【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#26 グットクル共同戦線 2/3

 

 ライモン・ガオルファングとザミーゴ・デルマの小競り合いは続いていた。前者は怒りのままに爪を振るっているが、死闘と呼ぶには後者の覇気が足りない。何かあればすぐにでも争いをやめて立ち去りたいという心情が露になっている。その態度がまた、虎ならぬ獅子の尾を踏むことに繋がっているのだ。

 

「ザミーゴ……!オレぁテメーのそういうスカしたところが気に喰わねえんだよ、昔ッからなァ!!」

「ハッ、そいつはどうも。俺はおまえのこと、好きでも嫌いでもないけどね」

「舐めた口きくんじゃねえぇ!!」

 

 目にも止まらぬ速さで振り下ろされる爪は、人間はおろか並みのギャングラーにとっても脅威である。ステイタス・ゴールドとは、それだけの実力を兼ね備えた存在なのだ。

 尤も、相手取るザミーゴもまたその称号をほしいままにしている。ゆえに軽々といなしつつ、

 

「ふっ」

「──!?」

 

 懐めがけて、氷銃の引き金を引く。ライモンは咄嗟に転がって避けた──掠りでもしたらどうなるか、彼がいちばんよくわかっているからだ。

 

「ほら、怖がってる」

「チィ……!」

 

 舌打ちするライモン。憤懣の蓄積する一方であるところ、さらに水を差すような者たちがこの場に姿を現した。

 

「動くなッ、国際警察だ!!」

 

 出動したパトレンジャーの面々。ギャングラーが言うことを素直に聞くわけがないとわかっている彼らは、いつでも発砲できるようVSチェンジャーの引き金に指をかけている。

 尤も、それすらも気にとめないのがギャングラー……とりわけライモン・ガオルファングという男だった。

 

「邪魔だ人間、失せろ!」

「……あんたらこそ失せろっての!」

 

 ケンカなら自分らの世界(よそ)でやれ──まったくもっての正論とともに、変身の構えをとる。

 

「「「警察チェンジ!!」」」

『パトライズ!──警察チェンジ!』

 

 警察スーツを装着し、

 

「国際警察の権限において、実力を行使するッ!」

 

 なんら飾るところのない口上とともに、走り出す。牽制代わりに銃撃を繰り返しながら。

 とはいえ、それだけでライモンともあろう者が怯むはずもなく。

 

「……邪魔だっつってんだろ!!」

 

 爪にエネルギーを込め、鎌鼬のようにして解き放つ。刹那、パトレンジャーのいた場所に爆発が起きる。

 

「ッ!」

 

 ライモンが強力なことは昨日嫌というほど学習している彼らは、その一撃を見事にかわしていた。散開して別方向から肉薄し、取り囲むようにして攻勢をかける──

 

 その光景を、ザミーゴは文字通り高みの見物と決め込んでいた。

 

「馬鹿の相手は頼んだぜ、人間ども」

 

 そして、立ち去る。彼のことまで気にかけている余裕は、今のパトレンジャーにはなかった。

 

「うおおぉッ!!」

 

 至近距離からの射撃、パトメガボーによる殴打と、あらん限りの武装を駆使して攻めたてるパトレンジャー。一方のライモンはそれらすべてを事もなげに防ぎながら、身ひとつで猛烈な反撃を繰り出してくる。防御にすぐれた警察スーツだが、その破壊力とは相性が悪かった。

 

「く……!」

「飯田、下がれ!──烈怒頼雄斗、安無嶺過武瑠ッ!!」

 

 全身の皮膚を極限まで硬質化し、一撃を受け止める。警察スーツの一部が破損し、後方へ大きく吹っ飛ばされはしたものの、鋭児郎自身の肉体はかろうじて守られた。あくまで、かろうじてだが。

 

「っ、てぇ……!」

「切島くんありがとう!そして大丈夫か!?」

「なんとかな……。でも、何回も喰らったら流石にやべえと思う」

「だったら、一気にケリつけるしかないね」

 

 グッドストライカーは来る様子がない。ならばと、1号はトリガーマシンバイカーを銃に装填した。

 

『バイカー、パトライズ!警察ブースト!』

「いくぜ……!──バイカー、撃退砲ッ!」

 

 ギャングラーをも粉砕しうるほどの威力を誇る必殺砲に、2号と3号の放つエネルギー弾が融合しライモンへ向かっていく。

 

「ガ──!?」

 

 拍子抜けするほどにあっさりと、彼は光の渦に呑み込まれた。異形の肉体が削りとられ、粉々に打ち砕かれていく。

 パトレンジャーの面々は勝利を確信していた。命中をとっただけでなく、その効果が目に見えて現れているのだから──

 

 しかし次の瞬間、予想だにしない事態が起こった。最後まで溶け崩れることなく残っていた黄金の金庫が光を放ったかと思えば、肉体をもとの形に"再生"してしまったのだ。

 

「な……!?」

 

──まさか、ルパンコレクションの力?

