私は基本的におじさん苦手なんですがヒロアカのおじさんキャラは好きです。
先の戦闘における隊員たちの負傷も完全に癒え、ようやく通常運転に戻った警察戦隊。
そのタクティクス・ルームにて、一同は"あるモノ"を取り囲むように見下ろしていた。
「クレーンビークルの隙間に、これが?」
ひしゃげ焦げた銀色……だったのだろう数十センチ四方のオブジェクト。──どう見ても、ギャングラーたちの身体のどこかしらに埋め込まれている金庫そのものだった。
「ジム、科特研の分析の結果は?」
『それが……地球上には存在しない未知の金属でできているそうです。外部からの破壊は極めて困難ですが、内部からの衝撃には非常に脆いと』
「では、奴らを倒した際に木っ端微塵になるのは、金庫の内側が爆発するからか?」
「……そのあと金庫をもとに再生されるってことは、」
この金庫こそギャングラーの本体──核となるパーツなのではないか?であれば外見的には異形型とそう変わらない怪人たちであっても、やはり人間とは異なるまったく未知の生命体であるということになる。まして、一度跡形もなく爆発四散しているにもかかわらず、数十メートル大にまで巨大化再生するのだ。
「まったく別の生き物、か……」
塚内は密かに安堵の息を吐いた。突如として異世界より侵攻してきた、異形の犯罪者集団。彼らのもつ能力の数々には、世代を下るごとに人類に根付いていく異能──個性との類似を感じざるをえない。いつかの未来、膨れあがった力に呑み込まれた人類がああなるのではないかという漠然とした不安が、日増しに渦を巻いていたのだ。
しかし彼ら警察戦隊の急務は、まず目の前の脅威に対処することに他ならない。──そう、今日も。
『!!、──南砺区にギャングラー出現との通報あり!』
鳴り響くサイレンの音に、タクティクス・ルームの空気が一気に引き締まる。
「……パトレンジャー、出動せよ!」
「「「了解っ!!」」」
*
「空~~前絶後のォォォォ!!お宝の力だぜぇぇぇぇイェエエエエエィ!!」
ふざけたシャウトとともに身体を後ろに逸らせ、口から火球を吐きまくるエイに似たギャングラー。その名をマンタ・バヤーシという。結婚式場に突如として出現した彼は、ささやかながら幸福な誓いの時を無残にも炎上させていた。
「ジャスティースグボァッ!?」
逃げまどう新郎新婦や参列者たちと入れ違いに光弾が飛んできて、顔面を撃たれた彼は慌てて身を起こして悶える羽目になる。彼が暴れ始めてから約三分後の出来事──迅速に出動したとはいえ、パトレンジャーがこんなに早く到着するわけがない。
「だ、誰だァ!!?」
「……世間を騒がす快盗、だ」
そう、つまりそういうことであった。
「こっ、こんなに早く快盗に見つかるとはァ!?」
「間が悪ィんだよ、エイ野郎」
「せっかく炎司さんがフレンチおごってくれるところだったのに!珍しく!」
「……おまえは勝手についてきただけだろう。俺と小僧はメニューの研究に行くだけだ」
「~~ッ、だからってー!」
偶然の遭遇であったせいか、快盗たちは気の弛みを律しきれていなかった──元ベテランヒーローであるルパンブルー・轟炎司も例外でなく。
「おっと、油断は禁物だぜィエ~~イ!!」
「きゃっ!?」
マンタの両手──手と呼べるパーツは長く分厚い二本の爪しかなく、砲口のような穴が開いているだけだが──からふたつのエネルギー弾が放たれ、ルパンイエローとたまたま居合わせた鳩を直撃する。途端、両者はまるで蝋人形のように硬直する。
「イェ~イっ、変わるんジェーーーイ!!」
そして……"彼女たち"に異変が起きた。
イエローがぐるぐると喉を鳴らしながら奇嬌な所作で歩き回り出したかと思えば、鳩が「何これぇ!?」とわめき始めたのだ。
「入れ替え成功~イエーーーイ!!」
「入れ替えだァ!?てめェ……」
「イエーース!オレはあらゆるモノとモノの中身を入れ替えることができるのだぁーーー!!」
厄介な能力だ、非人間……イエローのような鳩や、まして生物でないオブジェクトと入れ替えられたらなすすべがない。
