【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#17 烈怒頼雄斗 3/3

 

 トゲーノ・エイブスとの戦闘。先手を打つことには成功したパトレンジャーの両名であったが、その後は怪我が響き形勢不利に傾きつつあった。

 

「オラァっ!」

「ぐっ!?」

 

 ライフルの柄で強かに殴りつけられ、よろける2号。すかさず至近距離から毒針を撃ち込もうとするトゲーノだったが、前へ出てきた3号がそれを阻んだ。体当たりで銃口を逸らし、パトメガボーで殴りつける。その一撃は確かに命中をとったのだが、

 

「──ッ!?」

 

 叩きつけた際に伝わってくる反動に、彼女はたまらず武器を取り落としてしまった。警察スーツを装着しているとはいえ、戦闘の負担は着実に傷を蝕んでいたのだ。

 言うまでもなく、それは致命的な隙となった。トゲーノの手が3号の首元に伸び、締めあげる。

 

「ヘッ……ボスに喰らった攻撃のダメージが、まだ残ってるらしいなァ?」

「ぐ、うぅ……ッ」

「──耳郎くんを放せっ!」

 

 2号がふらつきながらも突撃すると、トゲーノは「わ~ったよォ!!」と返しながら3号を投げつけてきた。不意を突かれた2号は彼女を全身で受け止める羽目になり、まとめてその場に転がされてしまった。

 

「ヘヘッ、随分頑張ったみてーだがなぁ……死ねよ」

「……!」

 

 ふたりはもう限界だった。一方で手負いの勝己を抱えるルパンレンジャーは動かない。いやルパンイエローが動こうとしたのだが、それをブルーが強硬に制止したのだ。見舞いに行かせるべきではなかったと、彼は後悔していた。

 

 もはや邪魔者もなく、勝利を確信するトゲーノだったが……生憎とまたしても横槍が入った。──「待ちやがれ!」と、勇ましい声。

 そして、

 

『お・ま・た・せ~!オイラが来たからにはもう安心だぜ~!』

「おう……サンキューな、グッドストライカー……!」

「……切島……!?」

「ッ、なぜ来た!?きみはまだ動ける身体ではないだろう!?」

 

 仲間たちの焦燥に塗れた言葉に、鋭児郎は笑みを向けた。死相の浮かんだままのそれは、彼らが言葉を失うほど凄絶だったけれど。

 

「……ヒーロー、だからだよ……!」

「……!」

 

 人々を、仲間を守る。そのために来た。もしもそれが徒花のごとき選択でしかないとしても、手を伸ばすことをあきらめたくはない。

 それが、烈怒頼雄斗の流儀だ。

 

「……ならば、」やおら立ち上がる2号。「俺たちも、力を貸そう……!」

「……ああ。ウチら警察官だって、想いは同じだ!」

 

 燃え上がる。燃えさかる。その熱意を、熱量を、中心点に在るグッドストライカーはひしひしと感じていた。

 

『Très bien!今日の警察はいつもより熱いぜ!』

「おうよ……!いくぜ、警察チェンジ!!」

 

 幸か不幸か、鋭児郎の体調はぎりぎり装着に耐えうる程度にまでは快復していた。その全身を警察スーツが覆う。それでもふらつきそうになる身体を、仲間たちが咄嗟に支えた。

 

「ッ、あんがとなふたりとも……」

「……構わないさ。それよりその状態では、長くは保たないだろう?」

「……ああ……だから、一撃に賭ける!」

 

 ちょうど、グッドストライカーもいる。──最強の、切り札たる形態になることができる。

 

「U号か……でも、」

 

 完全に一体化するとなると、互いが毒を、怪我の痛みを引き受けることになる。それが肉体にどのような影響を及ぼすのかは想像もつかない。

 

「……せっかくグッドストライカーもいるんだ。やってみよう!」

「……ああ!」

 

 それでも彼らは動いた。絆の力でユナイトする三人、悪い結果になるはずがないと信じて。

 1号がVSチェンジャーにグッドストライカーを装填、

 

『1号・2号・3号!一致、団結!』

 

 1号のボディに仲間たちが吸い込まれ、左半身を緑が、右半身をピンクが覆っていく。融合──U号。

 

