【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#16 血風 3/3

 

 切島鋭児郎にとって、地中深くを掘削しながら進むというのは初めての経験だった。ドリルに搭載されたシステムで現在位置はわかっているが、まったく変わらない景色に感覚が麻痺しかかる。

 

「しっかりしろってんだ、鋭児郎……!」

 

 視線を上へ向ける。そこには当然コックピットの天井しかないが、気持ちの問題だった。この上で、仲間たちが戦っている。

 

「っし、あとちょっと……!」

 

 己を叱咤し、速度を上げる。刹那、頭上の通気孔が鈍い光を放ったのだが、彼の目には入らない。気づいていれば個性で対処できていたかもしれないが、後の祭りだった。

 次の瞬間にはもう、巨大な針が数本、勢いよく発射されていたのだから。

 

「う゛ぐ……ッ!?」

 

 いずれにせよパトレン1号は、焼けつくような痛みと急速に広がる全身の倦怠感に襲われていた。鋭い針は警察スーツすら突き破り、鋭児郎の生身の背中に突き刺さっていたのだ。──そして、即効性の猛毒を全身に侵食させていく。

 

「ぐ、あ、あぁ……ッ!」

 

 力が抜けていくなかで、彼は警察スーツのパワーにモノを言わせてことごとく針を引き抜いた。確かに刺さったままでいるよりはマシな選択だったが、既に身体には大量の毒素が吸収されてしまっている。

 変身者の体力レベル低下を察知してか、まず頭部装甲が、わずかに後れてスーツ全体が消失する。変身が解け、露になった鋭児郎の頬からは既に血の気が引きはじめていた。

 

 

──パトレン1号の異変は、本部のジム・カーターを通じて塚内管理官にも伝えられていた。

 

『切島くんっ、応答しろ!何があった!?』

「ッ、管理、官……」

 

 塚内の切羽詰まった声が、薄れゆく意識をかろうじて踏みとどまらせた。気力を振り絞り、問いに応じる。尤も「針……毒が……」などと、断片的に伝えるのが精一杯だったが。

 それでも要点は伝わった。唸るような声。やはり罠だったのだと彼は後悔しているのだろう、自分をドリルに乗せて送り出したことを。その点については申し訳なく思ったが、もはや後の祭りだった。

 

『……まだ動けるか?』

「っス……なんとか……」

『わかった。意識があるうちに地上へ出るんだ、すぐに誰か救助に向かわせる』

「………」

『……切島くん?』

 

 塚内が訝しげな声を発する。喋れなくなったわけではない、まだその余力は残っている。

 

「……すんません、管理官……。俺、約束……破ります……っ」

『な……!?』

 

 約束──異変があったら即座に引き返すこと。それを破るということはつまり、戻らないと言っているに等しい。

 

──地上まで身体がもつかわからない。一方で、目的のオブジェクトはもう目と鼻の先にある。鋭児郎も考え無しなわけではなかった。

 

 だとしても、塚内に容認できるわけがない。終いには命令だとまで言い切って呼び戻すのだが、もはや鋭児郎の耳には届いていなかった。

 

(あいつらを、危険に晒すくらいなら……俺が……!)

 

 鋭児郎の脳裏に、過去のとある記憶が甦る。それだけが今の彼を支えていた。その記憶に意識を呑み込まれたときが、彼の最期(おわり)でもあるのだが。

 

 

 *

 

 

 

 鋭児郎が敵の罠にかかった──オドード・マキシモフとぶつかる2号と3号のもとにも、その報せが入った。

 

「なんだって……!?」

「ッ、切島……!」

 

 焦燥に駆られるふたりを他所に、「モッフッフッフ」と含み笑いを漏らすオドード。事態は彼らの計画通りに推移していたのだ。

 

「馬鹿な奴らだ。わざわざ金庫のナカ空にしてまで、コレクションくれてやったんだってことにも気づかねえで!」

「何……!」

「まさか、もう一体ギャングラーが……!?」

 

 そう──オドードが自らのコレクションを手放して計画に供した一方で、トゲーノはコレクションの力を利用した。身体を小さくしてドリルのコックピットに入り込み、毒針を仕掛けておいたのだ。

 

 これでもうパトレン1号は仕留めたも同然──そしてここにいる2号と3号、ヒーローども。こうして自分とポーダマンに引きつけられている間に、彼らも暗殺者トゲーノ・エイブスの凶弾によって斃れることになるのだ。

 

「モッフッフッフ──」

 

「──さぁ撃て……トゲーノぉぉぉ!!」

「!?」

 

 その叫びに、2号たちもまたはっとした。罠にかけられたのは、自分たちも?

