【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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X登場前駆け込みで飯田くん初単独お当番回!

キラメイジャーも今大変な時…ということで、応援の意味も兼ねて。グリーン&ランナー繋がりでもあります。



#20 駆けろエメラルド 1/3

 

 この日、喫茶ジュレは珍しく華やいだ雰囲気に包まれていた。

 

 その大本たりえているのは、客席の中央を占領するふたりの少女。一方はここのウェイトレス、おなじみ麗日お茶子。そしてもう一方は彼女より幾分か年長の女性。スタイルの良さはさることながら、身につけたアクセサリーや小物をエメラルドグリーンでまとめている。従業員ではない……とすれば、客しかありえないわけだが。

 

「え~、すごい!やっぱり瀬奈さん、超一流だ!」

「そんなことないよー。その超一流になるために、まだまだ頑張んなきゃって感じ」

 

 きゃっきゃとガールズトークに興じる彼女らを、男どもは離れた場所から見守っているほかなかった──えも言われぬような表情で。

 

「アイツも女だったんだな、知らんかったわ」

「小僧、言葉は刃物だ。気をつけて使え」

「わーっとるわ。で、あんたはどう思うよ」

「……右に同じく、だ」

 

 むさ苦しい中に良い意味で違和感なく溶け込んでいるお茶子だが、やはり歳の近い同性と話している姿は年頃の娘らしい柔らかさがある。それは決して悪いことではなく、彼女の愛らしさをより引き立たせている。いるのだが、同志として寝食をともにしている男どもが可笑しみを覚えるのも、むべなるかな。

 そもそもウェイトレスが客といつまでもおしゃべりしているのはいかがなものかという向きもあるが、まあ彼女以外には客もいないので……と思っていたら、からんころんとドアベルが鳴った。

 

「あ、いらっしゃいませ!」

 

 こういうとき、すかさず従業員に戻れるのはお茶子の美点である。ただ、迎えた客は内心歓迎しにくい相手で。

 

「おはようございます!」

「あ……飯田さん」

 

 飯田天哉──国際警察は警察戦隊に所属するパトレンジャーの一員。つまり、彼女たち快盗戦隊ルパンレンジャーの仇敵。それがなんの因果か、今や常連となってしまっている。

 

「やあ、おはよう麗日くん!」

「お、おはようございます。今日、お休みですか?」

「うむ、宿直明けでな。たまには少しゆっくりしようかと思ったんだ」

「へ~……あ、紹介するね瀬奈さん!こちら飯田さんって言って、なんとあのパトレンジャーなの!」

「えっ!?」思わず立ち上がる瀬奈。「すご~い!」

「いや、それほどのものでは……。麗日くんのご友人ですか?」

「まあ、そんなとこです。──あ、私、速見瀬奈っていいます」

「速見さんですか。……失礼ですが、どこかでお見かけしたような?」

 

 ここでお茶子が待ってましたとばかりにスマートフォンを取り出した。天哉が瀬奈に既視感を覚えるのも無理はない、彼女はその道では名の知れたひとなのだ。

 

「ふふん。瀬奈さんはこの通り、女子陸上界のスピードスターなのだ!」

 

 表示されたニュースサイトの画面──そこには速見瀬奈の名前と、"走るエメラルド"なる文言が躍っていた。後者は異名だろうか。

 

「そうか!道理で……いや、不見識で申し訳ない!」

 

 天哉ががばりと頭を下げるものだから、彼の硬骨漢ぶりを当然ながら知らない瀬奈は鼻白んだようだった。慌ててお茶子が間に入る。

 

「飯田さんっ、瀬奈さん引いちゃうから!」

「む……申し訳ない。悪癖でして」

「いえ……ふふっ、良い人なんですね。飯田さんって」

 

 笑顔がこぼれる。幸いにして悪印象は抱かれなかったようで、お茶子はほっとした。天哉が善良な青年であることは疑いようがない、たとえ陰では対立している相手であっても、それは疑いようのない事実だった。

 

「世界にはもっと速い人が大勢いるので。もっと頑張らなきゃです、私」と、不意にスマートフォンのアラームが鳴って、「!、あ……もう行かないと!じゃあまたね、お茶子ちゃん」

「あ、はい……頑張ってね瀬奈さん!」

 

 「ありがと」とウインクすると、手早く電子マネーで会計を済ませて瀬奈は店を飛び出していく。これから練習だ。──その前にジュレでティーブレークを嗜むのが、彼女の日課になっているのである。

 その姿を見送りつつ、天哉はしみじみとつぶやいた。

 

「走るエメラルド、か……。一度、その姿を拝んでみたいものだな」

 

 彼の脳裏に、幼き日に見た兄の姿がよぎった。ターボヒーロー・インゲニウム。救けを求める人々のもとへ、疾風のごとく駆けつける雄姿。それにあこがれ、自らもヒーローを志した。──"走る"という行為は、天哉の人生の中で常に特別なものだった。

 

 それをふいにしてしまったのは、ひとえに自身の未熟さなのだが。

 