歯噛みするレッドだったが、ここでブルーが予想だにしないことを言い出した。
「フン、嘘を言うな。貴様ごときにそのような芸当ができるものか」
「は?」
いきなり何を言い出すんだこのオヤジは?胡乱な目を向けるレッドだったが、轟炎司がなんの考えも根拠もなくそのようなことを言い出すわけもない。ひとまずは黙っていると、マンマはまんたと……もとい、マンタはまんまとノせられてくれた。
「何だとぅ~~~!?だったらもう一度やるから見とけっイェーーーイ!!」
彼が「戻るんジェーーーイ!!」とやれば、再びお茶子と鳩の魂が入れ替わった。つまり、元通り。
「あっ、も、戻れた……!カモにされるとこだったよ~~……鳩なのに」
「黙れ死ね」
「そこまで言う!?」
……ともあれ、ブルーの咄嗟の機転が見事にピンチを帳消しにした。マンタはというと、「騙されたーーー!!」と叫びながらその場にうずくまっている。
言い争っていたレッドとイエローは、それを隙と捉えて駆け寄り、マンタを拘束した。口喧嘩そのものは作戦でもなんでもない、ただ目的を達するための連携については群を抜いているのだ──彼ら快盗は。
「クソオヤジ!!」
「ブルー、お願い!」
「うむ……!」
マンタの金庫は背中にある。ダイヤルファイターを当てれば、それで目的の8割方は達成だ。その瞬間を現実のものにすべく、ブルーは走り出す。
しかし戦闘は始まったばかりで、マンタの体力は有り余っていた。彼は身体からエネルギーを放出し、その衝撃でふたりを弾き飛ばしてしまう。
そして、
「おまえも~、変わるんジェーーーイ!!」
「ぐっ!?」
エネルギー弾がブルーを直撃する。同時に背後の撮影用照明にも……が、ここで想定外の事態が起きた。
照明にビームが反射され、なんとマンタ自身を直撃してしまったのだ。──ふたりが、入れ替わる。
「な、なんじゃこりゃーーー!!?」ルパンブルー(中身:マンタ・バヤーシ)ががに股でわめく。「こんな身体、ありえねぇーーー!!?」
「ッ、それはこちらの台詞だ!元に戻せ!!」
怒りをあらわに自身の身体に飛びかかるマンタの姿をした炎司。その一撃はルパンブルーにクリーンヒットし、変身はあっさりと解除されてしまった。そのまま吹っ飛ばされて転がったところに……折悪く、パトレンジャーが到着する。
「あれは……エンデヴァー!?」
そのエンデヴァーに、ギャングラーが襲いかかっている。事情を知らない以上、彼らにはそうとしか思われない。咄嗟に発砲し、マンタ……もとい炎司に光弾を直撃させてしまう。
「ぐッ!?」
炎司が吹き飛んだところで、パトレンジャーの面々はすかさずマンタを庇いに入った。
「ご無事ですかエンデヴァー!?」
「え、えんでばあ?そ、それよりなんてことすんだィエェイ!?」
「えっ……」
エンデヴァーらしからぬ口調に早速違和感を覚えるパトレンジャー。しかしそこにギャングラーの姿をした本当の炎司が飛びかかってくるものだから、当然三人がかりで迎撃にかかった。当然、"エンデヴァー"は後ろに下がらせて。今の彼はもうプロヒーローではなく、守るべきいち民間人なのだから。
「くっ……邪魔をするな!」
一方、とにかく自分の身体を確保したい炎司。パトレンジャーと戦うこと自体に抵抗はないとはいえ、慣れないギャングラーの肉体をまともに動かすのは困難を極めた。三方向からの攻撃に対処できず、次第にダメージを負っていく。
その光景を前に誰より憤慨していたのは、他ならぬマンタ・バヤーシ自身だった。
「お、お前らなんてことををを……!こうなりゃ、変わるんじぇ──」
能力を発動させかけて、いや待てよと彼は思い直した。ただ今自分の身体は散々にやられている。今、元に戻ったりしたら──
「い、痛そうだぜィエェイ……!」
怖じけづいたマンタは、炎司の身体でその場から逃げ出してしまった。パトレンジャーは小さな違和感を覚えたが、今はそうしてくれたほうが良いのも確かで。
しかし、快盗たちにとっては違った。このままマンタ・バヤーシの身体ごと本当の炎司が葬り去られる──それだけは絶対に避けなければならない。
