う日まで、覚えときな」
その声は既に、彼方から響いている。──戦いは、終わってしまった。
「ッ、………」
「待てや」と声を張り上げる余力もなく、レッドはその場に片膝をついた。悔しまぎれに目の前のコンクリートを殴りつけていると、駆け寄ってくる足音がふたつ。
「レッド!」
「……丸顔、クソ親父」
相変わらず仲間に対して礼を失したあだ名だが、今日ばかりはか細く、罪悪感を孕んだ声色だとふたりには感じられた。
「あのギャングラーは?」
「……取り逃がした」
「えっ……」
「……貴様、」静かに詰め寄るブルー。「任せろと、言ったよな?」
「……言った……」
俯いたままのレッドは、見守るイエローに言わせれば飼い主に叱られる仔犬のようだった。年長者のブルーには彼がどう見えているのか、冷徹なところのある彼は、それでも躊躇なくこの少年を詰るのだろうか。
──彼もまたその場に片膝をつき、半ば強引に視線を合わせた。
「……まったく、何をやっているんだ」
「!」
今まで聞いたことのない、穏やかな声色だった。戸惑っている間に、腕を掴んで立ち上がらされる。その手つきはやや乱暴だったが、彼なりの気遣いが感じられた。
と、イエローも隣にやってくる。
「大丈夫っ、ブレッツのコレクションは回収したから!」
「!、……あー、そうかよ」
ブルーの腕を振り払い、一歩前に飛び出す。
「……あんがとよ」
そうしなければこんなこと、言えそうもなかった。
「ば、爆豪くん今なんて……?」
「……ふっ、珍しいこともあるものだ」
「ッ、るせェ!!──それよかアイツ、とっとと殺んぞ」
いつの間にか、巨大化したブレッツがこちらに接近している。それに比べれば豆粒ほどの大きさの快盗たちだが、既に勝利を前提に話をしていた。──そろそろ、"彼"もやってくる頃合いだ。
『グッドストライカー、ぶらっと参上~!』
来た。
『見てたぜ~、冷たいけど熱い戦い!』
「そーかよ。じゃ、付き合えや」
『D'accord!』
パトレンジャーと異なり、三人とも簡単なフランス語なら理解できる快盗たちだった。レッドがVSチェンジャーに彼を装填し、
『Get Set!Ready……Go!』
グッドストライカーが、次いで三機のダイヤルファイターが巨大化していく。
『快盗ガッタイム!勝利を奪い取ろうぜ~!!』
──ブレッツの目前に、鋼鉄のボディの
「チィっ、快盗のロボかァ……!」
「………」
これまで彼と戦ったギャングラーで、生きて帰った者はいない。一計を案じたブレッツは、一気に決着をつけることにした。
「こうなりゃ必殺奥義、百体分身を見せてやる!!」
言うが早いか、ブレッツの身体がなんと真っ二つに割れた。そこから分身が現れたかと思えば、また真っ二つに割れ……マトリョーシカのようなことを超速で繰り返し、彼は言葉に違わず己を百体にまで増殖させたのだった。
「ええッ、な、何なんこれ……?」
ルパンカイザーのコックピットの中で、イエローが悲鳴じみた声をあげる。目の前に次々と降りてくるブレッツの群れ。脅威というより、なんとなく生理的嫌悪感を煽られるのだった。
「ただでさえ狭い国土にこのような……」
ブルー……炎司はたまにこういうズレたことを言う。
いちいち突っ込んでいてもキリがないので、レッドは「全部ブッ殺しゃあいいだけだろ」と彼なりにふたりを鼓舞した。グッドストライカーも同調してくれる。
「とはいえ、ルパンカイザーの武装ではな」
「あっ、そうだ爆豪くん!昨日ゲットしたヤツ使ってみるのは?」
「てめェに言われんでもそのつもりだわ」
言葉に違わず、レッドは既にVSチェンジャーにシザーダイヤルファイターを装填していた。『Get Set……』の電子音声と同時に、ルパンカイザーの顔面がスライドして開いていく。
『──Ready Go!』
空中めがけて引き金を引く──撃ち出されたシザーダイヤルファイターが、たちまち巨大化していく。
『ブレード&シザー!』
シザーとブレードが分離するのと、ルパンカイザーの左腕が分離するのがほぼ同時。『左腕変わりまっす!』というグッドストライカーの音頭も、既に聞き慣れたものだった。
シザーダイヤルファイターが新たな左腕となり、さらに、
『剣、持ちまっす!』
右腕で、ブレードダイヤルファイターを握りしめる。
『完成、──』
──ルパンカイザー"ナイト"。
「けっ、快盗が騎士かよ」
呆れたようにつぶやくレッドを尻目に、コックピットの中心から飛び出したグッドストライカーはシザー&ブレードとガッタイムできたことをひとり喜んでいる。真後ろにいるレッドからすると視界にちらついて邪魔なことこのうえないので、終いには手で押さえつけて黙らされる羽目になるのだが。
