【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#15 恋は錯綜中 3/3

 

 連絡を受けておよそ四半刻。パトレンジャーのふたりは、夢ヶ丘遊園地の目前に到着した。

 

「ここか……」

「──こちら飯田、作戦ポイントへ到着。アナライズの結果を教えてくれ」

『了解!』ジム・カーターの応答。『肉眼では確認できませんが、ドーム状の障壁が遊園地を覆っているようです。まずそれを破壊しないと、内部への進入は不可能です!』

「我々の妨害と人々の逃走防止、一石二鳥のつもりか……!」

「ンなもん、俺の個性でブチ砕いてやる!」

 

 パトレン1号──鋭児郎が全身に力を込めると、呼応して皮膚が硬質化していく。強化服を突き破ることはないが、その身は鋭く尖った岩石に覆われたようになっていた。

 

 野次馬を退かし、バリアの前に立つ。呼吸を整え……拳を握りしめる。

 そして、

 

「──うぉらぁッ!!」

 

 思いきり、叩きつける!

 いけるか、と見守る天哉は思った。プロヒーローでもある鋭児郎の"硬化"はすぐれた個性だ。ギャングラーとの戦闘においても、攻守双方に役立ってきた。

 

 しかし、ルパンコレクションによってブーストがかけられたナイーヨの力はそれ以上のものだった。

 

「ぐあっ!?」

 

 身体にビリビリと衝撃が奔ったかと思えば、大きく後方に吹き飛ばされる。2号が咄嗟に受け止めてくれなければ、彼方へ消え去っていたかもしれない。

 

「大丈夫か、切島くん!?」

「痛てて……なんとか。でも、あのバリアやべぇ……」

「どうやら、受けた衝撃をそのまま押し返してくるようだな……」

 

 だが、バリアを破って突入するのはミッション遂行のための必要条件だ。鋭児郎のような打撃で駄目なら。

 

「切島くん、下がってくれ。VSチェンジャー(これ)でやってみる!」

「ッ、頼む!」

 

 1号が後退すると同時に、発砲する2号。光弾がバリアの表面でスパークし、火花が散る。ふたりはわずかな風圧を感じたが、それだけだった。

 

「やはり、これなら危険はなさそうだ」

「っし、なら一気に!」

 

 嬉々としてトリガーマシンバイカーを構えるパトレン1号。──その姿を、背後から密かに見つめている者たちがいた。

 

「チッ、連中先越しやがった」

「ふん、まだ逆転は可能だろう。あんなところで立ち往生しているんだからな」

 

 しかし、それももう終わろうとしている。完全な漁夫の利を得ることで連中をコケにしてやるのも一興だったが、確実に出し抜くためには手を貸してやるのも手だった。

 

『サイクロン!3・1・9──マスカレイズ!』

 

 "警察ブースト""快盗ブースト"──ふたつの音声が重なりあう。いずれかが先んじていれば、パトレンジャーも快盗の存在に気づけたかもしれない。

 いずれにせよ、発射されたふたつのエネルギー弾。同根であるそれらは惹かれあうように合流して融合し、より強度を増してバリアに接触する。暫くは互いに反発しあっていたものの、やがて表面にヒビが入りはじめる。そうなると、弾丸の威力が勝るのも時間の問題だった。

 

──そして、バリアは粉々に粉砕された。

 

「っし、……あれ?」

「むっ?」

 

 ここでようやく違和感を覚えたふたりだったが、時既に遅し。

 

「おらッ!」

「!?」

 

 頭上に影が差したかと思えば、いきなり脳天に衝撃を受けた。体幹のすぐれた彼らでなければその場に転ばされていただろう。

 

「いつまでもそこで突っ立ってろや、脳筋お巡りサン?」

「なっ……快盗!?」

 

 着地と同時に走り出す快盗らの姿を認めて、鋭児郎たちは先ほどの衝撃が頭を踏み台にされたことによるものだと悟った。同時に憤懣がこみ上げてくるのは、言うまでもないことで。

 

「~~ッ、あいつらぁ!!」

「追うぞ切島くん!!」

 

 このようなひと悶着はあれ……快盗も警察も、これで全員が遊園地への突入に成功した。

 

 

 *

 

 

 

 仮に彼らがバリアの破壊に手間取っていたならば、現在進行形で戦闘を続けているルパンイエロー・麗日お茶子とパトレン3号・耳郎響香はいよいよ絶体絶命の危機に陥っていただろう。

 それほどまでに、ナイーヨ・カパジャーは危険な女だった。

 

「闇忍法、影分身の術~!」

 