「ッ、痛……!」

 

 鋭児郎を襲う傷の痛み。一方で天哉と響香も、残る毒素に身体を蝕まれる感覚を味わっていた。

 だがその分、それぞれが元々抱えていた不調については分散され、緩和されることとなった。毒も怪我も、三人で分かち合えばさほどのものではない。

 

「さあ……年貢の納めどきだぜギャングラー!」

「ッ!」

 

 パトレンU号の放つ気迫に、トゲーノは圧倒されていた。敵の数はむしろ減ったにもかかわらず、一気に形勢をひっくり返されたかのような錯覚。

 

「チッ、どうかしてるぜお前ら!付き合ってられるかよ!」

 

 慢心しがちなトゲーノではあったが、引き際に関しては潔い一面もあった。不利を悟り、即座に逃げ出す。それは正しい判断ではあったが、戦闘から身を引いていたはずの快盗がよりにもよってここで割って入ってきた。ブレードダイヤルファイターを投げつけてくるという形で。

 

「ぐわあっ!?」

 

 快盗たちのことを半ば忘れていたトゲーノは、ブレードに身体を切り裂かれてその場に転がった。そのまま弧を描き、主のもとへ返っていく。

 

──投擲したのは、ルパンイエローだった。

 

「おまえ……」

「じゃ、あとよろしくね。お巡りさん!」

「あ、おい……!」

 

 呼びかけには応じず、仲間のもとへ戻っていくイエロー。ダイヤルファイターを借り受けた勝己はともかく、ブルーの反応は芳しくない。今日の彼は特に、警察への援護を良しとしていない様子だった。

 それでも、

 

「ギャングラーは倒さなきゃ、でしょ?」

「………」

 

 ルパンコレクションを手に入れて終わりではなく。それだけは、曲げてはいけない原則だと信じた。

 

 

 そしてその想いを汲み取ったパトレンU号は、いよいよその銃口を標的へと向けていた。

 

「もらったぜ……!」

 

「「「──イチゲキ、ストライクっ!!」」」

 

 グッドストライカーのエネルギーから生成された巨大な光弾が、トゲーノに襲いかかる。喰らいつく。そうなればもはや、彼に救われる途はない。

 

「ぐぎゃあああああああ~!!」

 

 そして絶叫とともに、彼の身体は粉々に砕け散り──

 

「……!」

 

 刹那U号は、身体がすっと軽くなるような感覚を覚えた。怪我の痛みはそのままだが、あのじわじわと全身を蝕まれるような息苦しさと倦怠感がない。

 

「毒が消えた……!」

 

 鋭児郎の──否、毒を受けて苦しんでいたすべての人々の。

 その中には無論、爆豪勝己も含まれている。あの熱血ヒーローめ、と、なんとも言えない表情で彼はこぼすのだった。

 

 

 *

 

 

 

 トゲーノの死に様は、ギャングラー幹部級の面々によっても見届けられていた。彼にルパンコレクションまでくれてやったデストラは露骨にがっかりした様子だったが、

 

「ボス、ラストチャンスをあげても?」

「……まあ、好きにすりゃいい」

 

 ゴーシュの提案に対し、ボスことドグラニオ・ヤーブンはため息混じりに了解を与えた。というより、彼はもうどうでもよかったのだ。法螺吹きのことなど。

 

──しかしいつものプロセスで巨大化復活を遂げた彼は、やはりポジティブシンキングの達人だった。

 

「ボスが許してくれたのか!?」

「……解釈はご自由に。じゃ、私はこれで」

 

 デストラの気持ちをわずかながら理解したゴーシュは、肩をすくめながらこの世界をあとにする。そして残された巨大トゲーノは、意気揚々と暴れ出した。

 

「ッ、またしても……!」

『心配することないぜ、俺がいるだろ~?』

「……だな!飯田、耳郎、まだいけるか?」

「まあ、ギリギリね」

「一気に決着をつけてしまおう!」

 

 そのために必要な戦力。グッドストライカー、そしてパトレンジャーの力の源たる三機のトリガーマシン。それらを、一斉に巨大化させる。

 

『轟・音・爆・走!』

『百・発・百・中!』

『乱・擊・乱・打!』

『一・撃・必・勝!』

 

