切島鋭児郎は逢魔ヶ時の路地に立ち尽くしていた。ありふれた雑居ビルが立ち並び、人々が往来する。特筆すべき点など何もない、ただ降り注ぐ夕陽の橙が唯一郷愁めいた彩りを与えている。
その光景に、彼は見覚えがあった。
(なんで俺、こんなところに……?)
──そこは、鋭児郎が中学生までを過ごした故郷の街だった。たかだか三年と少ししか経過していないから当然かもしれないが、あの頃から時が止まったような風景。しかし懐かしさよりも、じとりと冷たい汗がにじむような、焦燥めいた気持ちが身体を支配している。
呆然と周囲を見渡していると、不穏な喧騒が耳に届いた。ヒーローとしての性で、自然とそこに足が向く。
そして──目の当たりにしてしまった。女子中学生ふたりが、一般的な成人のおよそ三倍もの背丈をもつ異形型の男に追い詰められているのを。
(あれは……!?)
その光景もまた、鋭児郎にとっては既視感のあるものだった。自身が中学生のときに遭遇したのと、まったく同じ状況。あの少女たちも、男も。
「……ッ!」
救けなければ、少女たちを。考えるまでもなく駆け出そうとするのに、足が縫いつけられたようにその場から動かない。
思わず足下を見下ろすと、なんの変哲もないコンクリートの地面に己の影が映っていた。夕陽を背に、それは長く伸びている。普段意識することはないけれど、不自然ではない現象。
しかし──真っ黒なシルエットの頭部に一対の赤目が現れて、鋭児郎はは、と息を詰めた。
「おめェが出ていって、何になる?」
その声は、他でもない鋭児郎自身の声だった。今より少しばかり高い声でありながら、まるでものを知った大人のように冷めた口調で問いかけてくる。
ああこれは夢なのだと、鋭児郎は悟った。目の前の光景も現実のものではなく、過去の記憶がフラッシュバックしたものにすぎないのだと。
ならばなおのこと、飛び出さないわけにはいかない。足を縛りつける影に、懸命に抗う。夢幻の中にあっては、無意味な行動だったのだが。
「何になる……だと?──守るに決まってんだろっ、俺ぁヒーローなんだぞ!?」
おめェとは違うと、自分の中の子供の部分が傷つくのも構わず鋭児郎は叫んだ。力を得た、勇敢さだって手に入れた。そうして今では、あのギャングラーにだって立ち向かうことができている。
だが少年の鋭児郎は、それを真っ向からせせら笑うのだ。
「守れるのか、本当に?さっき見たモン、もう忘れちまったのか?」
「……ッ!」
毒に侵された身体を押して戦って──その結果が、あのざまだ。
「だったら最初っから、何もしないほうがマシなんじゃねえの?」
最初からあきらめてしまえばもう、あんな烈しい絶望に支配されることはなくなる。待っているのは本当にこれでいいのかと自問自答し続けるもどかしい焦燥の日々、しかし大多数の人間はそうやって生きているのだ。切島鋭児郎も、そんな凡人のひとりにすぎないのだというだけ。
「もう、いいだろ。おめェはよく頑張ったよ……烈怒頼雄斗」
「……!」
その瞬間、鋭児郎は目を見開いていた。烈怒頼雄斗──憧れのヒーロー"
「……俺はヒーローだから、人々を守る……」
「……!」
眼下の"影"が、目を見開く。時の止まった世界で、鋭児郎はなおも続けた。
「一度心に決めたなら、それに殉ずる。ただ、後悔のねぇ生き方……」
それが。それが、俺の──
*
街に再び、トゲーノ・エイブスが出現した。
案の定というべきか、警察や快盗の居どころに潜り込んで暗殺……などということはせず、道ゆく人々を堂々と狙撃することで騒ぎを起こし、目標を誘き寄せる──という手段をとっている。すべてはドグラニオ・ヤーブンに自らの手腕を見せつけるためだった。
「見ていてくださいボスっ、俺の実力を……!」
巨大な毒針に身体を串刺しにされ、悶え苦しむ人々。わざと急所を外されているから、死によって苦痛から解放されることもできない。
その中にあってただひとり、間一髪のところで針から逃れた者がいた。──買い出しに出掛けていた、轟炎司その人である。
