【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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ようやくここまで来た…!

ルパンエックス、登場!


#21 ゲーム×スタート 1/3

 

 深夜の無人駅。郊外にぽつんと位置し、周囲に人気のないこの寂寥の地が、今夜に限っては狂騒に彩られていた。

 

 その中心に堂々と立つ、(ましら)のような異形の怪人。その胸元には金庫のような……もとい、そのものの意匠が埋め込まれている。それは彼がギャングラーの一員、ザルダン・ホウである証に相違なかった。

 

「待ちくたびれたぜ。警察やヒーローには連絡してねえだろうな?」

 

 彼が問いかけた先には、スーツ姿の中年男性の姿があった。アタッシュケースを提げた腕はぶるぶると震えている。額には脂汗が浮かんでいた。

 

「も、もちろんだ。約束のモノも持ってきた!だから、娘を……!」

「パパ!」

 

 ポーダマンに抱きかかえられた少女が涙声を発する。そのさまを認めながら露骨に鼻を鳴らすと、ザルダンは無言で顎をしゃくった。ポーダマンが男に近づき、アタッシュケースを取り上げる。中を改め、大量の札束が詰め込まれていることを確認すると、ザルダンのもとへ運んでいった。

 

「ハッ、確かに」

「こ、これでいいだろ!?娘を返してくれ!」

 

 逸るあまり身ひとつで娘のもとへ駆け寄ろうとする男。しかしその無謀の前にポーダマンたちが立ち塞がった。銃剣で顔面を打たれ、なすすべなく倒れ込む。「パパぁ!」と、娘の悲痛な声が響いた。

 

「返すわけねえだろ!お前らここで死ぬんだよォ!!」

「たっ頼む!せめて、せめて娘だけでも……!」

 

 額から血を流しながら懇願する父親の姿に、ザルダンの興奮は最高潮に達した。我が子を救うために何もかもかなぐり捨てておきながら、それが無駄な努力であったことを知った瞬間の絶望に染まった表情、たまらなく滑稽で愉快なのだ。

 

「じゃあ親子丼、イタダキマース!」

「……!」

 

 助けを求めることもできず、親子の命が消し去られようとした──刹那、

 

 彼方から、警笛の音が響いた。

 

「……?」

 

 線路を陣取っていたザルダン以下ギャングラーたちは、怪訝そうに顔を見合わせた。この時間、とうに終電を迎えているはずである──わざわざ時刻表を調べたのだ──。このような辺境の無人駅に、電車が通るわけがない。

 その思い込みゆえ、彼らは動くのが遅れてしまった。目の前に見たこともないような巨大列車が現れたときにはもう、手遅れだった。

 

「!!?」

 

 ザルダン自身はかろうじて逃げおおせたが、ポーダマンたちがその突撃によって吹き飛ばされ、尊くもなんともない犠牲に成り下がる。それを遂行することそのものが目的だったかのように、列車は火花を散らしながら減速し、程なく停車した。

 

「なっ、なななッ、なんだァ!?」

 

 ザルダンがただただ呆気にとられていると、ドアが開き、人間らしきシルエットが降り立ってくる。それは月明かりのほかにほとんど光源のないこの地にあっても燦然と輝き、姿を明らかにしていた。

 

「ハァ……こんな夜中にぞろぞろと。近所迷惑にも程がある」

「近所なんてねぇだろォ!?ってかおまえ、いったい何モンだ!」

「俺?俺はね──」

 

「──ルパンエックス。孤高に煌めく快盗……なんてな」

 

 わざとらしく肩を竦める白銀の快盗。その姿かたちとは裏腹に、口調はどこか気だるげ……ややもすれば厭世的ですらある。

 無論、ザルダンからすれば重要なのは相手の身分ひとつであった。

 

「はっはーん、貴様が世間を騒がせてるっていう快盗か。……このザルダン様と渡り合えると思ったら大間違いだァ!!」

 