 鎖鎌を振り回すという攻守両得の詠唱方法によって、自らの分身をつくり出していくナイーヨ。それらは円陣を組むように広がり、ふたりを完全に包囲してしまった。

 

「ええ~っ!?」

「ッ、古典的な手を……!快盗、惑わされるなよ!」

「わ、わかってる、とにかく全部消せばいいんだもん!」

 

 対抗策として背中合わせになったふたりは、手当たり次第と言わんばかりに光弾を放ちはじめた。お化け屋敷の一室はさほど広さがあるわけではないので、これだけ数がいれば狙いをつけずとも命中はとれるのだ。

 実際、弾丸を受けたナイーヨの分身は霞か何かでできているらしく、弾丸を浴びるや否や一瞬にして消滅してしまう。ならばふたりで間断なく攻撃を続けていれば、こんな術時間稼ぎにしかならないと思った。

 

 そうして、思惑通りにナイーヨの姿は残りひとつにまで減る。──つまり、本物。

 

「これで、終わりだぁっ!!」

 

 容赦なく銃撃を浴びせかける。火花を散らし、倒れ込むナイーヨ。その瞬間までは、勝利を信じることができた。

 

「な……!?」

「え……!?」

 

 希望は打ち砕かれ、ふたりは唖然とすることしかできなかった。ナイーヨの身体が、いつの間にか木偶人形にすり替わっていたのだ。

 どうして、いつの間に。本物はどこに──目まぐるしくよぎる疑問は、どこからともなく飛来してきた鎖鎌の一撃によって寸断された。

 

「きゃああっ!?」

「!?、かいと──うあッ!?」

 

 鋭い刃に強化服を斬られ、凄まじい衝撃が全身を突き抜ける。倒れ込むと同時に、彼女たちは揃って変身解除に追い込まれてしまった。スーツの核となる構成部分を的確に切り裂かれてしまったために、大きなダメージでないにもかかわらず装着状態を保てなくなってしまったのだ。

 

「ッ、う……」

「私はあらゆる世界を股にかけて修行を積み、忍法を習得してきたの。おまえたちのような小娘じゃ鎖鎌の錆にもならないわ、アハハハハ!」

 

 嘲うナイーヨ。対する響香たちは、変身こそ解かれてはしまったがまだ余力を残していた。何より沸き立つ憤懣が、このままでは収まらない。

 

「快盗!」

「うんっ!」

 

 二方向に分かれて攻撃を仕掛けようと目論むふたりだったが、その動きは見切られていた。

 

「単純ねぇ!」

 

 鎖が意思をもっているかのようにふたりの腕に巻きつき、縛り上げてしまう。

 

「な……!?」

「うそっ!?」

 

 腕と腕が、鎖で繋がれてしまった。そうなれば当然二方向に分かれるなどできない。息を合わせれば正面から挑むことはできようが、もとより一時的に手を組んでいるにすぎない彼女たちにはどだい困難な話だった。

 

「ッ、なら……!」

 

 自由のきく左手で射撃を敢行する響香。お茶子もそれに倣った。もはや連携は不可能である以上は唯一とりうる手段であるのだが、ここまでふたりを翻弄してきたナイーヨを相手に通用するはずもない。

 

「フフフ、アハハハハっ!そんなものっ!」

 

 鎖鎌を振り回すことで、光弾を弾き返す。それどころか射撃と射撃の間隙を縫い、鎌の切っ先を差し向けてくるありさまだ。

 

──この戦場にたどり着いた上鳴電気が目の当たりにしたのは、まさしくそんな光景だった。

 

(お、追い詰められてんのか……!?)

 

 鼓動が速まるのを電気は自覚した。この戦いにおける敗北は、即ち死を意味する。それは遠からずして現実もものとなるだろう。

 

「ッ、!──………」

 

 たまらず物陰から飛び出そうとして……踏みとどまる。今、自分が出ていって何になるというのだ。響香を動揺させ、余計に劣勢へ追い込んでしまうのではないか。

 だが、彼女らの命の危機はすぐそばまで迫っていた。

 

「遊びは終わりよっ、闇忍法"鎌鼬"!」

 

 振り回される鎌から旋風が放たれる。それは当然銃撃で防げる類いのものではない、咄嗟にかわそうとするふたりだったが、やはりつながれた腕同士が邪魔してうまく動けなかった。

 そして、

 

「!?、うあぁっ!」

 

 風の刃が、響香の左肩を掠めた。肉が裂け、鮮血が噴き出す。倒れかかりそうになるのを、お茶子が咄嗟に支える。

 

「痛、ぐ……ッ」

「耳郎さんっ、大丈夫!?」

 

