急な臨時休業がままある喫茶ジュレであるが、不思議とその客足は安定している。この日のディナータイムも女性客を中心に繁盛しており、ウェイトレスの麗日お茶子が忙しく動き回っている。
一方で店長の轟炎司と調理担当の爆豪勝己はというと、店とは別のことに意識が向いている様子だった。
「チッ……死柄木の野郎、あれから連絡ひとつよこしゃあしねえ」
スマートフォン片手に毒づく勝己。幸い客席からは死角に入っているのと、一応注文の品は揃えたうえでの行動である。
「国際警察にも目立った動きがない。……大した情報は掴めていないのだろう、あの男も」
「チッ、役立たず」
「そう言う貴様のほうはどうなんだ?」
口を開けて餌を待っている雛鳥になるつもりはない。若者らしくスマートフォンを駆使して情報収集を続けている勝己だが、そちらもはかばかしくはなかった。
*
警察戦隊はジム・カーターという、スマートフォンに輪をかけて優秀な自律型ロボットを戦力として抱えている。こちらも弔に頼りきることなく情報収集を続けているわけだが……実情は、炎司の推測通りであった。
『現状、逃走した二体のギャングラーの手がかりは掴めていません。死柄木さんの書いた似顔絵をもとに捜索を続けているんですが……』
ジムの手元にあるスケッチブックを何とはなしに覗き込んで──パトレンジャーの三人は、思わず硬直した。
「これはまた……随分と独創的な」
「……ホントにこんなヤツらなワケ?」
呆れぎみに振り向き、訊く響香。そこにはもはや己のデスクのごとく応接を占拠している死柄木弔の姿があった。いっこうに治らない唇の乾きをどうにかすべく、しきりにリップクリームを塗っている。
「
「………」
人には得手不得手がある。しかし後者を突っ込まれても堂々としていられる肝の太さは、さすが快盗と警察とを股にかける男というべきか──
*
袋小路に入り込んでしまったかにみえた両戦隊であるが、抜け道は意外な形で見つかるものである。
快盗たちにおいては、尚更。
「うそっ、チケット取れたんですか? トイフロウズのライブ……倍率20倍っていう、あの!?」
仰天したお茶子の言葉に、女性客らは嬉しそうに頷いていた。
「そーそー。しかも連番で全員最前列だよ!」
「やっぱ効果あったよねー!」
「?、効果って……なんのですか?」
「知らないのぉ?これこれ!」
自らの首元を指差す女性たち。そういえば、彼女たちは全員同じペンダントをつけている。草葉を象ったような、独特のデザインである。
「ラッキーペンダント、これ買ってからツキまくっててヤバイんだよね~」
「この前もウチら宝くじ当たったの!全員!」
「へ~……すごい」
お茶子が相槌を打つ背後で……いつの間にか聞き耳を立てていた勝己が、ニヤリと悪い笑みを浮かべていた。
「なるほどなァ、まあまあ使える情報じゃねーの」
話を聞きながら、彼は早くもSNSでラッキーペンダントについて検索をかけていた。女性たちの話を裏付けるような記事がスクロールの度に飛び出してくる。スパムの類いという可能性もなくはなかったが、喰らいついてみる価値はあった。
「なァオネーサンたち」
「!」
客との接触を避ける傾向にある勝己が絡んできたものだから、お茶子は面食らった。一方、女性客らは見目だけは麗しい少年の声かけに満更でもない様子である。己の容貌がこの際武器になることを、彼はよく知っていた。
「そのペンダント、どこに売ってんの?」
訊くと同時ににっこり笑ってやれば、あとは簡単だった。
*
情報を得てさえしまえば、少年が動き出すのは早かった。店を閉めたあと、その足で女性客らから聞き出したペンダントの入手場所へ向かう。
ただ、そこは彼にとって好ましくない施設であった。姦しく、酒と雰囲気に酔いきった若者たちがものごとを考えずに踊り狂っている。いよいよこんなところに出入りするまでになったかと自嘲しつつ、勝己はモーションをかけてくる派手な女を冷たくあしらった。ただ真っ直ぐ、奥へ奥へと突き進んでいく。
そこにはソファとテーブルがワンセットずつ置かれていた。一方に若い男が、もう一方に派手な南国調のシャツを着た男が女を侍らせて座っている。