 早速とばかりに、ザルダンはメインウェポンたる如意棒を振り回してルパンエックスに襲いかかった。先端部がボルトのような形状になっており、思いきり叩きつければ岩石をも粉々に砕くだけの硬度を誇る。彼は己の棒術に、鍛練に裏打ちされたがゆえの絶大な自信をもっていた。

 しかし──

 

「何、それ?」

「なッ……!?」

 

 エックスの胴体を包む鎧にあっさりと弾き返され、ザルダンは困惑した。

 

「ははっ、レベルが足りてないんじゃない?」

「チッ、舐めやがって……!」いったん距離をとりつつ、「だが遊びは終わりだ!このオレのルパンコレクションは生命力を上げ、パワーを倍増させることができるッ!そうなりゃ貴様も終わりだァ──!!」

「へー、そう」

 

 悦に入っていたザルダンは、ルパンエックスがするりと距離を詰めてきたことに気づけなかった。

 そして、気づけば。

 

『7・2──1!』

「へっ?」

「ルパンコレクション、回収っと」

 

 我に返ったときにはもう、力の源は敵の手中にあった。

 

「ウッキィ!?使う前に盗られてしもたぁ!?」

「ミッションクリア……ってわけで、入れ物はさっさと消えろよ」

「ッ、ウッキィィィ……!」

 

 いきり立つザルダンだが、このまま感情にまかせて戦ったところでこのルパンエックスを叩きのめせるビジョンは見えなかった。

 

「かくなるうえは!」

 

 くるりと踵を返し、敵に背中を見せるザルダン。逃走を企図した行動には間違いないが、その瞬間ルパンエックスはあることに気づいた。

 

「!、……おまえ、ステイタス・ダブル?」

 

 腹部に金庫のあるザルダンはもうひとつ、背中にも持っていたのだ。──デストラ・マッジョと同じく。

 ザルダンはもはやその言葉に反応することもなく、背中の金庫に保管したルパンコレクションの能力を発動させた。その身体が白煙……否、雲に包まれ、ふわりと浮かび上がる。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に攻撃を仕掛けるルパンエックスだが、雲はザルダンの肉体が変化したものらしく、一切の攻撃がすり抜けてしまう。そうこうしているうちに彼は高々と浮遊し、夜空へと消えていった。

 

「ハァ……ま、初戦はこんなもんか」

 

 気だるげに息を吐く。燦然と煌めくその鎧の下には、必ずしも明るい性情が隠れてはいないようだ。

 と、

 

「め、めぐみっ!」

「パパ!」

 

 視線の先では、恐怖から解放された父娘が涙ながらに抱き合っている。

 

「………」

 

 その姿を、白銀の快盗は沈黙のままに見つめていた。仮面に隠れたその表情は窺い知れず、それゆえに彼が何を思うのかも明らかにされることはない。

 ただ彼が踵を返そうとすると、背後から「あのっ!」と声がかかった。

 

「……なに?」

「たっ、救けていただいてありがとうございました……っ!」

「………」

 

「……ははっ」

 

 快盗が漏らしたのは、自嘲めいた笑いで。

 

「別にあんたらを救けに来たわけじゃない。お宝あるところ、快盗はいつでもどこでも現れるんだよ」

「!」

「じゃ……アデュー」

 

 そうつれなく返して、巨大列車に戻ろうとしたときだった。──パシャリ!フラッシュが、彼の背中を照らしたのだ。

 

「?」

「か、カッコいい~……!」

 

 振り返れば少女がこちらにスマートフォンを向けている。今のは写真を撮られたのか。理解した矢先、今度はパパを放り出して駆け寄ってきた。

 

「抱っこして!」

「ハァ?」

「早く~!」

 

 強引さに押しきられ、ルパンエックスは渋々少女をひょいと抱き上げた。頬がくっつかんばかりに顔を寄せてきたかと思えば、もう一度パシャリ。父親はただただ呆気にとられている。

 

(やれやれ……)

 

 女は幾つでも強かなものだと、彼は密かにため息をついた。

 

