アニダラ・マキシモフは八神山中の採石場にて宿敵を待ち構えていた。50メートル近くはある体躯を隠す場所はなく、彼は堂々とその身を晒している。本当はどこかに隠れて、のこのこやってきたパトレンジャーに奇襲を仕掛けてやりたい……そういう気持ちがあったのも否定はできないが。
──ただ、まずもって現れたのはターゲットではなかった。
「おっ、いたいたギャングラー」
「警察の連中は……まだ来ていないようだな」
そう、快盗たちである。別行動をとっていた爆豪勝己も合流している。一応は木陰に身を隠してはいるが、特段策を弄するつもりはなかった。
「なら、とっとと奪るぞ」
目配せでタイミングを合わせ、一斉に飛び出していく。足音を聞いてか、アニダラは緩慢な動作で振り返った。
「あ~?なんだァ、お前ら。警察以外に用はない!」
こちらを快盗と認識していないのか、この鬱陶しそうな反応。それならそれで、思い知らせてやるまでだが。
「てめェになくても、こっちにはあんだよ!──快盗チェンジ!!」
『レッド!──0・1・0!』
『ブルー!──2・6・2!』
『イエロー!──1・1・6!』
ダイヤルを回し、
『マスカレイズ!快盗、チェンジ!』
三人の快盗は、たちまちルパンレンジャーへと変身を遂げる──
「──ルパンレッドォ!!」
「ルパン、ブルー……!」
「ルパンイエロー!」
「「「快盗戦隊──ルパンレンジャー!!」」」
「なっ……貴様ら快盗!?」驚くアニダラ。
「ハッ、気づくのが遅ェわ。──グッディ!」
『Oui!やってやんよ~!』
VSチェンジャーに自ら装填されようとするグッドストライカー。しかし、この瞬間を待ち構えている者がいた。
その存在は、今しがたまでの隠密が嘘のように派手に飛び出してきた──地面から。
「なっ!?」
ドリル&クレーンビークル。自分たちの手元にはない……つまり、警察の所有しているVSビークル。
そこまで思考が回りきらないうちに、クレーンに吊り下げられたパトレン1号が急降下してきた。そのままグッドストライカーを取り上げ、再び上昇していく。
「悪ィな、ちょっと借りるぜ!」
「な……な……!」
言葉も出ないルパンレッド。それは噴火の溜めにすぎないのだが。
「ッ、決闘の情報は我々を誘きだすためのものだったか……!」
「ああもうっ、警察のくせにずるい~!」
憤る快盗たちを尻目に、パトレン1号・切島鋭児郎は捕らえたグッドストライカーをそのままVSチェンジャーに装填した。
『やっヤメテ~!?今のオイラは快盗の気分なの~!』
「すまんっ、力貸してくれ!」
謝りつつ、有無を言わせず射出する。たちまち巨大化していくグッドストライカー、その背後にトリガーマシンのナンバーが続いた。
『ああ……身体が勝手に警察ガッタイムしてしまう……!許してルパンレンジャ~!』
「許すかクソが!!」
そもそも、強制解除できるんだったら合体を拒否することだってできるんじゃないのか。そう思う勝己だったが、現実はとにかくグッドストライカーの意志のままならない状況に陥っている。ならば、いちかばちか。
『Get Set!Ready……Go!』
レッドダイヤルファイターを巨大化させ、コックピットに搭乗する。間を置かずしてレッドは、合体シークエンスを開始しようとしているグッドストライカーのもとに突撃した。変形したかの喋るルパンコレクションのもとには、既にトリガーマシン2号と3号が接合している。最後に、1号が──
「オラァァッ!!」
「!?」
そこに、レッドダイヤルファイターが強引に割り込んだ。衝突によって弾き飛ばされた1号は、同じ称号をもつパイロットをコックピットから投げ出してしまった。
「な、なんでだぁぁぁぁ!!?」
──ともあれ、こうしてルパンカイザーともパトカイザーとも呼べぬキメラのようなロボットが誕生した。
「ドーモ、お巡りサン?」
「な!?」
「ハァ!?」
なぜ快盗がコックピットに!?状況をうまく呑み込めていないパトレン2号と3号は腰を抜かさんばかりに驚愕したが、次の瞬間には猛然とシートを蹴っていた。彼の居座りを認めるわけにはいかないのだ。