 そう訊くくらいしかお茶子にできることはなかった。無論、響香の受けた傷は浅いものではない。もし完全な直撃を受けていたら、肩から腕が千切れ飛んでいただろう。

 一方でナイーヨはというと、今の一撃で仕留めきれなかったことに地団駄を踏んでいた。

 

「あぁんもうっ、しぶといわねぇ!……」

 

 

「──でも、次で終わりよ……!」

 

 ナイーヨの瞳は忍びというより狩人、それも罠に捕らえた獲物に相対しているときのそれだった。彼女はもはや勝利を確信していたのだ。状況を鑑みれば、それは慢心とはいえないだろう。

 

 己の幕切れを悟った響香は、運命共同体となってしまった快盗に囁いた。

 

「ッ、快盗、ウチを盾にして逃げろ……」

「な、何言って……!?」

 

 警察は敵だ。しかしいくら敵であっても、他人を生け贄に差し出すようなことがお茶子にできるはずはなかった。──本当は、ヒーローになりたかったのだから。

 しかし、選ばなければ揃っての死あるのみとも理解していた。選べば、自分ひとりは助かる……可能性がある。ふたつにひとつ、そこに響香が助かる道はない。

 

「さあ──死ねぇ!!」

「!」

 

 ナイーヨがいよいよ鎖鎌を振り上げたときだった。

 

 

「──ざっけんなぁぁぁぁぁぁっ!!」

「!?」

 

 この場にはいないはずの、男の絶叫。驚きに動作が一瞬鈍った瞬間、ナイーヨは奔る雷に襲われていた。

 

「ぐううっ!?」

 

 たまらずよろけ、後退するナイーヨ。響香たちは一時的なりとも命を救われたわけだが、安堵より当惑が勝っていた。だって、電撃を操るのは──

 

「上鳴……!?あんた、なんで──」

「……ッ、」

 

 そこに立ち尽くす電気は、響香の問いに直接は応えなかった。ただ、

 

「俺の好きなひとに、何してくれてんだよ……化け物……!」

 

 その瞳には、わずかな恐怖とそれを押し込めるような瞋恚が宿っていた。そんなわけはないのに、まるで、ヒーローのように──

 

「……ふふっ」笑い出すナイーヨ。「ふふふふ、ふふ、ふふふふふふ……!」

 

「──邪魔してんじゃないわよぉっ!」

 

 癇癪を起こした彼女の鋒は、当然のごとく電気に向けられた。「逃げろ上鳴!」と響香が叫ぶが、ナイーヨに狙われた時点で一般人でしかない彼の運命は決まっていた。

 

「が──ッ!」

「あ……!」

 

 電気が──切り裂かれた。噴き出す血。倒れ伏す身体。

 

「上鳴ぃぃぃぃっ!!」

 

 悲鳴のような声で名を呼んで、響香は彼に駆け寄った。鎖で繋がれている相手がいることも忘れて。ただその少女は、不思議と枷になりはしなかった。彼女もまた「上鳴さんっ」と、彼の名前を呼んでいた。響香が呼んでいたからではなく、まるで以前から知っていたかのような自然な発声であることには、気がつかない。

 

「ッ、う、ぐ……っ」

 

 痛々しくうめく電気。出血は、腕からだった。腕から手の甲にかけて切り裂かれている。胴体を真っ二つにされかねなかったところ、すんでのところで避けたのだろう。だがそれでも、響香の顔から血の気が引いたのは変わらなかった。

 だって、自分と同じなのだ。腕を、手をやられた。その結果自分はギターを持てなくなって、彼に夢を託したのだ。それなのに、今度は、彼が……。

 

「あぁぁもうっ!どいつもこいつも、なんでビミョーにかわすのよぉ!とっくに三匹とも仕留めてるはずだったのにぃ!」

 

 なおも癇癪を続けているナイーヨ。外見とは裏腹の甲高い声が壁に反響して、耳をつんざく。忍びとしてはヒステリック極まりない騒ぎっぷりに、対する女たちの心は冷えた。

 

「……快盗……」

「……何?」

 

「──遅れるなよ」

 

 そのひと言、その瞳だけで十分だった。想いは同じだと、理解するまでもなかったのだ。

 

「……そっちこそ!」

 

 だから、そう応じた。応じながら、VSチェンジャーを構えていた。

 

「快盗チェンジ!」

「警察チェンジ!」

 

──そして再び、変身を遂げる。

 

「はっ、鎖で繋がれてるあんたたちなんて、変身したところで怖くもなんともないのよぉ!」

 

 ここまでの戦闘を思えば無理もないのだが、ナイーヨは完全に彼女らを侮っていた。ふたりまとめて切り裂いてしまおうと考えて、わざわざ至近距離まで誘い込んでから鎖鎌を横薙ぎに振るう。