「奴め、気でもふれたか?あるいは……」
トゲーノの意図はともかく、既にルパンコレクションは奪った。快盗としては旨みのない戦いだ。普段ならパトレンジャー任せにするという選択肢もあるが、彼らは今動けないはずだ。何より、目の前で苦しみもがいているなんの罪もない一般市民たち。
(……俺はもう、ヒーローではないんだがな)
それでも、放ってはおけなかった。
「快盗、チェンジ!」
『ブルー!2・6・0──マスカレイズ!』
年齢を感じさせない鍛え上げられた身体が、濃い青を基調とした快盗スーツに包まれていく。マントを翻し、炎司──ルパンブルーは物陰から飛び出した。同時に、VSチェンジャーの引き金を引く。
「!」
不意打ちの射撃は、見事にトゲーノの胴体に命中した。しかし彼の反応は極めて薄い。ルパンブルーの姿を認めて、せせら笑っているありさまだ。
「この距離では威力が足りんか……」
一瞬思案したブルーだが、一秒後には全速力で走り出していた。届かないなら、近づけばいいだけ。シンプルな力押しは、エンデヴァー時代から得意とするところ。
「快盗、独りで出てくるたぁいい度胸だぜ。おまえも毒針の餌食にしてやる!」
ライフルを用い、次々に毒針を撃ち出してくるトゲーノ。機敏にかわしつつ接近を試みるブルーだったが、かなりの距離が開いているにもかかわらず正確無比に喰らいついてくる毒針に二の足を踏んでいた。
(ッ、ヘルフレイムなら、こんなもの……!)
劫火の壁で針を焼き尽くしながら、突き進む──いっさいの人目もなければそれも可だが、背後には毒針にやられた者はもちろんのこと難を逃れて逃げまどう人々もいる。正体が露呈するリスクはまだとれない。
一方で敵を寄せつけない自身の腕に、トゲーノは酔いしれていた。
「新たなルパンコレクションを手に入れた俺の毒針はァ、今までの十倍は飛ぶ!近づけるモンなら近づいてみやがれェ!!」
「新たなコレクションだと……ふっ、ならばなおのこと、貴様を放っておくわけにはいかないな!」
どこでどうやって手に入れたのか、出処が気にはかかったが──ならばもう一度、奪い取るのみ。余計な思考に囚われるほど、炎司は青くはなかった。
*
「──爆豪、」
ぼんやりと安楽椅子に腰かけていた爆豪勝己は、まだ遠慮がちな呼び声を聞いて我に返った。
「コーヒー飲む?」
「……いくら?」
「流石に奢らせてよ……結構年上なんだしさ」
「じゃあいらん、喉渇いてねえし」
「あぁ、そう……」
ため息をつきつつ、パトレンジャーの紅一点は自販機のボタンを押した。がこんと音をたて、アルミ缶が落ちてくる。
それを緩慢に拾い上げながら──響香は、訊いた。
「爆豪はさ、どう思った?切島のこと……」
「あの黒目のハナシかよ」
「黒目って……」
身体的特徴をあだ名にするなら、ピンクの肌とか触覚とか他にそれらしいものがあるのではなかろうか。そんなことを口にしかけて、響香はこれはまずいと思い直した。勝己が当たり前のように言うものだから危うく毒されかかったが、三奈に対してあまりに失礼な話だ。
──切島少年は、己の個性がコンプレックスだった。ヒーローになりたいとは望みながら、自信がなかった。だから、不審者に絡まれている同級生を目の当たりにしても、何もできなかった。
代わりに飛び出したのが、芦戸三奈だった。
「……別に、そんなモンじゃねーの」
「そんな言い方……」
響香は己の眉間に皺が寄るのを自覚したが、勝己の言葉には続きがあった。
「アイツ、単純馬鹿に見えっけど……ああだこうだ考えちまうんだろ、実際は」
「!」
「強ぇんだから、前だけ見てりゃいいのによ」
そういうヤツなら、自分に言い訳してまで見舞いに来ることなどなかった。鋭児郎の抱える弱さは、勝己にとってはトゲーノのそれに勝るとも劣らない猛毒だった。
(どっちかにしろや、クソカスが)
「──でも、」響香が口を開く。「そういうヤツだから……ヒーローなんだろうな」
これまでも、これからも。