「快盗ッ、出て行け!!」
「逮捕してやる!」
「どっちだよ!統一しろや!!」
煽りつつ、操縦桿を片手で握ったままふたりを迎え撃つルパンレッド。彼と主導権を握るグッドストライカーによって、ルパパトカイザー(仮称)はかろうじて姿勢を保つことができていた……まともな戦闘が行えるかは別の話だが。
一方で地上に墜とされたパトレン1号には、怒りに燃えるあぶれた快盗が襲いかかっていた。
「貴様、よくも……!」
「ッ!」
ルパンブルーの回し蹴りを咄嗟にかわし、お返しに拳を叩き込もうとする。いずれも格闘には自信がある。図らずも経験と若さの対決となったわけだが……正直、拮抗していた。
「「いつも、邪魔ばかりしやがって!!」」
「は、ハモってる……!」
やはり(元)プロヒーロー同士ともなると思考回路まで似通ってくるのか。ただ問題は、この若手に対し意地を張っている場合ではないということである。
「も~……!──レッドお願い、なんとかしてぇ!!」
「──チッ、やったらぁ……!」
左右から襲いくるパトレン2・3号をいなしつつ、ルパンレッドはどうにかチャンスを探る。幸か不幸かルパパトカイザー(仮称)は棒立ちの状態になっているので、アニダラは自分から向かってきてくれた。戸惑いながら、だが。
「何がなんだかわからんが……気に入らないモノはぶっ壊すのが俺さまの主義だぁぁ~!!」
「ッ!」
前方の脅威を忘れてはいないレッドは、咄嗟にルパパトカイザー(仮称)右腕──つまりトリガーロッドを操作した。アニダラもまさかしっかり迎撃してくるとは思わなかったのか、警棒を強かに叩きつけられ吹っ飛ばされてしまった。
「痛でっ!?こ、こんのぉ!」
しかしその程度で戦意喪失するわけもなく、むしろ憤激したアニダラは棍棒を手に再び迫ってくる。再びレッドが応戦しようとしたのだが、
「退け!!」
「うおっ!?」
センターシートに居座るレッドを強引に押し退け、今度はパトレン2号が操縦の主導権を握った。連動するかのようにルパパトカイザー(仮称)の左腕が持ち上がり、トリガーキャノンの砲口をアニダラに突きつける。
「何ィぐぉほぉッ!!?」
今度は弾丸のシャワーを浴びせかけられ、アニダラの棍棒は機体に届くことすらかなわなかった。哀れ、である。
「よしっ、やったぞ!耳郎くん、切島く……あっ」
そういえばその赤、切島鋭児郎ではなく──
「用が済んだらどけや!!」
「ぐあっ!?」
メインシートから蹴り出される2号。再びルパンレッドが主導権を握ろうとするも、憤懣やるかたないパトレンジャーはそれを許容しようとはしない。狭いコックピット内で銃撃、銃撃、銃撃。早い話が足の引っ張りあいである。
一方のアニダラはというと、二度撃退されたことで接近戦は断念した。しかし彼にはまだミサイルという武器がある。一挙に放出し、まともに動けないルパパトカイザー(仮称)に差し向ける。
「チィッ!」
姿勢制御は完全にグッドストライカーに委ね、レッドは先ほどパトレン2号が行ったようにトリガーキャノンでの迎撃を試みた。推力と質量をもち標的めがけて飛翔するミサイルは間違いなく脅威となりうる兵器だが、相手が高威力の重火器を所持していれば途上で撃ち落とされるリスクもある。そこを突くのがセオリーであることに間違いはないのだが、
「今の俺はァ……ひと味違うッ!!」
そう、アニダラ・マキシモフはデストラ・マッジョよりルパンコレクションを与えられていた。その能力によって発射されたミサイルの挙動までも自由に操ることができるのだ。
結果、トリガーキャノンはことごとくミサイル群を外した……というよりむしろ、かわされてしまった。先のパトカイザーはその対応策としてトリガーロッドによる撃墜に切り替えたわけだが、混沌の極みにあるルパパトカイザー(仮称)のコックピットからそのように巧みな操縦ができるわけもない。よって、全弾命中。
「うわぁあああっ!!?」
衝撃にコックピットが激しく揺さぶられ、三人は揃ってバランスを崩した。アラート代わりにグッドストライカーの悲鳴が響く。
