【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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光堕ち死柄木の口調、ムズカシイネ


#21 ゲーム×スタート 2/3

 

 ザルダン・ホウは怒りと屈辱に燃えていた。ふたつ所持しているルパンコレクションの片割れを盗みとられ、一時的にとはいえ安全圏である自分たちの世界にまで撤退する羽目になったのだ。

 

「おまえほどの奴がしてやられるとは、余程腕の立つ相手らしいな?」

「ふふふっ、残りのお宝もとられないと良いわね?」

 

 ドグラニオはまだしも、ゴーシュの言葉にザルダンは憤激した。とはいえ彼女はボスお気に入りの幹部であり、実力もある。怒りの矛先は、この状況をもたらした白銀の快盗へ向けるしかない。

 

「ウッキィィィ……!不意打ちだったから不覚をとっただけだッ、野郎ぶっ殺してやるゥ!!」

 

 如意棒を振り回しながら、どかどかと床を踏み鳴らし飛び出していくザルダン。その姿を見送りつつ、デストラは先日のザミーゴの言葉を思い返していた。

 

(嵐が来る、か)

 

 ルパンエックスを名乗る、新たな快盗。快盗と警察、そして彼らギャングラー……すべてをかき乱す存在になるのではないかという予感が、確かにあった。

 

 

 *

 

 

 

 快盗たちにとって、ルパンエックスの存在は既に嵐となりつつあった。

 

「──あの野郎、俺らの正体掴んでやがった」

 

 喫茶ジュレにて、爆豪勝己は苦虫を百匹ほども噛み潰した表情でそう告げた。当然、仲間たちに経緯はすべて語ったうえで。

 

「……そいつは、警察に捕まったんだな?」

 

 同じく渋い表情で尋ねるは、表向きこの喫茶店の店長である轟炎司。勝己ともうひとりの仲間にとっては父親ほどの年齢で、元トップヒーローというキャリアを誇る男でもあるが……今となっては同じ、社会正義のうえでは認められない存在でしかない。

 

「ああ……ヤツがゲロったら終わりだわ、クソっ」

「そ、そんな……アカン奴やん!どうしようどうしよう……はっ!そうだ!」

 

 突然二階に駆け上っていったかと思えば、程なくしてスーツケースを持って降りてくるお茶子。とかく詰め込めるだけ詰め込んだのだろう、服がはみ出している。

 

「……何をしている?」

「決まっとるやん!準備だよ、夜逃げの準備!」

「!、……夜逃げ……」

 

 珍しく動揺した様子の炎司は、思わず天を仰いでいた。かつてトップヒーローとして栄華を誇り、一生遊んで暮らせるだけの資産を保有していたエンデヴァーがそこまで堕ちるとは。まあ経済的事情で逃げるわけではないが。

 

「──逃げてたまっかよ、クソが」

「……爆豪くん?」

 

 ルパンエックスから寄越されたカードをテーブルに叩きつけ、勝己は笑みを浮かべた。ヴィラン顔負けと評される、凄絶な笑みを。

 

「こんなことでサツどもに負けてられっか……!──ヤツがぶちまける前に連れ出すんだよ、俺たちで!!」

「!」

 

 ふたりは顔を見合わせた。──爆豪勝己という男は、最後の最後まで敵に喰らいつくことをやめない。ただ、徹底的に突き崩されると脆さが露呈することもまた、彼らは知っている。

 

「うむ……そうだな、夜逃げは最終手段だ」

「うう~、やるしかないか……」

 

 いざ、国際警察へ──

 

 

 *

 

 

 

 快盗たちが──自分たちの身を守るためであるが──救出のため躍起になっている頃、その対象は警察戦隊のタクティクス・ルームでくつろいでいた。

 

「ここ、涼しくていいね。こんな恰好してると夏の日本は辛くってさあ、ははっ」

「……暑苦しい恰好って自覚はあるんだね」

 

 響香がぼそりと毒づくが、ルパンエックスこと特別捜査官こと死柄木弔は「まあね」とにべもない。分厚い手袋で器用にティーカップを口許に運んでいる。そうかと思えば今度はリップクリームを塗ったりと忙しい。肌が弱いのだろうかとぼんやりと憶測しつつ、鋭児郎は改めて訊いた。

 

「国際警察の人なら、そう言ってくれりゃよかったのに……」

「あぁ、悪い悪い。きみと一緒ならこのオフィスにもすぐたどり着けるかと思って、烈怒頼雄斗……いや切島鋭児郎くん?──ははっ、どっちで呼ばれたい?」

「……君というヤツは!さっきからなんだその態度は!?」

 