若者が数枚の万札を渡す。それを受け取った男はほくそ笑むと、草葉の形をしたペンダントを取り出す。──間違いない、ラッキーペンダントだ。
ペンダント片手に上機嫌で消えていく若者と入れ替わりに、勝己も男──オーナーと呼ばれていた──に近づいていった。
「なァ。今のペンダント、俺にも売ってくれよ」
男が胡乱な目で見上げてくる。
「……見ない顔だな。ダメだよ坊やがこんなところに来ちゃあ」
内心苛立った勝己だったが、こういう場所に夜出入りしていい年齢でないのも確かである。表向きは敵意を見せず、親しげに言葉を紡ぎ続ける。
「トモダチから聞いてよ。流行ってんだろ、アレ」
「キヒッ……キミも、幸運が欲しいのかい?」
ラッキーペンダントが目の前に吊り下げられる。それを手にし、勝己は首肯してみせた。──愛想を振りまくのも、ここまで。
「で……こんなモン使って何企んでんだ、オッサン?」
「……どういう意味かなァ?」
「まんまの意味だわ」
睨みあうふたり。勝己のほうは、いつでもVSチェンジャーを突きつける準備はできている。この男の正体が思っている通りなら……であるが。
──しかしそんな折、場を覆っていたミュージックがぴたりと止んだ。
「失礼しますっ、国際警察です!!」
「!」
いつ如何なるときでもよく通る声。人混みをかき分けるようにして現れた四人組は、勝己の見知った者たちだった。
「げ……」
連中、よりによってこんなときに!ギリリと奥歯を噛み締める勝己の存在などつゆ知らず、警察戦隊の面々は揚々と声をあげる。
「このクラブに、ギャングラーが潜伏しているという情報が入った」
「スンマセンけど、捜索に入らせてもらいます!」
「………」
「やれやれ」と、だるそうにオーナーが立ち上がる。それを追わず、勝己は彼の背中をじっと観察していた。このあと何が起こるか、おおかたの予想はついていたが。
「よく探り当てたなァ……キヒヒヒッ!」
パチンと指を鳴らすオーナー。刹那、DJやボーイたちが文字通り化けの皮を脱ぎ捨てた。ポーダマンとしての正体を露にしたのだ。
そして、オーナー自身も──
クラブにいた人々は、突如姿を現した怪物たちにパニックを起こした。彼らの避難誘導を行いつつ、鋭児郎たちパトレンジャーの面々はターゲットと対峙する。
「死柄木、コイツがギーウィで間違いないんだな?」
「ああ、この前蕎麦にむせんでた」
「……蕎麦?」
それは置いておくとして、
「「「「──警察チェンジ!!」」」」
『警察チェンジ!』
『警察、Xチェンジ!』
VSチェンジャーを介してVSビークルのエネルギーが形をとり、警察スーツとして四人の身体に装着される。
「国際警察の権限において、実力を行使するッ!!」
「──殺れ」
戦意と殺意が交錯し、弾丸と閃刃飛びかうダンスパーティが始まった。
ポーダマンを蹴散らしていくパトレンジャーの四人。皮肉を込めてその勇姿を覗き込みつつ、勝己は舌打ちを漏らした。
「獲物横取りしてんじゃねーよ、クソが……」
美味しいとこ取りが好きなのは、弔とパトレンジャーの共通項か。いずれにせよ黙って見ているわけにもいかない、勝己はVSチェンジャーを構えた。
「快盗チェ「はっ!」──!?」
快盗チェンジ、と言うところで……ポーダマンがすぐ傍に転がってきた。それはいい。問題は追撃してきたパトレン3号の視界に、勝己の姿が入ってしまったことだ。
「爆豪……!?」
「ッ!」
VSチェンジャーは咄嗟に仕舞い込んだが、自分の身を隠すには至らない。そうこうしているうちに、他のパトレンジャーにまで自身の存在が伝わってしまった。
「耳郎くんッ、早く彼を安全なところへ!」
「ッ、わかった。──爆豪、こっち」
仔細はともかく、響香たちは自分を逃げ遅れた一般市民と思っていることだろう。今はその設定に乗るしかない。腸が煮えくり返りそうな思いで、だが。
*
「ふぅ……。ここまで来れば、もう大丈夫か」
「………」
