このエピ投稿し終えたらちょっと短編(数話単位になっちまうかもですが)でも執筆しようかなと考えておりまする
ライモン軍団の両翼であるウシバロック・ザ・ブロウ、そしてギーウィ・ニューズィーを討ち果たしたルパンレンジャーとパトレンジャー。
しかし業を煮やした首魁、ライモン・ガオルファングが遂に、その牙を剥いた──
「オラアァァァッ!!」
全長百メートルを優に超えるスケールにまで巨大化したライモンの一撃が、パトカイザーとエックスエンペラーに降り注ぐ。その一撃の余波は二体の巨人ばかりか、周囲の街にまで衝撃波や爆風となって襲いかかった。
「ッ!」
地上にいた快盗たちも例外ではない。しかし彼らは危機察知能力に長けているのと身のこなしが素早いこともあって、巻き込まれて重傷を負うなどということはなかった。
「あぶっ……ど、どうしよう。あんなの……」
「……どうしようもないだろう、今は」
「ブルー!?」
元とはいえ、ヒーローらしからぬ言葉。しかしそれは覆しようのない正論だった。
「ヤツとまともに戦りあえる手段があるか?パトカイザーもエックスエンペラーも一瞬でやられてあのザマだ、生身の我々の攻撃は通用せん。……策が必要だ」
「……ッ、」
口惜しい気持ちはあれ、反論は不可能だった。それはレッドも同じだったらしい。
結局彼らは、ライモンに発見されぬうちにその場を立ち去ることを選んだのだった。
*
超弩級ライモンの暴虐は、ギャングラーの王の座をほしいままにする男の耳にも入った。それは彼を歓ばせるに余りあるもので。
「はははははっ!そうかライモンのやつ、遂にキレたか!」
「余裕ぶっていたところ、取り巻きどもが続けて醜態を晒しましたから……当然かと」
確かにデストラの言葉は否定できないが、ライモンが本気を出すというのはそれらを帳消しにして余りあるものだ。何せ、
「ライモンが本気になれば世界のひとつやふたつ、あっという間になくなっちゃうわ」
人間どもは、どうするか。大量の英雄を抱え込んだ歪な社会の抵抗は、それはそれで彼女らの愉しみとなっていた。
*
とはいえこのときはまだ、ライモンは本気になってはいなかった。取り巻きどもを倒し、図に乗っている人間を懲らしめるため巨大化したにすぎない。ロボ二体を行動不能に追い込んだことでひとまずは満足し、再び街のいずこかへ潜ってしまっている。そんな、夜。
「──街の状況は?」
パトレン2号こと飯田天哉の問いに、ジム・カーターは淀みなく応じた。
「余茂名町と須田巳町の被害が深刻です。現在、地区のヒーローが消防庁と協力して救助活動にあたっていますが……」
「……むぅ」
そんな状況下で、タクティクス・ルームに引きこもっていなければならないのは拷問に等しい……と、私意のうえでは思う。しかしいざライモンが再出現した場合には自分たちが戦闘の矢面に立つのだ。職分を弁えなければどれもが散漫になり、結果的には使命を果たせなくなるおそれもある。
「にしても、」響香がつぶやく。「自分の意思で巨大化できるなんてね……」
『コレクションを使った形跡がないので、ライモン自身の固有能力かと思われます』
「"個性"としてなら人間にだってありうる能力だ。そう驚くことじゃない」
ギャングラーは一度倒されて初めて、ゴーシュによって巨大化させられるという固定観念があった。塚内の言葉は実に耳に痛いが、彼の場合は自省の意味が多分に入っているのだろう。
「ライモンのこともだけど……死柄木、大丈夫かな」
撤退時の混乱の中、エックスエンペラーと死柄木弔はいつの間にか姿を消していた。自発的にそうしたならいいが、彼の受けたダメージは自分たち以上に思える。無事なのだろうか──切島鋭児郎はただ純粋に、その身を案じていた。