 そして、彼女にとって予想だにしない事態が起きた。──ルパンイエローとパトレン3号が、まったく同じタイミングで跳躍してみせたのだ。

 

「な、何ィ!?」

 

 動揺を隠せないナイーヨ。わざと接近を許してしまったことが災いし、彼女は懐に入られてしまった。そうなってはもう、鎖鎌は特段有効性のある武器ではないし、忍法を詠唱する暇さえなくなってしまう。

 

 至近距離からのW銃撃を避けきれず、次第に追い詰められていく。それでもギャングラー特有の頑丈さで持ちこたえていた彼女だったが、すっかり余裕をなくしていたために自身の胸元に突き刺さった"それ"の存在に気づくのが遅れてしまった。

 

「な……何よこれ!?」

「………」

 

 それはパトレン3号の耳から伸びていた。生まれつき耳朶が変形した、イヤホンのようなコード。響香が己の個性を発揮するためのツール。地面や壁に差すことで彼方や別室の微細な音を聞き取ることができるのだが、攻撃にも使える。──こんなふうに。

 

「……あいつに"守る"って言われたときのウチの心音、あんたにも聴かせてやるよ」

 

 ナイーヨには何を言っているのか理解できなかった。ただ次の瞬間、身体で思い知る羽目になった。凄まじい爆音が、プラグを介して体内に流れ込んできたのだ。

 

「うぎゃああああああああ──!!?」

 

 耳をつんざくような悲鳴をあげるナイーヨだったが、その声は彼女自身には聞こえなかった。それすら打ち消すほどの響香の心音。常人が聴けば鼓膜どころかあらゆる耳の器官が破壊し尽くされるほど、それは激しいものだった。

 そのうちに心音が止み、ナイーヨの身体が崩れ落ちる。すかさずルパンイエローが鎖の限界まで動き、背後──金庫のあるほうに回り込んだ。

 

『9・0──4!』

「!?」

 

 我に返ったときにはもう遅い。金庫から、ルパンコレクションが取り上げられていた。

 

「ルパンコレクション、ゲット!」

「あ、か、返しなさいよぉ!」

 

 半ば強引に身体を動かそうとするナイーヨだったが、響香の心音攻撃のダメージから立ち直っていない状態では分が悪すぎた。ルパンイエローの回し蹴りが炸裂し、建物の外に追いやられる。

 悪いことは続く。転がり出たところに、ちょうどルパンレッドとブルー、次いで彼らを追ってきたパトレン1号と2号が駆けつけてしまったのだ。

 

「いたぞ、ギャングラーだ」

「見りゃわかるわ。散々手間かけさせやがって……!」

「……でも、なんかもうやられかけてねえ?」

「ということは、耳郎くんが──」

 

 そのときだった、ふたりの赤を呼ぶ声が同時に響いたのは。

 

「「サイクロン(バイカー)、貸して!」」

 

 突然の呼びかけは、彼らを揃って当惑させるに十分だった。というか、息がぴったり合いすぎだ。

 しかしルパンレッドはイエローがコレクションを回収したのを確認したし、パトレン1号からすればとどめが自分である必要は特にない。結局、彼女らの強い希望に押される形でそれぞれのビークルを投げ渡したのだった。

 

「よし……同時に行くよ、3号さん!」

「……ああ……!」

 

 タイミングを合わせることで、威力を最大限に高める──今この瞬間に限っては、彼女らにはそれができた。電気の照れくさそうな笑顔が、真剣な瞳が……そして、流した血潮が。それを、可能にさせていたのだ。

 

『快盗ブースト!』

『警察ブースト!』

 

「いけ──」

「──バイカー、撃退砲っ!!」

 

 同時に、引き金を引く。

 

「────」

 

 弾丸がぶつかる音、悲鳴、爆発音。それらすべてが、まるで無重力下のようにゼロになる。少なくとも彼女らふたりの耳には、届かなかった。

 

 ただ彼女たちの意識すべてが、上鳴電気のことで占められていたのだった。

 

 

 *

 

 

 

「ふむ、ナイーヨもやられたか……」

 

 ナイーヨの死を悟ったドグラニオ。普段ならゴーシュに命じて巨大化の指示を出すところなのだが、肝心の彼女の姿はどこにもなかった。

 

「ゴーシュめ、どこに行ったんだ!?これではナイーヨを巨大化させられん……!」

「………」

 

 ドグラニオの瞳が剣呑な光を帯びた……かと思いきや、

 