響香に連れられ、十分近くも全力疾走する羽目になってしまった。それで息が上がるほど柔ではないが、隙を突いて戦場へ戻るのももはや簡単ではない。
「チッ……」
「舌打ち……まぁいいけど。それより爆豪、なんであんな店にいたの?」
「………」
まあ、当然の問いである。ただでさえ高校に進学せず、表向き煮え切らない生活をしているのだ、大人とすれば心配になるのも頭では理解できる。
感情はともかく、誤魔化すのはさほど難しいことではない。どさくさ紛れにくすねてきたラッキーペンダントが、ポケットの中に入っている。
「これ」
「……ペンダント?」
響香が首を傾げている。
「持ってりゃガチツキまくり、願い叶いまくりの超ラッキーアイテム。今若者の間で流行ってンだぜ、知らなかったろ」
「……なんか、遠回しに年寄り扱いしてない?」
最近、少しばかり年齢が気になりつつある響香である。確かにハイティーンに差し掛かったばかりの少年からすれば、同じ若者カテゴリには入らないのかもしれないが。
まあ、そんなことはいい。問題はそのペンダント、あのクラブで入手した物ということだろう。明確に聞き出してはいないが、十中八九ギャングラーから。
「……ってワケで、国際警察の権限でコレは没収」
「ア゛ァ!?」
唸ってみせた勝己だが、態度に反して抵抗する様子もなくペンダントを引き渡した。なんの執着も窺えない、本当にただの好奇心だけであの場に居たのか。
「けっ、お人好しの横暴は一番タチ悪ィわ」
「そりゃどーも。でもこんな怪しいモノ、国際警察の一員としちゃ見逃すわけにいかないし」
「ケーサツは大変だな、赤の他人のガキまで心配しなきゃなんねーなんて」
「赤の他人、ね……。その割にはあんた、結構ウチらに気ィ回してくれてる気がするけど?」
「………」
それは思わぬ反撃だったらしい。勝己の表情から笑みが消えた。黒々とした澱みを見下ろすその瞳は、どうしてこんなにも傷ついているように見えるのだろう。そう感じているのは自分だけではないはずだと、響香は思った。
*
一方で、クラブでの戦闘は未だ収まっていなかった。
「ッ、コイツらどんだけ隠れてたんだよ……!」
次から次へと湧いて出てくるポーダマンの群れを処理しつつ、パトレン1号が毒づく。大した規模でないクラブでこれとは、完全に乗っ取られている。こんな危険地帯、できれば他にあってほしくはないが。
頭数が減ったこともあり、パトレンジャーはこの雑魚戦闘員らにかかりきりになっている──それを受けて、ギーウィは戦闘に参加することなく踵を返していた。
「やれやれ……」
「──もう帰るのかよ、ギーウィ?」
「あん?」
「もうちょっと遊んでけよ」──友人に対するような気安い口調とともに、エックスはその姿を変えた。
「孤高に煌めく快盗、ルパンエックス。……ルパンコレクション、回収させてもらうッ!」
Xロッドソードで斬りかかるルパンエックス。閃光奔る斬擊を、先頃よろしく後退することで回避する。
「チッ……なら!」
銃撃に切り替える。が、ギーウィはただ単にスピードだけで対処しているのではなかった。胴体の金庫を光らせ、銃弾の軌道をひとりでに変えたのである。
「!」
その様子を目の当たりにした1号と2号は、攻撃に参加するにあたってギーウィの死角に入り込む。──それでも、結果は変わらなかった。
「どうなってんだ……!?」
からくりはわかっている。少なくとも、エックスには。
「……なるほどなァ。コレクション使って回避能力を上げてるってわけか」
「その通り!よ~く知ってるなァ」キヒヒヒ、と下卑た笑い声をあげつつ、「オレも暇じゃない。運が良ければまた会おう、運が良ければな」
念を押すようにそう言って、暗闇へ溶けていくギーウィ。あきらめ悪く追撃を続けるパトレンジャーとルパンエックスだが、やはり一発の命中もとれないまま取り逃がしてしまった。
「ッ、くそ……!」
「あの能力……厄介だ。なんとかしなければ……」
ルパンコレクションを回収する──"なんとかする"といえば、それしかあるまい。そのためには快盗の手があったほうが楽に決まっているのだが、口に出せば藪蛇になることは弔も学習していた。