パトレンエックス改めルパンエックスの出現により、ここまでの無駄な戦闘──彼にとっては──に消極的だったザルダン・ホウは打って変わって意気軒昂となっていた。
「たっぷりといたぶらせてもらうぜぇぇ!!」
背中の金庫に残されたルパンコレクションの能力により、雲と同化する。その状態であれば自由に飛び回ることができるばかりか、あらゆる攻撃がすり抜ける状態になる。そうして邪魔なパトレンジャー、ルパンレンジャーと翻弄して分断しつつ、彼は因縁のエックスに迫った。
「ハハハハっ、喰らえェェェイっ!!」
接敵し、如意棒から稲妻を浴びせかける。先ほどは回避されてしまった攻撃だが……果たしてルパンエックスは、その場から動きはしなかった。
命中をとったと歓喜したザルダンだったが、あまりに短絡的で甘い考えと言わざるをえない。そもそも避けようとすらしなかったこと……そもそも、先日も
──堅牢な鎧によって電撃はことごとく弾き返され、消散させられてしまったのだ。
「な、何ィ!?」
「だから言ったじゃん。俺と戦るにはレベル不足だってさ」
「ウッキィィィ!!」
いきり立つザルダンだったが、ここで攻守が逆転した。ルパンエックスが銃撃を開始したのだ。彼のもつ銃はVSチェンジャーより連射性にすぐれているらしく、次から次へと光弾が襲いかかってくる。
「ぐううう……!」
地上からの雨あられに四苦八苦しながらも回避を続けていたザルダンだったが、ルパンエックスにとってその銃撃は牽制程度にすぎなかった。ザルダンの気を逸らすことができれば、それで良かったのだ。
「さァて、フェーズ2だッ!」
ザルダンの注意が散漫となった瞬間を見計らい、エックスは跳躍した。突撃し、彼自身の質量でもって雲を散らしたのだ。
「何ィウキィッ!!?」
接触したところでザルダンの顔面を殴り飛ばし、地上に突き落とす。それでもなお攻撃の手は緩めない。重力にまかせて降下しつつ、十手からソードに転換したXロッドを振り下ろしにかかる。残念ながら、その斬擊はすんでのところでかわされてしまったが。
「ちぇっ……まあいいや、フェーズ3だ」
引きずり下ろしてしまえばもはやこちらのもの。如意棒を適当にあしらいつつ、一瞬がら空きになった隙を突いて鳩尾のあたりに膝蹴りを仕掛ける。怯んだザルダンがたまらず後退したところで、Xチェンジャーの引き金を引く。今度は明確に、ダメージを与えるために。
「グワアアッ!!?」
「よ、っと」
再び距離を詰め、コンクリートの壁に縫いとめる。ベルトのバックルを外し、晒された背中の金庫に押しつける──この間、およそ三秒。
『5・9──1!』
バックルが展開し、解錠デバイスが作動する。そうなればもう、ザルダンの運命は決していた。
「ふたつ目も回収、っと」
「か、返せェ……!」
「じゃあ勝ってみろよ。……できないだろ?できもしないくせに……うるせえよ」
「グハァッ!?」
低めた声で罵倒したかと思えば、力いっぱい蹴り飛ばす。いかに相手がギャングラーといえど、あまりに容赦のない行動だった。
「ははっ、楽しい時間はあっという間だよなァ?」
「……!」
柄の部分に接続されたレバーを一度引っ張ることにより、剣先にエネルギー充填が開始される。──ルパンエックスに言わせれば、ファイナルフェーズの合図だった。
『Xタイム!カウント、ダウン!』
3、2、1──
──0!
