榎須江ダムに到着したパトレンジャーの面々は、ギャングラーが目撃されたというポイントへ向けて歩を進めていた。気合十分……と言いたいところだが、揃ってその表情にはわだかまりが残っている。
「……今回はついてこなかったね、死柄木弔」
ぽつりとつぶやく響香。──切島鋭児郎の表情により翳が差したことは、この際言及しなかった。
「彼自身の言う通り、命令系統が異なるからな。今のところ、彼は客分でしかない」
「客分か……それならまだいいけど」
鼻持ちならない本部のエリート──しかしその実態は、宿敵から送り込まれたスパイなのではないか。そんなふうに疑われていることを察していながら、歓心を得ようなどと微塵もしないあの態度。
「なんなんだよ……あいつ」
鋭児郎が他人に対してこうも苦々しい表情を浮かべるのは、極めて珍しいことだった。弔はそれだけのことを言った……彼なりの真摯な想いを、踏みにじったのだ。仕方がない。
しかし、彼らは任務の真っ最中──いつまでも来訪者のことばかりを考えてはいられない。
「!、見つけた」
索敵を行っていた響香が、ついにギャングラーを発見する。──カバット・カババッチ、彼は未だダムの壁に何かを塗りたくり続けていた。歌いながら。
「……何をやっているんだ?」
「どうせろくなことじゃない。──行くよ」
「……ああ!」
「「「──警察チェンジ!!」」」
『1号・2号・3号、パトライズ!警察チェンジ!』
「そこまでだッ、ギャングラー!!」
「!?」
「パトレン、1号!!」
「パトレン2号ッ!!」
「パトレン3号!」
「「「警察戦隊──パトレンジャー!!」」」
「国際警察の権限においてッ──」
「──実力を行使する!」
口上を述べると同時にガバットを包囲、銃撃を開始する。それがいかなる形であれ、悪事は絶対に許さない──その強い信念を、戦う力に変えて。
そんな勇ましき戦う姿を、快盗たちは遥か高みから見下ろしていた。
「あっ、ほんとにいるよギャングラー!」
「見りゃわかるわ。……一応、あいつの情報通りか」
「ふん。信用云々は兎も角、使える男ではあるらしいな」
死柄木弔が何を企んでいるのかは知ったことではない。──ただ目の前に、お宝を持ったギャングラーがいる。それがすべてだ。
(乗るしかねえんだよ、俺らは)
「「「──快盗チェンジ!!」」」
『0・1・0、マスカレイズ!快盗チェンジ!』
変身と同時に地上へ降り立ち、
「ルパン、レッド!」
「ルパンブルー……!」
「ルパンイエロー!」
「「「快盗戦隊──ルパンレンジャー!!」」」
「予告する……!てめェのお宝ァ、いただき殺ォすッ!!」
そして、目の前のギャングラーに襲いかかる。傍に張りついていた邪魔なパトレンジャーには、ブルーとイエローが対処した。
「快盗どもまで!?アンタも好きねぇ!」
「大っ嫌いだわ死ね!!」
「ガバッ、し、辛辣……!──ええいっ、ポーダマン!」
少なからずショックを受けた様子のガバットが号令し、配下の戦闘員部隊が集結してくる。快盗と警察を合わせても、一気に数的有利を覆されてしまう形となった。
ただ、度重なる戦闘によって両戦隊ともポーダマンへの対処には慣れている。数に圧倒さえされなければ、苦戦するような相手ではないのだ。
──そのような状況下で、同じ赤に身を包んだ快盗と警察は早くも対峙していた。
「快盗……!おめェら、性懲りもなくまた!」
問い詰めつつ、VSチェンジャーの引き金を引くパトレン1号。対して狙い撃たれたルパンレッドは、手近なポーダマンの首根っこを掴んで自らの前面に押し出した。光弾を心臓部に浴び、彼は短い断末魔とともに絶命する。
「ハッ……ンだよヒーロー崩れ、今日は随分カリカリしてんじゃねーの?」
「ッ、るせえ!どうしてここがわかった!?」
「てめェらに教えてやる義理はねえ、ッなァ!!」
反撃の光弾を放つレッド。VSチェンジャーの威力では警察スーツを破れないことはもうわかっている、まして切島鋭児郎が相手では個性で衝撃も殺されてしまうことも。
実際、彼は予想通りの行動をとった。肉体を硬化させ、受け止める。しかし予想していたということは、それを見越した行動をとるということだ。1号がそうしてその場に踏みとどまっているうちに、レッドは標的を変えていた。──ガバットに、飛びかかったのだ。
「ええっ、オレぇ!?」
「たりめーだ、ろうがッ!!」
マントを翻しながら、跳躍の勢いそのままに回し蹴りを放つ。狙いは頸部、これは間違いなく有効打と勝己は確信していた──
──刹那、ガバットの全身が鈍色の輝きを放った。
「!?、い゛……ッ!!?」
足を襲う激痛に、ルパンレッドはらしくもなく悶える羽目になった。一方で、ガバットはガバガバと特徴的な笑い声をあげている──ダメージを受けた様子は、ない。
何が起きたのか、鋭児郎には一目でわかった。
「アイツも硬くなれんのか……!?」
ルパンコレクションの能力か。いずれにせよパトレン2号と3号も攻撃に加わってもなお、まったく通用していない。
「ガバガバガバッ、コレクションある限りオレは無敵だァ♪」
「……!──そうかよ、だったら!」
走り出す1号。一歩また一歩と進むことに、その皮膚が硬くなっていく──
「烈怒頼雄斗──安無嶺過武瑠ッ!!」