 ついに怒り心頭に発した天哉が詰め寄ろうとするのを、鋭児郎と響香が慌てて抑えた。相手はもはや容疑者ではなく、フランス本部からの客人なのだ。煙に巻いたような態度がいけ好かないのは同感だが。

 

 双方を見回してため息をつきつつ、塚内管理官が改めてこの特別捜査官殿を紹介した。

 

「ええと……彼は元々、フランス本部でルパンコレクションの研究に携わっていたそうだ」

「へー、よくご存知で」

「いや本部のお偉いさんから聞いたからな……」

 

 塚内が思わず苦笑いを浮かべていると、リップクリームを塗り終えた弔は不意にひょこりと立ち上がった。

 

「でも、ただ研究してただけじゃない。──()()、誰が造ったと思う?」

「!」

 

 弔が指差したのは、鋭児郎たちの装備しているVSチェンジャーだった。

 

「まさか……」

「そう。俺がコレクションを改造して、きみらの装備を造ったってわけ」

「ま、マジ……!?」

 

 このアングラ系の極みのような青年が?所感を見透かしてか、やや荒れぎみの唇がへの字に曲がった。

 

「あのさあ……人は見かけに寄らないって言葉、知ってる?」

「も、もちろん知っているとも!……しかし、なぜ日本に?」

「なぜって、生まれの故郷だから。帰省しちゃ悪い?」

「そうは言っていないが……」

 

 言葉に詰まる天哉と入れ替わりに、未だ胡乱な表情を浮かべる響香が口を開いた。

 

「別に帰ってくるのは自由だし、極秘任務で出向なんてのもウチらには珍しいことじゃない。……でも、そんな人がなんで快盗名乗ったりしてるのか、ちゃんとご説明願いたいんだけど?」

「それは私も知りたいな」塚内が同調する。

 

「ま、そりゃそうか」肩をすくめつつ、「わかりました、お答えします。俺が快盗になったのは──」

 

 弔が質問の回答を述べようとしたときだった。

 

『うわあ!?──じ、事件発生!事件発生!』

 

 けたたましいサイレンを鳴り響かせながら、事務用ロボットであるジム・カーターが叫ぶ。

 

『猿島町で、ギャングラーが暴れているとの通報です!』

「……話はまた後か。パトレンジャー出動!」

「「「了解!」」」

 

 揃って敬礼し、パトレンジャーの面々は迅速に装備を整えて飛び出していく。

 

「死柄木捜査官、きみはどうする?」

「行きますよ、もちろん」

 

 にこりと笑みを浮かべてそう答えると、弔もまた鋭児郎たちに続いた。彼らに比べると緩慢というか、危機感のない所作であるが。

 

「……死柄木弔、か」

 

 警察官という職業には不似合いな風貌に、掴みどころのない振る舞い。ルパンコレクションに改造を加えたという事実。──何より塚内は、彼の存在について今日までまったく知らなかった。

 何かある……そう思わないほうがおかしい。

 

「……ジム。ギャングラーのほうが片付いたら、死柄木捜査官について情報を集めてくれ」

『あっはい、了解しました!』

 

 本部からメールで送られてきた人事データ以上のものが入手できるか、怪しいものだったが。

 

 

 *

 

 

 

 一方、快盗たちは国際警察庁舎付近に建つビルの屋上に足を踏み入れていた。

 

「覚悟はいいな?」

 

 炎司の言葉に頷くふたり。仮面で目元を隠していても、その表情が緊張の極みにあることが伝わってくる。

 

 国際警察に侵入を試みるのは、二度目になる。ただ前回は深夜、それもギャングラーによる襲撃に乗じてのアクションだった。今回は違う、パトレンジャーだけでなくあらゆる実力部隊の袋叩きに遭う可能性だって十分に考えられる。──生身の人間を撃つことにだって、なるかもしれない。

 炎司は、その覚悟を問うたのだ。

 

「では、行くぞ」

 

 三人がいよいよ飛び出そうとしたときだった。

 

「!、待て」

 

 勝己が突然、ふたりを止める。その理由は眼下を見るだけで明らかとなった。外に出てきたパトレンジャーの面々が、パトカーに乗り込んでいく姿がそこにはあったのだ。

 

「……ギャングラーが現れたらしいな」

「ええっ、こんなときに!?……ん?」

 

 お茶子が首を傾げる。パトレンジャー三人の出撃はいつもながら、彼らには見慣れぬ同行者がいたのだ。

 

「誰だろ……あの白髪頭の人?」

「……ルパンエックスだ」

「へっ?」

 

 意味がわからない──そう言いたいのは勝己も同じだった。ルパンエックスを名乗って連行された男が、どうしてパトレンジャーと行動をともにしている?