*
甘い匂いが、鼻腔をかすめる。
消息の途絶えた弔が目を覚ましたのは、インテリアの皆無に等しいゴシック調の一室だった。がらんとした部屋は暗く、窓越しに月明かりが差し込んでいる。ただ、部屋の造りには見覚えがあった。
(ジュレ、か)
以前、轟炎司の自室に成り行きで入った記憶から辿り着いた、現在地。ベッドから身を起こしてみれば身体の節々に痛みがはしる。同時に、裸の上半身に包帯が巻かれているのがわかった。
床に足を降ろして、部屋を見回してみる。炎司の部屋も無趣味の中年男性らしく雑貨の類いは少なかったが、ここは輪をかけて何もない。あるのはベッドと、備え付けのアンティークデスクくらい。客人用の部屋という可能性も考えついたが、漂う香りがその推測を否定する。──ニトログリセリンのような甘い匂い。つまり、
「──!」
ふと何者かの視線を感じた弔は、顔を上げた。しかしそこにはデスクと壁しかなく、人が隠れられるスペースなどはない。それでも吸い寄せられるように歩み寄り……まさかと自嘲しつつも、デスクの引き出しを開けた。
果たしてそこには小人などはいなかった。ただ、一冊の大学ノートのみが仕舞われている。表紙が焼け焦げ、インクで記されたタイトルはおよそ判読しがたい。この何もない部屋で、唯一存在を主張しているモノ。
好奇心の赴くまま、手袋の填められたままの手で拾い上げようとしたそのとき、前触れなく部屋の扉が開いた。
「!」
「!、てめェ……!」
かっと目を見開いた爆豪勝己が迫ってくる。握られた拳を見て殴られでもするかと思ったが、間合いに入った彼は意外にもノートを取り上げただけだった。
「……勝手に他人様の部屋の引き出し開けてんじゃねえぞ、コソ泥が」
コソ泥呼ばわりは心外だったが、今回ばかりは自分に非がある。それゆえ弔のリアクションは、ぷいと顔を逸らすにとどめられた。
「ははっ、酷いなァ。きみの部屋とは思わなかったんだ。だいいちこれだけ何もないと、何か見つけたくなるのが人の性ってモンだろ」
嘘だ、半分は。部屋、とりわけベッド周りから漂う独特の香りは、勝己のそれだとすぐにわかった。視線云々は、下手な言い訳にもならないから黙っているとして。
「チッ、庭にでも転がしときゃよかった」
吐き捨てる勝己。それでいて煤けた大学ノートのことは、郷愁のこもった瞳で見下ろしている。
「それ、"デク"の?」
「……!」頬が再び紅潮する。「てめェがそう呼ぶんじゃねえ……!」
「ごめんって、俺本名知らないし。黒霧なら知ってるかもしれないけど」
ただ、"デク"が勝己の取り戻したい人間であることはわかる。
「早く取り戻せるといいなァ。ま、俺も微力ながらお手伝いするけど」
「……はっ、白々しい」
勝己の返答は、つれなく冷たいものだった。
「……それなりに便宜を図ってきたつもりなんだけどなァ、きみらに。まだ信用には足りないって?」
「いくら便宜図られようが、てめェの言動ひとつで帳消しだわ」
容赦のない言葉に、嘆息するほかない弔。ただ、ここまではっきり言われるといっそのこと清々しいものがあった。
「それに、お互い様だろ。俺もあんたに信用されてるとは思わねーし」
「は?」
「ま、いいんじゃねーの、利用したりされたりでよ。……オトモダチでも、ヒーローでもねーんだから」
吐き捨てるようにつぶやいて、出ていく勝己。その背中を見送りながら、弔は思う。
昔からそうだった──ルパン家から一歩外に出ると、他人と絆を結べない。親愛の情を向けているつもりでも、相手にそうと受け取ってもらえない。此処でも、同じというだけのことだった。
*
短い夜の果て、訪れた朝。