「……コーヒー、いただけるかな?」

「!、あっはい、ただいま!──爆豪くん、お願い~!」

「おー」

 

 手慣れた様子で己が職分をすすめる少年たち。そういえば、彼らもヒーローを目指す子供たちだったのだ。それぞれの事情で夢を断たれながら、それでも彼らは生きている。

 せめて彼らの安寧を守りたい──ヒーローになれなくともそのために力を尽くせる自分は幸福なのだと、天哉は改めて思い直した。

 

 

 *

 

 

 

 街を横断するハイウェイ。その往来を、無数の車輌が行きかっている。ギャングラーやヴィラン──様々な脅威に晒されている社会であっても、そうした日常の風景は変わらない。

 

 その中にあって、追い越し車線を疾走する一台のスポーツカーがあった。時速は120キロを超えているだろうか。万が一にもハンドル操作を誤れば大事故に繋がりかねないような様相だが、車内には大音量の音楽が流れ、若い運転手と助手席に座る恋人とおぼしき女性は愉しげにリズムをとっている。

 

──しかし、そんな光景も長くは続かなかった。突然、後部座席のガラスが粉々に砕け散ったのだ。

 

「うおおっ!?」

「きゃあ!?」

 

 悲鳴をあげるふたり。何が起きたのか慌てて背後を確認しようとするが、揃ってそれは為されなかった。

 

 なぜなら次の瞬間には、車は爆発炎上して跡形もなく焼失していたからだ。

 はた迷惑なドライバーに対する制裁にしてもあまりに度が過ぎているが、その行為者は死した彼らでは比較にならないほど邪悪な存在だった。

 

「オレより速く走ってるのはどこのどいつだ~~ノ!!?」

 

 駆け抜ける一陣の疾風。それは惨劇をももたらすものだった。走行する車の窓から手当たり次第に爆発物を投げ込み、車体を跡形もなく破壊し尽くす──中にいる人間ともども。

 

「このジェンコ・コパミーノ様より速く走るヤツは、許さない~~ノ!!」

 

 派手なピンク色の外皮が劫火に照らし出される。それは曲がりなりにも人間のヴィランとは異なる大いなる脅威──そう、ギャングラーであった。

 

 

 *

 

 

 

 ギャングラーがもたらした事件の情報は、日本警察の所轄を通じて警察戦隊にもたらされる。情報化・自動化が進んでいる現代において、それが為されるまでには五分とかからない。

 

「──パトレンジャー、出動!ジムは大至急、駒神ICを封鎖するよう指示を出してくれ」

「了解っす!」

「了解!」

『了解しました!』

 

 塚内管理官の指示のもと、隊員たちがそれぞれの持ち場についていく。

 飯田天哉もまた、例外ではなかった。

 

「──ギャングラーが!?……了解いたしましたっ、すぐに現場へ向かいます!!」

 

 他に客がいなくなったこともあり、天哉は自ずから大声でそう応じた。良くも悪くも彼の生まれつきの性癖で、気をつけてはいてもなかなか治らないのだ。ただ大人になったので、配慮はできるようになりつつある。

 

「申し訳ない、お勘定をお願いします!!」

「は、はい!……気をつけてね、飯田さん」

「うむ、ありがとう!!」

 

 こんなときでも笑顔で謝意を述べると、天哉は出陣していった。見送るお茶子、その表情は──

 

「──今のは社交辞令か、お茶子?」

「えっ……」

 

 振り向いてみれば、炎司が渋い表情でこちらを見下ろしている。元トップヒーローは伊達ではない、久しく感じていなかった威圧感に冷や汗が流れた。

 

「奴ら……パトレンジャーは敵だ。わかっているな?」

「あ、当たり前やん……」

「なら良いが。──小僧、」

「わーっとるわ」

 

 その手にVSチェンジャーを構え、勝己はそう吐き捨てた。わかりきったことを言うなとは、言えなかった。

 

 

 *

 

 

 

 ハイウェイ内は阿鼻叫喚の様相を呈していた。先ほどまで普通に走っていた車輌はことごとく爆発炎上し、かろうじて脱出できた少数の人々が傷つき蹲っている。

 

 その惨劇の道の終着点──IC付近に、警官隊とプロヒーローによる布陣が敷かれていた。各々が持ちうる最大の力を発揮して、脅威に立ち向かう。この超常社会において、人々の安寧はそうやって守られてきた。

 およそ一世紀の時をかけて造り上げられてきたその体制は──ギャングラーという新たな脅威を前にしては、砂上の楼閣にすぎなかったのだ。

 

「ハハハハ、アハハハハハ!!神出鬼没、ジェンコ・コパミーノ様にはそんな攻撃当たらない~ノ!!」

 

 差し向けられた攻撃の数々を、目にも止まらぬ高速移動でかわしていくジェンコ。規格外のスピードと、同時に繰り出される爆弾の破壊力。

 

「な、なんて速さだ……!」

「あのスピードに対抗できるヒーローがいれば……!」

 

 皆がたまらず歯噛みしたときだった。

 

『あんたらじゃ無理だっつの、ヒーロー?』

「!」

 

