炎司が出ていってから、時計の短針が一周しようとしていた。太陽が眠り、再び目覚めようとしている時間。──喫茶ジュレには、既に……否、夜通し明かりが灯っていた。
店内は、死柄木弔の作業場として使われていた。炎司から預かったブルーダイヤルファイターを専用のプラグで端末に繋ぎ、修理をする。最初は見学していた勝己とお茶子だったが、何をどうしているか傍目にはまったく理解できなかったのだろう、弔が起きているのをいいことに床に就いてしまった。なんというか、図太い連中である。
その作業も、夜明けと同時に終わりを迎えた。
「ハァ……」
修復したダイヤルの具合をチェックしつつ、ため息をつく。もはや癖になってしまっているそれは、彼が常々抱えている鬱屈の発露なのだが、それを知る者は黒霧など一部を除いてほかにない。──彼の、過去を知る者も。
頭に靄がかかっていくに身を任せていた弔だったが、スマートフォンからタイマーのような軽やかな音が響いたことで我に返った。
表示されたマップに、赤い点が明滅している。──なんと、ちょうどいい時機。惜しむらくは、このビークルの持ち主が戻っていないことか。
「……まァいいか」
先ずはガキどもを起こしてこよう──欠伸混じりに、弔は席を立った。
*
果たして人間界に再び現れたウシバロック──否、ライモン軍団は、朝焼けに照らされた港を闊歩していた。
「キヒヒッ、あのシェフはまぁまぁだったな。流石ウシバロック、料理のセンスだけはピカイチだ」
「"料理のセンスも"だろ、ギーウィ!」
「キヒヒヒッ」
連れふたりが軽口を叩きあう一方で、ライモンはしきりに腹をさすっていた。
「まだまだ足りねぇ……ん?」
彼の視覚は、一様に相向かいから接近する人影を認識した。積まれたコンテナの群れによって光が遮断され、その姿はシルエットと化してしまっている。
ウシバロックとギーウィも気づいたのだろう、歩みを止める。──刹那、
陽光が大地を照らし、三つの姿を照らし出した。
「よォ、なんたら軍団」
「貴様らは──」
──快盗。
「キヒヒヒッ、なんか用かァ?オレら忙しいんだけど」
「用があるから来てンだよ、クソども」
「お宝、いただかなきゃなんだから!」
「……ハァ」
銀色──弔は首筋をぽりぽりと掻いた。
「きみらさァ……作戦、忘れるなよな」
「大丈夫、忘れてないよ!」
「あのウシ野郎、袋叩きにすりゃいいんだろ」
「……わかってりゃいいけど」
侮っているわけではないが、どうにも不安なのだ──この子供らは。
しかしここまで来てしまった以上、やるしかない。Xチェンジャーを取り出す弔、勝己とお茶子もまた、VSチェンジャーを構え──
「「「──快盗チェンジ!!」」」
赤と黄、そして白銀の快盗へと姿を変える。
その様を目の当たりにしたライモンたちは、鼻白むこともなく揃って嘲笑した。
「はん、交代制かよ」
「あ~れぇ?ルパンブルーはまァだおねんねか?それともビビって逃げちゃった?」
「ま、全員揃ったところでライモンちゃんには敵わねえけどナ!!」
虎ならぬ獅子の威を借る牛野郎。対してこちらは元トップヒーローに頼りきりになったことなどない。だから絶対にその鼻を明かしてやると、レッドとイエローが意気を昂らせたときだった。
「──俺ならば、ここにいる!」
「!」
水面に反響する、淀みのない男性の声。
その声の持ち主を捜した一同は直後、快盗とギャングラーとを問わずに度肝を抜かれた。
走りくる碧眼も筋骨逞しい身体つきも、まぎれもなく勝己たちの見知ったもの。──だが、だとするならばその白い甚平は?和帽子は?……何故、屋台を曳いている?