『警察ガッタイム!正義を掴みとろうぜ~!!』

 

 グッドストライカーを中心として、人型の五体を形成していくビークル群。黒を基調としたボディが、緑とピンク、そして赤で彩られていく。

 

『完成っ、パトカイザー!!』

 

 地上に降り立つ鋼鉄の巨人、パトカイザー。サイレンの音色が、街に響き渡った。

 

 

 *

 

 

 

「機械相手に毒は通用しねえか……ならよォ!!」

 

 巨大化してもトゲーノの戦法は変わらない。ライフルを構え、とにかく撃つ!……ただ、放たれるのは毒針ではなく備蓄している炸裂弾だった。

 

「ッ!」

『痛てててて!』

 

 グッドストライカーのわめき声がコックピットに響く中で、パトレンジャーの面々は一計を案じた。こちらも射撃で応戦すれば、流れ弾で街に甚大な被害が出かねない。

 

「ッ、どうする?このまま突っ込むか……!?」

『それはヤメテ勘弁して~!』

「グッドストライカーはともかく、ウチらが保たないかも……っ」

 

 万全の状態ならともかく、ふたりは手負いなのだから。

 

「──だったら、こいつだ!」

 

 パトレン1号の手にあったのは、新たなVSビークル──トリガーマシンクレーン&ドリルだった。

 

『クレーン!位置について、用意……』

「い、けぇッ!!」

 

『──出、()──ン!!』

 

『伸・縮・自・在!』クレーンが巨大化し、『一・点・突・破!』ドリルがクレーン内部から飛び出す。

 

『おっ、ガッタイム!?』

「おうよ、頼むぜグッドストライカー!!」

『任せとけ~!』

 

 パトカイザーの右腕──トリガーマシン3号が分離し、クレーンが入れ替わりにボディと接続される。同時に、右手の先にドリルが。

 

『クレーン、くれ~。ドリルを借りる~!』グッドストライカーの駄洒落はこの際ご愛嬌として、「「「完成!パトカイザーストロング!!」」」

 

 文字通りの剛腕を手に入れたパトカイザー"ストロング"。その勇姿は、地上で見守る快盗たちの目にも届いていた。

 

「昨日のVSビークルか……」

「………」

 

 警察に取られてしまったという焦りはさほどなかった。いずれにせよ既にトリガーマシンとVSチェンジャーが複数渡っている、まとめて奪えばいいだけの話だ。

 それよりも、強靭さをもって弾丸をものともせず突き進むその姿は、パイロットのひとりでもある切島鋭児郎その人を彷彿とさせる。

 

(……烈怒、頼雄斗)

 

 呼んだことなどないけれども、勝己の脳内にはその名が鮮明に刻み込まれていた。

 

 

 銃弾を弾き返しながら前進するパトカイザーは、ある程度まで距離を詰めたところで右腕を振りかぶった。クレーンが激しく伸縮し、トゲーノを殴る。殴る。殴る!

 

「グハァッ!?」

 

 よろけるトゲーノだったが、さらに至近距離からドリルが襲いかかる。そしてその隙にクレーンがライフルを取り上げ、あっさりと丸腰にされてしまった。そうなるともう、彼にパトカイザーストロングと互角に立ち回れるだけの力は残されていない。

 

「よし、追い詰めた……!」

「一気にトドメだぁ!!」

 

 クレーンの先端部をがばりと開き、トゲーノの身体を挟み込む。──そのまま、吊り上げていく。

 

「は、放せっ、放せぇぇぇ!!」

『ヤダねったら~、ヤダね!』

 

 必殺、

 

「「「パトカイザー・ブレイクアップストライクっ!!」」」

 

 捕縛した標的を──ドリルで貫く!

