【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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経済力チート


#23 ハンマープライス 3/3

 

 すべての準備を終えた数日後。

 弔の仕掛けた"ゲーム"は、とある野外劇場にて山場を迎えようとしていた。

 

「ふぁあ……」

「………」

 

 弔とお茶子が最前列に並んで座り、ステージの上でオークショニアが所在なさげにしている。なんとも形容しがたい光景を、残る快盗二名が密かに見下ろしていた。

 

「マジでのこのこ来んのかよ、ギャングラーの野郎」

「来なければそいつがギャングラーだ。……招待状の送付先が正しければの話だが」

 

 招待状──弔がジムを利用したのは、そのためだ。あのオークションに参加した者たちを特定し、此処へ呼び寄せる──

 

 いずれにせよ、その正確性は警察のもつ情報がどこまでアテになるかの試金石にもなるか。そんなことを思いながら待ちかねていたらば、やがてばらばらと人が集いはじめた。

 

「役者が揃ったか」

 

 役者──オークションの参加者たち。場所が場所だからか、皆、一様に怪訝な表情を浮かべている。そのうちのひとりからこんなところで開催できるのかと詰問され、オークショニアは救いを求めるような視線を依頼者たちにぶつけた。

 

 それに応えるように、弔がす、と立ち上がる。

 

「オークションなんて無いよ、悪いけど。じゃ、ちょっと協力してくれ」

 

 目配せを受け、お茶子がまず強面の男性のところへ駆け寄った。「失礼します」と威勢よく頭を下げ、

 

「むにむにむにむにっ!」

「痛ででででっ!?」

 

 いきなり頬を全力で引っ張る。傍から見ると奇行としか思えない行為である。

 

「なっ……にすんだ!?」

「あなたは本物!次っ!」

 

 外国人の男、爬虫類に似た異形型の男、老紳士と次から次へ頬を引っ張っていくお茶子。当然ほとんどの人間は抗議したが、中には年端もいかない少女との接触ということでちょっとにやけている者もいた。

 閑話休題。

 

「あれ?全員……本物?」

「当たり前だ!」

 

 話と違う。上から降りてきた快盗二名が、弔に詰め寄った。

 

「てめェどうなってンだ?ギャングラーはこん中にいるんじゃねえのかよ」

「いるよ。──ただし、こっち」

 

 言うが早いか、弔は振り向きざまにカードを投げつけた──オークショニアに向かって。

 突然のことに身構える暇すらなかった男の身体が鋭く切り裂かれ……まるで破裂するかのようにして、怪物の姿が露になる。

 

「し、しまったリス……!」

 

 正体の露呈したギャングラー、グリスト・ロイドの出現により、呼び寄せられた客たちは動転して逃げ去っていく。快盗たちにしても、彼らはもう用済みだった。どこへなりとも行くがいい。ただ弔だけは、彼らの行き先がひとつしかないと知っていた。

 

「ハァ……やっぱりな」

「やっぱりって……死柄木さん、ギャングラーが誰かわかってたん?」

 

 似顔絵まで描いたのに!頬を膨らませるお茶子の頭を、弔は宥めるように軽く叩いた。

 

「確証はなかったんだよ、あればもっとスマートにやった。ま、こうやって正体見たりなんだから結果オーライだろ?」

 

 プロセスに再考の余地はあれど、結果は結果だ。今度こそギャングラーを捕捉した以上、やることはひとつ。

 

「行くぜ、──」

 

「「「「──快盗チェンジ!!」」」」

『Xナイズ!』

『レッド!』

『ブルー!』

『イエロー!──1・1・6、マスカレイズ!』

 

『快盗、Xチェンジ!』

 

 グリストの目前で、四人の姿が光に遮られ。

 

「──ルパンレッドォ!!」

「ルパンブルー……!」

「ルパンイエロー!」

「ルパン、エックス」

 

──快盗戦隊、ルパンレンジャー。

 

「……代金はきっちり支払ったんだ。コレクション、返してもらうッ!」

 

 一斉射撃を開始するルパンレンジャー。対するグリストは、

 

「ふふん、やなこったい!リッスッス~ン!」

 