「すまない、遅くなった」
「いや、ええ……どーいうこと!?」
「見ての通りだ。──ウシバロック・ザ・ブロウ!」
「!」
いきなり現れた職人に名指しされたウシバロックは、戸惑いがちに「オレぇ?」と自らを指差した。
「貴様は料理にはうるさいらしいな。あちこちのシェフを拉致したのもそのためか?」
「!、……あァそうさ!なんたってこのオレ、ライモンちゃんの専属料理人だからなァ!」
誇らしげに言ってのけるウシバロック。自分で気を良くしてしまったのか、彼はシェフを拉致した理由をなんの恥ずかしげもなく吐露した。──ライモン軍団が人間世界を本格的に侵略するにあたり、ウシバロック自身も忙しくなるのでもうひとり専属シェフが欲しい。それだけの、理由。
「だが所詮、人間界のシェフなんざオレの足下にも及ばねえゴミばっかだ!なァライモンちゃん、ギーウィ?」
くつくつと嘲いながら頷く二体。──彼らがその"ゴミ"をどう処理したのかは、あまり考えたくはないが。
ふつふつと煮え滾るような感情を胸のうちにとどめ、炎司はあえて唇の端を吊り上げた。
「ふん、果たして本当にそうかな?」
「何ィ?」
「俺が極上の料理を食わせてやると言ったら、どうする?」
元トップヒーローの不敵な問いかけに、相対するライモン軍団はもちろん快盗たちも顔を見合わせた。
「……そいつはいいな。ウシバロック、また勝負してやれ」
「しょーがねえなァ。でもいいのか人間、オレに敗けたら牛のエサだぜぇ?」
「構わん。その代わり、俺が勝ったらルパンコレクションを渡してもらう」
「キヒヒヒッ、勝てたらナ。で、何作ってくれるんだい?フレンチ、それともイタリアン?」
「ふっ……」
「──蕎麦だ」
「「「そ、蕎麦ァ?」」」
「え、炎司さん……どうしてもーたん……?」
「ははっ、エンデヴァーにあんな遊び心があったなんてな。……流石に相手が悪すぎるけど」
「……遊びじゃねえよ」
「は?」
炎司の不可解な行動に最も反発するかと思われたルパンレッドの声音は、存外に落ち着いていた。
「クソオヤジの目、本気だ」
その碧眼に宿るは、ごうごうと燃え盛る心火。そこにはまぎれもない、誇りと矜持が宿っていた。
──そうして、轟炎司vsウシバロック・ザ・ブロウの料理対決が始まった。
審判は後者の仲間であるライモンとギーウィ。ゆえにこの勝負、炎司の圧倒的不利と目されるが……果たして。
「フヘヘヘ……オラオラオラァ!!」
豪快な掛け声とともにレタスを切り刻んでいくウシバロック。そう、とにかく彼は豪快だった。逆に肉などはブロックのままいっさい形に手を加えることなく、ルパンコレクションの能力でこんがりと焼いていく。同時に特製のソースを垂らしてゆけば、香ばしい匂いが辺り一面に広がった。
一方の炎司の作業は、まず蕎麦粉を製麺するところから始まる。武骨な手に似合わぬ繊細な動きで粉をひとつの塊にし、麺棒で捏ねていく。程よい形になったところで、素早く包丁で刻んでいく──
「え、炎司さんすごい……本物の職人さんみたい」
ヒーロー時代をはじめとして、何をしていても様になる炎司だが……今この瞬間は格別だとお茶子は思った。
「──完成完成~。さ、めしあがれ~」
先んじて料理を完成させたウシバロックが、妙に浮わついた声でライモンたちのもとへ皿を運んでいく。やはりというか、繊細さのかけらもない品々である。
しかしウシバロックとしては、それは意図的な……ライモンの好みを反映した盛りつけなのだ。ゆえに彼は勝利を確信した──否、敗北など最初から頭になかった。
「んむ、美味い旨い」
「キヒヒヒッ、やっぱおまえの料理はエクセレントだなァ~」
「ふっ、当然だァ」
胸を張るウシバロック。対して見守るしかない快盗たちは、危機感を覚えていた。
「アレのあとに蕎麦か……」
見るからに味付けの濃そうな料理。対して蕎麦は……つゆの濃度を調節できるとはいえ、素朴な味である。後攻になってしまったのは、不利を加速させてはいまいか。
手に汗握る、といった様子の少年たちを横目で見ながら、弔は密かに嘆息した。
(関係ないだろ、勝とうが負けようが)
