【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#22 不審 1/3

 

──突如現れた白銀の快盗、ルパンエックス。しかしその正体である死柄木弔は、国際警察フランス本部所属の特別捜査官……黄金の刑事、パトレンエックスとも名乗った。

 

 彼の本当の顔は、果たしてどちらなのか。いずれにせよ間違いなく言えることはひとつ、

 

「ったく、待ちくたびれたよ。──あ、お茶代は先に支払っといたから」

 

 

 彼が今、快盗たちのテリトリーを文字通り土足で踏み荒らしていることだ。

 

『おお~、トムラぁ!』

 

 彼を唯一手放しで歓迎しているのは、グッドストライカーただひとり?だった。翼を広げて懐に飛び込んでくる彼を、弔は慣れた手つきで受け止めてみせた。

 

「ハァ……だからいきなり突撃してくんなって。鼻が刺さりそうで怖いんだよ」ぼやきつつ、「でもまあ、元気そうで何よりだよ。グッドストライカー」

 

──それに、

 

「爆豪勝己くん、麗日お茶子さん。あと……エンデヴァー?」

「……ッ、」

 

 素性を知られている──今となっては驚くようなことでもないが、やはり気分の良いものではなかった。

 

「きみらの活躍、フランスにまで届いてるよ。すごいすごい、拍手~」

「……おちょくってんのか、てめェ」

「そんなふうに聞こえちゃった?大丈夫、本気だから。──その証拠に、これ」

 

 不意に立ち上がる弔。その手のうちにはいつの間にか、エッフェル塔のあしらわれた高価そうな箱が抱えられていた。造花をあしらったリボンが、妙に存在を主張している。

 

「お近づきの印です、お納めクダサイ」

「………」

 

 慇懃なのは口先だけで、その実一歩たりともこちらに歩み寄ってこようとはしない。視線で瞬間会議を行った快盗たち──結論としては、一応リーダー格の炎司を代表として輩出することになった。弔が露骨に気落ちした表情で「おっさんかよ……」とつぶやいたのは、この際聞かなかったこととして。

 

 弔から箱を受け取り、包みを開く──刹那、炎司は碧眼を見開いた。

 

「これは……!」

「?」

 

 彼の様子を不思議に思った仲間たちもまた、箱の中身を確認するや同様の反応を示していた。

 

「さっき、猿野郎から奪ったコレクション……?」

 

 ひとつではない、ふたつも。一方は勝己たちの見たことのないルパンコレクションだったが、ザルダンの前の金庫に入っていたモノであろうことは推測できた。

 

「ははっ、なに驚いてんの。まさかメッセージカード、読んでない?」

「……!」

 

 既にぐしゃりと握りつぶしてしまった"それ"には、確かにプレゼントを贈るとそう、書いてあったのを勝己は思い出した。その後の一連があまりに激動であったので、正直内容は忘却しつつあったのだ。

 

「……てめェ、結局なんなんだ」

 

 唸るような声で訊く姿は、やはり野良犬のようだと内心弔は思った。

 

(まあ……他人様のことは言えないか)

 

 思わず浮かべた自嘲を煙に巻くかのように、弔はいきなり跳躍した。ただのジャンプではない、到達点でくるりと身体を後方に一回転させ……そのまま着地。いわゆるバク宙──無意味な行為であったが、この場で快盗たちの口を塞ぐには一定の効果があった。

 

「あるときは孤高の快盗!またあるときは気高き警察官!然してッ、そのジッタイは──」

『だから、トムラだろ~?』

「……おまえさ、空気読めよ。人がせっかく……ハァ」

 

 演劇がかった口調は、グッドストライカーに水を差されたことによってあっさりと鳴りを潜めた。どちらが本性かは少なくとも、これでわかった。

 

「そいつの言う通り、弔……あー、死柄木弔です。このグッドストライカーと……あと、そこにいる黒霧のオトモダチでーす」

「えっ……?」

 

 弔の視線に従い、背後に目を向ける快盗たち。果たしてそこには、首から上を黒い靄に覆われた男の姿があった。

 

