【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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V・S・X!V・S・X!


#26 グットクル共同戦線 3/3

 

「……ルパンレッドを、援護する!」

 

 

 切島鋭児郎の言葉は、既に彼の人となりをよく知る仲間たちの胸に、様々な感情を去来させた。

 

「切島……」

 

 耳郎響香は実のところ、彼と同様の考えをもっていた。ただしそれは、ライモンのコレクションがその胸中から失われない限り、倒すことはできないという実利的な発想によるところが大きい。その点、ルパンレッドを見る鋭児郎の表情はつらそうに歪められていて……。

 それに気がつく時点で、響香も"ブレーキが壊れている"と評したかの快盗の戦いようへの思いが判断に影響を及ぼしているのだが……自覚はない。

 

「……切島くん、気持ちはわからないではない……。だがッ、快盗を手助けするなど……警察官として……!」

 

 飯田天哉が異を唱えるのは、誰もが想像できたこと。しかし真っ向から、という態度でないのは手にとるようにわかる。彼だってそれが必要なこととは理解しているのだ。それでも──

 

「飯田、」響香が口を開ける。「ウチらの任務は、市民の平和と安寧を守ること。これはきっと……そのために必要なことだ」

「……!」

 

 天哉の脳裏に、兄の──ターボヒーロー・インゲニウムの姿が浮かぶ。

 "ヴィジランテ"と呼ばれる、許可なく個性を行使し治安維持活動を行う非合法(イリーガル)ヒーローたち。インゲニウムは時に彼らとも手を携え、響香の言う"市民の平和と安寧を守ること"に力を注いだ。

 

(兄は兄……僕は、僕)

 

 それでも──目指すものは、同じ。

 

 

 ライモンの猛攻は、確実にルパンレッドを追い詰めつつあった。シザー&ブレードも失い、爪や牙が直接肉体に襲いかかる。──限界が、近づいてくる。

 

「ぐっ……く、そ……ッ」

「ヘヘヘヘッ……」

 

 倒れたルパンレッドに、迫るライモン。趨勢が決したかと思われたところで──パトレンジャーが、割って入った。

 

「!、てめェら……」

「へへっ……手ぇ貸すぜ、ルパンレッド!」

「コレクション、必ず盗りな」

 

 自分を守るように陣形を組む警察官たち。何か裏が……などということは、疑り深い勝己でさえ考えもしなかった。だって彼らはただ真っ直ぐに、正義を希求しているから。

 

──信じ、られる。

 

「……だったらせいぜい足引っ張んなよ、おまわりサン?」

「当然だ……!俺たちを誰だと思っている?」

 

 そう。彼らは警察──警察戦隊、パトレンジャーなのだ。

 

「……行くぜっ!」

 

 そして彼らは、再びライモンに向かっていく。しかし今度はあてのない戦いではない。快盗にコレクションを盗ませ、超回復能力を奪ったところで一気に畳みかける。目標が定まっていれば、傷ついていても戦えるというもの。

 

 パトレンジャーがライモンを懸命に押さえつけているところに、接近を試みるルパンレッド。しかし猛り狂う獅子のギャングラーのパワーは衰えるところを知らず、四人がかりの人間たちを蹂躙する。

 

「ウゼェんだよォ!!」

「ぐ……──ッ、何やってるルパンレッド!早く……しろっ!」

 

 身を硬化させてライモンにしがみつきながら、パトレン1号が叫ぶ。──わかっている。わかっているが、まだ……。

 

 刹那、ライモンの両腕にワイヤーが絡みついた。

 

「……!」

 

 ルパンブルーと、イエロー。彼らもまた、警察に劣らぬ不屈の意思に突き動かされていたのだ。

 それでもライモンは抵抗する。その力に、文字通り引きずられるふたり。しかしそんな彼らを、パトレン2号と3号が支援した。ワイヤーを掴み、踏ん張る。四人がかりともなれば、さしものライモンも即座に吹っ飛ばすとはいかない。

 

「っし……!」

 

 今度こそ、いける。右手にレッド、左手にサイクロンダイヤルファイターを携え再び走り出すルパンレッド。しかしライモンの抵抗は彼らの思いもよらないほど頑強だった。

 