こちらが勝利したとてウシバロックが素直にコレクションを渡すはずがないし、敗北しても戦えばいいだけだ。結果は何も変わらない、この勝負は時間の無駄でしかない。その辺りの合理的な判断は、できる連中だと思っていたのだが。
弔の冷笑をよそに、炎司もようやく蕎麦を盛りつけ終わっていた。ちょうどウシバロックの料理を食べ終わった二体のもとへ、膳を運ぶ。
「待たせたな」
「……フゥン、匂いは悪くねえ」一応評価しつつ、「ま、口直しくれぇにはなるといいがな!」
「キヒヒヒッ」
露骨に期待していない様子を見せつつ、二体は割り箸を手に麺を掴みとった。つゆによく浸し、口に放り込む。
──刹那、
「!!!??」
二体のギャングラーは声にならない声をあげて硬直した。力の抜けた指と指の間から、箸がテーブルの上にすり落ちる。
「あ、あがが……あが……」
「ギヒッギヒヒィギギガガゴゴ……」
「!?、ど、どうしたライモンちゃんっ、ギーウィ!!」
様子のおかしい仲間たち。慌てたウシバロックは、瞬時にとある可能性に行き着いた。
「おいおまえッ、まさか毒を──」
「──うんまぁぁぁいッ!!」
「……は?」
ライモンとギーウィが、揃って歓喜の声をあげる。呆気にとられるウシバロックの前で彼らは麺を次々つゆに放り込んでは一気に啜り、間もなく完食してしまった。
「し、シンプルなのに美味い……!美味いのにシンプル……!」
「蕎麦……嘗めておりました……!」
炎司に対し惜しみない拍手と尊敬の眼差しを送る二体のギャングラー。彼らがこの世界に侵攻してきて以来、このような構図は史上初の快挙であった。
一方、事実上敗北を言い渡されたに等しいウシバロックは、その場にがっくりと膝をついていた。
「う、ウソだ……ウソだと言ってよライモンちゃん……」
「ウシバロック、俺の勝ちだ。約束通りルパンコレクションを渡してもらおう」
「……ゃだ」
「何?」
「やだやだやだやだぁぁ!!」
突然、幼児のように駄々を捏ねはじめた牛怪人を前に、場の時間が停まった。
「オレはライモンちゃんのために料理を覚えたんだ……!オレより美味いモン作れるヤツなんて……ヤツなんて……!存在してちゃいけないんだよおおお!!」
激昂したウシバロックが突進してくる。咄嗟に身を翻した炎司だったが、その衝撃に耐えかねて屋台は粉々にされてしまった。
「ッ、貴様よくも……。──エックス!ダイヤルファイターは直っているんだろうな!?」
名指しされたルパンエックスは、肩をすくめながらも"それ"を炎司に投げ渡した。
「ご覧の通り。……俺も一応、プロなんでね」
「ふむ……その言葉だけは、ウソ偽りないようだな」
完璧に修復されている。どんなに弔が胡散臭くとも、それだけはまぎれもない真実だ。
「──快盗チェンジ!」
『ブルー!2・6・2──マスカレイズ!』
快盗チェンジ──電子音声によるリピートと同時に、銃口から放たれた光が炎司の筋骨逞しい身体を覆い尽くした。
──そして、青い煌めきが翻る。
「快盗戦隊……!」
「「「「──ルパンレンジャー!!」」」」
「抵抗は無駄だ。……力ずくでも、目的は遂げる!」
「うるせえええ!!」
すっかり我を忘れているウシバロックは、闘牛よろしく突進を繰り返す。それをかわすことは難しいことではなかったが、いつまでも遊んでいるつもりはなかった。
「イエロー、個性を使え。俺が動きを止める、その瞬間にだ」
「!、了解っ」
ルパンイエローが変身を解除し、──仮面をつけた──麗日お茶子の姿に戻る。彼女の存在がウシバロックの眼中にないことからできる賭けだった。
「レッド、エックス!手伝え!」
「けっ、世話が焼けんなァ!」
「………」
ブルーの後方に陣取るふたり。ウシバロックの突進を──三人がかりで受け止める!
「ぐ……ッ」
それでもなお、ウシバロックの勢いは殺しきれない。憤怒も手伝ってか、そのパワーは凄まじい。このままでは遠からず、三人とも吹っ飛ばされてしまう。
だからここで、お茶子の出番なのだ。
「うぉりゃあぁぁぁ!!」
雄叫びとともに駆け寄るお茶子。右の手袋を脱ぎ捨て──ウシバロックの背中に、掌を、押しつける!
(──発動っ!)