 

「チッ……ここは追う一択か」

 

 あの男には、きっちり事情を訊かせてもらうほかない。ギャングラーから、ルパンコレクションを奪い取ったあとで。

 

 

 *

 

 

 

 人々が逃げまどう。その背中でコンクリートが砕け、劫火の爆ぜる音が響く。

 それらすべて、ザルダン・ホウと彼の率いるギャングラーによってもたらされたものだった。

 

「ウッキィィィ!出てこいッ、ルパンエックスゥゥゥ~!!」

 

 破壊に勤しみつつ、憎き仇敵の名をがなり立てるザルダン。暫くそんなことを続けていたらば、果たして敵対者たちはやって来た。

 

「動くなッ、国際警察だ!!」

 

──尤も、それはザルダンの望んだ相手ではなかったが。

 

「国際警察ゥ?用があるのは貴様らなんかじゃねえ!!」

「おまえに無くても、こっちにはあるんだよ!──行くぜッ!」

 

 VSチェンジャーとトリガーマシンを構え、いざ変身!……というところで、「はいスト~ップ」。背後から横槍が入った──背後なのに横槍とはこれ如何に、という話だが。

 

「……死柄木、さん?」

「アイツのご指名は俺だ。きみらはひとまず観戦してろよ」

「何を……」

 

 これは私闘ではなく、組織の命令に基づいた崇高な任務だ。そんなことは許されない!

 そう主張しようとした天哉だったが、弔の表情を目の当たりにして思わず口をつぐんだ。

 

──人を喰ったような薄ら笑いが、消え去っていた。みひらかれた紅い瞳に、宿るのは。

 

「警察……チェンジ」

 

 手にした黄金と白銀の銃──その銃身をぐるりと一回転させ、砲口を頭上へ向ける。

 

『Xナイズ!警察、Xチェンジ!』

 

 そして──引き金を引く!

 

 放たれた閃光が、弔の全身を包み込む。黄金に輝くロングコートのような意匠の鎧。腰布が、ひらりと風に靡く。頭部を覆うメットには、"X"が刻まれていた。

 

「ハァ?誰だ貴様ァ!」

「──パトレンエックス。気高く輝く警察官……ってとこかな、ははっ」

 

 口上や豪奢な外装とは裏腹に、相変わらず空疎な態度。ただ気のない振る舞いとは裏腹に、その"警察チェンジ"は戦場に少なからぬ衝撃を与えていた。

 

 特に、密かに様子を窺い続けていた快盗たちには。

 

「……警察官、と言ったな」

「どういうこと?まさか爆豪くん、だまさ──」

「──それ以上ほざいたらブッ殺すぞ丸顔……!」

「ヒッ……」

 

 プライドの問題だけではなかった。だいたい、あの男が快盗の正体を知っていたのはまぎれもない事実なのだ。しかしただの警察官なら、わざわざルパンエックスを名乗って接近してくるのも妙な話。

 

(何かある……何か……)

 

 勝己の思考をよそに、戦闘の火蓋は切って落とされていた。

 

「警察なんかに用はねェっつってんだろォォ!!」

 

 猛り狂ったザルダンが、目の前の邪魔者を排除すべく攻撃を開始する。如意棒の先から稲妻を走らせ、一度は四方八方へ散らせたうえで標的めがけて集束させる。光速とは言わないまでもそうと錯覚しうるスピードでの攻撃、並大抵の……否、パトレンジャーの面々であっても見切れるものではなかった。

 

──しかし弔は……パトレンエックスは、そうではなかったらしい。

 

 黄金が閃くかのような、跳躍。腰布をひらりと靡かせながら、彼は宙を舞っていた。電撃はなおも襲ってくるが、この手の攻撃は最初を避けることができればものの数ではない。

 

「ハァ……」

 

 相変わらず吐き出される気だるげなため息。華麗な所作を続ける肉体と、その精神はまるで別人のそれだった。

 

「おまえも、人を見かけでしか判断できないタイプ?」

「何ィ!?」

「ははっ……まあおまえが見かけ通りのお猿さんだってンなら、こっちは好都合だけど」

 

 嘲りつつ、黄金銃で取り巻きのポーダマンたちを片付けていく。見事な手際ではあったが、敵の数の多さもあってすべては仕留めきれない。一部の接近を許してしまう。

 だがここからがむしろ、スピードに長けるパトレンエックスの独擅場だった。銃を剣──十手のような形状をしている──に持ち替え、向かってくる敵を薙ぎ倒していく。

 

「す、すげー……」

 

 弔の言葉通り、結局見守る羽目になっていた鋭児郎がつぶやく。あのスピード……パトレンエックスと名乗ってはいるが、まるで快盗のそれではないか。

 

──おまえも、人を見かけでしか判断できないタイプ?