「ウオオオオッ、させるかよォ!!」

 

 咆哮とともに──両肩口からもう二本、腕が飛び出してきたのだ。

 

「な……っ!?」

 

 突撃一辺倒に思考が片寄っていたレッドに、回避は不可能だった。致命的な一撃ではないが、命中をとったそれはサイクロンダイヤルファイターを弾き飛ばす。──やられた。

 仄暗い絶望が心を侵しかけたとき、白銀の影が閃いた。

 

「ッ、ふ──!」

「!、死柄木……!」

 

 死柄木弔──ルパンエックスが、宙を舞うサイクロンを手中に収めたのだ。レッドは思わず空いた拳を握った。

 ライモンの複腕は、普段使わないせいか本来の腕より動きが鈍い。である以上、タネがわかってしまえば怖いものはない。腕の攻撃をかわしながら接近し、

 

「「ルパンコレクション、貰ったァ!!」」

 

──ふたつのダイヤルファイターを、金庫に押し当てる。

 

『1・1・0──』

『──0・3……0!』

 

 解錠。

 

 次の瞬間には、ルパンレッドの手のうちにライモンの所持していたコレクションが握られていた。

 

「よくやった、レッド」

「おー。……てめェもな」

 

 短い会話。しかしそこには間違いなく、この戦いで芽生えたものが滲んでいる。

 

「ライモン!これでおめェの治癒能力は消えたぜ!」

「あとはブッ殺すだけだ、覚悟して死ね!」

 

 挑発の言葉にいきりたつライモンは、力いっぱい半開きの金庫を閉じた。──彼が実力者たる所以は、コレクションにはない。

 

「ヘッ、このオレ様を倒すだと?ンなモンなくたって、オレ様は十ッ分強ぇんだよ!」

 

 とはいえ七人相手は面倒だと思ったのだろう、ライモンは一気に勝負に出た。その身を天を貫かんばかりに超巨大化させたのだ。

 

「ッ、またこれか……!」

 

 圧倒される一同のもとにグッドストライカーがやってくる。それはいいのだが、

 

「俺らがいく。てめェらいっぺんやられとったろ」

「……いやそれはそうだけどよ、ありゃ相性の問題じゃねーって」

 

 スケールが違いすぎる以上、ルパンカイザーであっても二の舞になりはしないか。警察の言葉を否定できない快盗たち。

 と、グッドストライカーがいつもながら口を挟んだ。

 

『オイラ、今日はどっちにもグッと来てんだ。どっちかなんて選べな~い』

「……ならば、どうする気だ?」

「まさかグッドストライカー、アレやる気?」

 

 アレ、とは。

 

『みんなの力を合わせちゃおうぜ~!』

「みんなの……力を?」

『Oui!サイコーに強くしてやるよ!』

 

 一体何をするつもりなのか……なんとなくではあるが、察しはつく。だがここまで来れば、とにかくライモンを討ち果たすことが第一。快盗にも警察にも、異論はなかった。

 

「チッ……しょうがねえ。やってみろや」

『まかせろ~!』

 

 

──そして、すべてのマシンが巨大化。

 

「ルパンレンジャー、パトレンジャー。Êtes vous prêt(準備はいいな)?」

『いや日本語で訊けや鬱陶しい!』

「………」

 

 こんな一幕もありつつ、

 

『超越エックスガッタ~イム!』

 

 グッドストライカー、レッド・ブルー・イエローダイヤルファイター、トリガーマシン1号・2号・3号、そしてエックストレイン。計11機ものVSビークルが合体し、ライモンに勝るとも劣らぬ超弩級巨人が誕生する。

 名付けて、

 

『グットクルカイザー、V・S・X!』

 

「うおおッ、す、すげえ!!」

 

 三つに分かれたコックピットのうちひとつで、パトレン1号こと切島鋭児郎は歓喜の声をあげていた。彼のいるセンターブロックにはグッドストライカーが鎮座しているほか、ルパンエックス、ルパンレッドが割り当てられている。快盗は快盗、警察は警察と分けられているのだが、人数の都合上どうしてもこのような組分けになってしまう。ただ鋭児郎は、それを煩わしくは思っていないようで。