彼女の個性──"
その力で、ウシバロックに掛かっていた重力は文字通りゼロになった。体重がないのと同じ、パワーどころか足を地面につけていることさえできず、彼はふわりと浮かび上がった。
「ウシィッ!?な、なんじゃこりゃあああ!!?」
空中でばたばたともがく姿は、先ほどまでの猪突猛進と打って変わって滑稽そのものだった。
当然、これで終わりではない。イエローに続いて、ブルーもまた己の個性を使用する覚悟を固めていた。
「いくぞ、赫灼熱拳……!」全身から劫火を噴き出し、「──"ジェットバーン"!!」
焔の勢いにまかせて跳躍し……拳にも纏わせながら、力いっぱい殴りつける。トップヒーロー・エンデヴァーの必殺技。
それは言うなれば所詮ギャングラーに及ばないヒトの力であったが、同時に誇り高き英雄の技倆でもあった。
ゆえに、その一撃はウシバロックの精神を打ち砕いた。
「うぎゃああああああ~!!」
全身を火炙りにされながら、地上に墜落──そこに、ルパンエックスが待ち構えていた。
『7・1──5!』
「……ルパンコレクション、回収っと」
「う、うぐああ……っ」
もはや抵抗する気力もないウシバロックだった。ルパンコレクションを回収されてしまえば、もはや快盗たちに彼を生かしておく理由はなくなる。
『グッドストライカー、ぶらっと参上~!』そういうタイミングで、彼は来る。『いやあ今日は熱いし暑い!さっぱりしたモンでも食べたいねぇ~!』
「はっ、あとでクソオヤジに蕎麦作ってもらえや。──行くぞ!」
『Oui!』
漆黒の翼をVSチェンジャーに装填し──その能力を発動させる。パトレンジャーであれば三人の
「じゃあなァ、ウシ野郎!」
『──イタダキストライクッ!!』
中央のルパンレッドが光弾を、左右の分身たちが剣戟を放つ。その膨大なエネルギーがウシバロックの全身を切り刻んでいく。
しかし屈強なことが災いして、彼はそれだけで終ることはできなかった。
「……スペリオルエックス!!」
『イタダキ、エックスストライク!』
ルパンエックスの持つXロッドソードからも十字の剣波が放たれ、激しく回転しながら獲物に喰らいついていく。
肉食獣の群れの贄となり、ウシバロックは遂にその命を散らした──
「うおー、ウシバロックのヤツあっちゅー間にステーキにされちまった」
「キヒヒヒッ、人間にしては見事な手際。満腹じゃなきゃ助けてやってもよかったんだけどねえ」
彼の仲間であるはずのライモンとギーウィは、椅子から立ち上がりもせずそんなことをのたまっている。彼らにとってウシバロックは貴重なシェフであったが、逆に言えばそれ以上でもそれ以下でもない存在でしかなかった。
と、いつも通り現れたゴーシュ。冷酷な彼女でさえ、やや呆れぎみの様子で。
「流石に同情するわ……ウシバロック。──ま、"これ"で元気になりなさい」
ルパンコレクションのエネルギーが焼け焦げた金庫に注ぎ込まれ、巨大化──さらに肉体を再構成させる。
「ウッシ──ー!!ライモンちゃん、見ててくれぇぇぇい!!」
「チッ」
対する快盗たちも手慣れたものである。手持ちのVSビークルを次々に巨大化させていく。エックスだけは、"エックストレイン"ファイヤーとサンダーをいったん仲間に託さなければならず不便なのだが。
『快盗ガッタイム!勝利を奪いとろうぜ~!』
完成、ルパンカイザー。そして、
「──エックス合体」
『快盗エックスガッタイム!』
エックストレインゴールドにファイヤーが、シルバーにサンダーが連結した状態でクロス──現れた巨大な十字架が手足・胴体となり、白銀の上半身と黄金の下半身をもつ巨人へと生まれ変わっていた。
「完成、エックスエンペラースラッシュ!」
*
二機vs一体の対決は、ほぼ互角に進行する。ルパンカイザーとエックスエンペラーの連携プレーは確実にウシバロックを痛めつけているのだが、何しろ彼は見かけ通りタフでパワーがある。自分が傷つくのも構わず突進を続けられれば、次第に押し返されてしまうのだ。
「ッ、ウゼェなコイツ……!」
苛立つルパンレッド。彼の気短は生まれ持った病気としか言い様がないが、このままでは埒が明かないのもまた事実だった。
「奴の戦意を断ち切る……!」
宣言と同時に、シザー&ダイヤルファイターをVSチェンジャーに装填するブルー。
直後、カイザーの顔がスライドオープンしたことで、ウシバロックは驚愕のあまり一瞬その動きを止めてしまった。──そのために、発射されたマシンが顔面を直撃したのである。
