【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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再開シマス〜
タイトルは親友の中学時代の持ちギャグが元ネタです


#27 マッスルカーニバル 1/3

 この日、ルパンレンジャーはギャングラーとの遭遇戦を演じていた。

 

「オラァッ死ねぇぇ!!」

 

 例のごとく口汚い罵声を飛ばしながら敵に斬りかかるルパンレッド。彼とチームを組むブルーとイエローはもうすっかり慣れたもので、銃に剣、打撃を目まぐるしく切り替えつつ彼を補佐している。

 身につけた快盗スーツの性能もあり、そうして敵を翻弄しながら体力気力を奪い、隙ができたところで押さえつけてルパンコレクションを奪い取る−−彼らの基本戦法なのだが、今回の敵はそれをうまくかわしているような状況だった。

 

「……こいつ、出来るな」

 

 ブルーのつぶやきに反応して、ギャングラーがひょひょひょと笑う。

 

「このピョードル様に攻撃を当てられるかのう〜〜?」

 

 ヒヨコのような外見のわりに、漫画に出てくる年老いた師匠のような口調でしゃべりやがる。そんな思考をするルパンレッドこと爆豪勝己は、根っこにおいてふつうの少年であった。

 

「ひょひょひょ。ひとを見た目で判断していると、痛い目見るぞい〜〜?」

「違いないっ!」

 

 言葉だけは同意を返しつつ、今度はイエローが主体となって攻撃を仕掛ける。しかし言葉にたがわぬ身のこなしを見せつつ、ピョードルと名乗るギャングラーは反攻に打って出た。

 

「ピョピョピョピョッ!!」

「!」

 

−−軍配は、ピョードルに上がった。快盗たちは揃って吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

「っ、ンのヒヨコ野郎……!」

 

 むろん、彼らは致命的なダメージを受けたわけではない。しかし一度倒されてしまえば、敵が本気で殺しにかかってきた場合に御し難い。有り体に言って、ピンチには変わらない。

 

 そういう状況にもかかわらず、ピョードルはあっさりと彼らに背を向けた。

 

「こう見えてワシは忙しいのでな。お暇させてもらうぞい、ピョピョピョ〜!」

「くっ……逃がすか!」

 

 さすがというべきか、真っ先に立ち上がったのは人生の大半でプロヒーローとして実績を積んできたエンデヴァーことルパンブルーだった。立ち去ろうとするピョードルを追おうとするが、

 

「……ワシは帰るが、くれぐれも!ワシを追ってくるでないぞ?」

 

 それは逃げる相手に「待て」と言うのとなにも変わらない、意味のない言葉のはずだった。ふつうなら。

 

「……!」

 

 しかしどうしてか、ブルーは立ち止まってしまった。意識に靄がかかったようになり、動きたくても動けない。

 そうこうしているうちに、ピョードルは姿を消してしまった。途端に身体が自由になるが、もう後の祭りで。

 

「おいクソオヤジ!!」背後からレッドの怒声が迫る。「ンでヤツを追わなかった!?ア゛ァ!?」

「……すまない」

 

 珍しく殊勝に謝るものだから、レッドもそれ以上は矛を収めざるをえなかった。ただブルーの心中は呵責より、今起きたことへの疑念の処理にかかりきりになっていたのだが。

 あるいはルパンコレクションの能力か?だとしたら、黒霧に速やかに調べてもらう必要がある。このときはそう考えていた。

 

 

 まさかこのあと、あんな悲劇?が待ち受けているなどとは、予想だにしないのだった。

 

 

 *

 

 

 

 神出鬼没、呼んでいなくともワープゲートの個性で唐突に現れる黒霧であるが、こちらからコンタクトをとる手段があるわけではない。次善の方策として死柄木弔に話を通したのだが、調べてみるから少し時間をくれとのことで。

 手詰まりになってしまった快盗たちは、まあいきなり街に現れるようなヤツならまたどこかで遭遇することもあろうと気長に構えるほかなかった。警察にコレクションを破壊されるリスクが弔のおかげで格段に減ったから、というのもある。

 

 というわけでいったん表向きの日常に戻った轟炎司は、みずから買い出しを引き受けていた。誰かのように道草を食ったりもしない、雇われとはいえ店長の任を仰せつかっているので当然という意識が彼にはある。

