炎司さん…
さて、監督垂涎の三つ巴対決はいつになく激しいものとなった。
取り逃がすことのないようピッチ・コックを戦闘の中心に置きながら、快盗と警察の間でも火花を散らす。特に性別が同じになったことで、イエローvs2号・ブルーvs3号の対決はよりいっそう容赦のないものとなっている。
「ハッ、随分オトコラシイ姿になったんじゃねえの、ヒーロー崩れのお巡りサンよォ?」
「は?……ッ、皮肉かよ!?」
「ふぅん、馬鹿でもそんくれぇのこたぁわかんのかよ?」
「てめっ……こう見えても雄英卒なんだぞ!!」
このふたりは男女の関係(?)になってもこんな調子であるが。ちなみに雄英高校ヒーロー科は偏差値79とも言われるので、学力試験をパスできる時点で間違いなく秀才の部類に入るはずなのだが、その割には……という人物が多々いる。
閑話休題。
「ッ、そう言う割には、さっきから胸ばっか見てんじゃねーか!!」
「ア゛ァ!!?見とらんわ死ねカス!!」
罵りつつ、実のところやりづらさを感じていたのも事実だった。胸の大きさなど死ぬほどどうでもいいが、うっかり触れそうになるときまりが悪い。いかに淡白といえど、勝己も思春期の少年であった。
一方で鋭児郎のほうも、やはり互角の実力をもつルパンレッドを相手にしては万全の状態で戦いたい。そのためにはやはり、本来の性別に戻らなければなるまい。
(だったら──)
(──やるこたぁ、ひとつッ!!)
一秒後、ふたりの赤はほとんど同時にピッチ・コックへと襲いかかっていた。二方向からの攻撃にかのギャングラーは一瞬たじろいだ様子を見せはしたものの、即座にのらりくらりと回避行動をとり始める。ギャングラーには珍しい好戦的でないタイプなだけあって、こういうところがかえって厄介だった。
さらに、
「んもう~、こうしちゃるっ!」
「!」
左肩の金庫が鈍い光を放つ。しまったと思ったときにはもう、
「ズコ~~ッ!?」
その場にいる全員、見事に転けさせられてしまったのだった。
「ウッヒョッヒョッヒョ~!あー、たのし~♪」
「ッ、こいつ……!」
馬鹿にしやがって!鋭児郎は憤ったが、攻守を重視した警察スーツ、そして己の個性では相性が悪いという自覚もあった。思わずそのことをつぶやくと、傍らの快盗が愉快そうに鼻を鳴らす。
「だったらそこでボケっと見てろや」
「!」
言うが早いか、快盗たちは付近の建物めがけてワイヤーを射出した。フックで固定されたそれにぶら下がって宙を舞い、マントを翻しながら銃撃を繰り出す。慌てたピッチ・コックがルパンコレクションの能力を発動させるが、尻から地面にダイブしたのは警察一同だけだった。
「こ、これはぁ……空中では転ばすことができません!」
「それが狙いだもん、とりゃっ!」
「グハッ!?」
急降下してきたルパンイエローのキックが炸裂し、ピッチ・コックがバランスを崩したところで落着したブルーが持ち前の腕力で彼を拘束する。誰が合図するでもなく為した見事な連携のトリを飾るのは、言うまでもなく彼だった。
「オラッ!」
「!?」
金庫にダイヤルファイターを押しつけ、
『1・0・8──!』
解錠。開いた金庫から、ホイールの形状をしたルパンコレクションを取り出した。
「ルパンコレクション、貰ったぜオラァ!!」
「グハァン!?」
それと同時に容赦なくドロップキックをかますルパンレッドは、この場の誰よりもヒール役にふさわしいのだった。
