ルパンエックスの奇襲は、快盗たちを翻弄するに余りあるものだった。
「てめェどういうつもりだ!ア゛ア!?」
「ははっ、四六時中威勢だけは良いなァ……レッドくん?」
彼らの輪をかき乱すように中心を侵す白銀に、目がちかちかする。そうして押されていくルパンレッドを、すかさずイエローが援護した。
「やめて……!エックスさん、私たちの味方じゃなかったん!?」
「味方?ははっ、快盗のクセに純情すぎるんだよきみは。ダメだよ昨日今日会ったばっかの人間を簡単に信用しちゃあ」
「この世はさァ、利用するかされるか、ふたつにひとつなんだよ。……快盗なら、利用してみせろよ」
ぞっとするような声に、思わず手が震える。──でも、それを押し殺すしかなかった。
「あァそうかよ……。だったらてめェはあの世逝けや!!」
レッドのこの言葉を皮切りに、ルパンレンジャーもいよいよ本格的な攻勢に出た。同時射撃でその場に縫いつけたうえで、取り囲んで三方から攻撃を仕掛ける。この間数秒、並みのギャングラーが相手なら、彼らのスピードにはついてゆけないだろうが。
「ハァ……」
ため息混じりに、エックスはそれらすべてを捌いてみせた。さらにXチェンジャーで、Xロッドソードで反攻を仕掛ける。脇目は振らない、狙うはコレクションを持つレッドただひとり。
「チィ……ッ!」
舌打ちしつつ、レッドも全力で応戦する。反射神経といいスピードといい、大したものだと弔は密かに感心した。一朝一夕の付き合いで既に明らかな傲岸不遜ぶりも、この能力の高さに由来しているのだろう。──そのぶん、屈辱には弱い。
「調子に乗るなよ、ガキが」
「ッ!」
一瞬の鈍った左腕を掴み、捻りあげる。そうして身動きを封じたうえで右手に収まっているコレクションを取り上げようとするも、すんでのところで飛び込んできたイエローの手にそれは渡った。
「!」
「は、なせやックソがぁ!!」
思いきり後頭部で頭突きを浴びせる。これは流石のエックスも想定外だったようで、拘束が緩んだ。その隙に離脱し、さらにドロップキックをかます。──相変わらず、快盗というより不良の喧嘩のようなやり口だ。
初めて吹っ飛ばされたルパンエックスだったが、地面に剣先を突き刺すことで勢いを殺してみせた。
「痛、ってぇ……。ったく、ほんとムカつくなァきみ」
「こっちはムカつくどころじゃねえんだよ……!とっとと失せろや、もしくは死ね!!」
吼えるレッド。再びコレクションを手にした彼を、ブルーとイエローががっちり守るような布陣をとっている。態度の割には仲間から信頼されているようだが……そろそろ潮時だろう。
「そうはいかないね。……国際警察の誇りにかけて、任務は必ず遂行する」
「!」
その言葉に反応したのは、快盗たち以上にパトレンジャーの面々だった。自分たちが常日頃思っていることと、同じ志。死柄木弔は今、それを言明したのだ。
国際警察の誇り──有言実行とばかりに、彼はXチェンジャーの銃身を転換した。
「──警察チェンジ」
白銀が黄金に。硬質な鎧がスピードを重視した軽装へと変わる。死柄木弔──エックスの、警察官としての姿。
「さあ、
言うが早いか、パトレンエックスは地面を蹴って跳躍した。そのまま身体を空中で一回転させ、敵陣へ飛び込む。狙うはレッド。当然ブルーとイエローが彼を守るべく迎撃するが、そのスピードは彼らルパンレンジャーを凌いでいた。
「ははっ、当たらないなァ!」
「……ッ!」
まるで翼が生えているかのように宙を舞い、敵を撹乱する。かと思えば鋭い斬擊やキックを繰り出す。そうして陣形を乱しに乱したところで、エックスはいよいよ仕上げにかかった。
「ふ──ッ!」
至近距離からの銃撃をわざと引き付けてかわし……がら空きになったルパンレッドの腹部に、十手を叩き込む!