「ウシッ!?」
「今だ、グッドストライカー!」
『来たキタ~っ!』
『左腕、変わりまっす!』──ルパンカイザーの核であるグッドストライカーのコントロールによってイエローダイヤルファイターが切り離され、シザーダイヤルファイターが接合する。『剣、持ちまっす!』さらに右腕が、ブレードダイヤルファイターを装備した。
『完成、ルパンカイザーナイト!』
「ウッシィィィ!!」
態勢を立て直し、何度目かの突進を仕掛けるウシバロック。対するルパンカイザーナイトはその場から一歩も動くことなく、ただ剣と盾を構えて立ち続けていた。
──そして数秒後、接触。
「ふっ!」
と同時に、盾を突き出す。そうしてウシバロックをわずかに押し返したところで──思いきり、剣を振り下ろした。
「──!」切り離された角が、宙を舞う。「ぎゃあああああッ、な、なんじゃこりゃああああ!!?」
噴き出す血と痛みに狼狽する。ウシバロックの戦意は、確かに"断ち切られ"た。
「お~、流石ブルー!」
「けっ、とっととトドメを──」
『──どいてろ、ルパンレンジャー』
「!」
はっと振り返れば、エックスエンペラーが側転とともに"
「悪いけど、トドメは俺が貰う」
『ア゛ァ!?てめェ──』
ルパンレッドの抗議の声を無視し、ルパン改めパトレンエックスは必殺シークエンスに入った。
「──エックスエンペラー……ガンナー、ストライクっ!!」
エックスエンペラーガンナーの全身の砲門が開き、一斉掃射を開始する。数メートル大のエネルギー弾の大盤振る舞い。いかに屈強な巨大化ギャングラーであろうとも、その身を破砕しきるまで放たれ続ける。
「う、ウシィィィ……!」
「……はい、ゲームエンド」
ぴたりと、砲弾の雨が止んだ。同時に、ずたぼろになったウシバロックの巨体が傾いていく。
「……ライモンちゃん、ごめん……」
──そんな断末魔とともに、爆散。
「ミッションクリア……ハァ」
『美味しいとこ持っていきやがって、ハイエナかよてめェは』
「……爆豪くんさァ、」
あわやの第二ラウンドは、お茶子が慌てて間に入ったことで開催されずに済んだ。口が悪いのも喧嘩っ早いのも、考えものである──
*
「──そうか……わかった。ご苦労様、死柄木捜査官」
通話を終えて、塚内直正はふぅとため息をついた。そして傾聴していた部下たちに目を向ける。
「聞いての通り今回の事件、解決したそうだ」
「……アイツ、いつの間に」
「快盗と協力して、か。彼の行動は読めないな……本当に」
敵ではない……とは信じている。しかし仲間と言えるのかは疑わしい。彼らパトレンジャーにとって、死柄木弔とはそういう存在だった。
それでも、
「管理官。あいつ、明日は来るんスよね?」
「ああ、その予定だと言っていたが」
「なら逃げた二体のこと、教えてもらわねえと」──困ったような笑みを浮かべながらも、鋭児郎はそうつぶやいた。仲間でなくとも、同志と信じてともに戦う。そう、決めたのだ。
*
一方、管理官への報告を終えた弔はジュレにいた。間もなく黒霧がコレクションを回収しにやって来る、それを待っているいちばん中途半端な時間。それゆえに、三人の会話も耳に入ってくる。
「結局、なんで蕎麦だったンだよ」
勝己の問い。炎司が蕎麦という食べ物にこだわりを見せたことは、快盗としてやっていく中ではなかったように思う。お茶子もまた然りだった。
「焦凍の、好物だったんだ」
「!」
「それだけだ」──そうつぶやいて、炎司は目を細めた。口元にはほのかな笑みが浮かんでいる。
彼もまた、父親なのだと思わせる表情。
「………」
「あれ……死柄木さん、どしたん?」
黙って席を立った弔にお茶子が訊く。
「今日はもう帰る。コレクション、黒霧に渡しといて」
「チッ、たりめーだわ」
ひらひらと手を振りながら去っていく。引き留める者は、いない。
(………)
人気のない帰途を進みながら、弔は今しがたの炎司の表情を何度も思い返す。あの父権の強い性格。そういう父親を、弔は知っている。
「ホント、自分勝手で傲慢だよなァ……父親っつー生き物は」
嘲るような言葉とは裏腹に。彼の表情には、深い哀しみが滲んでいる。それを知る者はなかったし、誰に知らせようとも思わない。
そうやって生きてきたのだ──あの日から、ずっと。
à suivre……
「約束したんだ、生きて帰るって」
次回「不惜身命」
「関係ねえんだよ、ンなこと」