「くうう~ッ!ならば、くじゃりんぱっ!」
早くも立ち直ったピッチ・コックは起死回生をかけてあの性転換ビームを放った。当然、狙いは集まった快盗たち。しかし照準を合わせてからビームが射出されるまでのラグは、快盗たちに言わせればあまりに緩慢だった。素早く身を翻す彼らの後方には、警察たちがいて──
「うわあっ!?」
光を浴び、吹き飛ばされる三人。しつこいようだが肉体ダメージはない攻撃だ、ただ性別を変えてしまうというだけで。
つまり、
「お?」
この感じは──胸を触り、股間を触る。あるべきものがあり、なくなるべきものはなくなっている。
「も」
「も、」
「「「戻ったぁぁぁぁ~~~!!」」」
それは歓喜の叫びだった。ノリノリに見えた鋭児郎も含め、性別が違うというのは大いなるストレスだったのだ。解放感から、三人はいつも以上に軽快な所作で吶喊した。今度は性転換ビームを受けないよう、銃撃で牽制しつつ、一挙に距離を詰めていく。
「よくもコケにしてくれたな……!」
「許さんぜよ……あ、許さんぞ!!」
「イヤァァ、激し~っ!!」
怒れる2号・3号の猛攻。サーベルひとつで対抗するには、やはりピッチ・コックの戦闘力は心もとなかった。
そして、1号。彼はあえてわずかばかり距離をとり、パトメガボーを通常形態からメガホンモードに切り替えていた。
「おいピッチ・コック!カットだ!カ~ット!!」
「!?、アラヤダ!」
カットがかかると動きを止めてしまう、映画クルーの悲しい性であった。
「っし、今だ飯田!耳郎!」
隙だらけになったピッチ・コックの脳天めがけて、ふたりは力いっぱいパトメガボーを振り下ろした。当然、直撃。ピッチ・コックの頭上に、綺麗なお星様が舞った。
「お星様……ヒヨコ……ウヒョヒョヒョヒョ」
「切島くん!」
「おうよ!」
油断してまた性転換ビームを喰らっては元も子もないので、彼らのアクションは疾風迅雷のひと言に尽きた。実際、2号が呼び掛けたときにはもう、1号はVSチェンジャーにトリガーマシンバイカーを装填していたのだから。
『バイカー、パトライズ!警察ブースト!』
「バイカー……撃退砲ッ!!」
そして──放たれる。グロッキー状態のピッチ・コックに、向かってくる弾丸をかわす術があるはずもない。彼の命運は既に決していた。
「撃☆退されてしまったあああああああ──!!」
断末魔。爆発。
また「カ・イ・カ・ン」とやりそうになった鋭児郎であったが、もう男に戻っていることを思い出して口をつぐんだ。
*
「………」
「完封、ですな」
戦況の推移を見守っていた屋敷の面々は、構成員の大敗を見届けてなお淡々としていた。ピッチ・コックはもとより武闘派でないので、能力を封じられてしまえばこういう結果になることは目に見えていたのだ。
となれば、今日はもうこれで終わりか。デストラのそんな予想に反して、彼らがボスは口を開いた。
「ゴーシュ、映画の完成に今一度チャンスを」
「は!?」
「わかりましたわ」
あっさりと承諾して出ていくゴーシュとは対照的に、デストラは呆気にとられていた。チラシをまじまじ見つめるドグラニオを思わず二度見してしまう。自分の一つ目で見下ろすのは無礼かと思い直し、慌てて背中を向けたが。
「本当に楽しみにしていらっしゃったのか……」
往年のドグラニオを知っているデストラとしては、胸中複雑であった。
*