そんな状況下にあって、比較的ダメージが少ないのはやはりルパンレッドだった。普段から三次元機動をこなしているので、三半規管が常人とは比較にならないほど鍛えられているのだ。
「寝てろやサツども!」
『シザー!』シザー&ブレードダイヤルファイターをVSチェンジャーに装填し、『Ready…Go!』
発射されたシザー&ブレードはたちまち巨大化し、アニダラの不意を突いて金庫に取りつくことに成功した。
「何ィ!?」
『5・1──4!』
こうなってはもはや、抵抗は意味をもたない。解錠が為され、すかさず詰め寄ったルパパトカイザー(仮称)によって扉が開かれる。
「ルパンコレクション、いただ……あ?」
果たしてルパンコレクションはそこにあった。あったのだが、通常サイズで金庫の奥に転がっていたのだ。ルパパトカイザー(仮称)の両手では、取り出すのは困難──
「よーし、じゃあ私たちが!──ブルー!」
「わかっている!」
格闘を続けていたパトレン1号にすかさず足払いをかけて隙をつくると、ふやりは崖を経由してアニダラの胸元にまで跳躍した。そこですかさずワイヤーを伸ばし、金庫の内部へ滑り込む。
「よ~し、成功っ!」
「ルパンコレクション、確保!」
それを見届けたルパンレッドも、珍しく拳を握ってガッツポーズをとっていた。
「っし……!──グッディ、今だ!」
レッドの合図を受けてグッドストライカーがとった行動は……合体解除。ただしパトカイザーにやったように全てバラバラにしてしまったわけではなく、レッドダイヤルファイターの部分……つまり胴体についてはそのまま、両腕のトリガーマシンを切り離したのだ。
「お、おのれ快盗ぉおおおお──ッ!!?」
先の1号よろしく、墜落していく2号・3号。それを見届けるまでもなく、アニダラの金庫の中にいたルパンブルーとイエロー……後者がサイクロンダイヤルファイターを射出した。
「とうっ!」
「ふっ!」
巨大化したサイクロンにふたり揃って乗り込み、一路腕のないルパンカイザーのもとへ翔ぶ。
『今度こそ~、快盗ガッタイム!』
「ッ、やられた……!」
これでは快盗の独擅場ではないか──いや、まだだ。地上に取り残されたパトレン1号がすかさずトリガーマシンバイカーをVSチェンジャーに装填する。そして、
『バイカー、パトライズ!──出、動ーン!』
巨大化したバイカーは彼を乗せて一気呵成に跳躍、なんとそのままルパンカイザーの腕部分の空間に張りつき、やってきたサイクロンを押し出した──自分がされたように。
「何──!?」
「うそぉ!!?」
彼方へ飛ばされていくルパンブルー・イエロー。そうしてバイカーは右肩に接合、左腕となったシザー&ブレードとあわせて新たなるルパンカイザーの誕生となった。
『おお、ルパンカイザーにトリガーマシンがくっついた!』
「っしゃあ!」
「しゃあ、じゃねえわこの野郎!!何してくれてんだア゛ア!!?」
「おめェがやったのと同じことだよっ、なんか文句あっか!?」
「ありまくりだクソがぁ!!」
言い争いになるのは当然、あわやコックピットをリングとした第二ラウンド勃発かというところで、アニダラが再びミサイルを発射してきた。
「「!!」」
小競り合いをしていたふたりだが、その攻撃には──グッドストライカーの悲鳴を聞いたのもあるが──即座に反応した。すかさずシザーの盾を構え、衝撃から身を守る。それと同時に、右腕のバイカーからヨーヨーを射出した。
「モホッ!?」
虚を突かれてよろけるアニダラ。なおもミサイルを発射するが、ルパンコレクションなしにはまっすぐにしか飛んでいかない。そんなもの、このルパンカイザー(名称未定)を前にはさしたる脅威にはならない。
『名称未定じゃ寂しいなァ……──あっ、いいの思いついちゃった!』
「……なんだよ?」レッドがどうでもよさそうに訊く。
『名付けて~……ルパンカイザー"トルーパー"!!』
トルーパー─―騎兵。バイカーが合体しているからだろうか。実際に何かに騎乗しているわけではないので違和感はあるが、代案があるわけでもなかった。
「好きにしろや」
「ルパン……ま、いいか!んじゃ、名前が決まったとこでトドメといこうぜ!」