「さぁ……かかってこいやシカ野郎!!」
挑発に乗り、一斉に向かってくる百体のブレッツ。電撃は当然もう使えないので、シッカリバーなるふざけた名前の剣で接近戦を挑むほかない。ただし皆ほとんど同じ動きをしていて、取り囲んで四方八方から襲いかかるだとか、てんでばらばらに動いて快盗たちを撹乱するだとか、戦術を凝らす知能もないのだ。ならばルパンカイザーナイトにとって、彼らはいい的でしかない。
到達の度に斬り飛ばされ、斃れていくブレッツブレッツ、またブレッツ。シッカリバーの斬擊はシザーの盾に防がれるから、ルパンカイザーの側にはまったくと言っていいほどダメージが通らない。
そんなことを何度か繰り返していたら、ブレッツはものの見事に自滅を選んでくれた。
「も、もうダメだぁ……!」
「おい本体ッ、中へ戻らせろぉ!!」
恐れをなしたブレッツの分身たちが、後方で指揮をとるでもなく隠れていた本体に我先にと集中する。本体の上半身が強引に真っ二つにされ、分身たちが詰め込まれていく。
「ぐがああああっ、い、今さら戻れるかぁぁぁぁ!!?」
身体が引きちぎれる寸前にまで拡げられ、絶叫するブレッツ。こんな状態では当然、戦闘を継続できるわけもない。
「……何やってんだ、アレ」
「中身は有象無象のヴィラン以下だな」
「それなら、まとめてスパンといっちゃおう!」
自分の身可愛さから結果的に敵に塩を贈るような振る舞いをしてくれたのだ、その好機はきっちり活かしてやらねば。
シザーダイヤルファイターの尾部を地面側に向け、エンジンを噴射するルパンカイザーナイト。その勢いに乗じ、空高く跳躍を遂げる。
「っし、いくぜ──」
立ち上がる三人。ルパンカイザーナイトの必殺武器は剣だが、コックピットにおけるトリガーがVSチェンジャーであることに変わりはない。
『グッドストライカ──―ぶった斬っちまえスラ~ッシュ!!』
身体を滑らかに空中回転させながら、ブレッツの頭上をとったルパンカイザー。そのまま上層から一番下──本体まで、鋭い両刃で斬り分けていく。
「ぎゃあああああああ!!」
耳障りな悲鳴が一致する。と同時に、本体がひと言。
「全部まとめて倒されたァああああああ──!!」
それが辞世の句となった。
上層から順々に爆発が伝播し、それは巨大な炎の渦となって下手人ならぬ下手ロボットの身を赤く照らし出す。
「永遠に……アデュー」
(あ、それ言うんや……)
機嫌にもよるのだろうが、爆豪勝己という少年、意外とノリが良いのである。そういう彼を見るのは愉快でもあるので、指摘はしない仲間たちだった。
『気分はサイコ~!アデュ~~』
勝利宣言とともに、グッドストライカーは他のダイヤルファイターと一瞬にして分離した。目的を果たせば、戦場に留まり続ける意味はない。達成感と渇望相半ばするなかで、快盗たちは颯爽と去っていくのだった。
*
現場の後処理をそれ専門の部署に引き継ぎ、戦力部隊の面々は本部で小休止を許されていた。
「くうう……ッ、またしても快盗にいいようにされてしまった……!」
例によって唇を噛んで悔しがっている隊員が一名、存在しているわけだが。
「……こんなこと言うのもアレだけど、飯田のこれも最早名物だよなぁ」
苦笑いぎみに、響香。口惜しい気持ちは彼女にももちろんあるが、天哉が先に大袈裟な──本人は至って真面目なのだろうが──感情表現をするのと、彼ほどは快盗に対して強硬でないこともあって、こういう反応になるのだった。
「まあ、ギャングラーをまた一体排除できただけでもよしとしよう」和菓子を差し入れつつ、塚内。「結果的にヒントを与えてくれたジュレの彼女にも感謝しないとな」
「ッ、……仰る通りです。一度疑いまでかけてしまったにもかかわらず、彼女は……くううっ、やはり……とても良い子だ!!」
「はは……」
苦笑しつつ、ちらりと時計を見遣る。もう昼どきだ。朝からハードに実戦をこなしたので、しきりに腹の虫が存在を主張している。
「感動するのもいいけど飯田、そろそろメシ行かないと食べ逃すよ」
「ムッ、そ、そうか。──管理官、私と耳郎くんは昼休憩をいただこうかと思いますが、よろしいでしょうか!?」
「どうぞ、どうぞ。切島くんが半休だし、できれば庁舎内からは出ないでもらえると助かるけど」
「もちろんです!それでは!!」
びしっと敬礼して辞していく天哉と、飄々としている響香。警察官という型に当てはめるにはふたりとも個性的で、実に見ていて飽きない。そこに切島鋭児郎という"異分子"が混ざってチームはなんだかんだ上手くやっているのだから、人事の妙というのはあるものだと塚内は思った。