潜伏していたライモン・ガオルファングは、己が野望を成就すべく動き出していた。同じステイタス・ゴールド──ザミーゴ・デルマと合流していたのだ。
「よォザミーゴ。オレ様と手ぇ組むってハナシ、返事はどうよ?オレたちなら、面白ぇことができると思うぜぇ?」
確認の体をとりながらも、ライモンは既に答を確信している。感情の抑制がきかない男なので、言動の端々からそれが漏れ出してしまっているのだ。
ゆえに、ザミーゴは嘲った。
「サッムぅ!」
「な……!?」
想定外の反応に、ライモンは大きな口を無意味に開閉させている。実に滑稽な姿だ。
「手を組む?……違うだろ、おまえは俺を自分の手の内に置きたいんだ。お前のコレクションは俺には通用しないから!ハハハハハッ!」
「きっ、貴様ァ!!」
図星を突かれたライモンは、激昂して目の前の青年に襲いかかった。目にも止まらぬ速さで振り下ろされる巨大な爪。しかし攻撃を予期していたザミーゴは、容易くそれをかわしてみせた。
「その短気……治したほうが身のためだよ?」
「黙れェ!!」
ため息をついたザミーゴは……次の瞬間、その身を氷の蛹で覆っていた。そこから蝶が羽化するかのように、本来の怪物の姿を露にする。
「やれやれ……」
それでも人が変わるわけでなく、終始煩わしげにあしらうばかりなのがザミーゴ・デルマという男だった。
*
いかに早朝の、人気のない場所を舞台にしていると言っても、ステイタス・ゴールド同士の争いともなれば察知する者は現れる。
『緊急通報!ギャングラーと思われる怪人同士が争っているとの目撃情報です!』
ジムの報告に、寝ずの番をしていたパトレンジャーの面々が一斉に立ち上がる。
「ライモンか?」
『特徴を勘案すると、恐らくはそうかと。ただ、もう一方のギャングラーについては不明です』
「ならば現場で確かめるまで!」
「管理官、命令を!」
「ああ、」塚内も立ち上がる。「──パトレンジャー、出動!」
*
一方、ジュレでは朝っぱらから少年の怒号が響いていた。
「いつまで他人の部屋で寝てんだとっとと起きろや不審者ヤロォ!!」
言葉ばかりでなく、ベッドから引きずり下ろしてやろうとまで彼──爆豪勝己は画策していた。しかしそのあては、程なく外れることになる。
「あ……?」
もぬけの殻のベッド。他に隠れるスペースなどないことは──何らかの力で小人にでもならない限り──、彼自身がいちばんよく知っている。
それでも反射的に部屋中を見回した勝己は、デスクの上に何かが置かれていることに気づいた。それは一枚のメモ、そして。
──ベッド有り難う。宿泊代です、お釣り不要。
札……ただし、100ユーロ。
「……日本円にしろや」
突っ込みの言葉はぶつける相手を欠いたまま、虚空に吸い込まれていった。
──弔の蒸発は、下階の仲間たちにも即座に伝えられた。
『あぁぁぁ!トムラ失踪、家出、行方不明だぁぁ~!』
騒ぎ回るグッドストライカー。「家出は違ぇだろ」という勝己の突っ込みは、やはり虚しく吹き消された……今度は相手もいるのだが。
「どうしちゃったんやろ死柄木さん……。あっ!まさか爆豪くん、なんか余計なこと言っとらんよね!?」
「ア゛ァ?余計なことって例えばなんだよ、言ってみろや」
「そ、それはぁ……バカとかアホとか、マヌケとか?」
「は……小学生かよ」
雄英志望だったとは思えない知能指数の低いやりとりを炎司が咎めようとした瞬間、第五の気配が店内に現れた。
「──死柄木弔の行き先は知りませんが、ライモンの居所は判明しました」
「!」
黒霧の神出鬼没はいつものことであり、そのことに驚きはない。ただ伝えられた事実のみ、彼らの血肉を奮い立たせるにふさわしいものだった。