警察スーツの下で、彼はいよいよ荒山の岩肌のごとき様相を呈していた。ダイヤモンドのような肉体が、ガバットに激突する。
「ガバァッ!!?」
弾き飛ばされたのは、ガバットのほうだった。
「な、何故ェ……!?」
「道具に頼って手に入れた力なんかにッ、烈怒頼雄斗は負けねえんだよ!!」
拳を打ち鳴らすパトレン1号──烈怒頼雄斗。それはまさしくいっぱしのプロヒーローの、あるべき姿だった。
「チッ、いっちょまえにヒーローやりやがって」
毒づくレッド。──だが、
「ええいっ、今のはちっとビックリしただけだ!もう一回硬くなって……アレ?」
硬くなれない──ルパンコレクションの能力が作動しない。そのことにガバットが気づいたときにはもう、ルパンレッドの手が金庫から抜け出ていた。
「ハッ、探してンのはコイツかよ?」
「!」
彼の手にあるのは──ルパンコレクション。
「ガバな……あイヤ、馬鹿な!?」
「馬鹿はてめェだ死ね!!」
今度こそ飛び蹴りを炸裂させてガバットを吹っ飛ばし、レッドは仲間たちのもとへ舞い戻った。
「よくやった、レッド」
「前々回に続き最速タイ、やね!」
「マヌケが相手じゃ張り合いねーわ。──おい警察、ヒマそうだなァ?」
「……!」
レッドの挑発に、パトレンジャー……とりわけ1号は憤慨した。ただ、その怒りを向けるべき敵は快盗よりまずギャングラーであることもわかっている。
「ギャングラー倒すのは……俺らの任務だ!」
硬化を解除し、今度はパトメガボーを振るって猛攻を仕掛ける。コレクションを奪われたことに動揺してか、ガバットはもうまともに反撃できない。散々に殴りつけられ、挙げ句に自らがムシバミ菌を塗りたくった壁面に叩きつけられる。
ようやくの手応えに1号が喜びを噛みしめていると、いつも通り漆黒の翼が飛んできた。
『グッドストライカーぶらっと参上~!』
「来たなグッドストライカー!手ぇ貸してくれ!」
『ちょっ、オイラの気分も聞いてくれよう~』
不平を述べつつも、彼もやぶさかではなかったらしい。そのまま大人しく1号の手中に収まり、VSチェンジャーに装填された。
「行くぜ飯田、耳郎!」
「よし来た!」
「……あんまり気乗りはしないけどっ」
三人の身体が光に包まれ、
『1号・2号・3号!一致団結!』
三位一体の戦士──パトレンU号が誕生した。
ガバットはルパンレンジャーに翻弄され、完全に意識を外している。今が、好機だ。
『イチゲキ──』
「「「──ストライクっ!!」」」
最大火力の砲弾が放たれる。いち早くその接近に気づいた快盗たちが素早く身を翻し、取り残されたガバットは──
「ガ……!?ガバ、ガババビッチ~~!!?」
弾丸の直撃を受け、その身はあえなく爆発四散。劫火の中から投げ出されたひしゃげた金庫が、ダムへと落下していった。
「っし……!任務、かんりょ──」
「ごくろう、サツのイヌども」
「!」
ルパンレンジャーは既に逃走を開始していた。いつまでもそれを許してはいられない──死柄木弔のこともある。
「今日こそ……逮捕してやる!!」
U号を解除し、彼らは追跡を開始する。──そのために、ほとんど入れ違いでゴーシュ・ル・メドゥが出現したことには気づけなかった。
「さてと……私の可愛いお宝さん、ガバットを──あら?」
ガバットの金庫が見当たらない。仕方なしにゴーシュは自身の金庫のコレクションを入れ替え、周囲をサーチした。そうして程なく、湖底に沈む目的のモノを発見したわけであるが。
「ええっ……ここからで、届くかしら?」
まさかダイビングを敢行したくはない。周囲に敵がいなくなったこともあり、ゴーシュは悠長に考え込んでいたのだった。
*
一方、戦場から離脱したルパンレンジャーの前に、比喩でなく立ちはだかる男がいた。
「
「貴様、死柄木弔……か?」
ルパンブルーの語尾が疑問形になるのも無理はなかった。彼は昨日の黒服でも国際警察の制服でもない、銀色に光る燕尾服姿でそこに立っている。まあ服装だけなら顔の特徴で判断すれば良いことなのだが、今、彼の顔面は手で覆われていた。彼自身のではない、手首から先だけの、妙に生々しいオブジェクトに。
「ンだよソレ、覆面のつもりか?」
「……さあね。それより、首尾は?」
「あ、うん。ばっちりゲットできたよ!ね?」
不承不承頷いたレッドが、回収したルパンコレクションを示す。それを認めて、弔は覆面の下の唇をゆがめた。
「へぇ。流石、お見事お見事」
心のこもらない称賛の言葉を投げかける。──その姿を、快盗のあとを追ってきたパトレンジャーもまた目撃していた。
「死柄木……!」
「やはり、彼が快盗に情報を流していたのか……!?」
「……ッ、」
信じたい気持ちもあった。しかし結局、あの男は快盗の仲間だったのか。失望めいた感情がパトレンジャーの心中を覆いはじめたそのとき、弔は思いも寄らぬ言葉を口にした。
「じゃあさ……寄越せよ、情報料」
「……どういう意味だ?」
その問いに言葉では答えず、
「──快盗、チェンジ」
快盗Xチェンジ──Xチェンジャーがコールした通り、彼の全身は白銀に輝く鎧に包まれていく。それは彼の、快盗としての在るべき姿でもあった。
「孤高に煌めく快盗……ルパン、エックス」
「予告する。──ルパンコレクションは、俺が回収する」
「……!」
仲間であるはずの快盗めがけて、エックスは躊躇なく引き金を引いた──