「覚悟なんざしてんだよ、とっくにな」
ルパンレッドのVSマグナムから放たれた弾丸が、ふたりの警察官に容赦なく喰らいつこうとしている──
「……ッ、」
天哉も響香も、死を覚悟していた。ボーダマンを一発で昏倒させる弾丸に身を貫かれれば、その運命からは逃げられない。
(……ここまでか)
固く目を瞑る天哉。それから、永遠にも感じる一瞬が過ぎ。
「……?」
予見していた衝撃と痛みは、まったく降りかかってこない。響香もまた同様で。
恐る恐る目を開けたふたり。──眼前には、予想だにしていなかった光景があった。
「は……!?」
「きみは……!?」
背中。この場には存在していなかったはずの青年のそれが、自分たちを庇うように広げられている──
「ッ、ぐ、……ってェ、」
VSチェンジャーの光弾の直撃を受けてなお、彼は歯を食いしばってその場に立ち続けていた。すべては彼の"硬化"の、全力を尽くした結果だった。皮膚を鋼のように硬質化することであらゆる攻撃を弾き、同時にその打撃力を大きく強化する──
「!、アンタは……」
ルパンレッド──勝己は、その姿に見覚えがあった。それも、たった数時間前の記憶。
「……ンで、こんな……」
「!」
青年──切島鋭児郎の口が、不意に開かれる。
そして、
「なんでこんなことすんだ……!オメーら、ヒーローじゃねえのかよ!?」
悲鳴のような叫びだった。信じていたのだ、彼は。無資格ながら幾多のギャングラーと戦い、打ち倒してきたルパンレンジャー。他に目的があるにせよ、彼らとてかの怪物たちに苦しむ人々を救う意志はあるのだと考えていたのだ。ヴィジランテであっても、その志はヒーローなのだと。
それなのに、こうして同じ人間に対してまで、平気で発砲する。以前、彼らに救われたことで感じていた恩義が、音をたてて崩れ去っていく。
「………」
銃口こそ向けたまま……ルパンレッドは、沈黙していた。仮面に隠れたその表情を、誰も知ることはない。
──ガラット・ナーゴからルパンコレクションを奪おうと試みていたブルーとイエローにも、鋭児郎の悲壮な声はしかと届いていた。
「……ッ、」
「……ヒーロー……」
その称号に、ふたりもまた思うところがあった。なぜなら、彼らもまた──
「なんだか知らねえが、テメェらまとめて闇の炎に抱かれて消えろォッ!!」
ルパンレンジャーの動きがわずかに鈍ったのを好機と捉え、ガラットは乾坤一擲に打って出た。ルパンコレクション、その最大限のパワーを発揮した劫火を、辺り一面にばらまいたのだ。
「くっ……!」
ルパンレンジャーの三人は咄嗟に身を翻して巻き添えを避けたが、国際警察のふたりと鋭児郎は反応が遅れた。
さらに悪いことに、彼らのそばにはパトカーがあった。直撃した火炎はガソリンに反応し、爆発を起こす。
「──!」
「危ねえッ!!」
鋭児郎が倒れたふたりを庇うように覆いかぶさる。灼熱がその背に襲いかかり、彼は苦痛にうめいた。
「ぐ、ぁ……ッ」
「!、きみ、そんな身体で……!」
呆気にとられるふたり。鋭児郎は表情を歪めながら、八重歯を剥き出しにして笑ってみせた。
「一応、ヒーローなんで……駆け出しっスけど……」
「!、もしかして……烈怒頼雄斗?」
「うっす!」
今朝の少年はともかく、一応は知ってもらえているようだ。こんな状況下ではあるが、鋭児郎はわずかばかり喜びを噛みしめた。
「……だとしても、すまない。巻き添えにしてしまって……」
「ンなのいいっスけど……この火、なんとかしねえと……ッ」
パトカーへの引火により、彼らは炎の壁に閉じ込められたも同然の状況にある。このままでは三人とも焼死を免れない。ルパンレンジャーのように強化服でも纏っていればまだしも──
「……そうだ!」
はっとした響香は、即座に行動に移った。アタッシュケースのロックを外し、開きにかかる。火炎に熱された影響で手を火傷してしまったが、そんなことは気にも留めなかった。
「ッ、これなら……!」
ケースから姿を現したもの──ルパンレンジャーが所持しているのとまったく同じVSチェンジャーと、形態の異なるVSビークル。
「耳郎くん、それをどうする気だ……!?」
「決まってるだろ。使うんだ、ウチら三人で!」
「!」
