【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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切島♀のCVは喜多村英梨女史で…
どなたかと被ってるのはご愛嬌


#14 挑めアンフィルム 1/3

 

──国際特別警察機構には、異世界犯罪者集団ギャングラーに対抗するため設立された戦力部隊がある。

 

 それが彼ら、警察戦隊パトレンジャーである。

 

 

 プロヒーロー"烈怒頼雄斗"の勇名をなげうち馳せ参じた、パトレン1号・切島鋭児郎!

 

「っし、行くぜ!」

 

 警察官の模範たるべき生真面目な硬骨漢、パトレン2号・飯田天哉!

 

「市民の安寧は、我々が守る!」

 

 そして紅一点、パンキッシュな言動の底には正義の魂、パトレン3号・耳郎響香!

 

「あんたらの好きにはさせないよ」

 

 

──警察戦隊パトレンジャー……Ready Go!!

 

 

 謎の黒衣の集団との格闘が今、はじまる。

 肉弾戦を得意とする鋭児郎に、警察学校で一通り武道の心得を習得している天哉と響香。彼ら三人のスタントは、本職顔負けだった。

 

 ……スタント?

 

 

「カ~ット!!」

 

 メガホンを持つ男の、威勢のいい声が響き渡った。

 

「ダメだよ~もっとカメラ意識してズバッとビシッとやってくれないとぉ!!」

「はいっ、スンマセン監督!!」

 

 がばりと頭を下げる鋭児郎の背後で、年長組は渋い表情を浮かべていた。

 

「ンなこと言われてもね……」

「………」

 

 人々の安全な暮らしを守るためなら、どんな些細で地道な捜査でもやる意気のふたりではあったが……流石に、"これ"は職分に含まれるのだろうかと疑問に思っていた。

 

 無理もない。

 

 

──彼らが今いるのは、撮影所だったのだ。

 

 

 *

 

 

 

 時は数日前に遡る。

 

「え、映画撮影……!?」

「……ですか?」

 

 呆気にとられる隊員たちの言葉に、塚内直正管理官は昼行灯ぶって応じた。

 

「ああ。世間における我々の評価は決して低くはない、これまでプロヒーローたちが手を焼いていたギャングラーに対処できているわけだからね」

「………」

 

 一応プロヒーローであることに変わりはない鋭児郎は複雑な表情を浮かべたが、本題はここからだった。

 

「が、それはパトレンジャー単体で見た場合の話だ。──ジム、」

『はい!こちらをご覧ください』

 

 モニターに表示される折れ線グラフや、付随する様々な数値。

 

『こちらはマスメディア・SNS等において、我々と快盗を取り上げたニュースや発言を数値化したものです』

 

 快盗を表す数値・グラフが、警察を表すそれを常々上回っていることが見てとれる。

 

『また、とあるマスメディアのアンケート調査では、"警察と快盗どちらが頼りになるか"という設問に対し有効回答者数の実に64パーセントが"快盗"と回答……ぷっ、し、しています』

(自分でウケんなよ……)

 

 くだらない駄洒落はともかくとして、

 

「……ま、というわけだ。活動期間に差があるとはいえ、このままでは我々の立場がない。そんな折、東快株式会社さんのほうからこの話が持ちかけられた」

「ハナシはわかりましたけど……だからって、なんでウチらが出演するなんてことに」

「耳郎くんの言う通りです!我々の使命はギャングラーを排除し人々を守ることッ、映画撮影などにかまけていては有事の際、対応に遅れをきたすおそれがあるのではないでしょうか!!?」

 

 背筋をびしっと伸ばし、部屋の外まで響き渡っているのではないかとおぼしき声量での主張。ただ、血の気の多い刑事が取り調べで犯人をどやしつけるあれとはまったく趣が違うから不思議だと塚内は思った。

 

「まあ、きみの言うことが正しい」

「ならば……!」

「が、これは日本支部内での決定事項だ。相手方の監督がきみたちを主演にしたいと言って聞かないし、どういうわけか上もノリノリだ。呑んでくれ」

「……ッ!」

 