 

「ハッ、残念だったなおまわりども。──礼をしてやる、受け取れぇッ!!」

 

 ライモンの爪が、再び一閃。咄嗟に硬化を発動した1号が前に飛び出すが……二度目までも人間の個性が耐えきれるほど、ステイタス・ゴールドの力は甘いものではなかった。

 

「ぐぁあああっ!!?」

 

 紙のように吹っ飛ばされる三人。背中から壁に叩きつけられたところでようやく静止した彼らに、ライモンの追撃が迫る。

 

「ぐ、う……!」

 

 すんでのところで一撃をかわし、どうにか戦闘を続行する。しかし切り札がむなしくも打ち破られた以上、彼らは徐々に追い詰められるよりほかに道はない。何せ至近距離から弾丸を命中させても、傷ついた部位が瞬く間に修復されていくのだ。

 結局彼らは、ライモンに膝をつかせることすらできなかった。疲労で動きが鈍ったところに再び爪の一閃を喰らい、段を転げ落ちる。

 

「ぐっ、あぁ……ッ」

 

──やはり、強い。

 

「へへへへっ、どうしたァ?もうくたばったかァ?」

 

 再生した部位が疼くのか、ぼりぼりと掻きながらライモンは言い放った。無論、鋭児郎たちはまだ生きている。しかし彼が自分の意志であと一撃を振るえば、その言葉は現実のものとなる。

 

「へっへっへ……」

 

 下卑た笑い声とともに、ライモンが一歩を踏み出す──刹那、

 

 その体表で、火花が爆ぜた。

 

「!」

 

 ライモンは当然のように身じろぎひとつしない。無論自身が撃たれたことは認識したのだろう、煩わしげに首を傾けた。

 

──おもむろに歩いてくる、白銀の燕尾服の男。人間の手の形をした覆面を装着し、足を引きずるような歩き方が不気味だ……いや、怪我をしているからか。

 

「死柄木……!」

 

 名を呼ぶ1号に、男──死柄木弔はちらりと目配せした。それも一瞬のことで、即座にライモンに向き直ったが。

 

「……安心したよライモン、まだくたばってなくて。そのゴールドの金庫にはまだ用があるんでね」

「アァン?」

「ッ、気をつけろ死柄木!」3号が叫ぶ。「ライモンは……コレクションの力ですべてのダメージを回復する……!」

「……へぇ」

 

 ライモンの特性がわかったところで、すべきことは変わらない。──金庫を開け、ルパンコレクション(お宝)をいただく。

 

「快盗、チェンジ」

『快盗エックスチェンジ!』

 

 白銀の上に白銀が重なりあい、新たな鎧となる──

 

「孤高に煌めく快盗、──ルパンエックス!」

 

「予告する。……おまえのコレクションは、()()回収する」

 

 腹の底から絞り出した口上とともに──馳せる。ステイタス・ゴールドの強力さは彼がいちばんよく知っている。しかし己が望みを果たすためには、今ここで戦うよりほかに道はないのだ。

 密かな決意とともに剣を振るって戦うルパンエックスを、ライモンはせせら笑った。

 

「ヘッ、忘れたのかァ?オレの金庫は、一筋縄じゃ開かねえってよォ!!」

「ッ!」

 

 パワーとスピードを兼ね備えたライモンの猛攻は、手負いの身であるエックスを防戦一方に追い込んでいく。ずりずりと後退させられつつも、彼は隙をうかがう。不幸中の幸い、ライモンはほぼノーガード……付け入る隙はそれなりにある。その隙を突いてダメージを与えたところで、無駄というだけのこと。

 

──だから、

 

「ふっ……!」

「ウオッ!?」

 

 足払いでバランスを崩させ、倒れたところですかさず金庫にバックルを押しつける。そこまでできてしまえば自動でナンバーを解析し、解錠してくれる──通常の金庫なら。

 