「ウッヒョッヒョッヒョ~、撮影再開といきますよぉ!」
前触れもなく出現したゴーシュの手引きにより、倒されたはずのピッチ・コックは例によって巨大化復活を遂げた。
「ッ、またか……!」
「一気にケリつけるぜ!──来い、グッドストライカー!」
『呼ばれて飛び出て~、ぶらっと参上~!』
鋭児郎の求めに応じて……というわけでは実際のところないのだろうが、グッドストライカーがやってきた。確かに来た。
しかしながら、鋭児郎をはじめとするパトレンジャーの面々が彼と合流することはなかった。
「フンっ」
『うわぁお!?』
飛翔の途上、ルパンレッドの手が彼を捕らえたのだ。
「サツどもにこれ以上カッコつけさせっかよクソが」
「よろしくねグッディ!」
『そんな、強引にぃ!』
と言いつつ、強引に使われることが実はキライではないグッドストライカーである。抵抗することなくレッドのVSチェンジャーに納まり、意気揚々と射出されていくのだった。
『……ってわけで、勝利を奪いとろうぜ~!快盗、ガッタイム!』
誕生、ルパンカイザー。グッドストライカーを含め四つのルパンコレクションが集った強力な鋼鉄の闘士である。
対峙するピッチ・コックはというと、その屈強な体躯を前にむしろ映画魂が疼いているようだった。
「ウッヒョ、泣いても笑ってもクライマックスですよぉ~!」
サーベルを突きつけてくる。ほとんど性転換ビームを放つことにしか使っていなかったが、武器としているからにはそれなりの腕はあるのだろうか。
「……てめェの土俵、乗ってやる」
そして、完膚なきまでにブッ殺す。いつも通りの物騒な思考をもとに、ルパンレッドが選択したのは入手して間もないシザー&ブレードダイヤルファイターだった。
『左腕、変わりまっす!剣、持ちまっす!』
イエローダイヤルファイターが分離し、シザーが代わる。右手にはブレード。剣と盾、快盗らしからぬ正統なる姿。
『完成、ルパンカイザーナイト!』
騎士に扮した快盗は、撮影所群を足下に剣戟を開始した。ピッチ・コックのサーベルを盾で受け止め、すかさず大剣の一撃をお見舞いする。
リーチの面ではピッチ・コックに分があった。リーチの面で、だけは。彼の細いサーベルでは、とてもではないがシザー本体が変形した盾を突き破れはしない。いや、仮に盾がなかったとしても、ルパンカイザーナイトの前には軽くあしらわれていただろう。
「けっ、こんなモンかよ」
「……何をわかりきったことを。最初から叩きのめすつもりだったんだろう」
「たりめーだ、わっ!」
軽く斬りつけて後退させると、ブレードダイヤルファイターの翼を広げて勢いよく射出する。もとが戦闘機なのだから考えるまでもないのだが、こんな攻撃方法、予測できる者はそう多くはあるまい。まして、戦闘経験の少ないピッチ・コックでは。
「ウヒョッ!?……や、やりますねぇ!」
一計を案じたピッチ・コックがとった手段は……恒例の"くじゃりんぱ"であった。ただし標的はルパンカイザー本体ではなく、飛来してくるブレード。しまった、より「何がしてえんだコイツ」と思ったが、同時に興味が湧いた。相手は無機物、何も起こらないのか。それとも──
果たして、何かが起きた。確かに起きた。光に包まれたブレードダイヤルファイターの姿が様変わりしていたのだ。漆黒を基調としていたボディは、燃えるような赤とオレンジ色に。両翼は鈍器のように変形している──これは、ハンマー?