 警察において、上からの命令は絶対だ。それは比較的風通しのよい国際警察であっても変わらない。塚内にここまで言わせるからには、天哉たちに拒否権はないのだ。

 だが、彼だけは違った。

 

「いいじゃねェか、やろうぜふたりとも!快盗に負けねえくらいカッケー映画、作ろうじゃねえか!!」

 

 切島鋭児郎だけは、積極的な態度でふたりを鼓舞したのだった。

 

 

 *

 

 

 

 警察戦隊が慣れない演技に四苦八苦する一方で、快盗戦隊の面々は今日も今日とて白昼堂々密談に及んでいた。

 

「コイツが今回のターゲットだ」

 

 テーブルの上に二枚の写真を投げ出す──爆豪勝己。そこに写し出されているのは、ギャングラーが所持していると思われるルパンコレクション。そして……"東快映画撮影所"と札の掲げられた建造物だった。

 

「モヤモブ曰く、この撮影所で怪我人が続出してるらしい」

「ふむ……その件にこのコレクションが関係している可能性がある、というわけか」炎司の応答。

「じゃあ、今回はギャングラーの情報はナシかぁ……」これはお茶子。

「たまにはてめェでイチから調べろっつーことだろ」

 

 それで確証もないのにリスクを冒せというのは、閉口するよりほかにないが。

 ただ、お茶子はわりあい積極的だった。

 

「でも、撮影所なら有名人に会えるかもよ?映画スターとか、美人女優とか!」

「ハッ!だとよ、"元"ユーメー人?」

「小僧……喧嘩ならいつでも買うぞ」

 

 勝己も炎司も、芸能人には引くほど興味がなかった。

 

 

 *

 

 

 

 なんだかんだ、撮影は順調に進行していた。

 

「て……テキ、ノ、アジトニハ、ぼっ、俺ヒトリデイク……」

「そんなッ!危険だッ!!」

「きり……え、鋭児郎の言う通りだ。う、ううウチらも行く……!」

 

 ……こんな調子で、だが。

 

 スタッフ一同が渋い表情で見守る中、鋭児郎はいっそう声を張り上げた。

 

「天哉ッ!俺たち、チームじゃねえかッ!!」

 

 そのとき、

 

「カァァァットォ!!」

 

 鋭児郎のそれに負けない、監督の声が響いた。

 

「ダメダメ!特にキミ!!」

「えっ、俺っスか!?」

「そうだよ、声張り上げればいいってモンじゃないのよお芝居は!」

 

 それは……素直に反省するしかない鋭児郎であった。

 

「あとは……う~ん、どうにも色気が足りんのよな~」

「い、色気……?」

 

 そんなもの、男である自分がどう出せというのか。もちろん男性にだってセックスアピールの概念はあるのだが、しきりに響香に目をやって唸っている監督──響香は当然不愉快をこらえている──が求めているのはどうも"華"の意味のようである。

 

 と、いきなり監督が「うわっ」と目を剥いた。監督だけではない、仲間たちも、他のスタッフも。

 

「?」

 

 首を傾げると、耳から項のあたりまでふわりと髪が撫でる感覚。──後れて、胸と股間に強烈な違和感。

 

 撮影現場の時が止まったようになっている状況下、鋭児郎はまず胸に手をやった。ふにゅ、と柔らかい感触。

 

「……ある」

 

 次いで、股間。

 

「ない……」

 

 それは、男としての象徴。──つまり自分は、切島鋭児郎は……。

 

「お、おお、」

 

 

「女の子になっちまったぁぁぁぁ!!?」

 

 

 *

 

 

 

「これはどうしたことなんだ、切島くんが女性になってしまうなど……」

 

 唖然と天哉がつぶやくのも無理はなかった。

 

 鋭児郎が女体化してしまったことにより、当然のことながら撮影は中断。当初は監督かスタッフの個性によるものかと思い、全員に聴取を行ったのだが……答は、否。無論、真実は全員の個性を照会してみるでもないとわからないが。

 