 

 しかし結果的に、その危機感は杞憂に終わった。

 

「ぐわあああああっ!?」

 

 悲鳴とともに、戦場に吹っ飛ばされてきた異形。その姿を目の当たりにして、オドードは思わず顎が外れんばかりに驚愕していた。

 

「と、トゲーノぉ!?おまえ何やって……」

「──予告する、」

「!?」

 

 トゲーノを追い、戦場に現れる闖入者たち。

 

「本日二度目なんで、以下略」

「か、快盗……!?」

 

 快盗──ルパンレンジャー。

 

「ハッ、コイツらの計画ブチ壊しにしてやったわ」

「感謝してよね、お巡りさん!」

「ッ、貴様ら……!」

 

 悔しさを滲ませる一方で、2号は真剣に悩み始めた。「ここは礼を言っておくべきなのか……?」と、オドードとの戦闘が一時停止していることも相俟ってブツブツとつぶやいている。自分たちが結果的に助かったことは事実なのだから。

 一方でオドードは、相棒の不甲斐なさに憤懣やるかたない様子だった。

 

「おいおまえッ、何やってんだ!コレクションの能力使えば逃げられたろうが!」

 

 もちろん、トゲーノだってそうしようとはした。狙撃手としては高い能力を誇る一方で、白兵戦は不得手なのだ、彼は。

 しかし彼のもつルパンコレクション"スモール・ワールド~Le petit monde~"について把握しているルパンレンジャーは、取り囲んで攻撃を繰り返すことによって発動の暇を与えなかったのだ。そして、

 

『9・0・9──!』

 

「あとはてめェのコレクションだけだ……白モフ野郎!」

 

 トゲーノから奪ったコレクションをちらつかせつつ、宣言するルパンレッド。彼とイエローがオドードへ向かっていき、立ち上がろうとするトゲーノをブルーが地面に縫いつけた。

 

「がッ!て、てめェ……!」

「貴様はまだ寝ていろ。あとで処理してやる」

 

 

「おらぁッ、てめェもコレクションよこせやぁぁ!!」

「モフゥゥッ!」

 

 慌てて寺の堂内に逃げ込んでいくオドード。追う快盗、それをさらに追う警察。しかし飛び込んだところに、オドードの姿はなかった。

 

「チッ、かくれんぼかよ。とことんしょーもねえコンビだな」

「ッ、待て快盗!」

「ア゛ァ、邪魔すんなや救けてやったろーが!」

「そういう問題では……いやそうではなく!」

「しっ!」3号がふたりを止める。「ウチの個性なら、音で簡単に捜せる」

「おー、流石……」

 

 しかし、彼女が個性を使うより敵が先んじた。

 

『そんなことしても無駄だァ!』

「!?」

 

 その声は頭上から響いた。当然上を見る四人だが、そこにオドードが張りついたりはしていない。

 

『どこ見てる?こっちだこっち!』

『そっちじゃねえよ、こっちだ!』

『目ぇついてんのか?耳は飾りかァ!?』

『モッフッフッフ!』

 

 四方八方から響く嘲笑。快盗たちにとっては寝耳に水の事態だったが、警察にとってはそうでなかった。

 

「耳郎くん、これは昨日の……」

「……ああ、やっぱり奴の能力だったんだ」

 

 自身の声をあちこちから響かせて敵を撹乱する能力。しかし、何かトリックがあるはずだ。

 

「……声の出処を捜す!」

 

 今度こそ、響香は己の個性を発動させた。プラグを床に接地し、音の振動を辿っていく。その間、無防備になる彼女を2号──そしてルパンイエローと、彼女に促されたレッドもが護衛する形となる。快盗たちにとっても、敵の策を破るのは都合が良いに決まっているのだ。

 

──そして、

 

「そこだ!」

 

 一見何もない空間めがけて、彼女は引き金を引いた。発射された光弾は途中で何かにぶつかったかのようにはじけ、荒れ果てた堂内に美しい光の粒がちりばめられる。

 