*
国際警察日本支部と徒歩で行き来できる程度の距離にある喫茶ジュレには、彼らの元締め……の代理人である黒霧が訪っていた。
ブレッツ・アレニシカから回収したルパンコレクション──"電撃の嵐~L’Orage électrique~"を専用の台帳に収め、ぱたりと閉じる。この瞬間を迎えるまでが、快盗たちのひと仕事なのである。
「今回もご苦労様でした、シザー&ブレードビークルは皆さんでお使いください。それでは失礼……」
こういうときの彼は特に事務的である。いつもなら皆で適当に見送るのだが、今日はお茶子が「あ」と声をあげる。
「黒霧さん、ザミーむぐう!?」
言いかけたお茶子の口は、素早く塞がれてしまった。爆豪勝己によって。
「ザミー……何でしょう?」
「あー……お疲れっした、ザ・ミーティング」
「?、ええ、お疲れ様でした」
苦しい誤魔化しではあったのだが、黒霧も多忙の身である。首を傾げながらも自らの個性でつくり出したワープゲートの向こうへ消えていった。
ふぅ、とため息をつく男ふたり。一方で解放されたお茶子は、これでもかと口を尖らせた。
「もー、なんで隠すん!?ザミーゴのこと、黒霧さんならなんか知ってるかもしれないのに!」
「ハァ……前に言ったろーが」
「あのモヤモブにタマ握られてんのは性に合わねえ」──確かにそう言っていたが、もう二ヶ月も前の話である。
ただ、今度は炎司もこの少年と同意見のようで。
「ザミーゴのことは我々の切り札だ。黒霧に頼らず、息子たちを取り戻すための──」
「あぁ、そっか……。そうだよね」
今はルパンコレクションをすべて奪還するという条件だが、今後万が一足元を見られないとも限らないのだ。黒霧や背後にあるルパン家の全貌を知らない以上、その可能性は排除できない。
「すまないな、お茶子。おまえにはメリットのない話かもしれないが」
「……うぅん。言ったでしょ、私だって快盗だもん」
それぞれの願いのために、一蓮托生で茨の道を進んでいく──その決心はもう、欠片も揺らぐことはない。
三人が視線をかわしあっていると、からんころんとドアベルが鳴った。用が無事済んだので、昼から店を開けていたのだ。
「いらっしゃいま──あっ」
「……こんちわ」
所在なさげに会釈したのは、昨夜と同じスーツ姿の切島鋭児郎だった。
「独りなんスけど……いいっスか?」
「ええ。──勝己、」
「……おー」
彼にしては神妙な表情で、客人に座席をすすめる勝己。ふたりの間に漂う雰囲気が妙にこそばゆいものであることに、炎司は気づいた。
「……ご注文は?」
「あー、アイスコーヒーと……腹減ってるから、なんか重いやつ」
「グリルチキンサンドでいいか?」
「じゃあ、それで」
客と店員の事務的なやりとりだが、鋭児郎は頬が緩むのを誤魔化せなかった。
「……ンだよ」
「!、いやその~、ハハハ……」
「俺の機嫌、直ってるか見に来たんか?」
「!」
図星、らしかった。
「流石、ヒーローサマはお節介なことで」
「そうだなぁ……でもさ、」
「今日は烈怒頼雄斗ってだけじゃなくて、切島鋭児郎として来たつもりなんだ、俺」
「!、………」
その赤いつり目が親愛の情に満ちていることに気がついて、勝己はえも言われぬ思いに駆られた。不快──そうとは言い切れない感情であることだけは、確かだった。
「そーかよ。……好きにしろ、クソ髪」
(今回は、プラマイゼロにしといてやる)──心のうちに、こぼれたつぶやき。彼らの願いを灰燼に帰そうとしたのはこの男だが、勝己の先走った自死を意図せず阻止し、新たな希望をやはり意図せず与えたのもこの切島鋭児郎だった。
その鋭児郎はというと、
「へへっ、あんがとなバクゴ……ん?く、クソ髪っ?それ、俺のこと!?」
「他に誰がいんだよ、クソ髪」
厨房からべ、と舌を出してみせる勝己。流石に酷くねぇかと抗議するも、かの少年はどこ吹く風。
「おめでと~烈怒頼雄斗さん!爆豪くんにあだ名つけてもらえたお客さんは初めてだよ!」
「ふ……」
仲間たちもまた、こんな調子であった。
(……ま、いいか)
勝己の本心は正直、まだ読めないところがある。けれども今日だけは、こんな自分の暑苦しいお節介を受け入れてくれた──今は、それで十分だ。
「ほれ、グリルチキンサンド1ダース」
「いやこんな頼んでねえって!!?」
「ヒーローならこんくれぇ食えやクソ髪ィ!!」
「理不尽!」
……やはり、嫌われてはいるのかもしれない。
à suivre……
次回「挑めアンフィルム」
「女の子になっちまったぁぁぁぁ!!?」
「ズコ~っ!!」