「お久しぶりです、死柄木弔。こちらで何を?」

「新しいオトモダチにご挨拶。……で、おまえこそグッドストライカーに何したの?スゲービビってんだけど」

 

 ぶるぶる震えだしたグッドストライカーを懐に抱えつつ、胡乱な目を向ける弔。黒霧はその質問に答えず、

 

「国際警察がVSチェンジャーを使いはじめたのは、あなたの仕業でしたか」

「!、……どういうことだ?」

「彼は快盗としての技能を一通り修めていますが、同時にコレクションを改造するエンジニアでもありまして。──つまるところ、私と同じくルパン家に仕える者ということです」

「コイツが……?」

 

 再び視線を戻す。と、弔はにこりと笑って快盗たちを迎え撃ってみせた。胡散臭い、実に胡散臭い──グッドストライカーでさえそう感じてしまうのだから、こればかりは弔自身の責任だろう。

 

「……きめェ」

「流石に失礼だぞ小僧。……胸のうちにとどめておけ」

「……ああそうですか」笑みが消え、「どうせキモいし胡散臭いですよ俺は。ああ唇痛ぇ……」

 

 陰鬱な雰囲気を醸しながらリップクリームを取り出す弔を尻目に、お茶子が黒霧に詰め寄った。

 

「く、黒霧さん!ってことはだよ?私たちの持ってるコレクションって、全部この人が……?」

「いえ」否定。「私から皆さんにお渡ししたのは、ルパン家に古くから伝わるコレクションです。彼が造ったのは──」

「──"コレ"だよ、コレ」

 

 いつの間にか、弔の手の中にはサイクロンダイヤルファイターが握られていた。

 

「てめェ何勝手に……!」

「勝手にも何も、製作者は俺だし。国際警察がコレクション持ってるなんて情報が入ってきたもんだからさ、潜り込んで利用してやったってわけ」

「……ならば警察にも配備されている事実は、どう説明するつもりだ?」

 

 眼光鋭く元トップヒーローに睨みつけられ、弔は初めて言葉に詰まった。とはいえ、その表情に怯えめいた感情は現れてはいないが。

 

「あ~、申し訳ない。1000%、わたくしのミステイクでございます」

 

 自身の与り知らぬうち、極秘裏にVSビークルは日本支部へ送られてしまっていた──弔がそう釈明すると、待ってましたとばかりに勝己が鼻を鳴らした。

 

「ハッ……自分で造ったモンの管理もできねーのかよ、てめェ」

「ぶっぶぅー、残念でしたあ。国際警察みたいな大規模な組織じゃ、いち捜査官の権限なんてたかが知れているのでしたー」

 

 両腕で大きくバツを作る目の前の男の姿に、勝己の額に青筋が浮かぶ。が、彼が激発するより先手を打って、弔は真面目なトーンに戻っていた。

 

「ま、それだけならまだしも……人が汗水垂らして造りあげたVSビークル、なんとギャングラーに横流ししてくれやがってる疑惑があってさあ。ほら、クレーンとドリル……今はパトレンジャーの手に渡ったみたいだけど」

「あれも貴様の仕業か……!」

「いや本当に申し訳ない。でも、だから俺も日本(こっち)に来たんだよ。どうせもう国際警察にコレクションは残ってないしさ」

 

 「エンジニアは用済みってわけだ」と、自虐を漏らす弔。その血眼にぎろりと見据えられたことに気づかないふりをして、黒霧は「そうですか」と言葉少なに目を逸らした。

 

 

 *

 

 

 

 ドグラニオ・ヤーブンは珍しいことに苛立っていた。新たなる敵の出現、後継者候補たちの脱落に次ぐ脱落……否、それらは彼にとってむしろ楽しむべき事象でしかなかった。

 苛立ちの原因は、もっと刹那的なもの。

 

「──だから、奴は後からパトレンエックスと名乗っていただろう」

「でも、結局ルパンエックスに戻ったじゃない」

「パトレンジャーとともに現れたではないか!」

「ルパンレンジャーに協力してたでしょう!?」

 