 

「ぐわぁあああああッ!?こ、コイツは……シヴィ~~~!!?」

 

 どこかで聞いたような断末魔とともに、胴体に大穴を開けられたトゲーノは爆発四散──青空の一部を、紅蓮で覆い尽くした。

 

「任務、完了」

『気分はサイコ~!』

 

 

 *

 

 

 

「さて、切島隊員。きみに処分を言い渡す」

「ッ、」

 

 ごくりと唾を呑み込む鋭児郎。その背後では、天哉たちとジムが固唾を呑んで様子を見守っている。

 

 犯した二度の命令違反。その代償を支払うべきときが鋭児郎には訪れていた。厳粛な顔つきの塚内を見れば、それがいかほどの処分になるかはおおむね想像がつく。我ながら馬鹿をやったと思うが、己の信念を貫き通したのだ。後悔はない……寂しくはあるが。

 

 と、不意に管理官殿がデスクの引き出しから何かを取り出してきた。

 

「……と、その前にこれ」

「へっ?」

 

 鋭児郎が素っ頓狂な声を発するのは無理もなかった。茶色の、表面がちくちくとした毛に覆われた楕円形の物体。これはどう見ても……その、水回りを掃除するためのアレではなかろうか?

 

「タワシだ」

「あっ、やっぱり……つか、どーいうことなんスか!?」

 

 ここでジムが『あっ、私わかりました!』と声をあげた。

 

『データベースによると、これは国際警察日本支部伝統の懲戒、大浴場掃除の刑ではないでしょうか!?』

「そ、掃除……?それって──」

 

 そう、塚内が決めた処分は庁舎内にある大浴場の掃除だったのだ。免職も覚悟していた鋭児郎は、喜び以上に正直拍子抜けしてしまった。塚内管理官、あれほど怒っていたのになぜ?

 

「pinkyに感謝するんだな」

「芦戸、っスか……?」

「ああ、きみを漢にしてやってくれと彼女から何度も頭を下げられた。……18の女の子にそんなことされちゃあね」

 

 冗談めかして塚内は告げたが、三奈は真剣だった。ヒーローは己ひとりでヒーローたるのではない。高めあい、救けあうことで互いをヒーローたらしめるのだ。

 

「……よかったね、切島」

「今後もともに頑張ろう!だが管理官のお怒りも尤もだ、無理は禁物だぞ!」

「お、おう……!」

 

 仲間たちの言葉に頷きつつ、鋭児郎は友人の顔を思い浮かべていた。彼女には本当に、救けられてばかりだ。そして決して見返りを求めてはこない。──ならばこれからもヒーローとして、パトレンジャーとして……漢として。悪の手から、人々を守っていく。その姿を示し続けることこそが、彼女への恩返しになるのではないかと信じる。

 

──そして、塚内の話には続きがあった。

 

「それに、いいモノも貰ったしな」

「?」

 

 急に笑いを噛み殺したような表情になった彼は、「ジム、今転送した画像をモニタに表示してくれ」

『あ、ハイ、りょうか……えっ、コレですか?』

「?」

 

 困惑しながらも、言い付け通りに作業するジム。そうして画像が浮かび上がった途端、首を傾げていたパトレンジャーの面々は呆気にとられていた。

 

「!?」

「これは……」

「昔の……切島?」

 

 黒髪をべたっと垂らした、学生服姿の赤目の少年。幼くはあるが、鋭児郎そっくりである。弟……ではあるまい、肩を引き寄せて彼に顔を赤らめさせているのは、明らかに芦戸三奈その人だ。背景に桜が咲いており、ふたりとも丸い筒を持って写っているあたり卒業式の場景だろうか。

 

「切島くん、その髪は地毛ではなかったのだな!」

「……違和感すごいなあ」

「pinky曰く、高校デビューマンなんだそうな」

「う、うう……ッ」

 

 芦戸のヤツ、庇ってくれたとはいえそんなことを言いふらすなんて!彼女を軽く恨みつつ、鋭児郎は雄英高校入学時の彼女とのやりとりを思い出していた。

 

──ちゃんと切島の中で乗り越えられたら 、その時は教えてね。

 

──高校デビューマンって皆に言いふらすからさ!

 

 ……過去を乗り越えたのだろうか、自分は。

 

(でも、置き去りにはしねえ)

 

 あの頃の弱い自分を、いつまでも連れて前へ進む──乗り越えるというのは、つまりそういうことなのだ。鋭児郎の考えた、新しい烈怒頼雄斗の在り方だった。

 

 

 à suivre……

 

 

 





次回「毒虫」

「やれ、俺の身体だろうが遠慮はいらん」

「撃てるもんかよ、仲間だぞてめえの!」
「……だからだよ」



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