「ま、いないのなら仕方あるまい。今日はこれで終わりだな」

「は!?しかし……」

「ギャングラーは互助会ではないよ、デストラ?」

 

 そう言われてしまえば、デストラには返す言葉もなかった。ゴーシュといたずらに対立してしまったナイーヨに非があるといえば、それまでなのだ。

 

「ふぅ……私に借りを作るんじゃ嫌でしょう、ナイーヨ?」

 

 実際、いずこかへ去った彼女はこんなことをつぶやいていた。

 

 

 *

 

 

 

 ナイーヨが巨大化しなかったことは、間違いなく警察・快盗──とりわけ耳郎響香にとっては僥倖だった。上鳴電気をすぐさま病院へ運ぶことができたのだから。

 

──ただ当然、快盗である彼女に同行は許されない。戦いが終わり次第、早々に離脱を強いられてしまった。

 

「………」

「……何を苛々している、お茶子?」

 

 ジュレに帰ってからずっと落ち着かないお茶子に、流石にしびれを切らした炎司が問いかける。彼女から即応はなかった。が、

 

「あのアホ面のことかよ」

 

 アホ面と呼ぶ男との交流はお茶子以上にあることも手伝って、爆豪勝己には彼女の心情を察することができたらしい。うなずくお茶子を見る目に、少なくとも表向き感情はなかったが。

 

「そのことか。やむをえんだろう、あのまま病院へ同行するなど言わずもがな、突然見舞いに行くのも不自然だ。報道で名前が出るまでは待て」

「わかってる……けどさ」

 

 そう、わかっている。それが快盗という選んだ道なのだ、みじめだとは思わなかった。

 

 

 *

 

 

 

 数時間後。夜を迎えた大学病院のとある一室に、快活な声が響き渡っていた。

 

「いやぁ~死ぬかと思ったよマジで!あーいうときって、痛いっつーか熱ィんだなぁ」

 

 ベッドの上で笑う電気。しかし右腕に巻かれた白い包帯が、彼の言葉を生々しいものとして伝えている。

 

「でもま、心配しないでよセンパイ。痕は残っちゃうけど、後遺症とかは特にないらしいからさ。明日には退院できるって」

「………」

「いや~、にしてもギャングラーマジ怖ぇなぁ……ほんと、死ぬかと思っ──」

 

 最後まで言い切らないうちに、電気の頬を衝撃が襲った。目の前の女性の張り手が飛んできたのだと認識するまでに、さほどの時間はかからない。

 

「……この……」

 

「この、バカっ!!」

 

 それは病院という場所には不適当な大声であったと言わざるをえない。無論、響香もわかってはいた。わかっていても止められなかったのだ。

 

「あんたが命拾いしたのも、腕に後遺症が残んなかったのもっ、全部たまたま!運がよかっただけだ!!ンなこともわかんないで、人助けした気になってんじゃないよ!!」

「………」

 

 何も言わない電気。そんな彼の顔をまともに見られないまま、響香は怒鳴っていた。──ひとりの人間として、本当は感謝を伝えたい。だが警察官として、それをするわけにはいかなかったのだ。

 

 ゆえに電気は、ひとりの人間としての響香に幻滅するだろう。そう思っていた。

 

「……ごめん」

 

 だからそれは、思いもよらぬ謝罪の言葉だった。

 

「センパイにンなこと言わせちまって、反省はしてる」

「上鳴……?」

「でもさ……どんなにバカだなんだって言われても、俺、後悔だけは一生できないと思う」

 

 軽薄で、愚かであったとしても。好きな女を救けるために飛び出していける男でありたいと──その想いだけは、決して曲げることができない。上鳴電気とは、そういう男だった。

 

 

 *

 

 

 

 病院を出た響香を、仲間たちが待っていた。

 

「……飯田、切島。どうしたの?」

「迎えに来たんだ。塚内管理官が報告を待っている」

「ああ……そっか」

「管理官もひでーよなぁ、耳郎も怪我してんのに」

 

 冗談めかして上司を非難する鋭児郎だったが、その本心は別のところにあるようだった。電気のいる病室をちら、と見上げる瞳が、それを如実に物語っている。

 彼の気遣いを悟りながらも、響香はしずかにかぶりを振った。

 

「いいんだよ。ウチらは……警察官なんだから」

 

 いつかギャングラーを殲滅する日まではただ、それだけでいい。名残惜しむこともなく去りゆく響香の背中は、強さと誇りをまとっていた。

 

 

 à suivre……

 

 

 





次回「血風」

「頼りにしてるからね、烈怒頼雄斗!」
「おまえには、何も守れねェんだよ!」

「俺の座っている椅子は、そんなに安くない……!」

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