天哉は目を剥いたが、正直なところ彼の頭にもその考えは浮かんでいた。
だが、それを口にすることに躊躇があった。自分たちの受けている命令は日本支部までの運搬であって、このような事態に際して使用許可まで受けているわけではない。百歩譲って自分たちはよしとして、国際警察の一員ではないこの赤髪の青年にまで──
同期ゆえにその心情を察したのだろう、響香は声を張り上げた。
「迷ってる場合か、三人とも助かるにはそれしかない!……それともあんた、ウチらを命がけで庇ってくれたこの子、見捨てる気?」
「……!」
見捨てる──ことばにすれば容易いその単語が、鋭いナイフのように天哉の胸に突き刺さる。自分たちよりも若年でありながら、まっすぐにヒーローの本懐を果たした青年。彼を、こんなところでみすみす死なせてはならない。
何より天哉もまた、かつてはヒーローを志す身だった。すべての規則は、人々を守るためにある。ならば──
「……きみの言うとおりだ!俺はやる……やるぞ!!」
一度決断した天哉の行動は素早かった。響香よりも先んじてVSチェンジャー、そして緑色をしたひときわ重武装のパトカー型VSビークルを掴みとる。
その姿を見て、響香はフッと笑った。すぐに表情を引き締め、同じくVSチェンジャー……そして少し迷ったあと、ピンクのマシンを手にした。
「さあ、アンタも!」
「へ!?い、いやでも……俺まで使ったら流石にまずくねえか!?」
「初回起動には規定人数の三人が必要って仕様になってんの!ああいう連中に奪われた場合のために……」
もっとも快盗も三人いるわけだから、あくまでもその場しのぎでしかないだろうが。
「そりゃ必要なら命だって懸けるよ、だけど生き残る方法があるならやるしかないだろ!さあ、早く!」
「……ッ、」
「──ウチらを救けてよ、ヒーロー!!」
「──!」
"救けて"──ヒーローは何よりそのひと言に弱い。響香の目論見はこと鋭児郎に対しては完全に的中した。自分が躊躇していればここで三人とも死に、この武器はギャングラーかルパンレンジャーに奪われる。ならば──
残るVSチェンジャー、そして真紅のビークルを手にして、鋭児郎は勢いよく立ち上がった。天哉も響香もそれに続く。
炎はいよいよその勢いを増し、空気さえ灼いていく。
「ゲホ、ゲホ……ッ!」
「ッ、耳郎くん、しっかり……!」
「わかってる……!──さあ、行くよ!」
「「警察チェンジ!!」」
「あ……け、警察チェンジッ!!」
『1号!』
『2号!』
『3号!』
『──パトライズ!警察チェンジ!』
VSビークル──"トリガーマシン"を合体させたVSチェンジャーの引き金を、決意を込めて引く三人──刹那、
燃えさかるパトカーが断末魔の爆発を起こし、彼らは劫火に呑み込まれた。
「!、連中……くたばったか」
ガラットとの戦闘を継続しつつ、ルパンレッドは一瞬爆発のほうを見遣った。ルパンコレクションはこれしきのことで消滅はしない、だが──
「余所見してんじゃねえ!!」
「ッ、しとらんわボケェッ!!」
一閃する鋭い爪、対するルパンソード。激突の衝撃で、互いの身体が後方へ弾き飛ばされる。
「レッド!」
「チッ、しぶてぇわコイツ」
「貴様が勝手をするからだ。それにしても、彼らは……──!」
「おい、見ろ!」
「あ?──!」
ルパンブルーが指差した先……渦を巻く劫火。中に閉じ込められた生命など燃え尽きていると思われたところに、三つの人影が浮かび上がったのだ。
そして、
「うおおおおお──ッ!!」
雄叫びとともに、
「!!」
現れた者たち。つい先ほどまでとはまったく異なる姿でありながら、同一人物であることは考えるまでもなかった。
桃、緑──そして赤。ルパンレンジャーに類似しているようで、まったく異なる姿をした戦士たち。
「よしっ、変身できた……!」
「おぉ……」
桃のパトレン3号──響香と、緑の2号──天哉が感嘆する一方で、
「うわっ、な、なんだよこれぇ……!?」
赤のパトレン1号に変身を遂げた鋭児郎は、しきりに強化服やメットに手を触れて当惑を露にしている。玩具のようなパトカー型のアイテムを銃に装填して引き金を引いただけで、このような変身を遂げてしまうなんて。──もしかして、快盗も?