「てめェが仕切んな!いくぞグッディ!」
『おうよ~!』
いよいよ必殺の構えをとるルパンカイザー"トルーパー"。手始めに右腕のヨーヨーを何度も叩きつけ、標的がバランスを崩したところでワイヤーを使って拘束する。
そして、
「「──お、らぁッ!!」」
息を合わせたわけではない。ただ、最短でギャングラーを倒すという心意気が完全に一致しているというだけ。
いずれにせよ、トルーパーの馬力によってアニダラは天高く打ち上げられた。
「モホォオオオッ!!?」
『グッドストライカー・ぶっち斬りダイナミック~!!』
口上とともに──シールドを投げつける!盾といえどもとはシザー、先端は鋭く尖っている。その尖った先端が、アニダラの腹部から頭上にかけてを勢いよく切り裂いた。
「こ、これは厳しいぃぃぃ!!?」
その叫びが断末魔となって、アニダラの身体は空中で爆発、四散した。火だるまになった残骸が、周辺に降り注ぐ。その中心に、ルパンカイザートルーパーは佇んでいた。
「っし、任務かんりょ──うおおっ!?」
それも一瞬のこと。喜ぶパトレン1号は合体解除によりバイカーごとその場に置き去りにされ、グッドストライカーやダイヤルファイターたちはそのままいずこかへ飛び去っていったのだった。
「い、痛ててて……」
『大丈夫か、切島くん!?』天哉の声。
「な、なんとか。……スマン、結局出し抜かれちまった」
『なに言ってんの、今日のはあんたの手柄だよ』これは響香。
いずれにせよ、これで戦いは終わった。撤収の準備を始めるパトレンジャーは、密かに戦闘を見届けていたデストラ・マッジョの存在に気づくことはなかった。
*
「あんなことのために自分のコレクションを無駄にするなんて、理解できませんわ」
デストラの"実験"の顛末を見届けて、ゴーシュはそう毒づいた。ルパンコレクションはそれぞれが世界にふたつとない貴重なアイテムだ。あのように豪気な使い方をするのは通常のギャングラーではありえない。尤も彼は所有するコレクションの数、当人の素の実力ともに他の構成員とは隔絶しているので、思考回路がおよそ理解しがたいものになっているのもむべなるかな、であるが。
唯一彼の理解者でもある主、ドグラニオ・ヤーブンはというと、上機嫌な様子でワイングラスを弄んでいた。
「デストラにはデストラの考えがあるのさ。面白いと思うぞ、俺はな」
後継者候補たちが次々と一敗地に塗れている状況で、彼は別の楽しみを提供してくれている──当人は至って真剣だろうが──。
これで野心もあれば完璧なのだがと、ドグラニオは独り渋い笑いを浮かべていた。
*
戦い終えて、帰路につく快盗たち。その傍らにはグッドストライカーの姿があった。これからは此方に全面的に味方してくれる──かと思いきや、
『いや~、快盗も警察もあんなにオイラを求めるとはねえ。なんか、すごくグッときちゃったよ~』
「……その物言いだと、今後も場合によっては警察につくと聞こえるが?」
『てへっ、バレちゃった?』
「えぇ~……そりゃないでしょ……」
炎司とお茶子の冷たい視線を浴びて、わざとらしく身を震わせるグッドストライカー。『オイラって、罪なコレクション~』などとのたまっている。
『ま、オイラとお前らの使命はいっしょだ、また力合わせて戦おうぜ!じゃ、アデュ~!』
「あっ、ちょっと!……行っちゃった」
彼方へ飛び去っていく漆黒の翼を不本意ながら見送りつつ、ふたりは爆豪勝己の顔を見やった。ジュレでのやりとりの際はあれほど怒っていたにもかかわらず、彼の表情は驚くほど凪いでいる。
「……ンだよ?」
「いやぁ……爆豪くん、グッディと仲直りしたんやね!」
「ハァ?別に、そもそも仲違いしてねーわ」
そう──ただ、互いのことを知らなかっただけだ。言葉をかわしあって、わかりあうことができた。そんな単純な……一年前までの自分には、できなかったこと。
"今さら"であったとしても、ひとつの進歩には違いない。ほんのひとときの喜びに、勝己は身を浸らせていた。
à suivre……
次回「駆けろエメラルド」
「それでも私、走りたいの!」
「僕だって、走りたかった……!」