 にわかに頭上から響く、少年の声。次いで、

 

『だから、あとは任せて~!』

 

 今度は可憐な少女の声。──にわかに、現代日本で見ることのあるはずがない戦闘機の群れが現れた。

 

「あ、あれはまさか……!?」

 

 赤・青・黄──それぞれが原色を基調とした機体から、同じ色のスーツに包まれたシルエットが降下してくる。

 既に知られたその姿。それでも彼らはあえて、その名を名乗った。

 

「ルパンレッドォ!!」

「ルパンブルー……!」

「ルパンイエロー!」

 

「快盗戦隊──」

「「「──ルパンレンジャー!!」」」

 

「かっ、快盗!?空から来るなんて卑怯な~~ノ!!?」

 

 陸では無類の速さを誇るジェンコだが、障害物のない空を飛べるマシンとは流石に比べるべくもない。飛翔する翼は、彼のコンプレックスを直撃するものだった。

 

──そんなスピード狂ギャングラーの密かな心情を、ルパンレッドは見抜いた。そして彼は、ひとつ悪巧みを企てたのである。

 

「しょうがねえだろ?おまえの足が速すぎんだからよ」

「お?」

 

 ジェンコの自尊心を擽るひと言だが、それにはとどまらない。

 

「フツーじゃ俺らには追いつけねえんだわ……なァ?」

「!、……うむ、まったくもってその通りだ。風を切り裂き、見るものすべてを虜にする。スピードで貴様の右に出る者などいるまい」

「よっ、最速の男~」

 

 爆豪勝己という少年の性格をほんのさわりでも知っていたらば、彼が心からこのようなことを申し述べるはずがないことはすぐにわかっただろう。彼のプライドは大気圏よりも高く、仮に自分より上と認めざるをえない者が現れたならばそれに喰らいつこうとする。おべっかなど使うわけがないのだ。

 しかし、ジェンコは彼のことを快盗のひとりとしか認識していなかった。ゆえに、騙されたのだ。そして鼻高々、有頂天となっていたために、ルパンイエローの姿がいつの間にか消えていたことに気づけなかった。

 

『3・3──5!』

「えっ?」

 

 金庫の錠が解かれる音に我に返ったときには、懐に潜りこんでいたイエローが内部に手を突っ込んでいた。

 

「ルパンコレクション、いただきっ!」

「なあああっ!!?」

 

 速さの源であるコレクションを奪取され、ジェンコは悲鳴のような叫びをあげた。慌てて取り返そうと手を伸ばすもイエローは既にマントを翻して後退しており、さらには置き土産のごとく弾丸をプレゼントしてくれた。

 

「ぐぁはぁッ!!?」

「よ~し、最速ゲット!……だっけ?」

「おそらくな」

「ハッ、チョーシこいてんじゃねえよミジンコ野郎。コレクションに頼ってる分際でよォ」

「……!」

 

 痛烈な罵倒だった、ジェンコにとっては。生来の能力である爆弾の生成も破壊力には長けているが、彼自身はひたすらそれを投げつけるくらいしか能がないのだ。無論、それだけでも常人相手には十分な脅威ではあるが。

 

「さァて、最速ゲットの次は最速キルだ」

 

 容赦のないルパンレッドは、がっくり落ち込んでいるジェンコに銃口を向けた。別に戦いを長引かせる趣味はない、コレクションも回収したことだしさっさと事が済むほうが良いに決まっている。

 

 と、ここで彼らにとってのお邪魔虫が反対方向からやってきた。そう、パトレンジャーである。

 

「ギャングラー発見!……あ、快盗も!」

「連中、相変わらず嗅ぎ付けんのが早いな……」

 

 自分たちに負けじとカラフルなライバルの到着に快盗……というかルパンレッドは舌打ちをこぼしたが、取り立てて動揺することもなかった。出動は彼らのほうが先だったのだ、経路にアドバンテージがあったというだけで。

 

「チッ、どっちにしろもう終わりだ」

 

 サイクロンダイヤルファイターを取り出し、VSチェンジャーに装填する。それを目の当たりにしたパトレンジャーは驚愕した。

 

「えっ、もうトドメかよ!?」

「コレクションは回収済みか……!やむをえん、こちらも攻撃だ切島くん!」

「お、おうよ!」

 

 ギャングラーを討つ──警察の本分まで快盗に侵されてはたまったものではない。パトレン1号また、トリガーマシンバイカーに手をかけた。

 

『サイクロン!3・1・9──快盗ブースト!』

『バイカー、パトライズ!警察ブースト!』

「こ、これってまさか、絶体絶命な~~ノ!!?」

 

 生命の危機に、ジェンコは足りない頭を必死で回転させた。今までやられてきたギャングラーだってそれなりには粘ってきたのだ、こんなあっさりやられたら汚名しか残らない。

 

「ええい、こうなったらっ!」

 

 腹を決め──ボール型の爆弾を生成する。と同時に、双方向から必殺のエネルギー弾が発射された。

 

──刹那、ハイウェイ上空は劫火に染まった。

 

 

 

 

 

 

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