 ステージ上を素早く跳ね回り、喰らいつく光弾を次々にかわしていく。初戦と変わらぬスピード、さらに敵の攻勢が緩んだと見るや松ぼっくり爆弾を投げつけてくるのも変わらない。

 

「ッ!」

 

 素早く身を翻すルパンレンジャー。ただし少なくともエックスだけは、むしろ僥倖だと思った。反撃してくるのは、戦う気があるということ。ならば秒で目的を果たしてみせる。

 

「囲んで袋叩きだ、ヤツのスピードを封じる」

「……いいだろう!」

「命令すんなや!」

 

 反応は対照的だったが、行動は統一されていた。エックスの指示に従って散開し、四方から攻めにかかる。

 

「り、リス~~!」

 

 悲鳴じみた声をあげるグリストだったが、それでも瞬発力があるだけそう簡単には圧倒されない。ふざけた言動に反して、それなりの──以前の"ステイタス・ダブル"に勝るとも劣らない戦闘力はあると弔は感じた。

 

「でも……それだけじゃあさァ!」

 

 Xロッドソードを思いきり振り下ろす。その一撃は剣先がかするだけに終わったが、彼の狙いはグリストを反射的に後退させることにあった。

 

「イエロー!」

 

 呼び掛けると同時に、彼女は動いていた。エックスの足の間にしゃがみ込み、引き金を引く。

 

「リスッ!!?」

 

 初めて直撃をとった。仰け反るグリスト。その隙を逃さず、レッドとブルーが彼の両腕を拘束する。

 そして、

 

『0・2──7!』

 

 金庫が開かれ、仕舞われたルパンコレクションが抜き取られる──

 

「"小さな泡"、ご返却~」

「ああっ、しまったリス~!」

 

 狼狽したところを思いきり蹴り飛ばし、ステージ上から叩き落とす。ステージアウト、これで終わりだ。

 

「──警察チェンジ」

 

 "Xナイズ"の音声とともに、エックスのボディが白銀から黄金へと変わる。と同時に、いつも通りぶらっと参上したグッドストライカーが、レッドのVSチェンジャーに合体した。

 合体──パトレンジャーであればまさしくそうなるところ、ルパンレンジャーはレッドが三人に分裂する。どれが本物かは本人すらわからない、ある意味魔性の切り札。

 

「り、リス~!?」

 

 逃げ出そうとするグリストだがもう遅い。"六人"は既に、必殺技を放つ用意を終えていた。

 

「──エクセレントエックスッ!」

『イチゲキ、Xストライク!』

『イタダキストライクッ!!』

 

 更に、

 

『サイクロン!』

『シザー!』

『『──快盗ブースト!』』

 

 イエロー、ブルーもまた超級の一撃を放つ。オーバーキルにも等しい同時攻撃はあっという間にグリストを呑み込み、断末魔をあげる間もなくその肉体を爆発四散させた。

 

「──ステージ、クリア」

 

 

 *

 

 

 

「あぁもう、いい線行ってたのに……。──私の可愛いお宝さん、グリストを元気にしてあげて」

 

 神出鬼没のゴーシュ・ル・メドゥの手により、残された金庫にエネルギーが注ぎ込まれる。

 

「リッスッス~~ン!ビッグな男になったリス~!」

「物理的にかよ」

 

 いつも通りのことなので、突っ込みを入れる程度の余裕はあった。そのままやはりいつも通り、グッドストライカーやダイヤルファイターを巨大化させようとしたらば、約一名から待ったがかかった。

 

「あとは俺が片付ける、()()()もしときたいからさ。──つーわけでおふたりさん、この前みたいにヨロシク」

「!」

 

 差し出されるエックストレイン"ファイヤー"と"サンダー"。この男の言うがままというのは抵抗を覚えるブルーだったが、イエローが率先して受け取ったことで結局は追随した。

 

「しゃーない、やろうブルー!」

「……世話の焼ける!」

 

 ふたりが二機を射出すると同時に、エックスもまたシルバーとゴールドを発進させる。──数十秒後には、計四台の巨大列車が街を疾走していた。

 

「めんどくせえシステムしてんな」

「うるさいなァ。いいだろ、協力が前提ってことで」

 

 白々しいことを言ってのけると、パトレンエックスはエックストレインゴールドに飛び乗った。──試運転とは言うが、彼は既に二度この列車で戦闘に参加している。果たして、何をするつもりなのか。