『1・1・0──』

 

 そこまでだった。エラー音が響き渡り、解錠に失敗したことが告げられる。

 

「……!」

「な?開かねえって言ったろ」

 

 得意げに言い放つと同時に、ライモンは爪の一撃で敵を弾き飛ばした。もはや体力の限界が見えていたエックスは壁に叩きつけられ……そのまま、ずるずると沈み込む。

 

「ッ、ぁ……」

 

 変身までも解けてしまった。それ即ち白旗と解釈したライモンは愉快そうに笑う。そして、ぐるりと振り返った。

 

「ヘヘヘヘッ、いっちょあがり。──さあ、次やられてぇのはどいつだ?」

「……!──うおぉぉぉぉッ!!」

 

 圧倒的だとは理解しつつも、パトレンジャーは誰ひとりの例外なく再び立ち上がり、立ち向かう。こんな凶悪な存在を街に野放しにしておけるわけがない。本格的な侵略活動を始めるその前に、なんとしてでも倒さねばならない敵だった。

 

──その一方で、満身創痍の弔のもとには快盗たちが駆けつけていた。

 

「死柄木……!」

「ちょっ……ライモンにやられたん!?ただでさえケガしとるのに!」

 

 気遣いの言葉に、弔は応えない。端末から3Dモニタを展開し、しきりに何かを分析している。

 

「おい何やって……」

 

 喰ってかかろうとした勝己を、炎司が手で制した。双方とも、弔が明確な意味をもって作業を行っていることは理解している。ただ、感情の問題だった。

 

 弔が不意に、唇をゆがめた。

 

「……わかった」

「何?」

「ステイタス・ゴールドの暗証番号は6ケタなんだ。つまりVSビークルをふたつ同時に使えば……金庫は、開けられる」

「まさか、それを調べるために独りで?」

「──ッ、」

 

 再び勝己が喰ってかかる。だが今度は怒りでなく、困惑が表情に滲んでいた。

 

「ンでてめェがンなこと……そういう捨て駒やらせるために、俺ら使ってんじゃねえのかよ」

「……ははっ」

 

 手の形をした覆面を自ら外して、弔は笑みを浮かべる。どこか寂しそうにも、後ろめたいようにも見える笑みを。

 

「俺も、きみらと同じだから。俺にも……取り戻したい大事な人がいる」

 

──だから快盗になった。安穏としたルパン家の屋敷を飛び出し、矢面に立つことを選んだのだと……弔はそう、言明した。

 

「はは、これで信じてくれるかな……爆豪くん?」

「……チッ」

 

 舌打ちをこぼした勝己は、弔を放り出すようにして前へ進んだ。

 

「そうやって、てめェで言うのが信用できねーんだよ」

「………」

 

 そうか、そういうものか。一切の遠慮も誤魔化しもない勝己の言葉は実に参考になると、弔は自嘲する。

 

「……でも、」

 

「言動じゃねえ、行動でわかった。……てめェにも命張る覚悟はあンだってな」

「!」

 

 振り向く勝己。見下ろす視線は相変わらず鋭いけれど、そこに懐疑も敵意もありはしない。ただ意志の強さだけを映し出す光が、そこにはあった。

 

「──信じてやるよ、快盗としてはな」

 

 お茶子が笑みを浮かべて頷く。炎司は仏頂面のままだが、異を唱えない。勝己に負けず劣らず我の強い彼が黙っているというのは……つまりそういうことだ。

 

「……Merci(感謝するよ)、ルパンレンジャー」

 

 再び、戦場に目を向ける。パトレンジャーはなおもライモンを食い止めている。自らの身体が傷つくことと引き換えに。

 

──行かなければ。立ち上がろうとした弔だったが、身体に力が入らずバランスを崩す。よろめく彼を、炎司とお茶子が支えた。

 

「死柄木さんはとりあえず休んでて!」

「ライモンの金庫は、我々で開ける」

 

 彼らの宣言は、無条件に頼もしいものだった。しかしそれであっても、伝えねばならないことがある。

 

「……あいつのコレクションには、超治癒能力がある」

「!」

「回収しない限り、ダメージは通らない」

 

 「厄介な」──炎司がつぶやく。パトレンジャーの面々が押される一方なのも、それが原因か。

 

「俺が囮をやる」

 

 躊躇なく、勝己が宣言する。

 

「クソオヤジ、丸顔。その隙に()れ」

「!、………」

 