「がッ……!?」
臓腑が搾り上げられるような苦痛とともに、レッドは大きく後方へと弾き飛ばされた。かろうじて仲間たちが受け止めてくれはしたが、それはこの戦局になんの影響ももたらさない。
何故なら今の一撃を通して、ルパンコレクションはエックスの手に渡ったからだ。
「ルパンコレクション、回収……もとい押収。悪く思わないでくれよ、これも平和な未来のためなんだ」
「ッ、……誰かと違って、卑怯なお巡りだ」
苦々しげに毒づくレッドだが、パトレンエックスが自分たちを上回るスピードとテクニックの持ち主であることは認めざるをえなかった。そんな相手からルパンコレクションを奪還するのは至難の業、まして背後にもパトレンジャーがいる。
「……やむをえん、ここは退くぞ」
「クソ……ッ!」
「~~ッ、絶対許さないからね!」
足下を一斉に撃ち、火花と硝煙で身を隠すルパンレンジャー。撤退する彼らを、パトレンエックスは追いかけない。ルパンコレクションを掠めとったことで、任務は完了しているからだ。
代わりに追跡を再開しようとしたパトレンジャーの面々だったが、彼ら──2号と3号に対して、エックスは何かを投げ渡した。
「!」
「ム、これは昨日の……?」
快盗たちにも使わせた、列車型のVSビークル。怪訝になる彼らに対して、エックスは顎をしゃくってみせた。
「今度はきみらが手ぇ貸してくれよ。まあ、考えてるヒマはないと思うけど」
彼の言う通りだった。突如地面が揺れたかと思えば、ダムから巨大化したガバットが出現したからだ。
「ガババァッ、ゴーシュのヤツ勿体つけやがって~!!こうなりゃ、ここら一帯にムシバミ菌を撒き散らしてやるゥゥ!!」
「ッ!」
エックスはすぐさまエックストレインを発車させ、巨大戦に臨もうとしている。彼に任せきりにする選択肢はなかった、ましてVSビークルを託されていれば、尚更。
「耳郎くん!」
「……ったく、やるしかないか」
肚を決めたふたりが、それぞれをVSチェンジャーに装填──
『ファ・ファ・ファ・ファイヤー!』
『疾・風・迅・雷!』
──エックストレイン"ファイヤー"と"サンダー"が、出撃する。
「………」
そしてパトレン1号──切島鋭児郎。やはりというか、ヒーローへの嫌悪感をもっているらしい弔から協力要請はなかった。必要もないのかもしれない。
それでも彼はヒーローであり、今はパトレンジャーの一員だった。
*
「──ついてこいよ、おふたりさん」
『言われるまでもない!』
巨大ガバットを標的に、突撃を敢行するエックストレインの群れ。ブラシ片手に迎え撃たんとするガバットだったが、遠距離攻撃の手段を持っていないことは大いなる不利だった。
「喰らえッ──疾風迅雷!!」
空中線路を走りながら、稲妻を迸らせるサンダー。さらにファイヤーが熱線砲で続く。同時攻撃への対処に苦慮するガバットだが弱り目に祟り目、エックストレイン本体ともいえるゴールドが超速で突進してきた。
「が、ガバァ~!!?」
──撥ね飛ばされる。
「ははっ、雑魚は大きくなっても雑魚だよなァ……──ん?」
後方から距離を詰めてくるビークルの存在。それを操るのが何者か、考えるまでもない。
「烈怒頼雄斗……ハァ、わざわざ出てきたか」
ため息をつくエックス。しかし4vs1となったことで、さらに攻勢を強めることができるのも確か。別に好き好んで戦闘を引き伸ばすつもりはないのだ。
それに鋭児郎自身、一度参じたからには退くつもりは微塵もなかった。
「──グッドストライカー!」
『Oui!』
「飯田、耳郎!合体だ!」
『!、う、うむ!』
『……オーケー!』