 

 *

 

 

 

 数日後、快晴の朝。

 

「ふぁ……」

 

 噴水公園の木陰にあるベンチで、欠伸混じりにスマートフォンを弄る少年の姿があった。名を爆豪勝己。

 夏季休暇に差し掛かる時期とはいえ、高校生くらいの少年としては些か褒められない姿であるが……彼は一応、既に社会人の身であった。例によって仕事をサボり、ここでこうして時間をつぶしているのである。日課である。怠惰の極みだが……これでも彼は中学生だった一年と少し前まで、ヒーローを目指してストイックに生活していたのだ。

 

 ぼんやりとネットニュースをチェックしていく勝己。しかし茫洋とした真っ赤な双眸は、あるニュースに触れた瞬間かっと見開かれた。

 

「は?……ンだよ、これ」

 

 見出しに躍る文字列──"大活躍 快盗ルパンエックス"。その下にはルパンエックスを名乗る何者かが、ギャングラーと交戦して誘拐された女児を救出した旨、文章が連なっている。写真付きで。

 

「………」

 

 何者かのコスプレか?いや、だとしてもギャングラーと戦って──取り逃がしたにしても──勝利を収めているのだ、ただの人間ではありえない。

 

(ヒーローの変装とか?いや、でも……)

 

 考えても答えは出ない。ぼりぼりと頭を掻きながら、勝己はベンチから立ち上がった。先ほどまではBGMでしかなかった蝉の声が、やけに五月蝿く感じる。

 

「チッ……誰だよ、ルパンエックス……」

 

 公園の出口に差し掛かりつつ、独り毒づいたときだった。

 

 

「……呼んだ?」

「──!」

 

 いきなり肩に腕を回され、勝己は一瞬身を硬くした。

 

「な……ッ!?」

 

 ぞわりと全身が総毛立つ。元々他人とのスキンシップを好かないうえに、あまりに突然のことだった。我に返った勝己は絡んできた何者かを振り払うと、素早く飛び退いて距離をとる。

 

──果たして、そこには見知らぬ男の姿があった。背丈は勝己より若干大きいくらいか。ただそんなことは問題ではない。この暑いのに長袖の黒いパーカーにズボン、両手は分厚い手袋と徹底的に肌を見せない服装を身に纏い、そうかと思えば首から上には無造作に伸びた白髪が繁っている。容貌は年齢不詳だが、声の雰囲気からしてまだ年若いことが窺える。

 いずれにせよ、

 

(不審者……!)

 

 全身から漂わせる負のオーラに人生最大級の警戒心を抱きながら、勝己は唸るように声を発した。

 

「……誰だ、てめェ」

「おぉ、怖い怖い。野良犬みたいだね、きみ」

「ンだと……!」

 

 くつくつと笑う男は、大仰に肩をすくめてみせた。挑発しているのか、素でこのような態度なのか。どちらであれ、いけ好かないことには違いないが。

 

「俺だよ」

「は?」

「だから、ルパンエックス」

「………」

 

 ずり、と一歩後ずさる。

 

「……証拠、あんのかよ」

 

 数秒のうちでの思案の末、そんな言葉を絞り出すのが精一杯だった。

 

「証拠?そうだなぁ、変身してみせてもいいけど……まずはこれ」

 

 男がひょいと手を差し出す。その掌の上に乗せられたオブジェクトを目の当たりにして、勝己は驚愕した。

 

「!?、それ、俺の……!」

 

──先ほどまで、のんべんだらりと弄っていたスマートフォン。まさかと思ってズボンのポケットをまさぐると、やはり忽然と消えている。

 いつの間に取り上げた?突然肩を組んできたときか?だが、こんな分厚い手袋を填めた手がポケットの中に滑り込んできたらば、嫌でも気づくはずだ。どうやって……。

 

「ほら、いらないの?」

「ッ、」

 