「あ?……ンだ、今の」

「気になるなら見てきなよ、別に背中を撃ったりはしないからさ」

「けっ、どーだか」

 

 口ではそう毒づきながら、レッドはイエローとともに躊躇なく光の粒が落ちたあたりに向かった。そしてしゃがみ込み、埃っぽい床を眺める。

 

「ンだ……これ?」

「……毛玉?」

 

 白い──オドードの身体を包むそれと、同じもののように見えた。

 

「なるほど……自身の体毛を媒介として声を発していたわけか!」

 

(しまった、からくりがバレた……!)

 

 兄は亡く、特殊能力も看破された今、オドードは凡庸なギャングラーでしかない。トゲーノもあんな状況では、とても勝利のビジョンは見えなかった。

 

(ここはいったん逃げて、仕切り直しを……)

 

 幸い本体である自身はまだ見つかっていないからと、こっそり裏から逃げようとする。しかし後ずさった瞬間、バキッという小気味よい音とともに身体が沈んだ。

 

「モフゥッ!?な、なん──」

 

 下を見る。──床が抜けて、片足が嵌まっている。老朽化のうえ手入れもされていないから、オドードの重みに耐えられなかったのだろう。そんな、単純なことだ。

 戦いというのは、単純なことが命取りになるものだ。

 

「そこかァ、白モフヤロォ……」

「モフ……!?」

 

「──死ィねぇぇぇぇッ!!」

 

 次の瞬間、壁を突き破る形でオドードは外に追い出されていた。地面に転がったその身体を踏みつけにして、ルパンレッドが腹部の金庫にダイヤルファイターを押しつける。

 

『4・0・4──!』

「ルパンコレクション、貰っ……あ?」

 

 入っていない、何も。

 

「も、モッフッフッフ……残念だったな!オレのコレクションはもう手放しちまったよぉ!」

「……あァ、そーかよ」

 

 『サイクロン!』と、VSチェンジャーから無機質な機械音声が響く。

 

「なら、マジで死ねや」

 

 ルパンレッドの宣告は、それ以上に冷たかった。

 

 

 *

 

 

 

 プロヒーローとポーダマンの戦闘も、既に佳境に入ろうとしていた。

 

「よ~しっ、これで十体目!」

 

 酸で昏倒させたポーダマンを見下ろしつつ、揚々と声をあげる三奈。同僚の先輩ヒーローから「やるじゃないかpinky!」と声がかかる。それを嬉しく思う反面、ギャングラーがいかに恐ろしい相手かを再認識してもいた。

 

(雑魚戦闘員でも、こんなに強いなんて……)

 

 快盗やパトレンジャーは事もなげに倒しているが、自分たちでは一体一体の処理にかなり手間取ってしまった。若干だが負傷者も出ている。戦闘員でこれなのだから、あの異形の者たちはどれほど強力なのだろう。──切島は、そんな奴らと戦っている。

 

 その事実に思い至った三奈の視線の先に、異変が起こった。奇怪な空間の歪みが、拡がっていくのだ。

 

「……何、あれ?」

 

──そして、災禍が形をもって姿を現した。

 

「あら?せっかく来てあげたっていうのに、もう敗色濃厚みたいね。オドードもやられちゃってるし」

「トゲーノめ……調子に乗るからだ」

 

 オドードと手を組んだとはいえ、華々しい合戦をやろうだなんて考えがそもそもの間違いだったのだ。パトレンジャーの首を獲ろうというなら平時を狙って、なんの前触れもなく狙撃すればそれでよかった。要するに、彼は自信過剰だった──そう、デストラ・マッジョは思った。

 

 一方、屋敷にいるときと変わらず安楽椅子に身を預けている異形の老人は。

 

「……やれやれ」

 

 呆れたような口調の一方で、その碧い瞳が鋭い光を放ち──

 

 

 残すところはトゲーノの始末のみとなり、快盗には既に勝利ムードが漂っていた。ただ、パトレンジャーには仲間の危機という焦燥の原因がまだ残っていたが。

 

 そんな彼らを、不意に澄んだ空気が包んだ。気温が何℃も低下したかのような感覚。そしてあちこちに、きらきらと光る結晶が降り注ぐ。

 