それきり口をつぐんだふたり、室内にはつけっぱなしのテレビの賑々しい音声ばかりが流れる。しかし唐突にニュース速報のテロップと通知音が目に耳に入ってきて、ふたりは意識をそちらに引き寄せられた。
──日根野町二丁目に、ギャングラー出現。
「……!」
反射的に立ち上がりかけて、勝己は己を抑えた。響香の前では、半ば道を踏み外しているだけの一般市民として振る舞わなければ。
一方で警察官である彼女は、躊躇うことなく飛び出していった。それを止める義理はない。「馬鹿じゃねえの」と、己の空虚を紛らすために毒づくのが精々だった。
病院を飛び出した響香は、まずもって飯田天哉に連絡をとろうとした。彼はスタンバイのために寮へ戻っている。ギャングラー出現を知れば、すぐに飛び出していくはずだ。現状、彼に迎えに来てもらうほかにない。──反対されるかもしれないが。
それでも一歩も引かないつもりでスマートフォンに手を伸ばそうとすると、いずこからかサイレン音が近づいてくる。よもやとそちらへ向かうと、案の定発見したパトカーには"G.S.P.O."とあしらわれていて。
「耳郎くんっ、乗りたまえ!装備はひと通り持ってきた!」
「飯田……!」
どうして──疑問を抱きつつも、響香はひとまず助手席に滑り込む。こんなときでも左右をきっちり確認したうえで、天哉は車輌を発進させる。
走り出した車内で、改めて問いかける──と、
「ギャングラー出現の報を聞けば、間違いなくきみも出動しようとするのではないかと思ってな!」
「……ふぅん。ウチが怪我治すほう優先したらどうする気だったの?」
「!、あ、いやその……それがいちばん正しい選択だと思うし、ぼ、俺も推奨するつもりでいたわけではないが……」
意地悪く訊いたとたん、しどろもどろになる。そういう場合を、そもそも想定していなかったのだろう──よくわかっているじゃないか。
「ま、こういう状況だしね……ウチらが打って出ないわけにはいかないでしょ」
「……うむ、きみならそう言うと思った」
響香は自分より冷静にものごとを見ていて、決して無謀な行動はとらない人間だと天哉は理解している。
そんな彼女が、やれる……生きて帰れると判断した。それは大いなる安心感を与えてくれる事実でもあった。
*
一対一の戦線は、未だ膠着状態が続いていた。トゲーノの銃撃に阻まれ、ある地点から一メートルたりとも接近を許されてはいないルパンブルー。が、それでも毒針の餌食になっていないのは彼の身体能力と経験ゆえだった。
(流石にもう厳しいか……)
人並み外れた頑強な肉体も、流石に寄る年波の影響を受けつつはある。いや、それだって異常な体力であることに変わりはないのだが。
これ以上ひとりでもたせるのは厳しい──そう感じていたところ、彼が隠れていたビルの屋上から仲間たちが飛び降りてきた。
「ブルー、大丈夫!?」
「……来たか、まあまあ早かったな」
「チッ、クソ急いだわ」
実際、パトカーで向かっている響香たちよりいかにして早く到着したかは……彼らの企業秘密である。
「昨日のウニ野郎か。何とち狂ってんだ?」
「さあな。だが新たなルパンコレクションを入手したと自己申告してくれた、放っておくわけにはいくまい」
「!、じゃあ警察来る前に──」
「──ソッコーでいただき殺ォす!!」
ほとんど同時に、ふたりは飛び出していた──快盗チェンジも終わりきらないうちに。
「おい待て、何を焦っている!?」
無論、警察の邪魔が入らないに越したことはないが──そこまで考えて、炎司ははっとした。彼らは負傷したパトレンジャーと会ってきたのだ、その姿を目の当たりにして何を感じたか。
ゆえに、彼らは焦っていた。無理をしてでも、短期決戦を望んでいたのだ。
真正面から突っ込んでいくルパンレッドとイエロー。敵の戦術が変わらなければ、トゲーノも戦術を変えることはない。高台に陣取り、ひたすら銃撃を続ける。
「ッ!」
そうなればふたりは、そう簡単には前に進めない。先のブルーと同様に横に、時には後退しながら針を避けるしかない。
だがトゲーノは、慢心ゆえにシンプルな差異を見落としていた。──今度は標的が、ふたつに分かれているということだ。