 ルパンパトレンルパンパトレンとこんな具合に、寵愛している側近たちが不毛な言い争いを続けているからだ。

 元々決して良好とはいえない関係の彼らだが、こんな子供じみた喧嘩を見るのは初めて。ゆえに最初はこれも、面白い見世物としていたのだが。

 

(長ぇ……)

 

 いつまで経っても終わらぬ応酬に、遂に堪忍袋の緒が切れた。

 

「──ああもううるっせえなァ!!」

 

 テーブルに拳を叩きつけるドグラニオ。グラスからワインの飛沫が飛び散り、純白のクロスを汚した。

 

「……んなモン、エックスでいいだろうが」

「………」

「し、失礼致しました……ボス。──そのエックスですが、何者でしょう。調べますか?」

「暫くは泳がせときゃいいだろう、せっかく面白くなってきたんだ。それより──」碧眼が妖しく光る。「我が後継ぎ候補たちの様子はどうだ?」

「は、──ガバットの奴が動いています。以前より仕込んでいた計画を実行に移すと」

「ほぉ。そいつはまた、派手なモンが見られそうだな」

 

──ガバット・カババッチ。彼は密かに、しかし確実に、人間社会を()()ための策謀を進行させていた……。

 

 

 *

 

 

 

──翌朝、国際警察。警察戦隊には昨日から引き続き、ミステリアスな客人が訪れていた。

 

「ふぁあ……おはようございまーす」

 

 欠伸混じりに入室してきた白髪の青年──死柄木、弔。あの怪しさを際立たせるような無地の黒パーカーから一転、今日は純白に黄金をあしらった衣服に身を包んでいる。G.S.P.O.のロゴマークが刺繍されているあたり、これが彼の制服らしい。

 

 彼を迎え入れることになった警察戦隊の面々はというと、一応形通りの挨拶こそ返しはした……という程度の反応だった。塚内管理官以下、少なくとも歓迎している風ではない。

 

「ははっ、なんか能面が並んでるみたい」

 

 対する弔の所感は、表向きそんなものであったが。

 

「もしかして、まだ俺のこと疑ってる?」

「……昨日の行動を見て、疑うなってほうが無理な話だと思うけど?」

 

 にべもない響香の反応を皮切りに、パトレンジャーの面々が口々に疑念を述べ立てていく。

 

「コレクションを快盗たちに渡したのは何故だ?本部で取り扱っていたならば、きみだってその危険性は理解しているはずだ!」

「ギャングラーから回収したコレクション、どこにやったの?」

「快盗たちのこと、どこまで知ってるんスか?」

 

 矢継ぎ早にぶつけられる質問の群れ。しかしその内容は、あらかじめ想定していた域を出ないもの。ならば返答も、決まりきったものしかありえなかった。

 

「ノーコメント。申し訳ないけど」

「……理由は?」

「守秘義務があるんだよ。きみらとは任務も命令系統も違うからね、俺は」

 

 守秘義務──便利な言葉だと弔自身思った。そう言えば、どんな無理も道理として通してしまえる。納得していない相手を、黙らせることだってできるのだ。

 

「……じゃあ、これだけは教えてもらえないスか?」

「何?……ってかタメ口でいいよ俺にも。苦手なんだよなァ日本人特有のそういうの……ああこちらからはきちんとしますのでご安心ください、管理官」

「いやまあ……好きにしてくれていいが」

 

 相変わらずの態度に勢いを削がれかけた鋭児郎だったが、なんとか踏みとどまった。煙に巻かれてなどいられないのだ。

 

「──死柄木。あんたはなんのために、ギャングラーと戦ってるんだ?」

 

 漠然とした問い。だからこそこれだけは、納得のいく応答が欲しかった。他はどれほど欺瞞で塗り固められていたとしても、志だけはせめて。

 しかし鋭児郎の想いとは裏腹に、弔の血に染まったような瞳は冷めていくばかりだった。

 