 

「よろしくなふたりとも!なんかこーいう展開……呉越同舟っつーの?ワクワクしてくるぜ!」

「……るせぇ」

「ハァ……」

 

 冷たい反応にも臆せず、かのルーキーヒーローははしゃいでいる。レッドが早速苛立ち始めたことを察したエックスは、小声でグッドストライカーに呼び掛けた。

 

『どうした、トムラ~?』

「……こいつ、チェンジで」

『ラ~ジャ~』

 

 刹那、パトレン1号のシートの床に風穴が開いた。

 

「へ?」一瞬の浮遊感のあと──落下。「な、なんじゃこりゃああああ──」

 

 消えた1号の代わりに、すぐさまパトレン3号が補充される。尤も、彼女も何が起きたか理解していない様子であるが。

 一方、追い出された1号はパイロットシートからずり落ちていた。

 

「……一体何があったんだ、切島くん?」

「い、いきなり追い出された……」

「それは……災難だったな」

 

 ともあれ、いつまでもコックピット内で遊んでいるわけにはいかない。グットクルカイザーのスケールに圧倒されていたライモンも、気を取り直してこちらに向かってきている。

 

「──さあ、戦闘開始だ」

 

 

「どんなにデカくなろうが、オレ様の敵じゃねえぇぇッ!!」

 

 咆哮とともに、無数のミサイルを飛ばすライモン。対するグットクルカイザーはそれらを縦横無尽にかわしつつ、迎撃に打って出る。それぞれが高い戦闘能力をもつVSビークル11機で構成された鋼鉄のボディーはこれ全身兵器である。破壊力は、ライモンのそれを凌駕していた。

 左腕のエックストレインゴールドから火を噴き、右肩のブルーダイヤルファイターでガトリング砲を回転させる。右足からはトリガーキャノン。火器の雨あられに怯みつつも、ライモンは前進していく。

 

「この程度……!オレには通用しねえ──ッ!」

 

 そしてついに、接触。通常時と同じく爪と牙を主体とした戦法を駆使するライモンに対し、グットクルカイザーはその鈍重そうな外見に反した素早い所作で応戦する。ビルからビルへ、飛び移りながら戦場を移動していく。

 やがて、港湾部──海に面した地帯にたどり着いたとき、グットクルカイザーが勝負に出た。

 

「頭ァ冷やせや!!」

 

 空中回転からのムーンサルトキックを直撃させ、ライモンを海中に突き落とす。といっても陸際であるので、完全に水没してしまったわけではないが。

 

「ガボボボ……お、おのれぇッ!」

 

 しかし水に足をとられ、ライモンの動きは大きく鈍った。──今がチャンスだ。

 

「決着だ、グッドストライカー」

『Oui!いくぜ~!』

 

 グットクルカイザーを構成するビークルの接合が解除されていく。そして、

 

『グットクルカイザー、ビークルラッシュストライク~!』

 

 ビークルの群れが、一斉に発射される。技名通りのビークルラッシュ。流石にノーガードでいるのは危険と判断したか、ライモンは四本腕で防御姿勢をとる。当初は確かにそれでよかったが、何せ相手は11機である。

 

「グ、ガ!?ウガアァァ!!?」

 

 途中で耐えきれなくなり、態勢が大きく崩れる。そうしてがら空きになった胴体にビークルが殺到──猛獣のごとく喰らいつき、食い破り、貫いていく。

 

「こ、こんな……モノ……」

 

 それでもなおビークルの群れを弾き飛ばし、戦闘を継続しようとするライモン。しかし精神に比べ、肉体はほんのわずかに脆かった。

 

「こ……こんな……お、オレが……人間、ごときにィィィ──!!」

 

 絶叫は、結果的に断末魔となった。

 爆発四散する身体。獅子が死して残したのは、その紅蓮の炎のみ。対向には、傷ひとつない鋼鉄の巨人の姿があった。

 

「っし……!」

「やった!」

「………」

 