当然、狙いを分散させなければならなくなり、そのぶんひとりに対して割ける労力は半減する。次第に、接近を許していく。
「ほらほら~、こっちだよー!」
「このアマ、舐めやがって!」
ルパンイエローの露骨な挑発もあって、トゲーノはまず彼女を仕留めることにした。多少は近づいてきているが、その分的は絞りやすい。
肩先を掠める毒針にヒヤリとしながらも、イエローは自身の目論見が成功したと悟った。自分が囮になって、その隙にレッドが一挙に距離を詰める。
「ハッ、使えんじゃねえか丸顔!」
流石に飛んでくる毒針はゼロではないが、脅威にはならない程度にまで激減している。このまま一気に……と行きたいところだったが、流石にそれを許すほどトゲーノも愚かではないだろう。となればと一計を案じ、レッドは階段に足をかけたところで進撃を止めた。そのまま寝転び、トゲーノの視界から姿を消す。
そして、
『シザー!9・6・3──マスカレイズ!』
一方、トゲーノはついにルパンイエローに狙いをつけていた。
「ちょこまか動き回りやがって……終わりだァっ!!」
「ッ!」
発射される毒針──直撃コース。しかしイエローはあえて逃げなかった。あきらめたのではない。
『快盗、ブースト!』
「!?」
戦闘機を模した巨大な盾が飛び出してきて、針を弾き返したのだ。
「ハッ、──てめェとは相性が良いみてーだぜ、ウニ野郎?」
「く、クソぉ……!」
そこからは、一気に詰められるだけだった。懐に入り込まれ、ブレードダイヤルファイターで斬りかかられる。それをライフルの銃身で受け止めるも、重みにバランスを崩したところでシザーを叩きつけられ、地面に縫いつけられてしまった。さらにレッドはそのまま、抜け目なくライフルを蹴り飛ばす。
──そしてついに、金庫にレッドダイヤルファイターを接触させた。
『9・0──9!』
「ルパンコレクション、いただいたァ!!」
金庫内に手を伸ばし、仕舞われていたコレクションに手を伸ばす──刹那、
「──がッ!?」
手の甲に衝撃と鋭い痛みがはしり、レッドは思わず呻いた。それでも気力でコレクションは掴みとったが、バランスを崩し、そのまま階段を転げ落ちてしまう。
「かかったなァ!」
「ク、ソ、がぁ……っ!」
毒針を強引に引き抜くと同時に、変身が解けてしまう。鋭児郎のときと同様、猛毒が急速に浸透して彼の体力を奪っていた。
「てめェ……っ、コレクションを囮に……!」
「快盗を始末するには、これがいちばん手っ取り早いからなァ!」
「……ッ!」
頭上からライフルを突きつけられ、引き金が……というところで、仲間たちが慌てて駆けつけた。ブルーが勝己を助け起こし、イエローが飛びかかっていく。しかしそれは、ふたりの連携というわけではなかった。少なくとも、前者にとっては。
「何をしているイエロー!?今は退け、態勢を立て直すんだ!」
「でも、こいつ倒さなきゃ警察が……!」
彼女だけではなかった。勝己までもが再び立ち上がり、戦闘復帰しようとしている。──炎司は愕然とした、彼らがここまで、警察に引き込まれていたとは。
「仲間割れは命取りだぜぇ!?」
「きゃっ!?」
不意を打たれ、階段から突き落とされるイエロー。今度こそ凶弾が放たれるかと思われたそのとき、彼女を救ける、しかし決して望んではいない声が響いた。
「──動くなッ、国際警察だ!!」
「あ?」
トゲーノに背後から銃口を突きつける、包帯まみれの警察官たち。
「飯田さん……!」
来て、しまった。直接の脅威であるはずのトゲーノは、「来やがったなァ警察ども!」と意気軒昂だが。
「国際警察の権限において──」
「──実力を行使するッ、行くぞ!!」
「「警察チェンジ!!」」
『2号・3号!パトライズ!』
天哉が緑、響香がピンクの警察スーツを装着──パトレンジャーへと変身を遂げる。
「飯田、フォーメーション!」
「うむ、任せろ!」