「ッ、なんだ……?」

 

 若者たちが怪訝に思う一方で、トゲーノを文字通り足蹴にしていたルパンブルーはこれまでにないほどの怖気を感じていた。デストラと遭遇したときのそれより、遥かに強烈な──

 

「レッド、イエロー!逃げるぞ!」

「ア゛!?」

「え、何──」

「いいから来いッ、急げ!!」

 

 いつにない剣幕に、ふたりは是非もなく従った。元トップヒーローの威容は、何だかんだと少年たちにとっては重みがあるもの。

 そしてベテランの有無が、二大戦隊の命運を分けた。

 

──爆発。光の粒が丸ノコのような形を形成して地面に突き刺さった瞬間、爆発を起こしたのだ。それもひとつやふたつではない。廃寺を、一瞬にして紅蓮の劫火が覆い尽くした。

 

「きゃあああああ──」

 

 三奈たちヒーローもまた……例外ではなかった。

 

 

 *

 

 

 

 トゲーノ・エイブスもまた、爆発に巻き込まれて重傷を負っていた。ギャングラーゆえの強靭な肉体のおかげで、命に別状はなかったが。

 

 しかし彼にとって、本当の地獄はこれからだった。

 

「グゥ……な、何が起きて……」

「──トゲーノ・エイブス!」

「!?」

 

 敵のそれとは異なる老人の声に、トゲーノは反射的に身を震わせた。恐怖に駆られながら、恐る恐る視線を上げる。

 

「ぼ、ボス……!」

 

──こちらを冷たく見下ろす、ドグラニオ・ヤーブンの姿。

 

「……これはどういうことだ?他の奴らとひと味違うところを見せてくれるんじゃなかったのか?」

「ち、違うんですボス!こんなはずじゃ……そうだ、オドードのヤツが使えないから!」

「黙れ」

 

 氷河が砕けるような声だった。

 

「俺の座っている椅子は、そんなに安くない……!」

「……!」

 

 立ち上がったドグラニオは、纏う鎖を鳴らしながら踵を返した。「帰るぞ」と側近に告げて姿を消す。デストラは即座に従ったが、もうひとり──ゴーシュ・ル・メドゥはまだひと仕事行うつもりでいた。

 

「可哀想に、トゲーノの言う通り動いてあげたのにね。──私の可愛いお宝さん、そんなオドードを元気にしてあげて……」

 

 ひしゃげた金庫めがけて、ルパンコレクションのエネルギーが注ぎ込まれる。ひとりでに天高く浮かび上がった金庫は修復され、さらに燃え尽きたはずのオドードの肉体までもを再構成したのだ。

 

「モフ──ーッ!!」

「……ハァ、これでボスの機嫌が直るといいけど」

 

 ゴーシュもまた姿を消し、巨大オドードは死屍累々には目もくれずに快盗の姿を捜した。計画が水泡に帰した今、彼の頭には復讐しかなかった。

 

「出てこい快盗ゥ!!今度はこっちが踏み潰す番だァァ!!」

「……チッ、るせーなアイツ」

 

 森に身を隠しつつ、「俺らが何したっつーんだよ」と毒づくルパンレッド。ブルーの咄嗟の判断に従ったおかげで、彼らは辛うじて難を逃れることができた。しれでも快盗スーツのあちこちが焼け焦げている状態で、もう戦闘継続は困難なのだが。

 

「でも、あのまま放っておくわけには……」

「……警察が何とかするだろう、当人らに自覚があるならな」

「そんな……」

 

 逃げ遅れたパトレンジャーの面々がどうなっているか、炎司にだって想像はつくはずだ。それなのに──

 

 あの場にいなかった者の存在を、彼らは忘れていた。

 

「モフッ!?」

 

 揺れる大地。当然予期していなかった巨大オドードはバランスを崩しかけるが、次の瞬間、さらなる事態が彼に降りかかった。

 地中から飛び出してきた長大な脚が、胴体を直撃したのだ。

 

「モフ~~ッ!!?」

 

 吹っ飛ばされるオドード。同時にサイレンを鳴らしながら飛び出してくる、クレーン車のような巨大なマシン。

 

「あれは、VSビークル……!?」

「……乗ってンのは、クソ髪か?」

 