「こ、国際警察って一体……」
「今さら尻込みしない!──さあ、行くよ!」
「ギャングラーを討ち、快盗を捕らえるんだ。協力してくれ!」
新装備を使用した以上は、この場で脅威を取り除かなければ。強い意志で戦線に打って出る2号と3号。まだ状況を呑み込みきれていない1号は、やるしかないのだと自分に言い聞かせてあとを追うほかない。
一方で彼らを迎え撃つ立場となったルパンレンジャーは、構えながらも驚きを隠せなかった。
「へ、変身しとるし……!」
「奴らもVSチェンジャーを……仕方あるまい、奪うぞ」
この瞬間、混戦の開始が決定付けられた。
「うおおおおッ、おとなしくお縄につけ快盗め──ッ!!」
「ふん、粋がるなよ若造が!」
「さっきはよくもやってくれたな……いっぺんぶん殴らせろ!」
「ちょっ、あれはレッドが勝手に……あ~もうッ!!」
「すげえ、快盗と対等に……じゃあ俺も──ぐあっ!?」
いきなり衝撃を受け、火花とともに吹っ飛ばされる1号。仕掛人は──言うまでもない、同じ赤の戦士だった。
「誰の許可得てコレクション使ってやがんだ、三流ヒーローが!!」
「ッ!」
その罵声を聞いた瞬間、彼はこの快盗の冷酷な行為を思い出していた。心が煮え滾り、当惑は憤怒に塗り込められる。
「──ッ、アッタマ来た!!」
地面を殴って立ち上がり、猛然と立ち向かっていく。猪突猛進のひと言、ルパンレッドは当然のごとく連続射撃でその勢いを削ごうとする。
「ンなモンに……負けるかよぉッ!!」
ぶつかる光弾に耐えるべく、鋭児郎は己の個性を発動させた。強化スーツに覆われた彼自身の肉体が、鋼にも劣らぬほど硬質化する。
生身であってもVSチェンジャーの光弾を受け止めるほどの防御力、"警察チェンジ"を遂げたいまの彼にはあらゆる攻撃が通用しない。
「チッ、」
銃撃が通用しないとみるや、レッドは舌打ちとともにルパンソードを振りかざした。彼もまた、一歩も退くつもりはなかったのだ。
「とっととそれ、よこせや……!」
「ッ、ンでそんなに……!──けど、渡すわけにはいかねえッ!!」
激突する快盗と警察──この状況下において、置き去りにされている人間……もといギャングラーが約一名いた。他でもない、ガラット・ナーゴである。
「け、警察まで変身しやがった……。チクショー、あのコレクション奪えりゃ俺も……」
未練のあまり手を伸ばす仕草を見せるガラットだったが……そこに運悪くも流れ弾が飛んできたことで、彼の心は折れた。
「痛でッ!?──くそう、一時退却ゥ!!」
「!」
わざわざ大声で叫んで逃走を開始したために、快盗も警察もガラットの存在を思い返した。
「ッ、ギャングラーが……!」
「くそ──」
「「──逃がさねぇッ!!」」
最も近くにいたルパンレッドとパトレン1号が、同時にトリガーを引いた。
「ぐわぁッ!?」
混ざりあったふたつの光弾は見事ガラットの背を直撃し、彼を転ばせることに成功した。
「っし──ぐあっ!?」
「手ぇ出すんじゃねえ!!」
「~~ッ、この野郎っ!!」
──ただ、いまの彼らに大同団結を求めるのは酷な話だった。ルパンレッドの過激な行動が主な要因ではあるが、ブルーとイエローも2号・3号に対して牽制を繰り返しているし、2号らもそれに対して応戦している。ガラットを利するだけとは、わかっていても……。