「とにかく、原因がわからないんじゃ撮影どころじゃない。管理官に連絡して、詳しい調査を──」

「──ちょーっと待った!」

 

 そうふたりの間に割り込んだのは、かの名監督だった。

 

「撮影は続けるぞ、面白いじゃないか」

「いや、しかし……!」

「映画にアクシデントは付き物!やると言ったらやる、やり通す!それがいちばん大事!!」

 

 監督の強硬姿勢にたじろぎつつ、なおも説得を試みるふたりだったが……刹那、相手方に意外すぎる援軍が現れてしまった。

 

「監督の言う通りよ!撮影を続けましょう!」

 

 やや鼻にかかったような、かわいらしいハスキーボイス。それは先ほど、たった一度だけ聴いた……"聴いてしまった"声だった。

 

 伸びた赤髪をさらりと靡かせ、迷いのない足取りでやってくるひとりの女性。ブラウスにタイトスカートという服装でなければ、その顔立ちはまだ少女のようだ。しかしまあ、童顔に不似合いな胸のメロンがごときふたつの膨らみが、これはまた……。

 

「うふっ♪」

 

 ウインクを決めてみせる鋭児郎。彼……いや彼女、すっかりキマっていた。

 呆気にとられる響香。天哉もまた同じ反応……否、

 

──ずぎゅうううううん!!

 

 胸を矢で射抜かれたような衝撃のあとに、甘く切ない痛みが天哉を襲った。心拍数が加速度的に上昇していくのが、自分でもわかる。

 

「か、可憐だ……!」

「……おい飯田」じろりと睨みつける響香。

「はっ!?い、いやすすすすまない……」

 

 ふたりが謎の修羅場に突入する一方で、チームをかき乱した鋭児郎は照れくさそうに笑っているのだった。

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、快盗たちもまた撮影所内への侵入を遂げていた。

 建物の屋根や屋上を俊敏に伝い、移動を続けていく──と、当然の帰結として、彼らは忌々しいデザインの車輌を目の当たりにすることとなった。

 

「げげっ、あれって国際警察のパトカーちゃう……!?」

「ンだよ、アイツらもう来てんのか」

 

 ということはギャングラーが姿を見せたのか、それにしては騒ぎが起こっている風もないが。

 

「まさか……もう倒されてはいないだろうな」

「!」

 

 三人の脳裏に、つい先日のブレッツ・アレニシカの一件がよぎる。いくらザミーゴという"希望"を見つけたといえど、ルパンコレクションをすべて奪還することが至上命題であることに変わりはないのだ。

 

「チッ……急ぐぞ」

 

 パトカーの駐車してある建物内に、ダクトから侵入する。ここからは会話もない。小さな物音ひとつが命取りになる可能性があるためだ。

 

──それなのに、

 

「ダメよ~ダメダメ!絶対ダメ!!」

 

 妙にわざとらしい女性口調に、三人は不思議と気を引かれた。声はともかく、その喋りの癖のようなものに聞き覚えがあったのだ。

 

 そして快盗たちは、目を疑った。

 

「ひとりで行くなんて危険だわ~!」

 

 不自然なほどに女性らしさを強調した動作でそう叫んでいたのは、あれほど"漢"をアピールしていた新人ヒーロー・烈怒頼雄斗こと切島鋭児郎だったのだ。

 さて、彼らの仲間たちはというと。

 

「えいじろ……えい、鋭子?……の言う通りだ、ウチらもい、行く……」

「しっ、シカシカシ……キミタチ、マデ、マキコム、ワケニハ」

 

 あらぬ方向を見つめながらロボットのような片言でしゃべる天哉に対し、鋭児郎……改め鋭子が詰め寄った。

 

「天哉さんッ!」

「!?」

 

 思わず後ずさりしていく天哉に対し、彼女は容赦しない。一歩下がれば一歩追い詰めていく。そうして筋骨逞しい生真面目な青年は、哀れ壁際まで追い込まれてしまった。

 

「アタシたち……チームじゃない……!」

 

 ほとんど密着に近い距離。と、ここで大問題が発生した。天哉の分厚い胴体に、鋭子の……こう、豊満な胸の膨らみが、しっかり触れあってしまっているのだ。

 

(き、切島くんッ、当たってる当たってる、当たっているってぇ……!)