 しかし道草はせずとも、妙な光景に出逢ってしまうことはままあって。

 

「おぬし、いい身体しとるのう……!」

 

 妙にねっとりした声が聞こえたので振り返ってみたらば、そこには炎司と同年代か少し年長くらいの肥った男と、筋肉質な若い男の姿があった。前者が後者の腕を掴み、執拗に何かに勧誘している。

 前述の通り、炎司は曲がりなりにも元トップヒーローである。困っている一般市民につれなくするなどありえない。躊躇なくつかつかと歩み寄り、肥った男の肩に手をかけた。

 

「なんのつもりか知らんがその辺にしておけ。迷惑だ」

「!」

 

 筋骨隆々の大男、しかも強面の炎司にひと睨みされて怯まない人間はいない。「行け」と命じられた被害者?側の男までもが、露骨におびえた表情で逃げていくありさまだ。

 複雑な気分になる炎司だったが、目的は達することができた。……と、思いきや。

 

「おぉ……おぬし、素晴らしいのう……」

「!?」

 

 おびえるどころか目を輝かせて、男は炎司の分厚い胸筋を撫でた。ぞわりと背中が粟立ち、慌てて飛びのく羽目になった。

 

「何をする……!?貴様……!」

「すまんのう、あまりにも良い身体だからつい……」

 

 この男、そちらの気でもあるのか?他人をどうこう言える人生ではないので趣味嗜好を否定するつもりはないが、公道で、相手の同意もなくこんなことをするのは許されることではない。

 生理的嫌悪感以上にそんな義憤に駆られていたらば、男が妙なことを口走った。

 

「おぬし、ワシの道場に入門するがよいっ!」

「は?−−!」

 

 何を言っている、と当然一蹴しようとした瞬間……不意にまた、あの靄がかかったような感覚が襲ってきて。

 

 

−−我に返ったとき、炎司は何処ぞの道場にいた。いつの間にか道着に着替えさせられている。周囲には、彼ほどではないにせよやはり体格の良い数人の男。

 

(な、なんだこれは?)

 

 引き取り先に初めて連れてこられた仔犬のように周囲をきょろきょろ見回していると、あの中年男が堂々たる足取りで現れた。

 

「皆、よく来てくれたのう。ワシはこの武突参(ぷっさん)流古武術の師範、小紫(おし)庄右衛門じゃ。よろしゅう頼むぞい、ソイヤっ!」

「ソイヤ!」

「………」

 

 呆気にとられる炎司を置いてけぼりにして、話は勝手に進められていく。

 

「先に言っておくが、ワシの稽古はかなり厳しい。覚悟しておくがよい!」

「押忍!」

「また、月謝のほうもかなりのお値段となっておる。覚悟しておくがよい!」

「……押忍!」

(自分で言うのか、そんなことを……)

 

 だいたい、古武術など今さら習いに来たつもりはない。ヒーローをやめてからは関わりを断ってしまったが贔屓にしている流派はあるし、自己鍛錬なら欠かさず続けている。だから壮年であってもこの体格を保てるわけで。

 

「まずは基本から教えねばならん。−−師範代、師範代〜!」

 

 胡散臭いにも程がある道場だが、師範代までいるのか。師範がこんななのでどうせろくでもないのだろうと高を括っていた炎司は、次の瞬間目を剥いていた。

 

「−−初めましてこんにちは!当道場の師範代を務めております飯田天哉と申します、よろしくお願いいたしますっ!」

「……!?」

 

 まだ若いが炎司に勝るとも劣らないがっしりとした体躯、飾りけのない眼鏡に四角ばった所作−−同姓同名などではない、まぎれもない国際警察の一員たる飯田天哉、その人であった。

 

−−なぜ、この男が?