「ッ、クソがっ!!」
こうなれば是非もないと、ルパンレッド・イエローは戦闘に介入することを決めた。パトレンジャーの攻撃を妨害し、炎司を庇うように立ち塞がる。当然、警察の面々には不可解な行動と映った。
「なっ……おめェらどういうつもりだよ!?」
「まさか、ギャングラーと手を組んだってワケ?」
「見損なったぞ!!……いや元々信頼していたわけではないが!」
三者から問いただされて、レッドは辟易のあまり舌打ちをこぼした。マンタが逃げ去った以上、これ以上警察と事を構えてもメリットはない。
「……てめェらに話すことなんざねーわ!」
VSチェンジャーで足下を撃ち、火花と白煙を散らして一瞬敵の視界を阻む。そうして快盗たちは、なんとかこの場から逃げおおせることに成功したのだった。
*
一方、炎司の身体で逃亡したマンタだったが、自分の本来の肉体を置き去りにしてしまったことを早くも後悔していた。何せ人間の身体は、マンタのそれとはあまりに違いすぎた。
「な、なんなんだよこの身体ァ……!顎がジョリジョリするし、穴はねェし……なんか臭う気がするぜィエェイ……」
炎司が聞いたら「俺は臭くない!!」と怒り狂いそうなことをのたまうマンタ。さっさと快盗から自分の身体を取り戻さねばと考えつつ、あの戦場に戻るのは躊躇われる。
どうしたものかとふらふらしていると、不意に何かとぶつかった。同時に「きゃっ」と可愛らしい小さな悲鳴。
慌てて振り返ると、そこには十代半ばの美少女が尻餅をついていた。
「痛たたた……」
「おっおい、大丈夫かィエィ?」
「あっはい、だいじょう──」
こちらの顔を見た途端、少女の様子が変わった。元々大きな目を見開き、口をぱくぱくさせている。本来の姿ならともかく、人間と入れ替わっているのだから驚かれる筋合いはないはずなのだが。
マンタは知らなかった。自分が入れ替わった相手は、かつて日本にその名を知らぬ者のない有名人であったことを。
「ま、まさかエンデヴァー!!?うっそマジ、チョーヤバイんですけど!」
「は?え、えん?」
「とっとりま写真~!」
頭ふたつぶんも小柄な少女にぐい、と引き寄せられ、スマートフォンでぱしゃり。
「っしゃオラァマジこれ一生の宝物ォ!!あ、クラウドに保存してあとツウィッターとインスタグリムにもあげなきゃ使命感……!」
「??、ちょ、ちょっと待ておまえさっきからなんなんだ?こんなオッサンになに興奮してんだィエィ?」
「エンデヴァーはオッサンじゃないです!!」
「そのえんでばあってのはなんなんだよォ?」
「何って……あなた、フレイムヒーロー・エンデヴァーじゃないですか!!」
「フレイム……ヒーロー……?」
エンデヴァーという固有名詞は知らずとも、マンタも"ヒーロー"については流石に認識している。快盗・警察の両戦隊を除けば、唯一ギャングラー相手に歯向かってくる存在なのだから。
(もしかしてルパンブルーって、ヒーローなのかイェイ……?)
なぜヒーローが快盗なんかやっているのかは、この際どうでもいい。それよりもこれは利用できるとマンタは踏んだ。彼は馬鹿だが、考え無しではない。
「あ、あのなァ……オレ、実は今記憶喪失なんだぜィエィ……」
「えっ、き、記憶喪失!?どうして……」
「え、えっと……あ、そ、そうギャングラーにやられてな!うん!──ってわけで、その"えんでばあ"について詳しく教えてほしいんだぜイエーーーイ!!」
「こ、こんな、人格まで変わってしまわれて……!もちろん協力しますっ!あっ、そしたら女子ファンクラブのメンバーも召集しないとっ」
「女子……ファンクラブ!?」
早速どこかへ電話をかけ始めた少女を尻目に、マンタは彼女の言葉を脳内で繰り返していた。
(ファンクラブってコトは、最初ッからオレに好意的な女のコがいっぱい……!?つまり、人生初のモテ期到来かイエェェイ!!?)
それはマンタ・バヤーシではなく轟炎司……というよりフレイムヒーロー・エンデヴァーへの好意なのだが、ひとまずは自分がちやほやされているというだけで十分なのだった。