 残されたものはもうひとつあった。ライモン・ガオルファングという恐ろしい強敵を、ヒトの力が打ち倒した──その栄光と、歓喜の記憶である。

 

 

 *

 

 

 

 ライモンが、敗れた。それはギャングラーの首脳たちにも少なからず衝撃を与えていた。何せドグラニオの後継者としての有力候補だった男である。

 

「人間ども、思った以上にやるわね」

「うむ……とはいえドグラニオ様の後継者が、あのような下品な輩にならずに済んだのは僥倖か」

 

 僥倖──ギャングラーのボスというよりむしろ、ドグラニオ個人に忠誠を誓うデストラにしてみれば、その通りかもしれないが。

 

「……ライモンまで敗れたとなると、俺も少し考えなきゃならんな」

 

 静かにつぶやくドグラニオの声音は、底知れぬ響きをもっていた。

 

 

 *

 

 

 

 つかの間の平穏が戻った翌日、喫茶ジュレには再びかの少年の怒声が響き渡っていた。

 

「てめェいつまで俺の部屋居座る気だゴルアァ!!とっとと出てけや!」

「痛いよヤメテヨ~爆豪くん~」

 

 肩をいからせた爆豪少年に首根っこを掴まれ、店内を引きずり回される死柄木弔。怪我が治りきっていないのを口実に勝己の部屋にもう一泊かましたのである、この男は。

 

「怪我人にヒドイことするなァ。引きずり回したうえにこの寒空の下に放り出す気かよ?」

「クッソ真夏だわ感覚死んどんのか!!」

 

 一歩外に出れば灼熱の太陽がじりじりとコンクリートを焦がし、木々の隙間では蝉たちが合唱している。まあ、それもあと少しの辛抱という時期には差し掛かっているが。

 

 弔に翻弄される勝己を見かねてか、事務作業に勤しんでいた炎司が助け舟を出した。

 

「死柄木……貴様、自分の家があるだろう」

「!、……そりゃあるけどさァ」唇を尖らせ、「こっちじゃ独り暮らしだし……ケガとか病気のとき、独りだと寂しくない?」

「あー……それはわかるかも」

 

 お茶子が同意すると、弔は我が意を得たりとばかりに笑みを浮かべた。

 

「だろ?だからさーお茶子チャン、是非看病に……」

「お断りしまーす!警察の人に頼んで!」

「……じゃあ爆豪く「死ね」……」

 

 ティーンエイジャーふたりから袖にされた弔は、ちらりと炎司を見て……さっと目を逸らした。仮に頼まれれば即座に断るつもりだったとはいえ、炎司としては複雑な気分である。前に中年呼ばわりされたことが思い出される。

 

「ハァ……なんだよ、仲間として認めてくれたんじゃないのかよ」

 

 ぼやきつつ、内心「仲間とまで言った覚えはない」と言われることも予想していた弔である。ゆえに現実の勝己の返答は、彼を驚かせるものだった。

 

「はっ、──だからだよ」

「え?」

 

 いつの間にか、勝己は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「"自分のことは自分でなんとかする、むやみやたらと助けたりしない"」

「それが私たち快盗のルールなの!」

「……ははっ、なるほど」

 

 一見、冷たくドライに見える彼らの関係。しかしそこには、たしかな絆が存在している──弔は今はっきりと、それを見てとった。

 

「──つーわけで……とっとと去ねや!!」

「うぉっと!?」

 

 三人がかりで追い詰められながら、弔は二階に逃げ戻ろうとする。階段に足をかけたところで捕まってしまうのだが、ここまで来ると彼も意地だった。

 

「やだ、帰らない!俺はここに住む~!!」

「「「帰れ!!」」」

 

 

──嗚呼、賑やかなる哉。

 

 

 à suivre……

 

 





「おぬし……いい身体しとるのう……」
「これからは先輩とお呼びください!」

次回「マッスルカーニバル」

「なぜ俺は弟子入りしてしまったんだ……」


※短編執筆のため暫くこちらの投稿お休みします。再開は未定ですがそれほど長期にはならないと思います、ご了承ください。

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