 

 演技に没頭している鋭子の耳には、悲しいかな彼の小声は届かない。ああ、こうしているうちに頭に血が上っていく。この元・青年に対してそういう状態になったのは二度目だが、理由が違いすぎた。

 

「ぬぅうううおぉぉぉぉぉ……!!?」

 

 その末路として、天哉はこのような奇声をあげる羽目になった。棒読みはもう仕方がないと流していた監督も、流石にこれにはカットをかけようとしたのだが、

 

「ふっ、ハハハハハハハ!!!」

「!?」

 

 突如、響き渡る哄笑。──なんとこれ、爆豪勝己のものだった。

 

「なッ……ハハっ、ンだよアレ!きめェ!」

「あははははは、お腹っ、お腹痛い!」お茶子も追随。

「ばっ、馬鹿者、大声を出すな……ブフッ」炎司も耐えられなかった。

 

 既に事が終わっているかもしれないという焦燥感に苛まれながら進んできてみれば、明らかに女装というレベルではない姿の切島鋭児郎に迫られ、飯田天哉が奇声を発しているのを目撃したのだ。緊張と緩和の原理は、彼らにも容赦なく働いた。

 

──が、それが大ポカであるのは言うまでもないことだった。はっと我に返れば、スタッフ一同、出演者……つまり警察の面々までもが、じっとこちらを凝視している。

 

(あ、やっちゃった)

 

「──快盗ぉおおおおおおお!!」

 

 刹那、馬鹿者たちは眼下から昇りそそぐ光弾の雨あられに襲われていた。咄嗟に這いつくばって命中を避けるが、お世辞にも恰好いいとはいえない姿だ。

 

「ッ、ゴラァ丸顔ォ!!大口開けて笑ってんじゃねえよクソが!!」

「ハァ!?自分だって笑っとったやんこのバカツキ!!」

「ンだとゴラァ!!?」

「……やっている場合か!構えろ!」

 

 今度は流石に笑いもなかった。全身接地した姿勢のままVSチェンジャーを構え、ダイヤルファイターを装填する。そこからはいつものシークエンスである、しつこいようだがこんな姿勢でなければ。

 

『0・1・0、マスカレイズ!快盗チェンジ!』

 

 兎にも角にも、快盗チェンジを遂げた彼らは銃弾をかいくぐって脱出を遂げた。とはいえ追う側に邪魔するものは何もないから、外へ出たところで追いつかれるのも当然の帰結であった……ぞろぞろ着いてくる撮影陣はこの際ご愛嬌として。

 

「逃がさないよ!──警察チェンジ!」

『3号、パトライズ!警察チェンジ!』

 

 こちらもいつも通り、警察チェンジを遂げたパトレンジャー……が、1号の様子だけ明らかに普段とは異なっていた。

 性別の変化に合わせてか、3号と同じくわざわざスカートが生成されているし、何より。

 

「う……!」

「!、どうした切島!?」

 

 通常と異なる状態で装着したせいで、警察スーツに不具合が発生したのか?心配して声をかける響香だったが、

 

「む、胸がキツい……!」

「……は?」

 

 よくよく見れば……いや見るまでもなく、1号の胸元はぱっつぱつであった。警察スーツは身体にぴったりフィットする素材でできている。女性用下着も着けていない状態で、この胸の大きさでは余計に圧迫感があるのも無理はなかろう。

 だが鋭児郎は、そういう"大きさの程度"を考慮せずにこんなことをのたまうのだ。

 

「耳郎もいつも、こんな苦労してたんだな……!」

「……あ゛ぁ?」

 

 気遣ったつもりのひと言が、響香のコンプレックスを直撃した。結果、居合わせた者たちはこぞって、彼女から立ち上るどす黒いオーラを目撃する羽目になるのだった。

 

 

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