「スペリオル……エックス!!」
『イタダキ、Xストライク!』
華麗に振るった剣から、エネルギー波がX字を描くように飛翔する。それは獲物を求める野獣のごとく標的……つまりザルダンに襲いかかった。
「そ、そんな攻撃にやられ──」
──刹那、鋭い衝撃と熱が彼を蝕んだ。
「……ウキ?」
ザルダン自身を除くすべての者は、それが彼の終焉を告げるものだと瞬時に理解した。いや、目があれば子供でだってわかるのだ。
ザルダンの身体は、X字型そのままに灼かれていたのだから。
「う……ウキィィィィ~!!?」
その現実に気づいたときには、彼の身体は自ずから断末魔を発していた。
──そして……爆発。
「ミッションコンプリート。──ステージ、クリアだ」
その言葉に、目撃者たちは悟った。ミッション──ギャングラーを打倒するだけでなく、ルパンコレクションを回収することもまた彼の使命なのだと。
「そのために、快盗の力を……」
鋭児郎が複雑な声音でつぶやく一方で、
「……結局、快盗なん?やっぱ警察?」
「快盗だとしても、我々の敵ということか……」
「……ッ、」
一方で、この完全試合を見届けていたのはギャングラーの首脳陣も同じだった。
「この男……確かに、やる」
デストラが舌を巻く一方で、
「ハハハハっ、また面白そうなのが出てきたじゃあないか。──ゴーシュ、」
「承知いたしましたわ、ボス」
むしろ上機嫌そうなボスの言葉に従い、ゴーシュは現実世界に姿を現した。
「私の可愛いお宝さん……ザルダンを元気にしてあげて」
転がる金庫の残骸ふたつにエネルギーが注ぎ込まれ──ザルダンの肉体が再構成される。巨大化した状態で。
「ウキィ~~!!」
「ふぅ……ボスがもっと見たいんですって。まあ……頑張って」
気だるげに踵を返すゴーシュ。その姿を当然、ルパンエックスは目撃していた。──彼女の背中にある、黄金色の金庫のことも。
「ステイタス・ゴールド……早速お出ましかよ」
ゴーシュは姿を消そうとしている──撃つなら今しかないが。
「……まだ、こっちのレベルが足りないか」
結局いつもの快盗や警察よろしく、彼女に対して手出しはしなかった。それに、巨大化したザルダンの敵愾心は自分に向いているのだ。
「ルパンエックス……!オレのコレクション返せぇッ!!」
「おっと……!」
同じく巨大化した如意棒から稲妻が放たれる。かわすのは訳もなかったが、ここまでスケールの差があるとなるとまともな戦闘にはならない。
無論、対抗手段はもっている。
「……コンティニューはプレイヤーの特権だろ。わきまえろよな」ぼやきつつ、「まあいいや。そっちがその気なら遊んでやるよ、とことん」
「──行け、エックストレインシルバー」
金銀の銃──Xチェンジャーを媒介として、自らの愛機を召喚する。それは前部が白銀の新幹線、後部が黄金の機関車という不思議な組み合わせの列車だった。
「そんなモン、へし折ってやるぜ!」
列車が接近してきたところに、如意棒を振り下ろそうとするザルダン。しかしその軌道は彼の想像を超えていた。敵の周囲に小さな円を描くように走ることで、リーチの長さを仇としたのだ。
「何ィ──痛でぇッ!!?」
先端の突起に脛をつつかれ、ザルダンはもんどりうって倒れた。すかさず離れていくエックストレイン。
その挙動に、ルパンレンジャーの面々も舌を巻いていた。
「な、なんかすごい動きやった気がする……!」
「少なくとも、実力は確かなようだな」
だからこそ、安穏としてはいられない。
「チッ……俺らも行くぞ!」
『Get Set……Ready Go!』
「──あー……やっぱり来たか、快盗くんたち」
頭上に現れた三機のダイヤルファイターを視認し、エックストレインのコックピットを支配する弔はそうぼやいた。ザルダンをほっぽって、こちらに攻撃してくるようなことがなければいいのだが。
無論、ルパンレンジャーもそのように愚かではない。ただどのように動くべきか思案していると、一応は絆を深めた漆黒の翼が文字通り飛んできた。