 そう──VSビークルを操れるのはもう、彼をおいて他にはいない。

 

「へへッ……あきらめねェで、正解、だったぜ……!」

 

 コックピットにて、切島鋭児郎は凄絶な笑みを浮かべていた。目の下には濃い隈が現れ、時折焼けつくような痛みが全身を襲う。毒素がいつ身体機能を破壊し尽くすかもわからない状況。

 

 それでも鋭児郎は、地中に埋まっていたものの正体であるこのトリガーマシンクレーンに望みをかけていた。本来ドリルとはひとつのマシンであり、合体することによって本来のパワーが発揮できる。これなら、たとえギャングラーが相手でも。

 

「あ、兄貴の形見を……!返せ──!」

 

 怒りの矛先を鋭児郎に向けるオドード。棍棒を振り回して襲いかかってくるのだが、力押しの勝負なら望むところだった。

 

「お、らぁッ!」

 

 クレーンの脚を一気に伸ばし、攻撃を仕掛ける。それをまともに胴体に受け、苦悶の声を漏らしながらも、オドードは一歩も退こうとはしない。

 

「コレクションを取り戻し、兄貴の仇をとってやるゥゥ……!」

「……ッ、」

 

 凄まじい執念に一瞬たじろぎかかるが、鋭児郎には自負があった。仇討ちなどよりもずっと重いものを背負っているのだという自負が。

 

「俺は絶ッ対、負けらんねえ……!」

 

 そして彼は、勝負に出た。

 クレーンのコアから飛び出すドリル。その鋭い先端がオドードに直撃し、これまでとは次元の異なるダメージを受けた彼はついに後退した。打撃がダメなら、刺突。烈怒頼雄斗としての戦い方にも合致している。

 

「がッ……ゲホッ、ゴホッ!!」

 

 突然何かが込み上げてきて、鋭児郎は激しい咳を繰り返した。押さえた手に、濡れた感触──血。

 

「ッ、長くはもたねえよな……もう……」

 

 ならば一気に、決着をつける!

 

 クレーンの先端のフックでオドードの襟首を掴み、持ち上げていく。モフモフの毛皮が彼に災いしたのだ。

 

「モフッ、は、はなせぇえええ~~ッ!?」

「………」

 

「──うぉおおおおおおおッ!!」

 

 最後の力を振り絞って、鋭児郎は雄叫びをあげた。吶喊するドリル。宙吊りにされたオドードの胴体ど真ん中に──突き刺さる。

 

 そしてその肉を、内臓を突き破り、彼の身体に風穴を開けたのだ。

 

「モ、モフ……あ、兄貴ぃ……ッ!」

「……わりィ、な」

 

 誰が相手かは知らないが、仇討ちを遂げさせてやれなくて。

 そしてオドードは、今度こそ跡形もなく爆散した。機体が地面に落着し、揺さぶられた鋭児郎はそのままシートからずり落ちそうになった。

 

「ッ、ぐ……」

 

 だが彼は、かすかな気力でそれに抗った。仲間たちと合流しなければ。ギャングラーは死んだのだからもう戦いは終わっているだろうが、彼らの状況は何もわからずにいるのだから。とりわけ、生身で参戦したプロヒーローの面々は。

 

 

──そう、鋭児郎は知らなかったのだ。戦場で、何が起きたのか。

 

「え……?」

 

 地上に降りた鋭児郎に、迎えてくれる仲間はひとりとしていなかった。

 炎の残滓が残る荒野に倒れ伏す、人、人、人。皆が深く傷つき、苦痛に呻いている。

 

「飯田、耳郎……芦戸……?」

 

 何故……何故、こんなことに。

 その疑問に答える者はなく、ただ流れ出した誰かの血が、鋭児郎の足を浸した。

 

「あ……あ……」

 

 それは絶望となって、鋭児郎の身体を這い上がってくる。

 

「あ……うぁ、ああ──」

 

 

「ああ……あ、ああああああ──ッ!!」

 

 慟哭は、むなしくも虚空へと消えていく。そして鋭児郎の意識もまた、闇へと閉ざされていった。

 

 

 à suivre……

 

 

 





次回「烈怒頼雄斗」

「今度こそ俺は、守れるヒーローに……!」

「「「完成、パトカイザーストロング!!」」」


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