 

 呆気にとられる炎司に気づいて、天哉は「ムッ!」と声をあげた。

 

「これはエン……っ、ンンンン、え、炎司さんではないですか!貴方も入門なされるとは、奇遇ですね!」

「………」

 

 エンデヴァーと呼びそうになったのを咄嗟に誤魔化したのだろうが、だとしてもこの男に下の名前で呼ばれる筋合いはなかった。

 

 

 *

 

 

 

 ちょうど同じ頃、警察戦隊内においても天哉のことが話題となっていた。

 

「そういや切島、もう聞いた?飯田が古武術の道場で師範代になったって話」

 

 天哉の同僚である耳郎響香の問いに、切島鋭児郎は「聞いた聞いた!」と相槌を打った。

 

「やっぱスゲーよなぁ、この短期間で師範代なんて。俺も見習わねえと!」

『飯田さん、ここでもたくさん稽古してるのに。だからあんなムキムキなんでしょうか?』

「ムキムキねぇ……。そういや彼もヒーロー志望だったんだっけ?」弔が訊く。

「おう。雄英にいた頃の写真見せてもらったけど、今と全然変わんねえんだよなあ……あの人」

 

 それだけ成熟が早かったということなのだろうが。

 「ふぅん」と鼻を鳴らし、弔は自席に戻った。平時だと実は暇なパトレンジャーだが、腰掛けの身である彼は少し事情が異なる。フランス本部から降りてきた案件、そして快盗としての"給料にならない仕事"も抱えているのだ。まあ、放っておけば増えていく銀行口座の数字に今さら興味もないのだが。

 

 

 *

 

 

 

「−−皆さん準備はよろしいでしょうか?それでは武突参流古武術の基本動作を伝授させていただきますっ、ついてきてください!」

 

−−武突参流古武術壱の型、"ジョギング"!

 

 ワン、ツー、スリー、フォー!

 

 

 流れ出す、軽快な音楽。古武術と呼ぶにはおよそ似つかわしくないリズムに乗った所作。さらに、

 

「とうっ!」

 

 一斉に道着を脱ぎ捨てる。途端に露となったのは、身体にぴったりとフィットするすべすべした質感の衣装。……レオタード?

 

(これは、)

 

(これは、まさか)

 

「どう、考えても……!」

 

 己の感情を御しきれず、炎司は吠えた。

 

「−−エアロビクスだ……!!」

 

 そう、エアロビクス。当然炎司は自ら体験したことはない、ただ見て知っているというだけである。

 その言葉に、師範の庄右衛門がすかさず反応した。

 

「違う!炎司よ、これはまぎれもなく武突参流古武術なのだ!」

「!」

 

 反論は言葉にならなかった。庄右衛門と目を合わせた途端、またあの頭に靄がかかったような感覚が襲ってきて、

 

「……はい、わかりました」

 

 意志とは無関係に、炎司はそう答えていた。身体もまた、どう考えてもエアロビクスにしか見えない古武術を続けてしまう。

 

「はいマッスル!マッスル!左でマッスル、右でマッスル!回して縮めて回して縮めてハイ!ハイ!ハイ!エムユーエスシーエルユーマッソー!!」

「イエス!カーニバル!」

「マッスル!」

「カーニバル!」

「マッスル!!」

「カーニバル!!」

 

「マッスル!マッスル!マッスルカーニバル!!マッスル!マッスル!マッスルカーニバル!!−−ハィイイッ!」

「武突参!」

 

 その後小一時間、マッスルに愛された男たち(師範除く)によるダンシングは続けられたという……。

 

 

 *

 

 

 

 はてさて、その夜。

 

「……ハア、」

 

 喫茶ジュレにて。算盤片手に帳簿を睨みながら、炎司はため息をこぼしていた。

 

(マッスル、マッスル、マッスルカーニバル……はっ!?)

 

 脳髄に染みついてしまったフレーズを慌てて振り払い、目の前の仕事に集中しようとする。

 そんな彼の気持ちなどお構いなしに、後片付けに勤しんでいた麗日お茶子が口を開いた。

 

「にしても炎司さんがお稽古事始めるなんてね〜。無趣味の極みみたいな人やと思ってたのに」

「けっ、老後の道楽には早ぇんじゃねーの」

「……別に、好きでやっているわけでは」

 

 抗弁しようとして、口を噤む。好きでもないのに何をしに行っているんだという話になりかねない。だいたい、気づいたら身体が勝手にエアロビクスをやっていたなんて、言い訳にもならないだろう。

 

「チッ、にしても死柄木の野郎、まァだ連絡よこしゃあしねえ」

「珍しく苦戦してるんかな?結構マイナーなコレクションだとか?」

「……まァ、ヒヨコ野郎の固有能力っつー可能性もあるからな」

 

 少年たちの会話は、今の炎司の耳には入っていなかった。

 

 

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