 

「さァ、始めようか。──"エックス合体"」

『警察エックスガッタイム!』

 

 四台のトレインズが軌道を変えた。ファイヤーがゴールドの、サンダーがシルバーの後部に連結する。そのまま互いが垂直に接近していく、あわや衝突かと思われたがおあつらえ向きにゴールドの二両目には接合用の穴が存在していた。

 

 Xを描くようにして連結した四台が、地面から起き上がりながらその姿を変えていく。車体が手足を、胴体を形成する。さらにその際分離したパーツが人間のそれに似た頭部となり、

 

「完成、──エックスエンペラーガンナー!」

 

 黄金の胴体と白銀の脚をもつ鋼鉄の巨人が、誕生を遂げた。

 

『おお~、アレはエックスエンペラー!トムラのヤツ、本気だな~!』

「………」

 

 ルパンレンジャーの面々(+グッドストライカー)が見守る中で、エックスエンペラーと巨大グリストによる一騎討ちが始まった。

 

「リッスッス!そんな木偶人形、粉々に吹っ飛ばしてやるリス~!」

 

 現れた巨人に気後れすることなく、グリストは松ぼっくり爆弾をひたすら投げるというわかりやすい猛攻に打って出た。対するエックスエンペラー、そして運転手もといパイロットであるパトレンエックスはというと、

 

「ハァ……馬鹿のひとつ覚えかよ」

 

 迫りくる脅威を避けるつもりは微塵もない。一応、街の破壊は最小限にとどめるつもりだった。何せ今はパトレンジャーを名乗っているのだ。

 

 回避の代わりにエックスエンペラーガンナーがとったのは、迎撃。腹から飛び出した特大ガトリング砲を連射連射、連射し、松ぼっくり爆弾を穴だらけにしていく。そのままことごとくが空中で爆散した。

 

「リスッ、なぬっ!?」

「ははっ、まだまだァ!」

 

 なおも連射は続く。標的を変えた小さな弾丸の群れはグリストを直撃し、火花を散らした。

 

「ぐえええええっ!!?」

 

 まずい、このままでは蜂の巣にされる。己が身を危ぶんだグリストは、気力を振り絞って弾丸の雨の中から脱出することに成功した。一度抜け出してしまえば、その持ち前のスピードを発揮して追撃を振り切ることもできる。

 

「リッスッス~!オマエの攻撃なんてもう怖くないリス、そ~れッ!」

 

 そのまま勢いをつけて跳躍し、エックスエンペラーの背後に回り込む。後方にいればガトリングに蜂の巣にされることもない、振り向かれるより早く速攻を仕掛けて俯せに倒してしまえばこちらの勝ち。実際、グリストにはそれを為せるだけのスピードがあった──"ガンナー"相手なら。

 

「ハァ……」

 

 敵の意図を読んだパトレンエックスは──ため息混じりに、レバーを回転させた。

 刹那、

 

『快盗エックスガッタイム!』

「!?」

 

 巨人が、側転した。思ってもみない挙動に動揺するグリスト。だがそんな動作はこれから起こる出来事の序章にすぎない。

 回転しながら頭部が変わり、手足が入れ替わり……再び大地に立ち上がったときにはもう、まったく別の姿に生まれ変わっていた。

 

「リス……ウ゛ウッ!!?」

 

 驚いている場合ではなかった。振り向きざまに斬りつけられ、うめくグリスト。

 いつの間にかルパンエックスに再変身していたパイロットが、ニヤリと笑った。

 

転換(コンバート)、──エックスエンペラー"スラッシュ"」

 

 ガンナーとは対照的な、白銀の上半身と黄金の下半身をもつ巨人。

 当然、これには快盗たちも驚いた。

 

「ええ~っ、そんなのアリなん!?」

「ウルセェ俺が知るか!」

「あんたに聞いとらんわ!!」

「だったら黙ってろやクソ黄ばみ!!」

「………」

 

──ともあれ、

 

「リッスゥゥゥゥ!!?」

 

 至近距離に踏み込みすぎたことが仇となり、グリストは全身を切り刻まれる羽目になっていた。頑丈さゆえスプラッタな光景にはなっていないが、いずれにせよ勝負はもうついている。