警察ガッタイム──正義を掴みとるための儀式。グッドストライカーを中心に、トリガーマシン1号、そして雷と劫火の名を冠した2台の列車とがひとつとなる。
その名も、
「「「完成──パトカイザー"トレインズ"!!」」」
「ッ、何カイザーが知らないがァ……!ムシバミ菌の餌食にしてやる~!」
ブラシの先にムシバミ菌を集中させ、力いっぱい振るうことでそれをばら撒く。まともに浴びればどんな鋼鉄も容易く溶け崩れる代物だったが、人智を超えたVSビークルの集合体には通用しない。
「ハァ……遅い遅い」
エックストレインゴールドはそのスピードでもってムシバミ菌をかわしきると、ガバットの足下、至近距離から砲弾を浴びせたのだ……股間に。
「ガバァッ!?そ、そこはダメっ」
「……おまえ面白いこと言うね」嘲いつつ、「さて……あとはお手並み拝見といこうか」
いったん離脱したエックストレインゴールドに代わり、今度はパトカイザートレインズが接敵する。両腕で殴る、殴る、殴りつける!シンプル極まりない戦法だが、トレインズの出力の大きさゆえこれは極めて有効だった。
「ガババァ……こ、この距離なら避けられまいィ!」
やられっぱなしではいられず、ガバットも反撃に出た。ブラシをトレインズの機体に突き立て、直接ムシバミ菌を浸透させようと試みる。試みては、いるのだが……。
『ん~?なんか磨かれてるぞ?』
機体の根幹をなすグッドストライカーがその程度の認識でいる──つまり、
「そんな攻撃、パトカイザーには通用しない!!」
刹那、トレインズが激しい電撃を放出する。その衝撃にたまらず吹っ飛ばされるガバット。再び距離をとったところで、いよいよ仕上げにかかる。
「っし、トドメだ!」
「「「──パトカイザー、スパークアップストライクっ!!」」」
稲妻を纏った右腕──サンダーを、振り下ろす。突き立てる。引き裂く!
「ガババァッ!!?も、もう一度リカバー……できませんでしたガバァァ~ッ!!」
──爆散。巨大化してなお粉々になったギャングラーは、もはやゴーシュの力をもってしても復活させることはできない。
つまり、
「「「任務、完了!」」」
『気分はサイコ~!』
戦いは終わった。今回も、彼ら人間が未来を掴みとったのだ。
「………」
パトレンエックスは何も言わなかった。ただ列車を率いて真っ先に戦場を去っていく。少し迷ったあと、パトレンジャーの面々もそれに続くのだった。
*
夕日差し込むタクティクス・ルームにて、切島鋭児郎と死柄木弔が再び対峙している。表情は互いにやはり懇ろとはいえず、朝と同様の緊張感を漂わせているのだが。
それを自ら破るように、鋭児郎は仏頂面のまま右手を差し出した。
「……何、それ?」
「あんたを……仲間として認めたい」
そのための、儀式。
弔は応じず、小さく鼻を鳴らした。
「そりゃ助かるけどさァ……俺はきみらに迎合するつもりはないよ」
「利用するかされるか……だったよな」
「……へぇ、聞いてたのか」
まあ、あの場にいたのだから当然か。もはや癖になってしまっている空疎な笑いが、自ずと漏れだす。
「俺のこと、利用するつもり?それとも利用されてくれるのか……ははっ、それなら本当にありがたいけど」
「……違ぇよ」
「は?」
「──俺はあんたの考え方に賛成できない。だから利用するとかじゃない、心の底からあんたを信頼するんだ。あんたも平和な未来のために戦ってるんだって、その覚悟だけは二度と疑ったりしない」
鋭児郎の瞳が、強い意思を露に弔を射抜く。一瞬言葉を失うほどに、それは眩しくて。
覚悟、と鋭児郎は言った。そして鋭児郎自身の覚悟も、仲間たちに伝播した。