ただ、だからといってガラットもただちに逃げられるわけではなかった。少しでも距離をとろうとすれば、それに気づいた快盗ないし警察から銃弾が飛んでくる。
「どうしろってんだよぉ……!」
このまま戦場にとどまるしかないのか、それとも──
そのときだった。
不意に、季節に合わない冷たい風が吹きつける。同時に、埠頭を覆う冷気。戦いの熱に冒されていた六人も、この異常事態に気づいた。
それはただの前兆に過ぎなかった。
「──ッ!?」
快盗も警察も区別なく、猛吹雪が襲いかかる。大粒の氷結によって、一寸先の視界さえも塞がれてしまう。
戸惑うのはガラットも同じだった。明らかに自然現象ではない出来事は、自身のもつルパンコレクションの固有能力とは明らかに異なるものだ。
「な、なんだこりゃ──うおっ!?」
彼が何事かにうめき声をあげた直後、吹雪が止んだ。冷気は失せ、もとの春の陽気が還ってくる。
「な、なんだったんだ今のは……?」
「!、ギャングラーがいない……!」
ガラットの姿が、まるで最初からそこに存在していなかったかのように消え失せていた。吹雪に紛れて遁走したにせよ、あまりに素早すぎる。
当惑ばかりのパトレンジャーに対して、ルパンレンジャーは違った。──とりわけ、勝己は。
彼の脳裏に、過去の記憶がフラッシュバックする。路地裏、氷結。その中に閉じ込められた、詰襟姿の少年。そして──
「~~ッ!!」
猛然と駆け出そうとするルパンレッド。仲間も警察戦隊も一顧だにすらせず。
しかしそのとき、彼の行く先からサイレン音が響いてきた。
「!、援軍か!」
「ッ、増援か……!」
2号とブルーの声が重なる。国際警察の応援が来る……ガラットの逃亡も許したいま、ルパンレンジャーにとって戦闘の継続は好ましいものではなかった。
「イエロー、撤退だ。レッドを連れ戻すぞ」
「ラジャー!──はっ!」
パトレンジャーの足下めがけて光弾を撃ち込んで動きを止めると、ふたりは俊敏に跳躍した。パトカーが迫るのにも構わず走り続けるレッドのもとに降り立ち、その腕を掴む。
「ッ、放せクソが!!さっきのアレは──」
「わかっている!だがいま追ったところで警察が邪魔だ、ここは仕切り直すべきだ」
「べきだ!ほら、行くよ!」
「チィッ……」
そもそも追ったところで、追いつける可能性はないに等しい。頭の冷静な部分では理解していたのか、勝己はそれ以上抵抗しなかった。舌打ちしつつ──VSチェンジャーを、頭上めがけて構える。
『Get Set……飛べ!Ready……Go!!』
そして、ダイヤルファイターを撃ち出す。玩具のようだったそれが一瞬のうちに巨大化し本物の銀翼へと変わる。ブルー、イエローもまたあとに続いた。
「ふっ!」
今度は三人揃って跳躍し、それぞれの愛機に乗り込む。空を制した彼らを釘付けにする術は、何ものも持ってはいなかった。
──いや、
「もしや、これを使えば……」
己のVSチェンジャーを見下ろす2号。快盗たちのそれと酷似したビークル、同じようにすればあるいは──
しかし実際に行動に移ろうとしたところで、3号の手が彼を押しとどめた。
「……無理っぽいよ、いまは」
「なにっ?」
3号──響香は既に悟っていた。駆けつけた応援。戦闘が続けば彼らは無論頼もしい友軍であっただろうが、終結してしまった以上は必ずしもそうではないのだ。
自分たちはともかく、巻き込んでしまった若きルーキーヒーローをどのようにして守るか……早くも、頭の痛い問題だった。