吶喊する2号に自身のパトメガボーを投げ渡し、代わりにVSチェンジャーを受け取る。トゲーノの銃撃を彼が弾き返したところで、3号が跳躍──後方から反攻する。快盗とはまた異なる被弾を恐れない動きに、トゲーノは虚を突かれた。
「ぐ……ッ、て、てめェら……!」
「………」
もはや、言葉はいらない。国際警察の権限において、実力を行使する──先ほど告げた、口上がすべてだ。
*
必死の治療の甲斐もあり、切島鋭児郎の容態は安定しつつあった。
「よかったですね、患者さん。なんとか持ち直してくれて」
「ええ、さすがヒーローね」
「ヒーロー?国際警察の方じゃないんですか?」
「出向だそうよ。本当は烈怒頼雄斗っていうプロヒーローなんだって」
烈怒頼雄斗──その名を聞いた瞬間、鋭児郎の瞼がぴくりと動いたが、看護師たちは気づかない。
「それはそうと、ギャングラーがまた暴れてるみたい。救命の応援がかかるかもしれないって」
「飯田さんと耳郎さん、大丈夫でしょうか?まだ完治してないのに……」
その会話を、鋭児郎は聞いていた。──意識を、取り戻したのだ。
同じ頃、塚内直正は鋭児郎の病室に向かっていた。容態が安定して集中治療室から出られたと医師から報告を受けたので、様子を見に行こうとしていたのだ。ただ、まだ眠っていてくれたほうが望ましいとも思った。なぜなら、
「切島さんっ、まだ動いたら駄目ですよ!!」
「!」
看護師の必死な叫び声を聞いて、塚内は走り出していた。
程なく鋭児郎の病室前にたどり着く──と、そこには予想通りの光景があった。
「……何をしてるんだ?」
「あ……管理、官……」
看護師たちの制止を振り切り、病室を飛び出そうとしている鋭児郎。その前に立ちはだかる彼の上司の姿に、彼女たちは安堵とばつの悪さが入り交じったような表情を浮かべていた。ギャングラーの話をしていたのを、たまたま目を覚ましたこの新米ヒーローに聞かれてしまった──そんなところだろうと塚内は推察したし、事実その通りだった。
対峙する男の表情に一瞬気圧された様子を見せた鋭児郎だったが、すぐに意を決した様子で口を開いた。
「聞きました、またギャングラーが出て……飯田と耳郎が、出動したって……!」
「ああ、その通りだ。──で?きみはどうする気なの」
「どうするって……それは……」
言いよどむあたり、後ろめたい気持ちはあるのだろう。
「俺も……出ます!」
「ダメだ」
「ッ、」
自身の声が少なくとも部下には聞かせたことのないような容赦なく冷たいものとなってしまったことを、塚内は自覚した。軽く頭を振って、己を戒める。
「管理官として、許可できるわけがない。その身体で……」
「でも、飯田たちだって……!」
「彼らはセーフ、きみはアウト。状態が違うんだから、判断も変わるに決まってる。──命令だ、病室に戻れ」
「……!」
「きみは既に一度命令違反を犯している。その始末もしないうちに二度目……どうなるか、わかるよな?」
こんな脅しつけるような言い方、したくはないに決まっている。半分は信頼関係を犠牲にしてでも部下を止めるため、もう半分は──
「……スンマセン!」
深々と頭を下げた鋭児郎は、身体を引きずるようにして走り出した。塚内の横をすり抜けて。
「……やっぱりそうするよな、おまえたちヒーローは」
乾いた笑いが、ひとりでにこぼれた。
脇目もふらず進む鋭児郎だったが、途上、塚内よろしく自分の様子を見に来たのだろう芦戸三奈とすれ違った。
「え、切島!?目、覚めて……ってか、まさか戦いにいくの?」
彼女の気遣わしげな声を聞いては、流石に立ち止まらざるをえない。だが、彼女ならわかってくれるはずだ。あのとき、まっすぐに飛び出していった三奈なら。
「芦戸。……俺、漢なんだよ。自分でも馬鹿だと思うけど、やっぱり漢なんだ。やらねェで後悔はしたくねえ……!」
「切島……そっか、そうだよね」
そうつぶやいて、三奈は微笑んだ。その表情を目の当たりにして、ああ彼女も大人の女性になったのだと鋭児郎は感じた。
「頑張れ、烈怒頼雄斗!」
「……おう!」
そして再び、走り出す。それからはもう二度と、立ち止まることはなかった。