「え、ええ~……どういうこと?」
「武器にも性別がある……ということだろうな」
『イヤ~ン』
「きめェ」
本日何度目か。
いずれにせよ、姿が様変わりしてもブレード……改めハンマーダイヤルファイターが強力な武器であることに変わりはなかった。そのままピッチ・コックをぶっ叩きまくる。男になったのか女になったのかは知らないが、とかく動きが激しい。
「ウヒョッ、ウヒョッ、ウヒョヒョッ!?こ、これは!衝撃のラスト三分!?」
「三分もいるかよ、秒殺し殺したるわ!!」
殺すを被せるという爆豪話法は、確かにクライマックスの合図だった。ハンマーを手元に戻し、構え直す。
「オラァっ、死ねぇ!!」
ひとりでに動いて敵を叩いてくれる優れものだが、やはりルパンカイザーに持たせると威力が違う。何より敵を打ちのめす感触が機体を通じて伝わってくるので、血が滾る。
そうこうしているうちに、秒など一瞬で過ぎる。戦場における時間経過は通常より圧倒的に速いのだ。
「小僧、そろそろ良かろう」
「わぁっとるわ。──いくぜっ!!」
コックピットに接続していたVSチェンジャーを抜き取り、シートから立ち上がる。同時に、ルパンカイザーナイトがその場で回転を始める。
『グッドストライカー連打・グルグルヒッ飛べブッ飛べ~!!』
その勢いのまま、ピッチ・コックに向かっていく。標的とされた彼はというと、
「ウヒョヒョッ、大どんでん返しを期待してぇ~!!」
サーベル一本で向かっていく。が、あっさりサーベルを弾き飛ばされてしまう。その瞬間、この後の展開は完全に決定された。
「それでは次回にご期待くださいっ、サヨナラ。サヨナラ!サヨナラぁ~!!」
勢いをつけたハンマーに全身を叩き潰され、天高く打ち上げられ──爆発。巨匠ピッチ・コック、哀れここでクランクアップである。
「永遠に……アデュー」
『キマってきたなぁ!そんじゃオイラも、アデュ~!』
一瞬にしてルパンカイザーから分離し、飛び去っていくグッドストライカー。快盗たちもまた、何処かへ帰っていくのだった。
*
その後、主演俳優たちに手元のスタッフを虐殺された──語弊はあるが、紛うことなき事実だ──監督の、それでもあきらめない熱意によって、映画はどうにか完成へとこぎ着けた。程なく、試写フィルムが警察戦隊あてに送られてきたわけだが。
『……で、これが完成した映画ですが……』
なんとも言えない声をあげるのは、珍しく事務作業以外に関心を示したジム・カーター。ストックしてあるかりんとうを齧る塚内管理官殿もまた、微妙な表情を浮かべていて。
「これは……なんというか、うん」
「うっわぁぁぁ……恥ずかしくて見てらんない……!」
「こんなのが全国の映画館で流れるのかよ……」と響香が顔を伏せている。せめて単館上映にとどめてくれればいいと思いつつ、それだとこんな思いをして撮影に参加した意味もなくなるから難しいところだった。
一方で、
「うむ……確かに拙いことは否めない……!映画第二弾の暁にはもっとレベルの高い演技ができるよう、努力しなくては!」
「……ハァ!?第二弾!?飯田あんた、全然乗り気じゃなかったのに……」
「いや当初はそうだったんだが、やってみると案外面白くてな!な、切島くん?」
「だろ、だろー!?」
へへへ、と嬉しそうに笑う鋭児郎。彼は監督と意気投合していたし、筋がいいと褒められてもいた。プロヒーローの中にはCMからドラマ・映画出演を行い、中には本職顔負けの演技力を発揮する者もいる。鋭児郎にも或いはそんな未来があるのかもしれない。
「ハァ……」
男どもをため息混じりに眺めていた響香は、画面に目を戻した瞬間思わず目を剥いていた。そこには、男と化した自分……"耳郎響介"が映し出されていたのである。
(こ、こんなのまで使うのかよ!?)
あの監督、本当に……!今となっては撮影所まで怒りをぶつけにいく気力も湧かず、デスクに突っ伏すしかない響香だった。
──なお公開後、鋭児郎……というか烈怒頼雄斗には怪しい男性ファンが、響香には女性ファンが、天哉にはインターネットの匿名掲示板特製コラ画像が激増することになるのだが、それは暫し後の話である。
à suivre……
次回「恋は錯綜中」
「遊園地デートだぁぁぁっ!!」
「遅れるなよ!」
「そっちこそ!」