「……そうだな、切島くんの言う通りだ。やり方は違えど我々は同じ志のもとに進んでいく。まずは信じなければ始まらない」
「ま、利用するとかされるとか……そんなの些末な問題だしね」
所属どころか思想の違いすら飛び越えて、パトレンジャーの面々は弔を受け入れると決めた。発足してまだ半年にもならないこのチームの一体感が、弔の前に立ちはだかる。
それに気後れすることなく、彼は唇をゆがめて笑ってみせた。
「……どーも。平和のために、一緒に頑張ろうなァ」
ここに来て初めて友好的な言葉を吐き、自らも手を差し出す──手袋は填めたまま。今さらそのことを指摘されはしなかったが、がっちりと交わした硬い握手は、塚内管理官が引き剥がしにかかるまで意地になって続けられたのだった。
*
一方、弔に手痛い敗北を喫した快盗たち。しかしその事実とは裏腹に、面々はさほど気に病んだ様子ではなかった──爆豪勝己が
「チッ、あのダブスタ野郎マジでブッ込んできやがった」
Xロッドに打たれた腹を擦りながら毒づく。対して轟炎司は、笑みすら浮かべてその言葉に応じた。
「とはいえ、おかげで警察を欺くこともできた」
「……まーな」
勝己の脳裏に、弔の陰気な声音が甦る。
『──実はさァ、パトレンジャーの連中にスパイじゃないかって疑われてるみたいなんだよな』
「たりめーだろ」──切り出された相談に対して、勝己の返答はにべもないものだった。ルパン家の人間だとわかっている彼ら快盗でさえ、弔への不信感は拭い去れないのだ。
『ハァ……酷いなァきみらも。まあそれは置いといて、ここはひとつ協力してくれよ、お互いのためにもさ』
「協力だァ?」
『俺ときみらが戦って……俺が勝つ、その姿を連中に見せる。そうすりゃ完全にきみらの仲間だとは思われなくなる。……どうする?この話、乗る?乗らない?』
──……。
「信用して、いいんかな?死柄木さんのこと……」
「コレクションを破壊されるリスクが減ったのは、間違いないだろうがな」
「………」
「……信用じゃねえ、利用すんだ」
勝己のそれは、弔が示したのと同じ言葉だった。あの欺瞞にまみれた相剋の中で……あれだけは、紛うことなき彼の本音だと確信している。
だったら、
「サツどもと同じだ。消えねえってンなら、徹底的に使い潰してやる……!」
*
人気のない夜道を、死柄木弔は野良猫のように歩いていた。漆黒のフードを目深に被り、わずかに覗いた白髪を揺らす。
「ハァ……今日五回も着替える羽目になった。帰ったら六回目か……めんどくさ」
でも自分で撒いた種かと、首を掻きながらだるそうに嗤う。風貌も相俟って、今の彼に積極的に近づこうという者はいないだろう。
──"彼"を、除いては。
ワープゲートを通して突如宵闇の中に現れた、黒い靄の男。行く道に立ちはだかるその姿を前に、弔は驚くでもなく淡々と立ち止まった。
「ご苦労様です、死柄木弔」
「……黒霧か。何、なんか用?早く帰って顔パックしたいんだけど」
「……努力の割にはいっこうに成果が挙がりませんね。それはさておき、私がここに来た
「ハァ……"コレ"ね」
ガバットより回収したルパンコレクションを、懐から取り出す。やおら歩み寄った黒霧は、それを受け取ろうとするのだが──
黒霧の指がコレクションに触れようかという瞬間、弔はひょいと手を引っ込めた。
「!」
「その前に……お茶でもしようか。──黒霧サン?」
実に悪辣な笑みを浮かべて、弔は告げた──
à suivre……
「競り落とせば良いんだよ。大丈夫、金ならある」
次回「ハンマープライス」
「ハイ、百万ドル」
「金銭感覚どうなっとんねん!!」