 

「ウチらの装備、造ったようなヤツだ。なれるのかも……警察にも──快盗にも」

「むぅぅぅ……!!」いきり立つ天哉。「やはり見ているだけではッ、我々の立つ瀬がない!!切島くん耳郎くんッ、いくぞ!!」

「……よっしゃあ!!」

 

 警察チェンジ──鋭児郎たちもパトレンジャーへと変身を遂げ、戦場に躍り出た。

 一応はまだ包囲陣を形成できる程度には残っていたポーダマンたちが、彼らの参戦によって一気に数を減らしていく。

 

「ハァ……観戦してろって言ったのに。──これはまた、()()()()乱戦かな?」

 

 ちらりと頭上を見遣る。──快盗たちと、目が合った。

 

「アイツ……!」

「……正体がどうのと言っている場合ではなさそうだ。このままでは、コレクションごと倒されかねん」

「じゃあいつも通り、やるっきゃない!……やね!」

 

 頷きあい、VSチェンジャーを構える三人。「快盗チェンジ」の叫びと同時にダイヤルを回し──高架から、飛び降りる。

 

「お宝ァ、いただき殺ォすッ!!」

 

 悠長に遊んではいられない。ポーダマンたちを適当にあしらいつつ、ザルダンめがけて突撃していく快盗たち。

 

「うおッ、ルパンレンジャー!?おめェらンないきなり……!」

「いつもながら、神出鬼没……!」

 

 招かれざる客──そう思っていたのはパトレンジャーばかりではない。

 

「ま、まァた呼んでねえのが来やがった!?」

「すぐ帰らァ、てめェのコレクションいただいてなァ!!」

 

 良くも悪くも目立つルパンレッドが正面からぶつかり、ザルダンがそれに気を取られている隙にブルーがワイヤーで両足を縛り上げる。一瞬の出来事だった。

 

「な、なァァ!!?」

「イエロー、今だ」

「よっしゃ!」

 

 仰向けに倒れた胴体に、ダイヤルファイターを押し付ける。コードが自動で読み込まれ、解錠──

 

「ルパンコレクション、いただ……えっ!?」

 

──無い。

 

「残念でした」

「!」

 

 パトレンエックスが肩をすくめている。まさかもう、コイツが?

 

「そいつの背中、見てみろよ」

「何……!?」

 

 彼の言に従うのは癪だとか、そんなことを考えている間もなかった。倒したザルダンを無理矢理起こさせれば、背中にはもうひとつの金庫。

 

「うそっ、金庫ふたつ持ち!?──きゃあっ!」

 

 ここでザルダンが反撃に出た。イエローを吹っ飛ばしたところで態勢を建て直し、小競り合いじみた戦闘に逆戻りする。

 ただ、その中にルパンレッドの姿はなかった。──彼が敵と見定めたのは、パトレンエックスだったのだ。

 

「おらァッ、死ねや!!」

「おっと!……おいおい、戦う相手が違うだろ?」

「ウルセェ!てめェよくもコケにしてくれたな、警察野郎が!!」

「キレてんなァ……ははっ、無理もないか」

 

 レッドの攻撃を適当にあしらいつつ、パトレンエックスは嘲う。彼とやりあうつもりは毛頭なかった。

 

「言っとくけど、最初からウソはついてない。俺はパトレンエックスであり、ルパンエックスでもある……それだけ」

「ンだと……?」

 

 レッドの動作が戸惑いから一瞬鈍った隙を突き、彼は機敏に身を翻した。

 

「証拠、まだ見せてなかったなァ」

 

 銃身を再びぐるりと回転させ、

 

「──快盗、チェンジ」

 

 刹那、レッドは……否、目撃したすべての者たちに驚愕が与えられた。

 白銀に煌めくボディ、鋼鉄のごとく硬い鎧。頭部に刻まれた"X"のみ、そのままに。

 

「孤高に煌めく快盗、──ルパンエックス」

「……!」

 

 その姿──画像で見たのと、まったく同じ物。いやザルダンだけはあの夜、直接対峙していたのだ。

 

「貴様ァ、ルパンエックスだったのか……!」

「だからァ、最初っからそう言ってんじゃん」

「ウッキィィィ~!返せ、オレのコレクション!!」

「ははっ……いいよ別に、俺に勝てたらだけど」

 

 勝利して奪うか、敗北して奪われるか──ふたつにひとつ。

 

 

「さあ──ゲーム、スタートだ……!」

 

 

 

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