『グッドストライカーぶらっと参上~……って、あれはエックストレイン!トムラじゃねえか~!』
「!、グッディおまえ、アイツ知ってんのか!?」
『知ってるも何も、トムラはマブダチさ~!』
「まぶ……?」
「……親友という意味だ」
思わぬジェネレーションギャップが露呈した一方で、
「おまえも来たんだ、グッドストライカー。相変わらず自由で良いよなァ、ははっ……──おっと!」
ここでザルダンが再び攻勢をかけてくる。難なくかわしたエックストレインだったが、グッドストライカーがにわかに慌てた様子になった。
『と、トムラがピンチだ!オイラも一緒に戦いた~~い!』
「チッ……戦わせてやっから、あとでアイツのこと詳しく教えろや」
『ラジャー!』
いったんコックピットに迎え入れたグッドストライカーをVSチェンジャーから再び外へ射出──その漆黒の翼が巨大化したところで、"快盗ガッタイム"を開始する。
『──ルパンカイザー、勝利を奪いとろうぜ~!』
「オラァっ、死ねぇッ!!」
誕生した鋼鉄の巨人は、勇猛果敢にもザルダンに飛びかかった。右腕のガトリング砲で牽制しつつ、左腕の丸ノコで斬りかかる。
その様を認めて、ルパンエックスはため息をついた。
「ハァ……乱入はいいけどさあ、ヒトの見せ場とるなよな」
流石は快盗、と皮肉めいた笑いを漏らす。
「まあいいか、エクストラステージだし。……でも、爪痕は残しとかないとなァ」
言うが早いか、彼の姿はパトレンエックスに変わっていた。同時にレバーを回転させると、パイロットシートがコックピットから排出され、機体後部──つまり、黄金機関車へと移動していく。
──エックストレイン……それはパイロット同様、ふたつの顔をもつVSビークルなのだ。
機関車を前方として走り出したトレインは、再びザルダンに接近するや熱線砲を使って攻撃を仕掛けた。ルパンカイザーに気を取られていた彼はそれをまともに喰らってしまい……右半身が、燃えた。
「ぅ熱ぢぢぢぢッ!?ウッキィィィ!!」
「ははっ、ざまあ。……じゃあ、お次はこれ」
言うが早いかエックスはコックピットを露出させた。そしてルパンカイザーの顔面……つまりルパンレンジャー側のコックピットめがけて、何かを投げつけた。
「!」
反射的にそれらを受け取ってしまうルパンレンジャー。幸いにしてそれらは有害なものではなく。
「これ……VSビークル?」
エックストレインに似た、新幹線型・機関車型のふたつ。
「あの男、どういうつもりだ……?」
『使ってみようぜ~!大丈夫、トムラを信じろ!』
「……チッ、なんかあったら責任とれや」
そうは言いつつ……実際、突然降って湧いた見も知らぬVSビークルに興味も湧いていた。
──数秒後、ルパンカイザーのコックピットから射出された二台を認めて、弔はほくそ笑んだ。
「"ファイヤー"と"サンダー"……きみらに使いこなせるかな?」
『──両腕、乗り換えまっす!』
腕を構成していたブルーとイエロー、両ダイヤルファイターが分離し、ルパンエックスから投げ渡されたエックストレインサンダーとファイヤーが入れ替わる。
そうして完成した金と銀の腕をもつルパンカイザー。その名も、
『完成!ルパンカイザー"トレインズ"~!』
──その姿を目の当たりにしたパトレンジャーの面々は、少なからず愕然としていた。
「両腕が列車になった……だと!?」
「死柄木弔……あいつまさか、VSビークルを快盗に渡したのか?」
「………」
弔は国際警察の特別捜査官で、快盗の力を使うのはルパンコレクションを回収するためにすぎない──彼の言動はそう解釈できた。
だがその行為は、疑念を抱かざるをえないものだった。お人好しと揶揄されることのある、切島鋭児郎でさえも。
一方で"助力を受けた"側であるルパンレンジャーは、換装を完了した途端コックピットに奔る衝撃に顔を顰めていた。