 恐る恐る近づき、スマートフォンを奪い返す。その瞬間、目が合った。紅い瞳、ブラッドカラーと言うのだろうか。勝己のそれと、同じ色。

 

「信じてくれた?俺がルパンエックスだって──」

 

 男が再び勝己に迫ろうとしたときだった。

 

「お兄さん……ちょーっといいかな?」

 

 男の目の前に立ちふさがった青年がいた。もはや見慣れてしまった、逆立った赤髪。

 

「クソ髪……なんでここに」訊く勝己。

「なんでって、通勤路だもんよ。……ってか今、ルパンエックスがどうとか聞こえたんだけど?」

 

 国際警察捜査官の手帳を示し、ルパンエックスを名乗る男の腕を掴む。

 

「こういうモンなんで……ちょーっと署のほうで話聞かせてもらえっかな?」

「……あー」

 

 男は驚くでもなく、気のない声を漏らしただけだった。

 宿敵パトレンジャーの一員に連行されていくその姿を、形容しがたい表情で見送る勝己。しかしスマートフォンのカバーに挟み込まれたカードを発見した瞬間、彼は凍りついた。

 

──初めまして、ルパンレッドくん。

 

──次はきみらの大好きなモノをプレゼントするよ。

 

 そんなメッセージの書かれた、ルパンレンジャーの刻印付きのカード。

 

「アイツ、まさか本当に……!?」

 

 "快盗ルパンエックス"の称号がずしりと重いものとなるのを、勝己は身をもって感じていた。

 

 

 *

 

 

 

 切島鋭児郎の連行してきたルパンエックスを名乗る男は、即刻取調室に放り込まれた。国事警察とは業務内容の異なる国際警察だが、一応の設備は揃っているのである。

 

 物珍しそうに部屋を見回す男の向かいに腰掛け、鋭児郎の同僚である耳郎響香が尋問に臨んだ。

 

「……じゃあまず、名前は?」

「名前?」肩をすくめ、「だから、ルパンエックス」

「ふざけるなっ!!それは本名ではないだろう!?」

 

 大声で詰め寄るは言うまでもあるまい、飯田天哉である。プロヒーローでもある鋭児郎以上に体格が良いことも手伝い、その威圧感は凄まじい。

 

「おー、怖い怖い。あの子とは別ベクトルで」

「貴様……!」

「お、落ち着けって飯田」

 

 諌めつつ、鋭児郎もまた困惑していた。この男、ここに来るまでもそうだったがどこまでも人を喰ったような態度だ。本当に快盗なのだろうか。

 

「心配しなくてもわかるよ、もうすぐ。そしたら俺ら、お友だちになるんだ。ははっ」

「……ッ!」

 

 ますます額に青筋を浮かべる天哉、いつも冷静な響香も流石に顔を顰めている。

 

「悪いけどウチら、快盗とお友だちになるほどお人好しじゃないよ」

「……まあ、それもそうか。()()()、じゃあね」

「……?」

 

 意味深な物言いに、鋭児郎が首を傾げたときだった。

 

「失礼するよ」

「!」

 

 申し訳程度のノックとともに入室してきたのは我らが上司、塚内直正だった。

 

「管理官……」

「皆、すまないが取り調べは終わりだ」

「え!?」

「は?」

「なッ……どういうことですか、管理官!?」

 

 礼儀を重んじる天哉なので、流石に目上の人間にまで詰め寄りはしない。しかし距離を置いても強烈なインパクトを誇ることには変わりない。塚内は苦笑いを浮かべかけたが、部下の気持ちを慮って努めて表情を引き締めた。

 

「たった今フランス本部から連絡があった。──彼は、我々の身内だ」

「身内、って……まさか」

 

 ここで怪しげな黒づくめの男が、ズボンのポケットを漁りながらすくりと立ち上がった。

 

「ってわけで、改めて自己紹介。国際警察フランス本部所属、特別捜査官──」

 

 

「──死柄木弔です、よろしく」

 

 提示された警察手帳が、彼の自称を真実たらしめていた──

 

 

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