 

「さァて……そろそろゲームエンドだ」

 

 レバーを引き、右腕の刃にエネルギーを充填する。

 

「──エックスエンペラー、スラッシュストライクっ!!」

 

 そして、"X"を描くように二度、振り下ろす。この一撃が、グリストの死命を決した。

 

「ガハッ!」ハンマーがこぼれ落ちる。「ら、落札~……!」

 

 落札……もとい爆発。

 

「オールクリア……ハァ」

 

 爆炎を背にポーズを決めるエックスエンペラー。そのパイロットはというと、本物のゲームのように勝手に場面が切り替われば楽なのになどとぼんやり考えていたのだった。

 

 

 *

 

 

 

 そういえば、戦禍の蔭にすっかり忘れ去られていた招待者たち。彼らはギャングラーの出現に恐れをなしてひたすら逃避していたわけだが、行く手に待ち構えていたのはある意味その上を行く天敵たちだった。

 

「そこまでだッ!!」

「!?」

 

 背広を着た強面の男数名に、薄いブルーの制服を纏った者たち。──そして、パトレンジャー。

 

「警察!?なんでここに……」

国際警察(ウチ)のフランス本部から連絡があったんでね」

「盗品等関与罪の容疑で、え~……逮捕だ逮捕!」

 

 背広の男たち──警視庁の刑事らが一斉に駆け寄り、取り押さえる。流石見事な所作だと、外様の切島鋭児郎は素直に感心した。

 

「では、被疑者はこちらで引き取らせていただきます。パトレンジャーの皆さん、ご協力ありがとうございました」

「どもっス!──これで裏オークション事件、一件落着だな!」

 

 鋭児郎の頬が紅潮している。彼にしてみれば、警視庁と協力して犯罪捜査を行うのは貴重な経験だったのだ。ヒーローとしてはヴィランとの直接戦闘がメインであったので。

 一方の天哉と響香は、キャリアもあって冷静だった。

 

「ま、死柄木に手柄を譲られたようなモンだけどね……」

「コレクション以外にはとことん興味がないらしいな、彼は……」

 

 なんにせよギャングラーは倒され、平和は守られた。そのことだけは率直に喜ぶべきだろうと、彼らは自分に言い聞かせていた。

 

 

 *

 

 

 

「──"小さな泡"、確かに頂戴しました」

 

 夜のジュレにて、黒霧がルパンコレクションをアルバムに収納する。これにて快盗たちの任務は完了──今回主導権を握ったのは死柄木弔その人であったが。

 

「ハァ……ま、そこそこ金かけた甲斐はあったかな」

「金……そういえば死柄木さん、オークションもっかい開くのにいくらかかったん?」

「あー……依頼料と会場の確保とその他諸々込みで……1億いくかいかないかくらい」

「い、い、いいいいいい……!?」

「あァ言っとくけど、ドルじゃなくて円ね」

「それでも十分変態だから!!」

「変態……」

 

 思わぬ罵倒に鼻白んでいると、黒霧までもが「相変わらず豪気ですね」と皮肉をぶつけてきた。この男にだけは言われたくない弔である。

 

「……うるせえよ黒霧。どうせほっときゃ増えてく金なんだ、必要なときはパパッと使えばいいだろうよ」

「ほっときゃって……どんな悪事働いてんだよ、てめェ」

「いや至って正当な手段だから。ま、これでも昔ッから勘は鋭くってさァ……宝くじは当たるし株は上がる上がる。それで儲けた金を運用してるだけ、簡単だろ?」

「それで腐るほど金が湧いて出るわけか。……好かんな、正直」

「そりゃドーモ」

 

 はは、と捨て鉢に笑う弔は、つまり見かけに反してとんだ資産家ということだ。それ自体は悪いことではない。方法は王道とは言い難いが、自らの手で稼いだ金なのだ。

 

「だからって……だからってぇぇぇ……!」

 

 「金銭感覚どうなっとんねーーーん!!」──健気な少女の哀しき咆哮は、夜の街に虚しく響き渡ったのだった。

 

 

 à suivre……

 

 





「よォ、ドグラニオの爺さん?」

次回「ステイタス・ゴールド」

「ホント傲慢だよなァ……父親っつー生き物は」


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