 それがいかに危険な役割か。勝己は理解っている。わかっていて、すべてを託しているのだ。乗らないわけにはいかなかった。

 

 

 *

 

 

 

 決死の精神力でもってライモンに立ち向かい続けていたパトレンジャーだったが、肉体にはいずれ限界が訪れる。

 

「オラァッ!!」

 

 何度目かわからない爪の一閃が炸裂したとき、彼らはついに装着を解かれて倒れ伏した。

 

「ぐ、うう……!」

「く……!」

「……ッ、」

 

 個性である程度ダメージを軽減できる鋭児郎でさえ、呻くばかりになっている。それでも弱々しく命乞いをするようなことのない彼らの態度が、ライモンの勘に障った。

 

「うぜェなァ……。──息の根止めてやらァ!!」

 

 腕を振り上げる。そして振り下ろされた瞬間、ライモンの言葉は間違いなく実現される──

 

 しかし現実には、降り注ぐ光弾がライモンの動きを止めた。

 振り向いた彼、そして鋭児郎たちが目の当たりにしたのは。

 

「快盗……!」

 

「「「──快盗チェンジ!!」」」

 

 ダイヤルを回し、ロックを解除──トリガーを引く!

 

 装着される快盗スーツ。そして、

 

「ルパンレッドォ!!」

「ルパンブルー……!」

「ルパンイエロー!」

 

──快盗戦隊、ルパンレンジャー。

 

「予告する。──てめェのお宝、いただき殺ォすッ!!」

 

 

 *

 

 

 

 そして、快盗の戦いが始まった。

 

 ルパンレッドが前面に出てライモンに肉薄し、ブルーとイエローがVSチェンジャーで援護しつつ隙を窺う。

 スピードで翻弄する戦術は当初こそ功を奏したかに思われたが、ライモンのパワーは小細工など文字通りぶっ飛ばすほどのもの。わずかに掠める一撃一撃がレッドの動きを鈍らせ続け……ついに、直撃が入る。

 

「が……!」

 

 引き倒され、そのまま踏みつけにされるレッド。しかしその瞬間こそ、快盗たちの狙いであった。ダイヤルファイターを手に、ブルーとイエローが走り出す。ルパンコレクションを、盗みとるために。

 

 しかしライモンは、彼らへの注意を完全に逸らしたわけではなかった。レッドを踏みつけたまま爪を薙ぎ、咄嗟に庇いに入ったブルーを弾き飛ばす。

 

「ブルー!?」

「ッ、使えイエロー……!」

 

 ブルーダイヤルファイターを手渡される。両手で、同時に──その目論みもまた、ライモンにとっては児戯のようなものだった。

 

「オラァッ!!」

「きゃあぁっ!?」

 

 快盗の中では最も小柄なイエローの身体は、一撃で吹き飛ばされてしまう。

 

「ッ、ブルー!イエロー!」

「ヘッ……貴様らごときの思惑に、このオレ様が気づいてねえと思ったかァ!?」

「……チィッ!」

 

 ぎり、と歯を噛み鳴らすレッド。確かに目論みは潰えたが……その程度で、あきらめられるわけがない。

 

「ならよォ!!」

 

 次の瞬間、彼はシザー&ダイヤルファイターを展開していた。シールドで防御面を補いつつ、ブレードの投擲で360°、縦横無尽に攻める。一撃でも命中をとって怯ませれば、勝機はある。

 策に策を重ねるレッドだが、ライモンにかかればそれさえも甘い考えにすぎなかった。周囲のことなど一切見えていないかのような猛攻を続けながら、背後にブレードが迫った瞬間そちらに意識を振り向け、爪を振るって弾き飛ばす。それは隙にもならない、一瞬の出来事だった。

 

「どうしたィ、小細工はもう尽きたかよォ!!?」

「ク……ソがぁ……!!」

 

 万策尽きてもなお立ち向かう少年を──"彼ら"は、見ていた。

 

「ルパン、レッド……」

 

 傷つき倒れた、パトレンジャーの面々。しかし彼らは、戦う心まで失ってはいない。

 

──俺たちはこれしか無ェから快盗やってんだ……!

 

 ルパンレッドが、かつて放った言葉。その言葉になんの誇張も欺瞞もない全身全霊をかけた死闘を、彼は繰り広げている──己が望みを、果たすために。

 

 ならば、自分は。俺たちに今、できることは──

 

 

「……ルパンレッドを、援護する!」

 

 

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