「平和な未来をもたらすため……とでも言や、それで満足か?」

「な……」

「きみらが俺を信用するもしないも勝手だ。でもその程度でしかない相手に口先で誠実なこと言わせて、いったいなんの意味がある?……きみらヒーローの大好きな綺麗事ごっこに、俺を巻き込むなよ」

 

 弔の言葉はどこまでも突き放したものだった。ヒーローという存在、その在り方に対して嫌悪感さえ覗かせている。──鋭児郎は拳を握りしめた。この場でそれをするのは以前、快盗に対するスタンスを巡って飯田天哉と衝突したとき以来のことだった。

 

「……あぁそうかよ。じゃああんた、俺らとはなんも話し合う気がねえんだな……!」

「なんとでも。──それより塚内管理官、私の取扱いについて本部からメールが来ているかと思いますのでご確認の程、よろしくお願いします」

「ご心配なく、もう確認してある。──死柄木捜査官、ひとつ良いか?」

「なんです?」

 

 ここで塚内は立ち上がり、弔のもとへ歩み寄った。す、と右手を差し出す。

 

「ようこそ警察戦隊へ。我々はきみの任務を尊重する……が、それは一方通行では成り立たない。そこだけは留意してもらいたい」

「………」

 

 

Si possible(なるべくは)

 

 

 *

 

 

 

「カ~バ、カバカバ……カババッと」

 

 都市部に生活用水を供給し、一方で洪水を防ぐ重要な役割を担っている榎須江ダム。その膨大な水の塊を見下ろしながら、珍妙な声をあげる異形の男の姿があった。

 彼こそがガバット・カババッチである。ダムの遮水壁に巨大な歯ブラシのような武器をしきりに塗りつけている──これは昨夜から一心不乱に続けていることであった。

 

「ムシバミ菌がァ、浸透すればァ♪ダァムは崩壊、人間御陀仏♪ここいら一帯、オレの天下ってモンよ~♪」

 

 陽気な歌声とは裏腹に、語られる策謀は想像するだに恐ろしいものであった。それを、止められるのは──

 

 

 *

 

 

 

 一方、快盗たちの根城である喫茶ジュレでは通常営業がはじまろうとしていた。彼らも死柄木弔のことを気にかけていないわけではなかったが、黒霧という証人を得て彼がルパン家の人間であることは証明されたのだ。少なくとも、敵ではない──

 

 それで表向き日常通りに過ごそうとしていたわけではあるが……爆豪勝己のスマートフォンが規則的な振動を始めたのも、そんな折だった。

 なんとはなしにそれを取り出した彼は、不審げな表情を浮かべた。──"通知不可能"と、そう表示されているのだ。

 

 最初は無視しようとしたが、一分近くが経過してもいっこうに鳴りやむ気配がない。ふと視線を感じて顔を上げれば、炎司が早くなんとかしろと言いたげにこちらを睨んでいる。勝己は舌打ち混じりに受話を選んだ。

 

「……誰だ」

『誰とはご挨拶だなァ、爆豪くん?』

「!、その声……やっぱてめェか、死柄木弔」

 

 はは、と空疎な笑い声が返ってくる──間違いない。

 

『大体さあ、出るの遅せぇよ。あとワンコールで切るとこだったよ』

「知らねー番号は調べてから折り返すんだよ俺ぁ。つーか通知不可能だなんだとかワケわかんねー表示しやがって」

『今どきの若者かよ……ハァ、せっかく耳寄りな情報があるってのにさ』

「情報だァ?」

 

 ギャングラー絡みなら、聞き出す価値はある。勝己はそう考えたし、仲間たちもまた同意見のようだった。ふたり揃って耳をそばだてている。

 

「聞くだけ聞いてやる。とっとと話せ」

『ははっ、聞くヤツの態度じゃないね……まあいいけどさ』

 

『──パトレンジャーが出動した。榎須江ダムって場所でギャングラーが目撃されたらしい』

「……!」

 

 この話──乗るか、乗らないか。

 弔の二者択一の問いに対する答は、ひとつしかありえないのだった。

 

 

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