「うわ、すご……っ!?」
「ッ、おいグッディ、どうなってる!?」
『こ、コイツはスゲー……!ビリビリ痺れて、ボーボー燃える気分だぜ……さすがトムラのコレクション!』
つまりこのトレインズ、他のVSビークルより出力が上ということか。ルパンレンジャーにはそもそも伝わっていないが、弔の言葉にはそういう意味があった。
「チィ……っ、──やったらァ!!」
負けん気の強い勝己が鬨の声をあげたことで、巨人は動き出した。ザルダンの如意棒から放たれる稲妻に対し、右腕から同じく雷を発して対抗する。威力は──後者のほうが勝っていた。
「ウキィッ!?」
如意棒が衝撃によって吹っ飛ばされ、悶えるザルダン。しかし彼の苦境はまだまだ続く。トレインズが、突撃してきたのだ。
「オラァッ!!」
「グハッ!?」
両腕で強かに殴りつけ、ザルダンが怯んだ途端に左腕を顔面に突きつける。左腕を構成しているのは、エックストレイン──ファイヤー。つまり、
「──ぎゃあああああ!!?熱ぢ熱ぢ熱ぢぢぢぢッ!!?」
言葉にするのも憚られるような、恐ろしいことがしでかされたわけである。
「ざ、残虐プレー……」
「けっ、コイツらのやらかすことに比べりゃ軽ィだろ」
「違いないが」
一方のエックスこと弔も、その所業には舌を巻いていた。
「……レッドくんか。やるなああいつ、ははっ」
「──じゃ、あとはクリアへもってくだけか」
ルパンカイザートレインズが必殺の構えをとろうとしているところに、エックストレインも並び立つ。
それから程なく、終演のときが来た。
『グッドストライカー、燃え尽きちまえファイヤ~!!』
「エックス、ガトリングストライクっ!!」
膨大なエネルギーを濃縮した光線がひとつふたつ、三つと一挙に放たれ、ザルダンに襲いかかる。弱った相手に対してそれはあまりに容赦がない、何ならオーバーキルと言うほかない同時攻撃。標的は、粉々に破壊された。
「こ、この世から去る……猿だけにッ!ウッキィィィ!!」
──爆発。
「今度こそ、オールクリア。──さて、」
「!」
トレインズがいきなり分離し、ルパンエックスの手中に戻る。
「カッコいいなァ、快盗諸君。じゃ、
「てめっ、待──」
くつくつと嘲りめいた笑みをこぼしながら、エックスは愛機とともに走り去っていく──
待てと言いたいのは無論、快盗たちだけではなかった。
「なッ……おいきみ、どこへ行くんだ!?お──ーい!!」
天哉が必死に呼びかけるも、届くはずがなかった。
「あの人、なんで快盗に協力を……」
「……スパイとして潜り込むつもり、とか?」
「好意的に考えればだけど」と、響香は付け加えた。そして疑わしげな視線をエックストレインの走り去った方角へ向ける。その可能性を盲目的に信じられるほど、死柄木弔という男に対する信頼は生まれていなかった。
*
「さあグッディ、約束通り話ィ聞かせろや……!」
「いや怖い怖い、爆豪くん……」
ジュレの前で既に恫喝モードに入っている爆豪勝己である。相手は掌の中にいるのだが、以前のやりとりのおかげか翼を軽く震わせただけだった。
『も~、野蛮だなァ。ちゃんと全部話すってばよ!』
「……小僧、とりあえず中に入れ。誰が見ているかもわからん」
逆に店内に入って鍵をかけてしまえば、自分たち以外の誰も──個性でワープしてくる黒霧は別にしても──誰も足を踏み入れることはない。聖域だ。あの轟炎司でさえ、無条件にそう信じていた。
──それなのに、
「
「な……!?」
「……!」
「うそ……」
テーブルのひとつを占拠し、紅茶を嗜む不審な黒づくめの青年。長く伸びた白髪の隙間で、血玉のような瞳が愉しげに細められる。
『おー、トムラ~!』
──死柄木、弔。敵か味方かもわからないこの謎の男は、彼らの日常をも蝕もうとしていた……。
à suivre……
「あんたをスパイだと疑ってる」
「信用なんざしてねーわ」
次回「不審」
「――この話、乗る?乗らない?」